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特集1 2020年に向けた文化政策の戦略的展開

第1節 総論

1 文化芸術振興の意義

 我が国は、諸外国を魅了する有形・無形の文化財を有しているとともに、日本人には地域に根付いた祭りや踊りに参加する伝統があります。また、我が国では、多様な文化芸術活動が行われるとともに、日常においても、稽(けい)古事や趣味などを通して様々な文化芸術体験が盛んに行われてきました。
 こうした日本の文化財や伝統等は、世界に誇るべきものであり、これを維持、継承、発展させることはもとより、日本人自身がその価値を十分に認識した上で、国内外への発信を、更に強化していく必要があります。
 また、経済成長のみを追求するのではない、成熟社会に適合した新たな社会モデルを構築していくことが求められている中、教育、福祉、まちづくり、観光・産業等幅広い分野との関連性を意識しながら、それら周辺領域への波及効果を視野に入れた文化芸術振興施策の展開がより一層求められています。
 他方で、人口減少社会が到来し、特に地方においては過疎化や少子高齢化等の影響、都市部においても単身世帯の増加等の影響により、地域コミュニティの衰退と文化芸術の担い手不足が指摘されています。また、昨今の経済情勢や、厳しさを増す地方の財政状況などからも、地域の文化芸術を支える基盤の脆(ぜい)弱化に対する危機感が広がっています。文化芸術が生み出す社会への波及効果を、こうした諸課題の改善や解決につなげることも、求められています。
 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会は、我が国の文化財や伝統等の価値を世界へ発信するとともに、文化芸術が生み出す社会への波及効果を生かして、諸課題を乗り越え、成熟社会に適合した新たな社会モデルの構築につなげていくまたとない機会です。
 我が国は、このような認識の下、文化芸術の振興を国の政策の根幹に据え、「文化芸術立国」を目指して、文化芸術の振興に取り組んでいます。

2 文化芸術振興基本法成立後の文化芸術振興施策の展開

 平成13年、文化芸術全般にわたる法律として「文化芸術振興基本法」が制定されました。この法律は、文化芸術に関する活動を行う人々の自主的な活動を推進することを基本としながら、文化芸術振興に関する施策の総合的な推進を図り、心豊かな国民生活と活力ある社会の実現に貢献することを目的としています。
 「文化芸術振興基本法」に基づき、政府は、文化芸術振興に関する施策の総合的な推進を図るため、おおむね5年に1度「文化芸術の振興に関する基本的な方針」(以下、「基本方針」という。)を策定し、この基本方針に基づき「文化芸術立国」を目指して文化芸術の振興に取り組んでいます。
 我が国の文化芸術をめぐる状況を見てみると、内閣府「国民生活に関する世論調査」によれば、「物質的にある程度豊かになったので、これからは心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きをおきたい」と考える国民の割合はおおむね増加傾向にあり、平成26年度では約6割となっています(図表1‐1‐1)。
 また、内閣府「文化に関する世論調査」(平成21年11月)によれば、日常生活の中で、優れた文化芸術体験をしたり、自ら文化芸術活動を行ったりすることを「非常に大切」「ある程度大切」と考える国民は、約9割となっています(図表1‐1‐2)。

図表1‐1‐1 人々の求める豊かさ 図表1‐1‐2 日常生活における文化芸術の体験・活動の重要性

図表1‐1‐3 文化芸術振興のために国に力を入れてほしい項目

 文化芸術振興のために国に力を入れてほしい事項として、約5割の国民が「子供たちの文化芸術体験の充実」を挙げています。それに次いで、約4割の国民が「文化芸術を支える人材の育成」、「文化財の維持管理に対する支援」を挙げています(図表1‐1‐3)。
 こうした文化芸術の持つ重要性を考慮し、政府としては、今後とも文化芸術の振興に努めていくこととしています。

