ここからサイトの主なメニューです

第7章 科学技術・学術政策の総合的推進

総論

 我が国の科学技術行政は、内閣総理大臣を議長とする総合科学技術・イノベーション会議の基本方針の下で、関係府省が連携しつつ推進しています。文部科学省は、科学技術・学術に関する基本的な政策の企画・立案や推進、研究開発に関する具体的な計画の作成や推進、科学技術に関する関係行政機関との調整などを行っています。
 東日本大震災からの復興、急速に進む少子高齢化の対応、新興国の台頭等による国際競争力の相対的な低下など様々な問題を解決し、我が国の経済社会を発展させていくためには、科学技術によるイノベーションの創出が必要不可欠です。こうした認識を踏まえ、政府は、我が国を「世界で最もイノベーションに適した国」にするという方針の下、平成26年6月に、科学技術イノベーションを重要な柱として位置付けた「日本再興戦略」を改訂するとともに、科学技術イノベーション政策の全体像などが定められた「科学技術イノベーション総合戦略2014」を策定しました。
 文部科学省では、こうした政府全体の動きの中で、科学技術・学術の振興のための様々な取組を進めています。

第1節 科学技術・学術政策の展開

1 科学技術基本計画

 科学技術基本計画は、科学技術基本法に基づいて、政府が、科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために策定する計画です。平成8年に第1期科学技術基本計画を策定して以降、これまで5年ごとに科学技術基本計画を策定し、科学技術政策の振興を図ってきました。
 現在、平成27年度までの5年間を対象とする第4期科学技術基本計画(23年8月19日閣議決定)に基づき施策が実施されています。

  1. 東日本大震災及びその後の我が国及び世界を取り巻く状況変化等を考慮し、震災からの復興・再生を柱の一つに位置付け
  2. 科学技術政策に関連するイノベーション政策も幅広く対象に含め、「科学技術イノベーション(※1)政策」として位置付け
  3. 分野による重点化から、課題達成型の重点化への転換
  4. 重要課題対応とともに基礎研究及び人材育成を推進するための取組を強化
  5. 科学技術イノベーション政策を「社会及び公共のための政策」と明確に位置付けるとともに、社会とともに創り進める政策の実現

 文部科学省では、第4期科学技術基本計画の実現に向けて、震災からの復興・再生を遂げ、将来にわたる持続的な成長と社会の発展を実現する国を目指し、グリーンイノベーション及びライフイノベーションの推進に必要な施策(※2)、国家存立の基盤に関わる研究開発を強力に推進するなどの取組(※3)とともに国として取り組むべき重要課題への対応との「車の両輪」として基礎研究の推進と人材育成の強化の取組(※4)や、科学技術コミュニケーションの更なる促進など国民の理解と信頼と支持を得るための取組や研究開発システムの改革(※5)などを進めています。
 また、現在、政府では、平成28年度から32年度までを対象とする第5期科学技術基本計画の策定に向けた議論を始めました。総合科学技術・イノベーション会議において年内を目途に科学技術基本計画について答申した後、政府において第5期科学技術基本計画を策定する予定です。文部科学省では、こうした第5期科学技術基本計画の策定を見据えつつ、26年6月、科学技術・学術審議会に総合政策特別委員会を設置して中長期を展望した科学技術イノベーション政策に係る総合的な政策について調査検討を行いました。なお、同委員会では、27年1月に「我が国の中長期を展望した科学技術イノベーション政策について~ポスト第4期科学技術基本計画に向けて~(中間取りまとめ)」を取りまとめています。


  • ※1 科学技術イノベーション:科学的な発見や発明等による新たな知識を基にした知的・文化的価値の創造と、それらの知識を発展させて経済的、社会的・公共的価値の創造に結びつける革新
  • ※2 参照:第2部 第7章 第3節
  • ※3 参照:第2部 第7章 第4節
  • ※4 参照:第2部 第7章 第5節
  • ※5 参照:第2部 第7章 第6節

2 科学技術・学術振興のための取組

(1)今後の科学技術イノベーション政策の在り方について

 我が国では、科学技術基本法制定から20年が経過し、4期にわたる基本計画の下、研究環境の改善、人材の蓄積、画期的な成果創出が図られてきました。他方で、我が国の科学技術イノベーション政策には課題が山積しています。若手人材のキャリアパスの明確化や基礎研究の多様性の確保、社会変革につながるイノベーションシステムの構築等が喫緊の課題となっています。
 加えて、人口減少や、グローバル化の進展、国際競争の激化、知識基盤社会の本格化、「超サイバー社会(※6)」の到来、安全保障環境の変化、地球環境問題の深刻化など、我が国を取り巻く社会経済の変化への対応も重要となってきています。
 こうした状況を考慮し、「我が国の中長期を展望した科学技術イノベーション政策について~ポスト第4期科学技術基本計画に向けて~(中間取りまとめ)」では、「我が国及び世界の持続的発展のために何をなすべきか」といった観点から我が国の中長期を展望し、政府の二つの役割として、1.「イノベーション創出基盤の強化」、2.「科学技術イノベーションによる社会の牽(けん)引」を位置付けるとともに、大学政策、学術政策、科学技術政策、イノベーション政策が一体となった総合的な政策を提示しています。
 第一に、「イノベーション創出基盤の強化」として、多様な課題にスピード感を持って対応するため、人材システムの改革や、イノベーションの源泉としての学術研究・基礎研究の強化、研究基盤の強化、産学官連携のリニアモデル(※7)からの転換を図った新しいイノベーションシステムを構築していくこと、特に、「人材」のシステム改革が最重要課題であり、若手人材のキャリアパスの明確化・多様化や多様な人材の活躍、人材の流動促進を図っていくことが重要であることを強調しています。
 第二に、「科学技術イノベーションによる社会の牽(けん)引」として、イノベーション創出基盤から生み出される様々な知識・価値を発展させ、国内外の諸課題を解決し、社会の変革を牽引するため、科学技術イノベーション総合戦略が掲げた五つの課題の取組に加えて、望ましい「超サイバー社会」の実現や国主導による基幹技術(国家戦略コア技術)の推進、研究不正への対応等に取り組むことが重要としています。特に、「超サイバー社会」の到来は、社会の在り方や科学の方法論を大きく変化させつつあり、「望ましい『超サイバー社会』の実現に向けた変革」を喫緊の重要課題として、人文学、社会科学、自然科学の協働により速やかに取り組むことが必要としています。
 これらのほか、大学の機能強化や国立研究開発法人の「イノベーションハブ」としての機能強化と資金配分の改革等を行い、政府研究開発投資の対GDP比1パーセントの確保を基本として明確な投資目標を掲げていくことが重要であると指摘しています。
 文部科学省では、報告書を踏まえた具体的方策等を検討しています。


  • ※6 超サイバー社会:サイバー空間の急速な発展に伴って、現実社会の補完・代替のほか、サイバー空間内において現実社会を超える様々な活動が自律的に行われ、実空間との一体化・融合とあいまって、現実社会に大きな影響を及ぼすようになった社会
  • ※7 リニアモデル:基礎研究、応用研究、開発研究と研究開発が直線的に進展することを想定したモデル

(2)新たな研究開発法人制度の改革

 研究開発法人は、長期的視野に立った研究開発、公共性が高い研究開発、現時点ではリスクが高い研究開発など、民間や大学では困難な研究開発を実施する独立行政法人であり、科学技術イノベーションを推進するため、研究開発法人の機能強化を図っていくことが必要です。
 「研究開発力強化法」の改正や「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」(平成25年12月24日閣議決定)などを踏まえ、26年6月、第186回通常国会において、「独立行政法人通則法の一部を改正する法律」が成立しました(27年4月1日施行)。これによって、研究開発型の独立行政法人が他の法人とは異なるカテゴリーの「国立研究開発法人」として位置付けられ、1.法人の目的を研究開発の最大限の成果を確保とすること、2.これまでより長い5年から7年の中長期目標・計画に基づき業務を行うこと、3.目標策定や評価に関する指針を総務大臣が作成するに当たり、研究開発業務の特性を考慮して総合科学技術・イノベーション会議が作成する指針を適切に反映すること、4.主務大臣が目標策定や評価等を行うに当たり、研究開発に関する審議会が、科学的知見や国際的水準に即して適切に助言することなど、その他の独立行政法人にはない制度上の措置が図られることとなりました。
 平成26年6月24日には、「科学技術イノベーション総合戦略2014」などが閣議決定され、研究開発法人については、研究開発の特性(長期性、不確実性、予見不可能性、専門性)等を十分に考慮し、報酬・給与、目標設定、業績評価、物品・役務の調達、自己収入の取扱い等について具体的な運用改善を行うこととされました。
 また、国立研究開発法人の運営費交付金等による独自資金と科学技術振興機構(JST)の資金をマッチングさせ、国立研究開発法人がイノベーションを駆動させる基盤を持つために必要な改革を行うこととしています。
 さらに、目標・評価の面でも、これまで研究開発法人は、他の独立行政法人と同様の画一的な基準で評価されてきましたが、研究開発業務の特性を考慮して、研究開発成果の最大化に重点を置いて総合科学技術・イノベーション会議が作成した指針及びこれを反映し総務大臣が決定した指針を考慮し、主務大臣が中長期目標の策定・変更、評価を行うこととなりました。
 また、政府は、「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」などに基づいて、法律によって、国立研究開発法人のうち世界トップレベルの成果を生み出す創造的業務を担う法人を「特定国立研究開発法人(仮称)」として位置付け、総合科学技術・イノベーション会議及び主務大臣の強い関与や業務運営上の特別な措置等を行います。

(3)年次報告(科学技術白書)

 「科学技術の振興に関する年次報告」(科学技術白書)は、「科学技術基本法」第8条に基づき、政府が科学技術の振興に関して行った施策について、文部科学省が取りまとめて毎年国会に提出している報告書です。平成26年度の年次報告では「科学技術により社会・経済にイノベーションを起こす国へ~科学技術基本法20年の成果とこれからの科学技術イノベーション~」について特集しています。

(4)科学技術・学術政策研究所の調査研究

 科学技術・学術政策研究所では、科学技術政策及び学術の振興に関する基礎的な事項を調査・研究する中核的国立試験研究機関として、国内外の関係機関との連携・交流を図りつつ、様々な調査研究活動を積極的に推進しています。平成26年度においては、1.科学技術システムの現状と課題に関する調査研究(論文に着目した大学の研究力や各大学の強みの比較分析、科学技術人材、科学技術指標)、2.イノベーション創出のメカニズムに関する調査研究(地域イノベーション、国内企業におけるイノベーションの実現状況)、3.社会的課題に対応した科学技術に関する調査研究(科学技術動向、科学技術予測)、4.科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」の推進のための調査研究(政府研究開発投資の経済的・社会的波及効果、データ・情報基盤の整備)などの調査研究を行っています。

(5)総合科学技術・イノベーション会議の司令塔強化への対応

 総合科学技術会議の司令塔機能を強化するため、平成26年4月23日に「内閣府設置法の一部を改正する法律案」が成立し、同年5月19日に施行されたことによって、総合科学技術会議及び内閣府の所掌事務が追加されるとともに、総合科学技術会議は「総合科学技術・イノベーション会議」に改組されました。こうした機能強化によって、府省・分野を越えた横断型の研究開発を推進する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)や、実現すれば産業や社会の在り方に大きな変革をもたらすハイリスク・ハイインパクトな研究開発を推進する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)が本格的に推進されています。科学技術に関する多くの分野の推進を担っている文部科学省も、これらのプログラムに積極的に協力しています。

第2節 学術の振興

1 学術研究の推進方策

 学術研究とは、研究者の内在的な動機に基づいて行われ、真理の探究や課題解決とともに新しい課題の発見が重視されるものです。自主性・自律性を前提として、研究者が知的創造力を最大限発揮することで独創的で質の高い多様な成果が生み出されます。学術研究の成果は、人類の知的共有財産としてそれ自体が優れた知的・文化的価値を持つと同時に、現代社会における経済的・社会的・公共的な価値を創出し、国民生活を豊かにするなど、社会経済の発展や福祉の増進にも大きく貢献しています。
 また、学術研究は、豊かな教養と高度な専門的知識を備えた人材の育成にも貢献しているほか、経済・外交・文化交流等の全ての素地として、国際社会における我が国のプレゼンスの向上等に寄与しています。
 文部科学省では、第2期教育振興基本計画や第4期科学技術基本計画、科学技術・学術審議会における審議などを考慮し、学術研究の振興のために様々な取組を進めています。

