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1部   心と体の健康とスポーツ
第2章   健康教育の充実のために
第3節   薬物乱用防止に関する指導充実
4   諸外国における薬物乱用防止教育


青少年の薬物乱用は、我が国だけでなく世界の各国が共通して抱える深刻な社会問題である。各国では、その防止のために様々な対策を実施しているが、学校を基盤とした薬物乱用防止教育は、主要な対策の一つとして位置付けられている。


(1) アメリカ

アメリカでは、近年、薬物乱用が減少している。1996(平成8)年の国立薬物乱用研究所の調査によると「現在薬物を乱用している人(最近1か月間に違法薬物を乱用した人)」は12歳以上のアメリカ国民の6.1%(1,300万人)であり、過去最も薬物乱用が拡大した1979(昭和54)年の14.1%(2,500万人)の約半分にまで低下した。これは1989(平成元)年から毎年実施されてきた薬物対策総合戦略(National Drug Control Strategy)の大きな成果である。しかし、それでもなお、アメリカは現在12歳以上の国民の34.8%が薬物乱用の経験を持つという深刻な薬物問題を抱える国であり、特に青少年の薬物乱用の割合は、マリファナ(大麻)の乱用を中心に依然として高い。

連邦政府は1998(平成10)年の薬物対策総合戦略の目標として次の五つを公表したが、その第1の目標に青少年に対する薬物乱用防止教育の充実を掲げており、年間の薬物関連予算159億7,700万ドルの11.0%に当たる17億6,000万ドルを薬物乱用防止教育に支出している。

目標1

アメリカの青少年がアルコール、たばこと同様、違法薬物を拒絶することができるように教育する。

目標2

薬物に関連する犯罪や暴力を減少させることによってアメリカ市民の安全性を高める。

目標3

違法薬物の乱用への対応に必要な公衆衛生的、社会的コストを低減する。

目標4

陸・海・空からのアメリカへの違法薬物の侵入を阻止する。

目標5

アメリカ内外の薬物供給源を絶つ。

アメリカでは、州あるいは郡、市などの自治体がそれぞれ独自の薬物乱用防止教育プログラムを採用し、学校教育の中で実施している。現在全国規模で実施されている薬物乱用防止教育プログラムは46あるが、その開発・実施機関は大学、警察関係機関、民間の健康教育機関、さらには保護者の連合組織など多様であり、全米に共通する統一的なプログラムはない。このため、アメリカ連邦教育省は、学校における薬物教育プログラムのモデルとして「Learning to Live Drug Free」を示し、薬物乱用防止教育の基本的方向付けを行っている。「Learning to Live Drug Free」は子どもの発育・発達段階に対応して薬物に関する知識と認識を積み上げることだけでなく、セルフ・エスティーム(健全な自尊心)の確立と他人との良い関係の持ち方、ストレスマネージメント、意志決定や薬物乱用への誘惑に対する拒絶の方法などのいわゆるライフスキルを身に付けさせることを目指している。カリキュラムは幼稚園から3年生、4年生から6年生、7年生から8年生、9年生から12年生、の4部に分けて構成され、その内容は、保健(健康)、理科などの薬物に関連する教科だけでなく、語学や数学、芸術などでも取り入れられている。また、アメリカ連邦教育省は毎年数校の「Drug-Free School」を認定して学校における薬物乱用防止教育の推進を図っている。

アメリカでは、薬物乱用の実態を把握するための大規模で精密な各種の疫学調査がほぼ毎年実施されている。これらの調査は、薬物乱用防止教育のカリキュラム開発のための基礎資料として提供されるとともに、学校での薬物乱用防止教育の効果をモニターするための評価システムとして位置付けられている。これらの調査の代表的なものの一つである「Monitering the Future」の最新報告は、1992(平成4)年から増加を続けていたアメリカの8年生から12年生(我が国の中学校、高等学校に当たる)のマリファナを中心にした薬物乱用が1997(平成9)年になって鈍化し、さらに、薬物乱用の広がりを予知する指標である生徒たちの薬物乱用の危険に対する認識と拒否的態度がこの年、数年ぶりに上昇したことを明らかにした。この結果は、アメリカの薬物乱用防止教育が一定の成果をあげていることを示すものである。


