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特集2 教育と職業

第1節 「教育と職業」を巡る現状と課題

 経済のグローバル化の進展や、産業構造・就業構造の変化、少子・高齢化の進展に伴う労働力人口の減少など、我が国の経済・社会の構造が大きく変化する中、次代の経済・社会の担い手となる若者の「学校から社会・職業への移行」や「社会的・職業的自立」が円滑に行われること、そして、人々が生涯にわたり職業に関する学習を行い、職業能力を高め、就業やキャリアアップを図ることができる環境を充実していくことが、我が国の持続的発展にとって極めて重要な課題となっています。
 本節では、まず、教育と職業を巡る現状と課題について見ていきます。

1 若者の「学校から社会・職業への移行」や「社会的・職業的自立」における現状と課題

 現在の若者は、大きな困難に直面しています。
 それは、若者の完全失業率や非正規雇用率の高さ、新卒者の就職内定率の低さ、若年無業者や早期離職者の存在など、「学校から社会・職業への移行」が円滑に行われていないという点に顕著に表れています。
 例えば、図表1-2-1にあるとおり、15歳から24歳までの完全失業率は、平成3年は4.5パーセントであったのに対し、22年は9.4パーセントとなっています。全年齢の平均が3年は2.1パーセント、22年は5.1パーセントであるのと比較すると、若年者の雇用情勢の厳しさがうかがえます。
 また、新卒者の就職状況も厳しく、平成23年春の新卒者の就職率は、図表1-2-2のとおり、大学は91.0パーセント(23年4月1日現在)で、8年度の調査開始以降、最低の水準となっています。高等学校は93.2パーセント(23年3月末現在)で、前年より1.6ポイント上昇したものの、23年3月末の求人倍率は1.24倍と、前年同期(1.29倍)を下回っています。
 さらに、新卒者が正規の従業員として採用される機会の減少が指摘されているように、正規の従業員以外の就業形態で働く若者が増加しています。図表1-2-1にあるとおり、15歳から24歳までの非正規雇用率について、平成3年は9.3パーセントだったのに対し、22年は31.7パーセントと大幅に上昇しています。35歳から44歳までの非正規雇用率の変化が、3年は20.1パーセント、22年は26.3パーセントであるのと比較すると、非正規雇用が若年者において特に拡大しています。
 また、15歳から34歳までの非労働力人口のうち、家事も通学もしていない若年無業者(いわゆるニート)は、平成14年以降、60万人台の水準で推移しています(※1)。さらに、新卒者が3年以内に離職する割合は、平成19年3月の卒業者では、中学校卒業者で約65パーセント、高等学校卒業者で約40パーセント、大学卒業者で約31パーセント、短期大学等卒業者で約41パーセントという状況にあります(※2)。


※1 総務省統計局「労働力調査(基本集計)」
※2 厚生労働省「新規学校卒業就職者の就職離職状況調査」

図表1-2-1 若年者の失業率、非正規雇用率の推移

図表1-2-1 若年者の失業率、非正規雇用率の推移 若者の失業者

図表1-2-1 若年者の失業率、非正規雇用率の推移 若者の非正規雇用率

図表1-2-2 新卒者の就職(内定)率の推移

図表1-2-2 新卒者の就職(内定)率の推移 大学

図表1-2-2 新卒者の就職(内定)率の推移 高等学校

一方、若者の「社会的・職業的自立」については、

  • 働くことへの関心・意欲・態度、目的意識、責任感、意志等の未熟さ
  • コミュニケーション能力、対人関係能力、基本的マナーなど、職業人としての基本的な能力の低下
  • 職業意識・職業観の未熟さ

などが課題として指摘されています。
 例えば、図表1-2-3のとおり、企業が新卒者の採用について重視する点として、コミュニケーション能力や主体性・協調性を挙げていますが、その一方で、若者の職業に関する能力については、図表1-2-4のとおり、最近10年間の大学・大学院卒の人材について、約38パーセントの企業は質が低下したと感じていることからも、このような状況が生じていることがうかがえます。
 また、早期離職率が高い状況にあって、図表1-2-5のとおり、離職の理由としては、仕事に対する適性や人間関係をめぐる課題が挙げられることが多くなっています。

図表1-2-3 新規採用にあたって重視する点

図表1-2-3 新規採用にあたって重視する点

図表1-2-4 企業の人材水準への評価

図表1-2-4 企業の人材水準への評価

図表1-2-5 初めて就いた職業を離職した理由

図表1-2-5 初めて就いた職業を離職した理由

 このように、社会に出るまでに「社会的・職業的自立」に向けて必要な基盤となる能力や態度が十分に身に付いていないことが、円滑に、学校から社会・職業に移行できない原因の一つになっていることが考えられます。
 また、学習と将来の仕事との関連についての子どもたちの意識を見ると、図表1-2-6のとおり、我が国の子どもたちは、諸外国に比べて、将来就きたい仕事や自分の将来のために学習を行うという意識が低いことが明らかとなっています。
 このため、子どもたちが自らの将来に対する夢やあこがれを持ったり、将来就きたい仕事などを思い描いたりしながら、学習との関連や学習の意義を認識し、意欲的に学習を進めていく気持ちや態度につながるよう、働きかけていくことが課題となっています。

図表1-2-6 現在行っている学習と将来とが結びつかない中学生・高校生

図表1-2-6 現在行っている学習と将来とが結びつかない中学生・高校生

 また、大学1年生のうち、高等学校卒業までに職業を意識したことがない者が約31パーセントいるという調査結果(※3)があることに見られるように、高等教育機関への進学率の上昇に伴い、将来の生き方・働き方について考え、選択・決定することなく、進路意識や目的意識が希薄なまま進学する者が増加していることが指摘されています。
 このような中、大学については、図表1-2-7のとおり、高校生が進学を希望する理由として、「将来の仕事に役立つ専門的知識・技術を身に付けたいから」という回答が最も多いという調査結果があります。その一方で、図表1-2-8のとおり、「将来の職業に関連する知識や技能」について、約4割の学生は「これまでの授業経験は役立っていない」又は「あまり役立っていない」、約8割の学生は「自分の実力は不十分」又は「あまり十分ではない」と回答する調査があるなど、学生のニーズに対応した教育が十分に提供されていない状況も見られます。


※3 Benesse教育研究開発センター「平成17年度経済産業省委託調査進路選択に関する振返り調査-大学生を対象として-」

図表1-2-7 高校生が進学を希望する理由

図表1-2-7 高校生が進学を希望する理由

図表1-2-8 大学生の大学教育への評価

図表1-2-8 大学生の大学教育への評価

 また、高等学校の普通科や大学に進学すること自体を評価する社会的風潮が根強くある中、社会全体を通じて、職業に関する教育に対する認識が不足していることが指摘されています。
 その結果、自らの将来の生き方・働き方などについて真剣に考えることなく、安易に進路選択をするなど、職業へ移行する準備が十分に行われず、そのことが、新卒者の早期離職や若年無業者の存在などの問題に影響を与えていると考えられます。

2 職業に関する生涯学習における現状と課題

 我が国の雇用慣行の大きな特徴として、長期雇用を前提とした企業内教育・訓練があります。これまでは、学校において基礎的な知識などを身に付けさせ、職業に必要な専門的な知識・技能は、主に企業内教育・訓練などを通じて、仕事をしながら育成することが一般的でした。
 しかし、図表1-2-9のとおり、人材育成に課題があるとする企業は全体の約7割に達しています。その理由としては、指導する人材の不足(約50パーセント)や時間の不足(約47パーセント)が挙げられており、企業が人材育成を行う余裕を失っている状況がうかがえます(※4)。
 また、1で見たような非正規雇用者の増加は、職業能力の形成の上でも問題を生じさせています。非正規雇用者は、正規雇用者に比べ、企業内教育・訓練を受けられる機会が限られているため、仕事を通じた能力の向上が図りにくくなっています。また、図表1-2-10のとおり、企業は中途採用を行う際に専門的な知識・技能を重視する傾向にあるため、このことが、非正規雇用者が職業生活におけるキャリア形成を図っていく上でも課題となっています(「キャリア」の定義については、第2節1(1)を参照)。