(1)学術を振興するための方向性の検討

 科学技術・学術審議会学術分科会では、平成27年1月に「学術研究の総合的な推進方策について(最終報告)」を取りまとめました。この報告では、学術研究の現代的な要請(挑戦性、総合性、融合性、国際性)に着目しつつ、学術研究の多様性を進化させることで卓越した知の創出力を強化するとともに、次代を担う若手研究者の育成、社会との対話・交流、国における学術政策・大学政策・科学技術政策が連携した施策の展開など、国や学術界が行うべき改革の基本的な考え方を示すとともに、具体的な取組の方向性を提示しています。
 具体的な取組の方向性として、運営費交付金等の基盤的経費と科学研究費助成事業(科研費)等の競争的資金によるデュアルサポートシステムの再生、若手研究者の育成・活躍促進、女性研究者の活躍促進、研究推進に係る人材の充実・育成、国際的な学術研究ネットワーク活動の促進、共同利用・共同研究体制の改革・強化、学術研究を支える学術情報基盤の充実、人文学・社会科学の振興、学術界のコミットメントを挙げています。この報告書の内容を踏まえ、学術研究が社会の期待に応えて卓越した成果を創出し続けていくため、学術分科会において今後更に審議を進めていく予定です。

(2)基盤的経費の確実な措置と競争的資金の拡充

 文部科学省では、国立大学法人運営費交付金・私学助成などの基盤的経費を確保するとともに、科研費をはじめとした競争的資金の拡充を図るなど、多様な研究資金制度の確保・拡充に努めています。また、特に科研費の抜本的な改革については、具体的な改革案や工程の検討を開始しており、今後着実に取組を実施していく予定です(※8)。
大学改革と競争的研究費改革は、我が国の知の創出機能、科学技術イノベーション創出力、人材育成機能の強化を考える上で一体的に考える必要があります。文部科学省では、「大学改革と競争的研究費改革の一体的改革に関するタスクフォース」を設置し、大学改革の議論と競争的研究費改革の議論を俯瞰して総合的に検討を進めています。


  • ※8 参照:第2部 第7章 第2節2

(3)世界的教育研究拠点の一層の整備と世界で活躍できる若手研究者の育成等を通じた研究力の強化

 大学共同利用機関や国立大学附置研究所などを中心に、独創的・先端的な学術研究を推進するため、全国の関連研究者のニーズに応えながら、個別の大学では整備や維持が困難な大型の施設・設備や大量の学術資料・データなどの整備への支援を行っています。
 また、学術研究の担い手である優秀な研究者が育ち、十分に能力を発揮することができるよう、日本学術振興会の「特別研究員事業」などを通じ、優れた若手研究者の養成・確保に努めています。
 さらに、世界水準の優れた研究大学群を増強するため、研究大学強化促進事業を実施し、大学等における研究マネジメント人材の確実な配置など集中的な研究環境改革を支援・促進しています。なお、科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会では、平成27年1月に「共同利用・共同研究体制の強化に向けて(最終まとめ)―共同利用・共同研究拠点の在り方を中心に―」を取りまとめ、引き続き、共同利用・共同研究体制の改革・強化のための具体的な取組について審議を進めています(※9)。大学共同利用機関等を中心とした共同利用・共同研究は、我が国全体の学術研究の発展を図る上で極めて効果的であり、文部科学省においては、上記審議まとめを踏まえつつ、共同利用・共同研究体制の改革・強化のための取組を進めています。


  • ※9 参照:第2部 第7章 第2節3

(4)海外拠点との国際的な連携や学際的・学融合的な取組への支援

 文部科学省では、国際的な研究水準を追求し、我が国と世界各国の研究拠点をつなぐ持続的な協力関係を構築するため、日本学術振興会の研究拠点形成事業などを通じて、国内の大学等における研究拠点と海外拠点との間の国際的な連携を支援しています。また、学術研究が更に発展するため、大学等が広く国内外の研究者と連携して進めている従来の学問分野を超えた学際的・学融合的な取組を支援しています。

(5)学術研究の大型プロジェクトの戦略的・計画的推進

 文部科学省では、学術版ロードマップに基づいて、大学や大学共同利用機関の国内外の多数の研究者が参画する学術研究の大型プロジェクトを「大規模学術フロンティア促進事業」として位置付け、戦略的・計画的に推進しています。これまで、アルマ望遠鏡によって惑星が作られつつある現場で生命の起源に密接に関わる糖類分子を発見するといった研究成果を創出しています。平成26年度は人文学・社会科学分野初の新規事業として、日本語の歴史的典籍のデータベースを整備して国際共同研究ネットワークを構築することによって、歴史学、社会学、哲学、医学などの諸分野の研究者が多数参画する異分野融合研究を醸成し、幅広い国際共同研究の展開を目指すプロジェクトにしています(9プロジェクト、229億円)。

(6)学術研究基盤の着実な整備の支援

 文部科学省では、大学等に対する計画的な研究施設・設備の整備・充実、コンピュータやネットワーク及び大学図書館等の学術情報基盤の整備、生物遺伝資源をはじめとする知的基盤の整備など我が国の学術研究基盤が着実に整備されるよう支援を行っています。また、研究成果の利活用を促進して科学技術・学術研究の発展に役立つよう、論文のオープンアクセスに関する動きが世界的に強まっています。さらに、近年のジャーナル(学術誌)価格の上昇に伴ってその動きが加速しているため、論文のオープンアクセスについて検討を進めています(※10)。


  • ※10 参照:第2部 第7章 第2節4

(7)人文学・社会科学等の振興方策

 人文学・社会科学は、人間・文化・社会を研究対象とし、人間の精神生活の基盤を築くとともに、社会的諸問題の解決に寄与するという重要な役割を担っています。このため、科学技術・学術審議会学術分科会の報告等を考慮し、長期的な視点で共同研究の枠組みを構築することなどによって人文学・社会科学の振興を図っています。
 また、東日本大震災に関して、人文学・社会科学分野を中心とする歴史の検証に耐え得る学術調査を実施するとともに、自然科学系の見解等も考慮して、平成27年3月に報告書を取りまとめ、その成果を発信しています。

2 科学研究費助成事業(科研費)の充実

(1)科学研究費助成事業(科研費)の現状

 科研費は、人文・社会科学から自然科学までの全ての分野にわたって、あらゆる「学術研究」(研究者の自由な発想に基づく研究)を対象とする研究助成制度(競争的資金)であり、文部科学省及び日本学術振興会によって運営されています。科研費では、ピア・レビュー(専門分野の近い複数の研究者による審査)によって優れた研究課題を採択し、研究の多様性を確保しつつ、独創的な研究活動を支援することによって、研究活動の裾野を拡大し、持続的な研究の発展と重厚な知的蓄積の形成に資するという役割を果たしています。社会に突破口をもたらす革新的な研究成果の多くも、科研費で支援された研究の中から生み出されています(図表2-7-1)。
 平成26年度の助成額は2,305億円(対前年度比13億円減、予算額は2,276億円)となっており、政府の競争的資金全体の約6割を占めています。

図表2‐7‐1 未来の技術革新の芽を育む科研費

(2)科研費の更なる効率的・効果的使用に向けた取組

 科研費では、これまでも、研究費目を大くくりにして経費の執行を弾力化したり、研究費の翌年度の繰越手続を簡素化したりするなど、限られた研究費の中で効率的・効果的に経費を使用できるよう様々な取組を推進しています。
 平成26年度は、基金化されていない科学研究費補助金部分の前倒し使用や、一定の要件を満たす場合に次年度の使用が可能となる「調整金」制度を改善しました。

(3)研究成果の発信

 科研費の研究成果を公開し、広く国民が研究成果に触れる機会を設けることは、研究成果の活用や国民の科学への理解を深める上で重要です。このため、科研費では、研究成果を国立情報学研究所の科研費データベース「KAKEN(※11)」を通じて、広く公開しています。また、最近の研究成果などを紹介するニュースレター「科研費NEWS」を年4回発行したり、体験・実験などを通じて、小中学生や高校生などに研究成果を分かりやすく紹介するプログラム(ひらめき☆ときめきサイエンス)を実施しています。 

写真 ひらめき☆ときめきサイエンス
ひらめき☆ときめきサイエンス


  • ※11 参照:https://kaken.nii.ac.jp/

(4)研究費の不正使用、研究活動における不正行為等の防止の取組

 科研費では、不正な使用や誤った経理処理をなくすため、ハンドブックの配布や各種説明会の開催などによりルールの周知徹底を図ってきました。また、「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」に基づいて、発注や納品検査の適正な実施など機関管理を徹底しています。さらに、応募に当たって当該研究者が所属する研究機関における公的研究費の管理体制について状況報告書の提出を義務付けたり、文部科学省及び日本学術振興会による研究機関への実地検査を実施したりするなど、研究費の不正使用などの防止に向けた取組を強化しています。
 また、研究活動における不正行為を防止するため、説明会等において各研究機関に対して「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」に基づく対応を求めています(※12)。
 なお、研究費の不正使用、研究活動における不正行為を行った研究者に対して、応募資格の一定期間停止や補助金の返還など厳しい措置を行っています。さらに、平成26年度以降の科研費において不正を行った場合は、原則として不正の概要を公表することとしています。


  • ※12 参照:第2部 第7章 6節2

(5)科研費の改革

 科研費はこれまでも更なる効果的・効率的使用のために制度を不断に見直し、改善を図ってきていますが、科学技術・学術審議会学術分科会では、平成26年8月に「我が国の学術研究の振興と科研費改革について(第7期研究費部会における審議の報告)(中間まとめ)」を取りまとめ、卓越した「知」の創出に向けた科研費の抜本的な改革の検討を開始しています。
 科研費改革の基本的な方向性として、1.科研費の基本的な構造の改革、2.自らのアイデアに基づく継続的な学術研究推進の観点からの見直し、3.国際ネットワーク形成の観点からの見直しと体制整備、4.「学術研究助成基金」の見直し、5.研究成果の一層の可視化と活用を示しています。文部科学省では、この提言を踏まえ、平成27年度から順次改革に着手し、引き続き具体的な改革案や工程について検討していく予定です。

3 独創的・先端的基礎研究を推進する研究機関・拠点の整備

 独創的・先端的研究は、大学の学部・研究科、附置研究所・研究施設及び大学共同利用機関など多様な組織において行われています。このような研究を我が国全体として推進していく上で鍵となるのは、全国の大学等から研究者が集まって、先進的な施設・設備や大量のデータ、貴重な資料などを活用し、効果的・効率的に共同利用・共同研究を行う体制です。
 文部科学省では、平成27年1月の科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会における「共同利用・共同研究体制の強化に向けて(審議のまとめ)」を考慮し、共同利用・共同研究体制の整備・充実を図ることによって、大学の機能強化へ貢献し、それが我が国全体の研究力の向上に繋がる好循環を生み出すよう取組を進めています。

(1)共同利用・共同研究拠点

 文部科学省では、国公私立大学に附置される研究施設のうち、全国の関連研究者に利用させることによって、我が国の学術研究の発展に特に役立つ施設を共同利用・共同研究拠点として認定しています。平成26年度は、新たに8拠点(うち新規認定5拠点)を認定し、95拠点(国立大学77拠点、公立大学2拠点、私立大学16拠点)が共同利用・共同研究を実施しています。
 また、特色ある共同研究拠点の整備の推進事業を実施し、新たに認定を受けた公私立大学の拠点の環境・体制整備に係るスタートアップ(運営開始)のための初期投資を支援することによって、拠点の量的・質的拡充を図っています。
 例えば、静岡大学電子工学研究所では、細胞内の微小構造や機能など目に見えない構造や反応などの現象を可視化する機器の開発等を進めています。平成26年度からは他大学や企業と連携を強化し、内視鏡検査の際に腫瘍が悪性か良性かを短時間でより確実にその場で判断できるよう、極限性能を持つイメージングデバイスの開発を目指した研究を推進しています。また、立命館大学アート・リサーチセンターでは、浮世絵や古典籍等の日本文化資源の膨大なデータベースを国内外の関連研究者に開放するとともに、独自に開発して蓄積されたデジタル・アーカイブ技術やデータベース管理技術を、共同研究プロジェクト活動の基盤として提供しています。

(2)大学共同利用機関法人

 大学共同利用機関は、全国の大学等の研究者が共同研究を推進する拠点であり、特色ある大型の施設・設備や大量の有用な資料・データの共同利用の場として、各分野の発展に大きく貢献するとともに、国際的な競争と協調の中で世界最先端の研究を推進しています。また、総合研究大学院大学をはじめとする大学院学生を受け入れるなど研究と教育を一体的に実施しています。大学共同利用機関は、四つの大学共同利用機関法人によって設置されています。

