三 私学振興

 昭和二十七年以来、国の私学に対する助成は私立学校振興会を通じて行なう融資が主体であって、私学に対する補助金は、産業教育、理科教育の振興および科学技術教育の拡充等国の政策推進に即応する分野について、三十年ごろからようやく実施をみるようになった。その後、特に高校生急増期、それに引き続く大学生急増期において、私学の学校教育において、果たす役割が向上するのに対応して、融資や補助の拡大が図られてきた。しかし、何といっても私学に対する積極的・全面的な助成は、四十五年度における私立大学等経常費補助の創設をまたなければならなかった。

 私立学校に対する公的助成についての憲法論議は、私立学校法第五十九条によって法律的には解決したが、実態論としては、1)私立学校に要する経費は、設置者負担が原則である。2)私学の自主性の建て前とする限り、公的助成には限度がある。3)私学の公共性にかんがみ、国・公・私の設置者の別により、公費負担に差異を設けるべきでない、などの考え方が併存した。しかし、近年の私立学校の急速な拡充、学校教育に占める比重の増加、および私学財政の逼(ひつ)迫に対応して、私立助成もはや論議の段階を過ぎたというのが事実である。

私立学校振興会の融資の拡大

 昭和二十七年に発足した私立学校振興会は、その後文部省における、私立学校の施設・設備整備に関する応急最低基準充足のための十か年計画の樹立に伴い、二十八年度から二十三年度にわたって、合計五〇億円の政府出資がなされた。

 その後、施設基準の改訂、鉄筋建築の増加、建築費の値上がりなどにより、貸付資金の不足をきたし、三十一年度からは、私立学校教職員共済組合からの借入金を充当したが、なお資金の不足は著しく、施設・設備の整備が進捗しないため、三十五年度を初年度とする第二次施設整備十か年計画をたて基準の充足を図ることとした。これに加えて、三十六年度からは、政府の科学技術振興方策に対応して、大学・高校における理工系技術者の養成のため、私立においても理工系学部・学科の拡充が図られたこと、三十八年度以降の高校生急増にそなえて、私立高校の拡充が図られたこと等があって、資金需要は急激に膨張した。このための財源の不足を補うために、三十八年度には、はじめて、財政投融資資金二〇億円の借り入れが行なわれ、その後の振興会の貸し付け規模は、急速に拡大された。すなわち、三十八年度六六億円であったものが、四十四年度には、五倍の三〇七億円に拡大され、これに伴い、財政投融資資金は、三十八年度の二〇億円から四十四年度二三〇億円に拡大されている。

私立大学等に対する補助の拡大

 私立大学に対する国の積極的な財政援助についてはひとり私学関係者の要望にとどまらず、中央教育蕃議会においても、三十三年九月「私立学校教育の振興について」の答申において、私立学校における教育研究の振興を図るため、国は、必要な経費について助成を行なうべきことを強調した。これらを契機として、私立大学等に対し、逐次各種の補助が行なわれるようになった。すなわち、

 (一)私立大学が、学術研究上果たしている役割の重要性にかんがみ、その研究設備に要する経費の一部を補助するために、二十八年度から私立大学研究設備整備費補助金が計上された。私立大学に対する融資から補助金による助成に国の姿勢が積極化したことを示す初めであった。この補助金については、三十二年「私立大学の研究設備に対する国の補助に関する法律」が制定され、法律的根拠を与えられた。

 (二)私立大学理科等教育設備整備費補助金は、三十一年度に、大学の理工系学科を対象として、計上された。その後、三十四年度には、理工系短期大学に、翌三十五年度には、その他の理科系学科にまで対象が拡大され、三十七年度には、新たに発足した高等専門学校の各学科が加えられている。

 (三)私立大学幼稚園教員養成課程設備整備費補助金は、三十九年度を初年度とする幼稚園教育振興七か年計画に対応して、幼稚園教員の養成確保を図るため、四十一年度から計上された。

 (四)私立大学教育研究費補助金は、後述の臨時私立学校振興方策調査会の答申を契機に四十三年度に計上された。私立大学研究設備整備費補助金が、比較的高額の設備・備品を補助対象としているのに対し、この補助金は、比較的低額の設備・備品を対象にし、さらに公共料金としての光熱水料をも対象として執行されたものである。

私立大学等経常費補助の創設と日本私学振興財団の設置

 私立学校に対する国の助成は、逐年拡大してきたが、その私立学校経営に占める割合は少なく、私立学校は、依然としてその経費の主要部分を学生納付金によってまかなわざるを得なかった。一方諸経費、特に人件費の上昇と学費の値上げの限度から、ことに大学の経営は四十四年ごろからとみに悪化し、教育・研究条件も低下し、国立大学との格差は拡大するばかりであった。

