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第1部   これからの日本に求められる科学技術人材
第3章  科学技術人材の育成・確保のあり方
第1節  人材を惹きつけ,創造性を発揮させる科学技術活動環境の構築
[3]  創造性を発揮させる研究環境


 数少ない研究者で優れた研究成果を上げるためには,一人ひとりの研究者が,その能力を最大限に発揮できなければならない。研究者が創造性を十分に発揮するためには,そのための環境を整備していく必要がある。研究者が十分に創造性を発揮できる環境であってこそ,研究者にとって魅力的な職場となり,優秀な研究者を惹きつけることが可能となるであろう。

 研究環境としては,研究費や研究のための施設・設備の充実なども重要であり,第2期科学技術基本計画でも科学技術システムの改革として,様々な環境整備が進められているところであるが,ここでは,主として人材に関わる問題を取り上げる。


(1) 人材の流動性の向上と競争的な環境の構築

(流動性の問題)

 日本の研究社会は,欧米に比べて流動性が低いと言われている。流動性の低い研究社会は,創造的な研究者にとって,成果や適性に見合ったより良い処遇と環境を求めた移動が困難であることを意味しており,研究者の創造性の発揮を阻害していると言える。また,広い視野を身に付けた研究者の育成という観点からも,流動性を向上させることは重要と考えられている。さらに,近年における科学技術の学際化の進展などに見られるように,新たな知は多様な知見や多様な専門分野が交錯するところに生じることが多いと言われており,多様な人材が集まることによる研究組織の活力向上の観点からも,流動性の向上は不可欠であると言えよう。

  第1-3-32図 は,研究者が在籍した機関数(経験機関数)を調査した結果である。この図からも分かるとおり,半数以上の人が,1つの機関のみにしか在籍したことがなく,研究者の流動性の低さがうかがえる。

第1-3-32図 研究者の移動経験

  第1-3-33図 は,2機関以上に在籍したことのある研究者に対して,経験した機関に対して良かったと思われる評価項目があったとする率を示した図である。各経験機関目ごとの「良いと思われる評価項目」を挙げた回答者数のそれぞれの機関目の経験者数に対する比率は,移動を重ね,経験機関数が増えていくにしたがって減少傾向にある。流動を経験することのメリットとして,自らにあった研究環境を見つけるためのマッチングプロセスとなることが期待されているが,2機関目で研究環境が良かったとする人の割合が増加している以外は,経験機関数が増えていっても,良かったと評価する人はほとんど増加していない。また「給与・福利厚生等の処遇」,並びに「優れた指導者の存在」を良かった点として挙げている回答者の割合も減少傾向にある。後者については移動を重ね年齢が上がっていくことにより,指導される立場から指導する立場へと移っていくため,減少することもある。しかし,「給与・福利厚生等の処遇」について言えば,年齢が上がっていくのにしたがって,通常は好条件になっていくにもかかわらず,全体として減少している。これらのことから,日本においては,所属機関を変更することは,より良い処遇や環境条件を求めて自ら移動するというより,何らかの事情でやむを得ず移動しており,移動すればするほどむしろ満足度が低下していくことがうかがえる。

第1-3-33図 流動経験と各所属機関に対する評価

 研究者に対し,他の機関に移って研究を行う場合に重要と考える条件について聞いたところ,「自由な研究環境」,「研究費の充実」,「優秀な研究スタッフ」の回答が多かった。大学の研究者では「研究施設・機器」を挙げる回答が,民間企業では「報酬」を挙げる回答が多いという特徴が見られた( 第1-3-34図 )。

第1-3-34図研究機関を移るときに重視する条件

 一方,研究者に対するアンケートにおいて,流動化は不要と回答した者に流動化が不要な理由を聞いたところ,64.7%が「社会システムが整っておらず負担」と回答している(「我が国の科学技術政策の効果と課題に関する調査」(平成12年3月),平成13年度科学技術の振興に関する年次報告参照)。現在は,転職することによって退職金や年金などにおいて不利となる社会システムとなっており,そのことが研究者の流動性を妨げていることがうかがえる。流動性を支援する社会システムの構築が望まれる。

