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第1部   これからの日本に求められる科学技術人材
第3章  科学技術人材の育成・確保のあり方
第3節  科学技術人材を育む社会の実現
[2]  科学技術に対する関心・理解向上のための取組


 科学技術人材を育む社会を形成するためには,将来科学技術にかかわる職業を担う人材を育成するだけでなく,併せて科学技術に関心と理解を持った一般市民を育成していくことが重要であり,初等中等教育から生涯教育までの各教育段階にわたる取組をはじめ,科学技術と一般国民との間をつないでいく様々な取組が求められている。

(初等中等教育における様々な取組)

 優秀な科学技術人材,とりわけ創造性豊かな研究人材を生み出すためには,初等中等教育の果たす役割が極めて重要である。この場合,一方的な知識の伝達ではなく,基礎・基本を確かなものとしつつ,創造性を伸ばすような教育を提供していくことが求められる。

 初等中等教育においては,基礎的・基本的な知識・技能だけでなく,学ぶ意欲や自ら学び,自ら考え,より良く判断する力等まで含めた「確かな学力」を確保するとともに,教育課程の修了後においても知識だけではなく,物事の原理を考え論理的に思考する態度を身に付けることが重要である。このため,様々な新たな教育制度を積極的に活用することによって,子どもたちが知的な好奇心を持ち,能動的に学び考える姿勢を持つことが,初等中等教育修了後においても創造性を伸ばすこととなり,有望な科学技術人材の確保につながると考えられる。

{1}確かな学力の定着

 平成14年4月から全国の小中学校で実施されている新しい学習指導要領においては,子どもたちの「生きる力」を育むことをねらいとしており,自ら学び自ら考える力などの「確かな学力」を育成するため,体験的・問題解決的な学習に取り組む「総合的な学習の時間」を導入し,選択学習の幅を拡大するなどをしている。

 「総合的な学習の時間」においては,実験・観察などの体験的・問題解決的な学習等を通して,自ら学び,考える態度等を育成することをねらいとしている。この活動を通じて子どもに科学技術に関して自ら考えたり,創造的・知的活動を行ったりする態度を育成することが期待される。今後,このような様々な総合的な学習の時間の実践事例を蓄積し,各学校現場において知見を共有し,活かしていくことが期待される。

 また,理科,数学に対して優れた能力を発揮している児童生徒については,一人一人の理解や習熟の程度に応じ発展的な学習に取り組ませるなど,個に応じた指導を行うことによって,さらにその能力を伸ばすことが大切である。そのため,現在,各学校で推進されている習熟度別学習等の個に応じた指導や飛び入学等を利用して,優れた能力を積極的に伸ばし,トップクラス人材が育成されることが今後期待される。

 また同時に,学習指導要領の内容の理解が十分でない児童生徒に対しても基礎・基本を確実に習得できるよう,補充的な指導を行うなど,きめ細かな指導を通じて,科学技術に対する素養を深めていくことも不可欠である。

{2}理科教育を担当する教員の充実

 現在活躍している研究者の中には,小中学生の時に出会った教師に影響を受けたと言う人もおり,好奇心旺盛な小中学生のころに,実験等を通じて理科の面白さを教えることのできる教師の存在は貴重である。こうした能力を有している者を教員として積極的に採用していくことが期待されるとともに,児童生徒にもっとも身近な立場にある教員が理科の意義を認識・理解し,児童生徒に伝えられるような様々な研修等の取組が必要である。

 平成14年5月に教育職員免許法が改正され,中学校又は高等学校の教員が小学校の音楽などの実技教科に加え,理科,数学などの教科を教えることができるようにするなど教員免許制度上の弾力的措置を講じ,専科指導の充実が図られた。また,教員免許状を有してなくても都道府県教育委員会への届出によって,教科の一部領域について教授ができる「特別非常勤講師制度」(教科指導の支援者として優れた研究者や技術者が各教科の教授を行う制度)等を通じて,子どもたちの科学技術の基礎的素養をより強化していくことが期待される。同時に,教員の専門性向上のため,科学館,博物館等の外部機関における研修等の充実や,大学院修士課程において様々な専門領域について専門的・体系的に学修し,より高い資質能力が求められる専修免許状を取得するため,現職のまま大学院において修学できる大学院修学休業制度の更なる活用が重要である。

{3}科学技術・理科大好きプラン

 文部科学省では,平成14年度より「科学技術・理科大好きプラン」を策定し,科学技術・理科教育における取組の支援,推進のための総合的な施策を行っている。主な内容としては,以下のとおりである。

○科学技術・理科,数学教育を重点的に行う学校をスーパーサイエンスハイスクールとして指定し,理科・数学に重点を置いた教育課程や大学・研究機関等との効果的な連携方策についての研究開発を実施している。
○教育現場と大学,研究機関,民間企業等との連携により実施される,研究者・技術者を学校に招いて実施する「研究者招へい講座」や,大学・研究機関等において児童生徒が最先端の科学技術を体験・学習する「教育連携講座」,また,各都道府県教育委員会等や大学,研究機関等が連携して実施する「教員研修」についてその実施を支援し,その適切な在り方について調査研究を実施するほか,最新の科学技術に関する研究者の情報発信等を行っている(サイエンス・パートナーシップ・プログラム)。
○研究機関等の最新の研究成果等を活用するデジタル教材を,教育現場に提供されるよう開発している。
第1-3-92図 科学技術・理科大好きプラン及び関連施策

