第二節 中等教育

中学校の教育内容・方法の改善

 文部省は、教育課程審議会の答申を受けて昭和三十三年八月学校教育法施行規則の一部改正を行った上、同年十月中学校学習指導要領を改訂し、文部省告示をもって公示した。

 改訂の要点は、小学校と同様に、道徳教育の徹底、基礎学力の充実、科学技術教育の向上、地理、歴史教育の改善・充実などにあった。この中学校学習指導要領は三十七年度から全面実施された。また、学習指導要領の改訂に伴い、生徒指導要録も改訂された。

 さらにその後、科学技術の革新や経済の高度成長とともに国民の生活や文化水準は著しく向上し、中学校教育自体も、高等学校進学者の急増に関連し、生徒の心身の不均衡な発達の傾向など解決を要する問題を抱えるようになったことから、文部省は、四十三年六月の教育課程審議会答申を得て、四十四年四月に中学校学習指導要領を改訂した。

 この改訂の基本方針は、1)望ましい人間形成の上から調和と統一のある教育課程の編成、2)指導内容を基本的事項に精選、集約すること、3)生徒の能力、適性等に応ずる教育の徹底、4)授業時数の弾力的運用などであった。この学習指導要領は、四十七年度から全学年同時に実施した。また、これに伴い生徒指導要録も改訂された。

 文部省は、小・中・高等学校の児童生徒の学力の実態を全国的な規模でとらえ、教育課程及び学習指導の改善並びに教育条件の整備に役立つ基礎資料を得ることを目的として、三十一年から全国学力調査を実施した。

 この後、より豊富な資料が必要であると考え、文部省は三十六年から四年間、国・公・私立のすべての中学校の第二学年、第三学年を対象とするしっ皆調査を行った。これにより義務教育最終段階における学力について多くの資料が得られたので、四十一年を最後に、従来の方式による学力調査は一応打ち切られた。

 なお、戦後の混乱期に長欠児対策の一つとして、一部大都市に設置された中学校夜間学級は、社会の安定とともに減少した。

高等学校における学級編制基準

 昭和二十七年当時の高等学校の設置、学級編制、教職員定数等の基準は、二十三年の高等学校設置基準を踏襲していた。しかしその後、地方財政の実情や高等学校の拡大の傾向等にかんがみ、その内容をより明確化する必要が生じ、三十六年「公立高等学校の設置、適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律」が制定された。そこでは、公立高等学校の設置主体は都道府県を原則とし、一定の財政能力を持つ市町村もこれに加えるとともに、都道府県に対して高等学校教育の普及と機会均等を図るため、その配置及び規模の適正化についての努力義務が課された。また、学校規模、学級編制の標準が示され、教職員定数については、設置者である都道府県・市町村ごとに教職員の総数を示すこととされたが、これは、個々の学校における適正な教職員の配置基準に基礎付けられたものであり、ここに、設置、規模、学級編制、教職員定数について明確な法律上の根拠が示されるとともに、地方交付税によりその財源が確保されることとなった。

 同法は四十二年、高等学校教育の多様化に応じ、その教育水準の向上を図る目的から再び改正され、四十二年度を初年度とする五か年計画をもって改善が図られた。

高等学校の拡充と多様化

 高等学校の教育課程は昭和二十六年、三十一年、三十五年及び四十五年の四度にわたって改訂された。三十一年の改訂は、高等学校教育により計画性を持たせる観点から、従前の広範な選択教科制を廃し、教育課程の類型を設けるとともに、必修教科・科目を増加してできるだけ教養の偏りを少なくすることをその主な趣旨とするものであった。三十五年の改訂は、小・中・高等学校にわたる教育課程の一貫性を持たせ、道徳教育の充実強化、基礎学力の向上及び科学技術教育の充実を図ったものである。三十五年十月に、学校教育法施行規則を一部改正するとともに、文部省告示として「高等学校学習指導要領」を公示したことは小・中学校の場合と同様である。この教育課程は、三十八年度の第一学年から学年進行で実施された。

 しかしその後の進学率の上昇により、高等学校はこの年齢にある青少年の大部分を教育する学校となった。これに伴う生徒の能力・適性・進路等の著しい多様化及び科学技術の革新、経済・社会・文化の急激な進展に対応して、高等学校の教育内容を改善する必要が生じてきた。そこで、文部省は四十四年九月の教育課程審議会答申を踏まえ、四十五年十月に、文部省告示をもって新しい「高等学校学習指導要領」を公示し、四十八年度から学年進行で実施した。

