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第5章 科学技術・学術政策の総合的推進

Topic 1 小惑星探査機「はやぶさ」が世界で初めて月以外の天体から物質を持ち帰ることに成功

 小惑星探査機「はやぶさ」(図表2-5-1)は、平成15年5月に鹿児島県から打ち上げられ、地球から約3億キロメートル離れた小惑星「イトカワ」に到着し、科学観測を実施しました。その結果、重力や表面の様子など、小惑星についての数多くの新たな知見が明らかになり、その成果は米科学誌「サイエンス」特集号でも紹介されました。

図表2-5-1 小惑星探査機「はやぶさ」イメージ図

図表2-5-1 小惑星探査機「はやぶさ」イメージ図


 平成22年6月13日、「はやぶさ」は約7年ぶりに地球へ帰還し、搭載していたカプセルをオーストラリアへ落下させ、その運用を終えました。総航行距離約60億キロメートルの旅路の途中では、搭載しているイオンエンジンの不具合や通信途絶など、幾多の深刻なトラブルが発生しましたが、それらを研究者や技術者の創意工夫で克服し、帰還を成し遂げたことは、多くの国民の関心を呼びました(写真2-5-1)。

写真2-5-1:「はやぶさ」が大気圏に突入した際に発した火球(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))
写真2-5-1:「はやぶさ」が大気圏に突入した際に発した火球
(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

 地球に帰還したカプセルは、直ちに宇宙航空研究開発機構(JAXA)に運ばれ、JAXA相模原キャンパス内の施設で内容物の確認作業が進められました。平成22年7月には、カプセル内部に微粒子の存在が確認されました(写真2-5-2)。その後、国内外の専門家の英知を結集してそれらの微粒子の分析作業を進めた結果、同年11月には、微粒子が「イトカワ」由来の物質であると判断されるに至りました。これにより、「はやぶさ」は、世界で初めて月以外の天体から物質を地球に持ち帰った探査機として人類の科学技術史にその名を残すこととなりました。23年1月からは、大学や大型放射光施設SPring-8などの研究施設で微粒子の詳細な分析が開始されており、太陽系の謎に迫る成果が期待されます。

写真2-5-2:「はやぶさ」が回収した微粒子の電子顕微鏡写真(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))
写真2-5-2:「はやぶさ」が回収した微粒子の電子顕微鏡
写真(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

 地球に帰還したカプセルなどは、内部の微粒子の分析作業と並行して、平成22年8月から全国の展示施設などでの一般公開も続けられています。連日多くの見学者が訪れ、科学的な面のみならず多くの国民の関心を集めています。
 これらの快挙を受け、平成22年12月には、「はやぶさ」プロジェクトに関わりのあった民間企業や大学など119機関に敬意を表し、高木文部科学大臣と海江田宇宙開発担当大臣(当時)から感謝状が贈呈されました(写真2-5-3)。

写真2-5-3:「はやぶさ」功労者に対する感謝状贈呈式(高木文部科学大臣(右)、JAXA川口教授(左))
写真2-5-3:「はやぶさ」功労者に対する感謝状贈呈式
(高木文部科学大臣(右)、JAXA川口教授(左))

 また、カプセル着陸場所の提供国であるオーストラリアのラッド首相と菅総理との電話会談でも「はやぶさ」の話題が取り上げられたほか、笹木文部科学副大臣から同国政府への「はやぶさ」模型などの贈呈、さらにはアジア太平洋経済協力会議(APEC)における各国首脳向けのカプセル展示などを通して、国際的にも大きく貢献し、我が国が誇るべき科学技術力の世界に向けたアピールにつながりました。

Topic 2 2人の日本人研究者がノーベル化学賞を受賞

 2010(平成22)年のノーベル化学賞をパデュー大学特待教授 根岸英一氏、北海道大学名誉教授 鈴木章氏が受賞されました。
 根岸教授、鈴木教授の受賞は、有機合成における「パラジウム触媒クロスカップリング」に関する業績が高く評価されたものです。
 クロスカップリング反応とは、有機化合物の骨格となっている炭素を結合させることによって、思い通りの組合せで新しい有機化合物の製造を可能にするものです。
 両教授は、クロスカップリング反応に、パラジウムという金属を触媒として使用し、有機化合物を構成する炭素の結合を効率的に行う方法を開発しました。
 根岸教授は、触媒として亜鉛化合物を用いる「根岸カップリング」と呼ばれる画期的な合成法を開発し、炭素の結合の効率性を向上させました。
 鈴木教授は、更に改良を加え、亜鉛化合物の代わりに、有機ホウ素化合物を触媒として用いる「鈴木カップリング」と呼ばれる合成法を開発し、飛躍的に実用性を向上させました。
 両教授の開発した合成法は、その後、医薬品や農薬、IT機器に不可欠な液晶パネルなど、我々の生活に欠かせない様々な製品の開発や量産化に利用され、産業の発展に重要な役割を果たしてきました。
 今回の受賞は、根岸・鈴木両教授が若手の時代に築き上げた独創的な研究業績が評価されたものですが、日本人研究者4人が物理学賞、化学賞を受賞した一昨年に続く快挙でもあり、我が国が高い研究水準を有することを世界に改めて示すとともに、科学の道を志す学生や若手研究者はもちろんのこと、国民に夢と希望を与え、国民の科学技術・学術に対する関心を高める貴重な機会となりました(写真2-5-4、写真2-5-5)

日本のノーベル賞受賞者
氏名 受賞分野 受賞年
湯川 秀樹 物理学賞 昭和24年
朝永 振一郎 物理学賞 昭和40年
川端 康成 文学賞 昭和43年
江崎 玲於奈 物理学賞 昭和48年
佐藤 栄作 平和賞 昭和49年
福井 謙一 化学賞 昭和56年
利根川 進 生理学・医学賞 昭和62年
大江 健三郎 文学賞 平成6年
白川 英樹 化学賞 平成12年
野依 良治 化学賞 平成13年
小柴 昌俊 物理学賞 平成14年
田中 耕一 化学賞 平成14年
南部 陽一郎 物理学賞 平成20年
小林 誠 物理学賞 平成20年
益川 敏英 物理学賞 平成20年
下村 脩 化学賞 平成20年
根岸 英一 化学賞 平成22年
鈴木 章 化学賞 平成22年

写真2-5-4:根岸英一パデュー大学特待教授(提供:根岸教授)
写真2-5-4:根岸英一パデュー大学特待教授(提供:根岸教授)

写真2-5-5:鈴木章北海道大学名誉教授(提供:北海道大学)
写真2-5-5:鈴木章北海道大学名誉教授(提供:北海道大学)

Topic 3 国際化学オリンピック日本で開催

 理数系に優れた、主に高校生を対象とする各種国際大会が、毎年世界各地で開催されています。文部科学省では平成16年度から独立行政法人科学技術振興機構を通じて、国際大会への参加や国内選抜の実施等を担う実施団体の支援を行っています。平成22年度も数学、物理、化学、生物学、情報、地理、地学の各科学オリンピック、及び研究発表で競う国際学生科学技術フェア(ISEF)が開催され、日本からは8名の金メダリストが生まれるなど、すばらしい結果を収めました。
 特に、平成22年度は日本において「第42回国際化学オリンピック」が開催されるという記念すべき年となりました。東京に世界の68か国・地域から267名の生徒が集まり、7月19日から28日の10日間にわたって、大会は行われました。
 7月20日には秋篠宮同妃両殿下の御臨席の下開会式が行われ、その後、実験試験(22日)と筆記試験(24日)が各5時間行われたほか、日光や鎌倉の見学、柔道体験など日本文化に触れる機会も多数設けられました。今大会では、日本の代表生徒(4名)全員がメダルを受賞し、かつ金メダル2名、銀メダル2名という快挙を挙げました(写真2-5-6、写真2-5-7)。
 大会終了後、日本代表選手は文部科学省を表敬訪問し、中川文部科学副大臣(当時)から表彰状と記念品が授与されました。その後、試験の反省や手応え、各国選手との交流の模様などについて副大臣と懇談するとともに将来の夢を語り、副大臣からは応援の言葉が掛けられました。
 今回の国際化学オリンピックの日本開催が契機となり、国際科学オリンピックが理数好きの児童生徒の目標となり、そのような児童生徒を評価する意識が社会全体に広まることが期待されます。

【日本代表生徒の結果】

浦谷浩輝さん 滋賀県立膳所高等学校(滋賀県)2年 銀メダル
遠藤健一さん 栄光学園高等学校(神奈川県)3年 金メダル
片岡憲吾さん 筑波大学附属駒場高等学校(東京都)3年 銀メダル
齊藤颯さん 灘高等学校(兵庫県)2年 金メダル
※国際化学オリンピック出場当時の年齢

写真2-5-6:早稲田大学において5時間におよぶ実験試験が行われた。
写真2-5-6:早稲田大学において5時間におよぶ実験試験が行われた。

写真2-5-7:全員がメダルを獲得した国際化学オリンピック日本代表選手たち
写真2-5-7:全員がメダルを獲得した国際化学オリンピック日本代表選手たち

第5章 総論

現状の課題、背景、今後の方向性~第4期科学技術基本計画の策定~

 近年、我が国及び世界を取り巻く諸情勢は大きく変化しています。世界においては、地球規模の問題の深刻化、資源、エネルギー、食料の獲得競争が激化しています。また、中華人民共和国、インドをはじめとする新興国の経済的台頭とともに、経済におけるグローバル化が一層進展しています。一方で、我が国においては、少子高齢化や人口減少等の社会的、経済的活力の減退につながる問題にも直面しています。
 我が国は、平成7年に制定された科学技術基本法に基づき、3期15年にわたって基本計画を策定し、科学技術の着実な振興を図ってきました。実際、第1期基本計画以降、研究開発投資の増加や科学技術システムの改革等によって、数多くの研究成果や実績を挙げてきました。その一方で、個々の成果が社会的課題の達成に必ずしも結び付いていない、厳しい財政状況から政府の研究開発投資がほぼ横ばいにとどまっている、大学の若手ポストが減少している等の指摘がなされています(図表2-5-2、図表2-5-3)。

図表2-5-2 政府研究開発投資の推移

図表2-5-2 政府研究開発投資の推移

 そのような現状認識を踏まえ、政府においては、平成23年度以降の5年間を対象とする第4期基本計画を23年3月に策定する予定でしたが、23年3月11日に発生した東日本大震災を受け、再検討しています。
 第4期基本計画の策定に向けた答申「科学技術に関する基本政策について」(平成22年12月24日)では、まず、目指すべき国の姿として、「将来にわたり持続的な成長を遂げる国」、「豊かで質の高い国民生活を実現する国」、「国家存立の基盤となる科学技術を保持する国」、「地球規模の問題解決に先導的に取り組む国」、「「知」の資産を創出し続け、科学技術を文化として育む国」の五つを掲げるとともに、今後の科学技術政策の基本的方針として、「科学技術イノベーション政策」の一体的展開」、「「人材とそれを支える組織の役割」の一層の重視」、「「社会とともに創り進める政策」の実現」の三つを掲げています。

図表2-5-3 主要国等の政府負担研究費の推移(IMFレート換算)

図表2-5-3 主要国等の政府負担研究費の推移(IMFレート換算)

 これらの基本理念を踏まえ、その実現に向けて、まず、従来の「分野別での重点化」から「課題対応での重点化」へと大きく転換することとしています。具体的には、「成長の柱としての2大イノベーション」として、環境・エネルギー(「エネルギー供給の低炭素化」、「エネルギー利用の高効率化・スマート化」、「社会インフラのグリーン化」)、医療・介護・健康(「革新的な予防法の開発」、「新しい早期診断法の開発」、「安全で有効性の高い治療の実現」、「高齢者、障害者、患者の生活の質(QOL)の向上」)を掲げています。また、「我が国が直面する重要課題への対応」として、「豊かで質の高い国民生活の実現」、「我が国の産業競争力の強化」、「地球規模の問題解決への貢献」、「国家存立の基盤の保持」、「科学技術の共通基盤の充実、強化」を掲げています。同時に、科学技術イノベーションの推進に向けたシステム改革、世界と一体化した国際活動の戦略的展開等を掲げています。
 また、これらの重要課題対応と「車の両輪」として、「基礎研究及び人材育成の強化」を掲げ、長期的視野に立った基礎研究の抜本的強化、科学技術を担う若手研究者等の人材の育成、さらには国際水準の研究環境及び基盤の形成を進めることとしています。
 さらに、「社会とともに創り進める政策の展開」として、政策への国民参画、科学技術コミュニケーション、研究開発推進体制の改革等を掲げています。研究開発投資については、官民合わせた投資の目標を対GDP比の4パーセント以上とした上で、政府研究開発投資を対GDP比の1パーセントにすることを目指すとともに、第4期基本計画期間中の総額を約25兆円とすることを目標として明示しています(同期間中に政府研究開発投資の対GDP比率1パーセント、GDPの名目成長率平均2.8パーセントを前提に試算。)(図表2-5-4)。

