二 国語施策

国語課の設置

 昭和十五年十一月、図書局国語課が設置されたが、まもなく教学局教学課に吸収され、戦後は二十年十月教科書局第二編修課に、次いで調査課(のちに教材研究課と改称)に吸収されるなど、その所管に幾多の変遷があった後、二十二年四月、教科書局国語課として再び独立した。その後、調査普及局、調査局、文化局等、その所属に変更があったが、現在は文化庁の文化部に所属するに至っている。そして、国語・公用文・ローマ字に関する調査・企画・普及、文部省出版物の用字・用語の審査、外国人に対する日本語教育に対する援助・助言などとともに、国語審議会、国立国語研究所に関する事務をつかさどっている。

国語審議会

 昭和二十一年三月の「第一次米国教育使節団報告書」は「国語の改革」を指摘し、「国語の問題は、教育実践上のあらゆる改革にとって基本的なものである。」とし、「ローマ字の採用」を強く要望し、「国語に関する総合的な計画を樹立するために、委員会を設けて、いかなる形式のローマ字を採用するか、過渡期における国語改革計画の調整、学校および社会においてローマ字を採用する計画を立てること、口語体の形式をより民主的にするための方策の研究等を行なうべき」旨を提案した。昭和九年の官制により設置された「国語審議会」は、国語に関して、国語の改善、国語の教育の振興およびローマ字に関することを所掌し、国語の改善に関し積極的に活動したのであるが、米国教育使節団の勧告の趣旨もあり、かつ、戦前からの課題である国語平明化の必要性からも、国語表記の改善にその調査・審議活動の重点を置いてきた。この間、国語学会その他各方面において、漢字制限を主体とする国語表記の平明化の要望が強く打ち出されたが、この審議会が建議や報告を行なってきた数々の成果のうち、政府が採択し、内閣訓令・告示として実施に移されたものは^「当用漢字表」(二十一年十一月)、「現代かなづかい」(二十一年十一月)、「当用漢字別表」(二十三年二月)、「当用漢字音訓表」 (二十三年二月)、「当用漢字字体表」(二十四年四月)、「人名用漢字別表」(二十六年五月)、「ローマ字のつづり方」(二十九年十二月)および「送りがなのつけ方」(三十四年七月)の八つの方策であった。

 なお、建議機関として特異な活動をしてきたこの国語審議会は、三十七年政令の改正によって再び通常の諮問機関となり今日に至っている。

公用文の改善等

 昭和二十一年四月、次官会議で「今後各官庁における文書及び新たに制定(全文改正を含む)する法令の文体、国語、用字、句読点等は、今回発表した憲法改正草案の例にならうこととし、できるだけその平易化に努めること。但し、法令については当分の間、従来通りとすること。」という決定をみた。そして「公文用語の手びき」、「改編公文用語の手びき」、「公用文の改善」を編集し、二十七年になって、国語審議会の建議「公用文作成の要領」を内閣から各省庁に通達した。このようにして、公用文の書式が用語、用字、言い回しなど、つとめて日常普通の用い方に即したものとなり、また、左横書きが広く行なわれるようになり、国語の平明化に大きな足跡を残したことは注目すべきことである。そして、前記一連の訓令・告示により実施されることとなった国語表記の平明化の施策は、新聞・雑誌、学校教育等を通して、しだいに国民生活に浸透していった。

国立国語研究所

 昭和二十一年九月、国語審議会から「国語国字問題の重要性にかんがみ、大規模の基礎的調査機関を設けてその根本的解決をはかられんことを望む。」との建議があり、これを受けて、二十三年、「国立国語研究所設置法」が制定され、国立国語研究所が発足した。この研究所は、1)現代の言語生活および言語文化、2)国語の歴史的発達、3)国語教育の目的、方法、結果、4)新聞、放送における言語および同時に多人数が対象となる言語等に関する調査・研究を行ない、その成果に基づいて国語施策立案上の参考資料を作成し、また現代語辞典、方言辞典、歴史的国語辞典等の辞典の編集を究極の目標とすることとなっている。現在、研究員五〇余人を擁してこれらの調査・研究を推進しているが、最近は、いわゆる情報化社会現象の進行に対応して、電子計算機で言語を処理するための基礎的研究を行なうとともに新聞を資料とした語彙(い)調査や漱(そう)石・鴎(おう)外の用語の研究などを電子計算機を用いて行なっている。

国語政策の再検討

 先述のとおり、戦後の一連の訓令・告示で実施されている国語表記の諸施策は、時を経てしだいに国民一般に定着しつつあったが、他方、基準を設けて、漢字制限その他の表記法の制約をすることは、国語の貧困につながるなど平明化政策に対する批判的な意見もあり、それらをも考慮しつつ、かつ実施の経験等も考え、この際国語施策の再検討をすることが必要となってきたとの判断で、中村梅吉文相は、昭和四十一年六月、国語審議会に対して「国語施策改善の具体策について」諮問した。そこで国語審議会は、諮問に示された「検討すべき問題点」、すなわち、1)当用漢字について(当用漢字表、同別表の取り扱い方ならびに漢字の字種の選定方針および現行の字種について)、2)当用漢字音訓について(音訓整理の方針および取捨選択について)、3)字体について(字体の標準の方針および各字体の標準について)、4)送りがなのつけ方について(その方針と内容について)、5)現代かなづかいについて(内容上の問題点について)、6)その他関連する事項について、を総合的・根本的に再検討することとなり、まず、「当用漢字音訓表」と「送りがなのつけ方」の改定に手をつけ、それぞれ部会を設けて審議を続けた。四十五年五月「当用漢字改定音訓表(案)」、「改定送りがなのつけ方(案)」を、それぞれの部会試案として公表し、一般の批判、意見を求めた。その後、両部会では、各界から寄せられた意見を参考として、試案に必要な修正を加えて、近く答申を行なう段階に至っている。

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