三 中学校・高等女学校の学科課程

尋常中学校ノ学科及其程度

 明治十九年の中学校令においては、尋常中学校の「学科及其程度ハ文部大臣ノ定ムル所二依ル」、「教科書ハ文部大臣ノ検定シタルモノニ限ルヘシ」とし、尋常中学校の学科課程、教科書について規定した。尋常中学校の学科課程は十九年六月二十二日「尋常中学校ノ学科及其程度」として定めた。この規程には学科に関する条文のほかに、修業年限、入学資格、附設課程等の条文も含められていた。

表16 尋常中学校の学科目別週間教授時数

表16 尋常中学校の学科目別週間教授時数

 尋常中学校の学科は倫理・国語及び漢文・第一外国語・第二外国語・農業・地理・歴史・数学・博物・物理・化学・習字・図画・唱歌及び体操とし、第一外国語としては英語、第二外国語としては独語または仏語とし第二外国語と農業とはいずれか一つを選択させることとした。また唱歌は当分これを欠くことができるとした。一年間の授業はおよそ四○週とした。中学校教則大綱と比較して、「尋常中学校ノ学科及其程度」における学科構成の特色をあげると、修身を倫理とした点、経済、簿記、本邦法令など実用的学科を廃止し、選択科目として第二外国語または農業をあげている点などである。各学科目と毎週教授時数をみると、全体的に普通学科中心の学科課程であり、国語および漢文、外国語、数学などの時間配当の比重を高くした。また、体操を重視しているが、これは上級学年における兵式体操に重点を置いたことによるものであった。各学科の学年別教授時数は前ページの表のとおりである。

尋常中学校の学科及其程度の改正

 明治二十七年三月一日「尋常中学校ノ学科及其程度」を改正した。第一に、尋常中学校の学科として、倫理、国語および漢文、外国語、歴史、地理、数学、博物、物理および化学、習字、図画、体操をあげ、簿記および唱歌を随意科として加えることができるとした。学科改正の要点は、第二外国語と農業を削除したこと、唱歌を随意科とし、簿記を新たに随意科に加えたことであった。第二外国語削除の理由は、「省令説明」によれば、実績に照らしてみて、第一外国語だけでも数年の学習をもってしても習熟の困難な生徒が多数であり、したがって第二外国語を削って第一外国語の時数を増したほうがよいとしている。農業の削除については、普通学科目の一つとしてこれを設けても成果は乏しくその上設備の面でも不便であるとし、したがってこれは専修科で取り扱うこととして普通科目から削除する方針をとったのである。唱歌は尋常中学校の現状からみて随意科とし、実用的学科の簿記を随意科として加え、卒業して実務につく者のための科目について配慮したのである。

 第二に各学科別の毎週教授時数を変更した。それによると、国語および漢文、外国語、数学の時間を増加し、また歴史・地理の時間を増し、図画、体操の時間を減じた。増加した科目については、「英・数・国漢」は進学予備の学科目を充実し、国語および漢文や歴史および地理の学科目では国家主義的思想の方策があった。後者については、「国語教育ハ愛国心ヲ成育スルノ資料」、「歴史教育ノ精神ハ我国体ノ貴重ナルヲ知ラシメ」るにあり、これらは「中等教育ノ要点ヲ占ムル者」であると説明した。また図画、体操の時間の減少は「科外」において随意にこれに替わる教育を行なうことができるとしている。

 第三には既述のように実科を設けることができるとした。続いて同年六月十五日「尋常中学校実科規程」を公布して、実科の科目を定めた。第四学年以上の実科の科目を倫理、国語および漢文、歴史、地理、数学、博物、物理および化学、実業要項、体操とし、随意科目として簿記、習字、図画、測量、外国語の一科または数科を加えることができるとした。第一学年からもっぱら実科を授ける場合、以上の科目の他に習字、図画を必修科とすることを定めた。実科の毎週教授時数は体操と実習時間を除いて最大限二七時とし、教授時数の配分は文部大臣の認可を経て府県で定めることとした。省令説明によれば、実科および実科中学校の科目の時数は最大限に示すにとどめたのは「同型一律ニ規定スルヲ避ケ」、「地方ノ需要ニ伴ヒテ各別ニ発達セシムヘキモノ」という方針によったためである。

中学校令施行規則と学科課程

 明治三十四年三月五日「中学校令施行規則」が制定された。その中で第一章「学科及其ノ程度」、第二章「学年教授日数及式日」が学科課程に関する部分であるとみることができる。「学科及其ノ程度」は、中学校の学科目および各学科目の教授目標、教授要旨、教授内容の概要、各学科目別の毎週教授時数、さらに補習科の学科目にわたって定めた。