図表2-5-4 答申「科学技術に関する基本政策について」(平成22年12月24日)

図表2-5-4 答申「科学技術に関する基本政策について」(平成22年12月24日)

第1節 科学技術・学術政策の展開

1 科学技術基本計画

 我が国の科学技術行政は、科学技術基本法に基づき5年ごとに策定される科学技術基本計画(「基本計画」)にのっとり、総合的かつ計画的に推進されています。
 平成18年度から22年度を対象とした第3期基本計画では、「社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術」、「人材育成と競争的環境の重視~モノから人へ、機関における個人の重視」の2点を基本姿勢とし、科学技術政策が目指すべき六つの大目標を明示しています。また、これらの目標の実現に向けて、科学技術の戦略的重点化、科学技術を担う人材の育成等が掲げられ、これに沿って関係機関において積極的な取組が進められています(図表2-5-5)。
 第3期基本計画は、平成22年度で最終年度を迎えることから、23年度以降の5年間を対象とする第4期基本計画の策定に向けて、21年9月4日に開催された総合科学技術会議本会議において、内閣総理大臣より、科学技術に関する基本政策の検討について諮問がなされました。その後、同会議で約1年間にわたって調査検討が行われ、22年12月24日に諮問に対する答申がなされました。政府においては、同答申に基づき、23年3月に第4期基本計画を閣議決定する予定でしたが、23年3月11日に発生した東日本大震災を受け、再検討しています。

2 科学技術・学術の振興のための取組

(1)研究開発力強化法

 米国競争力強化法の制定や中国科学技術進歩法の改正など、諸外国における研究開発システムの改革に関わる法整備の動きを踏まえ、我が国の研究開発力の強化及び研究開発等の効率性の向上を図るため、超党派の議員立法により研究開発力強化法が平成20年6月に可決成立しました。研究開発力強化法附則第6条及び附帯決議を踏まえ、関係府省の副大臣・大臣政務官級の会合である「研究開発を担う法人の機能強化検討チーム」において検討が行われ、22年4月に「国立研究開発機関(仮称)」制度の創設が提言されました(参照:研究開発を担う法人の機能強化検討チーム)。
 また、「新成長戦略」(平成22年6月閣議決定)において同制度創設の検討が盛り込まれたほか、前述の総合科学技術会議の答申(22年12月)においても、「組織のガバナンスやマネジメントの改革等を実現する国の研究開発機関に関する新たな制度を創設する」とされています。

(2)年次報告(科学技術白書)

 「科学技術の振興に関する年次報告」(科学技術白書)は、科学技術基本法第8条に基づき、政府が科学技術の振興に関して講じた施策について、文部科学省が取りまとめて毎年国会に提出している報告書です。平成23年版の白書では「社会とともに創り進める科学技術」について特集しています。
(参照:科学技術白書

(3)科学技術に関する経費の見積り方針調整

 我が国の科学技術に関する行政は、多数の府省庁によって実施されており、国全体として整合性を保ちつつ、効率的・効果的に推進されるよう調整がなされることが重要です。文部科学省では、科学技術に関する施策について、関係府省庁の概算要求の内容を把握し、整理等を行っています。

図表2-5-5 第3期科学技術基本計画(平成18~22年度)の概要

図表2-5-5 第3期科学技術基本計画(平成18~22年度)の概要

(4)我が国の科学技術・学術の現状把握

 文部科学省では、我が国や諸外国の科学技術・学術の現状を把握するために調査やデータ収集などを行い、新しい政策の企画立案などに活用するとともに、科学技術要覧(世界各国の科学技術に関するデータ集)を作成するなど、一般への公開も行っています。
(参照:科学技術要覧

(5)科学技術振興調整費の活用

 科学技術振興調整費は、総合科学技術会議の方針に沿って文部科学省が運用を行う政策誘導型の競争的資金です。平成22年度は、科学技術人材の育成強化や大学・研究機関の研究力向上が重要であるとの観点から、既存プログラムによる取組を推進するとともに、第4期科学技術基本計画の策定を見据え、円滑な科学技術活動と成果還元に向けた制度・運用上の隘路解消の取組を行う新たなプログラムの創設を行いました(図表2-5-6)。

図表2-5-6 平成22年度公募を行った科学技術振興調整費のプログラムについて
プログラム名 概要
・気候変動に対応した新たな社会の創出に向けた社会システムの改革プログラム 気候変動の適応策や緩和策実施の基礎となる要素技術を開発し、それらを組み合わせて社会システムの中で実証すると共に、気候変動に対応した新たな社会を先取りした都市・地域を形成するための仕組みを導入
・健康研究成果の実用化加速のための研究・開発システム関連の隘路解消を支援するプログラム 革新的な医薬品、医療機器の迅速な実用化に向けて、安全性、有効性の評価のための基礎データの収集が遅延しないようにするなど、出口まで円滑に研究開発を進めるための基盤整備を支援
・安全・安心な社会のための犯罪・テロ対策技術等を実用化するプログラム 関係府省庁との連携体制の下、具体的な現場ニーズに基づきテーマを設定し、技術開発及び実用化に向けた実証試験までを一体的に実施
・若手研究者の自立的研究環境整備促進 テニュア・トラック制に基づき、若手研究者に競争的環境の中で自立性と活躍の機会を与える仕組みを導入
・イノベーション創出若手研究人材養成 若手研究人材が、国内外の多様な場で創造的な成果を生み出す能力を身につける研究人材養成システムを構築
・女性研究者支援モデル育成 女性研究者が研究と出産・育児などを両立し、研究活動を継続するための支援を行う仕組みを導入
・女性研究者養成システム改革加速 女性研究者の採用割合等が低い分野である、理学系、工学系、農学系の研究を行う優れた女性研究者の養成を加速
・地域再生人材創出拠点の形成 将来的な地域産業の活性化や地域の社会ニーズの解決に向けた、地域再生のための人材を創出する拠点を形成
・戦略的環境リーダー育成拠点形成 途上国における環境問題の解決に向けたリーダーシップを発揮する人材(環境リーダー)を育成する拠点を形成
・国際共同研究の推進 アジア・アフリカ諸国等と我が国を中心とした国際的な科学技術コミュニティを構築し、将来的な我が国とアジア・アフリカ諸国等と政府間の協力関係を強化

(6)科学技術政策研究所の調査研究

 科学技術政策研究所では、科学技術に関する基本的な政策に関する基礎的な事項を調査・研究する中核的研究機関として、国内外の関係機関との連携・交流を図りつつ、以下のような調査研究活動を積極的に推進しています(参照:NISTEP HOMEPAGE(※NISTEPウェブサイトへリンク))。

  • 科学技術システムに関する調査研究(科学技術人材、産学官連携、知的財産など)
  • イノベーションに関する調査研究(イノベーション・システム、地域イノベーション、大学等発ベンチャー、国内企業におけるイノベーションの実現状況など)
  • 科学技術と社会との関わりに関する調査研究
  • 科学技術活動の計測等に係る調査研究(科学技術の状況に係る総合的意識調査、科学技術指標など)
  • 重点科学技術分野の動向調査研究
  • 科学技術予測に関する調査研究

(7)基礎研究の推進

 基礎研究は、人類の英知やイノベーションを創出する上で大きな役割を果たしており、その推進は科学技術立国を目指す我が国にとって重要な課題です。文部科学省においては、持続的な成長の源泉となる幅広い分野の多様な基礎研究の充実強化を図っています。

(8)先端研究への多年度に渡る支援

 将来における我が国の経済社会の発展の基盤となる先端的な研究を3~5年間集中的に推進するため、従来の予算制度に縛られない多年度にわたる研究費の弾力的な運用を可能とする「先端研究助成基金」を平成21年に日本学術振興会に創設しました。この基金により、世界のトップを目指す我が国を代表する30人の研究者を対象とした「最先端研究開発支援プログラム」及び世界の科学・技術をリードすることが期待される若手・女性・地域の研究者を対象とした「最先端・次世代研究開発支援プログラム」を実施しています。
 なお、この二つのプログラムは、総合科学技術会議が運用方針を定め、日本学術振興会から研究費を助成しています。

第2節 学術の振興

1 学術研究の意義と推進方策

(1)学術研究の意義

 学術は、人文・社会科学から自然科学まで全ての学問分野に及ぶ知的創造活動であり、人間の知的探究心と自由な発想を源泉として展開されるものです。そして、大学・大学共同利用機関(大学等)を中心として行われる学術研究は、1.新しい法則や原理の発見、2.方法論の確立、3.新しい知識や技術の体系化とその応用、4.先端的な学問領域の開拓、5.これまで人類が蓄積してきた精神文化の継承、など文明の基盤を形成しています。
 学術研究の成果は、人類の知的共有財産としてそれ自体優れた文化的価値を有すると同時に、更なる発展・複合化によって技術面から国民生活を豊かにするなど、社会経済の発展にも大きく貢献しています。また、教育と研究を一体として推進している大学等においては、学術研究の発展が現代社会で求められる多様で高度な教育を実現するために不可欠となっています。

(2)学術研究の推進方策

 文部科学省では「教育振興基本計画」や「第3期科学技術基本計画」、科学技術・学術審議会における審議などを踏まえ、学術研究の振興のために以下の取組を行っています。

1.基盤的経費の確実な措置と競争的資金の拡充

 国立大学法人運営費交付金・私学助成などの基盤的経費を確保するとともに、科学研究費補助金をはじめとした競争的資金の拡充を図るなど多様な研究資金制度の拡充に努めています(参照:第2部第5章第2節2、第5章第5節1)。

2.学術研究基盤の着実な整備の支援

 大学等に対する計画的な研究施設・設備の整備・充実、コンピューターやネットワーク、学術図書資料などの学術情報基盤の整備、生物遺伝資源をはじめとする知的基盤の整備など、我が国の学術研究基盤が着実に整備されるよう支援を行っています(参照:第2部第5章第2節3、第5章第6節)。

3.世界的教育研究拠点の一層の整備と世界で活躍できる若手研究者の育成

 平成19年度から、国内外の大学、機関との連携と若手研究者の育成機能の強化を含め、国際的に卓越した教育研究拠点形成を重点的に支援する「グローバルCOEプログラム」を実施しています(参照:第2部第3章第1節2(1))。また、大学共同利用機関や大学の共同利用・共同研究拠点(参照:第2部第5章第2節3)などを中心に、独創的・先端的な学術研究を推進するため、全国の関連研究者のニーズに応えながら、個別の大学では整備や維持が困難な大型の施設・設備や大量の学術資料・データなどの整備への支援を行っています。例えば、宇宙の果てに挑む天文学研究、物質の究極的な構造などの解明を目指す加速器科学研究、地球環境問題の根本的な解決を目指す地球環境学研究、未来のエネルギー源を開発する核融合科学研究、宇宙の進化の謎に迫るニュートリノ研究など世界最高水準を目指す研究を重点的に支援しています(参照:第2部第5章第2節3、第6節1)。
 また、学術研究の担い手である優秀な研究者が育ち、十分に能力を発揮できるようにすることが重要です。文部科学省では日本学術振興会の「特別研究員事業」などを推進し、優れた若手研究者の養成・確保に努めています(参照:第2部第5章第4節)。

4.「学術研究の大型プロジェクト」の戦略的・計画的推進

 大規模かつ最先端の装置の整備等を要する「学術研究の大型プロジェクト」の戦略的・計画的な推進のために、科学技術・学術審議会において、欧米の例も参考にしながら、研究者コミュニティにおいて構想中の研究計画について一定の優先度を整理した「ロードマップ」を策定しました。「大型低温重力波望遠鏡計画」や「Bファクトリー加速器の高度化による新しい物理法則の探求」をはじめとする研究計画は、平成22年度より実施されている「最先端研究基盤事業」に採択され、支援が開始されています(参照:第2部第5章第6節1)。

