二 大学院の整備

新制大学院の発足

 旧制大学令には、特に大学院の目的を示した条項はなかった。これに対して学校教育法は、大学には、「学術の理論および応用を教授研究し、その深奥をきわめて文化の進展に寄与することを目的とする」大学院を置くことができると明記し、大学院を学部の単なる延長としてではなく、それ自身の独自の地位と使命を制度的に認めることとした。

 大学院の基準については、大学基準協会が昭和二十四年四月、会員の資格審査の基準として「大学院基準」を作成したが、大学設置審議会はこれを「大学院設置基準」として採択した。そして、これを適用して、二十五年度から私立の四大学に新制大学院の設置が認められたのを皮切りに、新制大学の学年進行に伴い、二十八年度には国・公立大学にも大学院が設けられた。また、同年四月一日付けで学位規則が制定・公布された。これは、文部省が、大学設置審議会から「学位に関する要項」および「大学院設置審査基準要項」について答申を受け、その内容を法令化したものである。大学院は、研究科を構成単位とし、数個の研究科を置くことを常例とし、その内容は修士課程と博士課程とから成り立っている。

 なお、大学院は、当初は学術の研究者または大学の教員の養成を目的とすると考えられていたが、その後、修士課程には高度の研究能力を備えた専門の職業人の養成という役割が加味され、三十年に修士課程の目的規定がそのように改正された。また、それと合わせて当初は、学部の上に一年の修士課程と三年の博士課程とを並列する方式がとられていたが、両課程の最低在学年限を二年および五年に高めるとともに、並列方式と同時に修士課程二年、博士課程三年、計五年の積み上げ方式も認められた。その後のほとんどの大学院は、実際にはこの積み上げ方式をとることとなった。

 医学・歯学に関する大学院の基準については、大学基準協会が三十四年六月「医学に関する大学院基準」および「歯学に関する大学院基準」を作成したが、その特色は、両学部の修業年限が六年とされたため、修士課程は設けず、最低在学年限四年の博士課程だけとしていることである。

 大学院制度の改革に伴って、学位制度も大きく改められた。旧学位制度と異なり、新しい学位は各大学が授与し、文部大臣の認可を必要とせず、また博士(一七種類)のほかに修士(一九種類)の学位が設けられた。修士および博士の学位は、大学院にそれぞれ二年または五年以上在学して所定の単位を修得し、かつ大学院の行なう論文の審査と最終試験に合格した者に授与される。(いわゆる課程修士・博士)ただし、博士については、大学院に在学しなくても博士論文の審査に合格し、かつ課程博士と同等以上の学力を有することを確認された者にも授与される。(いわゆる論文博士)

 なお、旧学位令は、学校教育法の制定の際廃止されたが、旧制大学の研究科の存続年限までは「旧学位令」に基づく博士授与を認める暫定措置がとられていた。したがって、国立大学については、医学部および歯学部の研究科は三十五年三月末まで(学部最終卒業者の卒業した年度は二十八年度)、その他の学部の研究科は三十七年三月末まで(学部最終卒業者の卒業した年度は二十七年度)存続し、また、公・私立大学の研究科については、それぞれ学部最終卒業年度が異なるので大学によってまちまちであるが、最終の年限は、医学部および歯学部は三十六年三月末まで、その他の学部の研究科は三十七年三月末までとなっていた。

 国立大学の新制大学院については、文部省は、研究水準維持のため旧制大学の系譜をもつ大学または学部の上に置くことを原則とし、かなり制限的で慎重な方針をとってきた。しかし、三十八年一月の中央教育審議会の答申に基づき、修士課程については、従来の研究者養成の目的のほかに、社会的要請の高まりつつある高度の専門的な職業人の育成という目的を加味するため、教員組織、施設・設備等が特に充実しているいわゆる新制の学部の基礎の上にも設置を認めてきた。ただ、博士課程については、既設研究科の充実を主眼とし、新しく修士課程を置いた大学院に博士課程を新設することはまだ進められていない。

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