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第1部   これからの日本に求められる科学技術人材
第1章  科学技術創造立国に向けた科学技術人材の育成・確保
第1節  今後の我が国における科学技術人材の育成・確保の重要性


(世界の先駆者として)

 天然資源の乏しい我が国としては,技術力を背景として付加価値の高いものを生産していくことが生存基盤として不可欠である。我が国の高度成長を支えたのは,製造業を中心とするものづくりであり,主に海外から導入した技術を,我が国独自の工夫を加えて更に改良発展させることで,大きな付加価値を生み出した。そのような時代背景の下,理工系の人材の需要が大幅に高まり,60年代には理工系学生の大幅な増募が図られたこともあった。

 80年代にもなると,我が国製品は多くの技術的な分野で世界を席巻するまでになった。同じころ,米国はプロパテント政策(特許保護政策)に舵を切った。我が国に対しては,米国をはじめ世界から「基礎研究ただ乗り」との批判が加えられるようになり,技術導入への障壁が高くなっていった。

 冷戦体制の崩壊により世界秩序に大きな変革が生じ,また,世界のグローバリゼーション化が進行した90年代には,欧米が国際競争力の面で大きく巻き返してきた。また,その一方で,それまで日本が競争力を誇った製造業の分野では,中国をはじめとするアジア各国が主要な競争相手として台頭してきた。アジア各国は,低賃金の労働力を強みとして国際競争力を高めてきたが,近年ではその技術レベルの向上も著しく,高コスト構造の日本企業の立場を脅かすようになってきた。このような世界情勢の下,我が国の国際競争力は大幅に低下していった( 第1-1-1図 , 第1-1-2図 )。

第1-1-1図 OECD内におけるハイテク産業輸出占有率の推移

第1-1-2図 日本のOECD内でのハイテク産業輸出占有率(産業別)の推移

 今や我が国は,欧米の追従から脱却し,世界の先駆者として,科学技術の分野を切り開いていかねばならない立場になったと言われてから久しいが,実際には未だ先頭に立っているとは言えないばかりか,IT(情報通信技術)分野やライフサイエンス分野をはじめとして,先端的な技術領域や境界領域では逆に米国等に引き離されつつあるのが現状である( 第1-1-3図 , 第1-1-4表 )。さらに,中国等の追い上げによって,これまでよりも更に高い付加価値を創造し続けていかなくては,日本は生き残っていけなくなってきている( 第1-1-5図 )。しかし,追従者であった時代と比べ,先駆者の一員となった現在では研究開発投資に対する営業利益の比率は低下傾向にある( 第1-1-6図 )。

第1-1-3図 第7回技術予測調査(平成13年7月)における日本と他国の優位な技術

第1-1-4表 我が国の研究開発水準に関する調査(平成12年3月)での欧米との比較結果

第1-1-5図 日本の民間企業から見た技術力の国際比較

第1-1-6図 製造業における研究開発効率の低下

 21世紀に入っても,我が国では深刻なデフレ不況が続いており,閉そく感が国全体を覆っている。このような状況を打破するためには,新たな知を生み出し,新たな産業を創出していくことが不可欠とされている。そのためには,知の創造を担う人材や創造された知の成果を社会に活かす役割を担う人材を育成・確保していくことが大きな課題となっている。

(少子高齢化の影響)

 我が国では,世界に類を見ない速度で急速に少子化・高齢化が進展しており( 第1-1-7図 , 第1-1-8図 ),生産年齢人口が1995年をピークに以後減少に転ずるなど,社会の活力の減退が憂慮されている。科学技術に係る分野は,創造性が重要な分野であり,特に若年層の活力の低下は,そのまま科学技術分野のポテンシャルの低下につながる可能性がある。また,若年層の減少は,ものづくりにおける技術の後継者確保にも支障を生じさせる可能性がある。

第1-1-7図 各国における総人口に占める老年人口(65歳以上)の比率の推移

第1-1-8図 日本の年齢別人口の推移

(知識を基盤とする職業の重要性の増加)

 以上のような我が国固有の事情のみならず,世界的に見ても,現代社会においては,科学技術面を中心とする新たな知識の創出とその社会への適用が進んでいる。知識を軸とした付加価値の創出が経済発展のカギであり,その知識や情報をいち早く確保し活用した者が勝者となる激しい競争社会である。国民生活の中にも,あらゆる場面で科学技術の成果がいきわたっている。このように,あらゆる活動が知識を基盤とする社会を「知識基盤社会」と呼ぶ。

 知識基盤社会の中で,知の生産をはじめとするあらゆる活動の基礎となるのは,知識を創造し,活用する「人」である。知識を基盤とする職業の重要性が世界的にも高まっており,知的労働に優秀な人材を確保することが各国とも国としての重要課題となっている。統計データから各国の状況を見てみると,国際労働機関(ILO)による国際標準職業分類の中で知識を基盤とする職業従事者が主に属すると考えられる「専門的・技術的職業」の全従事者に占める割合が,各国とも90年代を通じて高まっていることが分かる( 第1-1-9図 )。近年のグローバリゼーションの拡大に伴い,例えば,インドをはじめとしてアジアの優秀なIT技術者が欧米などで活躍を増すなど,研究者,技術者をはじめとする専門的技術的職業従事者の国境を越えた人材確保も頻繁に行われるようになってきている。

第1-1-9図知識を基盤とする職業従事者数の伸び率の国際比較

 以上述べてきたように,我が国が今後一層豊かな社会を構築していくためには,新たな知を創造し,その成果を社会に活かすことのできる優秀な人材を育成・確保していくことが不可欠である。しかしながら,今後の少子高齢化の進展に鑑みれば,引き続き科学技術にかかる人材を量的に増大させることは簡単なことではない。このため,優秀な人材を科学技術の世界に惹きつけるとともに,その能力を最大限に発揮させる環境を整備することが緊急の課題となっている。そのためにも,科学技術に携わる人たちが,その努力や培ってきた能力によって報われる社会を構築していくことが急務である。


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