COLUMN

スーパーサイエンスハイスクールの取組

 スーパーサイエンスハイスクール(SSH)は,科学技術・理科,数学教育を重点的に行う高等学校を文部科学省が指定するものであり,平成14年度においては,全国の高等学校26校が指定されている。

 SSH各校においては,理科・数学に重点を置いたカリキュラムの研究開発や,大学や研究機関等との効果的な連携方策についての研究など,科学技術・理科教育の充実に資する取組が行われている。

 例えば,岡山県立岡山一宮高等学校では,理数科1年生を対象に学校が独自に設定する科目「スーパーサイエンスラボ講座」において,「ミクロの世界」「バイオテクノロジーの基礎」「遺伝子サイエンス」などの題材を通して,生徒の基礎的な実験技能や実験データ処理能力を育成し,次年度に実施する「課題研究」の充実につながる授業を展開している。

 富山県立富山高等学校では,富山大学との連携により,最先端科学技術や数学,理科に関する講義を実施している。生徒の学習進度や興味・関心を踏まえて行われた講義により,生徒は,大学での講義の雰囲気を十分に感じつつ,それぞれのテーマについて関心を深め,研究者になるための心構えなどを学んでいる。

 広島県立国泰寺高等学校では,テレビ会議システムを利用し,国立天文台ハワイ観測所の研究者による双方向授業に取り組んだ。生徒は,すばる望遠鏡や天体,火山等について活発に質問し,また,講師からは,生徒にもわかりやすくていねいな解説が行われるなど,臨場感あふれる授業が展開された。

 今後も,科学技術創造立国の実現を担う科学技術系人材の育成に向けて,3年間の研究期間において,各校の特色を生かした様々な取組・研究開発を進めることとしている。

研究をしているスーパーサイエンスハイスクールの生徒

 なお,グローバル化の進展とともに,科学技術の分野においても,コミュニケーションにおける国際的共通語としての英語の役割は大きくなってきており,英語力は科学技術人材にとって重要な要素のひとつであると考えられる。

 文部科学省では,平成15年3月に「英語が使える日本人」の育成のための行動計画を策定し,これに基づき,スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール事業や教員研修,高校生の留学促進等の施策を推進しており,これらを通じた英語教育の改善は,科学技術人材の育成にとっても重要な役割を担っているものと考えられる。

第1-3-93表 初等中等教育における取組

(高等教育における教養教育に関する取組)

 大学等は,科学技術人材を養成する機関としてだけではなく,科学技術と社会との関係について十分な認識をもった国民を育成するという役割を担っている。現代のように,科学技術が高度化し,領域の融合が進展している知識基盤社会においては,いわゆる理系・文系といった分野の枠組みにある知識をかん養するだけではなく,科学技術についての理解力を有し,かつ科学技術とのかかわり方について国民の立場から主体的に判断できるような,豊かな教養を有する人材を育成することが望まれる。

 平成14年2月の中央教育審議会答申「新しい時代における教養教育のあり方について」では,各大学に対し,教養教育の再構築について強く求め,カリキュラム改革や指導方法の改善,大学や教員の積極的な取組を促す仕組みの整備,教養教育の責任ある実施体制の確立について提言している。

(生涯学習における取組)

 科学技術に対する素養を向上するためには,初等中等教育や高等教育における取組をはじめとして生涯にわたって科学技術に関する学習の機会が提供されることが重要である。とりわけ,子どもの親,特に子どもとの接触機会の多い母親に対する生涯学習の機会の提供も,科学技術人材の育成という観点から重要である。このため,社会教育の場をはじめとした学習の機会の充実を通じて,科学技術人材の知識水準を維持するとともに,新たな科学技術人材の開拓を図ることが重要である。

(インタープリターの重要性)

 子どもたちが科学技術と社会生活とのかかわりを認識しづらくなっていることに共通する問題として,近年の科学技術の発展は著しい一方で,多くの国民は科学技術の発展についていけないと感じている( 第1-3-94図 )。すなわち,複雑化・高度化した科学技術に関する知識を一般国民が何の助けも借りずに獲得することは非常に困難となっている。また,近年の科学技術の発展に伴って生じる社会的な課題を解決していくためにも,科学技術と社会とのコミュニケーション基盤を形成していくことが必要とされている。そこで,専門家である研究者,技術者と非専門家である国民とをつなぐ橋渡し役として,「インタープリター」と呼ばれる役割が重要性を増している。インタープリターとしては,マスメディア,科学館・博物館やそれらにおける学芸員(キュレーター),科学に関する教育者など挙げられるが,このほかにも,NPO(Non-Profit Organization;非営利機関)や地域社会の取組の充実が期待される。

