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一 教育課程の改訂

昭和五十二年の小・中学校の教育課程の改訂

 昭和四十年代に行われた教育課程の改訂は、科学・産業・文化等の進展に対応し、また、海外における教育の現代化の動向等を考慮して、教育内容の充実を図ったものであった。しかし、その後、学習内容の量の増大と程度の高度化が指摘され、児童生徒の側に立って教育内容の見直しをすることが課題となっていた。また、高等学校教育の普及・発展が著しく、高等学校への進学率が九〇%を超える情勢にあり、小学校、中学校、高等学校の教育内容を一貫して見直すことも課題になっていた。なお、四十六年の中央教育審議会答申でも既にこれらの問題点の改善が指摘されていた。

 このため四十八年十一月に教育課程審議会に「小学校、中学校及び高等学校の教育課程の改善について」諮問を行い、五十一年十二月に答申が出された。この答申を受けて、五十二年七月に小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領の全面改訂が告示され、小学校は五十五年度から、中学校は五十六年度からそれぞれ全面実施された。

 この改訂では、自ら考え正しく判断できる力を持つ児童生徒の育成を重視し、1)道徳教育や体育を一層重視し、知・徳・体の調和のとれた人間性豊かな児童生徒の育成を図ること、2)各教科の基礎的・基本的事項を確実に身に付けられるように教育内容を精選し、創造的な能力の育成を図ること、3)ゆとりある充実した学校生活を実現するために、各教科の標準授業時数を削減し、地域や学校の実態に即して授業時数の運用に創意工夫を加えることができるようにすること、4)学習指導要領に定める各教科等の目標、内容を中核的事項にとどめ、教師の自発的な創意工夫を加えた学習指導が十分に展開できるようにすること、などをねらいとして改善が図られた。

 このときの改訂は「ゆとりと充実」というキャッチフレーズで有名になったが、それはゆとりのあるしかも充実した学校生活を実現するため、各教科の指導内容を大幅に精選し、思い切った授業時数の削減を行ったことが大きな特色であった。授業時数については、小学校では従前と比べて第四学年で七〇単位時間、第五・第六学年で一四〇単位時間を削減することとし、中学校では第一・第二学年で一四〇単位時間、第三学年で一〇五単位時間を削減している。この授業時数の削減の趣旨は、在校時間は従前どおりが適当であるとの前提の下に、学校の教育活動にゆとりを持てるようにするとともに、地域や学校の実態に応じて創意を生かした教育活動が活発に展開できるようにすることをねらいとしたものであった。

表1 小学校の教科等と授業時数

表1 小学校の教科等と授業時数

表2 中学校の教科等と授業時数

表2 中学校の教科等と授業時数

昭和五十三年の高等学校の教育課程の改訂

 上記の教育課程審議会の答申を受けて、昭和五十三年八月に高等学校学習指導要領の全面改訂が告示され、五十七年度から学年進行により実施された。この改訂では、教育課程審議会の答申に示された三つのねらいを高等学校教育において実現するため、1)学校の主体性を尊重し、特色ある学校づくりができるようにすること、2)生徒の個性や能力に応じた教育が行われるようにすること、3)ゆとりある充実した学校生活が送れるようにすること、4)勤労の喜びを体得させるとともに徳育・体育を重視すること、などを方針として改善が図られた。

 このときの改訂は、高等学校への進学率が九〇%を超えて、生徒の実態が多様になっている状況に対応して、学校の主体的判断により、生徒の個性や能力に応じた多様な教育が実施できるよう、教育課程編成の大幅な弾力化措置がとられているところに特色がある。例えば、卒業に必要な修得単位数を八五単位以上から八〇単位以上に削減したり、すべての生徒に履修を求める必修教科・科目の単位数を卒業必要単位の三分の一に削減したり、必修科目についても特別の事情がある場合は単位減ができたりするなどの措置が認められている。また、高等学校の低学年では、高等学校教育としての共通に必要とされる基礎的・基本的な内容により構成した総合的な科目を全員に履修させるようにし、中・高学年においては、生徒の多様な能力・適性等に応じた弾力的な履修ができるように選択科目を中心に編成することとしているのも注目される。

 なお、生徒の個性や能力に応じた教育方法として、この時の学習指導要領で習熟度別学級編成について規定された。これは戦後初めての措置であったが、これをめぐって能力主義か平等主義かの論議が盛んに行われた。

