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第9章 文化芸術立国の実現

総論

 我が国では,平成13年に文化芸術振興基本法が制定され,本法律にのっとり策定された「文化芸術の振興に関する基本的な方針」の下,文化芸術の振興に取り組んでいます。
 第9章においては,文化庁が進めている文化芸術の振興のための様々な取組について詳しく紹介します。

第1節 文化芸術政策の総合的推進

1 「文化芸術の振興に関する基本的な方針」に基づく施策の推進

(1)文化芸術振興の意義

 我が国は,諸外国を魅了する有形・無形の文化財を有しているとともに,日本人には地域に根付いた祭りや踊りに参加する伝統があります。また,我が国では,多様な文化芸術活動が行われると同時に,日常においても,稽古事や趣味などを通して様々な文化芸術体験が盛んに行われてきました。
 こうした日本の文化財や伝統等は,世界に誇るべきものであり,これを維持,継承,発展させることはもとより,日本人自身がその価値を十分に認識した上で,国内外への発信を更に強化していく必要があります。
 また,経済成長のみを追求するのではない,成熟社会に適合した新たな社会モデルを構築していくことが求められている中,教育,福祉,まちづくり,観光・産業等幅広い分野との関連性を意識しながら,それら周辺領域への波及効果を視野に入れた文化芸術振興施策の展開がより一層求められています。
 他方で,人口減少社会が到来し,特に地方においては過疎化や少子高齢化等の影響,都市部においても単身世帯の増加等の影響により,地域コミュニティの衰退と文化芸術の担い手不足が指摘されています。また,昨今の経済情勢や,厳しさを増す地方の財政状況などからも,地域の文化芸術を支える基盤の脆(ぜい)弱化に対する危機感が広がっています。文化芸術が生み出す社会への波及効果を,こうした諸課題の改善や解決につなげることも求められています。
 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会は,我が国の文化財や伝統等の価値を世界へ発信するとともに,文化芸術が生み出す社会への波及効果を生かして,諸課題を乗り越え,成熟社会に適合した新たな社会モデルの構築につなげていくまたとない機会です。
我が国は,このような認識の下,文化芸術の振興を国の政策の根幹に据え,「文化芸術立国」を目指して,文化芸術の振興に取り組んでいます。

(2)文化芸術振興基本法成立後の文化芸術振興施策の展開

 平成13年,文化芸術全般にわたる法律として「文化芸術振興基本法」が制定されました。
 この法律は,文化芸術に関する活動を行う人々の自主的な活動を推進することを基本としながら,文化芸術振興に関する施策の総合的な推進を図り,心豊かな国民生活と活力ある社会の実現に貢献することを目的としています。
 「文化芸術振興基本法」に基づき,政府は,文化芸術振興に関する施策の総合的な推進を図るため,おおむね5年に1度「文化芸術の振興に関する基本的な方針」(以下,「基本方針」という。)を策定し,この基本方針に基づき「文化芸術立国」を目指して文化芸術の振興に取り組んでいます。

(3)第4次「文化芸術の振興に関する基本的な方針」

 政府は,これまで「第1次基本方針」(平成14年12月閣議決定),「第2次基本方針」(19年2月閣議決定),「第3次基本方針」(23年2月閣議決定)を策定し,各基本方針に基づき,文化振興に取り組んできました。
 一方で,第3次基本方針策定後,東日本大震災の発生(平成23年3月)や,2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催決定(25年9月),地方創生に向けた取組の一層の推進等,我が国を取り巻く諸情勢の変化がありました。これらの変化を踏まえつつ,2020(平成32)年を見据えた文化芸術振興のための基本的な施策の在り方を定めるために,26年3月,文化審議会に対し「第4次基本方針」の策定に向けた諮問が行われました。その後,約1年間にわたって,同審議会における審議や文化芸術団体等からのヒアリングを行い,答申案についての国民からの意見募集なども実施し,27年4月16日に答申が取りまとめられました。本答申に基づき,27年5月22日に「文化芸術の振興に関する基本的な方針」(第4次基本方針)が閣議決定されました(図表2‐9‐1)。
 政府としては,本基本方針に基づき,国家戦略として我が国の文化芸術が振興されることにより,文化芸術資源で未来をつくり,上記で掲げた文化芸術の姿を創出していくことを目指しています。

図表2‐9‐1 文化芸術の振興に関する基本的な方針―文化芸術資源で未来をつくる―(第4次基本方針)ポイント

1.我が国が目指す「文化芸術立国」の姿

 第4次基本方針は,対象期間を平成32(2020)年度までの6年間としており,この期間を通じて我が国が目指す「文化芸術立国」の姿を初めて明示しました。

我が国が目指す「文化芸術立国」の姿

 (1)子供から高齢者まで,あらゆる人々が我が国の様々な場で,創作活動へ参加,鑑賞体験できる機会等を,国や地方公共団体はもとより,芸術家,文化芸術団体,NPO,企業等様々な民間主体が提供している。

 (2)全国の地方公共団体,多くの文化芸術団体,文化施設,芸術家等の関係者により,世界に誇る日本各地の文化力を生かしながら,2020年東京大会(※1)を契機とする文化プログラムの全国展開等がなされている。

 (3)日本全国津々浦々から,世界中に各地の文化芸術の魅力が発信されている。東日本大震災の被災地からは,力強く復興している姿を,地域の文化芸術の魅力と一体となって,国内外へ発信している。

 (4)2020年東京大会を契機とする文化プログラムの全国展開等に伴い,国内外の多くの人々が,それらに生き生きと参画しているとともに,文化芸術に従事する者が安心して,希望を持ちながら働いている。そして,文化芸術関係の新たな雇用や,産業が現在よりも大幅に創出されている。

 また,第4次基本方針においては,成果目標と成果指標を初めて明示しました。


  • ※1 正式名称は2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会

<2020年までの成果目標・成果指標>

成果目標:国民の誇りとして「文化・芸術」が広く挙げられている。

【成果指標】
 約6割の国民が日本の誇りとして「文化・芸術」を挙げることを目指す。

  • 我が国の誇りとして,「すぐれた文化や芸術」と回答した国民の割合は50.5%。
     (内閣府「社会意識に関する世論調査〔2014年1月〕」)

成果目標:地域の文化的環境に対して満足する国民の割合が上昇している。

【成果指標】
 約6割の国民が地域の文化的環境に満足すると回答することを目指す。

  • 住んでいる地域の文化的環境(鑑賞機会,創作・参加機会,文化財や伝統的まちなみの保存・整備等)に対して満足していると回答した国民の割合は,52.1%。
     (内閣府「文化に関する世論調査〔2009年11月〕」)

成果目標:寄附文化が醸成されている。

【成果指標】
 国民の寄附活動を行う割合が倍増(約20%)することを目指す。

  • 過去1年間に文化芸術活動に関する寄付を行った割合は9.1%。(内閣府「文化に関する世論調査〔2009年11月〕」)

成果目標:文化芸術の鑑賞活動や創作活動等が広がっている。

【成果指標】
 鑑賞活動をする者の割合が約80%まで上昇,鑑賞以外の文化芸術活動をする者の割合が約40%まで増加することを目指す。

  • ホール,劇場,美術館及び博物館等で直近1年間に鑑賞活動をしたことがある者は,62.8%。(内閣府「文化に関する世論調査」〔2009年11月〕)
  • 直近1年間に,鑑賞を除く文化芸術活動をしたことがある者の割合は23.7%。(内閣府「文化に関する世論調査」〔2009年11月〕)

成果目標:世界の人々が日本文化の魅力を求めて訪日したり,情報にアクセスしたりする状況を創り出す。

【成果指標】

  1. 訪日外国人旅行者数2,000万人を目指す。
  2. 海外発信サイト(文化遺産オンライン)への訪問回数が200万回/年となることを目指す。(平成23年度現在で101万回)
  3. 日本の魅力を地域から発信する役目を果たす外国人を増やすため,在留外国人のうち,日本語学習者の割合を10%(現在の約1.5倍)とすることを目指す。(2012年は7%)
2.文化芸術振興に関する重点施策

 本基本方針では,諸外国の状況も勘案しつつ,文化芸術活動を支える環境を充実させ,国家戦略として「文化芸術立国」を実現するため,以下の五つの重点戦略を強力に進めることにしています。

重点戦略1:文化芸術活動に対する効果的な支援
 我が国の文化芸術水準の向上を図り,その成果を広く国民が享受できる環境を整備します。

重点戦略2:文化芸術を創造し,支える人材の充実及び子供や若者を対象とした文化芸術振興策の充実
 文化芸術を創造し,支える人材の育成・充実を図り,もって我が国の文化芸術の永続的な継承・発展を図ります。また,全ての子供や若者が,学校や地域において本物の文化芸術に触れ,豊かな感性や創造性,コミュニケーション能力を育む機会を充実することにより,次代の文化芸術の担い手や鑑賞者を育むとともに,心豊かな子供や若者の育成を図ります。

重点戦略3:文化芸術の次世代への確実な継承,地域振興等への活用
 国民的財産である文化財の総合的な保存・活用を図るとともに,文化芸術を次世代へ確実に継承します。また,文化芸術の地域振興,観光・産業振興等への活用を図ります。

重点戦略4:国内外の文化的多様性や相互理解の促進
 伝統文化から現代の文化芸術活動に至る我が国の多彩な文化芸術を積極的に海外発信するとともに,文化芸術各分野における国際文化交流を推進することにより,文化芸術水準の向上を図るとともに,我が国に対するイメージの向上や諸外国との相互理解の促進に貢献します。

重点戦略5:文化芸術振興のための体制の整備
 重点戦略1から重点戦略4までに掲げた各施策を着実に講じていく文化振興のための施設・組織等の体制の整備を行います。

2 文化芸術振興のための予算,税制措置,文化審議会

(1)平成27年度文化庁予算の概要

 平成27年度予算は,「豊かな文化芸術の創造と人材育成」,「かけがえのない文化財の保存,活用及び継承等」,「我が国の多彩な文化芸術の発信と国際文化交流の推進」及び「文化発信を支える基盤の整備・充実」といった主要施策により,第4次基本方針の重点戦略を推進する内容となっています(図表2‐9‐2)。
 「豊かな文化芸術の創造と人材育成」では,2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会における文化プログラムを見据えた地域の魅力ある文化芸術の取組への支援や,子供たちの文化芸術を体験する機会を拡充するため,芸術団体の創造活動への支援の重点化や,文化芸術による子供の育成事業などの施策を推進しています。
 「かけがえのない文化財の保存,活用及び継承等」では,「日本遺産」など文化遺産を活用した地域の活性化方策への重点支援や,文化財の保存修理・防災施設などの充実,文化財の整備・活用などの推進を図っています。
 「我が国の多彩な文化芸術の発信と国際文化交流の推進」では,優れた舞台芸術・メディア芸術などの戦略的発信,文化遺産保護等国際協力の推進,外国人に対する日本語教育の推進を図っています。
 「文化発信を支える基盤の整備・充実」では,国立文化施設の整備・充実などを通じて,文化発信の国内基盤を強化し,国民の鑑賞機会の充実を図っています。

図表2‐9‐2 平成27年度文化庁予算(分野別)

(2)税制措置

1.文化芸術団体に対する寄附金に関する税制措置

 一般に,企業が寄附を行った場合は,当該寄附金について,一定額まで損金算入することが認められていますが,公益社団・財団法人及び独立行政法人などの特定公益増進法人等に対する寄附金については,個人については,寄附金控除(所得控除)が,企業などの法人については,一般の寄附金の損金算入限度額に加えて,更に別枠で損金算入することが認められています。
 特に個人からの寄附に関しては,平成22年より,寄附金控除の適用下限額が「5,000円を超える額」から「2,000円を超える額」に引き下げられ,文化芸術団体に対する支援をより行いやすいよう措置されています。また,23年度からは,認定NPO法人及び公益社団・財団法人等への寄附に係る税額控除が導入されています。