(大学における内部登用の問題)

 米国の大学に比べて日本の大学では,自校出身者を内部登用する割合が高い。 第1-3-35表 のとおり,特に研究者の養成に重要な役割を果たす大学院では,約6割の教員が自校出身者で占められている。一方米国の場合,自校出身者の割合が低く,例えばカリフォルニア大学の場合,助教授の約20%にとどまっている( 第1-3-36表 )。米国では,どの大学,研究機関でも広く研究者を公募しており,実力主義,競争主義に基づく採用が徹底している。

第1-3-35表 日本の大学教員における自校出身者の状況

第1-3-36表 カリフォルニア大学(UC)9校(米国)の助教授(Assistant Professor)採用者(1994-98)

  第1-3-35表 は,教育課程のいずれかの段階で,その大学に属した教員の割合であって,学部卒業後他大学の大学院に進んだ者やポストドクターとして他の機関にいたことのある者も含まれる。一方,平成14年度「我が国の研究活動の実態に関する調査」の結果では,教育課程を修了後そのまま同じ大学に勤めたと回答した者は114人おり,回答した大学研究者の約23%であった。また,このうち教育課程において他の大学を経験したことのない者は96人であり,回答した大学研究者の約20%に当たる。

 一般的に研究組織は,多様な人材が切磋琢磨する環境にあってこそ高い創造性を発揮できると考えられるため,大学における内部登用の多さが大学内の研究者にとって多様な人材との交流を妨げることなり,結果として創造性の減退につながる可能性があるとの指摘もある。各大学においては,その自主的な判断において,助手等の採用に当たって異なる研究機関において多様な経験を積んだポストドクターの採用を増やす,自校出身者以外からの採用を積極的に行うなどの取組が求められる。

(任期付任用制度の課題)

 流動性の向上のため,これまで,若手を中心として任期付任用制度の拡大が図られてきた( 第3部第3章第1節1.(2) を参照)。また,国立大学の法人化によって職員の採用に関する裁量の余地が拡大することから,今後更に各大学において任期付任用等職員の流動性・多様性を高める取組が促進される可能性がある。 第1-3-37図 は,研究者に対して任期付任用制度の問題点について調査した結果であるが,平成14年度の調査結果では,回答者のおよそ3分の2に当たる64.1%の研究者が「任期後の受け入れ先が未整備」であることを問題視している。また,「短期間で成果を出すために必要な環境が整っていない」,「任期中及び任期後の社会保障制度の未整備」といった問題点への回答も多い。また,選択肢の違いはあるものの,これらの項目については,平成11年度の調査結果でも同様の回答傾向が見られる。過去3年の間に,研究者の意識に大きな違いはなく,全体として任期付任用制度への理解が進んでいるとは言い難い。任期後の受入先や短期間で成果を出すための環境の未整備が問題点として挙げられている一方で,社会保障制度の未整備,給与等の処遇が不十分とする者の割合がわずかながらでも減少しているのは,民間企業を中心に年功賃金制から業績賃金制への移行,退職金前払制度の導入,確定拠出年金(日本版401k)制度の適用などが進みつつあることが反映したものと考えられる。

第1-3-37図 研究者から見た任期付任用制の問題点

 いずれにしても,流動的であることが雇用不安に直結するような状況では,十分な創造性は期待できなくなる。任期後の受入先が問題となる背景としては,任期付研究者という特定の一部の集団のみが流動的である一方で,全体の流動性はまだ低いことが挙げられる。このため,流動することが不利とならないよう,流動性を更に高めるとともに,流動性を前提として,各人がより良い環境を求めて自己研鑽をするような科学技術システムへと更に変革していく必要がある。

(創造性の発揮を促す競争的環境)

 研究者に対し,日米欧の競争環境の比較について聞いたところ,米国との比較では47%,欧州との比較では29%が,日本の方が競争的でないと回答している( 第1-3-38図 )。また,このうち米国での研究経験のある研究者からの回答では,日米を比較して53.3%が日本の方が競争的でないとしている。

