（二）　教学刷新評議会（抄）

　諮問

　「我ガ国教学ノ現状ニ鑑ミ其ノ刷新振興ヲ図ル方策如何」

　答申（昭和十一年十月二十九日）

　前文略

　第一　教学刷新ノ中心機関ノ設置

　現下ノ時勢ニ鑑ミ、教学刷新ノ実ヲ挙グルタメニハ、一層教学ノ精神・内容ヲ重視シ、国体・日本精神ニ基ク教育的学問的涵養創造ノタメニ力ヲ用ヒ、又コレヲ本トシテ十分ナル指導・監督ヲナスノ必要アリ。ヨツテ政府ハ文部大臣ノ管理ノ下ニ有力ナル機関ヲ設置シ、特ニ我ガ国教学ノ根本精神ノ維持発展ヲ図リ、又教学ノ刷新振興並ニ監督ニ関スル重要事項ヲ掌理セシメ、関係各方面トノ密接ナル連繋ノ下ニ事業ノ遂行ニ当ラシムベシ。

　ナホ、国体・日本精神ノ真義ヲ闡明シ、精神諸学ノ基礎的研究ヲ行ヒ、ソノ確立発展ヲ図ルタメ当該研究機関ノ整備ヲ図リ、コレヲシテ十分権威アルモノタラシメ、又有力ナル参与機関ヲ設ケ、学者教育者有識者並ニ関係官等ヲ以テコレヲ組織シ、以上ノ三機関ヲシテ一体トナリテ合成的効果ヲ挙ゲシムベシ。

　第二　教学刷新ノ実施上必要ナル方針

　一　我ガ国ニ於テハ祭祀ト政治ト教学トハ、ソノ根本ニ於テ一体不可分ニシテ三者相離レザルヲ以テ本旨トス。ヨツテコノ本旨ヲ発揚シ、教学ノ根基ヲ明ニスルノ方策ヲ講ズルハ、時勢ニ照シ緊要トスルトコロナリ。

　二　国体・日本精神ノ真義ノ闡明ハ、天祖ノ神勅、歴代ノ詔勅並ニ教育ニ関スル勅語ヲ初メトシ明治以後屡々下シ給ヘル聖詔ヲ本トシ、更ニコレヲ我ガ国開闢以来ノ歴史ニ照シ、苟モ謬ナキヲ期セザルベカラズ。

　三　国体・日本精神ノ真義ノ闡明ハ、現下ノ問題トシテハ、明治以来我ガ国民特ニ知識階級ノ思想・学問ノ中ニ侵透セル西洋近代思想ノ基本タル個人主義・自由主義・権力主義・主知主義・観念論及ビ唯物論等ノ本質ヲ明瞭ニシ、ソノ影響ヲ受ケタル諸方面ノ実状ヲ批判シ、単ナル形式的国体思想ノ唱道ニ陥ルコトヲ避ケザルベカラズ。

　四　個体ノ真義ノ闡明ニハ、統治権ノ所在ヲ明ニスベキハ論ヲ俟タズ。更ニ歴代ノ詔勅特ニ教育ニ関スル勅語ニ示サセラレタル国体ノ具現ヲ以テ精神トシ、教育ノ内容ヲ刷新シ学問ニ根抵ヲ与ヘ、我ガ国ノ道ヲ実生活ニ顕現スルコト肝要ナリ。

　五　学問、特ニ人文ニ関スル学問ノ刷新振興ニツイテハ、日本的乃至東洋的考ヘ方ノ存スルコトヲ自覚スルヲ要ス。単ニ欧米ノ思考様式・研究方法ノミヲ以テ我ガ国家・国民乃至文化ノ説明ヲ試ミントスルモソノ真義ヲ把握シ得ザルカ或ハ誤解ニ陥ルノ外ナカルベシ。

　六　教育ノ刷新ニツイテハ、単ニ国体ノ意義ヲ抽象的ニノミ説明シ教授スルニ止マラズ、各種教科ノ内容、教育ノ方法、修養ノ手段等凡テ教育ノ具体的ナル方面ニ至ルマデ、我ガ国ノ特性ニ従ヒ攻究発展セシムルノ用意ナカルベカラズ。

　七　教学ノ刷新ニツイテハ、東洋教学・東洋文化ニ留意シ、特ニ久シク我ガ国文化ノ中ニアツテ我ガ国風ニ醇化セラレタル東洋教学・東洋文化ノ振作ヲ図ルコト肝要ナリ。

　八　教学ノ刷新ハ、現下教学ノ欠点ヲ除去スルト共ニ、益々欧米文化ヲ摂取醇化シ、我ガ国特有ノ博大ナル文化ノ創造ヲ目的トスルモノニシテ、欧米文化ノ排斥或ハ軽視ニ陥ラザルヲ要ス。

　九　教学ノ刷新ニツイテハ、教育界・学界ニ於ケル国体ノ本義ニ副ハザルモノノ是正ト排除トニ努ムルト共ニ、教学ト密接ナル関係ヲ有スル政治・経済・宗教・社会・家庭等ニ関シテ十分ニ考慮スルノ必要アリ。ナホ世人ヲシテ形式的・独断的国家観ニ墜シテ複雑ナル実際社会ノ認識ヲ欠キ焦燥ニ陥リ、創造的刷新ノ軌道ヲ逸脱スルガ如キコトナカラシムルヲ肝要トス。