2.文化財に関する税制措置

 文化財の分野でも,重要文化財等として指定,選定,登録された家屋やその敷地については,固定資産税を非課税や2分の1課税とするなど,所有者が文化財を適切に管理する上で必要な税制上の優遇措置を取っています。また,重要文化財(土地を除く。)を国や地方公共団体等へ譲渡した場合は所得税が非課税(重要文化財や史跡等に指定された土地については,特別控除。)となり,建造物(登録有形文化財・重要伝統的建造物群保存地区内の伝統的建造物を含む)とその敷地については,相続税額の算出において,一定の評価減を行うこととされています。さらに,重要有形民俗文化財を国又は地方公共団体等に対して譲渡した場合にかかる所得税の軽減措置(1/2課税)について時限措置(平成28年12月31日まで)となっていたところ,当該措置を2年延長しています。(30年12月31日まで)。
 加えて,平成26年度税制改正において,地方公共団体に対する寄附に係る寄附金控除について,博物館等の設置・管理を行う地方独立行政法人に対する寄附についても同様に寄附金控除の対象とされるとともに,地方公共団体に対し重要文化財等を譲渡した場合に認められている譲渡所得の特例について,いわゆる「博物館相当施設(※2)」の設置・管理の業務を主たる目的とする地方独立行政法人に対し重要文化財等を譲渡した場合についても,同様に譲渡所得の特例の対象とされています。
 このほか,公益社団・財団法人が所有・取得する重要無形文化財の公演のための施設に係る固定資産税・都市計画税・不動産取得税の軽減措置(課税標準2分の1)について時限措置が取られています(29年3月31日まで)。
また,登録美術品として登録された美術品については,優れた美術品の美術館・博物館における公開を促進するために,相続税の物納の特例措置が設けられています。


  • ※2 博物館相当施設:博物館法第29条の規定により,博物館に相当する施設として国又は都道府県の教育委員会により指定された施設をいう。

(3)文化審議会

 文化庁に設けられている文化審議会では,国語分科会,著作権分科会,文化財分科会,文化功労者選考分科会の4分科会のほか,文化政策部会,美術品補償制度部会,世界文化遺産・無形文化遺産部会を設置し,文化の振興や国際文化交流の振興に関する重要事項などについて幅広い観点から調査審議を行っています。
 文化審議会は,これまでに11の答申などを行い,文化庁では,これらを受けて各種施策に取り組んでいます。

(4)地方創生(東京一極集中の是正)と文化庁の京都移転

 内閣に置かれているまち・ひと・しごと創生本部では,東京一極集中を是正する観点から,政府関係機関の地方移転について道府県等からの提案を踏まえた検討を行い,平成28年3月に「政府関係機関移転基本方針」を決定しました。
 この中で文化庁については,外交関係や国会対応の業務,政策の企画立案業務(関係省庁との調整等)についても現在と同等以上の機能が発揮できることを前提とした上で,地方創生や文化財の活用など,文化庁に期待される新たな政策ニーズ等への対応を含め,文化庁の機能強化を図りつつ,数年の内に全面的に京都に移転することとされました。
 4月以降,文化庁移転協議会を政府内に設置して具体的な検討を進め,8月末をめどに概要を取りまとめ,年内をめどに具体的な内容を決定する予定です。

3 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催に向けた文化プログラムの実施

 我が国においても,2020(平成32)年に向けて,日本各地の文化資源を積極的に活用し,関係省庁や全国の地方公共団体,多くの芸術家等,関係者と共に,日本の文化によって,世界の人々を魅了する文化イベント・各種取組を進めることとしています。そして,それらを一過性のイベントで終わらせることなく,2020(平成32)年以降も,かけがえのない日本の遺産(レガシー)として残し,我が国が,より一層文化芸術に立脚した国となるよう,文化力の顕在化,基盤の強化を図ります。
 東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催年を新たな成長に向かう契機の年として,文化プログラムを日本全国津々浦々で行うことを目指すとともに,文化を通じた世界の人々の往来や交流を生み出し,一人一人が互いを認め合う包容力のある社会,文化芸術による魅力あふれる社会を実現することを目指しています。

4 文化芸術を取り巻く諸情勢の変化を踏まえた対応

(1)文化芸術資源を活用した経済活性化(文化GDPの拡大)

 第4次基本方針では,「文化芸術関係の新たな雇用や,産業が現在よりも大幅に創出されている」ことを「我が国が目指す『文化芸術立国』の姿」の一つに挙げています。
 文化芸術資源は,観光地の魅力や,産業の付加価値などを産み出す源です。このため,文化芸術への投資は,文化分野だけではなく教育,福祉,まちづくり,観光・産業等他の様々な産業分野への経済波及効果を生み出します。このため文化庁では,文化芸術資源を活用した経済活性化(文化GDPの拡大)に取り組んでいます。
 我が国には,地域における文化財や,マンガ・アニメ・ゲーム等のメディア芸術,舞台芸術や各地の芸術祭をはじめとする文化芸術活動など,多様な文化芸術資源が全国に存在します。このため,文化芸術資源の一層の活用や国内外へ向けた地域の文化芸術の魅力の発信を強化することにより,外国人も含めた観光客の増加につなげるとともに,他の産業や地域経済への波及を一層促進するなど,日本経済の活性化に貢献することが求められています。
 そこで,文部科学省としては,2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた文化プログラム等の実施を契機として,地域の文化芸術活動の魅力を最大化し,地域経済への波及を創出するための取組や,地域の文化財の戦略的活用や適切なサイクルの修理・美装化により,「文化財で稼ぐ」仕組みへの転換を図るための取組,多様性を包容する文化の力を活用し,障害者,外国人等,あらゆる人々が活躍する場を創出し,文化活動の裾野を拡大するための取組などを進めていくこととしています。

(2)我が国の文化資源を活(い)かした地方創生と世界発信

 近年,文化芸術はそれらを保護・保存するだけでなく,活用することにより教育,福祉,まちづくり,観光・産業等幅広い分野への波及効果を及ぼし,地域活性化や地域課題の解決に貢献している事例が見られます。例えば,「大地の芸術祭:越後妻有アートトリエンナーレ」(平成13年から)は,24年の第5回では約47億円の経済波及効果を新潟県内に及ぼすとともに,地域の活力創出に効果を上げています。
 また,ユネスコ世界文化遺産への登録は,貴重な文化財を次世代に継承するとともに,地域活性化にも資するものとして大変有意義です。例えば「富岡製糸場と絹産業遺産群」は,平成26年6月末のユネスコ世界遺産委員会において正式に世界文化遺産として登録されたことにより,各資産を訪れる観光客数が前年に比べて飛躍的に増加しました。(富岡製糸場では,26年度一年間で約134万人と,25年度一年間(31万人)の4倍以上の来場者を記録)このことは,文化財が地域の活性化に貢献している好例と言えますが,このような世界文化遺産登録を受けた観光振興・地域振興への効果を一過性のもので終わらせるのではなく,今後も中長期的に継続させていくことが重要です。
 このため,平成27年度から,世界文化遺産に登録された地域の活性化を図るため,情報発信・普及・保護活動等を支援する「文化遺産を活(い)かした地域活性化事業(世界文化遺産活性化事業)」を新規に実施しています。
 今後,このような全国にある地域の文化資源を海外の人にも分かりやすく発信するため,文化財の本来の価値・魅力を分かりやすく外国人観光客に伝えられるような環境整備を促進し,文化財等の案内表示・解説等を充実させるための取組を実施する予定です。また,全国で展開する文化プログラムの情報を国内外に発信するため,多言語機能を付与した文化情報プラットフォームを構築予定です。

(3)文化資産に関するデジタルアーカイブの取組について

 我が国の文化や歴史等の理解に欠かすことのできない映画,舞台芸術,アニメ,マンガ,ゲーム,デザイン,写真,建築,文化財等の文化資産に係る情報のデジタルアーカイブを構築することは,我が国の多様な文化を保存・継承するとともに,国民が自ら活動に参加し,新たな文化を創造していくための基盤を形成する意味で重要です。
 また,平成27年度より新たに,グラフィック・ファッション・プロダクト等のデザイン分野について,民間におけるアーカイブ構築を促進するため,アーカイブの中核拠点の形成を支援しています。これらに加え,各分野の特性に応じた保存全般にわたる事項について普及・啓発を図るシンポジウムを開催しています。
 今後は,政府全体として,国立国会図書館等の関係機関と連携しつつ,分野横断的なデジタルアーカイブの整備を検討しているところです。

第2節 文化芸術創造活動の推進

1 文化芸術創造活動の活性化支援

(1)文化芸術活動に対する効果的な支援

 文化庁では,我が国の文化芸術の振興を図るため,トップレベルの舞台芸術創造事業を実施し,音楽,舞踊,演劇,伝統芸能,大衆芸能といった分野の芸術水準の向上の直接的な牽(けん)引力となる公演を重点的に支援しています。平成27年度は,年間活動支援型28団体,公演事業支援型173件を採択しました。
 また,実演芸術の水準向上のための取組や,障害者の優れた芸術活動の促進のための調査研究等を,芸術団体等からの企画提案を受けて行う戦略的芸術文化創造推進事業では,27件の取組を採択しました。

(2)芸術文化振興基金

 芸術文化振興基金は,文化芸術活動に対する援助を継続的・安定的に行うため,平成2年に設立されました。日本芸術文化振興会において,政府から出資された541億円と民間からの出えん金約126億円計約667億円を原資とし,その運用益をもって文化芸術活動に対する助成に充てています。寄附金の受付は随時行っており,基金の拡充に努めています。

〈芸術文化振興基金による助成額(平成27年度)〉
  • 芸術家及び芸術団体が行う芸術の創造・普及活動:7億241万円
  • 地域の文化振興を目的として行う活動:2億3,662万円
  • 文化に関する団体が行う文化の振興,普及活動:9,107万円

2 新進芸術家などの人材育成

 文化庁では,世界で活躍する新進芸術家等を育成するため,美術,音楽,舞踊,演劇などの分野において研修・発表の機会を提供しています。特に,新進芸術家海外研修制度では,昭和42年以来,新進芸術家等が海外の大学や芸術団体などで研修を受け,これまで多数の優秀な芸術家などを輩出しています(図表2‐9‐3)。

図表2‐9‐3 新進芸術家海外研修制度のこれまでの派遣者の例

3 芸術祭の開催

 文化庁では,昭和21年度から毎年秋に芸術祭を開催しています。平成27年度は,オペラ「ラインの黄金」を上演したほか,バレエ,演劇,音楽,歌舞伎,能楽,文楽,邦舞,大衆芸能,アジア・太平洋地域の芸能の10の主催公演を実施しました。
 また,演劇,音楽,舞踊,大衆芸能の参加公演部門には168件,テレビ,ラジオ,レコードの参加作品部門には120件が参加しました。各部門における審査の結果,優れた公演・作品に対して,文部科学大臣から芸術祭各賞が授与されました。

平成27年度文化庁芸術祭主催公演
平成27年度文化庁芸術祭主催公演
新国立劇場バレエ公演「ホフマン物語」
写真:鹿摩隆司

4 企業による芸術文化活動への支援

(1)企業の取組の認定・顕彰

 公益社団法人企業メセナ協議会は,企業によるメセナ(芸術・文化振興による社会創造)活動の活性化を目的として平成2年に設立されました。メセナ活動を顕在化し,その社会的意義を発信するメセナ認定制度「This is MECENAT」と,優れた活動を表彰する「メセナアワード」を連動して運営しています。文化庁では,公益社団法人企業メセナ協議会との連携の下,「メセナアワード」において,芸術文化振興に大きく貢献し,地域活性化や次世代育成に関わるメセナ活動を顕彰しています。

(2)民間の寄附の促進

 公益社団法人企業メセナ協議会は,民間の芸術文化活動への寄附を促進するため,「2021芸術・文化による社会創造ファンド(2021 Arts Fund)」および「助成認定制度」を運営しています。

1.2021芸術・文化による社会創造ファンド(2021 Arts Fund)

 2020(平成32)年から先の文化創造に資するため,地域文化振興及び芸術・文化による地域創造,芸術・文化を通じた国際交流及び日本文化の国際発信,芸術・文化及びこれを通じた社会創造を担う人材育成を重点として,寄附者の意向に応じた目的別ファンドを設置するとともに,目的を達成するための寄附コーディネートを行っています。

2.助成認定制度

 この制度の認定を受けた文化芸術活動に対して寄附を行う場合,個人の場合には所得控除又は税額控除,企業などの法人の場合には一般の寄附金とは別枠での損金算入が認められます(図表2‐9‐4)。