図表1-2-9 人材育成に関する問題があるとする事業所及び問題点の内訳

図表1-2-9 人材育成に関する問題があるとする事業所及び問題点の内訳

図表1-2-10 中途採用者の採用の際に企業が重視するもの

図表1-2-10 中途採用者の採用の際に企業が重視するもの

 さらに、科学技術の進展や急速な技術革新などが進む中、職業に求められる専門的な知識・技能が高度化・多様化しています。このようなことから、労働者が自らの専門性を高めたり、新しい職業に対応するための知識・技能を身に付けるために、大学などで改めて学習することのニーズが高まりつつあると考えられます。例えば、図表1-2-11のとおり、労働者が自己啓発を行った理由の約8割が、現在の仕事に必要な知識・能力を身に付けるためとなっています。
 しかしながら、大学などにおける社会人の学習については、図表1-2-12にあるとおり、大学入学者のうち25歳以上の者の割合は、OECD諸国の平均では約21パーセントであるのに対し、我が国では約2パーセントにとどまっています。


※4 厚生労働省「能力開発基本調査」(平成21年度)

図表1-2-11 労働者が自己啓発を行った理由

図表1-2-11 労働者が自己啓発を行った理由

図表1-2-12 各国の25歳以上の大学入学者の割合(2008年)

図表1-2-12 各国の25歳以上の大学入学者の割合(2008年)

 この背景には、職業生活と学習の両立のための費用・学習時間の確保や、提供されている教育プログラムの内容、企業等の理解などといった問題が考えられます。また、教育機関においても土日等における授業の開講など社会人が柔軟に授業を受けられるような工夫が求められます。例えば、図表1-2-13のとおり、社会人のリカレント教育に関し、受講において想定される課題としては、「仕事が忙しい」(約72パーセント)、「費用負担が大きい」(約71パーセント)と回答した者が多い一方、「会社の理解が得にくい、公表しづらい」(約21パーセント)、「社会人向けのカリキュラムが充実していなかった」(約16パーセント)と回答した者も一定程度存在しています。また、教育機関の選択において重視する点としては、「カリキュラムが魅力的であること」(約74パーセント)と回答した者が最も多くなっており、以下「通学しやすい場所に学校があること」(約62パーセント)、「授業料が安い」(約55パーセント)、「時間帯が自由に選択可能」(約52パーセント)、「土日、休日の開講」(50パーセント)などの回答が多くなっています。

図表1-2-13 社会人のリカレント教育について

図表1-2-13 社会人のリカレント教育について

 どのような学校段階に進んだかということと、卒業後の就業状態や所得との関係については、例えば、図表1-2-14のとおり、正社員として定着する割合は、男女ともに「大学・大学院卒」「短大・高専卒」「専門卒」「高卒」の順となっています。一方、「中卒・高校中退」や「高等教育中退」については、男女ともに非正規雇用となっている場合が多くなってます。

図表1-2-14 就業状態の類型の分布(性別・学歴別)

図表1-2-14 就業状態の類型の分布(性別・学歴別)

 また、図表1-2-15、図表1-2-16のとおり、国際的には、高等教育を修了した者については、後期中等教育(普通教育)を修了した者と比べ、失業率が低くなっていることや、高等教育を修了した者の方が、後期中等教育を修了した者や後期中等教育未満の者に比べ、学校の修了段階別の収入が高いということが傾向として見られます。
 以上のことから、人々の希望やライフステージに応じて、個々人の能力を伸長できるよう生涯にわたり多様な学習機会を確保していくことが、人々の安定した就業や家計の実現という観点からも重要であると考えられます。

図表1-2-15 25~64歳労働人口に占める学歴別失業率(2008年)

図表1-2-15 25~64歳労働人口に占める学歴別失業率(2008年)

図表1-2-16 25~64歳人口の学歴別収入比較(2008年または最新の数値が得られた年)

図表1-2-16 25~64歳人口の学歴別収入比較(2008年または最新の数値が得られた年)

第2節 人々の生涯にわたるキャリア形成を支援する観点からの教育の在り方

 前節では、教育と職業をめぐる現状と課題を見てきました。
 若者の「学校から社会・職業への移行」や「社会的・職業的自立」に関する問題については、社会全体を通じた構造的な問題としてとらえ、若者個人の問題に帰するのではなく、社会を構成する各界がお互いに役割を認識し、一体となって対応していくことが必要です。
 また、企業内の人材育成に課題が見られたり、非正規雇用者が増加する中、人々が生涯にわたり職業に関する学習を行い、キャリア形成を図っていくことができる環境を充実していくことが重要です。
 本節では、人々の生涯にわたるキャリア形成を支援する観点から、学校におけるキャリア教育・職業教育、生涯学習の観点に立ったキャリア形成支援についての課題や充実方策の基本的な方向性について説明します。

1 基本的方向性

 人々の生涯にわたるキャリア形成を支援するためには、社会を構成する各界がお互いに役割を認識し、一体となって対応していくことが必要です。
 その中で、学校教育は重要な役割を果たすものであり、若者の「学校から社会・職業への移行」や「社会的・職業的自立」、また、人々の生涯にわたるキャリア形成を支援するため、学校においてキャリア教育・職業教育を充実していくことが重要です。
 中央教育審議会では、平成20年12月から約2年間にわたり、今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について審議を行い、平成23年1月、「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」(以下、本節において「答申」という。)を取りまとめました。
(参照:「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」(答申)
 答申では、「キャリア教育」「職業教育」を次のように定義するとともに、人々の生涯にわたるキャリア形成を支援する観点から、次の3つの基本的方向性に沿って、学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方に関する方策を提言しています。

キャリア教育

一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、
キャリア発達を促す教育

職業教育 一定又は特定の職業に従事するために必要な知識、技能、能力や態度を育てる教育

(1)幼児期の教育から高等教育に至るまでの体系的なキャリア教育の推進

 学校でのキャリア教育における「キャリア」とは、「人が、生涯の中で様々な役割を果たす過程で、自らの役割の価値や自分と役割との関係を見いだしていく連なりや積み重ね」のことです。例えば、私たちは社会生活を営む上で、職業人、家庭人、地域社会の一員等、様々な役割を持っていますが、私たちはこれらの役割の関係や価値を自ら判断し、取捨選択や創造を重ねながらその役割に取り組んでいると言えるでしょう。人は、このような自分の役割を果たして活動することを通して、他者や社会にかかわることになり、そのかかわり方の違いが「自分らしい生き方」となっていくのです。
 「キャリア発達」とは、このように「社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現していく課程」の全体を意味します。当然のことながら、キャリア発達は、ある年齢になると自然に達成されるものではありません。子ども・若者の一人一人が、心や身体の成長にあわせて、それぞれの段階において果たすべき社会的な役割と自分自身との関係付けを行いながら、自ら自己の人生を方向付けていくために必要な学習や体験を通して、徐々に発達していくものです。
 経済・社会の急激な変化が進む今日、このようなキャリア発達を促進させるために必要とされる能力や態度を意図的・継続的に育成していくことが強く求められており、幼児期の教育から高等教育に至るまでの体系的なキャリア教育が行われることが重要です。
 この際、後で述べる「基礎的・汎はん用よう的能力」を子ども・若者に確実に育成していくことが求められます。また、社会・職業との関連を重視し、実践的・体験的な活動を充実していくことが必要です。

(2)実践的な職業教育の重視と職業教育の意義の再評価

 職業に必要な専門的な知識・技能は、生涯にわたって継続して修得されていくものです。このため、学校教育で行う職業教育は、専門分野の基礎的な知識・技能の育成とともに、知識・技能を活用する能力や、仕事に向かう意欲・態度等を育成することが必要です。
 特に技能については、実践がなければ身に付かないものであり、学校教育で技能を身に付ける場合には、学校の種類によって程度の差はあるものの、実践性がより重視されることが必要です。
 また、職業教育は、我が国の経済・社会の発展を支えるなどの重要な役割を果たしてきています。このことを改めて評価し、再認識することが必要です。

