四 新しい幼稚園制度の充実

新しい幼稚園制度

 「学校教育法」の制定によって幼稚園は正規の学校体系の一環として独自の地位が認められ、学校に関する基本的事項はすべて幼稚園にも適用されることになった。旧制度と異なったおもな点は、1)幼稚園が学校体系の一環として明確に位置づけられたこと、2)幼稚園の目的・目標が明示されたこと、3)原則として幼稚園の設置主体が、国、地方公共団体および学校法人となったこと、4)設置・廃止に関する手続きの原則が明示されたこと、5)園長および教員の免許状・資格等に関する原則が明示されたこと、6)保母の名称が教諭と改められ、園長および教諭の職務が明示されたことなどである。

 また、幼稚園と相互補完的役割を果たしてきた保育所、託児所は、昭和二十二年十二月、「児童福祉法」の制定によって、保育所が「日日保護者の委託を受けて、保育に欠けるその乳児又は幼児を保育することを目的とする施設」と規定されて、幼稚園が学校教育を行なうことを目的として満三歳から小学校就学の始期に達するまでの幼児を対象とするのに対して、保育所は保育に欠ける満一歳に満たない乳児から小学校就学の始期に達するまでの幼児の保育を行なうことを原則とし、特別の事情がある場合には、満十八歳に達するまでの者を保育する施設として両者の関係が位置づけられた。

幼稚園教育の内容

 新しい幼稚園制度の実施に伴って教育内容に関する基準の作成が急がれた。文部省は、昭和二十二年二月、幼児教育の内容の改善を検討するとともに、幼児教育施設の運営の指導書となる幼児保育要綱を編集するための幼児教育内容調査委員会を設置し、ここで作成された幼児保育要綱をもとにして翌年二月、保育要領を刊行した。この保育要領は、単に幼稚園の保育内容の基準を示すだけでなく、施設・設備や編制などについてもふれている。さらに、保育所の保母および一般の母親たちに対しても幼児教育の参考となるよう編集されているのが特色である。

 幼稚園における幼児の指導をより適切にするために、文部省は、二十六年三月、通達をもって幼児指導要録の様式を示した。幼児指導要録は幼児の成長発達の過程を全体的、継続的に記録する表簿で、園長が編成し幼稚園に備えておかなければならないものである。評価すべき事項として身体の状況、健康の習慣、しごとの習慣、社会生活、自然、言語、音楽リズム絵画制作が取り上げられ、さらに各事項について評価の観点が示されている。これらの観点は保育要領にじゅうぶん示されなかった指導の目標を補完したものともいえる。

 保育要領には園舎、園庭や遊具の整え方なども例示されていたが、それは基準を示すものではなかったため、幼稚園を新設しようとする設置者や、認可権者である都道府県の教育委員会や知事から、幼稚園の編成・施設・設備などの基準設定が強く要望された。このため文部省は二十七年五月、幼稚園教育の水準維持とその向上を図る観点から、幼稚園の施設、設備、編制の基準について「幼稚園基準」を通達した。

 教員の資格については、旧「幼稚園令」においては、幼稚園教員免許状所有者であることが建て前とされており、試験検定または無試験検定により国民学校初等科教員程度の資格を有する者に授与されることとされていた。しかし、二十四年五月、「教育職員免許法」および「教育職員免許法施行法」が公布されて新しい教員免許制度が創設されたのに伴い、幼稚園教諭普通免許状および幼稚園教諭臨時免許状は文部大臣から課程の認定を受けた大学等において、所定の単位を修得した者、または授与権者が行なう教育職員検定に合格した者に授与されることとされた。なお、施行法の規定によって、旧令による免許状を有する者は、新免許法による各相当の免許状を有する者とみなされた。

 制度創設の当初、幼稚園教員の資格を付与できる課程認定大学等の数が少なかったので、幼稚園教員の養成、確保は、高等学校卒業者に対する教育職員検定による臨時免許状の交付ならびに文部大臣の指定する幼稚園教員養成機関の卒業者に依存するところが大であった。さらに、幼稚園のみならず、各学校においても助教諭等いわゆる正規の資格を有しない教員が多かったため、国は年次計画によって上級または異種の免許状を取得させるための現職教育を積極的に実施した。

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