図表2‐9‐4 企業メセナ協議会の助成認定制度

第3節 映画・メディア芸術の振興

1 日本映画の振興

 映画は,演劇,音楽や美術などの諸芸術を含んだ総合芸術であり,国民の最も身近な娯楽の一つとして生活の中に定着しています。
 また,ある時代の国や地域の文化的状況の表現であるとともに,その文化の特性を示すものです。さらに,映画は海外に向けて日本文化を発信する上でも極めて効果的な媒体であり,有力な知的財産として位置付けられています。
 文化庁では,平成16年度から総合的な日本映画の振興施策を実施しており,1.日本映画の創造・交流・発信,2.若手映画作家等の育成,3.日本映画フィルムの保存・継承を推進しています(図表2‐9‐5)。
 具体的には,日本映画の製作支援,映画関係者によるシンポジウムなどの創作活動や交流の推進,日本映画の海外映画祭への出品支援やアジアにおける日本映画特集上映など海外への日本文化発信,短編映画作品製作による若手映画作家育成事業などの人材育成を通して,我が国の映画の一層の振興に取り組んでいます。特に日本映画の製作支援については,映画による国際文化交流を推進し,我が国の映画振興に資するため,平成23年度からは,国際共同製作による映画製作への支援も行っています。
 また,日本映画に関する情報提供を通じてこれらの活動を促進するため,データベースの整備も進めています。

写真:若手映画作家等の育成(ndjc)撮影風景
 写真:若手映画作家等の育成(ndjc)撮影風景

図表2‐9‐5 日本映画の振興

2 アニメーション,マンガなどのメディア芸術の振興

 アニメーション,マンガ,ゲームなどのメディア芸術は広く国民に親しまれ,新たな芸術の創造や我が国の芸術全体の活性化を促すとともに,海外から高く評価され,我が国に対する理解や関心を高めています。文化庁では,メディア芸術の一層の振興を図るため,創作活動に対する支援,普及,人材育成などに重点を置いた様々な取組を行っています。その一つの柱である文化庁メディア芸術祭は,平成27年度に19回目を迎え,87の国と地域から4,417作品の応募がありました。「アート」,「エンターテインメント」,「アニメーション」,「マンガ」の四つの部門にそれぞれ大賞,優秀賞,新人賞を顕彰するとともに,メディア芸術の振興に寄与した関係者に功労賞を贈呈しました。
 受賞作品は,国立新美術館で開催された第19回メディア芸術祭受賞作品展の中で展示されました。また,過去の受賞作品を中心に優れたメディア芸術作品の鑑賞の機会を提供するメディア芸術祭地方展(平成27年度は富山県,鹿児島県,青森県で開催)や海外メディア芸術祭等参加事業などを実施し,国内外に優れたメディア芸術作品を発信しています。

アート部門優秀賞
 アート部門優秀賞
 『50.Shades of Grey』グラフィックアート
 CHUNG Waiching Bryan(英国)
 (c)2015 Bryan Wai-ching CHUNG

エンターテインメント部門大賞
 エンターテインメント部門大賞
 『正しい数の数え方』音楽劇
 岸野雄一(日本)
 (c)2015 Out One Disc

アニメーション部門大賞
 アニメーション部門大賞
 『Rhizome』短編アニメーション
 Boris LABBÉ(フランス)
 (c)Sacrebleu Productions

マンガ部門大賞
 マンガ部門大賞
 『かくかくしかじか』
 東村アキコ(日本)
 (c)Akiko HIGASHIMURA/SHUEISHA

第4節 子供たちの文化芸術活動と地域における文化芸術の振興

1 子供たちの文化芸術活動の推進

 第2期教育振興基本計画においては,「小・中学校等と博物館や劇場,音楽堂等,文化芸術団体との連携・協力を図りつつ子どもたちが一流の文化芸術に触れる機会の提供を推進するとともに,子どもたちが地域の伝統文化に触れる機会を提供する取組への支援を行う。」とされています。文化庁では,子供たちが,本物の文化芸術に直接触れたり創造活動に参加したりすることにより,多くの感動体験を得て感受性豊かな人間として成長するように,以下の施策を実施しています。

(1)文化芸術による子供の育成事業

 子供たちが優れた実演芸術を鑑賞するとともに,文化芸術団体等による実技指導,ワークショップに参加し,さらにはこれらの団体と本番の舞台で共演するなど,実演芸術に身近に触れる機会を提供する「文化芸術による子供の育成事業」を実施しています。平成27年度は,文化芸術団体による巡回公演を1,819公演,学校への芸術家派遣を2,589か所で実施しました。

(2)伝統文化親子教室事業

 文化庁では,次代を担う子供たちに対して,民俗芸能,工芸技術,邦楽,日本舞踊,茶道,華道などの伝統文化・生活文化を計画的・継続的に体験・修得することができる機会を提供する取組を支援しています。平成27年度は3,483団体の活動を採択しました。

(3)全国高等学校総合文化祭

 高校生に文化部活動の成果発表の機会を提供して,創造活動を推進し相互の交流を深めるため,都道府県,全国高等学校文化連盟等との共催により,「全国高等学校総合文化祭」(平成27年度は7月28日から8月1日まで滋賀県で開催),「全国高等学校総合文化祭優秀校東京公演」(27年度は8月29日,30日に開催)をそれぞれ毎年開催しています。

2 地域における文化芸術活動への支援

 文化庁では,優れた文化芸術に身近に接することができ,地域に根付いた文化芸術活動が活発に行われるようにするため,個性豊かな文化芸術の振興,文化芸術を支える人材育成など,地域における文化芸術の振興を図っています。

(1)劇場,音楽堂等の活性化

 「劇場,音楽堂等の活性化に関する法律」及び「劇場,音楽堂等の事業の活性化のための取組に関する指針」の趣旨を踏まえ,地域の文化拠点である劇場,音楽堂等が行う実演芸術の創造発信や,専門的人材の養成,普及啓発事業等を支援することによって,劇場,音楽堂等の活性化を図るとともに,地域コミュニティの創造と再生を推進する劇場・音楽堂等活性化事業を実施しています(平成27年度採択実績:172件)。

(2)文化遺産を活(い)かした地域活性化事業

 我が国の宝である地域の多様で豊かな文化遺産を活用して,伝統行事・伝統芸能の公開や,後継者養成,古典に親しむ活動,地域の特色ある総合的な取組に対して支援を行っています(平成27年度採択実績:359件)。

(3)国民文化祭

 国民の文化芸術活動への参加機運を高めるとともに,地域や世代を超えた文化交流の輪を広げていくため,都道府県等との共催によって,全国規模の文化の祭典である「国民文化祭」を毎年開催しています(平成27年度は鹿児島県で開催)。

(4)文化芸術による地域活性化・国際発信推進事業

 地方公共団体が実施する,地域の文化資源等を活用した計画的な文化芸術活動や,2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の文化プログラムを見据えた文化事業,訪日外国人が鑑賞・体験できる事業に対して支援を行っています(平成27年度採択実績:125件)

3 文化芸術創造都市の推進

 近年,美しい景観や地方公共団体固有の文化的環境を生かすことにより,住民の創造性を育むとともに,新しい産業や街のにぎわいに結び付けることを目指す地方公共団体が増えてきました。文化庁では,文化芸術の持つ創造性を活(い)かして,産業振興,地域活性化等を図る「文化芸術創造都市」の取組を推進しています。例えば,都市政策の中心に文化政策を据える地方公共団体を応援するため,平成19年度に表彰制度を創設しました(図表2‐9‐6)。

創造農村ワークショップ(新潟県十日町市)
 創造農村ワークショップ(新潟県十日町市)
 (「創造都市ネットワーク日本」ホームページより)

 平成21年度からは,「文化芸術創造都市」に取り組む地方公共団体やその関係者を対象とし,情報収集・提供,研修の実施などを通じた国内の文化芸術創造都市ネットワークの構築に取り組んでいます。
 また,25年1月には,国内の創造都市ネットワークの充実・強化を図るため,各自治体等の連携により,「創造都市ネットワーク日本(Creative City Network of Japan)」(以下,「CCNJ」という。)が設立されました。文化庁では,このネットワーク組織の活動を支援しており,27年度は,創造農村ワークショップ(新潟県十日町市)や創造都市セミナー(大分県大分市)等を開催しました。
 また,全国各地域の文化芸術創造都市づくりの支援を推進するために,平成26年4月,地方公共団体等からの相談機能を果たす「文化庁・文化芸術創造都市振興室」を京都市内に設け,文化芸術創造都市の推進を図っています。
 世界規模では,ユネスコが中心となった国際的ネットワークである「ユネスコ・クリエイティブ・シティズ(創造都市)・ネットワーク(UNESCO Creative Cities Network)」が形成されており,平成27年5月には,「ユネスコ・クリエイティブ・シティズ・ネットワーク会議金沢2015」が開催されました。本会議中に開催された「世界創造都市シンポジウム」では,イタリアのボローニャ市(ユネスコ音楽都市),カナダのモントリオール市(ユネスコデザイン都市)の代表者と,CCNJ加盟地方公共団体代表者が参加し,創造都市の一層の展開に向け,経験・知識の共有が行われました。
 このように,文化芸術の創造性で持続的に地域を活性化させるために,文化芸術創造都市が一つの核となることが国内外で期待されています。

図表2‐9‐6 長官表彰(文化芸術創造都市部門)受賞都市一覧

第5節 文化財の保存と活用

 文化財は,我が国の歴史や文化の理解のため欠くことのできない貴重な国民的財産であるとともに,将来の発展向上のためになくてはならないものであり,将来の地域づくりの核ともなるものとして,確実に次世代に継承していくことが求められます。このため,文化庁では,文化財保護法に基づき, 文化財のうち重要なものを指定・選定・登録し(図表2‐9‐7,図表2‐9‐8),現状変更や輸出等について一定の制限を課す一方,有形の文化財については保存修理,防災,買上げ等,無形の文化財については伝承者養成,記録作成等に対して補助を行うことによって,文化財の保存を図っています。また,文化財の公開施設の整備に対して補助を行ったり,展覧会などによる文化財の鑑賞機会の拡大を図ったりするのみならず,地域の文化財を一体的に活用する取組に対しても支援を行っています。

図表2‐9‐7 文化財保護の体系

図表2‐9‐8 文化財指定等の件数

1 文化財の活用に向けて

 全国各地において長く守り伝えられてきた有形,無形の文化財は,地域の誇りであるとともに,観光振興に欠かせない貴重な資源です。そのため,こうした文化財を一層活用し,地域活性化につなげていくことが重要です。文化庁では,従来の保存を優先とする支援から,地域の文化財群を総合的に活用する取組への支援の重点化を図ることを目的として平成27年度「文化財総合活用戦略プラン」を創設し,情報発信,普及啓発,人材育成及び公開活用のための設備整備等,文化財を活用した地域の様々な取組を総合的に支援しました。
 平成28年度には「文化財活用・理解促進戦略プログラム2020」を策定し,日本遺産をはじめとする地域の文化財の一体的活用,国内外に向けた分かりやすい解説の充実・多言語化,適切な周期による修理や次の修理までも文化財を美しく保つ美装化などの取組を進めることで,文化財を真に人を引き付け,地域の人の心のよりどころとなるような文化資源として活用する取組を進めていくこととしています。

日本の歴史を知らない外国人にも分かりやすい解説
 日本の歴史を知らない外国人にも分かりやすい解説
 (日光東照宮新宝物館)

地域の文化財の一体的整備により観光客数を増加させた例
 地域の文化財の一体的整備により観光客数を増加させた例
 (大内宿の茅葺(かやぶ)き民家群再生)

歴史的建造物をユニークベニューとして活用
 歴史的建造物をユニークベニューとして活用
 (姫路城でのイベント)

2 有形文化財の保存と活用

 建造物,絵画,彫刻,工芸品,書跡,典籍,古文書その他の有形の文化的所産や考古資料,歴史資料で,我が国にとって歴史上,芸術上,学術上価値の高いものを総称して「有形文化財」と呼んでおり,このうち,「建造物」以外のものを「美術工芸品」と呼んでいます。