5.海外拠点との国際的な連携や学際的・学融合的な取組への支援

 国際的な研究水準を追求し、我が国に海外の優秀な研究者の「知」を結集して研究を行うため、日本学術振興会の「先端研究拠点事業」などにより、国内の大学等における研究拠点と海外拠点との間の国際的な連携を支援しています。
 また、学術研究の更なる発展のため、大学等が広く国内外の研究者と連携して進めている従来の学問分野を超えた学際的・学融合的な取組を支援しています。例えば、大学共同利用機関法人では自然科学的な手法を取り入れた人間文化に関する総合的研究、自然科学における分野間連携などが行われています。

6.人文・社会科学の振興方策

 人文・社会科学は、人々の思索や行動、社会的な諸現象の分析・考察を通して、人間の精神生活の基盤を築き、日々の営みに希望や行動の手掛かりを与えるとともに、社会的諸問題の解決に寄与する重要な役割を担っています。
 文部科学省では従来大学等における研究者の自由な発想に基づく研究活動を支援する「科学研究費補助金」などの取組を通じて人文・社会科学の振興を図っていますが、平成21年1月に学術分科会において取りまとめられた「人文学及び社会科学の振興について(報告)」の提言などを踏まえ、「政策や社会の要請に対応した人文・社会科学研究推進事業」や「特色ある共同研究拠点の整備の推進事業」などを実施しています。また、平成21年度より、異なる分野の研究者との共同研究により方法論的な観点から既存の知の体系の根源的な変革や飛躍的な進化を目指す「異分野融合による方法的革新を目指した人文・社会科学研究推進事業」を日本学術振興会において実施しています。

7.学術研究全般の振興方策の検討

 学術の振興に関する重要事項について審議を行う科学技術・学術審議会学術分科会において、学術研究の意義・特性などを踏まえ、学術研究体制の整備、基盤的経費の確実な措置と科研費等の充実、優れた研究者の育成・確保など今後の学術の振興方策について審議を進めています。平成23年1月には、学術研究全般の振興方策について、審議経過報告を取りまとめています(参照:学術研究の推進について(審議経過報告))。

2 科学研究費補助金の充実

(1)科学研究費補助金の意義と現状

 科学研究費補助金は、人文・社会科学から自然科学までの全ての分野にわたり、あらゆる「学術研究」(研究者の自由な発想に基づく研究)を対象とする研究助成制度(競争的資金)であり、文部科学省及び日本学術振興会により運営されています。ピア・レビュー(専門分野の近い複数の研究者による審査)によって優れた研究課題を採択し、研究の多様性を確保しつつ、独創的な研究活動を支援することにより、研究活動の裾野を拡大し、持続的な研究の発展と重厚な知的蓄積の形成に資するという役割を果たしています。社会にブレークスルーをもたらす革新的な研究成果の多くも、科学研究費補助金で支援された研究の中から生み出されています(図表2-5-7)。
 平成22年度の予算は2,000億円(対前年度比30億円増、1.5パーセント増)であり、政府の競争的資金全体の約40パーセントを占めています。

図表2-5-7 未来の技術革新の芽を育む科学研究費補助金

図表2-5-7 未来の技術革新の芽を育む科学研究費補助金

(2)効率的・効果的使用に向けた取組

 科学研究費補助金の使用については、研究費目を大括くくりにして経費の執行を弾力化したり、研究費の翌年度への繰越しを可能にするなど、様々な改善を図ってきました。平成18年度には、繰越しが幅広く適用されるよう取扱いを明確化し、更に21年度には、申請手続きを大幅に簡素化した結果、繰越件数が大幅に増加(17年度55件、18年度641件、19年度1,297件、20年度1,312件、21年度1,953件)しました。この他、費目間で自由に変更できる経費の割合を30パーセント以下から50パーセント未満に引き上げるとともに、使途の制限のない他の経費と合算して使用することができるようにするなど、効率的・効果的な経費の使用に向けた取組を推進しています。

(3)研究成果の発信

 科学研究費補助金の研究成果を公開し、広く国民が研究成果に触れる機会を設けることは、研究成果の活用や国民の科学への理解を深める上で重要です。このため、科学研究費補助金では、研究成果を国立情報学研究所の科学研究費補助金データベース「KAKEN」(参照:KAKEN - 科学研究費補助金データベース(※国立情報学研究所ウェブサイトへリンク))を通じて、広く公開しています。また、最近の研究成果などを紹介するニュースレター「科研費News」を発行したり、体験・実験などを通じて、小中学生や高校生などに研究成果をわかりやすく紹介するプログラム(ひらめき☆ときめきサイエンス)を実施しています(写真2-5-8)。

写真2-5-8:ひらめき☆ときめきサイエンス
写真2-5-8:ひらめき☆ときめきサイエンス

(4)不正使用等防止への取組

 科学研究費補助金は国民の貴重な税金によって賄われているものであり、不正使用や不適切な経理があってはなりません。科学研究費補助金では、不正の防止のため、ハンドブックの作成・配布や各種説明会の開催などによりルールの周知徹底を図ってきました。また、不正使用などを防止するためには、研究者が所属する研究機関において経費管理・監査体制が整備されることが不可欠であることから、研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドラインに基づき、納品検査の適正な実施など機関管理を徹底するとともに、応募に際し、当該研究者が所属する研究機関における公的研究費の管理体制についての状況報告書の提出を義務付けたり、文部科学省及び日本学術振興会による研究機関への実地検査を実施するなど、不正使用などの防止に向けた取組を強化しています。さらに、不正を行った研究者に対しては、応募資格の一定期間停止や補助金の返還など厳しい措置を講じています。

3 独創的・先端的基礎研究を推進する研究機関・拠点の整備

 独創的・先端的基礎研究は、大学の学部・研究科、附置研究所・研究施設及び大学共同利用機関など多様な組織において行われています。このような研究を全体として推進していく上で鍵となるのは、全国の大学等から研究者が集まり、先端的な施設・設備や大量のデータ、貴重な資料などを活用し、効果的・効率的に共同研究を行うシステムであり、文部科学省ではその体制の整備や必要な研究費の充実を図っています。このシステムの担い手となる機関は以下の通りです。

(1)附置研究所及び研究施設

 国立大学には、特定の専門分野の研究を長期的・継続的に進める附置研究所や研究施設が設置されており、学問の動向や社会の変化に対応しながら高い研究水準を維持するとともに、優れた若手研究者の育成にも貢献しています。
 また、こうした国立大学の附置研究所・研究施設の中には、全国の拠点として大型プロジェクトなどの重点的な研究を行うものもあり、我が国の学術研究の発展にこれまで大きく貢献してきました。
 しかし、我が国全体の学術研究の更なる発展を図るには、国公私立を問わず大学の研究ポテンシャルを活用して、研究者が共同で研究を行う体制を整備することが重要です。このため、平成20年7月に文部科学大臣による共同利用・共同研究拠点の認定制度を創設しました。22年度現在、83拠点(国立大学74拠点、私立大学9拠点)を認定しており、例として以下のものがあります。

○東京大学宇宙線研究所

 宇宙から飛来する宇宙線という粒子の観測を通じ、スーパーカミオカンデによるニュートリノ振動の発見など世界をリードする研究を推進しています。新たに、アインシュタインの相対性理論によって存在が予言されている“重力波”の人類初の直接検出をめざし、平成22年度から神岡鉱山(岐阜県飛騨市神岡町)にて大型低温重力波望遠鏡計画を開始しました。

○神奈川大学国際常民文化研究機構

 民具や漁業資料の研究などを通して、普通の人々(常民)の等身大の生活文化を明らかにすることを目指します。国家や民族の枠組みを超えた常民文化の学際的・国際的な共同研究を実施するとともに、これまで蓄積した史資料・データベースを国内外の研究者に広く公開し、当該研究分野のさらなる拡大・深化を図ります。

(2)大学共同利用機関

 大学共同利用機関は、全国の大学などの研究者が共同研究を推進する拠点として、また、特色ある大型の施設・設備や大量の有用な資料・データの共同利用の場として、各分野の発展に大きく貢献するとともに、国際的な競争と協調の中で世界最先端の研究を推進しています。また、総合研究大学院大学をはじめとする大学院の学生の受入れを行うなど、研究と教育を一体的に実施しています。各々の機構の役割及び活動は以下のとおりです。

1.人間文化研究機構

 膨大な文化資料に基づく実証的研究、人文・社会科学の総合化を目指す理論的研究や自然科学との連携も含めた研究領域の開拓に努め、人間文化の総合的学術研究拠点を目指しています。国立民族学博物館では、我が国における文化人類学(民族学)研究の中核拠点として、現代世界の多文化的状況及び文化資源の活用等に関する研究を推進しています。平成22年度には新構築された音楽展示・言語展示に関するフォーラムを開催するなど研究成果の社会還元にも積極的に取り組んでいます。

2.自然科学研究機構

 宇宙、物質、エネルギー、生命などの自然科学分野の基盤的な研究の推進や各分野の連携による新たな研究領域の開拓・育成などを目的としています。基礎生物学研究所では、基礎生物学分野における国際的な研究中核拠点として、我が国の生物科学の先端的基礎研究を支える機能を担っています。平成22年度には新たに「モデル生物研究センター」及び「生物機能解析センター」を設置し、モデル生物を利用した種々の実験遂行から、膨大なデータ解析に至るまでを一貫して支援する環境を整備し、国内外の研究者との共同利用・共同研究をより充実させています。

3.高エネルギー加速器研究機構

 高エネルギー加速器に関する開発研究などを行い、素粒子原子核物理学から物質・生命科学にわたる広範な実験・理論研究を展開するとともに、加速器科学の拠点として国内外の大学等との連携・協力を推進することを目的としています。素粒子原子核研究所では、高エネルギー加速器を用いた国際共同研究の中核拠点として、数々の実験を推進しています。平成22年度から「Bファクトリー加速器の高度化による新しい物理法則の探求」計画(※1)を開始しており、宇宙から反物質が消え去った謎の解明などを更に目指しています。

4.情報・システム研究機構

 情報とシステムの観点から分野を越えた総合的な研究を推進し、新たな研究パラダイム(枠組み)の構築と新分野の開拓を目的としています。国立極地研究所では、極域科学分野の中核拠点として、国内外の研究者の連携・協力のもと、共同研究等を実施しています。平成22年度から南極地域観測第8期計画が始まった南極地域観測事業において、国立極地研究所はその中心となり、大型大気レーダー(PANSY)など新たな観測手法の導入等により、地球環境変動の解明に向けた研究観測を推進しています。
 電子・陽電子衝突型加速器であるBファクトリー加速器(KEKB)を高度化し、加速器の衝突性能を現在の40倍に高めることにより、宇宙の初期にしか起こらなかった極めて稀まれな現象を多数測定し、新しい物理法則の発見・解明を目指すとともに、宇宙から反物質が消え去った謎の解明を目指します。


※1 「Bファクトリー加速器の高度化による新しい物理法則の探求」
 電子・陽電子衝突型加速器であるBファクトリー加速器(KEKB)を高度化し、加速器の衝突性能を現在の40倍に高めることにより、宇宙の初期にしか起こらなかった極めて稀な現象を多数測定し、新しい物理法則の発見・解明を目指すとともに、宇宙から反物質が消え去った謎の解明を目指します。

4 学術研究の推進に寄与する組織・活動

(1)学協会

 学協会は、大学などの研究者を中心に自主的に組織された団体です。個々の研究組織を越えて、研究評価、情報交換あるいは人的交流の場として重要な役割を果たしており、最新の優れた研究成果を発信する学術研究集会・講演会・シンポジウムの開催や、学会誌の刊行などを通じて、学術研究の発展に大きく寄与しています。
 文部科学省では、学協会のこのような活動の振興を図るため、学協会が諸外国の研究者の参加を得て開催する国際会議、青少年や社会人を対象に最新の研究成果などを普及・啓発するためのシンポジウムの開催及び学術定期刊行物の刊行などに対して、科学研究費補助金「研究成果公開促進費」による助成を行っています。

(2)研究助成法人など

 産業界や個人などからの寄付により運営され、研究者に対する学術研究費の助成を主な事業とする研究助成法人や公益信託は、特色ある分野を助成するなど、学術振興に極めて大きな役割を果たしています。