(3)生涯学習の観点に立ったキャリア形成支援

 職業に従事するためには、それぞれに必要な専門的な知識・技能を身に付けることが不可欠ですが、そのための学習は、職業生活へ移行した後も継続して、生涯にわたり行われるものです。若年時の学校教育を修了した後の職業に関する学習の場や方法としては、自己学習のほか、企業内教育・訓練を含めて様々なものがありますが、中でも学校は、その中核的な機関として、保有する教育資源を生かし、生涯学習の観点に立ってキャリア形成を支援する機能を充実していくことが必要です。(参照:本節3)

2 若年者を主な対象とするキャリア教育・職業教育の充実方策

(1)発達の段階に応じた体系的なキャリア教育の推進の方向性

 このような状況を踏まえ、答申では、「社会的・職業的自立」や「学校から社会・職業への円滑な移行」に必要な力に含まれる要素として、次のようなことを指摘しています。この中で特に「基礎的・汎はん用よう的能力」については、分野や職種に関わらず、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力であり、キャリア教育の中心として育成していくべきことを提言しています。

◆社会的・職業的自立、学校から社会・職業への円滑な移行に必要な力

  • 基礎的・基本的な知識・技能
  • 基礎的・汎用的能力
  • 論理的思考力、創造力
  • 意欲・態度及び価値観
  • 専門的な知識・技能

◆基礎的・汎用的能力

人間関係形成・社会形成能力 多様な他者の考えや立場を理解し、相手の意見を聴いて自分の考えを正確に伝えることができるとともに、自分の置かれている状況を受け止め、役割を果たしつつ他者と協力・協働して社会に参画し、今後の社会を積極的に形成することができる力
例) 他者の個性を理解する力、他者に働きかける力、コミュニケーション・スキル、チームワーク、リーダーシップ
自己理解・自己管理能力 自分が「できること」「意義を感じること」「したいこと」について、社会との相互関係を保ちつつ、今後の自分自身の可能性を含めた肯定的な理解に基づき主体的に行動すると同時に、自らの思考や感情を律し、かつ、今後の成長のために進んで学ぼうとする力
例) 自己の役割の理解、前向きに考える力、自己の動機付け、忍耐力、ストレスマネジメント、主体的行動
課題対応能力 仕事をする上での様々な課題を発見・分析し、適切な計画を立ててその課題を処理し、解決することができる力
例) 情報の理解・選択・処理等、本質の理解、原因の追究、課題発見、計画立案、実行力、評価・改善
キャリアプランニング能力 「働くこと」の意義を理解し、自らが果たすべき様々な立場や役割との関連を踏まえて「働くこと」を位置付け、多様な生き方に関する様々な情報を適切に取捨選択・活用しながら、自ら主体的に判断してキャリアを形成していく力
例) 学ぶこと・働くことの意義や役割の理解、多様性の理解、将来設計、選択、行動と改善

 また、発達の段階に応じた体系的なキャリア教育の具体的方策として、教育方針の明確化と教育課程への位置付けや、重視すべき教育内容・教育方法と評価・改善、教職員の意識・指導力の向上と実施体制の整備を提言しています。

ColumnNo.15 自己を生かすことができる生徒の育成をめざして(東京都墨田区立寺島中学校)

 寺島中学校では、キャリア教育の視点に立って、進路指導、学習指導、生徒指導の3つを有機的につなぎ、指導の充実を図っています。
 各学年の始めには、各教科ごとに「なぜこの教科を学習するのか」「学校で学ぶことが将来どのように役に立つのか」などをまとめた小冊子「各教科の学習の意義」を全生徒・保護者に配布し、学習の意義の理解による意欲的な学習の促進を目指しています。
 総合的な学習の時間では、「自己を生かす~今も、そして将来も」を3年間を貫くテーマとして設定し、「人間関係形成能力と適応能力を高める」「生涯という長いスパンで生き方(ライフスパン)を考える」の2つを狙いとした授業を実施しています。具体的には、5日間の職場体験活動、上級学校への訪問、人間関係づくり(車椅子体験、特別支援学校との交流など)、伝統工芸体験などの体験的な学習活動を実施するとともに、これらの活動を振り返る機会を定期的に設け、生徒に「学んだこと」や「身に付いたこと」を考える機会を設けています。また、本校を卒業後、職業生活だけを自己実現の場とするのではなく、それぞれの生徒が「生きがい」をもった生涯を送ることができるよう、小冊子「生涯生活を考える」を活用した授業や育児体験などの体験的な学習活動を通じ、職業、勤労、家庭、介護などについて考える機会を設けています。
 以上のように、生徒の卒業後を見通しつつ、3年間を系統的・計画的に捉えた学習活動を進めることにより、自己を生かすことができる生徒の育成を目指しています。

ColumnNo.15 自己を生かすことができる生徒の育成をめざして(東京都墨田区立寺島中学校) ColumnNo.15 自己を生かすことができる生徒の育成をめざして(東京都墨田区立寺島中学校)

(2)後期中等教育におけるキャリア教育・職業教育の課題と改善の方向性

 現在、後期中等教育機関への進学率は約98パーセントとなっており、後期中等教育を修了するまでに、答申が提言したような、生涯にわたる多様なキャリア形成に共通して必要な能力や態度を身に付けさせるとともに、これらの能力や態度の育成を通じて、勤労観・職業観などの価値観を自ら形成・確立できる子ども・若者の育成を目指すことが必要です。
 また、後期中等教育は、職業教育が始まる段階です。後期中等教育における職業教育は、学校から社会・職業への円滑な移行の準備という面とともに、高等教育機関への進学も含め、将来の可能性を広げていくことができる面からも、その重要性は依然として高く、その教育活動の充実が必要です。
 このため、次のような、後期中等教育におけるキャリア教育・職業教育の課題と具体的な改善の方向性を踏まえた取組の推進が望まれます。

1.後期中等教育におけるキャリア教育

 第1節1で述べたように、例えば、高等学校卒業までに職業を意識したことがない大学1年生が約31パーセントいるという調査結果があることから、進学という進路を検討するに当たって、将来の社会での姿を思い描けていない者が多くいることがうかがえます。また、図1-2-17のとおり、大学への進学理由についても、「すぐに社会に出るのが不安」「自由な時間を得たい」「周囲の人がみな行く」と考えている場合が職業を意識した時期が近い者ほど多くなっています。
 さらに、図1-2-18のとおり、大学生の職業に関する意識について、高等学校卒業以前に職業を意識した者が、大学入学後に意識した者やまだ意識していない者に比べ、「将来についてはっきりした目標をもっている」割合が高く、高等学校卒業以前で職業を意識することが、将来の目標を持つことにつながっていることがうかがえます。

図表1-2-17 大学への進学理由(職業を意識した時期別)

図表1-2-17 大学への進学理由(職業を意識した時期別)

また、高等学校の普通科には多くの課題が見受けられます。例えば、図表1-2-19のとおり、普通科の生徒に尋ねた調査によると、普通科に入学した動機として「自分の学力にあっている」と回答した者が約60パーセントいるのに対し、「自分の個性を伸ばすことができると思う」「自分のやりたい勉強ができると思う」と回答した者がそれぞれ約12パーセントにとどまっており、普通科を選択するに当たり、自分の個性ややりたい勉強とは余り結び付いていないことがうかがえます。このことは、職業学科と比べて顕著に差が出ています。

図表1-2-18 大学生の職業に関する意識(職業を意識した時期別)

図表1-2-18 大学生の職業に関する意識(職業を意識した時期別)

図表1-2-19 高等学校に入学した動機(学科別)

図表1-2-19 高等学校に入学した動機(学科別)