 これよりさき、すでに四十年に、文部大臣の諮問機関として、臨時私立学校振興方策調査会が設置され、四十二年には「私立学校振興方策について」答申を行なっている。答申は、特に、大学の教育・研究の充実・向上を図るとともに、経常的収支の改善に寄与するために、物件費としての経常費助成の必要を説いている。しかしながら、人件費を含む全面的経常費の補助とその助成の成果を確保するための諸措置については、さらに根本的に検討が進められるべきことが強調されたのである。

 このような深刻な事情にかんがみ遂に四十五年度人件費を含む私立大学等経常費補助が創設された。この補助金は、私立の大学、短期大学、高等専門学校の教育の充実・向上と、その経営の健全化に寄与するため、これらの学校の専任教員の給与費を含め、教育・研究に要する経常的諸経費について、学校法人に対し補助を行なうもので、従来の私立大学教育・研究費補助、私立大学理科等教育設備整備費補助(新設理工系学科分を除く)、私立大学幼稚園教員養成課程設備整備費補助を吸収・拡充して、前年度予算額の二倍以上一三二億二、〇〇〇万円が計上された。この経常費補助では、人件費を対象としたこと、および補助対象の経常的経費は実際の支出に当たって、学校法人に対して、自己負担義務を課さない定額補助であるということにおいて、画期的なものである。その後も補助金は増額され、特に、四十七年度からは、新たに専任事務職員給与費が対象となり、総額で、三〇一億円が計上されている。

 なお、私立大学等経常費補助の創設に当たり、この補助金の交付および従来私立学校振興会の行なっていた資金の貸し付け、その他私立学校教育に対する援助に必要な各般の業務を総合的・効率的に実施するために、私立学校振興会を発展的に解消して、新たに特殊法人日本私学振興財団が、「日本私学振興財団法」によって設置され、四十五年七月一日から業務を開始した。

高等学校以下の私立学校に対する補助の拡大

 高等学校以下の私立学校に対する国の補助も、大学等に対する場合と同様のすう勢をたどり、漸次拡大されたが、その事情は、1)昭和二十六年の産業教育振興法に基づき、産業教育のための実験・実習設備費補助が二十七年度、施設費補助が二十九年度から実施された。2)理科教育設備整備費補助は三十一年度から始まり、三十二年度からは理科教育振興法の改正により、法律に基づく補助となった。3)三十九年度を初年度とする幼稚園教育振興七か年計画に基づき、幼稚園の普及・充実を図るため、幼稚園園具等整備費補助金が計上され、施設費補助金は、四十二年度から計上されている。いずれも学校法人立幼稚園を対象とするものである。4)以上のほか、高等学校の定時制教育および通信教育振興法に基づく、高等学校定時制および通信教育設備費補助は、二十九年度から、特殊教育設備整備費補助は、四十四年度からそれぞれ計上されている。また、三十七年激甚(じん)法(略称)の制定により、大規模な激甚災害に対する復旧費の二分の一国庫補助の方策が講ぜられた。

 国の補助金と並んで、高等学校以下の私立学校に対する都道府県の補助も漸次増額され、国は、その財源について地方交付税制度において措置してきた。

 特に、人件費を含む経常費補助は、地方は国に先んじて実施してきた実績があり、四十五年度においては、国の私立大学等に対する経常費補助の措置にならい都道府県の財政援助が大幅に拡充された。四十六年度は、地方交付税制度において私立学校助成費として、総額一四〇億円の財源措置が講ぜられ、現実に全都道府県の私学関係予算(経常費補助、施設・設備費補助、私立学校教職員共済組合補助、私立学校教職員退職金社団補助等)は、総額二三〇億円にのぼっている。

私立学校関係の減免税措置

 私立学校については、融資・補助金による助成のほか、種々の減免税措置が講じられており、学校法人自体が納付すべき税金については、収益事業にかかるものを除き、ほとんど非課税となっている。学校法人に対する寄付金については、寄付者に対する減免税措置についても、法人寄付、個人寄付ともに逐年改善をみてきており、私立学校に対する寄付のいっそうの拡大が望まれるところである。

私立学校法の一部改正と学校法人会計基準の制定

 私立大学等経常費補助金の創設に関連して、私立学校法第五十九条の一部改正が行なわれた。その内容は第一に、国および地方公共団体の学校法人に対する助成措置の拡充に対応して、学校法人の公共性をさらに高め、助成効果の確保を図るために、経常費補助を受ける学校法人は、文部大臣の定める会計基準に従って会計処理を行ない、貸借対照表、収支計算書その他所要の財務関係書類を作成して、公認会計士または監査法人の監査報告書とともに所轄庁に届けるべきものとしたことである。

 文部省は、この改正規定に基づき、昭和四十六年四月一日、学校法人会計基準(四十六年文部省令第十八号)を制定公布した。この会計基準は、文部大臣所轄の学校法人については四十六年度から、都道府県知事所轄の学校法人については四十八年度から適用される。なお、知事所轄学校法人の多くは比較的小規模で、補助の程度も多様なので、監査報告書の添付を一律に義務づけず、その判断は都道府県知事にゆだねられている。