昭和五十四年の盲・聾(ろう)・養護学校の教育課程の改訂

 同じように教育課程審議会の答申を受けて、昭和五十四年七月に盲学校、聾学校、養護学校の学習指導要領の全面改訂が告示された。この改訂では、五十二・五十三年に行われた小学校、中学校、高等学校の学習指導要領の改訂に準ずるほか、児童生徒の心身の障害の状態や能力・適性等に応じて、教育課程の一層の弾力的な編成ができるようにするとともに、養護学校教育の義務制の実施及び身体障害者雇用促進法の改正など特殊教育をめぐる社会情勢の変化への対応を図るようにした。なお、従前、学習指導要領は、盲学校、聾学校、養護学校(精神薄弱、肢体不自由、病弱)の種類ごとに作成されていたが、これを特殊教育諸学校共通に一本化した。

教育課程実施状況調査

 昭和五十五年度から順次全面的に実施に移された小・中学校の学習指導要領について、実際上どの程度児童生徒に理解されているか、学習指導上の問題点は何かなどを明らかにして、将来の教育課程や学習指導方法の改善に役立てるため、文部省は五十六年度から四年計画で「教育課程実施状況に関する総合的調査研究」を実施した。この調査研究は、ペーパーテストによる達成度調査と調査研究協力校における実践的研究の二本建てで行った。この調査結果では、教育内容の理解状況は、小学校については七〇%程度、中学校については六〇ないし七〇%程度であり、全体としては良好であるが、例えば、思考力を育てる面に不十分な点が見られるなど、今後の改善の重要な資料が得られ、平成元年度の学習指導要領の改訂の基礎的な資料として活用された。

昭和六十二年の教育課程審議会の答申

 その後、科学技術の進歩や経済の発展は、一段と物質的な豊かさをもたらすとともに、情報化、国際化、価値観の多様化、核家族化、高齢化など社会の各方面に様々な影響を与えるに至った。このような社会の変化に対応して学校教育をどのように改善するかということが課題となってきた。

 昭和六十年九月、教育課程審議会に「幼稚園、小学校、中学校及び高等学校の教育課程の基準の改善について」諮問を行った。このときの諮問では、戦後初めて幼稚園から小学校、中学校及び高等学校に至るまでの教育課程の在り方を一括して諮問している。既に五十八年、第一三期中央教育審議会の「教育内容等小委員会審議経過報告」が公にされ、そこで幼稚園教育を含めた初等教育の在り方や、中学校・高等学校を一体的にとらえた中等教育の在り方などについて問題点やその方策等が指摘されていた。教育課程審議会はそれをも踏まえ、六十二年十二月に以下のような答申を出した。すなわちこの答申は、これからの社会の変化とそれに伴う幼児児童生徒の生活や意識の変容に配慮しつつ、1)豊かな心を持ち、たくましく生きる人間の育成を図ること、2)自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成を重視すること、3)国民として必要とされる基礎的・基本的な内容を重視し、個性を生かす教育の充実を図ること、4)国際理解を深め、我が国の文化と伝統を尊重する態度の育成を重視すること、などをねらいとして教育課程の基準の改善を行う必要があると提言した。

平成元年の幼稚園の教育課程の改訂

 幼稚園教育要領については、昭和三十九年に改訂されてから二十年余が経過していたが、昭和六十二年の教育課程審議会の答申を受けて、平成元年三月に全面改訂の告示が行われ、二年度から全面実施された。

 幼稚園教育については、幼児の生活全体を通して総合的な指導を行うという基本的な考え方は維持しながら、その指導が一層充実するよう改善を行った。すなわち、幼稚園教育においては、総合的に指導を行うための視点を明確にする観点から、「健康」、「人間関係」、「環境」、「言葉」及び「表現」の五つの領域に分けて教育内容を再整理した。また、幼稚園におけるより適切な教育が行われるようにする観点から、各領域における教育内容を「ねらい」と「内容」に分けて示した。

 年間の教育日数については、従前の教育要領では二二〇日以上としていたが、幼稚園の実情や社会情勢に弾力的に対応できるようにする観点から教育週数で示すこととし、年間三九週以上とした。さらに、一日の教育時間については、従前どおり四時間を標準としつつ、幼稚園の実情及び家庭や地域における幼児の生活の重要性を考慮して、弾力的に対応できるように改善を加えた。

平成元年の小・中学校の教育課程の改訂

 昭和六十二年の教育課程審議会の答申を受けて、平成元年三月に小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領の全面改訂が告示され、小学校は四年度から、中学校は五年度から、それぞれ全面実施されることになった。この改訂においては、生涯学習の基盤を培うという観点に立ち、二十一世紀を目指し社会の変化に自ら対応できる心豊かな人間の育成を図ることをねらいとし、1)心豊かな人間の育成、2)基礎・基本の重視と個性教育の推進、3)自己教育力の育成、4)文化と伝統の尊重と国際理解の推進を重視して改善が行われた。