 中学校の学科目は修身、国語および漢文、外国語、歴史、地理、数学、博物、物理及化学、法制および経済、図画、唱歌、体操とした。外国語は英語、独語または仏語とし、法制および経済、唱歌は当分これを欠くことができるとした。学科目の加徐についてみると、習字、簿記が削除され、唱歌、法制および経済が設けられている。また倫理の名称が消え修身の名称が復活している。各学科目別の毎週教授時数は次ページの表のとおりである。

表17 中学校の学科目別週間教授時数

表17 中学校の学科目別週間教授時数

 次に、各学科目の教授要旨と教授内容が示されている。その一例として修身についてみると「修身ハ教育ニ関スル勅語ノ趣旨ニ基キ道徳上ノ思想及情操ヲ養成シ中等以上ノ社会ニ於ケル男子ニ必要ナル品格ヲ具ヘシメンコトヲ期シ実践躬行ヲ勧奨スルヲ以テ要旨トス修身ハ初ハ嘉言善行等ニ徴シ生徒日常ノ行状ニ因ミテ道徳ノ要領ヲ教示シ進ミテハ稍々秩序ヲ整ヘテ自己、家族、社会及国家ニ対スル責務ヲ知ラシメ又倫理学ノ一班ヲ授クヘシ」と定めている。新しく加えた法制及び経済については「法制及経済ニ関スル事項ニ就キ国民ノ生活ニ必要ナル知識ヲ得シムルヲ以テ要旨トス法制及経済ハ現行法規ノ大要及理財、財政ノ一班ヲ授クヘシ」と定めた。

 このように男子の高等普通教育を目標として学科課程を編成し、各学科目の教授要旨、教授内容の概要、各学科目別の毎週教授時数などを明確に示すこととなった。

 中学校令施行規則のうち第一章「学科及其ノ程度」の改正はこの時期に三回行なった。三十五年二月六日の改正は数学の教授内容の一部修正と各学科目別の毎週教授時数の若干の変更であった。四十一年一月十七日の改正によって補習科の随意科目として実業を加えることができるようにした。四十四年七月三十一日の改正では、中学校の学科目、若干の学科目の目標・内容、各学科目別の教授時数に変更を加えた。これによって中学校の学科目に新たに実業を加え、実業は農業、商業または手工とし、実業は随意科目となすことができるとした。

 次に修身、国語および漢文、外国語、歴史、数学、博物、物理および化学、法制および経済、実業、体操にわたって、教授目標、教授要旨、教授内容の改正を行ない、また各学科目別の毎週教授時数に変更を加えた。改正の趣旨説明によると、現行の中学校令施行規則は「方今ノ情勢ニ鑑ミ中等以上ノ国民タルヘキ性格ヲ涵養シ其ノ生活ノ実際ニ適切ナル普通ノ知能ヲ確得シ身体ヲ強健ナラシムルニ於テ尚遺憾ノ点尠シトセス」として、国民教育の見地から中学校の学科課程の問題点を指摘し、また実生活との関連および身体の訓練を強調している。第一に国家主義的観点から、修身、国語および漢文、外国語、歴史、法制および経済等の教授目標、教授要旨、教授内容を改正した。第二に実際生活に即応する観点から、数学、博物、物理および化学の内容に変更を加え、新たに実業科の教授目標、教授内容を追加した。それによると実業科の教授要旨は「実業ニ対スル趣味ト勤労ヲ重ンスルノ習慣トヲ養フヲ以テ要旨トス」とした。第三の身体訓練の観点から体操の教授内容中に撃剣および柔術を加えることができるとした。その他訓育の観点から寄宿舎の建設を勧奨した。

中学校教授要目

明治三十五年二月六日「中学校教授要目」が制定された。この教授要目は「要目実施上ノ注意」と各学科の教授要目から成り立っており、後者は各学科目の教授項目別の学年別配列と「教授上ノ注意」から構成してある。この要目を国家基準として示し、地方長官は各中学校長に対して要目に準拠した教授細目を作成させることを求めている。これによって、中学校令施行規則に規定された各学科教授内容を具体的に示し、詳細にわたって学科課程を整備したのである。四十四年七月三十一日、中学校令施行規則の改正が行なわれ、これと関連して、中学校教授要目を全面的に改正した。

高等女学校の学科課程

 女子中等教育の内容を法制上明示したのは高等女学校規程が初めてであった。同規程においては学科課程に関して、高等女学校の学科目、学科日の程度、毎週教授時数などを規定した。それによると高等女学校の学科目は修身、国語、外国語、歴史、地理、数学、理科、家事、裁縫、習字、図画、音学、体操であって、随意科目として教育、漢文、手芸を加えた。さらに外国語、図画、音楽も随意科とすることができるとした。「学科目ノ程度」においては、各学科目の教授要旨、教授内容、教授上の留意事項をあげた。たとえば修身については、「教育ニ関スル勅語ノ旨趣ニ基キテ人道実践ノ方法ヲ授ケ兼ネテ作法ヲ授ク 修身ヲ授クルニハ躬行実践ヲ旨トシ務メテ貞淑ノ徳ヲ養ヒ起居言語其ノ宜キニ適セシメンコトヲ要ス」と定めている。高等女学校規程の説明における毎週教授時数の標準等を考えあわせると、高等女学校の学科課程の特色は、男子の中学校の学科課程が、国語および漢文、外国語、数学中心であったのに対して家事および裁縫を中心としている。その他男子の中学校の倫理、博物、物理および化学、唱歌などの学科名称に対して、修身、理科、音楽の名称を用いていることなどがあげられる。