第3節 政策課題対応型研究開発における重点化

1 科学技術の戦略的重点化と戦略重点科学技術の推進

 平成22年度を最終年度とする第3期基本計画においては、ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料を「重点推進4分野」として、各分野での重点化の考え方に基づき、優先的な資源配分を行うこととしています。また、国の存立にとって基盤的であり、国として取り組むことが不可欠なエネルギー、ものづくり技術、社会基盤、フロンティアを「推進4分野」と位置づけ、適切な資源配分を行うこととしています。
 さらに、第3期基本計画期間中に予算を重点配分する対象として、1.近年急速に高まっている社会・国民ニーズに対応し、科学技術による解決策を明確に示していく必要があるもの、2.国際競争を勝ち抜く上で不可欠であり、不作為の場合の5年間のギャップを取り戻すことが極めて困難なもの、3.国が主導する一貫した推進体制の下で実施され世界をリードする人材育成にも資する長期的かつ大規模なプロジェクトにおいて、国家の安全保障も含め経済社会上の効果を最大化するために必要なものとの視点から「戦略重点科学技術」を選定し、分野別推進戦略に位置付けています。

2 国家基幹技術の推進

(1)宇宙輸送システム

 通信・放送・気象衛星など、私たちの生活の中で宇宙利用の成果が不可欠なものとなっている今日において、我が国が必要なときに独自に宇宙空間に必要な人工衛星などを打ち上げる能力を確保・維持することは、我が国の総合的な安全保障や国際社会における我が国の自律性を維持する上で不可欠です。このような観点から、H-ⅡA/H-ⅡBロケットや、宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)などの宇宙輸送システムについて、国家的な長期戦略の下、その維持・運用や信頼性の向上などに取り組んでいます(写真2-5-9)(参照:第5章第3節3(5))。
 また、宇宙輸送システム技術には極めて高い信頼性が求められることから、その技術力向上のための活動自体が広範な分野における技術革新をもたらし、産業の高度化や社会経済の発展につながります。
 さらに、世界最高水準のロケットエンジン技術の開発などを通じて、世界をリードする人材の育成にも貢献しています。

写真2-5-9:H-2Bロケット2号機の打上げ(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))
写真2-5-9:H-ⅡBロケット2号機の打上げ
(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

(2)海洋地球観測探査システム

 海洋地球観測探査システムは、海洋及び宇宙の観測・探査から得られるデータの統合・解析・提供を目指しており、「次世代海洋探査技術」、「衛星観測監視システム」、「データ統合・解析システム」の3つの技術で構成されています。宇宙から海底下まで、いつでも自在に地球を観測・探査できる能力は、我が国の総合的な安全保障に資する基盤的技術として、地球観測、災害監視、資源探査の分野において大きく貢献することが期待されます(参照:第5章第3節3(7))。

(3)高速増殖炉サイクル技術

 高速増殖炉サイクル技術は、消費した燃料より多くの新しい燃料を生み出すことができ、資源の乏しい我が国の長期的なエネルギー安定供給に大きく貢献するものです(参照:第5章第3節3(6))。
 高速増殖原型炉「もんじゅ」は、平成22年5月に約14年5か月振りに試運転を再開し、同年7月に第一段階の試験を終了しました(写真2-5-10)。同年8月には炉内中継装置が落下するトラブルが発生しましたが、同装置の復旧作業と性能試験についての新たな工程に沿って、着実に取り組んでいます。また、高速増殖炉サイクル技術の実用化に向けた「高速増殖炉サイクル実用化研究開発」において、要素技術の開発や、実証炉の概念検討等に取り組みました。

写真2-5-10:高速増殖原型炉「もんじゅ」(提供:日本原子力研究開発機構)
写真2-5-10:高速増殖原型炉「もんじゅ」
(提供:日本原子力研究開発機構)

(4)次世代スーパーコンピュータ

 スーパーコンピュータを用いたシミュレーション(※2)は、理論、実験と並ぶ、現代の科学技術の第3の方法として、今や必要不可欠なものとなっています。また、実社会においても、自動車の衝突損傷の解析、台風の進路や発生予測などに利用されています。
 文部科学省では、我が国におけるスーパーコンピュータとそれを用いたシミュレーションの更なる発展のため、理化学研究所を開発主体として、平成18年度から次世代スーパーコンピュータプロジェクトを実施してきました。本プロジェクトにおいては、24年6月までに10ペタフロップス(1秒間に1京回の計算を行う能力)の性能を持つ、世界最高水準のスーパーコンピュータ「京」を開発・整備しています。22年度は、詳細設計・試作・評価を終え製造を開始し、23年3月末に一部稼働しました。
 平成22年度からは、「京」を中核とし、多様なユーザーニーズに応える「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)(※3)」の構築に着手しました。具体的には、HPCIコンソーシアム(※4)の主導により基本設計等を行いました。
 また、HPCIにより社会的・学術的に大きなブレークスルーが期待できる5つの戦略分野(※5)を選定し、戦略分野における研究開発や我が国の計算科学技術体制の整備を行う「HPCI戦略プログラム」について、平成23年度からの本格実施に向けた準備研究を実施しました。


※2 シミュレーション
 コンピュータなどを使用して模擬的に実験を行うこと。

※3 革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)
 次世代スーパーコンピュータ「京」を中核とし、全国の大学や研究所などに設置されている主要なスーパーコンピュータをネットワークで結び、利用者の多様なニーズに応える計算環境を実現するインフラ。

※4 HPCIコンソーシアム
 ユーザーコミュニティの中核となっている機関、大型スパコンを所有する大学や独法、ネットワーク構築を支援する機関等により形成され、HPCIの構築を主導する。

※5 戦略分野
 「京」を中核としたHPCIを最大限利用して画期的な成果を創出し、社会的・学術的に大きなブレークスルーが期待できる分野として、以下の5つの分野が設定されている。
分野1:予測する生命科学・医療及び創薬基盤
分野2:新物質・エネルギー創成
分野3:防災・減災に資する地球変動予測
分野4:次世代ものづくり
分野5:物質と宇宙の起源と構造

(5)X線自由電子レーザー(XFEL)施設

 理化学研究所は、放射光とレーザーの性質を併せ持つ光を発振するX線自由電子レーザー(XFEL)施設について、我が国独自の技術によりコンパクト化・低コスト化を実現して、平成23年度中の供用開始を目指して整備・調整運転を実施しています。
 XFELは、結晶化が困難な膜タンパク質の解析、触媒反応のリアルタイム観察、新機能材料の創成など、生命科学やナノ領域の構造解析をはじめとする広範な科学技術分野において新しい研究領域の開拓に貢献することが期待されています。
 また、平成23年3月には名称がSACLA(SPring-8 Angstrom Compact free electron LAser)に決定しました。

3 各分野の研究開発の推進方策

(1)ライフサイエンス分野

1.研究開発の推進方策

 文部科学省では、国民の寿命の延伸に向け、がんや生活習慣病の予防・治療に向けたゲノムやタンパク質などの基礎・基盤研究、難病の根治治療である再生医療の実現に向けたiPS細胞等の幹細胞研究、「社会に貢献する脳科学」の実現を目指した脳科学研究、さらには基礎研究の成果を医療につなげる橋渡し研究など、以下に掲げる医療・福祉等の向上に資する研究開発を推進しています。

2.ライフサイエンス分野の主な取組

(ア)iPS細胞などの幹細胞・再生医学研究
 京都大学山中教授により樹立されたiPS細胞は、再生医療・疾患研究等に幅広く活用されることが期待される我が国発の画期的成果です。この研究成果を総力を挙げ育てていくため、iPS細胞等の研究をオールジャパン体制のもとに戦略的に推進しています(写真2-5-11)。

写真2-5-11:京都大学山中伸弥教授により樹立されたiPS細胞
写真2-5-11:京都大学山中伸弥教授により樹立されたiPS細胞

(イ)革新的医薬品・医療機器の創出に向けた研究
 がん・生活習慣病等に関する有望な基礎研究の成果を着実に実用化するための研究支援拠点の整備を図るとともに、これらの疾患の早期診断や効果的な治療薬の開発に資する分子イメージング技術の実証に向けた研究等を行っています。また、こうした成果も活用しつつ、個人に最適な医療の実現に向けた取組を推進しています。

(ウ)脳科学研究
 現代社会が直面する様々な課題の克服に向けて、脳科学に対する社会からの期待が高まっており、「社会に貢献する脳科学」の実現を目指し、アルツハイマー病や鬱病の発症プロセスの解明等を目指した脳科学研究を戦略的に推進しています。

(エ)ライフサイエンス研究全体に資する基礎研究
 創薬など医学・薬学への貢献が期待できる有用なタンパク質の解析を実施するとともに高速な遺伝子解析能力を持つ装置を駆使し、未解明ながん化の本態等を解明する研究を推進しています。

(オ)ライフサイエンス研究全体を支える体制整備
 ライフサイエンス研究の基盤となるデータベースやバイオリソースの戦略的整備のほか、アジア・アフリカの8か国に整備した海外研究拠点を活用し、感染症対策に資する基礎的知見の集積、人材育成等を推進しています。

3.生命倫理・安全に関する取組

(ア)生命倫理に関する問題への取組
 「ヒトに関するクローン(※6)技術等の規制に関する法律」(平成13年6月)によりクローン人間の産生の禁止や指針によりヒトES細胞(胚性幹細胞)などを用いた研究の規制を行っているほか、16年7月の総合科学技術会議意見を受け、関係府省と連携しつつ、「ヒト受精胚はいの作成を行う生殖補助医療研究に関する倫理指針」を22年12月に公布しました(23年4月施行)。

(イ)ライフサイエンスにおける安全の確保
 「生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」(平成15年11月締結)を受けて制定された「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(16年2月)により、生物多様性への影響を防止する観点から使用形態に応じた安全の確保を図っています。


※6 クローン
 遺伝的に同一である個体や細胞(の集合)のこと。

(2)情報通信分野

1.研究開発の推進方策

 情報通信技術は、日常生活から産業までの幅広い社会経済活動に大きな変革をもたらすものであり、国民が安心して安全な生活を送るための重要な基盤となっています。
 文部科学省では、中長期的な観点から、国際的に優位にある技術に重点的に投資を行い、我が国の科学技術や学術、産業の国際競争力の強化につながる研究開発の促進に取り組んでいます。

2.情報通信分野における取組

 文部科学省では、第3期基本計画における情報通信分野の「分野別推進戦略」などに基づき、以下のような大規模プロジェクトや競争的資金制度である「次世代IT基盤構築のための研究開発」の下での研究開発等を実施しています。

(ア)計算科学技術の飛躍的な発展による研究開発の革新
(1)次世代スーパーコンピュータ「京」を中核とし、全国の大学や研究所などに設置されている主要なスーパーコンピュータをネットワークで結び、利用者の多様なニーズに応える計算環境を実現する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)」の構築を推進
(2)産業界のニーズに的確に対応した最先端の複雑・大規模シミュレーションソフトウェアの研究開発

(イ)計算資源・大規模データの効率的な利活用を可能とする基盤技術の開発
(1)ネットワーク等を介して計算・実験・観測によって得られた巨大データと計算資源を結びつけ、データに基づき科学的知見を見いだす新しい科学の方法論であるe-サイエンスを支える基盤技術の研究開発
(2)Web上の動画や画像等の情報を効率よく収集・分析し、研究等に活用するための基盤技術開発

(ウ)情報通信システムの低消費電力化など、社会的課題の解決のための革新的技術開発
(1)革新的な高機能・超低消費電力コンピューティングを実現するためのスピントロニクス(※7)を活用した大容量・高速ストレージ基盤技術の研究開発
(2)大規模・複雑化しているソフトウェアの設計やプログラミング、テストなど構築状況を可視化し、システムの信頼性向上を図ることを目的とした技術の開発普及
(3)鑑賞者が有形無形の文化資産を五感で対話的に体感できるデジタル・ミュージアムの実現に向けた、臨場感あふれる高精細立体映像技術や触覚インタフェース技術等の先端要素技術の研究開発


※7 スピントロニクス
 電子の有する電荷とスピン(磁気)の2つの性質を利用する新しいエレクトロニクス技術。

(3)環境エネルギー分野

1.研究開発の推進方策

 平成22年6月に閣議決定した「新成長戦略」では、「グリーン・イノベーション(環境エネルギー分野革新)の促進や総合的な政策パッケージによって、我が国のトップレベルの環境技術を普及・促進し、世界ナンバーワンの『環境・エネルギー大国』を目指す」こととされています。こうした政府の方針を踏まえ、文部科学省では、基礎的・基盤的な研究開発から先端的・革新的な研究開発までを戦略的に推進しています。

