一 特殊教育の振興

特殊教育振興の方策

 昭和二十七年に初等中等教育局に設置された特殊教育室が当面した課題は、第一に義務化された盲・襲児の就学率の低調と、第二に精神薄弱、肢体不自由、病弱・虚弱児等に対する特殊教育の立ち遅れの打開ということであった。

 盲学校や聾学校に就学することは、一般の小学校や中学校に就学する場合に比べ、保護者の経済的負担が大きく、これが就学率の低調の原因となっていることから、この経済的負担を軽減するために、二十九年に、「盲学校、聾学校及び養護学校への就学奨励に関する法律」を制定して、就学奨励・援助の方策を強化したのである。

 他方、盲・聾児以外の特殊教育の振興については、まず、特殊教育の対象とすべき児童・生徒の範囲を明確にし、それに該当する児童・生徒の実態をは握して、施策立案に必要な基礎数字をうることが先決であった。そこで、文部省では、二十五年以来、判別基準作成のための委員会を設けて検討を重ね、二十八年六月、「教育上特別な取り扱いを要する児童・生徒の判別基準」を作成し、文部事務次官名で関係機関に通達した。

 次いで、文部省は、判別基準制定後ただちに年次計画(二十八年~三十年度)によって、障害の種類別に特殊教育の対象となるべき児童・生徒の実態調査を実施した。その結果、学齢児童・生徒中に一〇〇万人を越える精神薄弱、肢体不自由、病弱・虚弱の児童・生徒が特殊教育を必要としていることが明らかになった。

養護学校および特殊学級の整備

 このような実態から、文部省では、早急に養護学校および特殊学級の増設を推進する必要があることを認め、とりあえず特殊学級の増設を奨励するために、昭和三十二年度から特殊学級を新設する市町村に対し、その設備費の補助を開始した。特に、肢体不自由児および病弱児については、その実態から、肢体不自由児施設や国立療養所等に入所している場合も多いので、これらの医療機関に近隣の小学校・中学校に特殊学級を設置することも奨励したのである。

 他方、養護学校については、学校教育法第九十三条(附則)但し書によって、養護学校に関する就学義務および都道府県の設置義務が未施行であったため、義務制学校でない養護学校を設置しても、必要経費を設置者がすべて負担しなければならないという問題があった。このため、養護学校における義務教育の早期実施を目標として、三十一年、「公立養護学校整備特別措置法」が制定され、建物の建築費、教職員の給与費、教材費等について、他の公立義務教育諸学校と同様に国の負担または補助のみちを講じたのである。

 さらに、三十四年の中央教育審議会の「特殊教育の充実振興について」の答申に基づき、精神薄弱児についてはその程度の比較的軽い者は特殊学級において、重い者は養護学校において、それぞれ教育を行なうことを原則とし、また、養護学校は、精神薄弱、、肢体不自由、病弱の対象のそれぞれに応じて別種の学校を設けることとして、三十五年度から年次計画により、その増設を図った。その結果、四十五年度において、精神薄弱特殊学級(小学校および中学校)一万四、四〇八学級、精神薄弱養護学校一〇一校、肢体不自由養護学校九八校、病弱養護学校四○校を数えるに至った。

特殊教育の積極的拡充

 このように、急速に特殊教育の量的拡大が図られていく過程において、質的な充実やきめ細かな配慮への反省が、昭和四十年代にはいって強まり、新しい観点から特殊教育振興策を樹立する必要が生じてきた。そのために、四十二年度においては、児童・生徒の心身障害に関する調査を全国しり皆調査によって行ない、施策の基本となる資料を整備するとともに、学識経験者等に委嘱して特殊教育に関する総合的研究調査を実施した。

 この結果、特殊教育の対象となる障害児の実態にかなりの変化がみられ、それに即したきめの細かな対策が要請されるに至った。すなわち、特殊教育の改善・充実のための基本的な考え方として、1)心身障害児の能力・特性等に応じ、柔軟で弾力的な教育的取り扱いをすること、2)普通児とともに教育を受ける機会を多くすること、3)早期教育および義務教育以後の教育を重視すること、4)すぐれた教員を養成し、確保すること、5)一般社会に対する啓発活動を徹底することなどがその重要な内容である。

 文部省では、このような動向にそって、まず、四十二年から、心身障害児の判別と適正な就学指導を中心とする地域社会の具体的な活動を通して特殊教育振興を進めるための拠点として、特殊教育推進地区を設置し、四十四年から在宅障害児に対する家庭訪問指導のための研究指定校を委嘱するなどの試みを始めている。また、養護学校における義務教育を四十九年度から実施に移すべく諸般の準備を進めているところである。

 四十六年六月の中央教育審議会の答申の中の「特殊教育の積極的な拡充整備」においても、1)養護学校における義務教育の実施および精神薄弱児のための特殊学級の義務設置、2)療養中の児童・生徒に対する教員の派遣による教育の普及および教育形態の多様化、3)重度の重複障害児のための特殊教育施設の整備、4)心身障害児に対する一貫した施策と処遇の改善などを提言している。

国立特殊教育総合研究所の発足

 特殊教育振興の基礎となる科学的研究を医学、心理学、教育学、工学等の関連する諸科学の協力のもとに総合的・実際的に推進する特殊教育研究機関の設置が要望されていたが、四十六年十月、国立特殊教育総合研究所として発足した。この研究所は、年次計画により拡充・整備され、四十八年度から全面的に事業を開始する予定であるが、完成の際は、研究部門のほか、実験教育施設、教育相談施設、情報管理施設、教職員研修施設が整備される予定である。

お問合せ先

学制百年史編集委員会

-- 登録:平成21年以前 --