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第1部   これからの日本に求められる科学技術人材
第2章  科学技術人材をめぐる内外の動向
第2節  主要国における科学技術人材政策の動向


 本節では,科学技術人材に係る施策について,各国における取組の事例を紹介していくこととする。

(科学技術人材確保に関する計画)

 世界各国において,科学技術人材の確保のための計画が策定されている。

 例えば,フランスでは,政府部門の研究機関において,今後2010年までの間に研究者・技術者等の科学技術人材が大量に退職することが見込まれており,これを機に政府部門の研究を強化するため,2001年に「科学関連雇用の管理に関する10年計画(2001-2010)」を策定した。同計画では,10年間で研究人材の40%を更新し,若年博士の将来を確保するとともに,定年退職者のポストの20%を上限として,研究者ポストを重点分野(ライフサイエンス,IT,環境)へ再配分することにより重点化を図り,研究機関と大学との相互の受入れポストの倍増により人材流動化を促進することとしている。

 大量の退職者という現象は欧州の他国においても見られ,例えば,スウェーデンにおいても,高齢研究者の退職による人材不足が懸念されており,女子学生等従来とは異なる領域からの人材の供給を促進することが求められるとともに,特に若年研究者を中心とした新たな研究者の採用を通じ,新分野における研究等の推進のため集中的に多額の資金を投入するなどの対応をとっている(研究政策法案「研究と再生」(2000年9月))。

 このほか,中国では,科学技術に関する基本計画として,2001年に「国家10・5科学技術発展計画」が策定されているが,同計画では,2005年までに,全国の研究開発活動に従事する研究者・技術者数を90万人とすることがうたわれている(中国における研究開発活動に従事する研究者・技術者数は,1996年時点で約55万人,2000年時点で約70万人である)。

(科学技術人材の流動化への対応)

 グローバリゼーションが進展する中,IT技術者をはじめとする高度な技術や知識を持つ人材の獲得競争が激化しており,各国においては,海外からの受入れ促進のための施策が講じられている。

 米国は,これまでも世界中から人材を受け入れることにより発展してきた国であり,科学技術人材についても多くの人材が世界各国から米国に流入している。1999年時点において,米国での博士号取得者のうち,自然科学では36%,工学では49%を外国籍の学生が占めており,大学において就労している博士号取得者の少なくとも28%,民間において就労している博士号取得者の3分の1が外国籍である。また,米国で博士号を取得した後に米国にとどまる外国人の比率は全体の50%を超えている。さらに米国では,専門家の一時労働許可ビザであるH-1Bビザの発給枠を拡大(最近では2001年からの3年間)して,人材の受入れの拡大を図ろうとしている。2001年9月11日に発生した同時多発テロを受けて,以前に比べてビザの発給に当たっての審査が厳しくなっているものの,米国が最大の科学技術人材受入国であることには変わりないであろう。

 これに対し,米国以外の各国においても受入促進のための様々な施策が講じられている。例えば,ドイツでは情報技術専門家がドイツで一定期間就労することを認める「グリーンカード制」が導入(2000年)され,英国では高度な技術や経験を有する労働者の確保を目的としたポイント制度が導入(2002年)されている。ほかにもシンガポールなどでも,就労や留学の資格基準が緩和され,また海外人材を引き寄せるための政府の助成を行ってきており,優秀な人材の獲得に励んでいる。

 さらに英国主導の下,EUの枠組みの下で,研究者の流動性を高めるための各種プログラムとして,EU域内の研究者を対象に域内他国で研究を実施するための経費等(1〜2年)を支出する制度や,域外の他国で研究を実施するための研究費等を支出する制度(域外で2年を限度:頭脳流出を防止するため,2年間の研究後,域内での1年以内の研究実施が求められている)などが設けられている。

 「頭脳流出」への対策については,例えば,中国では,留学生の帰国率の低さが問題とされており,海外の中国人留学生の帰国を促すための様々な施策が講じられている。優秀な海外在住留学生に対する短期の一時帰国支援や長期招へいの制度,帰国者を対象とした科学研究費や帰国後の研究指導に必要な経費を支援する制度,帰国者とその家族に対する優遇措置などの施策が講じられている。

(若手研究者,女性研究者への支援)

 若手研究者への支援については,例えば,米国においては,連邦政府その他からの資金による大学院の学生に対する経済的な支援制度が充実している。この中には,主に,リサーチ・アシスタントシップ(RA),ティーチング・アシスタントシップ(TA),フェローシップ(研究奨学金),トレーニーシップの4つの制度があり,この順に支援を受けている学生の数が多い。(米国国立科学財団「Science and Engineering Indicators 2002」)また,米国では,政府からの研究費助成金の中から研究に参加する学生の生活支援のための資金を支払うことが可能となっている(研究経歴の浅い研究者に対する競争的資金制度については 第1-3-44表 参照)。

 フランスでは,40歳以下の若手研究者がより自立的な研究を実施できるよう,3年間にわたり研究費を付与する公募型研究制度(ACI:協調推進策)や,国と提携した企業において,博士号取得を準備している若い技術者が,企業の研究の枠内で実践的な研究を行いながらその学位の取得を支援するもので,この研修にかかる費用を補助(通常3年間)する制度(CIFRE:研究を通じた育成のための企業との協定制度)といった若手育成のための制度が設けられている。