 また、普通科の生徒に多い進学希望者の中には、将来の生き方・働き方について考え、進路を選択・決定することを先送りする傾向があることが指摘されています。さらに、図表1-2-20のとおり、就職希望者の就職率が、他の学科と比べ低い状況にあります。
 このようなことの原因の一つとして、普通科の進路指導については、高等教育機関、特に選抜性の強い大学への進学を第一としたものに偏りがちであることが指摘されています。
 これらの状況を踏まえ、後期中等教育におけるキャリア教育の充実の具体的方策として、文部科学省においては、新しい指導要領に基づくキャリア教育の趣旨の徹底と指導内容の充実を図るため、「高等学校キャリア教育の手引き」の作成に取り組むほか、「キャリア教育における外部人材活用等に関する調査研究協力者会議」を立ち上げ、学校が外部人材を活用したキャリア教育を積極的に展開したり、就業体験活動を効果的に活用したりするための方策について調査研究を行っています。
 また、進路指導は、本来、どのような人間になり、どう生きていくことが望ましいのかといった長期的展望に立った人間形成を目指す教育活動であり、そのねらいは、キャリア教育が目指すところとほぼ同じものであることから、各学校では、子どもたちの実態を踏まえつつ、キャリア教育の視点に立って、進路指導を見直すことが必要となっています。

図表1-2-20 新規高卒者の学科別就職状況の推移

図表1-2-20 新規高卒者の学科別就職状況の推移

2.後期中等教育における職業教育

 高等学校の専門学科(商業科、工業科、農業科など)については、卒業者の高等教育機関への進学率が年々増加し、現在約5割となっていることから、高等教育との接続を視野に入れた職業教育の充実が求められています。
 また、卒業者の約4割は就職しており、地域産業においては、高等学校の専門学科の卒業者に対する高い人材の需要が引き続きありますが、その一方で、職業の多様化や、職業人として必要な専門的な知識・技能の高度化への対応が不十分であることなどが課題として指摘されています。
 これらを踏まえると、今後の専門学科では、卒業後進学し、更に高度な知識・技能を身に付け、将来の専門的職業人として活躍できる人材と、卒業後それぞれの職業に就き、地域の産業・社会を担う人材の両者の育成を念頭に置いた職業教育の充実が必要となっています。
 このような人材の育成のため、高等学校学習指導要領の改訂により教育内容の充実を図るとともに、地域企業との連携を図った現場での長期実習、実務経験者の教員への登用、大学との連携を図った取組など、実践的な教育活動の成果を全国に展開・普及することにより、職業教育の充実を図ることとしています。
 また、高等学校の総合学科については、生徒が進路を十分考えずに安易な科目選択を行う傾向や、中学生・保護者の理解や認知度の低さ、教職員の理解の不十分さ、多様な教科・科目開設に係る教職員の負担などが課題となっており、総合学科に対する理解の促進や、生徒に目的意識を持たせる教育活動・体制整備など、教育環境の充実が求められています。
 これらの点を踏まえ、平成23年度において、生徒や保護者・地域・社会のニーズに応じた総合学科の在り方について検討するための調査研究事業を実施することとしています。
 さらに、特別支援学校高等部については、就職率が2割強と厳しい中、時代のニーズに合った就業につながる職業教育に関する教育課程を見直しました。また、専修学校高等課程については、生徒の実態を踏まえた多様な学習ニーズに対応するための「単位制学科」や「通信制学科」の制度化の検討などが求められています。これを踏まえ、文部科学省では、平成21年11月から「専修学校教育の振興方策等に関する調査研究協力者会議」を開催し、有識者等による検討を重ね、23年3月に取りまとめられた報告において、専修学校への通信制・単位制の導入にかかる制度設計試案を示しました。

(3)高等教育におけるキャリア教育・職業教育の課題と改善の方向性

1.キャリア教育・職業教育の課題

 現在、高等教育機関(大学、短期大学、高等専門学校、専修学校専門課程(専門学校))に進学する者が8割に達しようとしており、我が国の多くの若者にとって、高等教育は社会に出る直前の教育段階となっています。
 このような中、第1節1で見たとおり、若年無業者(いわゆるニート)や早期離職者の存在など、「学校から社会・職業への移行」が円滑に行われない学生・生徒が多く存在しており、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力・態度の育成や、実践的な職業教育の充実が課題となっています。また、社会人の受入れなど、生涯学習ニーズを含む多様なニーズに対応した職業教育の充実が課題となっています。
 一方、大学については、図表1-2-7、図表1-2-8で見たように、学生のニーズに対応した教育が十分に提供されていない状況も見られます。
 また、図表1-2-12で見たように、大学入学者のうち25歳以上の者の割合は、OECD諸国の平均では約21パーセントであるのに対し、我が国では約2パーセントにとどまっています。

2.キャリア教育の改善の方向性

 キャリア教育については、(2)のとおり、後期中等教育を修了するまでに、生涯にわたる多様なキャリア形成に共通して必要な能力や態度を身に付けさせるとともに、これらの能力や態度の育成を通じて、勤労観・職業観などの価値観を自ら形成・確立できる子ども・若者の育成を目指すことが必要です。
 高等教育は、これを前提として、自らの視野を広げ、進路を具体化し、専門分野の学修を通じて、それまでに育成した能力・態度を伸長・深化させていく段階であり、このことを踏まえたキャリア教育の改善・充実が必要です。このため、各高等教育機関は、各機関の教育機能と教育方針を踏まえ、キャリア教育の方針を明確にし、教職員の理解の共有を図った上で、教育課程の内外を通じて全学で体系的・総合的にキャリア教育を展開することが必要です。また、インターンシップや課題対応型学習などの体験的な学習活動を効果的に活用していくことが重要です。
 このようなことから、大学・短期大学については、平成22年2月に大学設置基準・短期大学設置基準を改正し、23年4月より、全ての学校において、教育課程の内外を通じて社会的・職業的自立に向けた指導等に取り組むための体制を整えることとしました。この改正を踏まえ、学生の社会的・職業的自立に向けて、入学から卒業までの間を通じた全学的かつ体系的な指導等の取組が総合的に実施されるよう、大学生の就業力育成支援事業を推進するほか、様々な支援を進めています。
 また、高等専門学校についても、中学校卒業後の段階から5年一貫で教育が行われることを踏まえ、学生の発達の段階に応じたきめ細かいキャリア教育を段階的・継続的に実施していくとともに、幅広い職業意識の形成に着目した授業科目や、その他の様々な専門分野の教育の充実を促していきます。
 また、専門学校については、入学後の早い段階から、各職業の業務の実態や必要な能力について十分理解させ、学習に対する明確な目的意識を持たせた上で、個々の生徒が、当該分野における様々な職業の中から、自己の適性により合った職業を選択し、就職できるようにするため、一人一人に応じたキャリア形成支援を進めていくことが必要です。このため、文部科学省では、生涯にわたる職業生活を主体的に設計できる力を身に付けさせるよう教職員のスキル向上のための研修等の推進を図ることとしています。
 このほか、図表1-2-21のとおり、大学の卒業者の状況について学科別に見た場合、特に人文科学系や社会科学系の学科について「一時的な仕事に就いた者」や「進学や就職もしていない者」の比率が高くなっている状況が見られます。このようなことから、分野毎の進路の状況にも十分留意したきめ細やかな指導・相談を行っていくことが重要です。