 内容の第二は、経常費補助を受ける学校法人の公共性の確保を図るため、必要最小限度に所轄庁の権限を定めようとするものである。すなわち、所轄庁は、必要がある場合には、帳簿、書類等の検査、学科の増設計画等が法令に違反する場合の変更または中止勧告、設備、授業その他の事項の法令違反に対する変更命令の権限を有するものとした。しかし、このことについては、国会審議において慎重論が出され、政令で定める日までは、適用されないこととされている。

 これらの措置は、この経常費補助金は学校の計画に従って、かなり自主的に運用されるもので、かつ自己負担義務を課さない定額補助である点から経理の適正を中心とする私学の公共的責任が、より強く要求される趣旨によるものである。

表81 私立学校に対する年度別貸付計画および貸付実績

表81 私立学校に対する年度別貸付計画および貸付実績

表82 私立大学等関係補助金の推移

 表82 私立大学等関係補助金の推移

学校法人紛争の調停等に関する制度の創設

 私立学校法は、私学の自主的運営と公共性の保障を図るため、所轄庁の権限を大幅に制限し、その適正な運営を理事者等関係者の良識にゆだねる建て前としたが、その後、現実に、学校法人に紛争が生じ、学校の運営上、教育上憂慮すべき事例が起こった。特に、学校法人名城大学の紛争は、昭和二十九年以来長期にわたる深刻かつ複雑なもので、自主的な解決の見通しもなく、かつ法律的には第三者の関与の余地もない実情であった。学内外の関係者の強い要望により文部省では、学校法人紛争の防止およびそのすみやかな解決の方法を研究するため、三十五年五月文部大臣の諮問機関として、学校法人運営調査会を設け、同調査会は、同年十月調停制度の創設および学校法人の解散に関する制度の整備の二点を中心とする措置をすみやかに講ずるように答申した。

 これに対し、私立学校側からは、所轄庁の権限強化として反対もあったが、国会においても、学校法人名城大学の紛争の類は、立法措置による早急な解決以外に方策はないとの意見が強く、三十七年四月「学校法人紛争の調停等に関する法律」が、二年間の時限立法として制定された。(三十九年四月三十日失効)文部省では、この法律に基づき、三十七年七月、学校法人名城大学の紛争を調停に付した。調停委員の一年にわたる調停活動の結果、三十八年七月当事者の大部分については調停が成立したが、文部大臣は、同年八月調停案を受諾しなかった者を解職するとともに、仮理事の選任を行なった。三十九年二月には新たな理事が選任され、その後同校の学校運営は、円滑に行なわれるようになり、今日に至っている。

(資料)

私立学校関係減免税措置の現状(昭和四十六年度)

1 学校法人自体に係る税金のうち非課税となっているもの

 1) 国税関係
 法人税、所得税、登録免許税、贈与税、相続税、資産再評価税、物品税

 3)地方税関係
 道府県民税、市町村民税、事業税、不動産取得税、国定資産税、都市計画税、電気ガス税

2 私立学校(学校法人)へ寄付した者に対する減免税措置

(1)法人が寄付した場合

 1)一定限度の寄付について一般に損金算入される。
 限度額=(資本金×2.5/1000+所得×2.5/100)×1/2

 2)学校法人その他試験研究法人等への寄付金については、さらに1)の限度額と同額が特別わくとして付加される。

 3)大蔵大臣が教育等のための支出で緊急を要するものに充てられるもの等として指定する寄付金は、全額損金算入される。現在学校法人に関して指定されているものには、(ア)敷地、校舎等の取得費、(イ)学資貸与基金、(ウ)教育研究基金、(エ)校舎等に関する災害復旧、(オ)校地、校舎等に関する既往債務弁償に充てるための寄付金のほか、日本私学振興財団を通じて学校法人になされる寄付金で前記(ア)、(イ)、(ウ)および教育研究に要する経常的経費に充てるためのものがある。

(2)個人が寄付した場合

 1)学校法人その他試験研究法人等への寄付金、(1)の3)の大蔵大臣の指定する寄付金等特定寄付金についてその一定額が所得税の課税対象所得から控除される。

所得控除=寄付金額(所得の15%が限度)ー(所得額×3/100(10万円を越える場合は10万円)

 2)贈与、遺贈の際のみなし譲渡所得の非課税

 3)相続財産を一定期間内に寄付した場合の相続税の非課税

3 私立学校在学者に対する減免税措置(勤労学生控除)

 学校教育法第一条に規定する学校または一定の各種学校の課程の学生、生徒、児童のうち一定範囲内の所得を有する者については、年額十二万円が課税の対象となる所得から控除される。

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