第1-3-38図 日米欧の競争環境比較

 米国の大学ではテニュア(終身在職権)制度( コラム 参照)があり,研究者のキャリアパスは,非常に競争的な環境の下に置かれている。また,テニュアを獲得したとしても,教鞭をとっていない期間(教師としての仕事をしない期間)の給与は大学から支給されないことが多く,自分自身の給与のためにも外部資金を獲得する必要があり,外部に評価されるために研究成果を上げようと研究に専念するとされる。さらには,研究活動の自由度の向上や,処遇の向上を求め,他大学の求人にも関心を持ち,場合によっては転職を重ねていくという。他大学への転職は,外部からの評価を得たものと認められ,大学は昇給や昇格や研究スペースの拡大などの申出により研究者をつなぎ止めようとする場合もある。

COLUMN

米国の大学におけるテニュア制度と研究体制について

 質の高い研究が盛んに行われ,科学技術の分野で世界の国々を大きくリードしている米国の大学教員の仕組みは,日本とは大きく異なる。

 日本では,大学院を卒業後,助手として就職し,講師,助教授,教授といったように職位が上がっていき,教授となって初めて研究室を任されるケースが多い。このとき,任用や昇格については,教授会での承認を得る形を取っている。

 一方,米国では,大学院を卒業後,研究員(research fellow)等として研究経験を積んだ後,講師(instructor),助教授(assistant professor)等として就職する。ただし,日本でいうところの就職とは違い,当初1年契約で雇用され,審査を経て毎年契約が更新される。助教授として3〜7年程度の間実績を積み重ね,準教授(associate professor)となった後に審査試験に合格すると「テニュア(終身在職権)」を取得し,その大学に終身雇用される。このように数年後にテニュア審査を受けることが初めから決まっているポジションを“Tenure Track”ポジションと呼ぶ。

 競争的環境が整っている米国の審査は厳しく,テニュアの審査に当たっては,中間審査会があることが一般的である。さらに,最終審査では,過去の研究業績,取得したグラント(研究補助金),教務の業績などについての書面を作成するほか,学外や無作為抽出した学生からの推薦状,学部内でのテニュア取得後の抱負について講演,テニュアを持っている教員全員からの投票をもとに,審査委員会で決定される。テニュアを獲得する要件はおおむね,{1}科学者の能力(研究の質:研究論文及び出版物,政府補助金の獲得実績,当該研究分野における外部の評価),{2}教育者としての能力(教育の質),{3}大学への貢献能力等である。

 「テニュア」を得ると7年に1度「サバティカル休暇」と呼ばれる自己研鑽のため半年から1年間程度の休暇を取得することができる。その間は,教務や大学の各種委員会などの任務から解放され,他の大学へ行くことも含めて,自由な研究を行うことができる。

 米国の研究体制が日本と大きく違う点の1つは,終身在職権のない助教授として採用され,テニュアトラックポジションに立った時から自分自身の研究室が任され,自由に研究を始められることである。その反面,教鞭をとっている期間(約9か月)しか大学から給与が支払われない場合が多く,残りは自ら獲得したグラントなどから賄う必要がある。このように自由な研究環境を与え,研究者の意欲を高める仕組みが,研究開発活動を活性化させ,独創的な研究成果を生み,世界をリードする原動力の1つと言えるかもしれない。

  第1-3-39図 は,全米大学教授協会の調査による,大学教員の平均賃金,最高賃金,並びに最低賃金を示した図である。これによれば,教授職の最高賃金は14万4,700ドル(約1,758万円),最低賃金は3万4,800ドル(約423万円)であり,準教授職では,9万2,700ドル(約1,126万円)と2万5,700ドル(約312万円)である。

第1-3-39図 全米大学における大学教員の賃金格差

 この図に示されるとおり,大学教授の処遇も様々で,最低賃金と最高賃金では4倍以上もの格差がある。同年齢・同クラスの教授でも給料は横並びではないという事実が不平等感や不満を生むのではなく,より良い職場環境を求めて仕事をするという動機付けとなっている。