第2節 第4次「文化芸術の振興に関する基本的な方針」の策定

 政府は、これまで「第1次基本方針」(平成14年12月閣議決定)、「第2次基本方針」(19年2月閣議決定)、「第3次基本方針」(23年2月閣議決定)を策定し、各基本方針に基づき、文化振興に取り組んできました。
 一方で、第3次基本方針策定後、東日本大震災の発生(平成23年3月)や、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催決定(25年9月)、地方創生に向けた取組の一層の推進等、我が国を取り巻く諸情勢の変化がありました。これらの変化を踏まえつつ、平成32年(2020年)を見据えた文化芸術振興のための基本的な施策の在り方を定めるために、 26年3月、下村文部科学大臣から文化審議会に対し「第4次基本方針」の策定に向けた諮問が行われました。その後、約1年間にわたって、同審議会における審議や文化芸術団体等からのヒアリングを行い、答申案についての国民からの意見募集なども実施し、27年4月16日に答申が取りまとめられました。本答申に基づき、27年5月22日に「文化芸術の振興に関する基本的な方針」(第4次基本方針)が閣議決定されました(図表1‐1‐4)。

1 我が国が目指す「文化芸術立国」の姿

 第4次基本方針は、対象期間を平成32年度(2020年度)までの6年間としており、この期間を通じて我が国が目指す「文化芸術立国」の姿を初めて明示しました。

我が国が目指す「文化芸術立国」の姿

  • (1)子供から高齢者まで、あらゆる人々が我が国の様々な場で、創作活動へ参加、鑑賞体験できる機会等を、国や地方公共団体はもとより、芸術家、文化芸術団体、NPO、企業等様々な民間主体が提供している。
  • (2)全国の地方公共団体、多くの文化芸術団体、文化施設、芸術家等の関係者により、世界に誇る日本各地の文化力を生かしながら、2020年東京大会を契機とする文化プログラムの全国展開等がなされている。
  • (3)日本全国津々浦々から、世界中に各地の文化芸術の魅力が発信されている。東日本大震災の被災地からは、力強く復興している姿を、地域の文化芸術の魅力と一体となって、国内外へ発信している。
  • (4)2020年東京大会を契機とする文化プログラムの全国展開等に伴い、国内外の多くの人々が、それらに生き生きと参画しているとともに、文化芸術に従事する者が安心して、希望を持ちながら働いている。そして、文化芸術関係の新たな雇用や、産業が現在よりも大幅に創出されている。

2 社会を挙げての文化芸術振興

 昨今、国内外の諸情勢は急速な変化を続け、文化芸術を取り巻く情勢にも大きな影響を与えており、社会を挙げての文化芸術振興が必要とされているところです。

(1)文化芸術を取り巻く諸情勢の変化を踏まえた対応

1.地方創生

 人口減少社会が到来し、特に地方においては過疎化や少子高齢化等の影響、都市部においても単身世帯の増加等の影響により、地域コミュニティの衰退と文化芸術の担い手不足が指摘されています。そこで、文化芸術、町並み、地域の歴史等を地域資源として戦略的に活用し、地域の特色に応じた優れた取組を展開することで交流人口の増加や移住につなげるなど、地域の活性化を図る新しい動きを支援し、文化芸術を起爆剤とする地方創生の実現を図るとともに、2020年に向け、文化芸術を目的に訪日する外国人を大幅に増加させることが必要です。

2.2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会

 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会は、これを文化の祭典としても成功させることにより、我が国の文化や魅力を世界に示すとともに、文化芸術を通じて世界に大きく貢献するまたとない機会であり、文化芸術の振興にとって大きなチャンスです。ロンドン大会(2012年)の例では、大会の4年前である2008年から、英国のあらゆる地域で、音楽、演劇、ダンス、美術、映画、ファッション等の多角的な文化や魅力を紹介する文化プログラムが実施されました。日本も、これらの例に学んで、2020年東京大会の開催効果を東京のみならず広く全国に波及させるため、文化プログラム等の機会を活用して、全国の自治体や芸術家等との連携の下、地域の文化を体験してもらうための取組を全国各地で実施することにしています。また、リオ・デ・ジャネイロ大会(2016年)の終了後に、オリンピック・パラリンピック・ムーブメントを国際的に高めるためのキック・オフ・イベントとして、スポーツ・文化・ワールド・フォーラムを開催します(※1)。

3.東日本大震災

 大震災の被災地は、人口減少・高齢化・産業の空洞化など、今の日本が抱える課題が顕著です。一方、大震災を契機に文化芸術の果たす役割の重要性が改めて認識されました。このため、従前の状態に復旧するのではなく、復興を契機にこれらの課題を解決し、我が国や世界のモデルとなる「創造と可能性の地」としての「新しい東北」を創造することが期待されています。2020年東京大会観戦を目的とした訪日外国人が、力強く復興している東北地方を訪問し、地域の文化芸術の魅力と一体となった復興の姿を体験してもらう機会を提供するなど、復興支援を進めます。