 ドイツの高等教育機関では,一般に助手には独立した教育・研究活動が認められておらず,教授(我が国における,講師,助教授に当たるものを含む)のみが独立した教育・研究活動を認められてきた。大学教授の採用に当たっては,従来,原則的に博士号取得後に8〜10年かけて取得する大学教授資格(Habilitation)が求められてきたため,一般に教授としての就職は40歳前後と言われており,若手研究者が,近年,これを敬遠して外国や民間企業に流出する傾向があるとされる。このため,2002年に高等教育大綱法が改正され,6年以下の任期で,独立した研究活動を認められる「準教授」ポストを新設(これに伴い「助手」は廃止)するとともに,大学教授資格を廃止し,原則として準教授の在職経験を教授の採用条件とした。

 英国では,博士課程在学者に対し,給付金の増額(平均給与年額9,000ポンド(約158万円)から1万3,000ポンド(約228万円)以上へ)や給付期間の延長(3年以上の給付)といった施策が講じられており,また,博士号取得者の就職を円滑にし企業で質の高い研究開発を提供するため,専門知識以外のマネジメント・金融などの必要な能力獲得のための講習制度が設けられている。ポストドクター研究者に対しては,給与増額,訓練の改善・強化,5年間にわたるフェローシップの1,000人分新設などの施策が講じられている。

 女性研究者への支援については,例えば,英国では,2002年に貿易産業省の審議会(Greenfield委員会)から提出された報告書「SET Fair,A report on Women in Science,Engineering and Technology」において,各種の女性研究者団体と政府,産業界などとの橋渡しを行う機関として女性研究者センターの設置,フェローシップの創設や教育の援助などを通じて2007年までに1,500名の女性の職務復帰を支援,女性研究者トップ50リストの作成,政府審議会委員や大学教授職への女性比率の増加(審議会で40%,大学教授で20%等)など,女性研究者の積極的な活用を図るための施策が提言され,現在政府により具体的な実行策が検討されている。

 また,ドイツにおいては,女性の科学・教育分野への進出を促進するため,2001年から連邦政府と州政府が共同して「研究と教育における女性の機会均等プログラム」を実施しており,具体的には博士号取得後の女性援助プログラム,理工系女子学生のための学位取得支援助成等を行っている。ドイツは,大学における教授の女性の比率が2001年度で約11%とEUの中でも低く,連邦政府はこれを2005年までに20%引き上げることを目標としている。

(科学技術離れ対策と科学教育)

 「科学技術離れ」は,先進各国で共通的に見られる現象であり,各国とも科学技術に関する理解増進活動を推進するとともに,科学に関する教育の強化に努めている。

 ドイツでは,近年より,生徒の科学技術に対する関心の低下が憂慮されてきたが,2001年12月に公表されたOECDによる「生徒の学習到達度調査(PISA)」において,科学的リテラシーや数学的リテラシーが32か国中20位という低い成績であったことが,大きな社会問題となった。ドイツ各州では,数学に重点を置いた教師の再教育や,理科や数学のカリキュラムの強化など様々なプログラムが講じられており,さらに,連邦と各州の共同で,教師のネットワーク化により授業の質を高めることを目指した「数学科学授業効率向上プログラム」などが実行されている。

 米国でも,科学技術離れは深刻な問題として受け取られており,科学教育に関する多数の支援プログラムが設けられている。例えば,数学・理科パートナーシッププログラムは,初等中等教育機関と研究所や高等教育機関の科学者・工学者が協力体制を組むことによって,初等中等教育における数学・理科の学習を改善することを目的とした事業であり,2003年度においては,約2億ドルの予算が投じられている。

 英国では,情報・電子・通信技術に関する能力供給のナンバーワン国家にするとの目標を掲げて,科学技術及びITに関する能力の向上のため,16歳以下の若者の科学技術への関心を高めるためのネットワーク構築,「科学技術大使」と呼ばれる科学者・技術者が学校を訪問して教師の指導を支援する制度などの施策が講じられている。

 フランスでは,「科学の祭典」と呼ばれる,一般国民と研究者の接点を設けることで,科学技術について不可欠な知識を持ってもらい,科学技術を議論できる国民を養成するプログラムが実施されている。2001年度は国内で750市町村において実施され,110万人が参加している(うち学校生徒25万人,研究者5,000人)。

 韓国でも,学生の科学離れが指摘されており,高校卒業者のうち理工学分野へ進学する者の割合は,1998年に42%であったのに対し,2001年には26.9%へと減少している。このため韓国政府は,若者の科学への関心を高めるとともに,科学技術教育の強化のため,優れた若手のための教育計画を支援し,卓越した科学高校のための教育強化,若者の理学・工学分野への進学を促進する計画を進めている。

 中国では,学生の理工系への人気が高く,現時点では科学技術離れが社会的な問題とはなってはいないが,更に国民全体の科学文化の素養を高め,経済の発展及び社会の進歩を推進するため,2002年6月に「科学技術普及法」を制定し,科学技術知識の普及などの活動を促進している。


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