1.人間文化研究機構

 人間文化研究機構は、国立歴史民俗博物館、国文学研究資料館、国立国語研究所、国際日本文化研究センター、総合地球環境学研究所、国立民族学博物館によって構成され、膨大な文化資料に基づく実証的研究、人文・社会科学の総合化を目指す理論的研究や自然科学との連携を含めた研究領域の開拓に努め、人間文化の総合的学術研究拠点を目指しています。
 国立民族学博物館では、世界の諸民族に関する調査研究並びに資料の収集及び展示等を行っています。平成26年度から国内外の研究機関・博物館との国際的な共同利用・共同研究を推進し、地球規模で文化資源を共有したり共同利用したりすることを可能にする「フォーラム型ミュージアム」の構築を目指すプロジェクトを開始しています。

2.自然科学研究機構

 自然科学研究機構は、国立天文台、核融合科学研究所、基礎生物学研究所、生理学研究所、分子科学研究所によって構成され、宇宙、物質、エネルギー、生命などの自然科学分野の基盤的な研究の推進や各分野の連携による新たな研究領域の開拓と発展などを目指しています。
 未来の学問分野を切り拓(ひら)くための拠点として機構に設置された新分野創成センターは、全国の自然科学研究者と連携して、20年後、50年後の自然科学研究の目標となる学問分野を開拓し、新しい研究者コミュニティの形成を促進しています。平成26年度からブレインサイエンス(脳科学)、イメージングサイエンス(画像科学)に続いて、新たに「宇宙における生命(アストロバイオロジー)」研究分野を立ち上げ、宇宙物理学や生命科学の知見に基づく先端的な研究を推進しています。

3.高エネルギー加速器研究機構

 高エネルギー加速研究機構は、素粒子原子核研究所、物質構造科学研究所、加速器研究施設、共通基盤研究施設によって構成され、高エネルギー加速器を用いた国際共同研究の中核拠点として、素粒子原子核物理学から物質・生命科学にわたる広範な実験・理論研究を展開するとともに、国内外の大学等との連携・協力を推進しています。平成26年度は、電子・陽電子加速器(KEKB)の高度化を終え、これまでに確立している標準理論だけでは説明が困難な現象を手掛かりに、新たな物理法則の解明や宇宙の発展過程で反物質が消え去った謎を明らかにしようとしています。

4.情報・システム研究機構

 情報・システム研究機構は、国立極地研究所、国立情報学研究所、統計数理研究所、国立遺伝学研究所によって構成され、情報とシステムの観点から分野を越えた総合的な研究を推進し、新たな研究の枠組みの構築と新分野の開拓を目指しています。機構長のリーダーシップの下、多分野にわたる質的・量的に膨大な情報(いわゆるビッグデータ)の活用という現代社会の喫緊の要請に対応するため、データ中心科学の研究方法論とデータ基盤を確立し、さらに、それらを活用して科学上の喫緊の諸課題の解決を目指すデータ中心科学リサーチコモンズ事業を実施しています。

4 学術研究の推進に寄与する組織・活動

(1)学協会、研究助成法人等

 学協会は、大学等の研究者を中心に自主的に組織された団体です。個々の研究組織を越えて、研究評価、情報交換あるいは人的交流の場として重要な役割を果たしており、最新の優れた研究成果を発信する学術研究集会・講演会・シンポジウムの開催や、学会誌の刊行などを通じて、学術研究の発展に大きく寄与しています。
 また、研究助成法人や公益信託は、産業界や個人等の寄付によって運営され、研究者に対する学術研究費の助成を主な事業としており、学術振興に極めて大きな役割を果たしています。

(2)研究成果の国際情報発信やオープンアクセス化

 文部科学省では、学協会の活動を振興するため、ジャーナル(学術誌)の電子化などによる学術情報の国際発信力強化に向けた取組や学協会が開催する国際会議、青少年や社会人を対象としたシンポジウムに対して、科研費「研究成果公開促進費」によって助成しています。
 また、研究成果の利活用を促すことで、科学技術・学術研究の発展に貢献するオープンアクセスという概念は、研究開発コストの抑制、境界領域における研究やイノベーションを促進するものとして、世界的に議論が高まっています。さらに、近年、ジャーナルの価格上昇に伴って、論文として発表される研究成果の流通に支障が生じかねない状況が見られます。このため、論文利用者には費用負担を求めないオープンアクセスを確保する動きが世界的に加速しています。我が国としては、学協会の刊行するオープンアクセスジャーナルを育成するため、科研費による支援やJSTによる電子ジャーナルプラットフォーム(J-STAGE)の提供を行うとともに、大学等の機関リポジトリ(※13)に研究者自身が論文を掲載し公開することを促しています。


  • ※13 機関リポジトリ:大学及び研究機関等における教育研究活動によって生産された電子的な知的生産物を保存し、原則的に無償で発信するためのインターネット上の保存書庫

第3節 将来にわたる持続的な成長と社会の発展の実現

1 グリーンイノベーションの推進

 文部科学省では、第4期科学技術基本計画を踏まえ、エネルギーの安定的な供給を確保するとともに、気候変動問題に対応するため、グリーンイノベーションを強力に推進する観点から、我が国が強みを持つ環境・エネルギー技術の一層の革新を促す取組を実施しています。

(1)重要課題達成のための重要施策の推進

1.革新的エネルギー技術に関する研究開発の推進

 長期的に安定的なエネルギー需給構造の構築と世界最先端の低炭素社会を実現するには、従来技術の延長線上にない革新的エネルギー技術の研究開発を推進することが重要です。
 文部科学省では、再生可能エネルギーの導入加速や徹底した省エネルギー社会を目指した研究開発を関係機関と連携して推進しています。
 JSTでは、温室効果ガスの削減を中長期(2030~2050年)にわたって継続的かつ着実に進めていくため、太陽電池及び太陽エネルギー利用システム、蓄電デバイス、バイオテクノロジーなどの研究領域を設定し、新たな科学的・技術的知見に基づく革新的技術の研究開発を推進しています。さらに、経済産業省と連携し、現在の蓄電池を大幅に上回る性能を備える次世代蓄電池技術について基礎から実用化まで一貫した研究開発を推進しています。
 理化学研究所では、国家的・社会的ニーズを考慮した戦略的・重点的な研究開発の一環として、全く新しい概念によって物性科学を創成し、エネルギー変換の高効率化や消費電力を革新的に低減させるデバイス技術に関する研究開発を推進しています。また、石油化学製品として消費され続けている炭素等の資源を循環的に利活用することを目指して、植物科学、微生物科学、化学生物学、合成化学等を融合した先導的研究を推進しています。さらに、植物バイオマス(植物由来の有機性資源)を原料とした新材料の創成を実現するため、国内外の大学や企業等と連携しながら、革新的で一貫したバイオプロセスの確立に必要な研究・技術開発を実施しています。
 これらの研究開発を支える革新的な材料技術の創出を目指して、文部科学省では、希少元素代替材料の研究開発を推進しています。物質・材料研究機構では、次世代太陽電池や高性能発電・蓄電用材料をはじめとする環境・エネルギー材料の高度化等の研究開発を推進しています。また、2014(平成26)年のノーベル物理学賞を受賞した青色発光ダイオードの発明に代表される次世代半導体の研究開発は、我が国が強みを有する分野の一つであり、電力損失を低減する高性能なパワーエレクトロニクス等の様々な応用が可能です。今後、これらの分野において、産学官の力を結集したオールジャパン体制で研究開発・社会実装を推進することによって革新的な省エネルギー社会の実現を目指しています。
 また、東日本大震災の被災地の復興と再生可能エネルギーに関する革新的研究開発を実現するため、東日本大震災からの復興の基本方針(平成23年7月29日東日本大震災復興対策本部決定)に基づいて、福島県において超高効率太陽電池に関する研究開発拠点を形成するとともに、被災地の大学等の研究機関と地元の地方公共団体・企業が協力して再生可能エネルギー技術等の研究開発を推進しています。
 さらに、将来の基幹的エネルギー源として期待される核融合エネルギーの実現に向けて、国際約束に基づくプロジェクトである「国際熱核融合実験炉(ITER)計画」及び「幅広いアプローチ(BA)活動」などによって核融合研究開発を行っています(※14)。

2.地球観測・予測・統合解析に関する研究開発の推進

 地球観測・予測・統合解析によって得られる情報は、グリーンイノベーションを推進する上で重要な社会的・公共的インフラです。これらに関する技術を飛躍的に強化し、地球観測から得られる情報を気候変動問題をはじめとする多様な領域で活用できるようにすることが重要です。
 文部科学省では、地球観測サミットで合意された「全球地球観測システム(GEOSS)10年実施計画」に貢献するため、人工衛星による観測、海洋調査船やブイなどによる海洋観測、南極観測船「しらせ」によって観測隊を南極へ派遣する南極地域観測事業などを実施しています。

図 台風シミュレーションの例
台風シミュレーションの例
提供:気象庁気象研究所

 また、気候変動予測の高度化に加えて、気候変動によって生じる多様なリスクの管理に必要となる基盤的情報を創出するための研究開発を実施しています。具体的には、地球シミュレータ等の世界最高水準のスーパーコンピュータを活用し、今後数年から数十年(近未来)で直面する地球環境変動の予測と診断、温室効果ガス排出シナリオ研究と連携した長期気候変動予測、気候変動の確率的予測技術の開発及び精密な影響評価技術の開発などを進めています。
 さらに、様々な観測・予測データを解析・処理し、温室効果ガス濃度分布、農作物生産、水資源管理など社会的に役立つ情報として提供するため、共通的プラットフォームである「データ統合・解析システム(DIAS)」の高度化、拡張に向けた研究開発を推進しています。また、地球規模の気候変動予測の成果を都道府県・市町村などで行われる気候変動適応策の立案に、科学的知見として提供するために必要なダウンスケーリング(高解像度化)技術等の研究開発を推進しています。

3.大学等の研究機関の連携を強化する取組

 文部科学省では、国内の大学等の研究機関の連携を強化するため、環境エネルギーに関する重要研究分野(先進環境材料、植物科学、環境情報、北極気候変動)のそれぞれに対して、研究目標や研究設備、人材を共有しながら当該分野における世界最高水準の研究と人材育成を総合的に推進するネットワーク・オブ・エクセレンスの構築に向けた取組を推進しています。


  • ※14 参照:第2部 第7章 第4節2

(2)グリーンイノベーション推進のためのシステム改革

 グリーンイノベーションを促進し、我が国の持続的な成長や地球規模の問題解決に迅速かつ効果的につなげていくためには、規制や制度改革などのシステム改革を推進することが重要です。文部科学省では、気候変動に対応した新たな社会の創出に向けた社会システムの改革を目指しています。気候変動の対応の基礎となるエネルギーマネジメント等の要素技術の開発やこれらを組み合わせた社会システムの中で実証実験を実施するなど科学技術の社会実装を推進しています。

2 ライフサイエンスによるイノベーション創出

 健康長寿社会の実現と産業競争力の強化に大きく貢献するものとして、ライフサイエンス(生命科学)によるイノベーションの推進が期待されています。文部科学省では、iPS細胞研究等による世界最先端の医療の実現や疾患の克服に向けた取組を強力に推進しています。また、臨床研究・治験への取組等を強化することによってライフサイエンスによるイノベーションを創出しています。特に、医療分野の研究開発については、「健康・医療戦略」等に基づき、総理大臣を本部長とする健康・医療戦略推進本部の下、関係府省と連携して取り組んでいきます。平成27年4月には、国立研究開発法人日本医療研究開発機構を設立し、基礎から実用化まで切れ目ない研究支援を一体的に行うこととしています。

(1)重要課題達成のための施策の推進

1.世界最先端の医療の実現

 京都大学山中伸弥教授によって樹立されたiPS細胞は、再生医療・創薬等に幅広く活用されることが期待される我が国発の画期的成果です。この研究成果をいち早く実用化につなげるため、iPS細胞等の研究をオールジャパン体制の下で戦略的に推進しています。また、がん・生活習慣病等の早期診断や効果的な治療法の開発を目指して、ゲノム情報を活用した個人個人に最適な医療の実現に向けた取組を推進しています。

図 京都大学山中伸弥教授により樹立されたiPS細胞
京都大学山中伸弥教授により樹立されたiPS細胞

2.がんや精神・神経疾患等の克服

 次世代のがん医療の確立に向けて、基礎研究の有望な成果を厳選し、日本発の革新的な診断・治療薬に資する新規化合物等の「有望シーズ」の開発を戦略的に推進しています。また、認知症やうつ病等の精神疾患等の克服に向けて、その発症に関わる脳神経回路の機能解明を目指した研究開発と基盤整備を強力に進めています。