  • ※1 参照:第1部 特集2 第4節コラム

(2)成果目標と成果指標

 第4次基本方針においては、成果目標と成果指標を初めて明示しました。

2020年までの成果目標・成果指標

成果目標:国民の誇りとして「文化・芸術」が広く挙げられている。

【成果指標】
 約6割の国民が日本の誇りとして「文化・芸術」を挙げることを目指す。

  • 我が国の誇りとして、「すぐれた文化や芸術」と回答した国民の割合は50.5%。
    (内閣府「社会意識に関する世論調査〔2014年1月〕」)

成果目標:地域の文化的環境に対して満足する国民の割合が上昇している。

【成果指標】
 約6割の国民が地域の文化的環境に満足すると回答することを目指す。

  • 住んでいる地域の文化的環境(鑑賞機会、創作・参加機会、文化財や伝統的まちなみの保存・整備等)に対して満足していると回答した国民の割合は、52.1%。(内閣府「文化に関する世論調査」〔2009年11月〕)

成果目標:寄附文化が醸成されている。

【成果指標】
 国民の寄付活動を行う割合が倍増(約20%)することを目指す。

  • 過去1年間に文化芸術活動に関する寄付を行った割合は9.1%。(内閣府「文化に関する世論調査」〔2009年11月〕)

成果目標:文化芸術の鑑賞活動や創作活動等が広がっている。

【成果指標】
 鑑賞活動をする者の割合が約80%まで上昇、鑑賞以外の文化芸術活動をする者の割合が約40%まで増加することを目指す。

  • ホール、劇場、美術館及び博物館等で直近1年間に鑑賞活動をしたことがある者は、62.8%。(内閣府「文化に関する世論調査」〔2009年11月〕)
  • 直近1年間に、鑑賞を除く文化芸術活動をしたことがある者の割合は23.7%。(内閣府「文化に関する世論調査」〔2009年11月〕)

成果目標:世界の人々が日本文化の魅力を求めて訪日したり、情報にアクセスしたりする状況を創り出す。

【成果指標】

  1. 訪日外国人旅行者数2,000万人を目指す。
  2. 海外発信サイト(文化遺産オンライン)への訪問回数が200万回/年となることを目指す。(平成23年度現在で101万回)
  3. 日本の魅力を地域から発信する役目を果たす外国人を増やすため、在留外国人のうち、日本語学習者の割合を10%(現在の約1.5倍)とすることを目指す。(2012年は7%)

3 文化芸術振興に関する重点施策

 本基本方針では、諸外国の状況も勘案しつつ、文化芸術活動を支える環境を充実させ、国家戦略として「文化芸術立国」を実現するため、以下の五つの重点戦略を強力に進めることにしています。

重点戦略1:文化芸術活動に対する効果的な支援

 我が国の文化芸術水準の向上を図り、その成果を広く国民が享受できる環境を整備します。

重点的に取り組むべき主な施策
  • 芸術の水準向上に直接的な牽(けん)引力となる創造活動に重点的な支援を行うなど、我が国の顔として世界に誇れる文化芸術の創造支援
  • 従来の文化芸術活動における各分野の対象領域を超えて、日本と海外との多様な芸術交流により新たな舞台等の創造を推進するなど、分野の特性に配慮しつつ、戦略的かつ工夫を凝らした方法による創造活動の推進と、新たに創造された舞台等作品の国内外への発信 等

重点戦略2:文化芸術を創造し、支える人材の充実及び子供や若者を対象とした文化芸術振興策の充実

 文化芸術を創造し、支える人材の育成・充実を図り、もって我が国の文化芸術の永続的な継承・発展を図ります。また、全ての子供や若者が、学校や地域において本物の文化芸術に触れ、豊かな感性や創造性、コミュニケーション能力を育む機会を充実することにより、次代の文化芸術の担い手や鑑賞者を育むとともに、心豊かな子供や若者の育成を図ります。