2.環境エネルギー分野における主な取組

(ア)地球環境観測研究の推進
 気候変動や未曽有の自然災害など地球的規模の環境問題に的確に対応していくためには、継続的な地球観測により地球の現状を理解することが重要です。文部科学省は、地球観測サミットで合意された「全球地球観測システム(GEOSS)10年実施計画」に貢献するため、人工衛星による観測、海洋調査船やブイなどによる海洋観測、南極観測船「しらせ」により観測隊を南極へ派遣する南極地域観測事業などを実施し、地球観測を進めています。これらの観測から得られるデータは、観測・予測データの収集から解析・処理に至るまでの共通的プラットフォームである「データ統合・解析システム」を通し、温室効果ガス濃度分布に関する情報や農作物生産や水資源管理に必要な情報など、社会的に役立つ情報として提供されています。また、平成22年度からは、気候変動予測の成果を都道府県・市町村などにおける施策の立案に活いかしていく上で必要な研究開発なども実施しています。

(イ)気候変動予測研究の推進
 世界最高レベルの計算能力を有するスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」(参照:第5章第3節3(7)2.)を活用して我が国が行った気候変動予測の成果は、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)による第4次評価報告書の策定に大きく貢献しています。IPCCは2013~2014(平成25~26)年に第5次評価報告書を取りまとめる予定であり、文部科学省は、引き続きIPCCに貢献していくため、より精緻な気候変動予測モデルの開発、予測精度の更なる向上、より確かな科学的根拠の提供を目指す取組も進めています(写真2-5-12)。

写真2-5-12:2100年の全球の温暖化予測(提供:東京大学大気海洋研究所、国立環境研究所、海洋研究開発機構)
写真2-5-12:2100年の全球の温暖化予測
(提供:東京大学大気海洋研究所、国立環境研究所、海洋研究開発機構)

(ウ)エネルギー科学技術に関する研究開発の推進
 温室効果ガスの大幅削減を実現するためには、既存技術の延長だけでは困難であり、低炭素化のための革新的な技術の開発が必要となります。文部科学省は、発電過程においてCO2を排出せずかつ消費した燃料以上の燃料を生み出す高速増殖炉サイクル技術や、未来のエネルギー源として期待される核融合エネルギーの実現に向けて、「ITER計画」や「幅広いアプローチ(BA)活動」、先端的な核融合研究開発などに取り組んでいます(参照:第5章第3節3(6)2.)。
 また、科学技術振興機構では、太陽光エネルギーやバイオマスなど、新エネルギーに関する新たな技術シーズの創出に向けた基礎研究を推進するため、戦略的創造研究推進事業を実施しています。
 あわせて、温室効果ガスの削減を中長期にわたって継続的かつ着実に進めていくため、先端的低炭素化技術開発事業を実施し、現時点では未知の新たな科学的・技術的知見に基づいて温室効果ガス削減に大きな可能性を有する技術を創出するための研究開発に取り組んでいます。そのほか、物質・材料研究機構において、色素増感型太陽電池の高効率化や、高性能発電・蓄電用材料に関する研究開発をはじめ、エネルギー技術のブレークスルーを目指した基礎基盤的な研究開発などを推進しています。

(4)ナノテクノロジー・材料分野

1.研究開発の推進方策

 ナノテクノロジー(ナノ(10億分の1)メートルのオーダーで原子・分子等を操作・制御し、新しい機能を発現させる技術)・材料分野は、広範な科学技術の飛躍的な発展の基盤となる重要分野であり、21世紀の産業の技術革新を先導する分野です。
 文部科学省は、第3期科学技術基本計画の下で策定された「分野別推進戦略」(平成18年3月総合科学技術会議)などに沿って、基礎的・基盤的な研究開発から先端的・革新的な研究開発までを戦略的に推進しています。

2.ナノテクノロジー・材料分野における主な取組

 温室効果ガスを削減するためには、革新的な環境・エネルギー技術の創出と、その実用化の加速が不可欠です。幅広い分野に波及する共通基盤技術であるナノテクノロジーは、環境問題解決についても大いに貢献することが期待されています。そのため、「ナノテクノロジーを活用した環境技術開発」においては、我が国の優れたナノテク分野の研究ポテンシャルを環境技術のブレークスルーにつなげるため、産学官が協力して課題を抽出し、研究者を結集して課題解決に取り組む産学官研究拠点の整備を進めています。
 社会への成果還元を目指した目的指向の研究である「ナノテクノロジー・材料を中心とした融合新興分野研究開発」において、材料を構成する元素の機能を明らかにしレアメタル代替材料などの研究開発を行う「元素戦略プロジェクト」などを推進しています。また、物質・材料研究機構においては、計測分析基盤技術やナノ構造創製制御技術等のナノテクノロジー共通基盤技術の研究開発や、ナノレベルにおける構造や組織の制御による、次世代を担う革新的シーズを創製するナノスケール新物質創製・組織制御研究等を実施しています。加えて、理化学研究所などの独立行政法人等では、新たな知を生み出す独創的・先端的研究開発を推進しています。
 このほか、イノベーション創出を支えるものとして研究基盤の整備が重要であることから、大学や独立行政法人などが有する先端的な研究設備・機器の利用機会を高度な専門技術・知識と共に提供する「ナノテクノロジー・ネットワーク」により、分野横断的な研究開発を戦略的かつ効率的に推進しています。また、国家基幹技術として、超微細構造や化学反応の動態変化の計測・分析を可能とするX線自由電子レーザー(XFEL)施設を、平成23年度中の供用開始を目指して整備・調整運転を進めています。

(5)宇宙・航空分野

1.研究開発の推進方策

 気象衛星、通信・放送衛星など、宇宙開発利用は国民生活に不可欠な存在であるとともに、人類の知的資産を拡大し、国民に夢と希望を与える重要なものです。我が国の宇宙開発利用は平成20年5月に成立した「宇宙基本法」により、国家戦略として総合的かつ計画的に推進されることになりました。文部科学省では、「宇宙基本法」の理念に沿って、関係府省とともに宇宙開発利用の推進に取り組んでいます。

2.宇宙・航空分野における取組

(ア)我が国の輸送システム
 基幹ロケットであるH-ⅡA/H-ⅡBロケットについては、平成22年5月に金星探査機「あかつき」、同年9月に準天頂衛星初号機「みちびき」、23年1月に宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)2号機の打上げに成功しました。この結果、16年度以降14機連続の打上げに成功しており、95パーセントという世界のロケットに比肩しうる成功率を達成しています。また、今後の小型衛星需要に機動的かつ効率的に対応するため、25年度の打上げを目指し、小型固体ロケット(「イプシロンロケット」)の開発に着手しました。

(イ)人工衛星による社会的要請への対応
 衛星観測監視システムにおいて、地図作製、災害状況把握、森林監視、資源探査などを目的とした陸域観測技術衛星「だいち」のデータ提供を継続し、アジア地域の大規模自然災害被災地の緊急観測や画像提供を行うなどの国際貢献を果たしました(写真2-5-13)。また、CO2やメタンなどの濃度分布の観測を目的とした温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)のデータ提供を継続しており、地球温暖化防止に向けた国際的な取組に貢献することが期待されます。さらに、全球降水観測/二周波降水レーダ(GPM/DPR)や地球環境変動観測ミッション(GCOM)などの開発を推進しています。特に、水循環の変動メカニズムを解明するための水循環変動観測衛星(GCOM-W)については、平成23年度の打上げに向けて順調に準備を進めています。これらの衛星を活用して気候変動の解明や災害への対応などに資するデータの収集・提供を行うことにより、国内外への貢献を目指します。また、人工衛星を利用した通信の分野では、技術試験衛星8型「きく8号」(ETS-Ⅷ)や20年2月に打ち上げられた超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)により、移動体通信やインターネットなどでの利用拡大を図ります。さらに、我が国初の測位衛星として、22年9月に準天頂衛星初号機「みちびき」を打上げ、同年12月から技術実証・利用実証を行っています。

写真2-5-13:陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)によるパキスタン集中豪雨の緊急観測結果(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))
写真2-5-13:陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)によるパキスタン集中豪雨の緊急観測結果
(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

(ウ)宇宙環境利用の総合的推進
 「国際宇宙ステーション(ISS)計画」は、日本、米国、欧州、カナダ、ロシアの5極共同の国際協力プロジェクトです。我が国は日本実験棟「きぼう」(JEM)及びISSへの物資補給を担う宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)の開発・運用を通して本計画に参加しており、「きぼう」の利用を中心として、宇宙環境利用を総合的に推進しています(写真2-5-14)。平成20年から開始した「きぼう」における実験では、タンパク質結晶生成による創薬研究や骨量減少・尿路結石予防の研究など高齢化社会に対応する予防医学などの分野で大きな成果を上げつつあります。23年3月には、21年11月の「こうのとり」1号機に続いて2号機が物資補給のミッションを完遂しました。「こうのとり」は23年7月のスペースシャトル退役後、ISSに大型装置を輸送できる唯一の手段となることから、その役割について各国から期待されています。

写真2-5-14:国際宇宙ステーション(ISS)に接近する宇宙ステーション補給機「こうのとり」2号機(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA)、米国航空宇宙局(NASA))
写真2-5-14:国際宇宙ステーション(ISS)に接近する宇宙ステーション補給機「こうのとり」2号機
(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA)、米国航空宇宙局(NASA))

(エ)宇宙科学研究の推進
 太陽系探査、X線・赤外線天文観測、太陽観測などを推進している宇宙科学の分野では、平成22年、小惑星探査機「はやぶさ」が世界で初めて、月以外の天体から物質を地球に持ち帰る(参照:本章Topic1)など、これまでに世界トップレベルの成果を上げています(写真2-5-15)。また、22年5月に打ち上げた金星探査機「あかつき」は、金星を周回する軌道への投入に失敗したことについて徹底した原因究明を行いつつ、金星周回軌道への再投入などを目指した検討を進めています。
 「あかつき」とともに打ち上げた小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS(イカロス)」は、深宇宙での帆の展開や帆による加速に世界で初めて成功し、太陽光を受けての宇宙航行の可能性を実証しました。
 このほか、X線天文衛星(ASTRO-H)や欧州宇宙機関との国際協力による「水星探査計画(Bepi Colombo)」の開発などを進めています。

写真2-5-15:小惑星「イトカワ」の試料採取の様子(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))
写真2-5-15:小惑星「イトカワ」の試料採取の様子
(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

(オ)航空科学技術に関する研究開発
 産学官連携の下、環境や安全など社会が求める航空機の先端的・基盤的な技術の研究開発を推進しています。具体的には、低CO2で低騒音な旅客機・エンジンの高性能化技術や飛行安全技術などの研究開発を進めています。また、国民生活の視点からも、運輸安全委員会が行う航空事故などの調査に協力しています。

(カ)天文学研究の推進
 ハワイ島マウナケア山頂にある大型光学赤外線望遠鏡「すばる」が、人類の観測の目が届かなかった宇宙深部の貴重なデータを取得し、観測と解明を進めています。また、日米欧の国際協力により、銀河や惑星などの形成過程を解明することを目的とする「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(アルマ)計画」に参加し、平成24年度からの本格観測を目指して準備を進めています。

(6)原子力分野

1.研究開発の推進方策

 我が国の原子力政策は、「原子力基本法」にのっとり、「平和の目的に限り、安全の確保を旨として」行っており、「原子力政策大綱」や「エネルギー基本計画」の下、原子力の研究開発利用を実施してきています。

2.原子力の研究開発利用の推進

(ア)原子力分野の研究開発の推進
 エネルギー安定供給に大きく貢献する高速増殖炉サイクル技術の実用化に向けた研究開発を行っています(参照:第5章第3節2(3))。
 また、人類の恒久的なエネルギー源として期待される核融合エネルギーの実現に向け、国際協定に基づくプロジェクトである「ITER計画」及び「幅広いアプローチ(BA)活動」などにより、核融合研究開発を行っています(図表2-5-8)。

図表2-5-8 国際熱核融合実験炉(ITER)

図表2-5-8 国際熱核融合実験炉(ITER)

 さらに、量子ビームテクノロジーなどの活用を通して国民生活の質の向上に貢献するため、素粒子・原子核物理や物質・生命科学などの幅広い分野において、学術研究から産業応用まで、多くの研究者などによる大強度陽子加速器施設(J-PARC)の利用を進めています(写真2-5-16)。また、イオン照射研究施設(TIARA)や研究用原子炉(JRR-3)におけるイオンビームや中性子などを用いた環境技術などに役立つ先端的な研究開発や、放射線医学総合研究所における重粒子線がん治療の普及・高度化に向けた研究なども進めています。

