四 教員の資格・待遇

小学校教員

 明治五年の学制には、小学教員は年齢二十歳以上で師範学校卒業免状あるいは中学免状を有するものとしているが、これは目標を示すもので数年の後をまってこれを行なうとしていた。七年七月大約二十歳以上の者に全科の試験を行ない学力に応じて第一等・第二等・第三等の免許状を与えることとしたが、これを三年限りの証書とした。これが教員資格検定制度の最初であった。十二年の教育令には、一般に教員の資格として「教員ハ男女ノ別ナク年齢十八年以上タルヘシ」と定め、特に小学校教員については「公立小学校教員ハ師範学校ノ卒業証書ヲ得タルモノトス但師範学校ノ卒業証書ヲ得スト雖モ教員ニ相応セル学カヲ有スルモノハ教員タルモ妨ケナシ」と規定した。十三年の改正教育令には、教員資格として「品行不正ナルモノハ教員タルコトヲ得ス」という規定を加え、また「本文師範学校ノ卒業証書ヲ有セスト雖トモ府知事県令ヨリ教員免許状ヲ得タルモノハ其府県ニ於テ教員タルモ妨ケナシ」とする改定を行なった。この規定に基づいて、十四年一月三十一日「小学校教員免許状授与方心得」を定め、小学校教員の検定について規定した。これによって、学力の検定により初等、中等もしくは高等の小学科の免許状を授与し、有効期限を五年とすることを定めた。同年七月八日この規則を改正し、正規の免許状を有する者を訓導とし、一部教科に関する免許状を有する者を準訓導とし、ほかに授業生を置くことを規定した。さらに「碩学老儒等ノ徳望アリテ修身科ノ教授ヲ善クスル者」、「農業工業商業等ノ学術ニ長スル者」については学力検定を要せずに訓導となしうることとし、また品行不正によって其職を解罷し免許状を没収することについても規定した。十六年七月免許状の授与に際してあらかじめ品行等を検定する規定を追加した。

 改正教育令の品行規定に基づいて十四年六月十八日小学校教員心得が頒布され、小学校教員のあり方を示すこととなった。その前文には次のように述べている。

 小学校教員ノ良否ハ普通教育ノ弛張ニ関シ普通教育ノ弛張ハ国家ノ隆替ニ係ル其任タル重且大ナリト謂フヘシ今夫小学教員其人ヲ得テ普通教育ノ目的ヲ達シ人々ヲシテ身ヲ修メ業ニ就カシムルニアラスンハ何ニ由テカ尊王愛国ノ志気ヲ振起シ風俗ヲシテ淳風ナラシメ民生ヲシテ富厚ナラシメ以テ国家ノ安寧福祉ヲ増進スルヲ得ンヤ小学教員タル宜ク深ク此意ヲ体スヘキナリ因テ其絡守実践スヘキ要款ヲ左ニ掲示ス苟モ小学教員ノ職ニ在ル者夙夜黽勉服膺シテ忽忘スル勿レ。

 第一款には「人ヲ導キテ善良ナラシムルハ多識ナラシムルニ比スレハ更ニ緊要ナリトス故ニ教員タル者ハ殊ニ道徳教育ニ力ヲ用ヒ生徒ヲシテ皇室ニ忠ニシテ国家ヲ愛シ父母ニ孝ニシテ長上ヲ敬シ朋友ニ信ニシテ卑幼ヲ慈シ及自己ヲ重ンスル等凡テ人倫ノ大道ニ通暁セシメ且常ニ己カ身ヲ以テ之カ模範トナリ生徒ヲシテ徳性ニ薫染シ善行ニ感化セシメンコトヲ務ムヘシ」と述べ、全一六項にわたって小学校教員として心得べき事項を詳細に指示した。さらに、十四年七月二十一日「学校教員品行検定規則」を定め、品行不正の者、すなわち懲役もしくは禁獄もしくは鎖錮の刑を受けた者、身代限の処分を受け未だ弁償の義務を終えない者、こうく暴激等総て教員としての面目に関する汚行ある者などは教員の職につかせず現職者の場合は免職させるものと規定した。十六年五月刑法改正に伴って軽重禁錮以上の刑に処せられもしくは信用または風俗を害する罪を犯した者などをも品行不正と定めた。

 なお、十六年八月督業訓導の制が設けられ、小学校教育の監督を職務とすることとなり、十七年三月督業訓導の名称を小学督業と改めた。

中等学校教員

 学制には中学校教員は年齢ニ十五歳以上で大学免状を有するものと規定したが、これは数年ののちに実施できるものとしていた。明治八年には東京師範学校に中学師範学科が設置され、中等学校教員の養成を開始した。十七年八月十三日「中学校師範学校教員免許規程」を定め、中学師範学科および大学の卒業者以外に中等学校教員を志願する者について検定によって免許状を授与することとなった。各学科毎に授業法をあわせて学力の検定をするほか、品行についても検定するが、「碩学ニシテ書徳アリ修身科教授ノ任ニスル者」、多年教職に従事した者などで各学科教授の任に適する者については無試験検定によって免許状を授与することとした。この規程に基づいて十八年三月より中等学校教員の学力検定試験を実施するようになった。十八年十二月七日同規程を改正し、中学師範学科および大学の卒業者の場合も、検定によって免許状を授与することとした。ただし、その検定方法は無試験検定としたのである。

教員待遇等

 明治十四年六月十五日「府県立町村立学校職員名称並びに准官等に関する規定」を設け、校長、教諭、助教諭、訓導の等位および准官等を定めた。十八年一月十日府県立学校長および一等教諭については奏任とすることができると定めた。十六年五月二十六日官吏懲戒例、行政官吏服務規律を府県立町村立学校長教員などにも適用すると定めた。これらの措置は、公立学校職員を一般官吏に準ずる官吏待遇者として認めたことを示している。

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