重点的に取り組むべき主な施策
  • 子供たちのコミュニケーション能力の育成に資する文化芸術に関する体験型ワークショップをはじめ、学校における芸術教育の充実
  • 雇用の増大を図ることも念頭に置いた、文化芸術活動や施設の運営を支える専門人材の育成・活用 等

重点戦略3:文化芸術の次世代への確実な継承、地域振興等への活用

 国民的財産である文化財の総合的な保存・活用を図るとともに、文化芸術を次世代へ確実に継承します。また、文化芸術の地域振興、観光・産業振興等への活用を図ります。

重点的に取り組むべき主な施策
  • 文化財の特性や適切な保存に配慮しつつ、多様な手法を用いて積極的な公開・活用を行い、広く国民が文化財に親しむ機会の充実と、文化財建造物、史跡、博物館や伝統芸能等の各地に所在する有形・無形の文化芸術資源を、その価値の適切な継承にも配慮しつつ、地域振興、観光・産業振興等に活用するための取組の推進
  • 「日本遺産(Japan Heritage)」認定の仕組みを新たに創設し、歴史的魅力に溢れた文化財群を地域主体で国内外に戦略的に発信するなど、地域の複数の文化財を総合的かつ一体として活用する取組の支援

写真 日本遺産「日本茶800 年の歴史散歩」構成文化財「宇治茶の郷 和束の茶畑」
 日本遺産「日本茶800 年の歴史散歩」構成文化財「宇治茶の郷 和束の茶畑」

写真 日本遺産「加賀前田家ゆかりの町民文化が花咲くまち高岡―人、技、心―」構成文化財「山町筋を巡行する高岡御車山」
 日本遺産「加賀前田家ゆかりの町民文化が花咲くまち高岡―人、技、心―」構成文化財「山町筋を巡行する高岡御車山」

  • 地方公共団体等との連携による、我が国の文化遺産のユネスコ世界文化遺産やユネスコ無形文化遺産への推薦・登録の積極的な推進、登録後の文化遺産の適切な保存・活用・継承等への取組 等

重点戦略4:国内外の文化的多様性や相互理解の促進

 伝統文化から現代の文化芸術活動に至る我が国の多彩な文化芸術を積極的に海外発信するとともに、文化芸術各分野における国際文化交流を推進することにより、文化芸術水準の向上を図るとともに、我が国に対するイメージの向上や諸外国との相互理解の促進に貢献します。

重点的に取り組むべき主な施策
  • 舞台芸術、美術品等の海外公演・出展、国際共同制作等への支援の充実と、各専門分野の芸術家、文化人等による海外での講演、実演等、世界の人々の日本文化への理解の深化につながる活動の展開
  • 文化発信・交流の拠点として、美術館や博物館、劇場、音楽堂等、大学の活動・内容の充実
  • 各種文化芸術資源を継承し、次代の文化芸術創造の基盤となる知的インフラを構築するため、文化芸術(映画、舞台芸術、アニメ、マンガ、ゲーム、デザイン、写真、建築、文化財等)の収集・保存及びデジタルアーカイブ化等の促進や分野横断的整備の検討、我が国のメディア芸術を広く海外に発信 等

重点戦略5:文化芸術振興のための体制の整備

 重点戦略1から重点戦略4までに掲げた各施策を着実に講じていく文化振興のための施設・組織等の体制の整備を行います。

重点的に取り組むべき主な施策
  • 国立の美術館、博物館や劇場の機能の充実と仕組みの整備
  • 『アイヌ文化の復興等を促進するための「民族共生の象徴となる空間」の整備及び管理運営に関する基本方針』(平成26年6月13日閣議決定)に基づく取組の推進

 政府としては、本基本方針に基づき、我が国の文化芸術が振興されることにより、文化芸術資源で未来をつくり、上記で掲げた文化芸術の姿を創出していくための国家戦略となることを目指しています。

