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1部   文化の振興
第3章  文化財を守り,活かすために
第3節  文化財の保存と活用の推進
1  有形文化財


有形の文化的所産で,我が国にとって歴史上又は芸術上価値の高いもの(これらのものと一体をなしてその価値を形成している土地その他の物件を含む。)並びに考古資料及びその他の学術上価値の高い歴史資料を,有形文化財と言う。

国は有形文化財のうち重要なものを重要文化財に指定し,さらに,世界文化の見地から特に価値の高いものを国宝に指定し,保護している。


(1) 美術工芸品
1) 指定

美術工芸品の国による指定は,古社寺保存法の施行された明治30年に始まり,現在の文化財保護法の下で,9,700件(うち国宝830件)の指定が行われている。その時代別,部門別,国別の状況は 1-3-4 のとおりである。

1-3-4  国宝・重要文化財(美術工芸品)時代別件数

国宝 木造大日如来坐像(奈良県円成寺)

平成5年度においては,運慶の現存唯―の青年期の作品として名高い奈良県円成寺の「木造大日如来坐像」を国宝に,また,楽市楽座に関する史料として重要な織田信長の制札「楽市楽座制札」(岐阜県円徳寺所蔵)など38件を重要文化財に指定した。


2) 管理・保護

国宝・重要文化財の管理,修理は,所有者又は管理団体が行うこととされている。国宝・重要文化財(美術工芸品)の所有者別件数は 1-3-7 のとおり,社寺所有のものが全体の約60%を占めており,個人所有のものは約12%程度である。

文化財はその性質上定期的な修理が必要である。文化庁では,毎年約50件の文化財を修理するとともに,平成5年度は前年度に引き続き,福岡県太宰府天満宮古文書の大規模保存修理事業を実施している。また,亀裂の拡大など損傷の進行が著しい奈良県薬師寺銅造薬師如来両脇士像(講堂安置)の保存修理を4か年計画で開始した。

国宝・重要文化財のうち,国において計画的に購入し保存を図る必要のあるもの又は散逸のおそれがあるものなどについては,文化庁が購入して,国立博物館等で公開するなどして,その保存・活用を図っている。

平成4年度は,19億9,820万円を計上し,平安時代の独尊画像としては唯一の遺品であり,平安仏画の代表的作品である「絹本著色十一面観音像」など9点を購入した。

1-3-7  国宝・重要文化財(美術工芸品)の所有者別件数


3) 調査

調査には,国宝・重要文化財(美術工芸品)の指定等に係る調査等のほか,文化財の保存の方策等を講じるため,特別調査として,昭和37年から実施している文化財集中地区等調査などがある。文化財集中地区等調査は,我が国の文化史上重要と認められる文化財(美術工芸品)について,絵画,彫刻,工芸品,書跡・典籍,古文書,歴史資料の分野に分けて調査を実施する。これは,敢逸や亡失などを防ぐために,速やかにその実態を把握し,それらの保存についての基本的な計画の策定を目的として,都道府県教育委員会等の協力を得ながら実施しているものである。この調査は,平成4年度までに13府県について行い,平成5年度は,愛知県に所在する文化財(美術工芸品)について,その調査を行っている。

これらの各種調査は,国の重要文化財等の指定の促進に資するとともに,都道府県・市町村の文化財指定等,地域の文化財保護の促進にも成果を上げている。美術工芸品の調査は,このほかに国庫補助事業調査として実施している古文書調査及び歴史資料調査がある。現在までに古文書227件,歴史資料146件の調査が行われ,国や地方公共団体による指定,保護に役立てられている。

近年,地方公共団体において,都道府県史,市町村史の編纂等に伴って各種の調査が行われるようになった。また,各地に公立の博物館,美術館,歴史民俗資料館等が設置され,歴史・美術担当の学芸員の研究活動が地道な成果を上げていることもあって,各地域においてそれぞれの文化の特質に着目した調査が行われ始めている。


4) 銃砲刀剣類の登録

銃砲刀剣類所持等取締法により,銃砲刀剣類の所持は原則として禁止されているが,美術品若しくは骨董品として価値のある火縄式銃砲等の古式銃砲又は美術品として価値のある刀剣類については,文化庁長官が登録を行ったものは,例外として所持することができる。この制度は,これらを文化財に準ずるものとして保護しようとする制度であり,平成4年度は,銃砲1,060件,刀剣類18,742件の登録が行われた。

また,美術品として価値のある刀剣類を製作しようとする者については,その刀剣類ごとに文化庁長官の承認が必要であり,平成4年度は211人が承認された(うち,初めて承認を受けた者は7人)。


(2) 建造物
1) 指定

社寺建築を中心とする中世以前の建造物の指定はほぼ終了している。

また,近世の建造物については,民家,次いで社寺建築について指定のための全国的な緊急調査を実施した。この調査結果に基づいて民家の指定を行い,現在は重点的に近世社寺建築の指定を促進している。

