二 学校保健の充実

学校保健法の制定

 新教育制度を充実するため独立前後に教育の各般にわたり法令が整備されたが、この中で学校保健管理の面については、法的整備が遅れていた。しかし遂に三十三年四月、学校における保健管理制度全般にわたる必要な基本的事項を定めた「学校保健法」が制定された。

 この法律においては、まず、第一章で学校保健計画と学校環境衛生について規定し、第二章以下では、健康診断と健康相談、伝染病の予防、学校保健技師ならびに学校医、学校歯科医および学校薬剤師の設置、要保護・準要保護児童・生徒の学校病の医療費援助と義務教育諸学校の校長・教員の結核の定期健康診断に要する経費とに対する国の補助などの具体的事項を規定している。

 特に、伝染性または学習に支障をきたすおそれのあるトラホームおよび結膜炎、伝染性皮膚疾患、中耳炎、蓄のう症およびアデノイド、むし歯、寄生虫病(虫卵保有を含む。)等のいわゆる学校病については、すべての児童・生徒に対して、学校はその治療の指示と予防措置をとらなければならないとしている。

 文部省が毎年実施している学校保健統計調査から、疾病の被患状況について最近十か年の傾向をみると、むし歯は小学校・中学校および高等学校を通じて増加し、近視は、小学校ではやや減少の傾向を示しているが、中学校・高等学校では増加している。その他の疾病は減少の傾向を示している。

 また、学校の環境衛生については、学校の環境衛生の維持・改善の職務に従事する者としての学校薬剤師を二十九年から学校(大学を除く。)に置くことができることになり、三十六年にはこれが必置制となった。また、三十九年六月、保健体育審議会から学校環境衛生の基準が答申され、四十年度から三か年、環境衛生検査器具整備費の補助も行なわれ、逐次活発な活動が展開されている。

 さらに、へき地学校の保健管理の改善・充実を図るため、三十四年度から医療施設に恵まれないへき地学校児童・生徒の健康診断、健康相談等に必要な経費について国の助成が行なわれ、また、保健関係施設・設備整備のための経費についての国の助成が四十一年度から行なわれ、学校ぶろ、給水施設、携帯用歯科ユニット、保健室の整備五か年計画が逐次実施されている。

学校安主と公害

 学校教育法の小学校教育の目標の一つとして「健康、安全で幸福な生活のために必要な習慣を養い、心身の調和的発達を因ること。」と定められ、この目標実現のため、学習指導要領や保健計画実施要領の中に、学校安全が取り上げられていたが、学校管理下における児童・生徒の災害補償については、その必要性は痛感されながらも、制度としては確立されないままになっていた。

 しかし、昭和二十九年相模湖事件、三十年紫雲丸事件、岩手県の修学旅行バス転落事件、三重県津市橋北中学校生徒水死事件、三十二年十国峠の修学旅行バス転落事件等多数の死傷者を出す災害が相次いで発生し、学校管理下の災害について公費による援助を要望する声が急速に高まった。そこで、三十四年十二月「日本学校安全会法」が制定され、これによって義務教育諸学校等における学校管理下の児童・生徒等の災害(負傷・疾病・廃疾または死亡)に関して必要な災害共済給付を行なうとともに学校安全の普及・充実を図り、学校教育の円滑な実施に資することを目的として、翌年三月特殊法人日本学校安全会が設立され、国、学校の設置者および保護者がそれぞれ経費を負担することにより、学校管理下における災害に対する新しい災害共済給付制度が確立されるに至った。この場合、国は主として、日本学校安全会の事務費等の補助を行ない、義務教育諸学校の場合の掛け金は、保護者と学校の設置者とがおおよそ折半負担することになっている。なお、災害共済給付状況は上の表のとおりである。

表75 災害共済給付件数と給付金額

表75 災害共済給付件数と給付金額

 また、道路上の交通事故死者の三分の一が義務教育以下の学童や幼児である実状から、三十六年六月内閣の交通事故対策本部で決定した「交通事故防止対策要綱」にそって、事故防止の徹底を期するため、同年八月「交通事故の防止について」事務次官通達を発した。しかし、交通安全運動を強力に推進したにもかかわらず、交通事故は、ますます増加の一途をたどっているので、三十七年以降、数次にわたって「交通事故の防止について」事務次官通達を発し、また、四十二年三月「交通安全指導の手びき」を作成して、交通事故防止の推進と交通安全教育の充実を図った。さらに、四十三年度から「交通安全教育センター」整備を五か年計画で進め、その経費の一部を補助している。なお、新学習指導要領においては安全に関する指導内容を充実するとともに指導の場を明示して安全教育の徹底を図るようにしている。

 最近における産業の著しい発展に伴い、大気汚染・水質汚濁・騒音などの公害が全国各地で発生している。そこで、大気汚染による被害の著しい地域の公立小・中学校の児童・生徒の健康の強化増進を図る目的で行なわれる特別健康診断ならびに一定期間恵まれた自然環境に児童・生徒を移動させ、学校教育活動を行なう健康増進特別事業(いわゆるグリーンスクール)に要する経費に対し、四十六年度からその一部を補助している。

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