(2) 若手研究者の創造性の発揮

 ノーベル賞受賞者の受賞のきっかけとなった業績(論文等)が発表された時の受賞者の年齢について言えば,物理学,医学・生理学では35〜40歳,化学では30〜35歳の年齢層が多くなっている(平成12年度科学技術の振興に関する年次報告参照)。独創的で優れた研究成果は,おおむね30歳代から40歳代前半の「若手」と呼ばれる年齢に着想されていることが分かる。

 ここで,若手研究者が創造性を発揮し,また,その創造性を伸ばしていくために必要な条件を考えてみると,一般的に,良い指導者に恵まれることや,失敗をおそれず挑戦できる環境が与えられることなどが挙げられるであろう。また,若手のうちに様々な経験を積むことにより幅広い視野を獲得することも創造性を伸ばすためには有効と考えられる。

(ポストドクター支援の重要性)

 研究者のキャリアパスにおけるポストドクターという時期は,様々な指導者の下で経験を積む,自らに最も適した研究環境を探す,研究の幅を広げたり新たな分野にチャレンジするなどの意味で,若手研究者の創造性の涵養のためにも重要な時期である。

 優れた研究者の養成・確保を図るためには,若手研究者の自立性を向上させ,優れた若手研究者がその能力を最大限発揮できるようにすることが必要である。このため第1期科学技術基本計画(平成8年)では,ポストドクター等1万人支援計画が提唱され,ポストドクター等に対する多様な支援制度が創設・推進されてきた。本支援計画の数値目標は,11年度中に達成され,我が国の若手研究者の層を厚くし,ポストドクターが研究に専念できる環境の構築に貢献してきた。なお,日本学術振興会の特別研究員(PD)としては,1,609人(平成13年4月1日現在)が支援を受けている。

 また,競争的資金によるポストドクターの雇用も拡大しており,文部科学省所管法人で実施されている各種競争的研究資金による基礎研究や研究開発にかかわる事業では1,175人(平成13年度)が雇用されている。文部科学省による「我が国の研究活動の実態に関する調査(平成14年度)」によると,所属する研究室・研究グループにポストドクターが居ると回答したのは,回答者の約13%であった。

 研究者から見たポストドクターに対するイメージには,否定的な意見が多い。 第1-3-40図 に示すとおり,多くの研究者が,ポストドクターについて「研究者としての位置付けが曖昧」,「社会的な認知を得られていない」,「オーバードクターの受け皿」などのマイナスイメージを持っていることが分かる。

第1-3-40図 研究者から見たポストドクターのイメージ

 しかし,平成11年度調査の中で行われた同様の質問と比較すると,マイナスイメージの回答はすべて減少し,「研究開発を活発化させる重要な人的資源」などのプラスイメージが高くなっていることが分かる。このことからも,少しずつではあるが,ポストドクターの存在意義やその担っている役割が重要視されてきていることがうかがえる。また,プロの研究者として独立するためのキャリアパスであるという認識もわずかに高まってきていると言えよう。

(若手研究者を対象とした研究助成金)

  第1-3-41図 は,研究者に対する意識調査の中で,自分自身で裁量できる研究費額(競争的資金,プロジェクト研究,基盤的経費等)を調査した結果を年齢層別に示したものである。この図に示されるとおり,全回答者に占める裁量権の保有者(裁量研究費が0でない者)の割合は,35〜59歳まではほとんど大差がないことが分かる。逆に,全回答者の回答から求めた裁量額の総計に対する割合では,年齢層によって大きく異なり,総計の40%以上もの研究費は50〜54歳の研究者が裁量権を握っていることになる。また,各年齢層別に見た研究者1人当たりの裁量研究費額でも,50〜54歳が最も高く約8,500万円程度であるのに対し,40歳未満の研究者では1,000万円に及ばない。さらには,各年齢層別に見た,裁量権の保有者(裁量研究費が0でない者)の割合は,40歳から65歳未満の研究者は80%以上であるのに対し,35歳未満では60%にも及ばない。これらのことからも,若手研究者について言えば,比較的多くの者が自由になる研究費を持たず,また持っていたとしても,比較的わずかな額であることが分かる。必ずしもすべての若手研究者が多額の研究費を必要としているわけではないが,自立性を確保する観点からも若手研究者の支援の拡充を図っていくことが重要である。

