三 生涯学習と社会教育・文化・スポーツ等

生涯学習と社会教育・文化・スポーツ

 生涯学習は、多様化・高度化した人々の学習意欲・学習需要を背景に、各人の生涯にわたって、必要に応じ、適切な学習機会が整備されなければならないという学習者の視点に立った理念であり、教育のみならず、文化、福祉、労働などの社会の諸分野における対応を要請するものである。中でも、社会教育、文化、スポーツは、生涯学習に特に密接に関連する分野であり、生涯学習社会の実現が強く求められている今日、その重要性はますます高まってきた。

 社会教育については、昭和四十六年の社会教育審議会答申「急激な社会構造の変化に対処する社会教育のあり方について」で示された方向に沿い、生涯の各時期にわたる社会教育の内容・方法の充実を目指して、成人の多様な学習機会の整備、女性のライフサイクルの変化を踏まえた婦人教育の充実、青少年団体活動の育成や少年自然の家の設置をはじめとする青少年教育施設の整備など各種の施策が展開されてきた。臨時教育審議会答申においても、生涯学習の理念を実現する観点から社会教育の充実について提言がなされており、一層その拡充を図る必要がある。

 まず、学習機会の整備については、人々の多様化・高度化する学習需要に対応するため、教育委員会等が実施する学級・講座の充実が図られてきたが、最近では、知事・市町村長部局や民間企業等が行う事業が活発化してきている。また、各種学習機会に関する情報の提供や、学習の内容・方法等についての相談に応じる仕組みを整備することが重要であり、このため文部省では、六十二年度から、都道府県レベルの生涯学習情報提供システムの整備に対する助成を開始し、コンピュータ等を利用した情報のネットワークによる学習情報提供・相談の充実に努めてきた。また、女性・家族についての情報データベースを国立婦人教育会館で、青少年活動についての情報データベースを国立オリンピック記念青少年総合センターで整備している。

 次に、家庭や地域を取り巻く社会情勢が大きく変化した中で、家庭や地域が果たすべき教育機能を回復していくことが重要であり、この立場から、六十二年度に地域における親同士の交流を促すための家庭教育地域交流事業が開始された。また、青少年教育については、学校教育に偏りがちであった青少年の生活にゆとりを持たせ、豊かな生活体験が得られるよう、学校外活動の一層の充実が求められ、文部省では、自然生活へのチャレンジ推進事業やボランティア活動の促進などの施策を進めてきた。

 文化については、我が国では、様々な芸能・技能を生涯にわたって学ぶ伝統があり、特に近年は、人間性の回復を求めて、芸術や地域の歴史・文化財に対する関心を著しく増大させた。このような文化に対する関心の高まりに対応し、美術館、歴史博物館、文化会館等の施設の設置が急速に進み、芸術文化や伝統文化に関する学習の機会の提供も増加しており、文部省はこれらに対し助成を行ってきた。

 スポーツについては、幼児から高齢者まで生涯を通じてその健康や体力に応じたスポーツ活動等を振興していく必要があり、文部省においては、従来から、体育・スポーツ施設の整備、地方公共団体の行う各種の生涯スポーツ振興事業に対する助成、指導者やスポーツ団体の育成等を行っていたが、六十三年度から、体育局の中に生涯スポーツ課を設置し、全国スポーツ・レクリエーション祭等を開催するなど、生涯スポーツの振興に取り組んできた。また、競技スポーツについても、競技スポーツ課を設置し、競技力向上のための条件整備を進めてきた。

社会通信教育等

 社会通信教育は、時間的・地域的制約を受けることなく誰でも学べる個人学習のためのシステムとして、生涯学習社会において果たすべき役割はますます大きくなってきた。現在、民間教育団体等によって、職業上、生活上の知識・技術や一般教養など広い分野にわたって様々な内容のものが実施されている。

 文部省では、学校又は民法法人の行う通信教育で社会教育上奨励すべきものについて社会通信教育の認定を行い、その普及・奨励を図っており、現在、文部省認定社会通信教育の実施団体数は四四、課程数は二〇四であり、平成二年間の受講者数は約三七万人に達したが、高等学校や大学への進学率の上昇、競合する事業の増加等を背景に、受講者数は昭和四十四年の約一二四万人をピークとして減少傾向にある。しかし、高年齢層の割合の増加、最新技術教育への志向、企業内教育への活用、通信教育を実施する民間企業、団体の増加など、新たな動きも見られる。六十三年四月の社会教育審議会社会通信教育分科会の報告書「新しい時代に向けての社会通信教育の在り方」においては、国民の学習ニーズの多様化、高度化や社会の変化に対応して、教育内容・指導方法等の改善・充実を図ることとともに、分野の拡大、多様なメディアの活用、民間通信教育団体の育成、学習成果の評価などについて提言がなされ、その後、更に種々の改善がなされた。

 なお、社会通信教育等によって習得した知識、技能の水準を評価する仕組みとして、文部省では、従来から実用英語、硬筆書写、(ペン習字)など一四種目について技能審査認定制度を設けている。この技能審査の志願者数は年々大幅に増加し、平成二年度には約四〇〇万人に上った。

生涯学習と職業訓練等

 臨時教育審議会の提言した生涯学習体系への移行は、学校教育の自己完結的な考え方から脱却し、人間の評価が形式的な学歴に偏っている状況を改め、いつ、どこで学んでも、その成果が適切に評価されるよう社会の慣行を形成することを目指している。

 社会の教育機能としては、文部省の所管する教育・文化の分野だけでなく、各省庁、地方公共団体や民間の行う生涯学習活動、公共職業訓練、企業内の研修・訓練等がある。これらは、それぞれの目的に従って行われているものであり、必ずしも生涯学習の振興を目的として実施されているものではないが、今後は、これらの施策の実施に当たっても、人々の生涯学習に資するという視点に立って既存の施策を見直し、他の施策とあいまって効果的に実施することが強く要請されている。

 学歴社会の弊害の是正については、国民の教育に対する考え方や我が国の雇用慣行等とも関連しており、経済、社会・労働等の諸政策との連携の下、総合的かつ長期的な取組を必要とする課題であり、文部省においても、例えば、就職協定の遵守や指定校制の是正について、企業・官公庁への協力要請を行ってきている。

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