図表1-2-21 大学(学部)の関係学科別の卒業者の状況

図表1-2-21 大学(学部)の関係学科別の卒業者の状況

3.職業教育の改善の方向性

 高等教育では、職業に必要な知識・技能の高度化・多様化や、企業内教育・訓練を前提とした従来の人材育成の在り方の変化、学生・生徒の社会・職業への移行の厳しい現状などが課題となっています。
 このような中、自立した職業人を育成し、社会・職業へ円滑に移行させることが重要となっており、職業教育の重要性を踏まえた高等教育の展開が必要です。
 また、各高等教育機関が、職業教育の観点から果たす役割・機能と養成する人材像・能力を明確にした上で、各機関の特性をいかした職業教育を充実することにより、高等教育機関全体として、多様な職業教育ニーズや、様々な職業・業種の人材需要にこたえていくことが重要です。
 さらに、教育界と産業界とが、産業や雇用の将来像や求められる人材像・能力を共有するとともに、人材育成のための協力体制を構築し、このような体制の下で、職業に必要な能力を育成する教育を充実させていくことが重要です。
 このようなことから、大学・短期大学については、各大学・短期大学の機能別分化の下、養成する人材像・能力を明確化した職業教育の充実や企業などと連携した実践的な教育の展開、職業に必要な能力の継続的な修得という生涯学習ニーズへの対応などが求められています。このようなことから、文部科学省では、各大学・短期大学が企業などと連携し実践的な教育の展開を図る事を目的として、課題解決型授業など、学生の社会的・職業的自立に向けた取組の支援を実施しています。
 また、高等専門学校については、地域の産業界との連携による先導的な職業教育の取組や、教育内容・教育方法の充実、地域・我が国全体のニーズを踏まえた新分野への展開のための教育組織の充実などを促していきます。
 さらに、専門学校については、就業者の職業能力の向上や離職者の学び直しなどの学習ニーズへ対応するため、多様な学習者のライフスタイルに即した教育環境の整備を図ることが求められています。これを踏まえ、文部科学省では「専修学校教育の振興方策等に関する調査研究協力者会議」により平成23年3月に取りまとめられた報告において、専修学校への通信制・単位制の導入にかかる制度設計試案を示しました。
 また、答申では、高等教育における職業教育の充実方策の一つとして、卓越した又は熟達した実務経験を基盤として実践的な知識・技術等を教授する「職業実践的な教育に特化した枠組み」の整備について、1.新たな学校種の創設、2.既存の高等教育機関における活用を念頭に、今後の詳細な検討の必要性が指摘されています。

ColumnNo.16 フランスと韓国にみる実践的高等教育

フランスの国旗の画像
「職業リサンス」
 フランスの大学には、実践的な高等教育を行う「職業リサンス」という課程が置かれています。これは、2年間の高等教育の課程を終えた者又はこれに相当する者(社会人を含む)を対象とした1年間の課程であり、修了時に学士号が授与されます。
 高等教育段階の実践的な教育としては、従来からリセ(高校)卒業後に進学する2年間の課程がありますが、1999年に学士と同等の課程として職業リサンスが創設されました。その背景の1つとして、技術職と管理職の中間に位置する職種が増加し、こうした職種において、より横断的な適応能力が求められるようになったことがあります。開設されている専攻分野は、農林水産業、工業をはじめ、商業・経営、衛生・福祉、情報・文化、サービス業など幅広いものとなっています。
 職業リサンスは、大学が企業や産業界と協同して設置しています。カリキュラムは実用・実践を重視し、授業の最低25パーセントは専門職業人である実務家が行うこととされています。また年間を通じて12~16週間の職業実習(スタージュ)が必修となっています。さらに、職業に関する専門知識・理論や外国語・情報処理等の一般教養、チューター付き課題学習も行われています。
 職業リサンスは基本的に就職を直接目的としている課程ですが、修了後、上級学位の課程に進学することも可能です。職業リサンスは、設置当初は約200課程でしたが、10年あまりで1,818課程に増え、年間の学位授与数は約3万8,000件(2008年)となっています。

韓国の国旗の画像
「専門学士」
 韓国では、実践的な高等教育を行う短期の高等教育機関として2~3年制の専門大学があり、修了すると「専門学士」が授与されます。専門大学は、日本の短期大学と専門学校が融合した機関と紹介されることもありますが、分野に応じて細分化された学部・学科により編制され、職業に直結する実用的で専門的な職業教育を実施しています。
 専門大学は1979年に創設され、2009年現在、全国に146校(うち私立は136校)設置されており、約76万人の学生が学んでいます。当初、高度経済成長に伴う専門的中堅人材の養成を目的に導入されました。単科の小規模校から、人文社会系・自然工学系まで幅広い分野の学科を備えた「総合型」の専門大学もあり、大規模校になると学生定員は6,000人を超えています。設置されている学科には、工学や経営・ビジネス分野のほか、看護・保健、デザイン系が比較的多くなっています。学生たちは、教養教育よりも実務教育に重きを置いたカリキュラムで学び、職業関連の各種資格を取得できるだけでなく、卒業すれば専門学士の学位を取得することができ、4年制大学への3年次編入学も可能です。就職率は4年制大学よりも高く、特にソウルの「名門」専門大学の中には、入試の競争率が4年制大学より高くなる人気校も存在します。また、企業からの委託を受けて従業員の研修を実施する「企業委託教育」が盛んに行われており、人材の再訓練・教育機関としての側面も期待されています。
 このように韓国に根づいた専門大学も、近年は少子化の影響もあり、学生募集に困難をきたしているところもあります。また政府は「選択と集中」により、就職率や産学連携などにおいて優秀な専門大学に対する財政支援をより一層強める方針を示しており、各専門大学は、運営の改善に向けて更なる取組が求められています。

(4)キャリア教育・職業教育の充実のための関係機関等との連携における課題と改善の方向性

 キャリア教育・職業教育を十分に展開するためには、学校、家庭、地域・社会、企業、経済団体・職能団体、NPOなどが連携することにより、互いにそれぞれの役割を認識しつつ、一体となった取組を進めることが重要です。

1.地域・社会、産業界等との連携

 地域・社会、産業界等との連携については、例えば、図表1-2-22、図表1-2-23のとおり、職場体験活動や就業体験活動に関し、学校からは「受入先の確保が困難」という課題が多く挙げられる一方、図表1-2-24のとおり、企業からは教育支援活動を行わない理由として「学校側から企業への支援要望がない」ことが最も多く挙げられるなど、学校とこれらの者との連携のための調整(コーディネート)に課題が見られます。
 このような課題に対処するため、PTA、校長会、自治会、経済団体・職能団体、NPOなどの協力を得て協議会を設置するなど、地域の学校と地域・社会や産業界との効果的な連携が行われており、このような取組がより多くの地域において構築されていくことが必要です。

図表1-2-22 中学校における職場体験活動の課題

図表1-2-22 中学校における職場体験活動の課題

図表1-2-23 高等学校において就業体験活動を実施しない理由

図表1-2-23 高等学校において就業体験活動を実施しない理由

図表1-2-24 企業が教育支援活動を行わない理由

図表1-2-24 企業が教育支援活動を行わない理由

 また、このような連携をより効果的なものとするためには、学校や教育委員会などに専門の教職員を配置したり、上記の協議会に担当職員を配置したりするなど、連携を図る人材の配置を行っていくことが考えられます。
 このような協議会の設置や人材の配置を含め、文部科学省では、平成23年1月より、キャリア教育に関して外部人材を導入するに当たっての学校・教育委員会における態勢づくりや活用方策について議論を行っており、同年7月に中間取りまとめを公表しました(※5)。

2.家庭・保護者との連携

 家庭は、子どもの成長・発達を支え、自立を促す重要な場であり、働くことに対する保護者の考え方は、子どものキャリア発達に大きな影響を与えます。このため、家庭における保護者の働きかけは極めて重要です。
 学校は、キャリア教育を進めるに当たり、家庭・保護者の役割やその影響の大きさを考慮し、共通理解を図ることが重要です。その際、図表1-2-25のとおり、保護者が子どもの進路や職業に関する情報を必ずしも十分に得られていない状況にあることなどを踏まえ、学校は、就職や進学をめぐる様々な環境の変化を踏まえつつ、現実に即した情報を提供することが必要です。
 また、保護者が学校の取組を理解し、学校と一体となって子どもの成長・発達を支えていくことが重要です。学校から保護者に積極的に働きかけるとともに、保護者が自らの社会人・職業人としての経験等を生かして学校の活動に協力することが期待されます。


※5 キャリア教育に関する外部人材活用等に関する調査研究協力者会議中間取りまとめ(「キャリア教育における外部人材活用等に関する調査研究協力者会議」中間取りまとめについて