第1-3-41図 自由になる研究費(年齢別)

 そこで,実績がなくとも,優秀であり,自分の発想で自立して研究を進められると認められるような若手研究者に対しては,競争的資金の中に一定の若手枠を設けるなどにより,支援していくことが有効である。 第1-3-42表 に我が国における若手研究者を対象とした競争的資金制度を示す。

第1-3-42表 我が国の代表的な若手研究者対象の研究グラント(政府資金による)

 このうち,我が国の代表的な競争的資金である科学研究費補助金について,新規採択課題についての申請者(研究代表者)の年齢別の申請,採択件数の割合を見ると,30歳代のいわゆる若手の年齢層であっても,他の年齢層と比較して採択件数において遜色がないことが分かる( 第1-3-43図 )。これは,科学研究費補助金においては,37歳以下の若手研究者を対象とした制度が設けられていることに起因しており,このような若手研究者を対象とした競争的資金制度が,若手研究者の自立性を養う機会の提供に貢献していることが推察される。

第1-3-43図 科学研究費補助金における新規採択課題の申請,採択件数の割合(平成14年度)

 なお,米国における類似の代表的な競争的資金制度では,性差別や人種差別と同様に,年齢で差別されることも禁忌とされていること,社会全体の流動性が高いこと等により,年齢により募集対象を絞るのではなく,研究経歴年数等により対象を限定している( 第1-3-44表 )。これにより,高年齢であっても一度社会に出てから大学院に入り直した研究者や,他分野を修めた研究者など多様な研究人材についても支援の対象となっている。

第1-3-44表 米国の代表的な研究経歴の浅い研究者を対象とした研究グラント(政府資金による)

(若手研究者の国際化推進方策)

 研究者の国際交流によるパーソナルネットワークは,研究の国際協力・交流を支える基盤であり,研究者交流の促進は国際化推進の重要課題であると言える。我が国の海外研究者との共著論文の比率を見ると,その比率はOECD加盟国中で最も低く( 第1-3-45図 ),今後更に国際協力・交流の促進を図る必要がある。

第1-3-45図 国際共著論文の比率

 我が国の研究者について渡航先地域別に見た出国者数の推移を示したのが, 第1-3-46図 である。図に示されるとおり,出国者数が年々増加し,国際的な流動性が高まってきたことが分かる。渡航先地域別に見ると北米大陸へ向かう者が全体の約4割を,ヨーロッパ地域へ向かう者が約3割を占めており,欧米諸国に向かう者は全体の3分の2以上を占める。しかし,ここ数年,出国者数はほぼ横ばいの状態となっており,伸び悩んでいる状況がうかがえる。

第1-3-46図 我が国の研究者の出国数の推移

 我が国の研究者の渡航回数は増加傾向にあるが,海外の大学・研究機関に長期に滞在し,海外の研究者との日常的交流の中で研鑚を積む機会は広がっていない。むしろ,欧米諸国のポストドクター雇用や招へいプログラムの縮小に伴い,以前よりも狭まっている面が見られるということが,科学技術・学術審議会国際化推進委員会「科学技術・学術活動の国際化推進方策について(平成15年1月15日)」でも報告されている。また,世界レベルの研究を推進していく上で,海外における研究経験は極めて重要であり,優れた研究者養成の観点から,若手研究者の長期海外研究を積極的に推進する必要があるとされている。