(1)国宝,重要文化財の指定等

 文化庁では,有形文化財のうち重要なものを「重要文化財」に指定し,さらに,重要文化財のうち世界文化の見地から特に価値の高いものを「国宝」に指定して重点的に保護しています。また,近年の国土開発や生活様式の変化等によって,社会的評価を受ける間もなく消滅の危機にさらされている近代等の有形文化財を登録という緩やかな手法で保護しています(図表2‐9‐9,図表2‐9‐10)。

(2)保存・活用のための取組

 我が国の有形文化財は,木材等の植物性材料で作られているものが多く,その保存・管理には適切な周期での修理が必要であるとともに防災対策が欠かせません。これらは,原則として有形文化財の所有者によって行われるものですが,ほとんどの場合に多額の経費を要するので,国による補助が行われています。

1.建造物

 文化庁では,地震等から建造物を守るため,耐震診断や耐震補強工事を補助しているほか,火災などの被害から建造物を守るため,自動火災報知設備や避雷設備,消火設備,防犯設備の設置や危険木対策を補助しています。さらに,ふるさと文化財の森システム推進事業を実施して,保存修理や危険木対策に必要な資材の供給林を設定し,管理業務を支援しています。
 また,建造物を活用するため,活用事例を紹介するほか,NPO法人等による文化財建造物の管理活用事業を実施しています。

2.美術工芸品

 文化庁では,美術工芸品を災害や盗難等の被害から守るため,手引の作成や研修会の開催など,防災・防犯意識の向上や有効な対策への理解を促進するための取組を実施しています。
 また,美術工芸品の活用を図るため,文化財保存施設の整備を推進するとともに,国宝・重要文化財が出品される展覧会を支援しています。海外流出や散逸等のおそれがある国宝・重要文化財等については,国が買い取って保存するとともに,文化庁主催展覧会に出品したり,博物館等の展覧会に貸与したりしています。
 なお,文化庁では,国指定文化財(美術工芸品)の現状を把握するため,文化財の所在についての調査を実施し,平成26年7月4日と27年1月21日の2回にわたって結果を公表しました。その結果,調査時点の国指定文化財(美術工芸品)全件(1万524件)のうち,所在を確認することができた件数は1万276件,所在不明であると判明した件数は180件,追加で確認する必要がある件数は68件となりました。現在,所在不明及び,追加で確認する必要がある文化財の所在確認を進めるとともに,再発防止策を実施しています。

図表2‐9‐9 平成27年度の国宝・重要文化財(建造物)の指定

図表2‐9‐10 平成27年度の国宝・重要文化財(美術工芸品)の指定

3 無形文化財の保存と活用

 演劇,音楽,工芸技術その他の無形の文化的所産で我が国にとって歴史上又は芸術上価値の高いものを「無形文化財」と呼んでいます。無形文化財は,人間の「わざ」そのものであり,具体的にはその「わざ」を体現・体得した個人又は団体によって表現されます。

(1)重要無形文化財の指定や保持者等の認定

 文化庁では,無形文化財のうち重要なものを「重要無形文化財」に指定し,同時に,これらの「わざ」を高度に体現・体得している者を「保持者」又は「保持団体」として認定しています(図表2‐9‐11)。保持者の認定には,重要無形文化財である芸能又は工芸技術を高度に体現・体得している者を認定する「各個認定」(この保持者がいわゆる「人間国宝」)と,二人以上の者が一体となって舞台を構成している芸能の場合は,その「わざ」を高度に体現している者が構成している団体の構成員を認定する「総合認定」があります。
 また,「保持団体認定」は,重要無形文化財の性格上個人的特色が薄く,かつ,その「わざ」を保持する者が多数いる場合,これらの者が主たる構成員となっている団体を認定するものです。

(2)保存・活用のための取組

 文化庁では,重要無形文化財の各個認定の保持者に対し,「わざ」の錬磨向上と伝承者の養成のための特別助成金を交付するとともに,重要無形文化財の総合認定保持者が構成する団体や保持団体,地方公共団体等が行う伝承者養成事業,公開事業等を補助しています。また,我が国にとって,歴史上,芸術上価値の高い重要無形文化財(工芸技術)を末永く継承し保護していくため,保持者の作品等の無形文化財資料を購入したり,その「わざ」を映像で記録して公開したりしています。

図表2‐9‐11 平成27年度の重要無形文化財の指定・認定

4 民俗文化財の保存と活用

 衣食住,生業,信仰,年中行事等に関する風俗慣習,民俗芸能,民俗技術及びこれらに用いられる衣服,器具,家屋その他の物件で我が国民の生活の推移の理解のため欠くことのできないものを「民俗文化財」と呼んでおり,有形のものと無形のものがあります。

(1)重要有形・無形民俗文化財の指定等

 文化庁では,有形,無形の民俗文化財のうち,特に重要なものを「重要有形民俗文化財」,「重要無形民俗文化財」に指定し,保存しています(図表2‐9‐12)。また,重要有形民俗文化財以外の有形民俗文化財のうち,保存・活用のための措置が特に必要とされるものを「登録有形民俗文化財」に登録するとともに,重要無形民俗文化財以外の無形の民俗文化財のうち,特に記録作成等を行う必要があるものを「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選択しています。

(2)保存・活用のための取組

 民俗文化財は,日常生活に基盤を置くものであり,近年の急激な社会構造や生活様式の変化によって変容・衰退のおそれがあります。文化庁では,重要有形民俗文化財に指定された衣服や器具・家屋等を保護するため,管理や修理,保存活用施設の整備等の事業を補助するとともに,重要無形民俗文化財に関する伝承者の養成や用具等の修理・新調等の事業に対しても補助を行っています。また,文化庁が選択した無形の民俗文化財を対象に,特に変容・衰滅のおそれが高いものについて,計画的に映像等による記録保存を確実に進めています。

図表2‐9‐12 平成27年度の民俗文化財の指定

5 記念物の保存と活用

 貝塚,古墳,都城跡,城跡,旧宅その他の遺跡で我が国にとって歴史上又は学術上価値の高いもの,庭園,橋梁(りょう),峡谷,海浜,山岳その他の名勝地で我が国にとって芸術上又は鑑賞上価値の高いもの,動物や植物,地質鉱物で我が国にとって学術上価値の高いものを総称して「記念物」と呼んでいます。

(1)史跡,名勝,天然記念物の指定等

 文化庁では,記念物のうち重要なものを,遺跡は「史跡」に,名勝地は「名勝」に,動物,植物,地質鉱物は「天然記念物」に指定し,さらに,それらのうち特に重要なものについては,「特別史跡」,「特別名勝」,「特別天然記念物」に指定しています(図表2‐9‐13)。
 また,今日の地域開発の進展や生活様式の急激な変化に伴い,残存が困難な状況にある記念物については登録という緩やかな手法で保護しています。登録記念物については,「遺跡関係」,「名勝地関係」,「動物,植物及び地質鉱物関係」の三つの種別があります。

(2)保存・活用のための取組

 文化庁では,歴史上,学術上価値の高い史跡等について,保存と活用を図るための事業を行う所有者,管理団体等に対する補助を充実するとともに,地方公共団体が史跡等を公有化する事業に対する補助を実施し,保存・整備や活用等を推進しています。

図表2‐9‐13 平成27年度の史跡・名勝・天然記念物の指定及び登録記念物の登録

6 文化的景観の保存と活用

 石積みの棚田が営まれる集落,流通・往来の結節点に形成された町場,河川流域の土地利用等,地域における人々の生活又は生業や当該地域の風土により形成された景観地で,国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないものを「文化的景観」と呼んでいます。

(1)重要文化的景観の選定

 文化的景観を有する都道府県又は市町村では,「景観法」に基づく景観計画・条例や文化的景観保存計画等によって文化的景観の適切な保存・活用を図っています。このような文化的景観のうち,文化庁では,都道府県又は市町村の申出に基づき,特に重要なものを「重要文化的景観」として選定しています(図表2‐9‐14)。

図表2‐9‐14 平成27年度の重要文化的景観の選定

(2)保存・活用のための取組

 文化庁では,地方公共団体が行う文化的景観に関する保存調査や文化的景観保存計画の策定,地域住民が参加するワークショップ等の普及・啓発,重要文化的景観の整備等の事業を補助しています。平成27年度は,新たに2件の文化的景観保存計画が策定され,13件の重要文化的景観において,重要な構成要素である家屋の修理・修景や,自然災害等によって被害を受けた構成要素の災害復旧が行われました。

7 伝統的建造物群の保存と活用

 周囲の環境と一体を成して歴史的風致を形成している伝統的な建造物群で価値が高いものを「伝統的建造物群」と呼んでおり,城下町や宿場町,門前町,農山村集落などがこれに当たります。

(1)重要伝統的建造物群保存地区の選定

 伝統的建造物群を有する市町村では,伝統的建造物群やこれと一体を成して価値を形成している環境を保存するために「伝統的建造物群保存地区」を定め,伝統的建造物の現状変更の規制等を行い,歴史的集落や町並みの保存と活用を図っています。文化庁では,伝統的建造物群保存地区のうち,市町村の申出に基づき,我が国にとってその価値が特に高いものを,「重要伝統的建造物群保存地区」に選定しています(図表2‐9‐15)。

(2)保存・活用のための取組

 文化庁では,伝統的建造物群を持つ市町村が実施する伝統的建造物群の保存状況等の調査を補助しています。また,重要伝統的建造物群保存地区において,伝統的建造物の修理,伝統的建造物以外の建築物等の修景,伝統的建造物群と一体を成して価値を形成している環境の復旧,防災計画を策定するための調査,防災のための施設・設備の設置,建造物や土地の公有化等の事業を補助しています。

図表2‐9‐15 平成27年度の重要伝統的建造物群保存地区の選定

8 文化財保存技術の保護

 我が国固有の文化によって生み出され,現在まで保存・継承されてきた文化財を確実に後世へ伝えていくため,欠くことのできない文化財の修理技術・技能やこれらに用いられる材料・道具の製作技術等を「文化財の保存技術」と呼んでいます。
 文化庁では,文化財の保存技術のうち,保存の措置を講ずる必要があるものを「選定保存技術」に選定するとともに,その技術を正しく体得している者を「保持者」として,技術の保存のための事業を行う団体を「保存団体」として,それぞれ認定し,保護を図っています。

9 埋蔵文化財の保護

 「埋蔵文化財」(土地に埋蔵されている文化財)は,その土地に生きた人々の営みを示す遺産であり,土地に刻まれた地域の歴史と文化そのものです。
 このような埋蔵文化財を保護するために,「埋蔵文化財包蔵地」(全国に約46万5,000件)として周知された土地で開発事業等を行う場合,事前にその遺跡の内容を確認するための試掘・確認調査等を行います。そして,遺跡を現状保存するために調整を行いますが,やむを得ず現状保存できない場合は,遺跡の記録を作成してそれを保存するための発掘調査が必要になります(記録保存調査)。また,地域にとって重要な遺跡を積極的に現状保存するために,発掘調査を行う場合もあります(保存目的調査)。
 現在,毎年約8,000件の発掘調査が全国で行われ,多くの成果が得られています。文化庁では,その成果をより多くの国民に,できるだけ早く,分かりやすく伝えるために,毎年「発掘された日本列島」展を開催しています。平成26年度に第20回を迎え,第21回となる27年度の展覧会は,図録の体裁を一新したほか,広報の一層の強化を図っています。28年度は,東京都江戸東京博物館,大津市歴史博物館,秋田県立博物館,高知県立歴史民俗資料館,北九州市立自然史・歴史博物館を巡回します。

平成27年度に実施した「発掘された日本列島2015」の主な展示品

人体文土器
 人体文土器

馬形埴輪
 馬形埴輪

10 「歴史文化基本構想」の普及・促進

 近年,過疎化や少子高齢化に伴う人口減少等,文化財を育み,支えてきた地域の変化により,文化財の継承が困難になってきています。こうした状況の中,地域の文化財をその周辺環境も含めて総合的に保存・活用していくことが重要です。このため,各地方公共団体の文化財保護に関するマスタープランとして,周辺環境も含めて文化財を総合的に保存・活用するために策定する「歴史文化基本構想」について,文化財の保存に限らず,文化財を総合的に活(い)かした地域づくりにも役立つものとして,その策定を推進しています。
 また,文化庁では,「地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律」(通称:「歴史まちづくり法」)に基づいて,市町村が策定した,地域に根ざした人々の活動と建造物が一体となった良好な市街地の環境を維持・向上させるための計画(歴史的風致維持向上計画)を国土交通省・農林水産省と共に認定しています。認定された市町村は,国による重点的な支援を受けることができます。

