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第1部   これからの日本に求められる科学技術人材
  まとめ

 平成14年度は,ノーベル物理学賞に小柴昌俊氏,化学賞に田中耕一氏が選出され,我が国にとっては初めてのダブル受賞,さらには12年度の白川英樹氏,13年度の野依良治氏に続く3年連続受賞の快挙となって,国民に対しても我が国にも世界に誇れるような傑出した人材がいることを改めて印象付けることとなった。

 いきおい,国民の注目は,ノーベル賞を受賞した人物が,どのような途をたどって世界的に評価される業績を上げるような人物となったかということに集まるとともに,今後も引き続き,我が国においてノーベル賞を受賞するような人物が現れるかというところに集まるところとなった。

 我が国は,科学技術創造立国を国是として,科学技術基本法の下,科学技術基本計画を策定し,政府研究開発投資の拡充や科学技術システム改革の推進に力を注いでいるところであるが,これらを活かすために不可欠な「人」の面では,職種や専門分野によって程度の差こそあれ,全体的に人材が不足気味であると言える。さらに,現在の年少人口の減少を考えれば,今後科学技術人材の需要が一層増大していくと考えられるにもかかわらず,それになるべき人の数は減少していくことが明らかである。

 このような中で,まず,科学技術人材の量的確保を図るため,特に若年層に対する科学技術にかかわる職業の魅力を高める,これまではどちらかといえば少数であった女性,外国人,高齢者などの活躍機会の拡大を図るといったことも必要となる。このためにも,それぞれの人の価値が正当に評価され,その評価に応じて適切な取扱いを受けられるようにすることが最も重要である。科学技術人材が,社会において適切な取扱いを受けるためには,科学技術に携わる人たちからばかりでなく,広く国民一般から評価され,尊重されるような社会にならなければならない。

 一方で,今後我が国において科学技術人材の量的拡大に多くを期待することは困難であることから,その質的な向上を図っていくことが不可欠となる。もとより,科学技術にかかわる職業の魅力を高めることなどによって科学技術人材の量的な確保を図ることは,優秀な人材を科学技術にかかわる職業に惹きつけることとなるため,科学技術人材の全体としての質の向上にもつながることとなる。しかしながら質の向上を図る面では,そればかりでなく,個々の人材の能力を最大限に伸ばすとともに,それを最大限に発揮させることが重要であることはいうまでもない。

 個々の科学技術人材の能力の向上という面では,大学,特に高度な専門的教育機関としての大学院が中心的な役割を果たしていくこととなるであろう。大学院で学ぶことが,その個人にとっても,社会にとっても,一層有益なものとなるようにしなければならない。大学院における科学技術人材の養成においては,世界の先駆者となる我が国の科学技術人材にふさわしい創造性のかん養が,基本として重要である。一方で,大学院で学ぶ学生も急激に増大,多様化しつつあるとともに,大学院教育に対する社会のニーズも多様化しつつあると考えられる。このような変化に応じた,柔軟で多様性に富んだ教育が望まれるとともに,大学院で学ぶのにふさわしい学生への経済的支援の充実等を図ることが必要である。

 また,科学技術人材の能力の発揮という面では,やはり,その人材の能力や適性が適切に評価され,その結果に応じた適切な処遇がなされることが重要である。競争は重要であるが,勝ってもほとんどメリットがなく,負ければすべてを失うような競争であると,科学技術人材の職業としての魅力が失われ,全体として見ればマイナスとなろう。多種多様な科学技術にかかわる職業がそれぞれの魅力を持っていて,個々の人材の能力と適性に応じて,最適配置が円滑になされるような,流動性の高い環境が構築されるとともに,幅広く,柔軟な対応力を有する科学技術人材を育成することにより,個々の科学技術人材についても,科学技術人材全体としても最大限に能力を発揮することが可能となる。

 以上のように,ひとくちに科学技術人材問題といっても,様々な職業がある中でいかに科学技術人材として優れた人材を集めるかといったマスとしての科学技術人材の確保を図る問題から,まさにノーベル賞級と言えるような人材をどのように育成するのかといった個々の人材の育成の問題,また,現に必ずしも社会のニーズにマッチしているとは言えない博士課程修了者・ポストドクター,民間企業において既に陳腐化してしまった技術に携わってきた技術者などに,どうすれば活躍の場を与えられるかというごく短期的な問題から,子どもたちに科学技術に関する興味,関心を持たせるには何が必要かといった長期的な問題まで,大きな広がりがある。さらに,科学技術人材としては,研究者,技術者のみならず,社会との橋渡しをするような人材を含めた多様な人材が必要であり,そのような人材は今まで以上に創造性があり,かつ,柔軟な適応力を持っていなければならない。

 このように人材問題は幅広く,多岐にわたるが,全体として見れば,研究,人材育成の両面で中心となる大学の位置付けが極めて大きいといわざるを得ない。しかしながら一つの大学が科学技術人材に係る様々な要請にすべてこたえられるわけはなく,個々の大学が選択と集中により,それぞれ個性をもって,重点的な取組を行う必要がある。今後法人化する大学に求められるのは,まさにこのような経営判断と実践能力であると言える。

 これまで,我が国においては,教育の場においても,民間企業や国においても,あるいは社会そのものが,効率性の追求の観点から,均質であること,一様であることを望んでいた面があったと思われる。今後,多少の手間はかかっても,独創的なこと,多様なことこそ重要であるというように発想の転換を図っていくことが必要である。


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