図表1-2-25 高等学校のキャリア教育・進路指導に対する保護者の要望

図表1-2-25 高等学校のキャリア教育・進路指導に対する保護者の要望

Column No.17 キャリア教育に関する文部科学大臣表彰

 文部科学省では、キャリア教育の充実に関する取組の促進を目的として、キャリア教育の充実・発展に尽力し、顕著な功績が認められる教育委員会、学校、企業、PTA団体などに対し、文部科学大臣表彰を実施しています。
 平成22年度は、キャリア教育の充実に顕著な功績が認められる学校(小・中・高等学校75校)、教育委員会(12団体)、企業・PTA団体など(25団体)の合計112団体に対して表彰を実施し、23年1月に開催した「キャリア教育推進フォーラム」において、表彰式を行いました。
(表彰校などの一覧:(別添2)平成22年度キャリア教育優良教育委員会・学校、企業及びPTA団体等文部科学大臣表彰被表彰校等

ColumnNo.17 キャリア教育に関する文部科学大臣表彰

Column No.18 キャリア教育に関する手引き・パンフレット

 文部科学省・国立教育政策研究所では、各学校・教育委員会におけるキャリア教育の充実に資することを目的として、手引き・パンフレットを作成しています。
 各資料については、ホームページからダウンロードすることができます。
◆パンフレット

◆手引き

ColumnNo.18 キャリア教育に関する手引き・パンフレット

3 生涯学習の観点に立ったキャリア形成支援の充実

 本節1(3)で見たように、職業に従事するためには、必要な専門的な知識・技能を身に付けることが不可欠ですが、そのための学習は、職業生活へ移行した後も継続して、生涯にわたり行われるものです。
 また、生涯にわたる多様な学びは、一人一人が充実した人生を切り開く源泉であるとともに、我が国が直面する大きな変化や様々な課題に対応し、活力ある社会経済を築くための鍵となるものです。
 このため、人々が生涯にわたり職業に関する学習を行い、キャリア形成を図っていくことができる環境を充実していくことが重要です。

(1)社会・職業へ移行した後の学習者、中途退学者や無業者等に対する支援

1.社会・職業へ移行した後の学習者に対する支援

 社会・職業へ移行した後の学習としては、既に職業に就いている者が職業上求められる専門性を身に付け向上させるための学習のほか、これまでと異なるキャリアを選択するために新しい専門性を身に付けるための学習や、出産・子育てなどにより一定期間就業を中断した後に、職業に復帰するために必要な学習など、様々な学習ニーズが考えられます。
 また、労働市場の流動性が高まる中、学びたい者がいつでも学ぶことができ、必要な知識・技能の修得により、職業生活の維持・向上や新たな就業が可能となることが重要です。
 このため、学習者のニーズや地域・社会の要請に応じ、多様な場や機会を通じて、多様な教育プログラムが提供されることが期待されます。
 これまで、各高等教育機関を中心に、正規課程への入学や、科目等履修生、短期の教育プログラムへの参加、公開講座への参加などの取組が進められています。
 正規課程への入学については、第1節2でも触れたように、図表1-2-12のとおり、大学入学者のうち25歳以上の者の割合は、OECD平均では約21パーセントであるのに対し、我が国では約2パーセントにとどまっています。また、図1-2-26~図1-2-29のとおり、大学・大学院における社会人の入学者数はほぼ横ばいとなっています。その背景には、職業生活と学習の両立のための費用・学習時間の確保や、提供されている教育プログラムの内容、企業等の理解などに課題があると考えられます。
 今後、社会の成長や経済の活性化を支える知的資本として、成人層の能力を向上させるための学習機会を充実していくことは非常に重要な課題であり、各高等教育機関においては、社会人の多様な学習ニーズに応える教育プログラムの提供や、夜間・休日における授業の開講、情報通信技術を活用した授業の提供など社会人が学びやすい学習環境の整備に向けた取組が広く行われることが期待されます。
 また、企業等においても、従業員の生涯学習がより円滑に進むような取組が期待されます。

図表1-2-26 社会人入学者数の推移(大学院)

図表1-2-26 社会人入学者数の推移(大学院)

図表1-2-27 社会人入学者数の推移(大学学部)

図表1-2-27 社会人入学者数の推移(大学学部)

図表1-2-28 社会人入学者数の推移(短期大学)

図表1-2-28 社会人入学者数の推移(短期大学)

図表1-2-29 社会人受入れ状況の推移(専修学校)

図表1-2-29 社会人受入れ状況の推移(専修学校)

Column No.19 いわてアグリフロンティアスクールにおけるアグリプロ養成のための教育プログラム(岩手大学)

 岩手大学農学部において、平成19年度より岩手県、岩手県担い手育成総合支援協議会と連携し、経営力とビジネス感覚に優れ、また地域農業の確立に取り組むことができるアグリプロを養成すべく、認定農業者または認定農業者を志向する農業者、県・市町村・農業団体等の農業関係者、農業への新規参入希望者を対象にいわてアグリフロンティアスクール(IAFS)を開設し、19~22年度に20代~70代の338名の方が入学されました。
 IAFSの教育体系は、経営力を養成する「アグリキャリア・コース」、先端技術力を養成する「アグリフロンティア・コース」、マーケティング力を養成する「マーケティングイノベーション・コース」の3つのコースと、戦略計画を策定する「ビジネスプランニング・ステップ」で構成され、講義、実習・演習、現地調査などの教育スタイルを採用し、実施しています。
 IAFSの大きな特徴として、本教育プログラムの3つのコースを修了し、修了論文を作成し、最終試験に合格した者に『アグリ管理士』の資格を授与しており、平成19~22年度に109名の方へ『アグリ管理士』の資格を授与しました。
 『アグリ管理士』を取得した受講生は、IAFSで学んだことを活かし、新規作物の導入や加工販売を決意し米に頼らない農業の展開、産直経営による販路拡大、各種委員会の委員や農業農村の指導を任されるなど、地域農業の推進に向けて一層の活躍が期待されています。

ColumnNo.19 いわてアグリフロンティアスクールにおけるアグリプロ養成のための教育プログラム(岩手大学) ColumnNo.19 いわてアグリフロンティアスクールにおけるアグリプロ養成のための教育プログラム(岩手大学)

Column No.20 一時職を離れた美容師を対象にした再就職に向けた特別講座(高崎ビューティモード専門学校)

ColumnNo.20 一時職を離れた美容師を対象にした再就職に向けた特別講座(高崎ビューティモード専門学校)

 高崎ビューティモード専門学校では、出産、子育てなどにより一時職を離れた美容師に対して、再就職に向けた特別講座を実施しています。一時職を離れた者の現場復帰を阻んでいる要因としては、1.一定期間職を離れたことによる技術力低下に対する不安、2.求人や研修などの情報不足、3.労働環境・雇用条件への不安、などが挙げられます。本講座はこれらの問題を解決し、彼らの再就職を支援します。
 本講座は、4ヶ月の受講期間で、「技術指導講座」(必須講座30時間+希望講座)と「就職指導講座」(必須講座24時間)から構成されます。
 「技術指導講座」では、現場に精通した経験豊富な教員が、カット・パーマ・ヘアカラー・メイクアップ・ネイルの技術指導を行い、受講生に「今」の現場で求められる実践的な技術・技能を修得させます。
 「就職指導講座」では、就職対策担当教員によるキャリアカウンセリングを基本として、自己分析の実施によりアピールポイントや志望動機を構築させるとともに、ビジネスコミュニケーションスキル修得のための指導や、面接対策などを行います。
 また、受講生に対して求人情報などの情報提供を行い、労働環境や雇用条件等に関する不安の解消にも努めます。
 本講座のプログラムは、受講生の現在のスキルと「今」の現場で必要とされる能力とのギャップに焦点を当て、技術・知識のブラッシュアップとリニューアルを図ることを目的とするため、美容院など関連企業と連携しつつ、カリキュラムを開発しています。
 受講生の個性を重視し、一人ひとりをキメ細かくサポートすることにより、平成22年度には、本講座を受講した22名中、18名が美容師として再就職しています。

