三 国際協力活動の推進

教育発展への協力

 昭和三十六年から始まった国連開発十年計画に呼応して、ユネスコは、世界の発展途上諸国の教育発展に力を注いできた。アジアについては、アジア各国が五十五年までに七か年の無償の初等義務教育制度の確立を目標とする樺樺カラチプランが三十四年に策定された。わが国は、このプランの実施を通じ、アジア諸国の教育発展に寄与するため、積極的にこの事業を取り上げるようになった。三十七年には、このプラン実施上の諸問題について検討するための第一回アジア地域文部大臣会議の開催国となった。四十年にバンコクで開催された第二回アジア地域文部大臣会議には会議の重要資料となった「アジアの教育」の作成にわが国は全面的に協力した。

 この文部大臣会議の決議の実行については、アジア地域の教育目標・目的、教育計画立案、教育内容・方法、農業教育等に関する専門家会議や研修コースをユネスコと協力してしばしばわが国で開催することなどによってこれにこたえた。

 四十六年には、ユネスコと協力して、日本人専門家、ユネスコ専門家および現地受け入れ国専門家からなる巡回指導のチームをアジアの発展途上国へ派遣し、現地で多数の教員、専門技術者に対し集中的に研修・指導を行なう技術援助事業に着手した。同年には、農業教員研修のためのチームがフィリピンに派遣され、四十七年には、マレーシアとセイロンに派遣された。新たに、新教育方法であるプログラム学習指導チームが、フィリピンとマレーシアに派遣された。これらのチームの派遣に必要な日本人専門家の給与、旅費等と現地で使用する教材費は、わが国からユネスコへの拠出金として提供し、ユネスコの名の下に支出されている。この事業は、形式的には国際機関を通ずる多国間協力により、実質的にはわが国と受け入れ国の特徴を生かす二国間協カの長所を取り入れたものであり、新しい型の発展途上国援助事業として各国から注目された。

 四十六年には、第三回アジア地域文部大臣会議がシンガポールで開かれ、この会議においてわが国は、バンコクに設置されるユネスコの「開発のための教育革新アジア地域センター」への協力およびアジアの諸国に設置される計画の教員養成、教育行政、学校建築など数多くのテーマ別のセンターに対する積極的な協力が要請された。わが国からこれらのセンターへの具体的援助策として、信託基金をユネスコへ拠出することが一つの課題となっている。

 なお、四十二年から、国立教育研究所が、ユネスコからの依頼をうけて、アジア地域の教育研究調査振興事業計画に着手した。この計画に基づいて、教育研究調査専門家会議、学校カリキュラムに関する教育研究調査ワークショップ、数学・理科等に関するワークショップ等が開催され、その成果も出版され好評を博してきた。

科学技術協力

 ユネスコは自然科学のいろいろな分野の政府間共同事業を実施しているが、わが国はこれに積極的に協力している。特に海洋学に関しては、常に諮問理事国の一員となって積極的に提案や協力を行なってきた。また、海洋学の分野の共同調査計画の一つである黒潮共同調査計画については、四十年の開始以来国際会議やシンポジウムの開催などを通じ、中心的役割を果たしてきた。このほか、国際水文学十年計画(四十年~四十九年)、地震学・地震工学、微生物学、天然資源研究などの政府間共同事業計画に参加し、地盤沈下国際シンポジウムや国際微生物株保存会議を開催し、各種地震地図の作成等に協力した。

 四十年から、化学・化学工学に関する国際大学院研修講座を東京工業大学の協力を得て同大学で実施している。この講座は、主として発展途上国の少壮研究者に対し、一年間にわたる高度の学問的研修を与えることを目的とするもので、現在まで毎年十数人の研修生を受け入れている。

 三十七年に、地震学・地震工学の外国人研究者を受け入れるため、ユネスコを通じ国連特別基金の援助を得て、建設省建築研究所内に、「国際地震工学研修所」が設置され、現在まで毎年約二五人の研修生を受け入れている。

文化交流

 日本の文化を外国に紹介し、国際理解の増進に寄与するため、いくつかの事業を行なった。

 その一つは、昭和二十九年からユネスコと共同事業として実施している日本文学代表作品翻訳計画である。国内委員会に「日本文学代表作品翻訳分科会」を設けて、代表作品リストの作成や翻訳の審査に当たってきた。わが国の作品で、現在までにすでに取り上げたものは、万葉集をはじめ夏目漱(そう)石、谷崎潤一郎、川端康成などの作品五編で、これらが英語、仏語、独語などに翻訳刊行されたものが六三点に及んでいる。

 また、三十三年から日本のすぐれた哲学思想文献を翻訳刊行する計画が進められた。この計画の下に、現在まで、西田幾太郎の『善の研究』など単行本九冊、論文集一五編が翻訳出版された。

 三十二年からユネスコが十か年計画で実施した「東西文化価値の相互理解」に関する重要事業計画の一部として、ユネスコの協力を得て、三十六年に財団法人東洋文庫に、「東アジア文化研究センター」が設置され、ユネスコ援助金と国庫補助金により、調査・研究、連絡・情報交換、出版活動などが行なわれてきた。重要事業計画のわく内ではこのほか、演劇、美術などの国際会議やシンポジウムを開催した。

 ユネスコが発足させた発展途上地域における図書開発事業計画に協力するため、四十四年に「ユネスコ東京出版センター」を設置した。このセンターでは、アジア地域の出版に関する調査・研究、出版技術の研修、アジア諸国における共同出版の促進などの事業を実施してきた。

 四十三年の第一五回ユネスコ総会以来その設立に努力してきた「ユネスコ・アジア文化センター」が四十六年四月に発足した。このセンターはユネスコおよびアジア地域のユネスコ加盟国の協力を得て、アジアの文化の振興に関する施策についての情報交換、文化振興のための人物交流の推進、伝統文化の調査・保存および活用に関する事業を行なうことになっており今後の活動が期待されている。なお、ユネスコ東京出版センターは、アジア文化センターの設立に伴い、同文化センターと合併した。

 以上のほか、特に連帯感が薄いといわれるアジア地域ユネスコ加盟国の連携強化を図るため、アジア地域のユネスコ国内委員会代表者会議を三回わが国で開催し、四十四年からは、アジア各国のユネスコ国内委員会間の情報交換誌「ユネスコ・アジア」(英・仏文)を編集刊行している。また、四十年に日本ユネスコ国内委員会フェローシップ制度を設け、アジア各国から毎年若い研究者を招請している。

 なお、四十四年にウ・タント国連事務総長が提案した国連大学設置構想には、当初から関心をもち、国連やユネスコによる国連大学設立可能性に関する研究・調査に呼応して、ユネスコ国内委員会および文部省においても、あるべき国連大学の構想を研究・提案するとともに、専門家を派遣したり、研究・調査のための拠出金をユネスコに提供したりして、積極的に協力している。

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