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第1部   これからの日本に求められる科学技術人材
第3章  科学技術人材の育成・確保のあり方
第1節  人材を惹きつけ,創造性を発揮させる科学技術活動環境の構築
[1]  優秀な人材を惹きつける科学技術にかかわる職業の魅力


 世界で通用する優秀な科学技術人材を確保するためには,優秀で熱意のある多くの人材が,その適性に応じて科学技術にかかわる職業を選択するような状況であることが必要である。では,科学技術にかかわる職業は,多くの人が就きたいと考えるような魅力的な職業となっているのであろうか。ここでは,科学技術にかかわる職業,とりわけ研究者という職業の魅力について概括する。

(科学技術にかかわる職業についての若者の意識)

  第1-3-1表 は,日本,米国,中国の中学生の将来の夢を比較したものである。学術,音楽,スポーツ,あるいはファッション等の分野(1990年は5分野,2002年は10分野)の中から「情熱を注いでやってみたい夢(希望)があるか」を答えさせる質問に対し,米国や中国では,学問,ITといった科学技術にかかわる分野の順位が高いのに対して,日本では,ファッションやアニメ・マンガといった分野の順位が高く,科学技術にかかわる分野の順位が低い傾向がある。日本の中高生にとって,科学技術にかかわる職業が魅力的なものとしてとらえられていない現状がうかがえる。

第1-3-1表 中学生の「情熱を注いでやってみたい夢(希望)」の国際比較

 また,中学生及び高校生を対象として行われた国際比較調査の結果においても,同様の傾向が見られる。 第1-3-2図 は,同調査の中で行われた「どのようなことを目標として生きていくか」という質問のうち「科学の分野で新しい発見をすること」への回答結果である。この図に示されるとおり,日本の中高生の多くが「あまりそう思わない」,「全くそう思わない」という否定的な回答をしているのに対し,米国,中国,韓国では,「とてもそう思う」,「まあそう思う」という肯定的な回答をする中高生も多い。このことからも,諸外国に比べて日本では,研究者という職業が,中高生が将来の目標とするような魅力的なものとしてとらえられていないことが分かる。

第1-3-2図 「科学の分野で新しい発見をすること」を目標として生きていくかという質問に対する中高生の回答

(研究者の意識)

 研究者という職業の選択に対しては,科学技術や科学技術にかかわる職業にどのような印象を持っているかが大きな影響を与えると考えられる。

 現在研究者として研究開発活動に従事している人に対し,研究者になろうと思った理由を尋ねたところ, 第1-3-3図 に示すとおり多くの人が「科学技術への関心」,「科学者・技術者へのあこがれ」,「社会への貢献」を意識して研究者という職業を選んだことが分かる。研究者を志望した時期別に見てみると,特に中学生・高校生の時に研究者になることを志した人の多くが,科学者・技術者という職業にあこがれを感じていたことがうかがえる。前述のとおり,若年層にとって科学技術が魅力的なものとしてとらえられていない現状がうかがえることと併せて考えると,今後,科学者・技術者という職業の魅力を高めていかなければ,将来の科学技術人材の確保に困難をきたす可能性がある。

第1-3-3図 研究者になろうと思った理由(全体及び志望時期別)

 研究者に対し,就職時(あるいは転職を考えた時)に他の職種を選択しようとしたことがあるか,ある場合のその理由を聞いた結果が, 第1-3-4図 である。

第1-3-4図 研究者になることを悩んだ理由

  第1-3-4図 によると,回答者のうちほぼ半数(43.5%)は,就職時に他の職種を選択すること,あるいは転職を悩んだことはないと回答しているが,半数以上の者が他の職種に就くことを考えた経験があり,その理由として,「職場の雰囲気に魅力が乏しかったから」と「実力だけでは評価されないと感じたから」に多くの回答が集まっている。

 前者については,研究者が働くすべての職場の雰囲気が悪いということではないが,給与や福利厚生だけではなく,雰囲気に魅力がないということが強く指摘されていることになる。後者については,研究成果に対する評価の適正さが欠けていることや評価結果が処遇へ適切に反映されていないことに端を発して研究者という職業への魅力が失われていることを示している。

 このことからも,多くの優れた人材を研究社会に惹きつけていくため,公正な評価とその評価結果を処遇に反映させる仕組みを構築して,研究者という職業の魅力を向上させていくことが必要とされている。