3.臨床研究・治験の実施体制の強化等による医薬品医療機器開発の推進

 文部科学省では、大学等発の有望な基礎研究成果と臨床の橋渡しを更に加速させるため、橋渡し研究支援拠点の機能強化を推進しています。また、各開発段階のシーズについて国際水準の質の高い臨床研究・治験を実施・支援する体制を整備し、革新的な医薬品・医療機器等を持続的に、かつ、より多く創出することを目指しています。

(2)ライフイノベーション推進のためのシステム改革

1.ライフサイエンス研究を支える体制整備

 文部科学省では、革新的な創薬等に貢献するため、創薬研究等の幅広いライフサイエンス研究に活用することができる高度な基盤の整備を推進しています。また、データベースやバイオリソースを戦略的に整備するほか、アジア・アフリカの8か国に感染症対策に資する研究開発を行う海外研究拠点を整備しています。

2.生命倫理・安全に関する取組
  • (ア)生命倫理に関する問題への取組
     人を対象とする医学系研究について、近年の研究の多様化や臨床研究に関する不適正事案の発生等を考慮し、平成26年12月に従来の「疫学研究に関する倫理指針」と「臨床研究に関する倫理指針」を統合した「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を制定しました(27年4月1日から施行)。
     また、ヒトES細胞について、医療利用を可能にする観点から、平成26年11月に新たな指針を制定しました(同年11月25日から施行)。
  • (イ)ライフサイエンスにおける安全の確保
     遺伝子組換え技術は、人々にとって有用な遺伝子の組合せを新たにつくる技術であり、研究から産業まで広く利用されています。一方、生物多様性に対する影響を防止するため、文部科学省では、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(カルタヘナ法)に基づいて安全規制を行っています。

3 科学技術イノベーションの推進に向けたシステム改革

(1)イノベーション創出に向けた産学官連携の深化

 資源の乏しい我が国が、人口減少下においても国際競争力を強化し、持続的な成長を実現していくためには、イノベーションを起こすことが必要不可欠です。「知」の拠点である大学や公的研究機関は、その原動力として期待されています。

1.産学官連携に関する取組

(ア)革新的イノベーション創出に関する主な取組
 大学や公的研究機関、企業等が集い、世界と戦える大規模産学連携拠点を構築し、基礎研究段階から実用化までの研究開発を集中的に実施し、革新的なイノベーションの創出を目指す取組として、文部科学省とJSTは、平成25年度より「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」を実施しています。
 平成26年度は、トライアルとして実施された拠点を評価し、27年度から新たなCOI拠点として活動を行う6拠点を選定しました(図表2-7-2)。

図表2‐7‐2 COI 採択拠点一覧

(イ)大学等発ベンチャー創出に関する主な取組
 文部科学省では、研究開発成果を核としてイノベーションを実現する「強い大学発ベンチャー」を創出するため、起業前の段階から事業化ノウハウを有した民間人材との連携、起業家・イノベーション創出人材の育成、知財の集約・強化等の大学発ベンチャーの創業及び成長を支える施策を「イノベーション・スーパーブリッジ」として一体的に推進しています。具体的には、平成24年度から実施している大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)(27年度より大学発新産業創出プログラム(START)としてJSTに移管して実施)では、起業前の段階から、ベンチャーキャピタル等の民間人材の事業化ノウハウと市場の視点を活(い)かして、リスクは高いが新規市場を開拓する可能性を持った技術の大学発ベンチャーによる事業化を目指した研究開発を行っています。なお、本プログラムではロボティクス分野も含めた技術シーズ発掘のための取組を新たに実施する予定です。また、起業家・イノベーション創出人材育成のため、26年度からグローバルアントレプレナー育成促進事業(EDGEプログラム)を実施し、ベンチャーキャピタルやメーカー等の民間企業や海外機関と連携しつつ、若手研究者や大学院生を対象として、起業家精神や新規事業に挑戦する意識、起業ノウハウ、アイデア創出法等を習得するといった世界でも先進的な人材育成を行っています。
 なお、これらの取組と知財の集約・強化事業を一体的に実施して、大学の研究成果に基づいてイノベーションが持続的に創出されるようイノベーション・エコシステムの構築に取り組んでいます。
 さらに、「出資型新事業創出支援プログラム(SUCCESS)」を実施し、JSTの研究開発成果を活用するベンチャー企業の設立・増資に出資、人的・技術的援助を行うことによって、企業の事業活動を通じた研究開発成果の実用化を促進しています。

(ウ)大学産学官連携本部や技術移転機関(TLO)等における取組

  • (1)大学等における産学官連携体制等の整備
     大学等においては、産学官連携活動を自立的・持続的に実施することができる環境の整備を図ってきました。産学官連携によるイノベーション創出に向けて、文部科学省では、異分野融合や多様性の受容を意識した対話型ワークショップ(異分野・異業種・異領域の関係者間の対話を通じて新たなアイデアの創出等を行う場)の開催やイノベーション対話ツールの整備等を通じた大学等におけるオープン・イノベーションの推進を支援しています。
  • (2)技術移転機関(TLO)における最近の動き
     TLO(Technology Licensing Organization)は、大学等の研究成果に基づく特許権等について企業に実施許諾を与え、その対価として企業から実施料収入を受け取り、大学等や研究者(発明者)に研究資金として還元することなどを事業内容とする機関です。平成27年3月1日現在で、36のTLOが、「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律」に基づいて、文部科学省及び経済産業省の承認を受けており、25年度における特許実施許諾件数は3,596件となっています。

(エ)JSTにおける主な取組

  • (1)大学等の有望な研究成果を基にした大学等と企業との連携による成果展開
     JSTでは、大学等と企業との連携を通じて、大学等の研究成果の実用化を促進し、イノベーションの創出を目指すための研究成果展開事業を実施しています。具体的には、研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)を通じて、大学や公的研究機関における有望なシーズ発掘から事業化に至るまで切れ目ない支援を行ったり、戦略的イノベーション創出推進プログラム(S-イノベ)を通じて、優れた研究成果に基づいて設定したテーマの下で研究開発を行い、新産業創出の礎となる技術の確立を支援したり、産学共創基礎基盤研究プログラムを通じて、産業界が抱える技術課題の解決に資する大学等の基礎研究を支援したりしています。
     また、大学等の革新的技術を社会還元し、イノベーションにつなげるため、産学共同実用化開発事業(NexTEP)を実施し、国から出資された資金等によって、大学等の技術を用いて企業の事業化開発を支援しています。
     なお、A-STEP及びNexTEPの前身である委託開発制度の下で支援した「窒化ガリウム(GaN)青色発光ダイオードの製造技術」は、青色発光ダイオードの実用化に成功し、名古屋大学において技術を産みだした赤﨑勇名城大学名誉教授、天野浩名古屋大学教授の平成26年ノーベル物理学賞受賞につながりました。
  • (2)技術移転活動に対する総合的な支援
     JSTでは、優れた研究成果の発掘、特許化の支援から企業化開発に至るまでの一貫した取組を進めています。具体的には、知財活用支援事業において、大学等における研究成果の戦略的な海外特許取得の支援、大学等に散在している特許権等の集約・パッケージ化による活用促進、大学等の特許情報のインターネットでの無料提供(J-STORE)を実施するなど大学等の知的財産の総合的活用を支援しています。

(オ)研究開発税制の拡充
 民間企業による産学官連携を含めたオープンイノベーションを促進するために、平成27年度税制改正において、研究開発税制の一部である特別試験研究費税額控除制度(企業等が大学・公的研究機関等と共同研究や委託研究を実施した際に、通常の試験研究よりも優遇された税額控除を受けられる制度。通称オープンイノベーション型)を大幅に拡充しました。
 具体的には、控除率の大幅引上げ(12%から20%又は30%に引上げ)、控除上限の別枠化(総額型の枠から別枠化し、法人税額の5%という控除上限を設定)、委託試験研究の相手方の追加(公益法人、地方公共団体の機関等を追加)、対象費用の拡大(中小企業に支払った知的財産権の使用料を追加)等の措置が講じられました。

2.これまでの産学官連携活動の実績と成果

 平成16年の国立大学法人化以降、総じて大学等における産学官連携活動は着実に実績を上げています。25年度は、大学等と民間企業との共同研究実施件数は1万7,881件(前年度比5.6パーセント増)、共同研究費受入額は約390億円(前年度比14.3パーセント増)とそれぞれなっており、前年度と比べて増加しています。
 また、平成25年度の特許権実施等件数は9,856件(前年度比11.9パーセント増)、特許権実施等収入額は約22.1億円(前年度比42パーセント増)と、前年度と比べて増加しています。(図表2-7-3)。
 産学官連携は、文部科学省を含めた政府全体として取組が進められています。平成26年9月に国内最大規模の産学マッチングイベントである「イノベーション・ジャパン2014~大学見本市&ビジネスマッチング~」が東京で開催され、約500の大学や企業等が研究の成果を発表しました。同時に、「第12回産学官連携功労者表彰~つなげるイノベーション大賞~」が開催され、産学官連携活動の推進に多大な貢献をした優れた成功事例について、その功績がたたえられました。

図表2‐7‐3 大学等における共同研究実施件数等の推移

(2)地域イノベーションシステムの構築

 地域における科学技術の振興は、地域イノベーションシステムの構築や活力ある地域づくりに貢献するとともに、我が国全体の科学技術の高度化・多様化やイノベーションシステムの競争力強化にも大いに貢献します。
 文部科学省では、平成23年度より地域イノベーション戦略支援プログラムを実施しています。26年度は、国際競争力強化地域又は研究機能・産業集積高度化地域として新たに5地域を選定し、これまでの選定地域と合わせて41地域となりました。このうち、33地域に対しては、知的財産の形成や人材育成などを重視した地域の主体的・自立的な活動展開に対する具体的な支援プログラムを実施しました(図表2-7-4)。
 なお、東日本大震災の被災地を対象に、地域イノベーションの創出に向けた地域の主体的かつ優れた構想を支援する観点から、4地域を選定して具体的な支援プログラムを実施しています。

図表2‐7‐4 平成26 年度 地域イノベーション戦略推進地域

(3)社会システム改革と研究開発の一体的推進

 文部科学省では、地域や利用者のニーズを考慮した研究開発とその成果の実利用、普及段階で隘路(あいろ)となる社会システムの転換とを一体的に推進し、科学技術イノベーションを促すため、社会システム改革と研究開発の一体的推進事業を実施しています。平成26年度は、地域再生人材創出拠点の形成や健康研究成果の実用化加速のための研究・開発システム関連の隘路(あいろ)解消を支援するプログラムなど6プログラムを実施しました。

第4節 我が国が直面する重要課題への対応

1 地球規模課題に対する貢献

 地球温暖化の状況等を把握するため、世界中の国や機関が、人工衛星や地上・海洋観測等によって様々な地球観測を行っています。気候変動問題の解決に向けた世界的な取組を一層効果的なものとするためには、国際的な連携の下で、これらの観測データを結び付け、統合解析を行うことによって、各国における政策決定等の基礎としてより有益な科学的知見を作り出し、観測データ及び科学的知見に各国・機関が容易にアクセスし入手することができるよう、複数のシステムで構成された国際的な全球地球観測システム(GEOSS)を構築することが重要です。GEOSSの構築を推進する国際的な枠組みとして、「地球観測に関する政府間会合(GEO)」が設立されています。平成26年12月時点で184の国・機関等が参加し、我が国は、GEOの執行委員国の一つとして、主導的な役割を果たしています。
 人工衛星による地球観測は、広範囲にわたって様々な情報を繰り返し連続的に収集することができる極めて有効な観測手段です。文部科学省では、防災・災害対策や地球環境問題の解決に向けて、国内外の関係機関と協力しつつ総合的に推進しています。
 平成26年5月には陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)が打ち上げられ、防災関係機関や地方公共団体に対する画像データの提供等が開始されました。ALOS-2は、26年8月の広島県で発生した土砂災害や9月の御嶽山の噴火等において、内閣府(防災担当)、国土交通省、火山噴火予知連絡会(事務局:気象庁)等の関係府省・機関から要請を受けて緊急観測を行い、画像を提供しました。今後も広域かつ詳細な被災地の状況把握や森林の観測を通じた地球温暖化対策など防災・災害対策や地球規模課題の解決に貢献することが期待されています。
 また、アメリカ航空宇宙局(NASA)等との国際協力の下で、全球降雨観測計画(GPM)主衛星と複数の副衛星群の観測(GPM計画)を開始し、全球の降水をこれまで以上に正確に把握することによって、台風の中心位置の推定や天気予報精度の向上などに貢献しています。
 降水量や海面水温などを地球規模で長期間にわたって観測する水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)の観測データは、現在、気象庁の数値予報システムで利用され天気予報の降水予測精度の向上に貢献するほか、漁場把握などの幅広い利用分野で役に立っています。
 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)は、全球の温室効果ガス濃度分布とその変化を測定し、温室効果ガスの吸収排出量の推定精度を高めるために必要な全球観測を行っています。これまでに二酸化炭素及びメタンの全球の濃度分布やその季節変動を明らかにするといった成果を出しています。
 このほか、宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、「だいち」(ALOS)(平成23年5月に運用終了)から取得したデータを活用し、開発途上国の森林減少・劣化に由来する温室効果ガス排出の削減(REDD+)に関する研究などを行っています。また、アメリカ熱帯降雨観測衛星(TRMM)に搭載した降雨レーダ(PR)やアメリカ地球観測衛星(Aqua)に搭載した改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR-E)(23年10月に運用終了、24年12月より部分的に運用再開)などから取得したデータの処理や提供を行っています。