 小学校については、基礎教育の一層の充実を図る観点から、各教科等の内容の改善が行われた。特に、小学校低学年については、児童の直接体験を学習活動の基本に据え、自立への基礎を培うことをねらいとする生活科を新設することとした。これに伴い、低学年の社会科及び理科は廃止されることとなったが、このような小学校低学年の教科の統合は昭和四十年代からの懸案であった。また各教科等の授業時数については、中学年及び高学年は従前どおりとしたが、低学年については、新たに設けた生活科に第一学年一〇二単位時間、第二学年一〇五単位時間を充てるとともに、国語教育の充実に配慮し、国語科の授業時数を第一学年で三四単位時間、第二学年で三五単位時間増加した。

 中学校については、中学校教育を中等教育の前期としてとらえ直す視点をこれまで以上に重視するとともに、生徒の個性を生かす教育の一層の充実を図る観点から、選択履修の幅を拡大することとした。すなわち、選択教科の種類については、第二学年においては、従前の選択教科(外国語、その他特に必要な教科)に音楽、美術、保健体育、技術・家庭を加え、第三学年においては、従前の選択教科(音楽、美術、保健体育、技術・家庭、外国語、その他特に必要な教科)に国語、社会、数学、理科を加えた。各教科等の授業時数については、これまで固定的に定められていたものを、教科によって、幅を持った示し方とすることとした。

表3 小学校の教科等と授業時数

表3 小学校の教科等と授業時数

表4 中学校の教科等と授業時数

表4 中学校の教科等と授業時数

平成元年の高等学校の教育課程の改訂

 昭和六十二年の教育課程審議会の答申を受けて、平成元年三月に高等学校学習指導要領の全面改訂が告示され、六年度から学年進行により実施されることになった。

 この時の改訂では、前回の改訂に引き続いて、教育課程編成の弾力化が一層図られた。例えば、各教科・科目の編成については、中学校における選択履修の拡大と生徒の能力・適性、進路等の多様化の実態に対応して、できるだけ多様な科目を用意することとした。すなわち、普通教育に関する教科・科目は八教科四五科目から九教科六二科目に、職業に関する教科・科目は六教科一五七科目から同一八四科目に増加し、また、学習指導要領に掲げる教科・科目以外に、「その他特に必要な教科」や普通教科・科目についても「その他の科目」として、各設置者の判断により、自由に教科・科目を設けることができることとした。さらに、戦後当初から論議のあった社会科の再編成が行われ、従来の社会科を再編成して地理歴史科と公民科に分けることとした。これは、それぞれの科目の専門性、系統性を考慮し、国家・社会の有為な形成者として必要な資質を養うとともに、急速な国際化の進展に対応して、国際社会に主体的に生きる日本人を育成するという時代的要請にこたえるものであった。このほか、核家族化、高齢化などの家庭を取り巻く社会や環境の変化等に対応するとともに、いわゆる女子差別撤廃条約の批准に伴い男女同一の教育課程を制度として確保するため、従来すべての女子に「家庭一般」を履修させるものとしていたことを改め、従来の「家庭一般」の内容を修正するとともに、新たに「生活技術」、「生活一般」を設けて、これらのうち一科目をすべての生徒に選択履修させることとした。

 なお、平成元年の学習指導要領の改訂においては、小学校・中学校・高等学校を通して、入学式や卒業式などに国旗を掲揚し国歌を斉唱することについて、従来の「望ましい」から「ものとする」と表現を改め、その取扱いが明確化された。このことをめぐって国旗・国歌についての論議が行われたが、これは昭和六十二年の臨時教育審議会の最終答申及び同年の教育課程審議会の答申において、国際化の進展の中にあって国旗・国歌の指導を一層充実する必要があると指摘されたことに基づく改訂であった。

平成元年の盲・聾・養護学校の教育課程の改訂

 同じく教育課程審議会の答申を受けて、平成元年十月に、盲学校、聾学校及び養護学校学習指導要領の全面改訂が行われた。この改訂では、同年三月に行われた小・中・高等学校の学習指導要領の改訂の趣旨に準ずるほか、幼稚部の教育課程の基準を示すこと、児童生徒の心身の障害の状態に応じた指導の一層の充実を図ること、高等部における職業教育の充実を図ること、などの改善が行われた。

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