図表1‐1‐4 文化芸術の振興に関する基本的な方針―文化芸術資源で未来をつくる―(第4次基本方針)ポイント

Column No.01 文化資産に関するデジタルアーカイブの取組について

 我が国の文化や歴史等の理解に欠かすことのできない映画、舞台芸術、アニメ、マンガ、ゲーム、デザイン、写真、建築、文化財等の文化資産に係る情報のデジタルアーカイブを構築することは、我が国の多様な文化を保存・継承するとともに、国民が自ら活動に参加し、新たな文化を創造していくための基盤を形成する意味で重要です。
 このため、メディア芸術分野では、「メディア芸術データベース」として、マンガ、アニメ、ゲーム、メディアアートの書誌情報のデータベースの構築等に取り組み、インターネットで公開しています(※2)。文化財分野では、「文化遺産オンライン」において、国や地方の有形・無形の文化遺産に関する情報を集約することなどを目的として、全国の博物館・美術館や関係団体、各自治体の協力を得ながら、有形・無形を問わず良質で多様な文化遺産の情報を収集し、インターネットで公開しています(※3)。
 このほかの分野についても、歴史的・文化的価値を持つ我が国の貴重な文化関係資料が散逸・消失することのないよう、アーカイブの構築に向けた資料の保存及び活用を図るための望ましい仕組みの在り方について検討会を開催するとともに、脚本、音楽関係資料等の所在情報を把握する等の調査研究を行っています。調査研究の一部の成果は、デジタル化し、国立国会図書館で公開しています。
 今後は、政府全体として、国立国会図書館等の関係機関と連携しつつ分野横断的なデジタルアーカイブの整備を検討しているところです。

文化資産に関するデジタルアーカイブの取組について


  • ※2 参照:http://mediaarts-db.jp/
  • ※3 参照:http://bunka.nii.ac.jp/

第3節 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催に向けて実現する文化プログラム

1 オリンピック憲章における文化の位置付け等

(1)オリンピック憲章における文化の規定

 オリンピック憲章では、スポーツと文化、教育の融合が挙げられています。オリンピック憲章(2011年度版)には、オリンピズムの第1の根本原則として、「オリンピズムは、人生哲学であり、肉体と意思と知性の資質を高めて融合させた、均衡のとれた総体としての人間を目指すものである。スポーツを文化と教育と融合させることで、オリンピズムが求めるものは、努力のうちに見出される喜び、よい手本となる教育的価値、社会的責任、普遍的・基本的・倫理的諸原則の尊重に基づいた生き方の創造である。」と規定されています。また、第5章第39条には「OCOG(オリンピック競技大会組織委員会)は、短くともオリンピック村の開村期間、複数の文化イベントのプログラムを計画しなければならない。このプログラムは、IOC理事会に提出して事前の承認を得るものとする。」と規定されています。

(2)近代オリンピックにおける文化事業の実施

 近代オリンピックにおいても、これまで約1世紀にわたり、芸術競技や芸術展示など、様々な文化事業が実施されてきました。

近代オリンピックにおける文化の扱い
  1. 文化的要素がない時代(第1回アテネから第4回ロンドン)〔1896~1908年〕
  2. 芸術競技の時代(第5回ストックホルムから第14回ロンドン)〔1912~1948年〕
  3. 芸術展示の時代(第15回ヘルシンキから第24回ソウル)〔1952~1988年〕
  4. 文化プログラムの時代(第25回バルセロナから第30回ロンドン)〔1992~2012年〕
     2012(平成24)年のロンドンオリンピック・パラリンピックにおいては、2008(平成20)年の北京オリンピック・パラリンピック後、4年間にわたり、イベント総数約18万件、参加アーティスト数約4万人という、大規模な文化プログラムが実施されました。このように近年の文化事業は、規模・質とともに、五輪開催期間を超えて、長期化・大規模化し、オリンピックは、「スポーツと文化の祭典」となっています。

2 政府における文化プログラムの推進

 我が国においても、2020(平成32)年に向けて、日本各地の文化資源を積極的に活用し、関係省庁や全国の地方自治体、多くの芸術家等、関係者と共に、日本の文化によって、世界の人々を魅了する文化イベント・各種取組を進めることとしています。そして、それらを一過性のイベントで終わらせることなく、2020(平成32)年以降も、かけがえのない日本の遺産(レガシー)として残し、我が国が、より一層文化芸術に立脚した国となるよう、文化力の顕在化、基盤の強化を図ります。
 東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催年を新たな成長に向かう契機の年として、文化プログラムを日本全国津々浦々で行うことを目指すとともに、文化を通じた世界の人々の往来や交流を生み出し、一人一人が互いを認め合う包容力のある社会、文化芸術による魅力あふれる社会を実現することを目指しています。
 こうした目標の実現を目指し、平成26年12月から、文化庁長官の下に「2020年に向けた文化イベント等の在り方検討会」を開催し、魅力ある文化イベント等を全国展開するための方策等について検討しています。