2.中途退学者や無業者等に対する支援

1.とともに、キャリア形成の支援を必要とする者としては、中途退学者や無業者など学校から社会・職業への移行が円滑に行われなかった者や、早期離職などにより職業生活からいったん離れてしまった者が考えられます。
 このような者は、平成19年度から22年度の各種調査からは、図1-2-30のとおり、その後、進学や就職をする者も含め、前期中等教育段階から約2万人、後期中等教育段階から約24万人、高等教育段階から約41万人存在するものと推計されます。
 また、図表1-2-14で見たように、中途退学などにより学校教育を離れてしまった者については、未就業の状態が長期化したり非正規雇用の職に就いている場合が多く、社会的・職業的自立に困難を抱えている状況にあると考えられます。
 これらを踏まえると、人生の中でいつでも仕事に就くことに挑戦できるような社会的な仕組みが必要と考えられます。このため、企業や行政機関において、このような者の就職につながるような取組を進めていくことが求められますが、学校についても、仕事に就くために必要な教育プログラムを提供したり、進路相談に応じたりするなど、期待される役割は大きいと考えられます。
 高等学校では、中途退学者のその後の実態把握に努めるとともに、適切なカウンセリングなどの追指導を行い、このような者にできる限りのキャリア形成支援を行うことが必要です。
 高等教育機関では、保有する教育資源を活用し、様々な理由により定職・学籍を持たない若年者を対象とした教育プログラムの提供や就職支援の取組の充実が必要です。
 専修学校では、公共職業訓練とも連携し、無業者などに向けて、職業的自立のための基礎的な技能を身に付けさせる講座を開設するなど、無業者などの自立を支援していく上での役割を果たしてきており、このような役割の発揮が今後も期待されます。
 また、学校や教育委員会などの教育関係機関は、子ども・若者育成支援推進法の成立など、社会全体で若者の自立を支援していこうとする動きも踏まえつつ、労働関係部局や公共職業安定所(ハローワーク)、地域若者サポートステーションなどの若者の社会的・職業的自立を支援する機関などとの連携を図り、社会的・職業的自立への総合的な支援を推進することが必要です。

図表1-2-30 各学校段階における卒業者・中途退学者の状況(一部推計)

図表1-2-30 各学校段階における卒業者・中途退学者の状況(一部推計)

Column No.21 学校からの切れ目のない支援をめざして(高知県「若者はばたけネット」)

高校中退時の進路未定者の個人情報票の流れ

高校中退時の進路未定者の個人情報票の流れ

 生徒が進路未定のまま学校から離れてしまうと、所属を失うことで次の進路を獲得するために必要な情報を入手することが困難になることがあります。そのため、ニートやひきこもり状態に陥りやすく、学校もそのような状況を把握できていないのが現状です。だからこそ、学校教育から切れ目なく継続した支援を行う必要があります。
 そこで、高知県では、中学校卒業時や高校中途退学時の進路未定者など支援を必要とする生徒の個人情報を、県立学校や市町村教育委員会から県教育委員会に提出し、その情報を県教育委員会から地域若者サポートステーション(サポステ)に提供する仕組みを構築し、サポステが本人・保護者に対して就学や就労に向けた支援を行うことにつなげています。なお、サポステが支援を始める前には、教育委員会とサポステの担当者が学校を訪問し、学校と連携した支援の方法を検討し、切れ目のない支援をより確実なものになるよう努めています。
 また、サポステでは、効果的な支援を行うために、利用開始から進路決定までの期間を6ヶ月以内に目標設定し、さらにこの期間のレベルを3段階に分けたスタンダードな支援プログラムを作成しています。このプログラムの実施により、平成22年度では、登録後6ヶ月の利用者のレベル向上率が82.7パーセント(21年度:35.6パーセント)、進路決定率が57.7パーセント(21年度:10.5パーセント)になるなど、支援の効果が出ています。

(2)職業に関する生涯にわたる学習を支える基盤の形成

 職業に関する学習が生涯にわたり行われるようになるためには、その基盤として、それぞれの職業に必要な能力と、これを修得するための教育プログラムの質が保証・明確化され、相互の関係が体系化・明確化されていることが必要です。
 諸外国においては、例えば英国のNVQ(NationalVocationalQualification)のように、様々な分野の職業に必要な能力を段階的に構築する動きが広がりつつあります。
 このような中、平成22年6月18日に閣議決定された「新成長戦略~『元気な日本』復活のシナリオ~」では、新たな成長分野を中心とした「キャリア段位」の導入・普及(日本版NVQの創設)と、専門学校・大学等との連携による学習プログラムの構築を図るとされました。
 このため、現在、政府は有識者からなる「実践キャリア・アップ戦略専門タスク・フォース」を設け、実践キャリア・アップ制度の「第一次プラン対象業種」として、「介護人材」「省エネ・温室効果ガス削減等人材(カーボンマネジメント人材)」「6次産業化人材」の3つを決定し、平成23年5月、「実践キャリア・アップ戦略基本方針」を取りまとめました。
 この基本方針においては、今後雇用を創出していく期待がかかる成長分野を対象領域とし、実践的な職業能力の評価・認定制度(キャリア段位制度)を構築するとともに、それに基づく育成プログラムの整備や労働移動の円滑な仕組みづくりを含めた全体を、「実践キャリア・アップ戦略」として一体的、総合的に整備・推進していくこととしています。

第3節 新卒者に対する就職支援

1 新卒者の就職状況を受けた関係各界の取組

 図表1-2-2で見たように、我が国の雇用情勢、特に大学・高等学校の新卒者の就職環境は非常に厳しい状況にあります。
 このような中、政府、産業界などの関係各界は、様々な取組を行っています。

(1)政府の取組

 政府では、平成22年8月、厳しい雇用情勢を踏まえ、政府横断的な取組をより強力に推進するため、内閣総理大臣の指示に基づき、「新卒者雇用・特命チーム」を設置し、大学におけるキャリアカウンセラーやジョブサポーターを増員すること、ハローワーク・地方公共団体・労働界・産業界・学校等の関係者を構成員とする「新卒者就職応援本部」をすべての都道府県労働局に設置することなどを内容とする「新卒者雇用に関する緊急対策」をまとめました。これを受けて、22年9月には、「新卒者雇用に関する緊急対策」の内容を盛り込んだ「新成長戦略実現に向けた3段構えの経済対策」を閣議決定しました。また、「新卒者雇用・特命チーム」は、23年1月、大学・高等学校等が、新卒応援ハローワーク等での支援を希望する就職未内定者を把握し、新卒応援ハローワークのジョブサポーターと情報共有することなどにより、大学・高等学校等のキャリアカウンセラーとジョブサポーターが一体となって、未内定者に対する就職支援を集中的に行うことなどを内容とする「卒業前最後の集中支援」の実施を決定しました。
 こうした中、文部科学省では、大学については、「大学教育・学生支援推進事業」により、キャリアカウンセラーを配置し、学生の個々の能力や適性に応じたきめ細やかな就職相談を行うなど、就職支援体制を強化する取組を支援しています。また、「大学生の就業力育成支援事業」により、産業界との連携による課題解決型授業など、学生の卒業後の社会的・職業的自立に向けた優れた取組を支援しています。
 高等学校については、都道府県教育委員会などに対し、厚生労働省の「緊急雇用創出事業」により造成された基金の活用などによる、キャリアカウンセラー等の積極的な配置や専門高校等における実習補助員の雇用を要請しました。また、高等学校とハローワーク・ジョブサポーターとの連携を一層強化することについても促しています。
 上記のような新卒者に対する就職支援などを行うほか、産業界に対しては、平成22年10月と23年2月に、文部科学大臣・厚生労働大臣・経済産業大臣の連名による「新規学校卒業予定者等の採用に関する要請書」を主要経済団体等に対して送付し、1.採用枠の拡大と追加求人の提出、2.卒業後3年以内の既卒者の新卒枠での応募受付、3.早期からの採用活動の是正(学事日程に配慮した採用活動の実施)についての協力を要請しました。また、22年11月には、大学等の就職採用活動の改善につなげることを目的として、「新卒者等の就職採用活動に関する懇話会」を開催し、大学や産業界を交えて学生を取り巻く雇用問題などについて意見交換を行いました。
 なお、東日本大震災の発生によって被災した学生・生徒等の就職環境や、新卒者の雇用の悪化を防止するための対応を行っています(参照:「東日本大震災への対応について」第2節3(3))。

