四 教科書行政

検定制度の確立

 昭和二十二年に学校教育法が制定され、教科書については、民間の創意によって教科書に多様性を持たせ、教師の創意・くふうによる教育をいっそう伸張させる見地から、従来の国定制度を廃止して、原則として検定制度によることになった。文部省は、同二十二年に教科書制度改善協議会を設置し、教科書制度全般の検討を始め、さらに教科用図書委員会を設置して、教科書制度改革の具体策を審議した。その結果、二十三年に教科用図書検定規則を制定し、続いて教科用図書検定調査会(二十五年教科用図書検定調査審議会に改組)を設置して、二十四年度から使用する教科書の検定を開始した。一方、終戦直後の窮迫した経済事情のもとにおいて、用紙、印刷、金融等の各面にわたって、教科書発行の隘(あい)路が多かったが、このような事態を切り抜け、教科書の発行・供給を円滑に行なうために、二十三年「教科書の発行に関する臨時措置法」が制定され、教科書の需要供給の調整や適正価格の維持等の措置が講ぜられた。

 二十三年度から教科書検定制度は発足したが、旧教育委員会法によれば、各都道府県教育委員会にその地区内の学校で使用する教科書を検定する権限が与えられており、用紙の割当制の廃止までの間は、文部大臣がこれを行なうこととなっていた。しかし、現実に検定制度が発足してみると、この地方検定制度の実施には、技術的・経済的に困難があるばかりでなく、教育的に問題点が多く、国による中央検定を支持する声が強まった。結局二十六年の用紙の割当制の撤廃後しばらくして、二十八年に法律の一部敗正により、教科書の検定は文部大臣の権限とされ、地方検定の問は解消した。

教科書制度の改善

 年とともに新教科書制度も定着してきたが、検定制度を実際に運用していくうちに種々の問題点が指摘されるようになった。たとえば教科書の発行者の増加に伴い教科書の売り込み競争が激化し、採択に関する不公正な競争の弊害等が表面化してきた。このため、昭和二十七年には、公正取引委員会から独占禁止法違反の疑いがあるとして警告が発せられ、三十一年には独占禁止法に基づき、「教科書業における特定の不公正な取引方法」が指定され、採択関係者または販売業者に対する利益供与による自社教科書の選択勧誘や中傷ひぼうによる他社教科書の選択妨害等の行為を禁止した。このような事態に対処して文部省は通達を発し、駐在員の宣伝行為の規制や発行者主催の講習会等について指導を行なった。

 また、教科書の種類が多くなったにもかかわらず、検定機構の整備がこれに伴わないなどのこともあって、検定事務が必ずしもじゅうぶんに行き届かず、記述の誤りや内容の偏向が指摘され、教科書に対する批判が強くなった。そして三十年には衆議院行政監察特別委員会でこれらの問題が大きく取り上げられた。

 このような情勢下にあって、文部省は三十年「教科書制度の改善案」について中央教育審議会に諮問し、その答申に基づき、「教科書法案」をまとめ、翌三十一年国会に上程した。この法案は、従来の「教科書の発行に関する臨時措置法」や教科書検定規則等で規定されていた発行、供給、検定等に関する事項を盛り込み、これに所要の改善を加えて総合的な教科書行政の法律にしようとするものであった。法案は衆議院の可決をみたが、参議院では会期末までに審議が終了せず廃案となった。

 教科書法案の不成立により、教科書制度全般の整備は困難となったが、実施可能なものについては行政措置等によって改善が図られることになった。まず、三十一年に教科用図書検定調査審議会の検定調査分科会の委員の数を従来の一六人から八〇人に大幅に増員するとともに、文部省に専任の教科書調査官四○人を置き、検定機構を整備・充実した。また、各都道府県と指定都市に六〇〇か所の教科書センターを設置し、常時教科書研究ができるようにした。検定制度の整備により、教科書の検定は従来より、一層慎重・綿密に行なわれるようになり、かつ、三十三年以降の二度にわたる小・中・高校の教育課程の改訂に伴って教科書の内容も改善・充実された。

無償制度の実施

 義務教育無償の内容の一つとして、教科書については、昭和二十六年度から、部分的にではあるが、無償措置が始まった。すなわち、「昭和二十六年度に入学する児童に対する教科用図書の給与に関する法律」が制定され、公立小学校に入学する児童に対し、地方公共団体が国語と算数の教科書の無償給与をする場合、国が補助金を出すこととした。二十七年には「新たに入学する児童に対する教科用図書の給与に関する法律」が制定され、国が国語と算数の教科書を無償で給与することとした。この給与は、二十九年度′以降はとりやめとなり、改めて社会保障的施策の見地から三十一年に「就学困難な児童のための教科用図書の給与に対する国の補助に関する法律」が制定され、貧困家庭の児童・生徒に対し、教科書を無償で給与することとなった。

 その後、義務教育無償の見地から教科書無償を国の施策として行なうべきだとの機運が改めて高まり、三十七年「義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律」が制定され、義務教育の教科書は無償とする方針が宣言され、同時に「臨時義務教育教科用図書無償制度調査会」が設置され、無償給与の具体策について審議することとなった。この調査会の答申に基づき、翌三十八年「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」が制定され、完全な教科書無償給与制度が確立した。この無償給与は、国の財政措置との関連から三十八年度以降年次計画をもって進行し、四十四年度に、義務教育全体の教科書の無償給与が完成した。

お問合せ先

学制百年史編集委員会

-- 登録:平成21年以前 --