九 社会教育の振興

 独立回復から今日までの社会教育の発展と社会教育行政の動向は、この二十年間の社会の成熟・変化と教育との関連を学校教育よりもいっそう直接的に示していることが分かる。この動きは特に三十年代以降、すなわち教育発展の第二期が舞台である。経済成長に伴う青少年の都市集中に始まる都市・農村の変貌(ぼう)、総じて都市化・核家族化の現象、進学率上昇と社会の高学歴化、中高年齢人口の増加、余暇の増大等の現象を包摂しながら、今日はいわゆる情報化の時代を迎えるに至っている。このような状況の急激な変化の中で、幼児、少年、青年、成人、婦人、高齢者について、生涯の時期と生活の場面に応じて要求され、提供される学習内容も、学習の手段・方法も多様化し、団体活動の変化や社会教育施設の充実などが顕著にみられる。

 社会教育行政の立場からは、昭和三十四年の社会教育法の一部改正はその後の社会教育の発展にとって大きな意義をもっている。改正の内容は、1)社会教育主事の市町村の設置義務とその講習実施者の範囲の拡大、2)社会教育関係団体に対する補助金の支出禁止規定の削除、3)公民館の基準設定、4)社会教育委員の職務の追加などがあるが、1)および4)は住民に基盤をおいたきめ細かい社会教育活動の展開に資し、2)は戦後の懸案であった社会教育と憲法第八十九条の関係論に終止符を打ち、その後の社会教育関係団体の活発な動きを促進し、3)はひとり公民館にとどまらずその後の社会教育施設の整備・充実の地盤をなした。

 その後の展開をみると、四十一、二年から始まった教員による県からの派遣社会教育主事制度は、社会教育主事の人事の停滞をふせぎ、かつ学校教育と社会教育の連携を深めるための方策であり、四十年には、社会教育主事をはじめ広く指導者の養成とその研修体系の確立のために国立社会教育研修所が東京に設置された。公民館の設置、運営の基準も設定され、三十五年ごろから財政措置も整えられたが、四十六年以降飛躍的に増額され、公民館は新たな社会教育活動およびコミュニティーのセンターとして面目を一新しつつある。図書館、博物館もこの時期に増設された。

 主として農村に自発的に芽ばえた青年学級は、二十八年にその振興を促す立法措置もできたが、三十年をピークに青年の都市移住により、また、青少年団体の中心的役割を果たした地域青年団も同様にその基盤の変化により、同じ時期に退潮を見せた。これに対して三十年代の特色は、青少年教育施設の整備とその積極的な活用である。特に青年の家は三十四年に国立中央青年の家が設立された以後、青年学級や団体に依存しすぎていた従来の青少年教育に代わって、社会性訓練を求める時代の要請にこたえた新しいあり方を示している。特に大自然の環境の中での協同生活は規律や奉仕の精神と態度を養うものとして高く評価され、やがてこの趣旨は都市化の環境下にある少年の健全な発達を図るため今日では少年自然の家の設置へと発展してきた。

 三十年代の社会教育で前時代を画するものは成人教育の発達である。とかく学校教育の補充的役割と考えられた社会教育は、青少年教育と婦人教育に傾斜しがちであった。しかし、社会変化からの要請や個人生活の余裕からさまざまな目的、内容、方法の成人学習の場が展開されてきた。なかでも大学開放の事業が戦後一時期理念的に盛んであったのに比し、新たに生涯教育の一拠点として、大学の新しい使命として、発展していくことが期待されている。

 家庭のもつ教育機能は戦後もっとも激しい混乱と変化を経験したが、三十年代後半に至って家庭生活、婦人の生活に安定と変化が生じたのに伴い、婦人の自覚的な学習の活発化とともにあらためて世間の家庭教育への関心が高まり、文部省では成人教育の学習内容として家庭教育を積極的に取り上げている。

 視聴覚教育が社会教育の分野では顕著な働きを示しているが、なかでも二十八年に開始されたテレビ放送はその普及が早く、十年後には電波は全世帯の八七%をカバーし、受像機所有世帯は全体の七六%に及び、テレビの影響力はきわめて大きくなった。三十三年には放送局に教育・教養番組の放送が条件づけられた。今日では放送を主たる教育手段とする放送大学の構想が文部省を中心に立てられている。

 社会通信通教育も三十年代に著しく発展した。文部省は認定その他各種の方法によってその振興を助成してきたが、三十七年社会通信教育規定を定め、教育内容、方法、事業経営等の改善を指導し、質量ともにその向上を図った結果、三十年と四十五年の比較では実施団体が一二から四二へ、課程数は三七から一四七へ、受講者は一五万人から六三万人へと飛躍的に発展した。

 このように社会教育は、社会の変化と個人の学習意欲をもとに、内容、方法、手段、施設、指導者の整備・充実にささえられて、量質ともに目ざましい発展をとげてきたが、四十六年社会教育審議会は「急激な社会構造の変化に対処する社会教育のあり方について」を答申し、このような社会教育の変化と発展をふまえて将来の方向を展望し、生涯(がい)教育を軸とする今後の社会教育のあり方を示したのである。

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