11 古墳壁画の保存と活用

 我が国では2例しか確認されていない極彩色古墳壁画である高松塚古墳及びキトラ古墳の両古墳壁画は,高松塚古墳近くにある「国宝高松塚古墳壁画仮設修理施設」において保存修理が行われています。
 高松塚古墳壁画は,壁画修理後の当分の間は古墳の外の適切な場所において保存管理・公開を行うことが決定されており,壁画修理後の古墳現地の扱いや壁画・石室の当分の間の保存管理・公開の方法,場所等について検討を行っています。
 キトラ古墳壁画は,国営飛鳥歴史公園キトラ古墳周辺地区が平成28年秋に供用が開始される予定であることから,壁画の修理を進めるとともに,国土交通省と協力して「キトラ古墳壁画体験館 四神の館」(キトラ古墳壁画保存管理施設)の整備を進めています。なお,古墳の整備工事は27年度中に完了しました。
 また,壁画の保存対策事業について理解を促進するため,国宝高松塚古墳壁画仮設修理施設において20年度から毎年度,修理作業室を公開しています。27年度は10月から11月(9日間)に実施し,3,405人の参加がありました。奈良文化財研究所飛鳥資料館においては,10月から11月(52日間)に特別展「キトラ古墳と天の科学」を開催し,1万2,862人の来館がありました。

12 世界遺産と無形文化遺産

(1)世界遺産

 世界遺産条約(世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約)は,顕著な普遍的価値を持つ文化遺産・自然遺産を,人類全体のための世界の遺産として損傷・破壊等の脅威から保護することを目的として,1972(昭和47)年に採択されました。我が国は平成4年に条約を締結し,28年3月末現在,191か国が締結しています。また,我が国は,23年11月から世界遺産委員会(21か国で構成)の委員国を務めていましたが,27年11月にその任期を終えました。
 毎年1回開催される世界遺産委員会においては,締約国からの推薦や諮問機関の評価等に基づいて審議が行われ,顕著な普遍的価値を持つと認められる文化遺産・自然遺産・複合遺産が世界遺産一覧表に記載されます。2016(平成28)年3月末現在で1,031件の遺産(文化遺産802件,自然遺産197件,複合遺産32件)が記載されています。
 2015(平成27)年7月,「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼,造船,石炭産業」が,世界遺産委員会での審議を経て,我が国で19番目の世界遺産として認められました(図表2‐9‐16)。現在,「国立西洋美術館」(「ル・コルビュジエの建築作品」)及び「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」を世界遺産として推薦しています。「国立西洋美術館」(「ル・コルビュジエの建築作品」)は,28年5月に世界遺産委員会の諮問機関であるイコモス(※3)から,世界遺産への登録が適当との勧告がなされ,同年7月に開催される世界遺産委員会において登録の可否が決定される予定です。また,「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」は,29年夏頃の世界遺産委員会で登録の可否が決定される予定です。
 なお,「国立西洋美術館」(「ル・コルビュジエの建築作品」)と併せて推薦を行っていた「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は,イコモスから推薦内容の見直しを求める指摘を受け,平成28年2月に推薦の取下げを行いました。

図表2‐9‐16 我が国の世界遺産一覧


※3 イコモス(国際記念物遺跡会議:International Council on Monuments and Sites):1964年に設立された文化財の保存,修復,再生などを行う国際非政府間組織(NGO)。

(2)無形文化遺産の保護に関する取組

 世界各地において,生活様式の変化など社会の変容に伴って,多くの無形文化遺産が衰退や消滅の危機にさらされる中で,2003(平成15)年のユネスコ総会において,「無形文化遺産の保護に関する条約」が採択され,2006(平成18)年4月20日に発効しました。我が国は,2004(平成16)年に3番目の締約国となり,2016(平成28)年3月末現在で166か国が締結しています。この条約では,無形文化遺産を保護することを目的として,「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表(代表一覧表)」への記載,無形文化遺産の保護のための国際的な協力及び援助体制の確立,締約国が取るべき必要な措置等について規定されています。
 2014(平成26)年11月,ユネスコ本部において政府間委員会が開催され,我が国の「和紙:日本の手漉(すき)和紙技術」が「代表一覧表」に記載されました。2016(平成28)年3月現在,我が国からは22件が「代表一覧表」に記載されています(図表2‐9‐17)。27年3月には「代表一覧表」への記載に向けて,ユネスコに「山・鉾(ほこ)・屋台行事」を再提案しました。2016(平成28)年11月の政府間委員会で「代表一覧表」への掲載の可否について審議される予定です。
 同案件は,26年3月にユネスコへ提案しましたが,審査可能件数を上回る提案があったため,記載件数が少ない国を優先し,我が国の審査が1年先送りになっていたものです。
 また,平成28年3月にはユネスコに「来訪神:仮面・仮装の神々」を提案し,2018(平成30)年秋の政府間委員会で審議される予定です。

図表2‐9‐17 「代表一覧表」に記載されている我が国の無形文化遺産

13 日本遺産の魅力発信

 文化庁では,地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリーを「日本遺産」に認定する仕組みを平成27年度に創設しました。
 日本遺産審査委員会の審査を経て平成27年4月に18件,28年4月に19件を認定し,認定された地域に対しては,1.情報発信・人材育成,2.普及啓発,3.公開活用のための整備等に対して必要な財政支援を行い,地域活性化を図ることとしています。(図表2‐9‐18)
 また,日本遺産を国内外へ発信するため,平成27年6月には東京国立博物館で「日本遺産フォーラム」(466名が参加),11月にはパリ日本文化会館で「日本遺産展」(1,042名が参加)を開催し,認定地方公共団体によるブース出展や,体験イベント等を実施しました。
 今後とも,2020年までに全国各地に日本遺産を100件程度認定することができるよう,取組を更に拡充・強化するとともに,「日本遺産」を通じた地域の活性化や,日本文化の国内外への戦略的な発信に積極的に取り組むこととしています。

図表2‐9‐18 平成28年度「日本遺産(JapanHeritage)」認定一覧

第6節 美術館・歴史博物館・劇場等の振興

1 美術館・歴史博物館・劇場等の振興

 文化庁では,美術館・歴史博物館が,地域住民の文化芸術活動・学習活動の場として積極的に活用され,国内外の発信拠点としての機能が充実するよう様々な支援や人材養成等を行っています。
 「地域の核となる美術館・歴史博物館支援事業」では,美術館・歴史博物館を主体とし,地域に存する文化財の活用,観光振興,多言語化による国際発信,国際交流,地域へのアウトリーチ活動,人材育成等,美術館・歴史博物館を活用・強化する取組を支援しています。
 また,公私立の美術館・歴史博物館の学芸員等の専門的な知識や技術を向上させ,美術館・歴史博物館活動の充実を図るため,国立美術館・国立博物館等の協力を得て,企画展示セミナーなど様々な研修会や講習会等を実施しています。さらに,美術館等の管理・運営や教育普及等を担う専門職員の資質向上を図るため,ミュージアム・マネジメント研修やミュージアム・エデュケーター研修を実施しています。

2 美術品補償制度の導入等

 「展覧会における美術品損害の補償に関する法律」に基づいて,展覧会のために海外等から借り受けた美術品に損害が生じた場合にその損害を政府が補償する「美術品補償制度」が設けられています。この制度の創設以来,平成28年3月末現在で23件(27年度は5件)の展覧会が美術品補償制度の対象になっています。美術品補償制度によって,展覧会の主催者の保険料負担が軽減され,広く全国で優れた展覧会が安定的・継続的に開催されることが期待されています。
 また,「海外の美術品等の我が国における公開の促進に関する法律」によって,従来は強制執行等の禁止措置が担保されていないために借り受けることが困難であった海外の美術品等を公開する展覧会の開催が可能となっています。平成27年度は12件の展覧会で公開するために借り受けた美術品等を指定しました。

3 登録美術品制度

 「美術品の美術館における公開の促進に関する法律」に基づいて,優れた美術品の美術館や博物館における公開を促進する「登録美術品制度」が設けられています。この制度は,優れた美術品について,個人や企業等の所有者からの申請に基づき,専門家の意見を参考にして文化庁長官が登録するものです。登録された美術品は,所有者と美術館の設置者との間で結ばれる登録美術品公開契約に基づき,当該美術館において5年以上の期間にわたって計画的に公開・保管されます。また,登録美術品については,相続税の物納の特例措置(※4)が設けられています。平成28年3月末現在までに,69件(8,379点)の美術品が登録美術品として登録されています。

4 国立美術館

 国立の美術館として,東京国立近代美術館,京都国立近代美術館,国立西洋美術館,国立国際美術館,国立新美術館が設置されています。各国立美術館では,それぞれの特色を生かしつつ,5館が連携・協力して,美術作品の収集・展示,教育普及活動やこれらに関する調査研究を行うとともに,我が国の美術振興の拠点として,国内外の研究者との交流,学芸員の資質向上のための研修,公私立美術館に対する助言,地方における巡回展などを行っています(※5)(図表2‐9‐19)。
 各国立美術館は,定期的に企画展を開催しています。平成27年度においては,「Museum, No Life?―これからの美術館事典 国立美術館コレクションによる展覧会」(東京国立近代美術館),「琳派400年記念『琳派イメージ』展」(京都国立近代美術館),「ボルドー展―美と陶酔の都へ」(国立西洋美術館),「クレオパトラとエジプトの王妃展」(国立国際美術館),「ニキ・ド・サンファル展」(国立新美術館)などを開催しました。東京国立近代美術館フィルムセンターでは,「第37回映画俳優 志村喬」の上映などを行いました。
 また,美術館を活用した鑑賞教育の充実のための指導者研修を実施したり,国立国会図書館や国立情報学研究所などと連携して美術情報を多元的に発信したりしています。

図表2‐9‐19 国立美術館


  • ※4 相続税の物納の特例措置:相続税の物納が認められる優先順位を国債や不動産などと同じ第一位とするもの。物納された美術品は,それまで公開契約を結んでいた美術館に無償で貸与され,引き続き美術館での保管・公開が可能となる。これまでに2件の美術品が物納されている。
  • ※5 参照:http://www.artmuseums.go.jp/

5 国立文化財機構

 国立文化財機構は,東京国立博物館,京都国立博物館,奈良国立博物館,九州国立博物館の4博物館を設置し,有形文化財を収集・保管して広く観覧に供するとともに,東京文化財研究所,奈良文化財研究所,アジア太平洋無形文化遺産研究センターを加えた7施設において調査・研究などを行うことにより,貴重な国民的財産である文化財の保存と活用を図ることを目的としています(※6)(図表2‐9‐20)。


  • ※6 参照:http://www.nich.go.jp

図表2‐9‐20 国立文化財機構

 各博物館では,現在,国宝・重要文化財を含めて約12万件の文化財を所蔵しています。
 これらの文化財を活用し,平常展,企画展などを通じて日本の歴史・伝統文化や東洋文化の魅力を国内外に発信する拠点としての役割も担っています。
 平成27年度においては,「鳥獣戯画‐京都 高山寺の至宝‐」(東京国立博物館),「琳派 京を彩る」(京都国立博物館),開館120年記念特別展「白鳳‐花ひらく仏教美術‐」(奈良国立博物館),「美の国 日本」(九州国立博物館)などの特別展を開催しました。
 東京文化財研究所では,日本・東洋の美術・芸能等の文化財に関する調査研究や文化財の保存に関する科学的な調査,修復材料・技術の開発に関する研究を行っています。また,海外の博物館・美術館が所蔵する日本古美術品の修復協力,ミャンマー等アジア諸国を中心とした文化財保存修復協力,ネパールにおける復興支援など,国際交流も進めています。
 奈良文化財研究所では,遺跡,建造物,歴史資料などの調査研究や平城宮跡,飛鳥・藤原宮跡の発掘調査などを進めています。全国各地の発掘調査などに対する指導・助言や発掘調査を行う専門職員などに対する研修も行っています。
 平成23年10月に日本政府とユネスコの協定に基づき設置されたアジア太平洋無形文化遺産研究センターでは,アジア太平洋地域における無形文化遺産保護を強化する拠点の一つとして様々な活動を行っています。
 なお,国立文化財機構は東日本大震災等における文化財レスキュー事業等の経験を踏まえ,大規模災害に対応した文化財等の救出・救援体制を確保するため,機構内に設置した「文化財防災ネットワーク推進本部」において,今後起こり得る大規模災害に当たって機構が果たすべき文化財の防災・救援業務に係る研究や文化財等の防災に関する各種団体とのネットワーク構築等を進めています。

