七 私学振興の推進

 昭和二十七年以来の私学の発展はわが国教育史上未曾有(みぞう)のもので、特に三十八年以降高等学校が、四十一年以降大学および短期大学が、入学志願者急増期に急速に膨張し、私学が、今日わが国教育界に大きな地位を占めたことは画期的なことである。高等教育の拡大が多くの課題を内包しているように、私学の拡大は、個々の大学にとっても、私学全体にとっても、かなり深刻な多くの問題をかかえている。その中で教育施策の立場からは、私学の財政援助が最も重要な問題である。これについては政府による融資、補助、減免税の三つの措置がとられてきた。

 融資については、二十七年以来私立学校振興会を通じて行なわれ、特に高等学校および大学の拡張期には年次計画を定め、また理工系の振興には重点を置き三十八年度からは財政投融資資金を借り入れて貸し付け額の増大を図った。すなわち、三十八年の六六億円から四十四年には五倍の三〇七億円に拡大された。

 財政補助については、私立大学の研究設備に要する経費について二十八年から実施され、三十一年からは理工系学科の教育設備の補助が始まり逐年対象を拡大してきた。四十一年からは幼稚園教員養成課程に対する設備について、また四十三年からは教育研究設備について補助が行なわれた。このような補助政策の進展にもかかわらず、補助金の私学経営費に占める割合は少なく、いぜんとして学生納付金によってまかなわざるをえない事情で、特に人件費の上昇と学費値上げの限度から、私立大学の経営は四十四年ごろから急激に悪化し、教育研究条件も低下し国立大学との格差を拡大してきた。このような深刻な事情にかんがみ、遂に四十五年度新たに人件費を含む私立大学経常費補助の制度が創設された。この制度の創設に伴い、従来の私立学校振興会は発展的に解消し、新たに四十五年から特殊法人「日本私学振興財団」が発足し、この制度の運用に当たっている。

 減免税措置については、学校法人自体が納付すべき税金は収益事業にかかわるものを除きほとんど非課税とされ、学校法人に対する寄付金については、法人、個人とも寄付者に対する減免税措置についても逐年改善されてきており、この面よりする私学援助の措置もきわめて重要である。

 財政問題のほか、私学の自主性と公共性の保障がむずかしい問題となった。この建て前上、所轄庁の権限を大幅に制限しその適正な運営は理事者等関係者の良識にゆだねることとなったが、その後、学校法人に紛争が生じ、学校運営上、教育上憂慮すべき事例が起こった。たとえば学校法人名城大学の紛争のごときは二十七年以来長期、深刻、複雑をきわめ、自主的解決の見通しもなく、かつ法律的には第三者の関与の余地もない状態であった。この事件は二年の時限立法による特別な措置で、十年目に解決した極端な事例である。私学経常費補助制度の創設に当たり、私学の自主性と財政補助に伴う所轄庁の権限との調整については、会計基準の設定や財務関係書類の公認会計士による監査制度など新しい措置が講ぜられた。

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