九 高等教育機関入学者の選抜

大学入試選抜方法の改善

 文部省は、毎年大学入学者選抜実施要項を各大学や高等学校等に通知し、公正妥当な選抜が実施されるよう指導的努力を重ねるとともに、「大学入学試験問題作成の参考資料」を公刊し、各大学の入学試験問題を評価して、その改善に役だてている。この実施要項においては、新制大学発足以来一貫して、学力検査と身体検査および出身学校長から提出される調査書の各資料を総合して入学者の合否を決定するという、いわゆる総合判定主義を提唱してきている。

 しかるに、大学における入学者選抜の実態はいぜんとして、学力検査偏重の選抜が行なわれ、その結果、高等学校以下の学校教育全般にさまざまな弊害をもたらしていた。昭和三十八年一月中央教育審議会は「大学教育の改善について」答申を行なったが、その中で大学の入学試験の改善を重視し、具体的改善方策として信頼度の高い結果をうる共通的・客観的テストの研究・作成および実施とその主体となる専門の機関の設置を提案した。

 この答申に基づいて、三十八年一月、大学、高等学校、文部省の関係者が発起人となって、財団法人能力開発研究所が設立され、三十八年度から四十三年度までの六年間、大学入学者の選抜と高等学校の進路指導に役だつ共通テストの開発と、それに関する専門的な調査・研究が行なわれた。文部省は、同研究所の事業の重要性を認め、その開発研究を援助するため、この間約一億円の国庫補助金を交付するとともに、大学入学者選抜方法の改善方策の一つとして、四十二年度大学入学者選抜時からいわゆる能研テストの結果を入学者の合否の判定に利用しうることとし、大学側にその実験的試用をすすめたのである。ところが、能研テストの活用による選抜方法の改善については、大学側の態度がきわめて消極的であったこと、また同研究所の事業の目的に対しては、発足の当初から誤解と偏見があったことなどにより、各都道府県教育委員会や全国高等学校長協会などの熱心な協力、支援にもかかわらず、実験的試用のテスト受験者数は減少の一途をたどり、研究資料さえじゅうぶんうることが困難となったほか、財政上の理由からも、四十三年度をもって同研究所のテスト事業は休止した。

 この間、文部省に設置されている大学入学者選抜方法の改善に関する会議においては、特に四十一年度以降、出身学校長から提出される調査書を改善してその利用を促進するためのさまざまな方策が提案され、文部省は、その成果を「大学入学者選抜実施要項」に盛り込んで入学者選抜の漸進的改善に努力してきた。しかし、大学入学者選抜の実態は、依然として特定の大学・学部に集中する激しい入学競争が繰り返されて、多くの浪人が発生し、他方では大学の学力検査偏重の選抜が続き、しかも検査問題には不適切なものもあって、高等学校教育の正常な発展を妨げるなど問題の種は尽きず、ひとり教育界のみならず社会各方面からその改善が要望されていた。

 そこで文部省は、大学入学者選抜方法の改善に関する会議に、長期的展望に立った入学者選抜の改善方策についてはかり、四十六年十二月その報告を得た。報告は、入学者の選抜方法について、各種の選抜資料を多角的に活用することによって志願者の能力・適性を総合的に判定するいわゆる総合判定主義の実現をさらに強く提唱するとともに、具体的改善方策として、1)調査書の活用、2)共通学力検査の実施、3)大学が行なう学力検査等の改善、4)大学における入学者選抜事務処理体制の整備、5)高等学校における進路指導の充実の五つを提案している。文部省では、特に共通学力検査については、過去の進学適性検査および能研テストの例もあり、その具体的な実施方策について四十七年度以降、慎重に検討を開始することにしている。

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