6 日本芸術文化振興会

(1)伝統芸能の保存・振興

 我が国の伝統芸能の振興の拠点として,国立劇場,国立演芸場,国立能楽堂,国立文楽劇場,国立劇場おきなわが設置されています。日本芸術文化振興会は,これらの5館を通して,歌舞伎,文楽,舞踊,邦楽,大衆芸能,能楽,組踊などの伝統芸能の公開や伝承者の養成,伝統芸能に関する調査研究・資料の収集及び活用,劇場施設の貸与などの事業を行っています(図表2‐9‐21)。
 平成27年度は,公演事業として,5館で計184公演(1,033回)を実施しました。歌舞伎では,物語の展開を理解しやすいように筋を通した「通し狂言」の上演に努めており,100年ぶりの復活となる「由良兵庫之助新邸(ゆらひょうごのすけしんやしき)」等を含む「通し狂言 神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)」などの上演を行いました(国立劇場)。文楽では新作にも取り組み,英国の民話「ジャックと豆の木」を題材にした,「ふしぎな豆の木」を制作し上演しました(国立文楽劇場)。能楽では,特別企画公演「復興と文化 特別編 老女の祈り」において,東日本大震災から5年を機に被災地の宮城県名取市を舞台とした能「名取(なとり)ノ老女(ろうじょ)」を約550年ぶりに復曲上演しました(国立能楽堂)。
 また,外国人を対象とした「DiscoverKABUKI―外国人のための歌舞伎鑑賞教室―『壺坂霊験記(つぼさかれいげんき)』」を上演しました。伝承者養成事業では,平成28年3月現在,歌舞伎俳優9名,歌舞伎音楽(竹本)2名,歌舞伎音楽(鳴物)1名,歌舞伎音楽(長唄)1名,大衆芸能寄席囃子6名,能楽2名,文楽3名,組踊10名がそれぞれ研修中です。
 また,伝統芸能に関する調査研究を継続的に実施しているほか,各館において展示や各種講座などを実施し,伝統芸能に関する理解促進と普及に努めています。

(2)現代舞台芸術の振興・普及

 我が国の現代舞台芸術の振興の拠点として,新国立劇場が設置されています。日本芸術文化振興会は,新国立劇場を通して,オペラ,バレエ,現代舞踊,演劇等の公演の実施や,実演家等の研修,現代舞台芸術に関する調査研究・資料の収集及び活用,劇場施設の貸与等を行っています(※7)(図表2‐9‐21)。
 平成27年度は,公演事業としてオペラ「ラインの黄金」,バレエ「ホフマン物語」,現代舞踊森山開次「サーカス」,演劇「パッション」などの新制作に取り組み,計30公演(271回)を実施しました。実演家研修事業では,28年3月現在,オペラ15名,バレエ11名,演劇30名がそれぞれ研修中です。
 また,新国立劇場や新国立劇場舞台美術センター資料館において展示や各種講座などを実施し,現代舞台芸術の理解促進と普及に努めています。

図表2‐9‐21 日本芸術文化振興会


  • ※7 参照:http://www.nntt.jac.go.jp/

第7節 国際文化交流を通じた日本文化の発信と国際協力への取組

1 国際文化交流の総合的な推進

(1)文化関係の国際的なフォーラムの開催・参加

1.日中韓文化大臣会合

 日中韓文化大臣会合は,文化交流・協力の強化に向けた方策等について,日中韓3か国の文化担当大臣が意見交換を行うものです。平成27年12月に中国の青島市で開催された第7回会合では,「青島行動プログラム」を採択し,27年から29年の3年間の日中韓3か国における文化交流・協力の方向性を確認しました。
 これまでの会合での合意に基づき,「東アジア文化都市」,「日中韓芸術祭」,「日中韓文化芸術教育フォーラム」などの3か国共同事業を実施しています。

2.ASEAN+3文化大臣会合

 ASEAN+3文化大臣会合は,東南アジア諸国連合(ASEAN)の10か国と日中韓3か国の文化担当大臣が,ASEAN統合の深化に向けて文化分野における協力について意見交換を行うものです。平成26年4月にベトナムで開催された第6回会合では,日本の提案により,初めての「日ASEAN 文化大臣会合」が同時開催されました。
 この会合における日本からの提案を踏まえ,映画・アニメーションなど我が国が強みを持つ文化分野の専門人材をASEAN諸国に派遣することにより人材育成支援等を行っています。

(2)文化芸術活動を行う者の国際的な交流

1.文化交流使の派遣

 世界の人々の日本文化への理解の深化や日本と外国の文化人等のネットワーク形成・強化を目的として,芸術家,文化人など文化芸術に携わる人々を一定期間「文化交流使」として指名し,海外に派遣しています。文化交流使は,海外で実演,実技指導,講演,講義,上映,展示,共同制作,情報交換などを行っています。平成27年度は,7人を新たに指名し,能,コンテンポラリーダンス,写真,和食,津軽三味線といった様々な分野で活躍中の文化人・芸術家が活動を行いました。また,日中韓文化大臣会合(※8)における合意を踏まえて26年度から中国及び韓国との間で実施している「東アジア文化交流使」についても,27年度に,新たに指名された3人が,両国において公演や実技指導,共同制作などを行いました。

2.ハイレベル文化人専門家の招へい

 文化庁では,外国のハイレベルの文化人,芸術家や文化財専門家などを招へいし,我が国関係者との意見交換などを実施しています。平成27年度は,ベトナム,イタリア,中国,オランダ,英国の5か国から5人の専門家を招へいしました。

(3)東アジア諸国や国際交流年に設定された国々等との交流

1.東アジア文化都市

 東アジア文化都市は,日中韓3か国から1都市ずつを選定し,都市間交流を行いながら,各都市において現代の芸術文化や伝統文化,多彩な生活文化に関する様々な文化芸術イベント等を実施する文化事業であり,平成26年から開始しました。日本における東アジア文化都市として,26年は神奈川県横浜市が,27年は新潟県新潟市が,28年は奈良県奈良市がそれぞれ選ばれています。

2.「国際交流年」における大型文化事業の開催

 文化,教育,スポーツなど幅広い分野で官民を通じた交流事業を開催・実施することによって諸外国との友好と相互理解を深めるため,多くの国・地域との「国際交流年」が設定されています。平成27年は「日韓国交正常化50周年」,「日ブラジル外交関係樹立120周年」などに当たり,文化庁では様々な事業を主催・支援しました。

3.文化芸術の海外発信拠点形成事業

 文化庁では,日本各地に文化芸術創造と国際的発信の拠点形成を推進するため,異文化交流の担い手となる外国人芸術家の積極的受入れや,国際的な文化芸術創造といった各地域において取り組まれている特色ある国際文化交流事業(アーティスト・イン・レジデンス)を支援しています。平成27年度は,24件の団体に対して支援を行いました。


  • ※8 参照:第2部第9章第7節 1 (1)1.

2 芸術文化の国際交流の推進

 芸術文化の国際交流の推進は,我が国の芸術文化水準の向上を図るとともに我が国に対するイメージの向上や諸外国との相互理解の促進に貢献するものです。文化庁では,芸術文化の国際交流を推進するため,芸術団体が海外公演を行ったり,有名な国際芸術祭に参加したり,海外映画祭等に出品したりする取組を支援しています。

3 文化財国際交流・協力の推進

 文化庁では,文化芸術振興基本法や第4次基本方針などを踏まえ,世界に誇ることができる芸術を創造し,これを国内外に発信するとともに,文化芸術の国際交流・文化遺産の保護における国際協力などを推進しています。

(1)文化遺産の保護における国際協力

 「海外の文化遺産の保護に係る国際的な協力の推進に関する法律」を踏まえ,文化遺産国際協力コンソーシアムの下で,文化庁,外務省,大学・研究機関,民間助成団体等が一体となって連携協力し,文化遺産の保護における国際協力を効果的かつ効率的に推進しています。具体的には,国内の各研究機関等とネットワークを構築して,文化遺産国際協力に関する調査研究や普及啓発などを行っています。

(2)国際社会からの要請等に基づく国際支援

 文化庁では,文化遺産国際協力コンソーシアム,外務省や国際交流基金その他の関係機関との協力の下で,文化遺産の保護における国際貢献事業として,1.緊急的文化財国際事業,2.文化遺産国際協力拠点交流事業を実施しています。

1.緊急的文化財国際事業

 平成16年度から,紛争や自然災害によって被災した文化遺産について関係国や機関からの要請等に応じ,我が国の専門家の派遣や相手国の専門家の招へいを行うなど緊急対応の専門家交流事業を実施しています。27年度は,ネパールにおける文化遺産被災状況調査と,ベイルート(レバノン)での国際シリア考古学文化遺産会議を実施しました。

2.文化遺産国際協力拠点交流事業

 平成19年度から,海外の国や地域において文化遺産の保護に重要な役割を果たす機関等との交流や協力を行う拠点交流事業を実施し,現地で文化遺産の保護に携わる人材の養成に取り組んでいます。27年度からは,ブータンの無形文化遺産の法制度整備に関する拠点交流事業や,ミャンマーの文化遺産のデジタル保存展示に関する拠点交流事業を実施しました。

(3)二国間取り決め等による国際交流・協力

1.日本古美術海外展

 平成27年2月から5月までフィラデルフィア美術館(米国・フィラデルフィア)おいて日本古美術海外展「狩野派」展を開催するとともに,27年10月から28年2月にかけては,ミュージアム・アーツ・アンド・デザイン(米国・ニューヨーク)において,「日本の工芸未来派」展を開催しました。「狩野派」展では,国宝,重要文化財等を含む狩野派の絵画を展示しました。また,「日本の工芸未来派」展では,陶器・磁器・漆芸・人形などの工芸作家からなる現代工芸作品を展示しました。

写真左:フィラデルフィア美術館(米国・フィラデルフィア)日本古美術海外展「狩野派」展
 写真左:フィラデルフィア美術館(米国・フィラデルフィア)日本古美術海外展「狩野派」展

写真右:ミュージアム・アーツ・アンド・デザイン(米国・ニューヨーク)海外展「日本の工芸未来派」展
 写真右:ミュージアム・アーツ・アンド・デザイン(米国・ニューヨーク)海外展「日本の工芸未来派」展

2.アジア諸国への文化財の保存修復協力

 文化庁では,アジア諸国に文化庁の調査官等を派遣して,歴史的建造物の共同調査や保存修復についての技術協力を行っています。また,アジア諸国の文化財の専門家や行政官を招へいして,技術協力に関する協議や研修を行うなど文化財建造物の保存修復分野における研究交流,人材育成を推進しています。

3.イタリアとの交流・協力

 我が国は,文化財の保存修復や国際協力の分野で長年の経験を有するイタリアと日伊文化遺産国際協力に関する覚書を締結して,積極的な交流を行っています。平成20年度から壁画の保存修復と活用の調和に関する協力や,文化的景観と歴史的街区の保護に関する協力等の共同プロジェクトが進行しています。

4.イクロムとの連携協力

 我が国は,国際機関である文化財保存修復研究国際センター(ICCROM:イクロム)に加盟し,分担金の拠出や国際的な研究事業等への協力を行っています。文化庁では,平成12年度から文化庁の調査官を派遣し,連携の強化を図っています。