　第三　教学刷新上必要ナル実施事項

　一　学問研究・大学刷新ニ関スル実施事項　略

　二　学校教育刷新ニ関スル実施事項

　（一）　学校教育ノ精神・内容及ビ設備ニ関スル事項

　イ　各学校ニ於テハ、我ガ国古来ノ敬神崇祖ノ美風ヲ盛ナラシメ、コノ精神ノ徹底ヲ図ルタメ適当ナル施設ヲ考慮シ、又コレニ関スル教養ニ力ヲ用フルコト必要ナリ。

　ロ　学校ヲ以テ国体ニ基ク修練ノ施設タラシメ、教師ト生徒、生徒相互間ニ於テ精神的人格的連関ヲ図リ、我ガ国ノ家族的精神ヲ学校教育ニ実現セシメ、小学校・青年学校・中等学校・高等学校及ビ専門学校ヲ通ジ、夫々校風ノ下ニ躾・修練ヲ重ンジ、紀律ヲ守リ志操ヲ堅実ニシ、徒ニ自由ニ流ルルコトナク奉公ノ精神ヲ旺ナラシメ、実践躬行ヲ主トスルモノタラシムルコト肝要ナリ。コノ方針ノ下ニ学科課程、学科目ノ内容、教育ノ方法、学校ノ組織等ヲ刷新スルノ必要アリ。

　ハ　学校長ハ校務ノ事務的処理ノミヲコトトスルコトナク、教学ノ根基ニ関スル識見ヲ高クシ、人格ヲ以テ学校ヲ統率シ、部下教員ノ指導誘掖ニ努メ、教育ハ専門学科ノ研究ニ努ムルハ固ヨリ、広ク我ガ国教学ノ根本ニ関スル教養ヲ豊ニシ、教育者トシテノ自覚ノ下ニソノ修養ヲ懈ルコトナク、時代ニ関スル見識、生徒指導ノ実力ヲ養フヲ肝要トス。

　ニ　教科書ノ編纂・検定・認可等ニ関シ根本的ナル検討ヲ加ヘ、外来思想ノ醇化ニ努ムルト共ニ断片的教材ノ羅列ヲ排シ、真ノ人物ノ育成ニ適セシムル様内容ノ刷新ヲ図ルノ必要アリ。

　ホ　学校ノ設備及ビ建築ハ教養ノ施設タルニ適セシムベク、特ニ寄宿舎ハ師弟ノ接触ヲ図リ、修養・鍛練ノ設備トシテ教育ニ於ケル附帯的地位ヲ脱セシメ、コレヲ重要視スルコト肝要ナリ。

　（二）　学科目ニ関スル事項

　ヘ　小学校・青年学校・中等学校・高等学校及ビ専門学校ノ種別程度ニ応ジ、国民道徳・国文・国史・地理・漢文等ノ教育ヲ十分ナラシムル必要アリ。

　ト　中等学校ノ修身科並ニ公民科ニツイテハ、ソノ統合ヲ図り、忠孝ノ大義ヲ弁ヘ、遵法ノ精神ヲ徹底セシムルコト肝要ナリ。

　チ　歴史科ノ教育ニツイテハ、単ナル史実ノ詮索、ソノ羅列的説明ヲ排シ、国史ヲ貫ク精神ヲ闡明シテ他ノ学科目トノ統一関係ヲ見出シ、国民的自覚ノ喚起、信念ノ確立ヲ図ルコト肝要ナリ。

　リ　国語科ニツイテハ、我ガ国民性ヲ具現セル国語国文ノ特質ヲ会得シ、ソノ深キ精神ヲ理解セシムルニ努メ、又国語ヲ尊重シソノ愛護醇化ニ意ヲ用ヒ、外国語濫用ノ近時ノ浮薄ナル傾向ヲ排除スルコトヲ要ス。

　ヌ　外国語ノ教科ニツイテハ、全般的ニ考慮ラ加ヘ実際上ノ必要ニ応ジテコレヲ課スベク、又ソノ教授ニ於テハ、外国ノ国情・国民性ヲ知ラシメ、コレニヨツテ我ガ国ノ特徴ヲ明ナラシムルニ留意スルノ必要アリ。

　ル　自然科学的学科目、実業的学科目ニツイテハ、益々ソノ発達ヲ図リ、正確ナル知識ノ涵養ニ努ムルト共ニ、自然界ノ深奥ナル意味ヲ認メ、敬虔ノ念ヲ以テコレニ対スルコト必要ナリ。

　ヲ　武道・芸道・作法並ニ我ガ国芸術ニ関スル教養ハ弥々コレヲ重視シ、以テ精神的情操的陶冶ニ努ムルコト肝要ナリ。

　（三）　教員ノ養成ニ関スル事項　略

　（四）　試験制度ニ関スル事項　略

　（五）　体育運動ニ関スル事項　略

　（六）　女子教育ニ関スル事項　略

　三　社会教育刷新ニ関スル事項　略

　四　督学・人事制度及ビ教員再教育ニ関スル実施事項　略

建議

　政府ハ我ガ国内外ノ情勢ニ鑑ミ、教学ノ指導並ニ文政ノ改善ニ関スル重要事項ヲ審議スルタメ、内閣総理大臣統轄ノ下ニ、有力ナル諮詢機関ヲ設置セラレンコトヲ望ム