写真2-5-16:大強度陽子加速器施設(J-PARC)
写真2-5-16:大強度陽子加速器施設(J-PARC)

(イ)原子力人材の育成
 原子力の基盤と安全を支える優秀な原子力人材を育成するため、大学や高専の特色ある教育研究活動への支援を行っています。また、産官学が連携して国際的に通用する原子力人材を育成するための「原子力人材育成ネットワーク」を平成22年11月に設立し、関係機関が連携した人材育成事業への支援を行っています。

(ウ)原子力国際協力
 アジア原子力協力フォーラム(FNCA)やアジア諸国を中心とした原子力新規導入国に対する人材育成協力などを実施するとともに、国際原子力機関(IAEA)などの国際機関との連携強化や、国際的枠組みにおける原子力先進的分野での共同研究などを推進しています。

(エ)放射性廃棄物処分に向けた取組
 高レベル放射性廃棄物の地層処分技術研究開発や、研究施設や医療機関などから発生する低レベル放射性廃棄物の処分に向けた取組などを着実に行っています。

(オ)国民の理解と共生に向けた取組
 立地地域をはじめとする国民の理解と共生のための取組として、地域の持続的発展に向けた取組に対し支援を行うとともに、原子力を含めたエネルギーに関する教育への取組に対する支援などを行っています。

3.原子力安全や平和利用の確保に対する取組

(ア)「原子炉等規制法」、「放射線障害防止法」等による安全規制
 試験研究用原子炉設置者や一定量以上の核燃料物質・核原料物質の使用者に対して、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(「原子炉等規制法」)に基づき、安全規制を実施しています。さらに、核物質の盗取などによる不法な移転などを未然に防ぐために必要な施策などを実施しています。また、放射性同位元素や放射線発生装置は、医療、農業、工業、環境保全など様々な分野で利用されていますが、これらは「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(「放射線障害防止法」)に基づいて規制されています。平成22年には、クリアランス制度(※8)の導入、放射化物への規制の導入及び廃止措置の強化などを行う「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律の一部を改正する法律」が、第174回通常国会において成立し、同年5月に公布されました。

(イ)環境放射能調査の推進・原子力防災対策の充実強化
 国民の安全を確保し、安心感を醸成することを目的として、原子力施設や原子力艦寄港地周辺などにおける放射線(能)水準の監視と把握に必要な調査研究を進めています。また、原子力災害発生時に備えた防災対策を実施しています(参照:第2部第10章第2節)。

(ウ)核不拡散・保障措置に関する取組
 我が国は、核兵器を持たないことを国際的に約束した非核兵器国であり、原子力平和利用のための優れた経験や技術などを有しています。今後、その技術や経験を活いかして国内の保障措置活動を着実に実施していくとともに、国際的な核不拡散体制の強化に積極的に貢献していくことが重要です。平成22年12月に設置した「核不拡散・核セキュリティ総合支援センター」を活用することにより、アジアをはじめとした国々を対象として、核不拡散・核セキュリティ強化のための人材育成や技術支援などを行っていきます。


※8 クリアランス制度
 放射能の影響が無視できるような極めて低いレベルの放射性汚染物について、放射線障害防止上特段の措置が不要であることから、産業廃棄物としての処理や、再利用を可能とする制度。

(7)海洋分野

1.研究開発の推進方策

 海洋は、その広大さとアクセスの困難さのために、いまなお科学的に未解明な部分が多いフロンティアですが、これまでの様々な調査や研究により、未利用のエネルギーや資源の存在が明らかにされつつあります。また、気候変動をはじめとする地球環境変化と海洋の関連などについても理解が深まってきています。海洋の諸現象に関する原理を追求し、解明することは、地球環境問題の解決、海溝型巨大地震への対応、海洋資源の開発など、今後の人類の発展に深く関わる重要な課題です。
 このような海洋の重要性を踏まえ、平成19年に「海洋基本法」が制定されました。これに基づき策定された「海洋基本計画」においては、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策として、「海洋科学技術に関する研究開発の推進等」などが挙げられています。また、同計画では、海底熱水鉱床について、計画策定後の10年間程度を目安に商業化を実現することも目標として掲げられています。
 文部科学省では、大学や海洋研究開発機構の技術を活用し、海底熱水鉱床をはじめとする未利用の海洋鉱物資源の開発に資する技術開発に取り組んでいます。海洋研究開発機構では、平成22年9月に沖縄トラフ伊平屋北熱水域において深海掘削を実施し、黒鉱様の多様な金属硫化物を採取するなどの成果を上げました。また、広域かつ効率的な探査に必要となる探査技術の開発にも取り組んでいます。

2.海洋分野における取組

 文部科学省では、地球温暖化などの地球環境変動の解明を目指し、アジア・太平洋域や北極域において、研究船、海洋環境を観測するブイ、陸上観測機器などの観測設備を用いて、海洋・陸面・大気の観測を行っています。また、海洋底プレート運動など海底下に広がる地球内部の活動に関する研究や海洋に広く生息する生物の研究(写真2-5-17)などを行うため、船舶、有人潜水調査船、無人探査機などを用いた海域調査(写真2-5-18)を実施するとともに、これらの観測研究などで得られたデータを、世界最高レベルの計算能力を有するスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」などを活用して解析し、地球環境の物理的・化学的・生態的プログラムのモデル研究などを実施しています。また、これらの研究活動に必要な観測・探査を行うため、海洋に関する基盤技術開発にも取り組んでいます。
 さらに、人類未到のマントルへの到達を目指す地球深部探査船「ちきゅう」を運用し、「統合国際深海掘削計画(IODP)」の枠組みの下、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏などの解明を目的とする「深海地球ドリリング計画」を推進しています。
 平成22年度は、南海トラフにおいて、巨大地震発生メカニズムの解明に資する地層試料の採取、各種物理計測によるデータの取得や長期孔内計測装置を設置したほか、沖縄トラフ伊平屋北熱水域において、熱水活動域の海底下における微生物群集の規模や生態系の実態の解明を目的とした科学掘削も行いました。

写真2-5-17:日本近海は生物多様性が高いホットスポット(全海洋生物種数の14.6%が分布)(提供:海洋研究開発機構)
写真2-5-17:日本近海は生物多様性が高いホットスポット(全海洋生物種数の14.6パーセントが分布)
(提供:海洋研究開発機構)

写真2-5-18:現在運航中の有人潜水調査船の中で世界一深く潜ることができる有人潜水調査船「しんかい6500」(提供:海洋研究開発機構)
写真2-5-18:現在運航中の有人潜水調査船の中で世界一深く潜ることができる有人潜水調査船「しんかい6500」
(提供:海洋研究開発機構)

(8)地震・防災分野

 文部科学省では、地震調査研究推進本部(地震本部)(※9)の方針などに基づき、全国の主要活断層帯の評価結果などを基に、時間の経過や大地震の発生による地震発生確率の変化を踏まえ、平成21年7月に公表した「全国地震動予測地図」を22年5月に更新しました。さらに、ある特定の大地震が発生した場合にその周辺や遠方に生じると予想される長い周期の地震動の分布を示した「長周期地震動予測地図2009年試作版」(図表2-5-9)を23年度に更新すべく、数値計算手法の改良、地下構造モデルの妥当性の検討も行っています。

図表2-5-9 長周期地震動予測地図2009年試作版(想定東海地震の速度応答スペクトル(周期5秒)の分布図)

図表2-5-9 長周期地震動予測地図2009年試作版(想定東海地震の速度応答スペクトル(周期5秒)の分布図)

 また、引き続き、首都直下地震の被害軽減に資するための「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト」、近年被害地震の多い日本海東縁部などのひずみ集中帯で発生する地震のメカニズム解明などを目指した「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究」、東海・東南海・南海地震による被害軽減を目指し、広域な海底地震観測やシミュレーション研究などを実施する「東海・東南海・南海地震の連動性評価研究」を実施するとともに、新たな地震本部の計画に基づき、これまで未調査であった沿岸海域活断層の調査を含めた地震本部の評価のために必要な調査研究などを進めました。さらに、地震計、水圧計などを備えたリアルタイム観測可能な高密度海底ネットワークシステムの試験運用を開始し、南海地震の想定震源域においても、同様なシステムの敷設に向けた技術開発を進めました。
 防災科学技術研究所では、地震観測網や実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)、次世代型高性能レーダ(MPレーダ)などを用いて、地震災害、火山災害、豪雨・土砂災害、雪害などの自然災害による被害の軽減のための研究を実施しています。また、各種自然災害の情報を集約し、利用目的に応じた形で配信するシステム「災害リスク情報プラットフォーム」の開発に関する研究を進めています。さらに、平成22年度においては、三大都市圏と北陸地方に整備されたMPレーダのデータ解析システムを構築し、集中豪雨の予測に関する研究体制を強化しました。


※9 地震調査研究推進本部
 地震に関する調査・研究成果の社会還元を政府として一元的に推進するため、「地震防災対策特別措置法」に基づき設置。

(9)新興・融合分野の研究開発の推進

 地球温暖化や新型感染症対策など、我々人類が直面している複雑で困難な課題の解決には、既存の研究分野にとらわれずに複数領域に横断的に活用することが可能な科学技術や融合領域の科学技術に関する研究開発を推進することが重要です。
 また、新たな知を創造することによって科学技術のフロンティアを拡大するために、既存の研究分野を越えて研究者の知恵が結集できるような仕組みを構築するなど、異なった分野間での知的な触発や融合を促す環境を整えることが必要となってきています。
 文部科学省では、このような状況を踏まえ、新興・融合分野の研究開発を円滑に進める取組として、光・量子科学研究、サービス科学研究、社会技術研究、数学・数理科学と諸科学・産業との連携の推進などを行っています。

(10)安全・安心に資する科学技術の推進

 第3期科学技術基本計画において、具体的な政策目標の一つとして、「安全が誇りとなる国~世界一安全な国・日本を実現」が掲げられています。
 そのため科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会(安全・安心科学技術委員会)において、平成18年7月に「安全・安心科学技術に関する研究開発の推進方策について」を取りまとめました。これを受けて、文部科学省では、19年度から「安全・安心科学技術プロジェクト」を実施し、テロ対策や地域の安全・安心に資する科学技術について重要研究開発課題の研究開発を進めるとともに、知や技術の共有化を行っています。また、平成22年3月に同委員会で「安全・安心に資する科学技術の推進について」を取りまとめ、これに基づき、関係省庁と連携した「安全・安心な社会のための犯罪・テロ対策技術等を実用化するプログラム」を平成22年度から実施しました。
 さらに、米国との協力の枠組みである「日米安全・安心科学技術協力イニシアティブ」を推進するなど、国際的な協力にも積極的に取り組んでいます。

第4節 科学技術人材の育成、確保、活躍の促進

 人口減少・少子高齢化が進む中、我が国が科学技術の力で世界をリードするためには、その担い手となる人材の育成・確保が極めて重要な問題です。
 文部科学省では、第3期基本計画により、以下の取組を実施しています。

1 個々の人材が活きる環境の形成

(1)若手研究者の自立支援

 新しい柔軟な発想を持つ若手研究者を育成・確保し、そのポテンシャルを活いかしていくことは、我が国の成長・発展に不可欠です。このため、若手研究者が自立して研究活動を行うことができるように、博士課程学生などへの経済的支援の拡充や、研究資金の充実、テニュアトラック制(※10)の導入・拡大を進めることなどが必要です。
 そこで、優秀な博士課程学生や博士課程修了者などの若手研究者が主体的に研究に専念できるよう、日本学術振興会において、研究奨励金を支給する特別研究員事業を実施しています。また、博士課程学生を、研究資金などによりリサーチアシスタントとして雇用する取組も進められています。
 さらに、科学研究費補助金において、経験の少ない若手研究者に研究費を得る機会を与え、研究者として良いスタートを切れるように支援しています。また、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業でも、若手研究者の応募が多い「さきがけ」などを拡充しているほか、若手研究者が自立して研究活動ができるよう、スタートアップ資金の提供や研究スペースの確保などを進め、テニュアトラック制の導入を図る大学などを支援しています。


※10 テニュアトラック制
 公正で透明性の高い選抜により採用された若手研究者が、審査を経てより安定的な職を得る前に、任期付きの雇用形態で自立した研究者として経験を積むことができる仕組み。