図 だいち2号(ALOS-2)
だいち2号(ALOS-2)
(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

2 国家存立の基盤の保持

 我が国が国際的な優位性を保持し、安全な国民生活を実現していくためには、国自らが長期的視点に立って、継続的に、広範囲かつ長期間にわたって国家存立の基盤に関わる研究開発を推進し、成果を蓄積していく必要があります。このような研究開発については、国として、国家存立の基盤に関わる研究開発と位置付けて強力に推進しています。
 なお、平成25年12月に閣議決定した「国家安全保障戦略」でも、「我が国の高い技術力は、経済力や防衛力の基盤であることはもとより、国際社会が我が国に強く求める価値ある資源でもあります。このため、デュアル・ユース技術を含め、一層の技術の振興を促し、我が国の技術力の強化を図る必要がある。」との認識を示しております。

(1)宇宙・航空分野

1.研究開発の推進方策

 気象衛星、通信・放送衛星など宇宙開発利用は、国民生活に不可欠な存在であり、人類の知的資産を拡大し、国民に夢と希望を与える重要なものです。我が国の宇宙開発利用は、「宇宙基本法」や宇宙基本計画によって国家戦略として総合的かつ計画的に推進されています。
 平成27年1月、政府は、宇宙政策をめぐる環境の変化を考慮し、「国家安全保障戦略」に示された新たな安全保障政策を十分に反映し、産業界の投資の予見可能性」を高め産業基盤を維持・強化するため、新たな宇宙基本計画を策定しました。この計画では、1.宇宙安全保障の確保、2.民生分野における宇宙利用の推進、3.宇宙産業及び科学技術の基盤の維持・強化の三つを宇宙政策の目標として位置付けています。文部科学省では、これらを考慮し、関係府省と共に宇宙開発利用の推進に取り組んでいます。

2.宇宙・航空分野における取組

(ア)我が国の輸送システム
 我が国独自の宇宙輸送システムを保有することは、宇宙活動の自立性を確保する観点から不可欠です。我が国の基幹ロケットには、平成26年5月に「だいち2号」(ALOS-2)を打ち上げたH-ⅡAロケット24号機、10月に「ひまわり8号」(Himawari-8)を打ち上げた25号機、12月に小惑星探査機「はやぶさ2」を打ち上げた26号機、27年2月に情報収集衛星レーダ予備機を打ち上げた27号機、3月に情報収集衛星光学5号機を打ち上げた28号機があり、これらすべてが打ち上げに成功しました。25年9月に打ち上げた固体燃料ロケットのイプシロンロケットを加えると、我が国の基幹ロケットは27機連続で打上げに成功しており、その成功率は世界最高水準である97.0パーセントに達しています。

写真 H-ⅡAロケット26号機打ち上げの様子(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))
H-ⅡAロケット26号機打ち上げの様子
(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

(イ)人工衛星による社会貢献
 我が国では、大規模自然災害における被災状況の把握、気候変動メカニズムの解明や予測研究など様々な社会的要請に応じて、例えば、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)、水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)、GPM主衛星、気候変動観測衛星(GCOM-C)などの人工衛星の開発・運用を推進し、国内外に貢献しています(※15)。
 さらに、文部科学省では、我が国の衛星を安定的に運用するため、内閣府及び防衛省と共同して、地上からスペースデブリ(宇宙ゴミ)などを把握する宇宙状況監視システムの構築に向けた調査に取り組むとともに、高感度な赤外線センサの衛星への搭載技術の研究(防衛省と共同)、超低高度における衛星運用技術の実証などに取り組んでいます。

(ウ)宇宙環境利用の総合的推進
 国際宇宙ステーション(ISS)計画は、日本、アメリカ、欧州、カナダ、ロシアの5極共同による国際協力プロジェクトです。我が国は、宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)及び日本実験棟「きぼう」(JEM)の運用を通して参加しています。HTVはこれまでに4回ISSに物資を補給しており、ISSに大型装置を輸送できる唯一の手段として各国からの期待を集めています。また、「きぼう」における実験では、タンパク質結晶生成による創薬研究や骨量減少・尿路結石予防の研究など高齢化社会に対応する予防医学などの分野で大きな成果を出しつつあるなど、宇宙環境利用を総合的に進めています。

写真 国際宇宙ステーション(ISS)に接近する宇宙ステーション補給機「こうのとり」4号機(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA)、米国航空宇宙局(NASA))
国際宇宙ステーション(ISS)に接近する宇宙ステーション補給機「こうのとり」4号機
(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA)、米国航空宇宙局(NASA))

(エ)宇宙科学研究の推進
 太陽系探査、X線・赤外線天文観測、太陽観測など宇宙科学の分野では、平成22年に小惑星「イトカワ」の微粒子を地球に持ち帰った小惑星探査機「はやぶさ」の後継機「はやぶさ2」が26年12月に打ち上げられ、目的地である小惑星に向けた航海を続けています。また、金星探査機「あかつき」は、27年12月に金星周回軌道に再投入することを目指した運用が行われています。

写真 小惑星「イトカワ」の微粒子(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))
小惑星「イトカワ」の微粒子
(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

(オ)航空科学技術に関する研究開発
 文部科学省では、平成26年1月から「次世代航空科学技術タスクフォース」を開催し、今後の航空科学技術の取組方針について7回にわたって議論を重ね、同年8月に「戦略的次世代航空機開発ビジョン」を取りまとめました。
 今後20年で世界市場が約2倍に成長すると見込まれる中で、我が国の航空機産業の規模を自動車産業と比肩し得る成長産業(世界シェア20パーセント)にするため、積極的に取り組むべき研究開発プログラムと横断的施策を提言しています。このうち、民間航空機国産化研究開発プログラムとこれを支える大型試験設備の整備を優先的に着手しています。
 具体的には、JAXAにおいて、平成27年1月から、エンジンの高効率化・軽量化を図る「aFJRプロジェクト」や、機体騒音の低減を図る「FQUROHプロジェクト」を開始したり、老朽化が著しくなった風洞設備等の更新に着手したりしました。

高効率・軽量エンジンのイメージ(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))
高効率・軽量エンジンのイメージ
(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

(カ)天文学研究の推進
 ハワイ島マウナケア山頂にある大型光学赤外線望遠鏡「すばる」を用いた観測により、人類の観測の目が届かなかった宇宙深部の解明を進めています。また、日米欧の国際協力によって、銀河や惑星などの形成過程の解明を目的に、「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(アルマ)」を用いた観測を行っています。このほか、平成26年10月よりハワイ島マウナケア山頂にて口径30mの超大型望遠鏡「TMT」の建設を開始しています。

写真 アルマ望遠鏡のパラボラアンテナ
アルマ望遠鏡のパラボラアンテナ
(提供:Clem&AdriBacri-Normier(wingsforscience.com)/ESO)


  • ※15 参照:第2部 第10章 第2節2

(2)地震・防災分野

1.地震及び火山分野の調査研究の推進

 文部科学省では、地震調査研究推進本部が示した「新たな地震調査研究の推進について(新総合基本施策)」(平成21年4月策定、24年9月に東日本大震災を踏まえて改訂)及び「地震に関する総合的な調査観測計画」(26年8月)に基づいて、関係機関と連携しながら地震発生の将来予測の精度向上や地震の発生メカニズム解明に役立つ調査観測や研究開発等を推進しています。
 具体的には、東北地方太平洋沖(日本海溝沿い)や南海トラフ沿いの海域で発生する地震・津波をリアルタイム観測するため、地震計・水圧計等を備えた海底地震津波観測網を整備しています。南海トラフ沿いの熊野灘の観測網(DONET Ⅰ)の運用は既に開始されていますが、平成27年度中に紀伊水道沖及び日本海溝沿いの観測網(DONET Ⅱ及びS-net)の本格運用を目指して整備を進めています。
 また、南海トラフ広域地震防災研究プロジェクトにおける防災・減災対策に関する研究、構造探査・稠(ちゅう)密地震観測、津波履歴調査やシミュレーション研究や、日本海地震・津波調査プロジェクトにおける震源断層モデルや津波波源モデルに関する研究を進めるとともに、都市の脆(ぜい)弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト、地域防災対策支援研究プロジェクトなどを実施し、地方公共団体の防災計画等の策定や被害の軽減に資する地震防災研究の推進に取り組んでいます。
 さらに、平成26年9月の御嶽山の噴火を受けて、科学技術・学術審議会測地学分科会地震火山部会が「御嶽山の噴火を踏まえた火山観測研究の課題と対応について」(26年11月)を緊急的に取りまとめ、今後の火山観測研究や火山人材育成の方向性を示しました。

2.防災科学技術研究の推進

 防災科学技術研究所では、基盤的地震・火山観測網による地震・火山の観測・予測研究、実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)を活用した耐震工学研究や、高性能レーダを用いた高精度の降雨予測、土砂災害・風水害の発生予測に関する研究、リアルタイム雪氷災害発生予測に関する研究、地震をはじめとして様々な災害の発生確率や危険性評価に関する研究など防災に関連する研究開発を行っています。
 また、平成26年度は、高感度地震観測網を用いて日本列島の高圧化した火山性流体の分布を推定するとともに、国土交通省が整備している高精度なリアルタイム雨量観測網(XRAIN)で観測されたデータを用いて、広島市に集中豪雨及び土砂災害をもたらした積乱雲群の立体構造の把握等の研究開発を行っています。

日本海溝海底地震津波観測網(S-net)(予定図)
日本海溝海底地震津波観測網(S-net)(予定図)

(3)革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築

 スーパーコンピュータを用いたシミュレーションは、理論、実験と並ぶ現代の科学技術の第三の手法として、最先端の科学技術や産業競争力の強化、安全・安心の国づくりに不可欠なものとなっています。
 文部科学省では、世界最高水準の計算性能を有するスーパーコンピュータ「京(けい)」を中核とし、国内の大学等のスーパーコンピュータやストレージを高速ネットワークでつなぎ、多様な利用者のニーズに対応することができる革新的な計算環境(ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ:HPCI)の構築を進めています(図表2-7-5)。

写真 スーパーコンピュータ「京」資料提供:理化学研究所
スーパーコンピュータ「京」資料提供:理化学研究所

図表2‐7‐5 革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)のイメージ図
 スーパーコンピュータ「京」は、特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律に基づいて、理化学研究所計算科学研究機構(神戸)が、利用者支援を行う登録機関である一般財団法人高度情報科学技術研究機構、ユーザーコミュニティ機関などで構成される一般社団法人HPCIコンソーシアムと連携しつつ運用しています。例えば、地球全体の雲の生成・消滅を詳細に計算できるモデルのシミュレーションによって、約2週間先の台風発生を予測することができる場合があることが実証されるなど、台風発生予測の一層の進展が期待されています。
 また、最先端のスーパーコンピュータは、科学技術や産業の発展などによって国の競争力等を左右するため、世界各国が開発にしのぎを削っています。文部科学省では、2020年をターゲットとし、世界トップレベルのスーパーコンピュータと課題解決に資するアプリケーションを協調的に開発するプロジェクトに平成26年度から着手しました。システム開発の基本設計を開始し、アプリケーション開発において、健康長寿、防災・減災、エネルギー、ものづくり分野などから九つの重点課題が選定されました。