 改訂の要点は、必修教科、科目の種類及びその単位数の削減、「数学一般」・「基礎理科」・「初級英語」・「英語会話」などの科目の新設、職業教育に関する教科・科目の改善などであった。また、情報化社会の動向に対応するために新学習指導要領において、社会・数学の教科の改善が行われるとともに、職業学科として、情報処理科(商業)及び情報技術科(工業)の設置を進めることとした。

定時制・通信制教育の発展

 勤労青少年教育の重要性にかんがみ、昭和二十八年「高等学校の定時制教育及び通信教育振興法」が制定され、その教育に必要な設備や通信教育運営費等について国が補助することとなった。さらに三十一年には夜間課程の給食施設等の整備や生徒の夜食費に対する国庫補助の道が開かれ、三十五年には本務教員に対する定時制通信教育手当の支給と、これに対する国の補助を行うこととした。

 また、三十三年四月の中央教育審議会答申「勤労青少年教育の振興方策について」の趣旨に基づいて、三十六年学校教育法の一部改正を行い、定時制又は通信制の課程に在学する生徒が文部大臣の指定する技能教育施設において一定の基準に適合する技能教育を受けているときは、これを当該高等学校における教科の一部の履修とみなして所定の単位を与えることができる、いわゆる技能連携制度が発足した。

 高等学校の通信教育は当初その実施科目が限られていたが、以後科目数が拡大され、三十年には通信教育のみで高等学校を卒業できることとなった。さらに、三十六年の学校教育法の一部改正により、「通信制の課程」として全日制や定時制と並ぶ独立の課程となり、同時に、全国やブロックを対象とする広域の通信教育も認められるようになった。

理科教育振興法

 理科教育の実験・実習を重視して、昭和二十八年、「理科教育振興法」が公布された。この法律は、科学的な知識、技能及び態度を習得させ、工夫、創造の能力を養うことなどを目的とし、理科教育に関する総合計画、教育内容・方法の改善、施設・設備の整備・充実、理科担任教員の現職教育と教員養成計画の樹立等を国の任務として規定している。

 さらに同法施行令によって理科教育設備基準が設定され、国がその購入費の二分の一を補助することとなり、理科教育に必須な設置基準が明らかになるとともに、その財政的裏付けが保障される措置が確立された。なお、理科教育及び産業教育審議会の答申を受けて、四十三年度から高等学校に理科・数学に関する学科を設置することとなり、その設置を促進するため、別途理科及び数学教育のための設備を補助することとなった。

高等学校の生徒指導

 いわゆる青少年非行は、昭和三十九年をピークとして以後減少の傾向にあったが、四十五年度から著しく増加するとともに低年齢化、集団化などの傾向を示し、特に高等学校生徒の場合は、四十四年以降生徒数の減少とは逆に非行は増加の傾向にあった。

 また、四十三年以来、一部の高等学校生徒が過激な政治的活動に参加したり、授業妨害や学校封鎖を行うなどの事例が見られるようになり、特に四十四年度には、これらの事例が全国的に多発した。こうした事態に対して文部省は、四十四年十月「高等学校における政治的教養と政治活動について」の見解を発表し、高校生は未成年者として特定の政治的影響を受けることのないよう保護する必要があると指摘した。四十四年度を中心として見られた一部の高校生の過激な政治的活動の傾向は、四十五年度以降は関係者の適切な指導によって落ち着きを見るに至った。

高等学校入学者の選抜

 昭和三十一年九月に、学校教育法施行規則が一部改正され、従来空白となっていた高等学校入学者選抜方法に関する事項が新たに規定された。その後、高等学校生徒の急増に際し、三十八年八月同施行規則が一部改正され、高等学校の入学は、中学校長から送付された調査書や学力検査の成績などを資料として行う入学者の選抜に基づいて許可するものとし、入学志願者が入学定員以内のときは選抜が選考となるが、特別の事情がある場合のほか学力検査は実施することとされた。

 その後、高等学校への進学率の急激な上昇、特定校への志願者の集中等に伴って過度の受験準備教育が誘発されているという批判が高まってきたので、文部省は、「高等学校入学者選抜方法に関する会議」の報告を基にして四十一年七月、1)中学校長から送付される調査書を尊重することとし、調査書の信頼度と客観性を高めるよう各都道府県において努力すること、2)学力検査の実施教科については、各都道府県においてその中学校教育への影響を考慮し、高等学校の種類と実情に応じて適切に定めることなどを通達した。

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