(2)女性研究者の活躍促進

 女性研究者などの多様な人材が能力を発揮し、社会の多様な場において活躍することは重要な課題です。しかしながら、我が国の女性研究者の割合は増加傾向にあるものの約14パーセントと、欧米の先進諸国と比べて著しく低い水準にあります。
 このため、文部科学省では、女性研究者が出産、育児と研究を両立できるよう、研究補助者の配置などのサポート体制を整備する大学等を支援しています。
 また、日本学術振興会では出産・育児等により研究活動を中断した優れた若手研究者が円滑に研究現場へ復帰できるよう研究奨励金を給付しています。

(3)国際的な人材の活躍促進

 世界規模の「頭脳循環」の進展を踏まえ、世界に通用する人材を育成・確保するため、優れた若手研究者が自らの研究計画に基づき海外の大学等研究機関において長期間(2年間)研究に専念できるよう支援する海外特別研究員事業や、我が国の大学等が海外の大学等研究機関と組織的に連携し、若手研究者を短期間(2か月~1年間)海外の大学等に派遣するプログラムを実施しています。さらに、平成22年度からは、国際的な頭脳循環の活性化を通じた我が国の学術の振興を図るため、国際共同研究に携わる若手研究者の海外派遣を支援する頭脳循環を活性化する若手研究者海外派遣プログラムを実施しています。
 また、外国人研究者の活躍促進は、我が国の研究環境を活性化し、国際競争力を持続、発展させていくために重要です。このため、日本学術振興会では、外国人特別研究員事業や外国人招へい研究者事業を通じた優秀な外国人研究者の招へいなどを行っています。

(4)学習意欲のある学生の更なる意欲や能力の向上

 文部科学省では、将来有為な科学技術関係人材を育成するため、理系学部を置く大学において理数分野に関して強い学習意欲を持つ学生の意欲・能力を更に伸ばすことに重点を置いた取組を支援しており、各機関において、本プロジェクト対象学生の専用のカリキュラムの編成や早期研究室配属などの取組が行われています。

2 社会のニーズに応える人材の育成

(1)博士号取得者の産業界等での活躍促進

 科学技術と社会との関わりが一層深化・多様化する中、ポストドクター等の高度な専門性を有する人材が、大学や公的研究機関のみならず、産業界や行政機関など社会の様々な分野で活躍するよう、多様なキャリアパスを確保する必要があります。
 文部科学省では、博士課程学生やポストドクターが企業などで長期インターンシップを行う取組などを実施する大学を支援しています。

(2)技術士制度の運用

 技術士制度は昭和32年に制定された技術士法により創設されました。本制度の目的は、科学技術に関する高度な専門的応用能力を必要とする事項についての計画、研究、設計、分析、試験などの業務を行う者に対し、「技術士」の資格を付与することによって、その業務の適正化を図り、科学技術の向上と国民経済の発展に資することにあります。「技術士」となるためには、機械、建設などの技術部門ごとに行われる国家試験に合格し、登録を行うことが必要です(図表2-5-10)。

図表2-5-10 技術士の技術部門別割合(平成22年12月末現在)

図表2-5-10 技術士の技術部門別割合(平成22年12月末現在)

(3)技術者に対する継続的な教育機会の提供

 質が高く、十分な数の技術者を養成・確保するためには、技術者の生涯を通じた資質と能力の向上を図るシステムを構築することが重要です。また、科学技術分野の失敗経験を、その未然防止のために共有することも必要です。科学技術振興機構では最近の技術の成果や知見、失敗事例をいつでも学習・閲覧できるよう、インターネットを利用した自習教材「Webラーニングプラザ」(参照:Webラーニングプラザ 技術者 eラーニング(※独立行政法人科学技術振興機構ウェブサイトへリンク)と「失敗知識データベース」(参照: http://shippai.jst.go.jp(平成23年3月末まで))を一般公開しています。

第5節 科学の発展と絶えざるイノベーションの創出

1 競争的環境の醸成

 競争的資金は、研究者などから提案された研究開発課題について、事前審査を経て配分される資金であり、研究者の研究費の選択の幅と自由度を拡大し、競争的な研究開発環境の形成に資するものです。文部科学省では、科学研究費補助金、戦略的創造研究推進事業などの競争的資金制度を運用しています。
 また、研究費の不正使用を防止するため、「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」(平成19年2月15日文部科学大臣決定)に基づき、体制整備を研究機関に求め、研究機関から提出される「体制整備の実施状況報告書」及び現地調査において体制整備等の現状を把握しています。更に、ガイドラインが適切に運用されているかを研究機関自ら確認を行い、より効果的な体制整備の構築を図ることが必要であることから、「体制整備の実施状況報告書」を項目別の記述様式からチェックリスト様式に改定しました。また、当該様式の変更に当たっては、研究機関に対する説明会を開催し、その解説を行うとともに、より効果的な体制を構築していただくよう要請しています。

2 イノベーションを生み出すシステムの強化

(1)イノベーションを生み出す基礎研究の推進

 基礎研究には、研究者の自由な発想に基づく研究と、政策に基づき将来の応用を目指す研究があります。特に、後者は、政策目標の達成に向けて経済・社会の変革につながるイノベーションの源泉となる知識の創出を目指して進めることが求められています。
 「戦略的創造研究推進事業」は、イノベーションの創出につながる研究成果を生み出すことを目的として、政策課題対応型の基礎研究を推進する競争的資金制度です。経済・社会ニーズを考慮し文部科学省が設定した戦略目標の下、科学技術振興機構が研究領域を設け、戦略重点科学技術を中心とした研究開発を戦略的に推進しています(図表2-5-11)。

図表2-5-11 戦略的創造研究推進事業の概要

図表2-5-11 戦略的創造研究推進事業の概要

(2)世界トップレベルの研究拠点の形成

 世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)は、高いレベルの研究者を中核とした世界トップレベルの拠点形成を目指す構想に対し集中的な支援を行い、優れた研究環境と高い研究水準を誇る「目に見える拠点」の形成を目指しています。文部科学省では、平成19年度に5拠点、平成22年度に1拠点を採択し、取組を支援しています(図表2-5-12)。

(3)イノベーション創出に向けた産学官連携の深化

 資源の乏しい我が国が、人口減少下においても国際競争力を強化し、持続的な成長を実現していくためには、イノベーションを起こすことが必要不可欠です。「知」の拠点である大学には、その原動力としての期待が高まっています。
 平成18年12月には約60年ぶりに「教育基本法」が改正され、大学の基本的役割として、それまでの教育及び研究に加え、大学で生まれた成果を広く社会に提供し、社会の発展に寄与するという社会貢献が新たに明確に位置付けられました。

図表2-5-12 世界トップレベル研究拠点プログラムの概要

 図表2-5-12 世界トップレベル研究拠点プログラムの概要

1.産学官連携に関する取組

(ア)大学知的財産本部や技術移転機関(TLO)(※11)等における取組
 産学官連携活動が十分な成果を上げていくためには、大学知的財産本部やTLOの活動を一層活性化し、効果的なものとすることが重要です。各大学等は、自らの知的財産本部とTLOとの関係を明確化しつつ、両者の連携を一層強化することが求められています。

(1)大学等における知的財産体制等の整備
 平成15年度から5年間実施された「大学知的財産本部整備事業」により、大学等における知的財産の機関一元管理等の知的財産に関する体制の整備や、知的財産ルールの策定などが進み、大学等における特許出願件数や実施件数が年々増加するなど、知的財産本部は、大学等において産学官連携を支える組織として重要な役割を担っています。また、大学等における国際的な基本特許の権利取得及び大学間連携による知的財産活動体制の構築などを重点的に支援するため「産学官連携戦略展開事業」(平成22年度からは「大学等産学官連携自立化促進プログラム」として実施。)を実施し、大学等の研究成果の円滑な社会還元を促進しています。21年度からは、同事業内において、国内外において効果的に活用される強い特許等の創出を目指す、研究開発独立行政法人と大学等の連携による知財ポートフォリオの形成を中心とした知的財産戦略を展開できる体制の整備や、技術力、経営力の基盤が強固なバイオベンチャーを継続的に創出するための体制の整備を支援しています。

(2)技術移転機関(TLO)における最近の動き
 平成10年8月に「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律」が施行され、以後、同法に基づき42のTLOが承認され(23年3月末現在)、各地域において精力的な活動を行っています。近年は、国立大学法人において法人内部型TLOの設立、外部TLOの内部化、承認TLOへの出資など、TLOの連携強化に向けた取組が見られます。

(イ)科学技術振興機構における主な取組
(1)大学等の有望な研究成果を基にした大学等と企業との連携による成果展開
 科学技術振興機構では、実用化の可能性を検証するシーズ探索、企業との実用化に向けた共同研究開発など、それぞれの状況におけるニーズや課題の特性に応じた最適なファンディング計画を設定し、大学等の研究成果を実用化につなぐための産学共同研究を総合的かつシームレスに推進する「研究成果最適展開支援事業(A-STEP)」や、複数の産学研究者チームからなるコンソーシアムを形成し、基礎研究の成果を基に大規模かつ長期的な研究開発を推進する「産学イノベーション加速事業【戦略的イノベーション創出推進】」、独創的な研究開発活動を支える基盤を強化するため、世界最先端の計測分析機器の開発を推進する「産学イノベーション加速事業【先端計測分析技術・機器開発】」を実施しています。また、平成22年度からは産学連携の範囲を基礎研究領域まで拡大し、産学の対話の下、産業競争力の強化及び大学等の基礎研究の活性化を図る「産学イノベーション加速事業【産学共創基礎基盤研究】」を開始しました。

(2)技術移転活動に対する総合的な支援
 科学技術振興機構では、「技術移転支援センター事業」において、大学や公的研究機関等で生まれた有望な研究成果の特許化支援、産学マッチングの場の提供等により、大学等の研究成果の技術移転活動や知的財産活動に対する専門的な支援を行っています。また、平成22年度からは大学等が保有する特許等の基礎研究における利用を無償開放することなどにより、特許等が制約とならない研究環境を提供し、特許等の活用促進及び研究活動の活性化を図る「科学技術コモンズ」を行っています。


※11 技術移転機関(TLO)
 大学、高等専門学校、大学共同利用機関及び国の試験研究機関等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転を行うもの。

2.これまでの産学官連携活動の実績と成果

 平成16年4月の国立大学法人化等に伴い、総じて大学等における産学官連携活動は着実に実績を上げています。21年度は、リーマンショック後の世界的な経済不況の影響もあり、大学等と民間企業との「共同研究件数」は14,779件(前年度比1パーセント減)、「共同研究費受入額」は約295億円(前年度比13パーセント減)と、前年度と比べて若干落ち込んでいるものの、15年度に比べ、「研究費受入額」は、約1.9倍に増加しており、また、21年度の特許実施許諾件数は5,489件に上り、15年度に比べ、約29.7倍に増加しています(図表2-5-13)。
 産学官連携については、文部科学省を含めた政府全体として取組が進められており、平成22年6月に「科学・技術フェスタin京都-平成22年度産学官連携推進会議-」・「第8回産学官連携功労者表彰」が京都で開催されたほか、9月には全国最大規模の産学マッチングイベントである「イノベーション・ジャパン2010-大学見本市」が東京で開催されました。

図表2-5-13 大学等における共同研究等の実績の推移

図表2-5-13 大学等における共同研究等の実績の推移

3.今後の産学官連携についての基本的な考え方

 我が国における持続的な成長を実現するためには、科学技術力の強化とそれによるイノベーション創出を生み出していくとともに、新しい需要を創造していくことが必要です。
 そのためには、大学・研究開発独立行政法人等において独創的・先進的な研究成果を継続的に生み出し、その「知」を産業界における「価値」へと発展させ、新たな市場を開拓し、雇用を創出するとともに、そのプロセスを通じて科学技術駆動型イノベーションを担う人材を育成する産学官連携の価値創造サイクルを効果的に機能させていくため、イノベーション創出を加速するシステムを構築していくことが重要です。
 「研究(知の創造)」・「イノベーション(社会的・経済的価値創出)」及びその持続的発展を支える「教育(人材育成)」という国づくりの三要素を三位一体で推進することで、産学官連携を実効性のあるものとするとともに、産学官連携に対する国民理解の醸成を図るために、関係府省庁との連携を強化し、さらなる成果の普及と説明の充実に努めていきます(図表2-5-14)。