(4)原子力・核融合の研究開発利用

1.研究開発の進め方

 東京電力福島第一原子力発電所事故等を踏まえ、政府は、新たな「エネルギー基本計画」(平成26年4月11日閣議決定)を策定しました。文部科学省では、原子力の安全性の向上に向けた研究や原子力の基礎基盤研究とこれを支える人材育成の取組、原子力利用の多様化に貢献する高温ガス炉、核燃料サイクル及び高レベル放射性廃棄物処理処分などの研究開発に取り組んでいます。
 また、東京電力福島第一原子力発電所の安全な廃止措置等を推進するため、平成26年6月に「東京電力株式会社福島第一原子力発電所の廃止措置等研究開発の加速プラン」を公表しました。文部科学省では、このプランに基づいて、国内外の英知を結集し、安全かつ確実に廃止措置等を実施するための先端的技術開発と人材育成を加速しています。

2.原子力・核融合の研究開発利用

(ア)原子力・核融合分野の研究開発
 高速増殖炉サイクル技術は、消費した燃料より多くの新しい燃料を生み出すとともに、高レベル放射性廃棄物を減らすことができ、我が国の長期的なエネルギー安定供給に大きく貢献します。
 この技術の核となる高速増殖原型炉「もんじゅ」は、エネルギー基本計画において、廃棄物の減容・有害度の低減等の国際的な研究開発拠点と位置付けられており、文部科学省が定めたもんじゅ研究計画に示された研究成果を取りまとめることを目指し、克服すべき課題について十分な対応を進めることとされています。
 一方、「もんじゅ」において機器の保守管理に不備があったことや、J-PARCにおける放射性物質の漏えいを受け、日本原子力研究開発機構は、平成25年10月から1年間の集中改革を実施し、26年9月に改革の報告書を取りまとめました。日本原子力研究開発機構は、この集中改革期間において、安全を最優先とする組織に改めるため、組織体制・業務を抜本的に見直しました。また、「もんじゅ」については、電気事業者からの技術者の受入れなど運営体制を強化するとともに、理事長主導による安全意識改革などを実施しました。さらに、保守管理及び品質保証体制の構築などの残された課題への対応のため、集中改革を27年3月まで延長し、報告書を取りまとめました。この改革の一つとして、日本原子力研究開発機構は、26年12月、原子力規制委員会に報告書を提出しています。今後は、「もんじゅ」集中改革の成果の定着と改善に取り組んでいきます。
 文部科学省では、「もんじゅ」の改革に対する指導・監督を強化するため、もんじゅ改革推進本部を定期的に開催するとともに、平成26年4月から現地にもんじゅ改革監を設置して体制を強化しました。
 今後も、文部科学省では、「もんじゅ」の運転管理体制の整備などの克服すべき課題について十分な対応を進め、国民の信頼回復に努めます。
 また、将来の基幹的なエネルギー源として期待される核融合エネルギーの実現に向けて、文部科学省では、国際約束に基づくITER計画と幅広いアプローチ(BA)活動などによって核融合研究開発を推進するとともに、核融合科学研究所や大学等における学術研究等を通じ、人材育成を行っています。
 さらに、量子ビームテクノロジーなどの活用を通して国民生活の質の向上に貢献するため、イオン照射研究施設(TIARA)や研究用原子炉(JRR-3)におけるイオンビームや中性子等を用いた環境技術などに役立つ先端的な研究開発や、放射線医学総合研究所における重粒子線がん治療装置の小型化・高度化に向けた研究なども進めています。

図 国際熱核融合実験炉(ITER)
国際熱核融合実験炉(ITER)

(イ)原子力の基礎基盤研究と人材育成
 原子力の安全性の向上に向けて、軽水炉を含めた原子力施設の安全性向上に必要な安全研究や、原子力の基盤を維持・強化するための研究開発を進めるとともに、幅広い原子力人材を育成するため、産学官の関係機関が連携し効果的、効率的、戦略的に行う機関横断的な人材育成活動を支援しています。
 また、発電、水素製造など多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉について、安全性の高度化、原子力利用の多様化に役立つ研究開発等を推進しています。

(ウ)放射性廃棄物処理処分に向けた取組
 重要な政策課題である高レベル放射性廃棄物の大幅な減容や有害度の低減に資する研究開発等を実施するとともに、地層処分技術研究開発や、研究施設や医療機関などから発生する低レベル放射性廃棄物の処分に向けた取組などを着実に行っています。

(エ)原子力国際協力
 文部科学省では、アジア原子力協力フォーラム(FNCA)の参加国やアジア諸国を中心とした原子力新規導入国に対する人材育成協力などを実施するとともに、国際原子力機関(IAEA)などの国際機関との連携を強化したり、国際的枠組みの下で原子力先進的分野における共同研究などを実施したりしています。

(オ)核不拡散及び核セキュリティ分野
 文部科学省では、日本原子力研究開発機構の核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN)を通じて、アジア諸国を中心に人材育成支援をIAEAなどと協力して実施するとともに、アメリカなどと協力して核物質の測定・検知や核鑑識の技術開発を実施しています。
 また、平成26年3月に、核セキュリティ・サミット(第3回)の開催に合わせて、日米首脳の共同声明として、日本原子力研究開発機構の高速炉臨界実験装置(FCA)の燃料(高濃縮ウラン及びプルトニウム)をアメリカに輸送することなどを発表しました。

(カ)国民の理解と共生に向けた取組
 立地地域をはじめとする国民の理解と共生を図るため、立地地域の持続的発展に向けた取組や、原子力等のエネルギーに関する教育の取組などを支援しています。

(キ)福島第一原子力発電所の廃止措置に係る研究開発に向けた取組
 「東京電力株式会社福島第一原子力発電所の廃止措置等研究開発の加速プラン」に基づいて、平成27年4月に、日本原子力研究開発機構に廃炉国際共同研究センターを立ち上げました。
センターでは、国内外の研究機関や大学、産業界等が集結して廃炉研究に取り組むネットワークを形成するため、国内外の研究者等が参画できる場の整備、国内外の廃炉研究の強化、中長期的な人材育成機能の強化などに取り組みます。

(5)海洋・極域分野

1.研究開発の推進方策

 我が国は四方を海に囲まれており、その領海及び排他的経済水域を合わせた面積は世界第6位といわれています。これまでの調査研究により、海洋には生物資源、エネルギー資源、鉱物資源といった未利用の資源が存在することが明らかにされつつあり、また、気候変動をはじめとする地球環境と海洋の関連などについても理解が深まってきています。しかし、海洋はその広大さとアクセスの困難さのため、依然として科学的に未解明の領域が多々あります。
 海洋の諸現象に関する原理を追求し、解明することは、地球環境問題の解決や海溝型巨大地震の対応、海洋資源の開発など今後の人類の発展に深く関わる重要な課題です。文部科学省では、「海洋基本法」や海洋基本計画を踏まえ、海洋開発の基盤となる研究開発を推進しています。

2.海洋分野における取組

 文部科学省及び海洋研究開発機構は、海洋における未利用資源を科学的に調査するためのセンサーや無人探査機の技術開発、海洋資源の成因の解明に向けた調査研究などに取り組んでいます。文部科学省では、複数の最先端センサー技術を組み合わせた効率的な広域探査システムを開発し、民間企業等への技術移転を進めているほか、文部科学大臣の認可を受けて設立された次世代海洋資源調査技術研究組合(※16)はSIPにおける課題である「次世代海洋資源調査技術」に参画しました。
 海洋研究開発機構(JAMSTEC)では、海底地形や海底下構造を広域かつ効率的に調査する技術開発の一環として、平成26年度には複数の自律型無人探査機(AUV(※17))を運用するための洋上中継器(ASV(※18))の海上試験を実施しています。また、海洋生物資源に関して、文部科学省では、海洋生物の生理機能を解明し革新的な生産につなげる研究開発や、生物資源の正確な資源量の変動予測を目的に生態系を総合的に解明する研究開発を推進しています。
 これらに加え、海洋研究開発機構では、地球深部探査船「ちきゅう」の掘削技術や海底ケーブルネットワークを用いたリアルタイム観測技術等の開発等を進め、これらの技術を活用し、海底下に広がる微生物圏や海溝型地震の発生メカニズム、新たな海底資源等に関する調査研究等を行っています。平成26年度には、大深度小型無人探査機「ABISMO(※19)」を用いた調査によって、世界最深のマリアナ海溝チャレンジャー海淵内の超深海(水深6,000メートル以深)中に独自の超深海・海溝生命圏が存在することを世界で初めて明らかにしました。さらに、「ちきゅう」を用いた、伊平屋北海丘の海底下鉱体とその源となる海底下熱水域分布を把握するための科学掘削調査では、伊平屋北海丘の海底下に沖縄海域で発見された中で最大の熱水だまりが存在する可能性があることが分かりました。

3.極域分野における取組

 環境変動が顕著に表れる極域を研究・観測し、両極を総合的な視野で捉えることは、全球的な環境変動予測につながることになり、非常に重要な意味があります。
 文部科学省は、南極地域観測統合推進本部(本部長:文部科学大臣)として、南極地域観測第8期6か年計画(平成22年度から27年度まで)に基づき、関係府省や国立極地研究所等の研究機関等の協力の下、南極地域における調査・観測等を実施しています。例えば、大型大気レーダー(PANSY)を用いた南極域中層・超高層大気観測などを実施し、南極地域の気候モデルを構築することにより地球上の気候モデルの空白地域を埋め、地球全体の気候モデルの精緻化等を推進しています。
 また、大学発グリーンイノベーション創出事業の一環として推進する北極気候変動研究プロジェクトにおいて、北極環境研究コンソーシアムの下で、モデル研究者と観測研究者の協同によって北極域の環境変動が我が国に与える影響評価や北極海航路の利用可能性評価等の戦略目標達成に向けた北極域における研究・観測等を実施しています。


  • ※16 次世代海洋資源調査技術研究組合:石油資源開発、地球科学総合研究所、新日鉄住金エンジニアリング、三菱マテリアルテクノの民間企業4社から成り、文科省が初めて単独で認可(平成26年12月)した技術研究組合。
  • ※17 AUV:Autonomous Underwater Vehicle
  • ※18 ASV:Autonomous Surface Vehicle
  • ※19 ABISMO:Automatic Bottom Inspection and Sampling Mobile

3 科学技術の共通基盤の充実、強化

(1)先端計測分析分野

 先端計測分析技術・機器等は、世界最先端の独創的な研究開発成果の創出を支える共通的な基盤であり、その研究開発の成果がノーベル賞の受賞につながることも多く、科学技術の進展に不可欠な鍵となる技術です。このため、JSTでは、先端計測分析技術・機器開発プログラムを実施し、産学連携によって、世界最先端の研究者やものづくり現場のニーズに応えられる先端計測分析技術・機器・システムの開発等に取り組んでいます。

(2)ナノテクノロジー・材料分野

 ナノテクノロジー・材料科学技術は、科学技術の新たな可能性を切り拓(ひら)き、先導する役割を担うとともに、複数の領域に横断的に用いられ、広範かつ多様な技術分野を支える重要な基盤技術です。我が国が抱える資源、エネルギーの制約等の問題を克服するために必要な革新的技術の創出の鍵を握っています。
 幅広い分野に波及する共通基盤技術であるナノテクノロジーは、環境問題の解決に大きく貢献することが期待されています。このため、文部科学省では、ナノテクノロジーを活用した環境技術開発においては、産学官が連携して環境技術の基礎基盤的な研究開発を推進するための研究拠点を構築し、太陽光発電をはじめとした技術シーズを開発するとともに、先端環境技術に取り組む人材育成を推進しています。研究拠点においては、産学から第一線で活躍する研究者を招へいし、常に企業との対話や連携を行うことによって、そのニーズを的確・迅速に把握しています。
 また、様々な先端産業製品に不可欠である希少元素(レアアース・レアメタル等)の革新的な代替材料を開発し、我が国の産業競争力を強化するため、元素戦略プロジェクトを実施し、物質中の元素機能の理論的解明から新材料の創製、特性評価までを密接な連携・協働の下で一体的に推進しています。これにより生み出された研究成果は、経済産業省等と連携して速やかに実用化に展開するための仕組みを構築しています。
 さらに、ナノテクノロジープラットフォームを構築することによって、産学官の利用者に対して、ナノテクノロジーの最先端の設備を利用する機会と高度な技術支援を提供しています。大学や公的研究機関だけでなく産業界からの利用件数も着実に増加しており、革新的な研究成果の創出に繋がることが期待されています。
 このほか、物質・材料研究機構では、計測技術、シミュレーション技術、ナノ構造を制御した材料合成技術、ナノスケール特有の現象・機能の探索など新物質・新材料の創製に向けた物質・材料の基礎研究と基盤的研究開発を実施しています。また、理化学研究所では、新たな知を生み出す独創的・先端的研究開発を推進しています。