第4節 我が国の文化資源を活(い)かした地方創生と世界発信

1 文化芸術創造都市の推進

 近年、美しい景観や地方公共団体固有の文化的環境を生かすことにより、住民の創造性を育むとともに、新しい産業や街のにぎわいに結び付けることを目指す地方公共団体が増えてきました。文化庁では、文化芸術の持つ創造性を活(い)かして、産業振興、地域活性化等を図る「文化芸術創造都市」の取組を推進しています。例えば、都市政策の中心に文化政策を据える地方公共団体を応援するため、平成19年度に表彰制度を創設しました(図表1‐1‐5)。
 平成21年度からは、「文化芸術創造都市」に取り組む地方公共団体やその関係者を対象とし、情報収集・提供、研修の実施などを通じた国内の文化芸術創造都市ネットワークの構築に取り組んでいます。また、25年1月には、国内の創造都市ネットワークの充実・強化を図るため、各自治体等の連携により、「創造都市ネットワーク日本(Creative City Network of Japan)」が設立されました。
 文化庁として、このようなネットワーク組織を支援するとともに、平成26年4月に、全国各地域の文化芸術創造都市づくりの支援を推進するために、地方公共団体等からの相談機能を果たす「文化庁・文化芸術創造都市振興室」を京都市内に設け、文化芸術創造都市の推進を図っています。

写真 創造都市ネットワーク日本 自治体サミット宣言の様子「創造都市ネットワーク日本」ホームページより
 創造都市ネットワーク日本 自治体サミット宣言の様子「創造都市ネットワーク日本」ホームページより

 また、平成26年10月には、ネットワーク加盟自治体等が参加する「文化芸術創造都市自治体サミット」において、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を契機に、日本の文化的な景観や資産を活(い)かしたまちづくりを進め、芸術フェスティバルを積極的に世界発信すること等を、登壇首長をはじめとした参加者一同で確認し、そのためのネットワークの拡大が宣言されました。
 このように、2020年に向けて、全国津々浦々で魅力ある文化プログラムを展開し、世界中の人々を日本の文化で魅了するとともに、2020年以後に、文化芸術の創造性で持続的に地域を活性化させるために、文化芸術創造都市が一つの核となることが期待されています。

図表1‐1‐5 長官表彰(文化芸術創造都市部門)受賞都市一覧

2 日本遺産の魅力発信

 我が国の文化財行政は、これまで、文化財保護法に基づき、国宝、重要文化財、史跡名勝天然記念物など文化財の類型ごとに指定等を行うことにより、一定の規制の下、いわば“点”として保存・活用を図ることを中心に展開してきました。
 一方、我が国には有形・無形の優れた文化財が各地に数多く存在しており、それらにストーリー(物語)性などの付加価値を付けつつ魅力を発信する体制を整備するとともに、文化財を核に当該地域(周辺部も含めて)の産業振興・観光振興や人材育成等とも連動して一体的なまちづくり政策を進めることが、地域住民のアイデンティティの再確認や地域のブランド化等にも貢献し、ひいては地方創生に大いに資するものとなります。
 各地方公共団体においては、上記のような効果を念頭に文化財を積極的に活用した取組を行っていくことが望まれます。国においては、そうした意欲的な地方公共団体を後押しする施策の実施が必要です。
 そのための有効な方策として、我が国の文化・伝統を語るストーリーを「日本遺産(Japan Heritage)」として認定し、ストーリーを語る上で不可欠な魅力ある有形・無形の文化財群を総合的に活用する取組を支援する事業を平成27年度に創設しました。27年度は18件を認定し、支援を実施しているところです(図表1‐1‐6)。