図表2-5-14 産学官連携の成果事例

図表2-5-14 産学官連携の成果事例

3 地域イノベーション・システムの構築と活力ある地域づくり

(1)地域における「知的クラスター」の形成

 地域における科学技術の振興は、地域イノベーション・システムの構築や活力ある地域づくりに貢献し、ひいては、我が国全体の科学技術の高度化・多様化やイノベーション・システムの競争力の強化につながるものであることから、国として積極的に推進することとしています。
 文部科学省では、平成14年度より地域イノベーション・システム構築のための重要な取組として、優れた研究開発ポテンシャルを有する地域の大学等を核に、産学官の網の目のようなネットワークを構築することによりイノベーションを持続的に創出する「知的クラスター創成事業」及び「都市エリア産学官連携促進事業」に取り組んできました。これらの事業については、22年度において「地域イノベーションクラスタープログラム」として一本化し、事業実施地域に対して継続課題が終了する平成25年度まで着実に支援を行うこととしており、22年度は、全国で40地域が事業を実施しました(図表2-5-15)。

図表2-5-15 平成22年度地域イノベーションクラスタープログラム事業実施地域

 図表2-5-15 平成22年度地域イノベーションクラスタープログラム事業実施地域

(2)地域における科学技術施策の円滑な展開

 これまでの地域科学技術振興施策の取組により、大学等研究機関の優れた技術シーズを基に、技術移転・事業化に向けた取組が進められつつあります。具体例としては、北海道(札幌周辺を核とする道央地域)において、平成22年にノーベル化学賞を受賞した北海道大学・鈴木章名誉教授が発見した有機合成反応「スズキ・カップリング」を活用し、周囲の環境に応じて色が変化する特徴を持つ細胞染色用蛍光色素の商品化を達成するなど、各地域において独自性のある産学官の共同研究を推進することにより、地域の活性化及び我が国全体の科学技術の高度化や多様化にも大いに貢献してきました。
 平成23年度は、関係府省の施策を総動員して支援することで地域の主体的かつ優れた構想から地域イノベーションが創出されるよう、経済産業省及び農林水産省と連携して「地域イノベーション戦略推進地域」の選定を行い、選定した地域に対して文部科学省によるソフト・ヒューマンを重視した支援を行う「地域イノベーション戦略支援プログラム」を実施することとしています。

4 評価システムの改革

(1)研究開発評価の意義

 研究開発の評価は、研究開発活動の進展・活性化を図り、創造性豊かなものにし、より優れた成果を上げていく上で必要不可欠なものです。
 評価を行うに当たっては、厳密に評価を行い、評価結果を適切に活用することが必要です。また、国民に対して評価結果と反映状況を分かりやすく公開し、国費を投入することに対して広く理解を得ることが大切です。

(2)研究開発の評価の現状

 我が国の研究開発の評価については、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成20年10月内閣総理大臣決定)(「大綱的指針」)に基づき、各府省が各々の評価方法などを定めた具体的な指針を策定し、評価を進めています。文部科学省では、「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針」(平成21年2月文部科学大臣決定)(「文部科学省評価指針」)を策定し、評価に取り組んでいます。
 文部科学省としては、大綱的指針、文部科学省評価指針を踏まえ、研究開発の特性に応じた適切な評価が効果的・効率的に行われるよう努力し、貴重な財源を基に行われる研究開発活動の質を高めていきたいと考えています。

第6節 科学技術振興のための基盤の強化

1 施設・設備の計画的・重点的整備

(1)国立大学等における施設・設備の整備

1.研究施設の整備

 国立大学等の施設は科学技術創造立国を実現するために不可欠な基盤です。第3期科学技術基本計画において、老朽施設の再生整備が最重要課題として位置付けられたことを受けて、文部科学省では、世界一流の優れた人材の養成と創造的・先端的な研究開発の推進を目指し、「第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画」(平成18~22年度)を策定し重点的・計画的整備を推進しています(参照:第2部第9章第3節)。

2.研究設備の整備

 学術研究の推進には、基盤となる研究設備の整備・充実が必要不可欠です。国立大学等では、老朽化・陳腐化した研究設備の維持・更新を含めた整備が喫緊の課題となっており、科学技術・学術審議会においても、計画的な整備の必要性が指摘されています。このような現状を踏まえ、文部科学省では、国立大学等の自主的な整備計画(設備マスタープラン)を踏まえた研究設備の整備・充実への支援を行っています。特に、平成22年度補正予算においては、共同利用を前提とした基盤的な研究設備や先端的な研究設備の整備等に必要な経費を計上し、支援を行いました(参照:第2部第5章第2節3)。

(2)先端研究施設・設備の整備・共用の促進

 文部科学省では、最先端の大型研究施設について、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律(共用法)」において、特定先端大型研究施設(※12)を定め、これら施設の整備を進めるとともに、公平・公正な利用、充実した支援のための体制を構築し、共用の促進を図っています。また、その他の大学、独立行政法人などが保有する研究施設・設備(高速計算機システム、NMR装置(※13)、超高圧電子顕微鏡など)についても、産学官の研究者などによる共用を促進しています。さらに、施設利用に関する基本的な情報を、インターネットを通じた研究施設共用総合ナビゲーションサイト「共用ナビ(※研究施設共用総合ナビゲーションサイトへリンク)」により提供しています。


※12 特定先端大型研究施設
 特定先端大型研究施設として、特定高速電子計算機施設(次世代スーパーコンピュータ「京」)、特定放射光施設(SPring-8、SACLA)、特定中性子線施設(J-PARC)が規定されている。

※13 NMR装置
 核磁気共鳴(NuclearMagneticResonance)装置。強い磁場中に試料を置くことで分子の形や動きを調べることができ、タンパク質の立体構造の解析などに利用されている。

(3)若手研究者等が活躍できる研究基盤の整備

 グローバル化が進展し、国際的な頭脳獲得競争の激化による人材の流動性が高まる中、海外で研鑽さんを積んだ我が国の研究者が帰国後も活躍できる機会を充実するとともに、海外の優秀な研究者が我が国で活躍できる国際的な「頭脳循環」の実現が重要となっています。このため、国内外の若手研究者等を惹ひきつけ、最先端の研究成果を創出するための研究設備の整備を行う「最先端研究基盤事業」を実施しています。

2 知的基盤の整備

(1)知的基盤整備の推進

 我が国における先端的・独創的・基礎的な研究開発を積極的に推進するとともに、その成果の経済社会における活用を促進するためには、研究開発活動を支える研究用材料、計量標準、計測方法・機器、データベースなどの知的基盤の戦略的・体系的な整備の推進が不可欠です。科学技術・学術審議会では、平成13年に関係各省の協力を得つつ、22年を目途に世界最高水準の知的基盤の整備を目指す「知的基盤整備計画」を策定しました。その後、「第3期科学技術基本計画」を受けて、19年9月に科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会において、戦略目標への質的観点の取り入れや中核的な役割を担う機関の位置付けなどの観点を新たに盛り込んだ「知的基盤整備計画について」を策定しました。

(2)先端計測分析技術・機器開発の推進

 知的基盤の一つに、研究開発に用いる計測機器や分析機器があります。これらの機器は日常の研究開発活動の基盤となり、その使用が研究開発成果を大きく左右することを考えると、より優れた機器を継続的に使用できる環境を整備することが重要となります。世界最高水準の機器を独自で開発することは、世界初の研究開発成果の創出につながり、この積み重ねが我が国の科学技術の着実な発展につながっていきます。
 そこで、科学技術振興機構の実施する産学イノベーション加速事業【先端計測分析技術・機器開発】において、創造的・独創的な研究開発活動を支える基盤を強化するために、先端的な計測分析技術における革新的な要素技術や機器の開発を推進するとともに、実用化・研究開発現場への普及を目指すプロトタイプ機の性能実証及びソフトウェア開発を推進しています。

3 研究情報基盤の整備

 研究情報基盤は研究活動に不可欠な言わば生命線としての性格を有するとされ、我が国の研究開発の国際競争力を確保する上で重要な要素となっています。文部科学省は、大学や各種研究機関との連携を図りつつ、研究情報基盤の整備を進めています。

(1)ネットワークの整備・充実と計算資源の確保

 情報・システム研究機構国立情報学研究所が運用する学術情報ネットワーク(SINET3)は、大学などの研究者が必要とする学術情報を流通させるための基幹的ネットワークであり、平成22年度においては、約700の大学・研究機関などが接続しています。また、我が国の大学等における学術研究や教育活動全般を支える最先端学術情報基盤(サイバー・サイエンス・インフラストラクチャ)の更なる高度化を図るため、次期学術情報ネットワーク(SINET4)の整備に向けた検討を進めています。
 さらに、学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点(北海道、東北、東京、東京工業、名古屋、京都、大阪、九州の情報基盤センター等で構成)を認定し、スーパーコンピュータ等の情報基盤を用いた共同利用・共同研究を促進しています。

(2)研究情報流通の促進

 科学技術振興機構では、国内外の科学技術に関する文献、特許、研究者等、研究開発活動に係る基本的な情報を体系的に収集・整理・データベース化するとともに、各情報を関連付けて提供するサービス(J-GLOBAL)を提供しているほか、学協会自らが学術論文の電子ジャーナルを発行するための共同のシステム環境(J-STAGE)を整備することにより、我が国の研究成果の国内外への発信・流通を推進しています。
 情報・システム研究機構国立情報学研究所では、国公私立大学等の協力を得て、大学図書館が所蔵している学術図書・雑誌の目録所在情報データベースを構築・提供しているほか、各大学等における機関リポジトリの構築を支援しています。また、国公私立大学図書館とともに電子ジャーナルコンソーシアムによる連携を強化し、大学等における電子ジャーナルの効率的な整備を図ることとしています。

第7節 国民の科学技術に対する理解と意識の醸成

 我が国の国民の多くは科学技術が社会に貢献していると感じ、地球環境問題や生活面での安全性や安心感、心の豊かさなどの面において科学技術に大きな期待を寄せている一方で、科学技術の急速な進歩に対して不安を感じている人も少なくありません。今後、ますます発展する科学技術が円滑に社会に受け入れられていくためには、科学技術の成果を国民に還元するとともに、それを分かりやすく発信するなど、説明責任と情報発信を強化し、国民との対話を進めていくことによって、国民の理解と支持を得ることが重要です。

1 科学技術コミュニケーション活動の推進

(1)日本科学未来館の整備・運営

 科学技術振興機構が運営する「日本科学未来館」では、先端の科学技術を分かりやすく紹介する展示の制作や解説、講演、イベントの企画などを通じて、研究者と国民の交流を図っています。また、我が国の科学技術コミュニケーション活動の中核拠点として、科学コミュニケーターの養成や全国各地域の科学館・学校などとの連携を進めています。

(2)地域における科学技術に親しみ、学習する機会の充実

 科学技術振興機構では、全国各地域の科学コミュニケーション活動を推進するため、科学館や大学、地方公共団体、ボランティアなどによる実験教室やイベントの開催、ネットワークの構築などを支援しています。

2 全国各地への科学技術情報の発信(サイエンスチャンネル)

 科学技術振興機構では、科学技術に関する様々なトピックを、青少年をはじめとする国民一般に分かりやすく紹介する番組を制作し、インターネットなどを通じて全国に配信しています(参照:サイエンスチャンネル(※サイエンスチャンネルウェブサイトへリンク))。

3 科学技術週間

 平成22年4月12日~18日に、試験研究機関、地方公共団体など関係機関の協力を得て第51回「科学技術週間(※14)」を実施しました。同週間中は、全国各地の関係機関において、施設の一般公開や実験工作教室、講演会の開催などの各種行事が実施されました。文部科学省は、東京国際交流館において科学技術週間シンポジウム「科学技術の力による輝きのある日本の実現に向けて」を行うとともに、東京・丸の内で研究者と一般の方とがお茶を飲みながら科学技術について気軽に話し合う「サイエンスカフェ」などを開催しました。


※14 科学技術週間
 科学技術週間は昭和35(1960)年の閣議了解に基づき設けられたもので、期間は毎年4月18日を含む1週間。

4 子ども科学技術白書

 科学技術振興機構では、時宜に適かなったテーマを取り上げて科学技術に関する身近な疑問や研究成果などをイラストやマンガ、写真を使って分かりやすく解説した「子ども科学技術白書」を作成し、全国の公立小学校や図書館などに配布しています。

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生涯学習政策局政策課政策審議第二係