(3)光・量子科学技術分野

 光や中性子ビーム・イオンビームなどの様々な量子ビームは、その多くの優れた特徴を生かして、微細な観測・精密加工・物質創生などに利用されています。例えば、レーザーによる半導体の精密加工や放射光による物質の原子レベルにおける構造解析等に利用されています。現代では、目覚ましい科学技術の発展に伴って、これまでは不可能であった原子・分子レベルでの加工や物質の構造・技能を詳細に調べることが求められ、光・量子科学技術は極めて重要な鍵となる技術として、学術研究から産業応用まで広範な科学技術を支えています。
 文部科学省では、光・量子科学研究拠点形成に向けた基盤技術開発を実施し、我が国の光・量子科学技術分野のポテンシャルと他分野のニーズをつなげ、産学官の多様な研究者が連携・融合しながら光・量子科学技術の研究開発を進めるとともに、この分野を将来にわたって支える人材育成を推進しています。

(4)情報科学技術分野

 情報科学技術は、ライフサイエンス、ナノテクノロジー、環境、ものづくりなど科学技術分野から交通、医療、教育、防災、エネルギー等の社会応用分野に至るまで、広範にわたって基盤的技術として貢献します。近年、情報デバイス、センサー技術やネットワーク技術の著しい発展と普及によってサイバー空間が急速に広まる中で、国民生活の豊かさの向上や我が国の産業競争力の強化に向けて一層重要となる技術です。
 情報科学技術の利活用や高度化の推進によって、2030(平成32)年頃までに、データが当たり前のように流通して人々の生活のあらゆる場面で利活用される社会や、高品質で高信頼なデータに基づいて、国際社会における社会的・科学的課題の解決に貢献することができる社会の実現が期待されます。
 文部科学省では、こうした未来社会の実現に向けて、情報科学技術の効果的な利活用によって社会全体の効率化や生活の質の向上に貢献する観点(by IT)とともに、情報科学技術それ自体を分野横断的技術として高度化していく観点(of IT)も重視し、1.情報科学技術の利活用による新たな知の獲得と創造(ハイパフォーマンスコンピューティング技術によるシミュレーションやデータ科学等による科学的分析・解明・予測の高度化など)、2.情報科学技術の利活用による情報システムと社会システムが高度に連携した社会の実現(ITシステムのセキュリティ・ディペンダビリティ(攻撃・災害等に強いシステム)の向上など)、3.情報科学技術の利活用による社会モデルの変革(多様な機器にITを組み込む技術の高度化によるIT システムの高機能化)といった三つの方向性の下で、国が戦略的に取り組むべき研究開発を推進しています。
 平成26年度には新たに、多分野にわたる質的・量的に膨大な情報(いわゆるビッグデータ)から意味ある情報をリアルタイムかつ自動的に抽出・処理する統合解析技術などの研究開発を実施しています。
 また、1.課題達成型IT統合システム(いわゆるサイバーフィジカルシステム(CPS))の構築に向けた研究開発、2.ITシステムの耐災害性強化やデータ処理能力の向上、超低消費電力化等を進めるためのスピントロニクス材料・デバイス基盤技術や高機能高可用性ストレージ基盤技術の研究開発、3.ビッグデータを利活用するための人材育成ネットワークの形成などに取り組んでいます。

(5)共通的、基盤的な施設及び設備の高度化、ネットワーク化

 研究施設・設備は、基礎研究からイノベーション創出までの科学技術活動全般を支えるために不可欠であり、これらの整備や効果的な利用、相互のネットワーク化を図ることが重要です。文部科学省では、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」に基づいて、特定先端大型研究施設(※20)の整備や共用に必要な経費の支援などを通じて、産学官の研究者等の共用を促進しています。

1.X線自由電子レーザー施設(SACLA)

 X線自由電子レーザー施設(SACLA)は、レーザーと放射光の特徴を併せ持った究極の光を発振し、従来の手法では実現不可能な分析を行う世界最先端の研究基盤施設です。
 SACLAは、原子レベルの超微細構造、化学反応の超高速動態・変化を瞬時に計測・分析することができるため、結晶化が困難な膜タンパク質の解析、触媒反応の即時の観察、新機能材料の創成など広範な科学技術分野において、新しい研究領域の開拓や先導的・革新的成果の創出が期待されています。平成26年度には、世界で初めて1兆分の1秒以下で起こる化学結合形成に伴う分子の生成過程を直接観測するなど最先端の成果を創出しました。

大型放射光施設(SPring- 8 )X 線自由電子レーザー施設(SACLA) 写真提供:理化学研究所
大型放射光施設(SPring- 8 )X 線自由電子レーザー施設(SACLA)
写真提供:理化学研究所

2.大強度陽子加速器施設(J-PARC)

 大強度陽子加速器施設(J-PARC)は、世界最高レベルのビーム強度を持つ陽子加速器から生成される中性子、ニュートリノ等の多彩な二次粒子を利用して、幅広い分野における基礎研究から産業応用まで様々な研究開発に貢献しています。特定中性子線施設では、革新的な材料や新しい薬の開発につながる構造解析等の研究が行われ多くの成果が出ています。原子核・素粒子実験施設(ハドロン実験施設)やニュートリノ実験施設は、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」の対象外の施設ですが、国内外の大学等の研究者の共同利用が進められています。

大強度陽子加速器施設(J-PARC) 写真提供:J-PARC センター
大強度陽子加速器施設(J-PARC)
写真提供:J-PARC センター

 なお、平成25年5月に放射性物質が外部に漏えいする事故が発生したハドロン実験施設は、事故後の安全体制総点検を踏まえて構築した新たな安全管理体制の下で27年4月に運転を再開しました。
 また、大学等の特定先端大型研究施設に準ずる先端研究施設・設備(NMR装置(※21)、放射光施設など)も、先端研究基盤共用・プラットフォーム形成事業を通じて、産学官の研究者等の共用を促進するとともに、これらの施設・設備のネットワーク化によるプラットフォーム(基盤)の形成を推進しています。文部科学省では、「共用ナビ(※22)」(研究施設共用総合ナビゲーションサイト)を開設し、NMR共用プラットフォーム、光ビームプラットフォームなどの施設・設備の利用に関する基本的な情報をインターネットで提供しています。


  • ※20 特定先端大型研究施設:特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律において、特定放射光施設(SPring-8、SACLA)、特定高速電子計算機施設(スーパーコンピュータ「京」)、特定中性子線施設(J-PARC)が規定されている。
  • ※21 NMR装置:核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)装置。強い磁場中に試料を置くことで分子の形や動きを調べることができ、タンパク質の立体構造の解析などに利用されている。
  • ※22 参照:http://kyoyonavi.mext.go.jp/

第5節 基礎研究及び人材育成の強化

1 基礎研究の抜本的強化

 基礎研究は、人類の英知やイノベーションを創出する上で大きな役割を果たしています。我が国の科学技術イノベーションの礎を確かなものとするため、文部科学省では、持続的な成長の源泉となる幅広い分野の多様な基礎研究の抜本的強化を図っています。

(1)イノベーションを生み出す基礎研究の推進

 戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)は、トップダウンで定めた戦略目標の下で、JSTにおいて研究領域を設定しています。競争的資金を通じて、組織・分野の枠を超えた時限的な研究体制(バーチャル・ネットワーク型研究所)を構築し、イノベーション指向の戦略的な基礎研究を推進しています(図表2-7-6)。また、26年度においては、文部科学省研究振興局長の下で開催された「戦略的な基礎研究の在り方に関する検討会」における報告書に示された「戦略目標策定指針」を踏まえ、科研費との連携強化等を目的とした戦略目標の策定手法の改革を行いました。

図表2‐7‐6 平成26 年度の戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)のトピックス

(2)世界トップレベルの研究拠点の構築

  世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)は、優れた研究環境と高い研究水準を誇る研究拠点の構築を目指して、優れた研究者を中核として世界トップレベルの拠点形成を目指す構想に対して集中的に支援しています。 このプログラムにおいて、10年間(特に優れた成果を出している拠点は15年間)、1拠点当たり13億円から14億円程度まで(平成24年度採択拠点は最大7億円程度)を支援しており、現在9拠点が活動しています。丁寧な進捗の把握と厳格かつきめ細やかなフォローアップを毎年実施することによって「目に見える拠点」の確実な実現を目指しています(図表2-7-7)。

図表2‐7‐7 世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の概要

2 科学技術を担う人材の育成

(1)優れた若手研究者の育成、活躍促進

 人口減少・少子高齢化が急速に進む中で、我が国が成長を続け、新たな価値を創出していくためには、科学技術イノベーションを担う多様な人材の育成・確保が重要です。特に、意欲と能力のある学生が大学院に進学し、我が国の将来を担う研究者として活躍することができるよう、博士課程の学生や博士課程修了者等に対して経済的支援や研究費の獲得の機会を保証するとともに、自らの研究活動に専念することができる環境整備や産業界も含めた多様なキャリアパスの開拓といった取組が重要です。

1.博士課程の学生や若手研究者等への経済的支援や研究費の獲得の機会の保証

 文部科学省では、大学院生も含め学生等に対する奨学金の貸与や博士課程の学生を大学等の研究プロジェクトに参画するリサーチ・アシスタント(RA)として雇用する取組等を進めています。科研費において、若手研究者の自立を支援する研究種目として「若手研究(A・B)」などを設け、若手研究者が自らの研究活動を進めるための研究費を助成しています。
 また、日本学術振興会では、特別研究員事業を実施し、我が国の学術研究の将来を担う優秀な博士課程の学生や博士課程修了者等に研究奨励金を支給するほか、JSTでも、戦略的創造研究推進事業のうち若手研究者の応募が多い「さきがけ」などを実施しています。

2.優れた若手研究者が自らの研究に専念できる環境の整備

 文部科学省では、優秀な若手研究者が自らの研究に専念することができる環境を整備し、安定的なポストに就けるよう、テニュアトラック制(※23)を導入する大学等を支援しています。

3.博士課程修了者等の多様なキャリアパスの開拓

 文部科学省では、博士課程修了者等が自らの専門性を生かし、大学や公的研究機関だけでなく産業界や海外、地域社会において広く活躍することができるよう、「ポストドクター・キャリア開発事業」を実施し、ポストドクターを対象に、企業等における3か月以上の長期インターンシップの機会の提供等を行う大学等を支援しています。
 また、JSTでは、「研究人材キャリア情報活用支援事業」を実施し、産学官の連携によって研究者や研究支援人材を対象とした求人・求職情報などの提供や活用を支援するとともに、研究者人材データベース(JREC-IN Portal)(※24)を運営しています。
 さらに、平成26年度から新たに「科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業」を実施し、複数の大学等がコンソーシアムを形成し、企業等と連携して研究者の流動性を高めるとともに、安定的な雇用を確保しながらキャリアアップを図っています。


  • ※23 テニュアトラック制:公正に選抜された若手研究者が、安定的な職を得る前に、任期付きの雇用形態で自立した研究者として経験を積む仕組み。
  • ※24 参照:http://jrecin.jst.go.jp

(2)女性研究者の活躍促進

 女性研究者の活躍を促し、その能力を発揮させていくことは、我が国の経済社会の再生・活発化や男女共同参画社会の推進に寄与するものです。しかし、我が国の女性研究者の割合は年々増加傾向にあるものの、平成26年3月現在で約15パーセントであり、諸外国と比較して依然として低い水準にあります。女性が活躍することができる社会を創ることは、産業競争力会議「成長戦略進化のための今後の検討方針」(平成26年1月20日)などにおいて重要な柱として位置付けられており、女性研究者の支援を強化することは重要な課題です。
 このため、文部科学省では、「女性研究者研究活動支援事業」を実施し、女性研究者の研究と出産・育児・介護等との両立を図るための環境整備を行う大学等を支援しています。
 また、日本学術振興会では、「特別研究員(RPD)事業」を実施し、出産・育児によって研究を中断した研究者に研究奨励金を支給して研究復帰を支援しています。

(3)多様な場で活躍できる人材の育成

1.研究支援人材の育成・確保

 文部科学省では、研究者の研究活動活性化のための環境整備、大学等の研究開発マネジメント強化、及び科学技術人材の研究職以外への多様なキャリアパスの整備に向けて、大学等における研究マネジメント人材(リサーチ・アドミニストレーター)の育成・定着を支援しています。

