二 文政審議会における検討

中学校教練の実施方策

 文政審議会においては大正十三年十二月十日「学校二於ケル教練ノ振作二関スル件」の諮詢(じゅん)案が提出された。これは、中等程度以上の学校に現役将校を配属し、学校長の指揮・監督のもとに教練の教授にあたらせるという趣旨のもので、臨時教育会議における兵式体操振興に関する建議を受けたものであった。翌十四年一月十日教練の実施は「徳育体育二資益シ国防能カヲ裨補スルノ主旨二於テ之ヲ行フヘキモノト認ム」として諮詢案を可とした。これに基づいて中学校において教練を実施することになった。

中学校教育改善方針

 昭和三年九月二十八日「中学校教育改善二関スル件」が文政審議会において検討された。臨時教育会議の答申事項のうち中学校学科課程の改善部分は一部の改定以外はほとんど実施されていなかった。そこでこれらの事情を考慮して、三年文部省内に設置した中学校教育調査委員会の報告決議に基づいて諮詢案が作成された。

 諮詢案はおもに学科課程に関するもので三つの部分からなり、第一は、新たに生徒教養要旨を規定し、中学校が小学校教育の基礎によりいっそう高等の程度において道徳教育および国民教育を施し、生活上有用な普通の知能を養い、かつ体育を行なうことを旨とすることとした。以上の四側面から生徒教養要旨を具体的に掲げたが、これは同時に中学校の性格の修正を意味するものであった。すなわち、従来の中流社会の男子の教育としての中学校観をしりぞけ、小学校との関連を強調する中学校観への移行を意味していたと解せられる。第二のものは、中学校第三学年以上を第一種・第二種課程に分化させ、基本科目と増課科目を組み合わせ、第一種において実業科を課し、第二種において外国語、数学に重点を置いた学科課程とし、生徒の進路に対処してその一つを選択させることを意図したものであった。第三に、学科内容の改善に関することとして、1)国民精神の涵養に努めるために道徳、国語および漢文、歴史、地理等の教授内容を改めること、2)実際生活に有用な知能を養い、勤労愛好の精神の涵養を図るため作業科を新設し、理科・実業等の教授内容を改めること、3)従来の法制・経済を廃し、新たに公民科を設け、遵法精神と共存共栄の本義を会得させ公共のために奉仕し協同して事に当たる気風を養い公民的陶冶をなすこと、4)学科課程を整理按配する関係上、外国語、数学の毎週教授時数を減少することをあげた。

 文政審議会ではこの案を重要と認め、比較的長時間検討を重ね、四年六月二十日、諮詢案を修正し希望事項を付して答申した。修正点は何よりも第一種、第二種課程の分化の問題に向けられた。すなわち、第一種、第二種の課程分化を第四学年以上とし、第三学年からも課程の分化ができること、と改めて課程分化の時期を遅らせた。これは課程の分化が中学校教育の性格にふれる問題であったからであるといえよう。

 学科内容の改善についても若干の修正はみられたが、概して国体観念の涵養の立場と関連するものであった。希望事項として、1)第二種課程における外国語、数学の毎週教授時数の最大限は、現行時数以下に減少しないこと、2)剣道または柔道を必修とすることというもので特に前者は、高等教育との関連上外国語、数学を重視するよう留意を求めたものであった。

 その他、大正十三年五月には「中等教育改善ノ為中等教科書ノ標準編纂ノ件」が付託されたが、同年十月、他の案件とともに撤回された。また、高等学校高等科入学資格を中学校第四学年修了者としたことが、中学校教育を混乱させたとする中学校側の意見をうけ、「中学校ノ現状二改良ノ余地アリト認ム」として中学校制度の検討をするため、十五年一月中学校改善建議案特別委員会が設置されたが、結論は出なかった。

 以上のように文政審議会においては中学校の性格の変化にかかわる教育内容が検討された。

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