五 生徒問題

高等学校生徒指導

 いわゆる青少年非行は、昭和三十九年をピークとして以後減少の傾向にあったが、四十五年度から著しく増加するとともに低年齢化、集団化などの傾向を示しており、特に高等学校生徒の場合は、四十四年以降生徒数の減少とは逆に非行は増加の傾向にある。しかもこの非行が窃盗、粗暴犯などのほか、シンナー等の薬物乱用、性に関する問題行動、家出、怠学など多様化していることが指摘されている。

 生徒のこれらの非行を誘発する原因には、一般的には最近の社会的風潮の影響によるもののほか、家庭での教育の問題、進学率の上昇による学習不適応生徒の増加、さらには教師と生徒との人間的接触の希薄なことなどの教育上の問題が考えられる。

 従来から文部省は、このような非行対策を含めた生徒指導の充実の方策に意を用いてきているが、三十八年度から生徒指導研究推進校の設置、生徒指導資料の作成・配布、生徒指導講座の開催を実施するとともに、さらに四十三年度からは高等学校生徒指導連絡協議会などを開催している。また、四十五年度の高等学校学習指導要領の改訂では、特に、ホームルーム、生徒会活動、クラブ活動などの各教科以外の教育活動を改善・充実して、生徒の学校生活への適応、望ましい習慣の形成、個性の伸長などにきめ細かな配慮が払われるよう措置されている。

政治的教養と政治的活動

 昭和四十三年の三月以来、一部の高等学校生徒が暴力的な政治的活動に参加したり、授業妨害や学校封鎖を行なうなど、従来高校生について憂慮されていた非行問題とは別の形での反社会的活動の事例がみられるようになり、特に、四十四年度には、これらの事例が全国的に多発した。生徒のこれらの活動を誘発する原因には、大学紛争の影響が大きいが、同時に教師と生徒の人間的接触の希薄なことや一部教師の影響などさまざまな問題が考えられる。

 こうした事態の緊急性にかんがみ、文部省は、高等学校教育関係者の共通の基本的理解のもとに、高等学校生徒に対し適切な指導が行なわれることを期待して、四十四年十月に、「高等学校における政治的教養と政治的活動について」の見解を発表した。

 そのなかで、将来、良識ある公民となるよう、高等学校教育における政治的教養を豊かにするための教育がよりいっそう充実される必要のあることが示されている。一方、高校生の政治的活動の指導が適切に行なわれる必要があるという観点から、高校生が政治的活動にはしることは、政治的教養の教育の目的を阻害するおそれがあり、じゅうぶんな判断力や社会的経験をもたない時点で特定の政治的立場の影響を受けることとなり、将来広い視野に立って判断することが困難となるおそれがあり、教育上望ましくないとしている。さらに、高校生は未成年者として、民事上も刑事上も成年者と異なった取り扱いをされ、参政権も与えられていないことからも明らかなように、国家・社会としては未成年者が政治的活動を行なうことを期待していないのであり、むしろ高校生が特定の政治的影響を受けることのないよう保護する必要があるとしている。

 なお、四十四年度を中心としてみられた一部の高校生の過激な政治的活動の傾向は、四十五年度以降は、関係者の適切な指導によって落ち着きをみている。しかしながら、これらの事態の誘因となったさまざまな問題が解決をみているわけではなく、また、一般の生徒とは遊離しているとはいえ、街頭での過激な行動にはしる一部の生徒もみられる。

中学校夜間学級(いわゆる夜間中学)

 戦後の混乱期に長欠児対策の一つとして、一部大都市に設置された中学校夜間学級は、昭和二十八年にピークを迎え、学校数七一、生徒数三、一一八人を数えたが、社会の安定とともに、減少の傾向をたどった。中学校夜間学級は、家庭の貧困、親の無理解、本人の病気等種々の原因で、中学校教育を修了していない者が在籍する学級であるが、当初は、特に、家庭の貧困等のため学齢生徒が昼間働き、夜間学ぶために夜間学級に通学する者が多かった。しかし、四十一年に行政管理庁が出した「いわゆる夜間中学は、義務教育のたてまえから好ましくなく、廃止するよう指導すること。」との趣旨の勧告もあり、また、長欠児対策の充実に伴い、中学校夜間学級へ通学する学齢生徒は激減し、四十六年二月現在では夜間学級総生徒中約九%であり、夜間学級の性格は当初と異なり、なんらかの事情で不幸にして中学校教育を修了しなかった学齢超過者のための教育機関としての機能をになうに至った。

中学校卒業程度認定

 中学校卒業程度認定試験は、学校教育法の規定によって保護者が就学させる義務を猶予または免除された子女に対して、高等学校入学に際し、中学校卒業程度の学力があるかどうかを認定するために国が行なう試験で、昭和四十二年から実施された。この制度は、心身の故障等の理由によりやむをえず義務教育諸学校に就学することができず、家庭等にあって勉学している者に、中学校卒業程度の学力の認定を行なうことによって高等学校に進学できる道を開くとともに、その勉学心に励みを与えることを趣旨として設けられたものである。試験の実施科目は、中学校の国語、社会、数学、理科、外国語の五科目で、初年度の四十二年には四八人が受験し、うち一五人に認定証書が授与された。翌四十三年には、就学義務の猶予または免除者以外で猶予または免除の事由に相当する事由により義務教育の課程を修了することができなかったと文部大臣が認めた者に対しても受験が認められるよう受験資格が緩和された。なお、同年は五九人が受験し、うち三三人に認定証書が授与された。

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