2.技術者の養成及び能力開発

 科学技術イノベーションの推進において、産業界を支える技術者は中核的な役割を果たしています。科学技術に関する高度な専門的応用能力を必要とする事項について、計画、研究、設計、分析、試験などの業務を行う者に対して、技術士の資格を付与し、その業務の適正化を図る技術士制度が設けられています。
 技術士となるためには、機械、建設などの技術部門ごとに行われる国家試験に合格し、登録することが必要です。技術士試験は、理工系大学卒業程度の専門的学識等を確認する第一次試験と、技術士になるのにふさわしい高等の専門的応用能力を確認する第二次試験で構成されています。平成26年度は第一次試験9,851人、第二次試験3,498人が合格しました(図表2-7-8)。
 また、JSTでは、技術者の生涯を通じて資質と能力の向上を図るため、基礎となる技術の成果や知見をいつでも学習・閲覧できるよう、研究人材のキャリア支援ポータルサイト(JREC-IN Portal)を提供しています。

図表2‐7‐8 技術士第二次試験の部門別合格者(平成26 年度)

(4)次代を担う人材の育成

 文部科学省では、自然科学系分野を学ぶ大学学部生等が自主研究の成果を発表し全国レベルで切磋琢磨(せっさたくま)するとともに、大学等の研究者・企業関係者とも交流を図る場としてサイエンス・インカレを開催しています。「第4回サイエンス・インカレ」が平成27年2月28日と3月1日の2日間にわたって神戸市で開催され、172組の学生等によって口頭発表やポスター発表が行われました。
 JSTでは、将来有為な科学技術関係人材を育成するため、主に理系学部を置く大学を対象に学生の意欲・能力を更に伸ばすことに重点を置いた取組を支援しています。

3 国際水準の研究環境及び基盤の形成

(1)大学等における設備の整備

 国立大学等の設備は、最先端の研究を推進し、質の高い教育研究を支える基盤であり、その整備・充実は必要不可欠です。現在、設備の老朽化・陳腐化や設備を有効かつ効率的に運用するため人材が不足しています。文部科学省では、各国立大学法人が中・長期的な視野で計画的・継続的な設備整備に向けて策定した設備マスタープランを考慮した財政支援を行っています。また、設備サポートセンター整備事業によって、設備の共同利用の促進など有効活用に役立つ体制整備支援しています。地方の好循環拡大に向けた緊急経済対策において、地域社会経済の活性化を図る観点から、国立大学等における最先端研究設備など教育研究基盤の整備・充実を支援しています。

(2)学術情報基盤の整備と科学技術情報の発信・流通の促進

 学術情報基盤の整備や科学技術情報の発信・流通の促進は、科学技術・学術の振興に必要不可欠な、言わば生命線としての性格を有しています。ICTの進展に伴ってこれらの整備・充実や高度化を進めることは、我が国の国際競争力を確保し、科学技術イノベーションを推進する上で極めて重要です。また、世界的に、研究成果としての論文やデータ等を公開し、効率的・効果的にイノベーションを創出するオープンサイエンスの動きが活発になっております。このような状況に対応するため、文部科学省では、大学や関係機関との連携を図りつつ様々な取組を進めています。

1.学術情報基盤の整備・充実

 情報・システム研究機構国立情報学研究所(NII)が運用する学術情報ネットワーク(SINET)は、我が国の大学等の学術研究や教育活動全般を支える最先端学術情報基盤における基幹的ネットワークとして整備されています。現在、SINET 4を運用しており、平成26年末現在で約800の大学・研究機関等が接続しています。各大学・研究機関等は、大量データの流通による最先端の研究活動や遠隔教育・医療などに活用することをはじめ、国内外の機関と連携事業を促進したり、学術情報資源の効果的・効率的な利用を可能にするクラウドコンピューティング(※25)の構築などに取り組んだりしています。
 大学図書館は、大学の教育機能の強化に対する社会的要請の高まりや学術資料の電子化の進展などを背景に、学習・教育・研究支援など様々な側面で役割が増大しています。具体的には、主体的学習の場としてのラーニング・コモンズ(※26)の設置のほか、オンライン教育基盤の提供や情報リテラシー(判断・活用)教育における教員との協同といった取組が進められています。
 各大学では、オンライン上に機関リポジトリを設けて、教育研究の成果を公開しています。平成26年度末現在で約400の大学等が機関リポジトリを構築しており、教育研究の成果を公開する大学は着実に増えています。NIIでは、共用のリポジトリシステムを開発・提供し、各大学の機関リポジトリ構築を支援するとともに、国公私立大学等の図書館が所蔵する学術図書・雑誌の目録所在情報のデータベースや国内で公表された学術論文のデータベースを提供しています。

2.科学技術情報の発信・流通の促進

 JSTでは、国内外の科学技術に関する文献、特許、研究者等、研究開発活動に関する基本的な情報を体系的に収集・整理・データベース化する取組や、それぞれの情報を相互に関連付けて提供するサービス(J-GLOBAL)などを行っています。平成26年度は、登載した論文等が引用した元の文献情報も提供することができるよう機能強化を図りました。
 また、科学技術に関する文献の日本語抄録等を作成してデータベースを整備し、インターネットによって有料で提供する文献情報検索サービス(JDream Ⅲ)を行っています。平成26年度からは、新聞・雑誌記事や国内外のデータベースから関連度の高い情報が横断的に表示される機能を追加しました。
 さらに、学協会が自ら学術論文の電子ジャーナルを発行するための共用システム環境(J-STAGE)を整備しています。平成26年度から、登載論文が引用している文献がDOI(※27)を持つ場合は、ウェブサイトのアドレス(URL)を自動で付与し、参照することができるよう改善しました。国内文献にDOIを付与するジャパンリンクセンター(JaLC(※28))の運用に当たっては、システムの改善によって論文以外のコンテンツ(書籍や研究データ)にもDOIを付与することができるよう強化しました。


  • ※25 クラウドコンピューティング:コンピュータを活用するために必要な資源に、どこからでも、簡便に、必要に応じて、ネットワーク経由でアクセスすることを可能とするモデル。
  • ※26 ラーニング・コモンズ:複数の学生が集まって、電子情報も印刷物も含めた様々な情報資源から得られる情報を用いて議論を進めていく学習スタイルを可能にする「場」を提供するもの。
  • ※27 Digital Object Identifier 電子コンテンツに付与される国際的な識別子
  • ※28 Japan Link Center 科学技術振興機構、物質・材料研究機構、国立情報学研究所、国立国会図書館が共同で運営する日本で唯一のDOI登録機関

第6節 社会と共に創り進める政策の展開

1 科学技術コミュニケーションの推進

(1)日本科学未来館の整備・運営

 JSTが運営する日本科学未来館では、先端の科学技術を分かりやすく紹介する展示の制作や解説、講演、イベントの企画・実施などを通じて、研究者等と一般の人たちとの交流を図っています。また、我が国の科学技術コミュニケーション活動の中核拠点として、科学コミュニケーターの養成や全国各地の科学館・学校等との連携を進めています。

(2)社会問題等を解決する取組の支援

 JSTでは、大学、研究機関、地方公共団体などが実施する体験型・対話型の科学技術コミュニケーション活動を通じて、社会問題や社会ニーズに対する課題の解決を図る取組を支援しています。

(3)科学技術週間

 平成26年4月14日から20日まで、試験研究機関、地方公共団体など関連機関の協力を得て、第56回科学技術週間を実施しました。科学技術週間中は、全国各地の関連機関において、施設の一般公開や実験工作教室、講演会の開催などの様々な行事が実施されました。文部科学省の情報ひろばでも、サイエンスカフェなど研究者と一般の人たちがお茶を飲みながら科学技術について気軽に話し合うイベントなどを開催しました。

(4)全国各地への科学技術情報の発信

 JSTでは、科学技術に関する幅広い情報や分かりやすく紹介する番組をインターネットで配信しています(※29)。また、時宜にかなったテーマを取り上げて、科学技術に関する身近な疑問や研究成果等をイラストやマンガ、写真を使って分かりやすく解説した「Science Window」を作成し、全国の小・中学校や科学館、図書館などに配布しています(※30)。


  • ※29 参照:http://sciencechannel.jst.go.jp/
  • ※30 参照:http://sciencewindow.jst.go.jp/

2 実効性のある科学技術イノベーション政策の推進

(1)科学技術イノベーション政策のための科学

 文部科学省では、科学技術・学術政策研究所(NISTEP)、科学技術振興機構社会技術研究開発センター(RISTEX)及び科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)と協力しながら、経済・社会等の状況を多面的な視点から把握・分析した上で、課題対応等に向けた有効な政策を立案する「客観的根拠(エビデンス)に基づく政策形成」の実現を目指して、科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業を行っています。
 具体的には、「政策のための科学」の担い手を育成する基盤的研究・人材育成拠点の整備、中長期の方針に基づいた公募型研究開発プログラムの推進、「政策のための科学」に必要なデータを蓄積するためのデータ・情報基盤の構築などを一体的に推進しています。また、それぞれのプログラム等の成果を実際に政策形成に生かすため、平成26年度から中核的拠点機能を整備し、エビデンスに基づいた政策の実践のための指標や手法等を開発しています。

(2)研究開発評価システムの改善及び充実

 我が国の研究開発評価は、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成24年12月6日内閣総理大臣決定)に基づいて、各府省がそれぞれの評価方法等を定めた具体的な指針を策定して進めています。文部科学省では、26年4月に「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針」を改定し、研究者の自由な発想と研究意欲を源泉とする学術研究から、特定の政策目的を実現する大規模プロジェクトまで、広範にわたる研究開発の特性に応じた適切な評価が効果的・効率的に行われるよう努力しています。科学技術イノベーション政策を推進するために、研究開発評価システムの一層の改善と充実を図ってPDCAサイクルを確立するよう努力しています。

(3)公正な研究活動の推進に向けた取組

 研究不正は、科学への信頼を揺るがし、その発展を妨げる行為であり、絶対に許されるものではありません。しかしながら、近年、理化学研究所におけるSTAP論文問題やノバルティスファーマ株式会社におけるディオバン事件、東京大学分子細胞生物研究所の事案等、研究不正の問題が社会的に大きく取り上げられています。

1.STAP論文問題について

 平成26年1月、STAP細胞(刺激惹起性多能性獲得細胞)に関する論文が発表されましたが、画像や図表に不自然な点がある等の指摘があったことから、理化学研究所では、二度にわたって調査委員会における調査を実施しました。その結果、4月に2件の研究不正(改ざん、ねつ造)、12月にさらに2件の研究不正(ねつ造)を認定し、公表しました。
 最初の研究不正の認定を受け、理化学研究所では、外部有識者委員会を立ち上げて再発防止策を検討し、8月に行動計画(アクションプラン)としてまとめました。このアクションプランに基づき、理化学研究所では、ガバナンスの強化、発生・再生科学総合研究センターの解体的出直し、研究不正防止策の強化のための取組を順次実施してきました。そして、平成27年3月、外部有識者からなる「運営・改革モニタリング委員会」により、これらの取組による理研改革遂行の道筋がついていることを確認するとともに、アクションプランの取組の実効性を高めていくことが重要である旨の評価書が取りまとめられました。
 理化学研究所では、今後、本評価書を踏まえ、アクションプランの取組をより高い実効性をもって進めることによって、「社会のための理研改革」を実現し、世界の科学コミュニティをリードする「新生の理研」となることが期待されています。

2.研究不正防止への取組

 このような事案を考慮し、学生や若手研究者を含めて広く研究活動に携わる者の倫理観を醸成し、公正な研究活動の実施を徹底するため、研究不正の防止に向けた取組を強化し、科学に対する社会の信頼確保に努めていくことが重要です。
 文部科学省では、「研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォース」や、有識者会議における検討等を考慮し、各研究機関が責任を持って研究不正に対応し、不正を事前に防止する取組を強化する観点から、研究費の不正使用及び研究活動における不正行為に関するそれぞれのガイドラインの見直しを行いました。平成26年2月に「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」を改正し、同年4月から運用を開始しました。また、26年8月に「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」を策定し、27年4月から運用を開始しています。このほか、研究者など広く研究活動に携わる者の研究倫理を醸成するため、研究倫理教育プログラムの開発を支援するとともに、各研究機関が着実に研究不正の事前防止や事後措置のための体制整備を図れるよう、研究機関等に対してガイドラインの見直し内容等の周知徹底や着実な履行を求めています。

お問合せ先

生涯学習政策局政策課

-- 登録:平成27年09月 --