(科学技術人材の処遇)

 ここでは,現在の科学技術にかかわる職業が,処遇面でも魅力的なものとなっているかについて見ていくため,いくつかの職種について日本と米国における賃金を比較してみることとする。日米における主な職種の平均賃金について,それぞれの国における労働者全体の平均賃金をそれぞれ1.00として,平均賃金に対する比率で比較したものが 第1-3-5図 である。

第1-3-5図主な職種に関する日米賃金比較

 この図に示されるとおり,両国において,専門的技能や専門的知識を必要とするほとんどの職種において平均賃金よりも高い給与が支払われている。また,米国に比べ日本では例外的に「航空機操縦士」,「医師」については平均給与に比べて極めて高い賃金が支払われている。ただし,全般的には,前述の2つの職種を除き,日本における専門的技能や専門的知識を必要とする職種の賃金は,平均賃金に比べて特に高い賃金が支払われているわけではない。それに対し,米国では「自然科学系研究者」を含め「測量技師・建築士,その他の技師」,「プログラマー」などのいわゆる技術系の職種では,平均賃金と比較してその職能に応じた高い賃金が支払われている。

 人事院で行われている「職種別民間給与実態調査(平成13年度)」の結果から,職種別に管理職を含め全労働者の平均賃金を比較して見ても,米国では一般事務職に比して技術職の平均賃金は約1.65倍,研究職では約2.13倍もの格差があるのに対して,日本においては,技術職で約1.11倍,研究職でもわずか1.18倍程度の格差しかない。

 以上のことからも,日本では,一般に教育課程におけるカリキュラム数も多く,長い教育課程を経ている傾向のある高度な技術系の職種の賃金が他の職種に対してその職能に応じて特に恵まれているとは言えない状況であることが分かる。

 また,研究開発を行う民間企業に対する調査によれば,研究者とその他の職種とで平均賃金に差がないと回答したところが65%で大半を占める( 第1-3-6図 )。そのうち,賃金体系によるとする回答は23%で,業績や能力の評価によって結果的にそうなっているという回答が41%であるが,賃金のばらつき(高低差)についても職種による差はないとしているところが半数近くを占める( )ことから,企業においては,研究者をその他の一般的な社員と賃金面でほとんど区別をしていないことが分かる。

第1-3-6図 民間企業における研究職と事務職の賃金格差

 このような現状は,優秀な人材を科学技術系の職種に惹きつけることを妨げる要因となると推測される。

 現在研究職に就いている人に対し,現在の処遇への満足度を聞いた結果が 第1-3-7図 である。 第1-3-7図 を見ると,所属機関外での活動・機関内での研究活動の自由度については比較的満足度が高く,給与や昇進については,満足とする人も不満とする人も高いレベルであるが均衡している。しかし,研究成果に対する特別の報酬や研究費の額といった研究活動そのものに係る事項については不満とする意見が多い。研究者が現在の賃金に特に大きな不満を持っているわけではないものの,成果に見合うだけの処遇が与えられることが満足につながるということを理解する必要がある。

第1-3-7図 研究者に対する処遇への満足度

 創造的であることそのものが,研究という活動の魅力でもあるため,成果に見合うだけの処遇が与えられない環境では,創造性を発揮させるための意欲を低下させるだけでなく,研究者という職業に対する魅力をも大きく低下させる原因となる。創造的な活動の魅力を高めるためには,研究という活動を通じて研究者が報われるような,適切な評価とその評価結果を処遇に反映させる仕組みを構築していく必要がある。

 なお,最近の日本人によるノーベル賞の受賞等により,小学生等の間で将来なりたい職業として学者・博士の人気が向上しているとも言われており,実際に身近な事例を通じて,優れた研究成果に対しては,それに見合った処遇や社会的な評価が与えられることが実感できれば,職業としての研究者等に対する魅力が高まる効果があるとも考えられる。


■注 研究職とその他職種との賃金のばらつきについては,差がないとする企業のうち,業績や能力の評価結果を理由としている企業は全回答者の47.0%であり,管理職等の役職の数の差を理由としている企業は5.2%であった。両者を合わせると,賃金のばらつきに差がないと回答している企業は全回答者の52.2%にのぼる。


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