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第1部   これからの日本に求められる科学技術人材
第1章  科学技術創造立国に向けた科学技術人材の育成・確保
第2節  期待される科学技術人材
[2]  科学技術にかかわる様々な人材


 前述のとおり,科学技術にかかわる活動には,研究者と呼ばれる人々以外にも様々な人々がかかわっている。本項では,それらの人材について概観することとする。

(知の創造への科学と技術の協働)

 近代の科学技術は,科学上の新たな発見がすぐに新たな技術を創出し,また,新たな技術の開発が新たな科学的発見を招くというように,科学と技術とが連動していくことによって発展してきた。例えば,昨年ノーベル賞を受賞した小柴昌俊博士は,素粒子物理学という基礎科学の最先端分野での受賞であったが,その成功を支えたのは,民間企業による測定素子の技術開発であった。また,生命科学の分野では,例えば,DNA等の分析・解析技術の進歩が,近年の分子生物学の隆盛を支えてきたと言えよう。このように,知の創造には,技術の働きが欠かせない。

 本報告で科学技術人材と定義した人々の中で,人数としてその大部分を占めるのは,技術者や技能者と呼ばれる人たちである。知の成果を製品化して社会に出していくためには,様々な生産技術・技能を駆使する必要があり,そのために多くの技術者・技能者が活躍している。技術者や技能者は,創造された知を形にすることや,知の創造の基礎となる技術を確保・発展させる役割を担っていると言える。

 なお,自らを「技術者」と称している田中耕一氏がノーベル化学賞を受賞したことからも分かるように,一般的に「研究者」と「技術者」とには連続性があり,特に企業の研究開発においては,研究を行ってきた技術者が,その成果とともに開発現場や生産現場に異動することなどがしばしば行われているため,両者の間を明確に線引きすることは不可能である。このため,本報告において「研究者」と呼ぶ人材には,「技術者」と呼ばれる人材の一部が含まれることに注意する必要がある。

(科学技術活動のマネジメントを行う人材)

 現代の知識基盤社会の中で,時代に即した的確な研究開発を行っていくためには,的確なマネジメントが必要である。これまで研究現場では,研究者が職階の上昇に伴ってそのまま管理者となることが多かったが,目標が明確な追従型の研究開発が主であった時代には,マネジメントが大きな制約要因とはなってこなかった。しかし,先述のとおり,先駆者となった現在では研究開発投資の回収効率が低下傾向にあり,マネジメントの要素の重要性が増している。

 研究開発活動のマネジメントは,研究開発そのものとは全く異なるスキルを要するものであるが,一方で科学技術に関する知識や研究開発の特性に関する理解もまた不可欠であることから,科学技術とマネジメントとの両方に通じた人材の確保・育成が課題となっている。そこで近年,経営学の世界において,技術経営(Management of Technology : MOT)と呼ばれる分野が注目されており,米国をはじめとして,MOTに関する教育プログラムを有する教育機関が増加している。

 また,研究成果のマネジメントを的確に行っていくためには,適切な研究評価を行うとともに,評価結果の反映を適切に行うことが不可欠である。我が国においても,平成13年11月に「国の研究開発評価に関する大綱的指針」が内閣総理大臣決定され,また,平成14年4月からは「行政機関が行う政策の評価に関する法律」が施行されるなど,研究評価への取組みが各方面で進みつつある。しかし,我が国では,欧米に比して,これまで評価を行うという風土を有していなかったことから,研究評価を行うことのできる人材が不足しており,当該分野に関する専門知識だけでなく,評価を行っていくためのスキルと経験をそなえた研究評価人材の養成・確保を考えていくことが求められている。

(科学技術の成果を経済・社会に役立てる人材)

 科学技術の成果を経済活動や社会に活かしていくための人材も重要である。これまでの技術者や技能者の活躍が日本のものづくりを支えてきたが,今後とも,その技術・技能を維持し,継承していくための取組みは喫緊の課題となっている。平成11年3月には「ものづくり基盤技術振興基本法」が制定され,平成12年9月には「ものづくり基盤技術基本計画」が策定され,ものづくり基盤技術の水準の維持及び向上を図るための様々な施策が進められている。

 また近年では,科学技術の成果を活かして連続的にイノベーションを起こしていくことが求められているが,今後のイノベーションを支える人材として,共同研究等の仲介・あっせんを行う人材,科学技術の専門知識を持ち,法務にも精通した人材などにも注目が集まっている。また,田中耕一氏がノーベル化学賞を受賞した成果が,国内ではなく,先に海外において見いだされたことに象徴されるように,科学技術のシーズを見いだし世の中に展開させていく「目利き」を行うことのできる人材(目利き人材)が日本には不足していると言われている。それぞれにおいて当該分野における専門的なスキルや能力を必要としており,その育成を図っていくことが必要である。

(科学技術と一般国民との橋渡し人材)