近代の建造物については,明治がら大正時代までの洋風建築の指定を行ってきた。生活や社会環境の変化に伴い,建て替えや改築が急速に進行していることから,今後,昭和初期の建造物まで,保護の範囲を広げていく必要がある。なお,明治以降の伝統的な様式や技法になる建築については,平成4年度から「近代和風建築総合調査」を実施している。

また,日本の近代化に大きな役割を果たしてきた造船・鉱業・製鉄,製糸・鉄道施設・港湾施設・ダム及び水道施設などの産業・交通・土木に関わる構築物は,所在調査も十分に行われないままに技術革新や産業構造の変化などから取り壊しが進行している。こうした近代の遺産についても重要なものの保存の措置を検討する必要があり,平成2年度から「近代化遺産(建造物等)総合調査」を実施しており,平成5年8月には初めて碓氷峠鉄道施設(群馬県)等を重要文化財に指定した。

重要文化財 碓氷峠鉄道施設(群馬県)

このほか,有形文化財と一体をなしてその価値を形成している土地その他の物件を併せて指定することは,民家等の屋敷構えや社寺境内地の一体的な保存に極めて有効である。現在,特に緊急性の高い民家から土地を含めた屋敷構えの指定を促進しており,社寺境内や近代化遺産についても積極的な取組を検討している。

文化財建造物周辺の歴史的環境の保全は,文化財の価値を高めるものであり,今後の活用を図る上からも,積極的にその検討を進める必要がある。


2) 保存修理

平成5年4月1日現在,3,429棟の建造物が国宝・重要文化財に指定されており,その約9割が木造建築である。これらの建造物を将来にわたり保存していくためには,適切な時期に大小の保存修理を行うことが必要である。修理事業は所有者又は管理団体が行うこととされているが,小修理を除き大半は国の補助事業として実施されており,年間約100件の事業が全国で行われている。

これまでは中世以前の社寺建築,城郭建築,民家建築の修理が中心であったが,近年は瑞龍寺伽藍(富山県)などの大規模な近世社寺建築れんがや,煉瓦造の山形県旧県庁舎及び県会議事堂(山形県)などの近代建築の修理事業が増加してきている。また,近代建築では修理後の有効な活用計画が保存上も大切であり,ギャラリー,会議室等市民の利用に供されるなど最近多様な対応が見られるようになってきた。

このほか,大規模な建造物で,修理に高度な技術を要するものや国宝で建築史上特に重要なものなどについては,特殊修理として実施している。現在,日光二社一寺(東照宮,輪王寺,二荒山神社)(栃木県),法華経寺祖師堂(千葉県),ニコライ堂(東京都),金剛鐙寺本堂(三重県),妙心寺庫裏他(京都府),新薬師寺本堂他(奈良県)の建造物の修理が特殊修理として行われている。

設計・監理に当たる修理技術者や伝統的な修理技術を持った職人の確保と養成を図ることは重要な課題であり,(財)文化財建造物保存技術協会等の法人がそれらの事業を実施しているが,後継者の不足は深刻な状況にある。また,大径木材や檜皮などの修理用資材についても,その確保が困難な状況になっており,これらに対する施策を早急に講じる必要がある。


3) 防災

我が国の文化財建造物はほとんどが木でつくられており,さらにその多くは屋根が茅や檜皮のような植物性の材料で葺かれているため,火災に対し極めて脆弱である。このため,古来から建物の管理においては,火災に対し細心の注意が払われてきた。

文化財の管理は所有者が行うこととされているが,文化庁では防災設備等の設置を指導し,必要な場合は補助を行っている。火災の予防は文化財所有者だけが注意しても困難であり,地域社会が文化財への愛着と関心を持つことが重要であるため,消防署等の協力を得て文化財愛護活動や文化財防火訓練などの活動が日常的に進められている。


4) 文化財建造物の環境保全

現在,都市化の進展や地域社会の変化により,文化財建造物を保護する上で大きな課題となってきているのは環境の保全である。古くから地域で伝承されてきた神社や寺院は,大きく茂った境内林等の自然とともに落ちついた歴史的な環境をつくり,高齢者から子どもまで地域の住民たちの憩いの場ともなってきた。しかし,最近では開発等により文化財の置かれている環境は極めて危機的状況にある。その一方で,文化財環境保全地区の規定をもつ地方公共団体の文化財保護条例が各地で生まれており,「鎮守の社」の保護など,地域住民の参加による快適な居住環境形成の一環として今後の動向が注目される。


(3) 国立博物館

近年,国民の文化に対する関心の高まりや,心の豊かさを求める生活意識の変化等を背景に,豊かな体験を深める場として,国立博物館等の文化施設に対する期待が大きくなってきている。