 文部科学省で行った「我が国の研究活動の実態に関する実態調査(平成14年度)」によれば,海外での何らかの研究活動経験が有ると回答した研究者は524人であり,全回答者に占める割合は約39%と少ない。我が国の場合,流動性に乏しいため,海外に行っても日本に戻ってくることが容易ではないと言われている。海外での研究経験のある者のほとんどは出向などの形態で渡航しており,渡航した時点で既に日本に帰国することが決まっている者は,海外経験があると回答した者のうち9割にも達した。戻る場所が決まっていない状況で渡航した者のうち,日常の生活環境の善しあしや腰を据えて研究に取り組める環境であることを理由として日本での職場を優先して探した者も多かった。現在海外に在住する研究者の中には日本の職場を希望しているが,適当なポストが見つからないためにやむを得ず帰国しない人も多いと言われる。流動化を促進することにより,これらの海外経験者を迎え入れることができ,海外での経験が我が国へ還元される効果が期待できる。


(3) 研究支援の充実

(研究に専念できる環境の整備)

 以前より,日本における科学技術の研究開発の現場において研究支援体制が不十分であると言われてきたところであり,創造的な研究を行うためには,研究補助者,事務職員など研究支援体制の整備により,研究者が研究に専念できる環境を整えることが不可欠であるが,我が国の研究者1人当たりの研究支援者は0.29人であり,諸外国に比べ半数以下(フランス:0.96人,ドイツ:0.88人,イギリス:1.00人)という少ない人数である。我が国における研究者1人当たりの研究支援者数は10年前の1992年には0.57人であったのが,2002年には0.29人とほぼ半減している。

 科学技術関係人材に対する過不足感を調査した結果によれば,研究支援者(研究補助者,技能者,研究事務担当者)については全般的に不足感が強いものの,「質・量ともに不足している」と回答した者については,大学や公的機関で特に多い傾向がうかがえる( 第1-3-47図 )。

第1-3-47図 研究者から見た研究支援者の不足感

  第1-3-48図 は,現在の研究環境に関して,どのような事柄が研究を阻害する要因となっているかについて,研究者に対して意識調査を行った結果である。この結果から,「阻害要因である」という回答率と「阻害要因ではない」という回答率の差分を見れば,現状の研究を阻害する要因となっていると強く指摘されているのが「研究人材の数」,「研究人材の能力」である。これらは,人材の量的不足,質的不足を示唆している。また「研究支援者の充実」にも多くの回答が集まっており,「研究人材の能力」と同率となっている。この結果からも,研究人材の不足感と同様に,研究支援の必要性が高いことが分かる。

第1-3-48図 研究の阻害要因

  第1-3-49図 は,海外での研究活動の魅力について研究者に対して意識調査をした結果である。この結果から,70%以上にも及ぶ多くの研究者が,「雑用を排し,研究に集中できる環境があること」を海外で研究を行うことの魅力として指摘している。これは,日本においては,支援体制の不備により研究に集中できないことを示している。前項の研究の阻害要因に対する意識調査の結果とともに,研究支援者の量的・質的な充実と,研究支援体制の充実が必要であることが浮き彫りにされている。

第1-3-49図 海外での研究活動の魅力

 国立大学等においては,博士課程学生を研究補助者として参画させるリサーチ・アシスタント制度や,特殊技能を有する外部人材を確保する研究支援推進員制度,独立行政法人の研究機関等に対しては,科学技術振興事業団による重点支援協力員制度が設けられるなど,これまでも様々な措置が講じられてきたが,今後とも更に研究支援体制の強化を図っていくことが重要である。研究支援者の確保に当たっては,研究活動や支援業務の内容に応じて,労働者派遣事業の活用など柔軟に外部の人材の活用を図るとともに,特殊な技術・技能の継承が必要な場合には,長期的視野で人材育成を図っていくことが必要とされている。

 一方で,研究支援業務が職能体系として確立していないことが,この業務への人材確保を困難にしていると言われている。研究マネジメント担当者に対するアンケート調査の結果によれば,技術系研究支援者に対する人事処遇上の主な問題点として,「研究者に比べて給与水準が低い」,「特殊な技能,専門知識が人事評価に反映されない」などが挙げられている( 第1-3-50図 )。今後,研究支援者の不足を解決していくためには,その能力や業績を踏まえた適切な処遇を行い,その上で研究支援者が誇りを持って働けるような環境を構築していくことが必要である。

第1-3-50図 技術系研究支援者に対する人事処遇上の主な問題点


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