一 盲学校・聾学校教育の義務化

 憲法や教育基本法にうたわれている教育の機会均等の理念の具体化の一つは、新学制における特殊教育諸学校の義務制実施であったといえよう。

 明治以来の小学校教育の義務制とこれに伴う就学率の高水準を見るにつけ、わが国盲・聾教育関係者の間では、かねてから盲・聾教育の義務化を念願する声が強かったが、終戦間もなく結成された全国聾唖学校職員連盟の第一回大会で「盲・聾児の盲・聾学校への就学を義務化せよ。」という決議が行なわれたのをきっかけとして、その他の職員団体もこの要求を掲げ、その実現のための運動を開始した。また、米国教育使節団報告書も、心身障害児のための学校の特設と、それへの就学の義務化が規定されるべきことを述べている

 このような気運を受けて新しい学校教育法においては、特殊教育を行なう学校として、盲学校、聾学校および養護学校という三種類の学校を設け、これらの学校には、幼稚部・小学部・中学部および高等部を置き、そのうち小学部と中学部は必要とし、かつ、この両部への就学は義務制とする建て前がとられた。さらに、これら特殊教育諸学校のほかに、小学校、中学校および高等学校には特殊学級を置くことができるとして、通常の学級での教育の困難な児童・生徒に対する特殊教育が配慮されたのである。

 制度の上ではこのような構想が規定されたが、その実現は決して容易なことではない。教育思潮が根底から激動し、制度・施設の面でも六・三制の義務教育の全国的一せい実施という急変革が強行されていく、その中で、何といっても少数例外者でしかない障害児たちへの教育的配慮が、にわかに実施できる余裕があろうはずもなかった。

 就学の義務制実施の裏づけとしては、学校設置の義務づけが並行しなくてはならない。新学制では、特殊教育諸学校の設置は、都道府県へ義務づけられることになっていたが、養護学校などという学校は、法令の文字の上にだけあって、現実には一校もない。ただ、前述のごとく大正十二年の勅令で、盲学校と聾学校の道府県への設置義務づけだけはすでに行なわれていた。

 こういう事情から、新学制下では、まず、昭和二十三年度に学齢に達した盲児・聾児について、盲学校、聾学校への就学を義務づけ以後学年進行で就学義務の学年を進めていくという形で盲・聾学校の義務化だけが行なわれることとなったのである。

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