国立博物館では,従来から,子どもから高齢者まで,親しみやすい開かれた博物館としての運営に心掛けてきているが,学校週5日制に対応した事業を行うとともに,今後とも,これら生涯学習社会の要求にこたえ,質の高い充実した展示を,分かりやすい解説のもとに鑑賞できるようにすることが重要である。また,国立博物館については,我が国を代表するにふさわしい文化施設として,新たな社会的要請を踏まえ,施設の新設も含め,公開・展示施設等の整備,展示・調査研究・普及広報等の事業の一層の充実を図るなど,これからの博物館の在り方について研究し,利用者の立場に立った運営や施設の整備に努めていく必要がある。

1-3-5  国立博物館収蔵品等件数

文化庁の附属機関としては,有形文化財を収集・保管して一般に公開し,あわせてこれに関連する調査研究及び事業等を行うことを目的とした東京国立博物館,京都国立博物館,及び奈良国立博物館の三館が設置されている( 1-3-5 )。

このほか,大学共同利用機関で,学術研究の成果を展示するものとして,世界の諸民族に関する資料の収集,保管及び一般への公開並びに民族学に関する調査研究を行う国立民族学博物館と,我が国の歴史・考古・民俗資料の収集,保管及び一般への公開並びにこれらの分野に関する調査研究を行うことを目的とした国立歴史民俗博物館が設置されている。

これらの概要は以下のとおりである。


1) 東京国立博物館

東京国立博物館は我が国で最も古い博物館であり,総合的な美術博物館として,日本・東洋の各時代の優品を主体とする展示を行っている。

日本の美術品を絵画,彫刻,書跡,染織,金工,武器武具,刀剣,陶磁,漆工等の各分野に分けて展示する本館,日本の考古品を展示する表慶館(重要文化財),日本を除く東洋諸地域の各時代の美術品等を展示する東洋館,法隆寺献納宝物を公開している法隆寺宝物館がある。また,美術史研究に関する様々な情報資料を収集・保管し,研究者等に公開する施設として資料館を設置している。さらに,皇太子殿下の御成婚記念事業として,平成5年度より,企画展覧会を行う特別展示場及び日本の古美術の常設展示場等を備えた平成館(仮称)の整備に着手しており,平成9年度に竣工の予定である。

このほか,毎年各地において日本古美術巡回展を開催し,日本各地への館蔵品の公開にも努めている。


2) 京都国立博物館

京都国立博物館は,京都を中心とする畿内に伝承された文化財及び平安時代以降の日本の伝統ある美術品を中心に展示を行っている。

東京国立博物館(表慶館・本館)

美術品を絵画,彫刻,書跡,陶磁,考古,金工,漆工,染織の各分野に分け,これを新館に展示するとともに,重要文化財に指定されている本館では,毎年秋に特別展を開催するほか,新聞社等との共催展,特別展等の展示が随時企画されている。

なお,昭和55年には文化財保存修理所が開所され,文化財修理技術者による美術品の修理が良好な環境のもとに円滑に行えるようになり,修理に伴う技法,構造,銘文等の記録なども組織的に収集保存されるようになった,さらに,京都文化資料及び修復文化財等に関する資料を収集,整備し,内外の研究者の活用に供することを目的として,昭和56年に京都文化資料研究センターを設置している。


3) 奈良国立博物館

奈良国立博物館においては,奈良を中心とした我が国の仏教美術の名品の展示を主体としている。重要文化財に指定されている本館では,飛鳥から鎌倉時代に至る仏像と仏教関係の考古資料を展示している。新館においては,絵画,彫刻,工芸品,書跡,歴史資料など我が国における仏教文化の発展を示す優れた美術品の展示を行っており,毎年秋には,正倉院宝物を展示する「正倉院展」を開催している。

また,昭和55年度に設置された仏教美術資料センターでは,日本及びアジアの仏教美術に関する調査データ,写真資料等を収集,整理してデータベース化するとともに,内外の研究者に公開している。

このほか,特別陳列等のテーマ展示も随時企画され,各種の講座,文化財入門教室など日本文化への理解を深める学習・普及事業を実施している。


4) 国立民族学博物館

国立民族学博物館においては,世界の諸民族の生活や歴史について,地域別の展示と世界の言語文化や民族音楽などをテーマとする通文化的な構成による展示を行っており,特定のテーマをストーリー性を持って体系的に紹介する特別展示の開催や映像情報による解説展示なども行っている。また,研究者への収集研究情報の提供,講演会などを行い,研究成果を一般に公開している。


5) 国立歴史民俗博物館

国立歴史民俗博物館においては,原始,古代,中世,近世,近・現代の時代に区分して,我が国の歴史の流れの中から,現代から見て重要なテーマを選び,それらを生活史に重点を置いて構成し,展示している。

また,関係研究者等に対して情報提供サービスを行うとともに,各種解説書の刊行などを通じて,歴史学等についての知識の普及に努めている。


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