 科学技術の発展により人類は様々な恩恵を受けているが,その一方で,科学技術の発展に伴い,科学技術と社会との接点において様々な問題が生じている。また,科学技術のブラックボックス化が進んだことの影響などから,国民の科学技術離れが危ぐされている状況である。このため,科学技術と一般社会との橋渡し役の役割を担う「インタープリター」と呼ばれる人材の重要性も高まっている。また,科学技術に関する基礎的素養の育成のため,科学教育に携わる人材を充実させていくことも重要である。

(様々な科学技術人材への需要)

 以上に見てきたように,科学技術活動の発展のため,様々なスキルを有する人材がそれぞれの役割を受け持って活動している。国内の研究者を対象として,このような科学技術を取り巻く様々な人材について,量と質の両面からの不足感について質問したところ,質・量ともに不足とする意見が大勢を占めており,十分であるとする意見が不十分であるとする意見を上回ったものはなかった( 第1-1-13図 )。その中でも特に,起業支援人材,目利き人材,知的財産関連人材,インタープリタ-といった,科学技術と社会を媒介していくための人材において,質・量ともに不足感が高いことが分かる。また,MOTや研究評価にかかわる人材については,特に質的な側面の不足感が高く,研究活動を補助してくれる研究補助者や技能者といった人材については,質よりも量の面で不足感を持っていることが分かる。

第1-1-13図 研究者から見た様々な科学技術人材への不足感

 これらの様々な科学技術人材について,それぞれに求められるスキルの獲得を促し,実務経験を積み重ねることのできる環境を整備していくことにより,人材から見た我が国の総合力を底上げしていくことが求められている。

COLUMN

「創造性の文化」

 平成13年(2001年)は,1901年に第1回の授賞が行われたノーベル賞の百周年に当たり,これを記念してストックホルムにおいて「創造性の文化:個人と環境」(Cultures of Creativity : Individuals and Milieus)と題する特別展覧会が開催された。また,同じ展示物による巡回展覧会が昨年3月から6月まで東京の国立科学博物館で開催されたのを皮切りに,韓国,米国と世界各地で開催され,今後ヨーロッパでも順次開催の予定である。

 この展覧会では,「創造性とは何か,どうすれば最も創造性を活性化することができるのか」という問題意識の下に,この100年間における700名以上に及ぶ受賞者の中から様々な分野,国籍及び時代の受賞者約30名と,多くの受賞者を輩出した10の環境を選び,その受賞の要因となった「個人の創造性」(Individual Creativity)と「創造性を生む環境」(Creative Milieus)を明らかにしようとしており,訪れた者に対して,「個人の素質か,創造的活動が行われる環境か,創造の過程でより重要なのはどちらか」という問いを投げかけるものとなっている。

 ノーベル博物館館長のスヴェンテ・リンドクヴィスト教授によれば,選ばれた受賞者の業績から示される「個人の創造性」には,以下の側面があるとしている。

○「勇気」
○「挑戦」
○「不屈の意志」

 これらは,確立された理論などに疑問を投げかけ,まわりになんと思われようと自分のやり方を信じて新しい途を切り開いていくこと

○「組合せ」異なる領域の知識や洞察を組み合わせる能力があること
○「新たな視点」古い問題やよく知られた現象を新たな視点から見ることのできる能力があること
○「遊び心」研究以外の日常生活や遊びにおいても好奇心を持つこと
○「偶然」予期しない結果を見逃さないこと
○「努力」根気があること,辛抱強いこと
○「瞬間的ひらめき」不意に浮かぶ発想を重視すること

 一方,そこから多数の受賞者が現れるような「創造性を生む環境」には,以下の特徴があると述べている。

○「集中(人口密度が高い)」
○「多様な才能」

 以上は,いろいろな分野や専門で多様な才能を持つ人々が一つの場所に集まっていること

○「コミュニケーション」
○「ネットワーク」

 この二つは,これらの人々が一つ又はいくつかのネットワークに属して,知識やアイデアを交換し,互いにコミュニケーションを取り合えること

○「インフォーマルな会合の場」確立された組織とは別に,研究所のカフェテリアなどの会合の場があること
○「往来がしやすい」異なる環境(他の研究組織など)との間の往来がたやすいこと
○「資源」自分の研究を遂行するための資源が存すること
○「自由」自分自身の問題を選択し,自分自身のアイデアに従う完全な自由があること
○「競争」業績を上げることに対する強力なプレッシャーがあること

 以上の「資源」,「自由」,「競争」の三つの要素については,はじめの二つと最後の要素との間に微妙なバランスが取れていることが重要とのことである。

○「カオス」(組織の不安定な状態)確立された制度的組織や階層組織が崩壊し,個人の台頭する余地が現れること

 また,教授は,ハンガリーでは受賞者をはじめとする著名な科学者の多くが,ブダペストの「ギムナジウム」というエリート高校に通っていたことや,イタリア人受賞者のうち3人がトリノにある同じ高校で同じ教師に学んでいたことなどを例として,早期の学校教育と熱心な教師に恵まれることが重要であると述べている。


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