 明治三十二年二月二十一日、高等女学校令に基づいて「高等女学校ノ学科及其程度ニ関スル規則」が制定された。入学資格が高等小学校第二学年修了者で修業年限四年を基本とする学科課程を定めたが、そこに示した学科目その他の規定はほとんど高等女学校規程を踏襲していた。異なった点は専攻科の学科目を付加したことである。

表18 高等女学校(4年制)の学科目別週間教授時数

表18 高等女学校(4年制)の学科目別週間教授時数

 高等女学校令に基づき、三十四年三月二十二日、高等女学校施行規則を制定し、その中で高等女学校の学科課程について定めた。高等女学校の学科目は修身、国語、外国語、歴史、地理、数学、理科、図画、家事、裁縫、音楽、体操とし、ただし修業年限を短縮した学校においては外国語を欠くとした。外国語は英語または仏語とし、外国語はこれを欠き、または随意科目とすることができるとした。また音楽は学習困難であると認めた生徒にはこれを課さないことができるとした。随意科目として教育、手芸の一科目または二科目を加えることができるとした。各学科目の教授目標、教授内容等は中学校令施行規則に準じて示したが、女子中等教育の学科課程の特色を各学科目の要旨をもって示した。たとえば、家事は「家事整理上必要ナル知識ヲ得シメ兼テ勤勉、節倹、秩序、周密、清潔ヲ尚フノ念ヲ養フヲ以テ要旨トス 家事ハ衣食住、看病、育児、家計簿記其ノ他一家ノ整理、経済等ニ関スル事項ヲ授クヘシ」としている。各学科目別の毎週教授時数は修業年限四年、五年、三年の場合につきそれぞれ掲げたが、これらを通して、国語、裁縫、音楽、修身等の科目を重視していたことが明らかである。その他技芸専修科、専攻科の修業年限や学科目についても定めた。修業年限四年の高等女学校の各学年、各学科目別の毎週教授時数は前ページの表のとおりである。

 高等女学校令施行規則の「学科及其ノ程度」の部分はこの期に三回改正した。第一回は四十一年五月十三日の改正においてであって、高等女学校令の改正で修業年限三年の高等女学校は認められなくなったため、修業年限四年と五年の二つの学科課程を定めた。修業年限を短縮した場合、すなわち修業年限三年の高等女学校においては外国語を欠くという条項は削除されたが、「之ヲ欠キ又ハ随意科トナスコトヲ得」はそのまま残した。また、図画、音楽を欠くこともできるとした。随意科目としての手芸、教育を特に掲げず、一般的に「随意科目トシテ土地ノ情況ニ依り必要ナル学科目ヲ加フルコトヲ得」とした。第二回目の改正は四十三年十月二十七日の高等女学校実科および実科高等女学校の設置とかかわる高等女学校施行規則の改正に当たって行なわれた。この時実科の学科目は、修業年限四年と三年のものは修身、国語、歴史、数学、理科および家事、裁縫、図画、唱歌、実業、体操とし、修業年限二年のものは修身、国語、数学、家事、裁縫、実業、体操とした。また唱歌および実業はこれを欠くことができるとし、実業についてはこれを随意科目とすることができるとした。実科の毎週教授時数が三種の修業年限の型に応じて示されたが、これらを通して実科の学科課程の特色は裁縫の占める比重が著しく大きいこと、実業が科目として加わったこと、理科と家事を組み合わせて教授時数を計上したことなどである。第三回目の改正は大正四年三月二十日に行なったが、これによって毎週教授時数については高等女学校において家事・裁縫の時数を増加し、実科においては裁縫の時数を若干減少させた。

高等女学校教授要目

 明治三十六年三月九日高等女学校教授要目を制定した。これによって各学科目の教授内容と教授上の注意事項を明らかにし、高等女学校令施行規則の「学科及其ノ程度」と相まって学科課程の基準を詳細にわたって規定した。四十四年七月二十九日高等女学校及実科高等女学校教授要目を定めた。これは中学校教授要目の改正と対応した方策によるものであるが、新たに実科高等女学校が成立した事情による改正である。高等女学校の各学科の教授要目が改正された際、それが実科高等女学校の相当学年にも適用することとした。中学校教授要目の改正と同様に、国家の要請の観点、教育と生活や産業との関連についての観点、教授経験による合理化の観点などによって教授項目の取捨選択し、要目の改正を行なったのである。

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