(4)文化財の不法な輸出入等の規制

 我が国では,不法な文化財取引を防止し,各国の文化財を不法な輸出入等の危険から保護するため,平成14年に「文化財の不法な輸入,輸出及び所有権移転を禁止し及び防止する手段に関する条約」を締結し,「文化財の不法な輸出入等の規制等に関する法律」を制定しました。この法律では,外国の博物館等から盗取された文化財の輸入を禁止しており,盗難被害にあった者は,民法で認められている代価弁償を条件として,特例として回復請求期間が10年間に延長されています。
 平成27年10月には,経済産業省告示第199号を受け,「シリアにおいて不法に取得された文化財の輸入における取扱いについて」(平成27年10月5日文化庁文化財部長通知)を発出しました。これにより,既に輸入規制の対象となっているイラクから不法に持ち出された文化財等に加え,シリアにおいて不法に取得された文化財についても,輸入規制の対象となり,原則輸入の承認が行われないことになりました。

(5)武力紛争の際の文化財の保護

 我が国では,武力紛争時における文化財を保護するため,「武力紛争の際の文化財の保護に関する条約」と「武力紛争の際の文化財の保護に関する法律」等に基づいて,武力紛争時に他国に占領された地域(被占領地域)から流出した文化財の輸入が規制されています。
 また,武力紛争時において戦闘行為として文化財を損壊する行為や,文化財を軍事目的に利用する行為等が罰則の対象となっています。

第8節 社会の変化に対応した国語施策の推進

 国語は,国民の生活に密接に関係し,我が国の文化の基盤になるものです。文化庁では,時代の変化や社会の進展に伴って生じる国語に関する諸問題に対応して,より適切な国語の在り方を検討しながら,その改善のために必要な施策を実施しています。

1 常用漢字表に関する手当て等の検討

 「常用漢字表」(平成22年11月30日内閣告示)は,文化審議会「改定常用漢字表(答申)」(22年6月7日)を踏まえて定められています。文化庁では,常用漢字表を活用し,社会における漢字使用をより適切なものにしていくための検討を行っています。26年度からは,文化審議会国語分科会において「手書き文字の字形」と「印刷文字の字形」に関する指針の作成について審議し,28年2月に「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」を取りまとめました。この指針では,「常用漢字表」の「(付)字体についての解説」の内容を取り上げ,印刷文字と手書き文字における表現の違いや,筆写の楷書ではいろいろな書き方があるものなどについて,Q&A方式の説明や字形比較表等によって,具体的に分かりやすく解説しています(図表2‐9‐22)。

図表2‐9‐22 Q&A「令」や「鈴」を手書きの楷書でどう書くか

Column No.13 「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」について

 文化審議会国語分科会は,平成28年2月29日に「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」を取りまとめました。この指針では,国が社会生活における漢字使用の目安として示す「常用漢字表」の「(付)字体についての解説」の内容を,より分かりやすく,具体的に説明しています。
 「木」の字の縦画をはねて書いたら誤りでしょうか。教科書に掲載されている字や,ふだんよく目にする明朝体の活字もとめた形です。そのようなこともあって,はねないで書いたものだけが正しい,と考える方もあるようです。しかし,「常用漢字表」には,どちらの書き方をしてもよいことが,次のように示されています。

  歴史的にも,はねて書かれた「木」の例は多く,筆勢の自然な表れであるという考え方があります。はねた「木」の字を手本としている書写に関する本もあります。はねて書くかとめて書くかの間には,本来,優劣がないのです。
 これは,「木」に限った話ではありません。手書きの文字は,伝統的に様々な形で書かれてきました。しかし,印刷文字や情報機器に映し出される字を見ることが圧倒的に多くなっている現代の社会では,多様な手書き文字に親しむ機会が少なくなっています。
 そのために,印刷文字の形だけが正しいと思い込んだり,微細な違いによって文字の正誤を判断したりするといった傾向が生じています。

常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)

 常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」は,このような漢字の字体や字形に関する問題について,Q&A方式の解説や,具体的な手書き文字の例を掲げるなどして,分かりやすく説明しています。教育関係者や,窓口などで手書きの漢字を扱う機会がある方などに,実用的な手引として活用していただくとともに,文字をのびのびと手書きする上での参考資料としても多くの方に広く親しんでいただきたいと願っています。指針は,下記URLから御覧いただけます。

http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/jitai_jikei_shishin.pdf

2 国語に関する世論調査

 文化庁では,平成7年度から「国語に関する世論調査」を実施し(※9),現在の社会変化に伴う日本人の国語意識の現状について調査し,その結果を毎年秋に公表しています。27年9月に公表した26年度「国語に関する世論調査」では,文化審議会国語分科会において審議の参考とするための問い「手書き文字の字形と印刷文字の字形」に関するものを中心に,全部で25の項目について調査しました。
 また,「国語に関する世論調査」で平成12年度調査から取り上げてきた慣用句等の調査結果に基づいて作成した動画「ことば食堂へようこそ!」を,YouTube文部科学省公式チャンネルMEXTchにおいて公開中です(※10)。


  • ※9 参照:http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/kokugo_yoronchosa/index.html
  • ※10 参照:http://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kokugo_shisaku/kotoba_shokudo/index.htm

Column No.14 国語に関する世論調査

 平成26年度「国語に関する世論調査」では,社会や家庭における言葉遣い,外国人に対する日本語教育,手書き文字の字形と印刷文字の字形,言い方の使用頻度,新しい複合語・省略語,慣用句等の意味・言い方など,全部で25の項目について調査しました。
 ここでは,社会や家庭における言葉遣いについて,「あなたは,あなたの周りにいる中学生や高校生の話を聞いて,言葉遣いが乱れていると感じていることがありますか。それとも,感じることがありませんか。」という問いの調査結果を紹介します(図表2‐9‐23)。
 言葉遣いが「乱れていると感じることがある(計)」は,72.8%となっています。
 過去の調査結果(平成12,19年度)と比較すると,「乱れていると感じることがある(計)」は減少傾向にあり,「乱れていると感じることがない(計)」は増加傾向にあります。

図表2‐9‐23 中学生・高校生の言葉遣いの乱れについて

 次に,「乱れていると感じることがある(計)」と答えた人(全体の72.8%)に,「中学生や高校生がどんな言葉遣いをしているときに,乱れていると感じますか(選択肢の中から幾つでも回答)。」と尋ねました。
 上位5項目を見ると(図表2‐9‐24),「若者言葉を使っているとき」が45.8%と最も高く,次いで,「汚い言葉を使っているとき」(42.5%),「ものの言い方が乱暴なとき」(40.6%)となっています。
 過去の調査結果(平成12,19年度)と比較すると,「若者言葉を使っているとき」は19年度調査では51.6%と最も高くなっていますが,今回調査では6ポイント減少しています。また,「ものの言い方が乱暴なとき」は12年度調査では54.8%と最も高くなっていますが,減少傾向にあります。

図表2‐9‐24 中学生・高校生の言葉遣いに乱れを感じるとき上位5項目(複数回答)

 性別に見ると(図表2‐9‐25),「汚い言葉を使っているとき」は,男性(36.1%)より,女性(48.0%)の方が12ポイント高くなっており,「挨拶をきちんとしないとき」は,女性(38.2%)より,男性(41.9%)の方が4ポイント高くなっています。

図表2‐9‐25 中学生・高校生の言葉遣いに乱れを感じるとき上位5項目(性別)(複数回答)

 以上のとおり,中学生・高校生の言葉遣いに対する意識は,経年によって変化していること,また性別によって異なる傾向があることが分かりました。言葉遣いに対する意識は人それぞれですが,中学生・高校生に限らず,社会全体で望ましい言葉遣いの在り方について考えていくことが期待されます。

3 消滅の危機にある言語・方言に関する取組

 平成21年2月にユネスコがアイヌ語など国内の八つの言語・方言(※11)が消滅の危機(※12)にあると発表したことを受けて,文化庁では,これらの調査研究や周知の取組等を行っています(図表2‐9‐26)。また,23年3月11日に起きた東日本大震災の被災地の方言に関する調査を行い,その保存・継承のための取組を支援しています。

図表2‐9‐26 ユネスコによる日本における消滅の危機にある言語・方言とその危機状況


  • ※11 ユネスコでは,日本で「方言」として扱われる言葉も「言語」として扱っている。
  • ※12 ユネスコでは,消滅の危機状況について,危機の度合いの高いものから順に,【絶滅】,【極めて深刻】,【重大な危険】,【危険】,【脆(ぜい)弱】,【安全】と表している。

危機的な状況にある言語・方言サミット(那覇)
 危機的な状況にある言語・方言サミット(那覇)

被災地方言の活性化支援事業(八戸)
 被災地方言の活性化支援事業(八戸)

 ユネスコが認定した危機言語・方言のうち,平成22年度と24年度にアイヌ語,奄美(あまみ)方言,宮古方言,与那国方言について,25年度と26年度に八丈方言,国頭(くにがみ)方言,沖縄方言,八重山方言について,それぞれ危機度の実態や保存・継承のための取組状況を調査しました。
 これらの調査を受け,文化庁では,平成27年度には,危機的な状況を周知するための「危機的な状況にある言語・方言サミット」を9月に那覇で開催しました。また研究者と行政等の担当者の情報交換の場として,「危機的な状況にある言語・方言に関する研究協議会」を2回開催しました。
 さらに,平成25年度,26年度に,「極めて深刻」とされたアイヌ語を保存・継承するため,アイヌ語音声資料を文字化したり翻訳や注釈を作成したりするなどアーカイブ(保存記録)化に関する研究を進め,27年度からは,アイヌ語のアナログ音声資料のデジタル化とアイヌ語のアーカイブ作成の支援とを始めました。27年度は,約280本のアナログ音声資料を対象としたデジタル化と,アイヌ民族博物館(白老町)のアーカイブ作成の支援を行いました。
 また,文化庁では,東日本大震災によって被災地の方言が危機的な状況にあると考え,青森県,岩手県,宮城県,福島県,茨城県の各方言の特徴と方言に対する意識を調査し,平成25年度から,被災地における方言の活性化支援事業を実施するなど被災地の方言の保存・継承に資する活動を支援しています。27年度には,9件を採択しました。
 なお,平成22年度以降の消滅の危機にある言語・方言に関する調査研究の結果等については,文化庁ウェブサイトで公開しています(※13)。

第9節 外国人に対する日本語教育施策の推進

1 外国人に対する日本語教育施策

 国内の在留外国人数は,約223万人と近年は200万人を超えて推移しており,我が国に中長期に在留する外国人が増加しています(平成27年12月末時点,法務省調べ)。国内の日本語学習者数は,東日本大震災の影響で一時減少したものの,その後は増加し,約19万人(27年11月時点,文化庁調べ)となっています。日本で暮らす多くの外国人が様々な目的で日本語を学んでいます(図表2‐9‐27)。
 このような状況の下で,文化庁では,コミュニケーションの手段,文化発信の基盤としての日本語教育の推進を図るため様々な取組を行っています(図表2‐9‐28)。


※13参照:http://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kokugo_shisaku/kikigengo/index.html

図表2‐9‐27 国内の日本語教育実施機関・施設等数,日本語教員数,日本語学習者数の推移

図表2‐9‐28 日本語教育に関する主な事業

2 「生活者としての外国人」に対する日本語教育の内容・方法の充実

 文化庁では,文化審議会国語分科会日本語教育小委員会が取りまとめた「『生活者としての外国人』に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案」など(図表2‐9‐29)を踏まえ,これらが地域の日本語教育を推進していく上でよりどころの一つとして一層活用されるよう,周知を図っています。

図表2‐9‐29 「生活者としての外国人」に対する日本語教育プログラムの実践のための5点セット

3 日本語教育の更なる推進に向けた施策の検討

 日本語教育をめぐる状況の変化に対応するため,文化審議会国語分科会日本語教育小委員会は,「課題整理に関するワーキンググループ」を設置し,平成25年2月に「日本語教育の推進に向けた基本的な考え方と論点の整理について(報告)」を取りまとめ,日本語教育を推進するに当たっての主な論点を11に整理しました。
 26年度からは,論点7「日本語教育のボランティアについて」,論点8「日本語教育に関する調査研究の体制について」の検討を行い,28年2月に「地域における日本語教育の推進に向けて―地域における日本語教育の実施体制及び日本語教育に関する調査の共通利用項目について―(報告)」(※14)を取りまとめました。
 論点7については,国・都道府県・市区町村におけるボランティアを含めた日本語教育の実施体制の考え方について示すとともに,各地における日本語教育の実施体制の構築事例を「つながる・つくる・ひろげる」の三つのキーワードと六つのポイントから紹介しています。
 論点8については,地方公共団体が行っている外国人の日本語教育に関する調査項目の共通化について提案しています。これは,共通の調査項目により実施された外国人の日本語教育に関する調査結果を文化庁において収集・分析することによって,日本語教育を必要とする外国人の数や日本語学習環境などの全国的な状況を把握するとともに,関係者との情報共有により,今後の日本語教育施策の企画立案に役立てることを目的としています。
 今回の報告により,国,都道府県,市区町村及び関係団体の連携が図られ,日本語教育がより一層推進されることが期待されます。