(2) イギリス

イギリスでは近年、薬物乱用の低年齢化・多様化、さらには、性,人種、社会階層を超えた拡散が起こっている。これに対して、イギリス政府は1995(平成7)年「Tackling Drugs Together」と題する白書を発表し、薬物乱用防止に関する新しい総合対策を打ち出した。この総合対策は

1) 犯罪、
2) 青少年、
3) 公衆衛生

の三つの分野に焦点を絞り、特に青少年に対しては教育を通じて薬物乱用防止を図ることと、違法薬物が簡単に入手できるような社会環境を改善することを目標として掲げた。

この白書の提言を受け、教育省(現教育雇用省)は1995(平成7)年5月、学校における薬物乱用防止に関する指導の手引を作成した。指導の手引では、学校の薬物乱用防止教育には

1) 薬物と健康に関する正確で新しい情報、
2) コミュニケーション、意志決定などの児童生徒のライフスキルとセルフ・エスティーム(健全な自尊心)の向上を図るための学習機会、

の二つが必要であるとされている。

薬物乱用防止教育は、主に理科(Science)で扱われているが、英語(国語)、宗教、デザインと技術、社会、及び体育でも扱われている。イギリスの義務教育システムは、年齢に対応してKS1(Key Stage1)からKS4までの四つの学年に分けられ、それぞれの学年の発達段階に対応して教科とその内容が設定されているが、KS1(5〜7歳)、KS2(7〜11歳)、KS3(11〜14歳)、KS4(14〜16歳)における薬物乱用防止教育についての主な内容は以下のようになっている(1-2-1 )。


(3) フランス

フランスでも青少年の薬物乱用は拡大しており、マリファナ、吸入剤(有機溶剤、ボンド)など従来乱用されていた薬物に加えて、最近ではアンフェタミン(覚せい剤)など新しい薬物の乱用が急激に広まっている。また、1993(平成5)年の国立精神保健研究所の調査から、青少年の違法薬物の乱用は喫煙、飲酒と密接な関係があることが明らかにされた。

1-2-1 イギリスにおける薬物乱用防止教育の主な内容

フランスでは1980(昭和55)年から首相を委員長とし、すべての大臣を委員とする「薬物乱用防止対策委員会」が内閣に設置され、各省の連携により薬物乱用防止施策が立案・実行されている。薬物乱用防止対策は、

1) 違法薬物の取締り(薬物供給の低減)、
2) 薬物乱用防止(予防教育による薬物需要の低減)、
3) 薬物依存症の治療、

の三つが施策の柱とされている。

学校での薬物乱用防止教育は、上記2)を中心に位置付けられており、国立精神保健研究所の実態調査結果を受けて、薬物乱用を喫煙、飲酒を含む青少年期の危険行動の一つとしてとらえ、青少年期の危険行動全体に対する総合的予防プログラムの確立が進められている。

薬物乱用防止教育は、主に中学生と高校生を対象としている。国民教育省は、薬物乱用防止教育に関するカリキュラムの概要を決定するとともに、教員と学校外の協力者(看護婦、警察官等)を対象とした薬物乱用防止に関する全国研修会、学校における薬物乱用防止教育の指導者講習会などを開催している。

実際の薬物乱用防止教育カリキュラムは、各学校ごとに組まれており、主に体育、生物(理科)、公民などの教科や自由討議の時間で実施され、複数の教師によるティーム・ティーチングも行われている。また、薬物乱用防止教育に必要な時間数は定められておらず、各学校の判断に任されている。このため、国民教育省が指定した薬物乱用防止教育推進校以外では、薬物乱用防止教育は必ずしも積極的には行われていないという実態があり、その背景には、薬物乱用防止教育を推進すると「薬物乱用が問題となっている学校」といった偏見を受けることに対する危惧があると指摘されている。


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