図表1‐1‐6 平成27年度「日本遺産(Japan Heritage)」認定一覧

3 ユネスコ世界文化遺産の保存・活用

 ユネスコ世界文化遺産への登録は、貴重な文化財を次世代に継承するとともに、地域活性化にも資するものとして大変有意義です。例えば「富岡製糸場と絹産業遺産群」は、平成26年6月末のユネスコ世界遺産委員会において正式に世界文化遺産として登録されたことにより、各資産を訪れる観光客数が前年に比べて飛躍的に増加しました。(富岡製糸場では、26年度一年間で約134万人と、25年度一年間(31万人)の4倍以上の来場者を記録しています。)このことは、文化財が地域の活性化に貢献している好例と言えますが、このような世界文化遺産登録を受けた観光振興・地域振興への効果を一過性のもので終わらせるのではなく、今後も中長期的に継続させていくことが重要です。
 このため、平成27年度から、世界文化遺産に登録された地域の活性化を図るため、情報発信・普及・保護活動等を支援する「文化遺産を活(い)かした地域活性化事業(世界文化遺産活性化事業)」を新規に実施することとしています。

4 ユネスコ無形文化遺産の保存・活用

 ユネスコ無形文化遺産への登録も、文化財の継承と地域活性化に大きな役割を果たしています。平成25年12月の「和食;日本人の伝統的な食文化」に続き、26年11月には、ユネスコ無形文化遺産保護条約政府間委員会において「和紙:日本の手漉(すき)和紙技術」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。
 「和食」の登録後、関連する農林水産物・食品の輸出が、2年連続で過去最高を記録するなど増加しています。また、「和紙」の登録後には、石州半紙、本美濃紙、細川紙の各産地を訪れ、和紙の展示施設を見学したり、手漉(すき)和紙体験を楽しんだりする観光客が増えています。
 文化庁では、無形文化遺産を次世代に継承するため、体験活動等を通じた継承の取組を支援するとともに、文化遺産を活(い)かした地域活性化の取組に対する支援を行っています。例えば、本美濃紙の産地である岐阜県美濃市では、文化庁の「文化遺産を活(い)かした地域活性化事業」も活用し、「美濃和紙あかりアート展」を毎年開催しており、平成26年には2日間で8万人の来場者がありました。

5 東アジア文化都市の推進

(1)東アジア文化都市の概要・背景

 「東アジア文化都市」は、日中韓文化大臣会合(※4)での合意に基づき、日中韓3か国において文化芸術による発展を目指す都市を選定し、その都市において現代の芸術文化や伝統文化、また多彩な生活文化に関連する様々な文化芸術イベント等を実施するものです。2012(平成24)年に中国上海市で開催された第4回日中韓文化大臣会合において、「東アジア文化都市」構想が正式に立ち上がり、2014(平成26)年から始まりました。東アジア域内の相互理解・連帯感の形成を促進するとともに、東アジアの多様な文化の国際発信力の強化を図ることを目指します。
 また、東アジア文化都市に選定された都市がその文化的特徴を生かして、文化芸術・クリエイティブ産業・観光の振興を推進することにより、事業実施を契機として継続的に発展することも目的としています。


  • ※4 参照:第2部 第9章 第7節1(1)

(2)東アジア文化都市の実績

1.2014年東アジア文化都市

 2013(平成25)年に韓国光州広域市で開催された第5回日中韓文化大臣会合において、日本は横浜市、中国は泉州市、韓国は光州広域市が2014年東アジア文化都市に決定されました。
 横浜市は、2014(平成26)年2月のオープニング式典を皮切りに、泉州市、光州広域市とともに、東アジア文化都市として1年間にわたり、舞台芸術・音楽等の公演、展覧会、青少年交流事業等、多くの文化芸術イベントを開催してきました。これらを通じ、3か国の芸術家、市民など様々な人々の間で活発な交流が行われ、日中韓における相互理解の一層の進展に大きな成果を残しました。

横浜市における主な事業

写真 日中韓芸術祭2014~ダンスで交信~
 日中韓芸術祭2014~ダンスで交信~

写真 Arts for Children~日中韓文化芸術教育フォーラム2014~演劇ワークショップ
 Arts for Children~日中韓文化芸術教育フォーラム2014~演劇ワークショップ

2.2015年東アジア文化都市

 2014(平成26)年に横浜市で開催された第6回日中韓文化大臣会合において、日本は新潟市、中国は青島市、韓国は清州市が2015年東アジア文化都市に決定されました。新潟市では2015(平成27)年2月に、青島市、清州市では同年3月に開幕し、約1年間にわたり、それぞれの地域性を生かした様々な文化行事が行われます。

お問合せ先

生涯学習政策局政策課

-- 登録:平成27年09月 --