平成25年2月取りまとめ
 平成25年2月取りまとめ
 「日本語教育推進に向けた基本的な考え方と論点の整理について(報告)」のイメージ図


  • ※14 参照:http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/hokoku_160229.pdf

第10節 新しい時代に対応した著作権施策の展開

 文化庁では,我が国が標榜(ぼう)する「文化芸術立国」及び「知的財産立国」の実現を基本理念として,デジタル化・ネットワーク化の進展に伴う著作物等の創作手段や利用手段の多様化などの社会状況の変化に対応した著作権施策を展開しています。

1 環太平洋パートナーシップ協定への対応について

 環太平洋パートナーシップ協定(以下,「TPP協定」という。)は,アジア太平洋地域の12か国が参加する包括的な経済連携協定です。モノの関税だけでなく,サービス,投資の自由化を進め,幅広い分野で21世紀型の新たなルールを構築することを目指しており,著作権等の知的財産権についても,様々な内容について規定し,知的財産権の保護と利用の推進を図る内容となっています。TPP協定は平成27年10月に大筋合意に至り,28年2月には協定文書への署名式が行われました。
 TPP協定では,1.著作物等の保護期間の延長,2.著作権等侵害罪の一部非親告罪化,3.著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段(アクセスコントロール)に関する制度整備,4.配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与,5.法定の損害賠償等に係る制度整備等が求められています。
 これを受け,文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会において,関係団体から聴取した意見を踏まえつつ検討を行い,平成28年2月に「環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に伴う制度整備の在り方等に関する報告書」(※15)を取りまとめました。この報告書で提言された必要な制度整備を行うため,著作権法の一部改正を含む「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案」(※16)が,第190回国会に提出されました。


  • ※15 参照:http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/h2802_taiheiyo_hokokusho.pdf
  • ※16 参照:http://www.cas.go.jp/jp/tpp/torikumi/index.html

2 著作権分科会における検討

 文化審議会著作権分科会は,政府の「知的財産推進計画2015」(平成27年6月知的財産戦略本部決定)等に掲げられている事項を含めた諸課題に対応するため,法制・基本問題小委員会,著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会,国際小委員会の三つの小委員会を設け,下記事項をはじめとする著作権に関する様々な課題について検討を行いました。

(1)教育の情報化の推進

 近年,情報通信技術を活用した様々な教育活動が行われていることを踏まえ,教育の情報化の推進等に係る著作権制度上の課題について検討を行っています。具体的には,1.授業の過程における教材等の送信,2.教育目的における教員や教育機関の間の教材等の共有,及び3.MOOC(※17)等一般人向け公開講座における教材等の送信に関して,著作物の利用円滑化のための著作権上の課題について検討しています。


  • ※17 MOOC:Massive Open Online Course/大規模公開オンライン講座。第2部第11章第1節 4参照

(2)新たなニーズに的確に対応した権利制限規定や円滑なライセンシング体制

 著作物等を利用したサービスを創出し発展させるためのニーズが新たに生じていることを踏まえ,これらに関する課題を集中的に検討するために,平成27年7月にワーキングチームを設置しました。文化庁においては,ワーキングチームでの検討に先立ち,著作物等の利用に関するニーズを広く募集しました。寄せられたニーズに基づき,特に著作物を利用した新規ビジネスに関わる課題について,優先的に解決策の検討を行っています。

(3)クリエーターへの適切な対価還元

 クリエーターは,著作物が利用される際に支払われる対価を基に,創作活動を継続しています。音楽やテレビ番組等を録音・録画する際の対価の支払いを定めた私的録音録画補償金制度が,新しい機器やサービスの台頭に伴い形骸化していることから,クリエーターへの適切な対価の還元の在り方が問題となっており,問題解決のための検討を行っています。

(4)著作権に関する国際的課題への対応

 インターネットによる国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方,著作権に関する国際的ルール作りへの対応の在り方等(※18)について検討しています。


  • ※18 参照:第2部第9章第10節 5

3 著作物の円滑な流通の促進

 インターネットの普及は,著作物のデジタル化とあいまって,著作物の流通形態を劇的に変化させています。このような状況の中で,文化庁は,著作物の流通促進の観点から,次の施策を行っています。

(1)「著作権等管理事業法」の的確な運用

 著作物等の利用者の便宜を図るとともに,権利の実効性を高めるため,著作物等を集中的に管理する事業が普及しています。これらの事業を行う著作権等管理事業者に対して,「著作権等管理事業法」に基づき,年度ごとの事業報告の徴収や定期的な立入検査などを行い,適切に事業が行われるよう指導監督を行っています(登録事業者数:29事業者〈平成28年3月1日現在〉)。

(2)著作権者不明等の場合における裁定制度の運用・改善

 著作権者等やその所在が不明の場合に,文化庁長官の裁定を受けて著作物等を適法に利用するための「裁定制度」の運用を行っています。平成27年度は書籍における著作物や放送番組における実演など4万6,528件の著作物等の利用について裁定を行いました。
 また,権利者不明著作物を含む過去のコンテンツ資産の利用を促進していくため,裁定制度の手続の簡素化,迅速化を図っています。平成28年2月には,著作物等の利用の円滑化を図るため,この制度の利用のための要件の緩和を行いました(※19)。


  • ※19 裁定制度の詳細については参照:http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/

(3)著作権登録制度の運用

著作権に関する事実関係の公示や,著作権が移転した場合の取引の安全の確保などのため,著作権法に基づく登録事務を行っています。

4 著作権教育の充実

 著作権に関する意識や知識を身に付けることは,今日ますます重要となっており,中学校や高等学校の学習指導要領においても著作権について取り扱うこととされています。
 文化庁では,全国各地での講習会の開催や教材の作成・提供を行っています。講習会は,国民一般,都道府県等著作権事務担当者,図書館等職員,教職員を対象として毎年十数か所で開催されています。教材は,児童生徒を対象とした著作権学習ソフトウェア,教職員を対象とした指導事例集,大学生や企業を対象とした映像資料,初心者向けのテキスト,著作権Q&Aデータベース「著作権なるほど質問箱」などを,文化庁ウェブサイトにより広く提供しています(※20)。
 また,文化庁では,平成24年の著作権法改正で導入された違法ダウンロードの刑事罰化に関する質問を整理して公開しているほか,関係事業者と連携しつつ周知に努めています(※21)。

(写真:平成27年度図書館等職員著作権実務講習会(京都会場))
 (写真:平成27年度図書館等職員著作権実務講習会(京都会場))


  • ※20 参照:http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/
  • ※21 詳細については参照:http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/online.html

5 国際的課題への対応

 デジタル化・ネットワーク化の進展に伴い,著作物の国境を越えた新たな流通形態が生まれ,我が国コンテンツの海外での侵害形態として,CD,DVD等いわゆる「パッケージ」の海賊版(違法複製物)に加え,インターネット上の著作権侵害が深刻な問題となっています。文化庁では,積極的にこのような現状に対応した適切な海賊版対策を推進するとともに,国際ルールの構築に参画しています。

(1)海外における海賊版対策

 アジア地域を中心に,我が国のゲームソフト,アニメ,音楽などに対する関心が高まる一方で,これらを違法に複製した海賊版の製造・流通及びインターネット上の著作権侵害が,放置することのできない深刻な問題となっています。このため,文化庁では,権利者による権利行使の実効性を高めるための環境整備を目的として以下の施策を講じています。

  1. 二国間協議等の場を通じた侵害発生国・地域への取締り強化の要請
  2. 侵害発生国・地域における法制面での権利執行の強化の支援
  3. 侵害発生国・地域の取締機関職員等を対象としたトレーニングセミナーの実施
  4. 侵害発生国・地域における著作権普及啓発事業の実施
  5. 我が国の権利者等の諸外国での権利行使の支援

(2)国際ルールづくりへの参画

 国際的ルールづくりへの参画としては,現在WIPO(世界知的所有権機関)(※22)において放送機関に関する新条約の策定に向けた議論などが行われており,我が国は積極的に参画しています。平成24年6月には「視聴覚実演に関する北京条約」が,また25年6月には視覚障害者又はその他の読字障害者による著作物のアクセスと利用の促進を目的とした「盲人,視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約(仮称)」が採択されました。「視聴覚実演に関する北京条約」については,26年5月に国会においてその締結が承認され,6月に加入しました。さらに,EPA(経済連携協定)交渉等の機会を通じて,アジア諸国を中心とする国々に著作権等関係条約の締結を働き掛けています。


  • ※22 参照:第2部第10章第1節 3 (4)

第11節 宗教法人制度と宗務行政

1 宗教法人制度の概要

 現在,我が国には,教派,宗派,教団といった大規模な宗教団体や,神社,寺院,教会などの大小様々な宗教団体が存在し,多様な宗教活動を行っています。そのうち,約18万2,000の宗教団体が「宗教法人法」に基づく宗教法人となっています。(図表2‐9‐30,図表2‐9‐31)
 宗教法人制度を定める宗教法人法の目的は,宗教団体に法人格を与え,宗教団体が自由で自主的な活動を行うための財産や団体組織の管理の基礎を確保することにあります。宗教法人制度は,憲法の保障する信教の自由,政教分離の原則の下で,宗教法人の宗教活動の自由を最大限に保障するため,所轄庁の関与をできるだけ少なくし,各宗教法人の自主的・自律的な運営に委ねています。その一方で,宗教法人の責任を明確にし,その公共性に配慮することを骨子として全体系が組み立てられています。

図表2‐9‐30 宗教法人数

図表2‐9‐31 系統別信者数

2 宗務行政の推進

(1)宗教法人の管理運営の推進

 文化庁では,都道府県の宗務行政に対する指導・助言,都道府県事務担当者の研修会,宗教法人のための実務研修会などの実施,手引書や映像教材の作成などを行っています。
 また,我が国における宗教の動向を把握するため,毎年度,宗教界の協力を得て宗教法人に関する宗教統計調査を実施し,「宗教年鑑」として発行するほか,宗教に関する資料を収集しています。

宗教年鑑など
 宗教年鑑など

(2)不活動宗教法人対策の推進

 宗教法人の中には,設立後,何らかの事情によって活動を停止してしまったいわゆる「不活動宗教法人」が存在します。不活動宗教法人は,その法人格が売買の対象となり,第三者が法人格を悪用して事業を行うなど社会的な問題を引き起こすおそれがあり,ひいては宗教法人制度全体に対する社会的信頼を損なうことにもなりかねません。
 このため,文化庁と都道府県においては,不活動状態に陥った法人について,活動再開ができない場合には,吸収合併や任意解散の認証によって,また,これらの方法で対応できない場合には,裁判所に解散命令の申立てを行うことによって,不活動宗教法人の整理を進めています。

(3)宗教法人審議会

 宗教法人の信教の自由を保障し,宗教上の特性などに配慮するため,文部科学大臣の諮問機関として宗教法人審議会が設置されています。

第12節 アイヌ文化の振興

 文部科学省と国土交通省では,「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」に基づいて,同法の規定に基づく業務を行う団体として公益財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構を指定し,アイヌに関する研究等の助成,アイヌ語の振興,アイヌ文化の伝承再生や文化交流,普及事業,優れたアイヌ文化活動の表彰やアイヌの伝統的生活空間(イオル)の再生事業等を支援しています。
 また,文化庁では,「アイヌ文化の復興等を促進するための『民族共生の象徴となる空間』の整備及び管理運営に関する基本方針について」(平成26年6月13日閣議決定)を踏まえ,「国立のアイヌ文化博物館(仮称)基本計画」を取りまとめました。これを踏まえ設計に着手するとともに,運営に向けた調査・検討を進めています。

お問合せ先

生涯学習政策局政策課

-- 登録:平成28年10月 --