第1-3-94図 科学技術の発展についての意識

{1}マスメディア

 多くの人は,年代にかかわらず科学技術情報をテレビ,新聞等のマスメディアに依存しているため,マスメディアのインタープリターとしての役割は大きい( 第1-3-95図 )。

第1-3-95図 科学技術に関する知識の情報源について

 科学ジャーナリズムは,国民の科学技術に対する関心,理解及びその評価を左右するため,報道の在り方によっては社会全般に大きな影響を与え,さらに,マスメディアが示す科学技術の規範はしばしば国民的な規範として受け入れられることになる。

 2001年に東京で行われた国際科学技術ジャーナリスト会議においては,研究者,技術者だけでなく,ジャーナリストも科学技術に関して高い見識を持つ必要があると指摘された一方で,日本においては,そのためのジャーナリスト養成のプログラムがなく,健全な科学技術の育成という観点から問題があるという指摘がなされた。

 今後の科学ジャーナリズムにおいては,研究者,技術者からの情報を主に国民である成人はもちろん子どもに対しても正しく適切に伝達することのできるような人材の養成や評価が望まれる。

{2}科学館,博物館等

 科学館や博物館は,自然科学等に関する資料の収集,保管,展示を行い,それらを教育的配慮の下に一般公衆の利用に供することにより,これまでも主に青少年に対する学習の場としての役割を果たしており,今後も学芸員等の職員の専門性や特色を生かして,国民に近い立場から広い層を対象としたインタープリターとしての役割が期待される。

 しかし,近年,学芸員等のインタープリターとなる職員の不足といった課題を抱えている。このため,学芸員の地位の確立や増員を図るとともに,科学技術への理解を促進する活動に関するボランティアの登用促進や地域社会との連携等を通じて,インタープリターとなる人材の育成が進められている。

 博物館等が科学技術への理解増進に関する活動の地域における中心として,研究者,技術者といった専門家やボランティア等の市民の力を結集し,青少年を中心としたあらゆる年代の人々による科学技術への関心・理解を効果的に開拓していくことや,その教育的役割を生かして教員への研修機会の提供といった学校との連携を推進していくことが必要である。

{3}科学技術に関する活動を行うNPO

 近年,市民による自発的な社会貢献活動が活発化しており,新たな公益の担い手として,NPOの存在が重要視されている。NPOの活動は,主にボランティアによって担われており,活動の趣旨に賛同する者が自発的に集合し,その目的に沿った活動に専念できるため,機動性が高く,構成人員の意識も高いという長所がある。さらに行政とは異なり,個々のニーズに応じたきめ細かなサービスの提供が可能であるという特徴がある。

 科学技術に関する理解増進活動等においても,NPOの役割が期待されている。そのようなNPOの活動によって,インタープリターが養成されるとともに,参加者による科学技術に関する交流の機会が増え,地域の人々の科学技術への理解・関心が更に深まるとともに,市民同士の連携の強化や情報交換の活性化等,科学技術をめぐる社会的な課題について市民が主体的な判断を行えるような環境の構築も期待できる。

 NPOの活動については,その組織基盤が脆弱であるという課題があったが,平成14年12月には「特定非営利活動促進法(NPO法)」が改正され(平成15年5月より施行),「科学技術の振興を図る活動」がNPO法人の活動の種類として追加されるなど,科学技術に関する活動を行うNPOの活躍を可能とする環境が整いつつある。今後,NPOの活動については,市民レベルの評価を経ながら,行政との連携を進めていく必要があり,その活動の拡大が期待される。

{4}様々な科学技術普及活動

 また,その他,主に青少年を対象として,国民一般への科学技術に対して親しみ,身近に感じられるよう,関心・理解を促進するインタープリターの役割を担うものとしては,以下のようなものが挙げられる。

○科学技術番組

 「サイエンスチャンネル」,「エル・ネット」(教育情報衛星通信ネットワーク)を活用した「子ども放送局」等の放送番組は,幅広く公衆に対して科学技術の内容を理解しやすく紹介し,情報に接する機会を提供している。

○インターネットによる情報提供

 広く公衆に情報を伝達する手段として,近年,インターネットの普及やその通信速度の増大や接続ポイントの増加等の環境改善により,国民が家庭や学校等において容易に情報を手にすることができるようになっている。  マスメディアの発信する情報だけでなく,研究者,技術者本人や有志の個人がインタープリターとして様々な情報を提供しており,国民の科学技術情報に接する機会が拡大している。

○各種科学技術イベントの開催

 各種ロボットコンテストや「青少年のための科学の祭典」に見られるような科学技術への興味を惹起するようなイベントや,実際に参加し,ものの仕組みや作り方を体験できるクラブ((社)発明協会「少年少女発明クラブ」等),キャンプ((財)日本科学技術振興財団「サイエンスキャンプ」等)などは,青少年をはじめとした国民の科学技術に対する関心・理解を促進する機会を提供するものであり,これらの活動を公益という観点から積極的に行っている各種公的団体,公益法人や主体的に取り組んでいる企業等の社会的役割も重要である。


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