一 科学技術の振興と産業教育

 終戦直後における学校施設等の荒廃については多言を要しないが、工業教育機関についてみても、旧制の大学工学部、単科の工業大学および工業専門学校等の施設・設備は、あるいは戦災をこうむり、あるいは軍需関係に転用されて荒廃の極に達し、立ち直りがあやぶまれたほどであった。そして、総司令部の命令によって、航空・造兵等に関する学科(科目)が廃止あるいは転換される措置がとられたほか、戦時中、高等商業から工業系専門学校へ切り替えられた諸学校の経済専門学校への復帰も行なわれ、また、工場機械等の学校設備への転換等の応急措置もとられた。その後、これら旧制の諸学校は、新制大学に移行し、しだいに整備されていくのであるが、特に理工系学科について、その早急な整備・充実を求める意見が各界から強く提起されることとなってきた。その要因をなすものはわが国の急速な経済成長と科学技術の進歩である。

 戦後におけるわが国の経済の発展は、まことに著しいものがあり、昭和二十二年度から二十七年度までの戦後の経済復興期においても、年成長率一一・五%をマークし、世界の注目を浴びた。そして今後の飛躍には、当然、わが国の産業構造の高度化や雇用構造の根本的な変革が予想され、また生産性向上の基盤となる科学技術の著しい進歩のすう勢と相まって、大量の科学技術者の養成や一般に人的能力の向上が急務として認識されるに至った。政府においてもかかる情勢に対処すべく種々の施策を講じた。

 たとえば、中央教育審議会では、三十二年十一月、文部大臣の諮問に応じて、「科学技術教育の振興方策について」答申を行なったが、それによれば、大学関係では、科学技術系大学学部卒業者の質の向上、数の増加、大学院の充実、附置研究所の協力、短期大学関係では、短期大学の目的、性格の明確化、短期大学と高等学校を合わせた五年制または六年制の技術専門の学校の創設、高等学校および中・小学校関係では、卒業者の質の向上、高等学校職業課程卒業者の数の増加等が、緊要な施策として取り上げられるべきことを指摘している。

 また、三十五年十一月の国民所得倍増計画においては、科学技術者の養成について詳細に述べ、「・・・人材の養成の必要性は今後ますます増大しよう。それは、最近の新技術の開発や研究活動の増大に伴って研究者の需要が増大したこと、およびオートメーションの普及に伴って計測制御、生産管理、設備保全等の新しい型の専門技術者の需要がふえているためである。さらに経営管理部門、販売部門等においても技術者の需要が増加し、また、一般管理者、職員等についても技術的素養の必要性が認識されている。したがって、このような科学技術者需要の増大を考えると、倍増計画期間内においておよそ一七万人の科学技術者の不足が見込まれるので、理工学系大学の定員について早急に具体的な増加計画を確立すべきである。・・・」と指摘している。三十五年十月、科学技術会議が内閣総理大臣に対して行なった「十年後を目標とする科学技術振興の総合的基本方策について」の答申においても、「わが国における理工学系科学技術者は、一応の推算ではあるが、昭和三十五~四十五年間に約一七万人の供給不足を生ずるものと見込まれる。したがって昭和三十六年度以降逐年、理工学系大学の学生定員(現在二七万六八〇人)の増加を行ない、これに対処する必要がある。」と述べている。

 この一七万人という数字は、文部省が、二年余にわたる調査に基づいて行なった推計の結果であるが、文部省ではこれらの情勢をふまえて、理工学系学生の増募計画を逐次立案し、実行に移した。また、このような著しい社会の進展に適切に対処するためには、既存の学校の拡充ということだけではふじゅうぶんであることが関係者の間で痛感され、三十七年度から高等専門学校の創設をみるに至ったことは、前述のとおりである。

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