(2)大学、産業界その他関係者の取組

 大学では、平成23年度(24年3月)卒業予定の学生の就職・採用活動について、国公私立大学などの代表者で構成される「就職問題懇談会」が申し合わせを行い、企業側の協力を求めるなどの取組を行っています(参照:第2部第3章第5節)。また、大学等が教育課程の内外を通じて社会的・職業的自立に向けた指導に取り組むための体制の整備を内容とする22年2月の大学設置基準等の改正や、上述のような政府の取組を受け、各大学では学生の就業力の育成に関する取組が進められています。
 さらに、日本学術会議では、平成22年7月に、文部科学省からの審議依頼に対する回答の中で、大学教育の職業的意義の向上や就職活動の在り方の見直しなどを内容とする「大学と職業との接続の在り方について」の提言を行いました。
 産業界では、上述の政府の要請や大学等におけるこれらの動向を踏まえ、厳しい経済情勢の中でも、我が国の将来にわたる競争力の維持・強化のために、一人でも多くの新卒者が採用されるよう、採用枠の拡大や追加求人の提出などの取組が進められています。
 また、学事日程を配慮した採用活動の実施については、平成22年11月に日本貿易会により、新卒者採用に関する広報活動は、卒業・修了学年に入る前の春期休暇(2~3月頃)以降とすること、卒業後3年以内の未就職卒業者は、新卒枠で受け付けることなどを内容とする提言が出された以降も、各経済団体などにおいて、採用活動の改善に向けた様々な提言がなされています。例えば、日本経済団体連合会は、23年1月、「大学卒業予定者・大学院修士課程修了予定者等の採用選考に関する企業の倫理憲章」において、25年度入社からの新卒者採用活動に関し、広報活動の開始は、卒業・修了学年に入る前の12月1日以降とし、選考活動の開始は、卒業・修了学年の4月1日以降とすること、通年採用や夏期・秋期採用等の実施、既卒者への採用選考機会の提供などを内容とした見直しを発表しました。
 また、新卒者雇用の問題は、企業、大学、学生等多くの関係者がいることから、これらの関係者が協同し、問題の解決に向けた検討を行うことは極めて重要です。こうしたことから、大学側、企業側団体、労働団体及び関係府省が参加して就職・採用活動等について意見交換を行う場として「新卒者等の就職採用活動に関する懇話会」を設けるとともに(参照:第2部第3章第5節)、学生、企業、大学等の関係者の主催で「就職活動」に関する熟議が全国で開催され、文部科学省からも鈴木文部科学副大臣等が参加しました。

Column No.22 Empoweryourfuture!当事者就活熟議(熟議全般については第2部第1章Topicを参照)

 就職活動(「就活」)をめぐっては、「就活におけるミスマッチ」、「就活の早期化」、「企業の求める人材と大学教育の在り方」等、様々な課題が指摘されています。また、上記のとおり平成23年1月に答申が取りまとめられる等、様々な対策が検討されています。
 一方で、就活をめぐる問題は、学生、企業、学校、保護者、地域等、多くの当事者が複雑に関わっており、その解決のためには、多くの当事者が知恵を結集し、これからの就活の姿を描いていくことが不可欠です。
 そのような考えのもと、学生や大学が主催者となった、就活をめぐる「リアル熟議」が、これまで多数開催されてきました。また、そうした実践を受け、文部科学省が旗振り役となり、関係当事者とともに以下の取組を行いました。

  1. 就活熟議キックオフ座談会(平成23年3月1日)
     企業経営者、「リアル熟議」を主催してきた学生、鈴木文部科学副大臣等が就活問題を本音で語り、「企業」「学生」「学校」「行政」がそれぞれ何をなすべきかを熟議しました。(写真参照)
  2. 「就活」トークライブ(平成23年3月8日)
     就職支援に積極的に取り組んでいる大学、就職先として人気の高い総合商社、独自の高い技術を持つ中小企業と鈴木文部科学副大臣が対談し、それぞれの立場から就活をめぐる諸問題の解決に向けてメッセージを発信しました。
  3. 就活アンケート(平成23年3月3日~3月31日)
     「経済産業省アイディアボックス」において、就活に関するアンケートを実施し、学生・企業・学校・保護者等の幅広い当事者に就活に対する「本音」をうかがい、学生、企業等の属性ごとにクロス集計等も行いながら、各当事者の考えの傾向や、当事者間の認識のギャップ等の確認を図りました。
  4. 熟議カケアイ(平成23年3月3日~3月31日)
     上記アンケートと併行して、文部科学省「熟議カケアイ」サイト上で、これまでに就活に関するリアル熟議に参加した方々に限定した熟議を行い、企業、大学、学生等の当事者による具体的な行動・協働を支援・促進しました。

ColumnNo.22 Empoweryourfuture!当事者就活熟議(熟議全般については第2部第1章Topicを参照)

2 企業の求人と新卒者とのマッチングの機会の拡大に向けて

 新卒者の就職をめぐる課題として、企業の求人と新卒者のミスマッチが指摘されています。
 ここでは、大卒者の「従業員規模別」「業種別」の求人倍率や、中小企業の採用活動、若者の失業理由に関するデータなどから、新卒者と職業のミスマッチをめぐる課題と背景について見るとともに、企業の求人と新卒者とのマッチングの機会の拡大に向けた取組の方向性について考えます。

(1)企業の求人と大学等の新卒者のミスマッチ

 大卒者の「従業員規模別」の求人倍率については、図表1-2-31にあるとおり、2012年3月卒業予定者に関し、従業員規模「300人未満」の区分では3.35倍と高い倍率になっています。その一方、「300~999人」「1,000~4,999人」「5,000人以上」の3区分では、いずれも1倍を切っています。
 このようなことからいわゆる規模のミスマッチが生じていることが指摘されています。

図表1-2-31「従業員規模別」求人倍率の推移(大卒)
  2010年3月卒 2011年3月卒 2012年3月卒
300人未満 8.43倍 4.41倍 3.35倍
300 ~ 999人 1.51倍 1.00倍 0.97倍
1,000人~ 4,999人 0.66倍 0.63倍 0.74倍
5,000人以上 0.38倍 0.47倍 0.49倍
全体の平均倍率 1.62倍 1.28倍 1.23倍

(出典)リクルートワークス研究所「第28回ワークス大卒求人倍率調査(2012年卒)」

 この背景としては、一般的に、学生の大企業志向が強いことが指摘されますが、図表1-2-32のとおり、大学生・大学院生の就職先の企業規模に関する志向について、大企業志向が弱まりつつあるという調査結果もあり、必ずしも多くの学生が大企業志向にあるとは言えない状況になりつつあります。

図表1-2-32 大学生・大学院生の就職先の企業規模に関する志向

 図表1-2-32 大学生・大学院生の就職先の企業規模に関する志向

 このような状況の中、中小企業と学生のミスマッチの原因としてどのようなことが考えられるでしょうか。
 情報化が進展し、インターネットやパソコンが幅広く普及している現在、企業の求人活動は変化してきており、図表1-2-33のとおり、大企業の場合、人材を採用するに当たり利用を考えている手段について、「就職ポータルサイトの利用」(約71パーセント)と「自社ホームページを作成」(約67パーセント)が高い割合となっています。他方、学生が就職活動において利用した情報源としては、インターネットの企業ホームページや就活関連サイトの割合が近年高まっており、平成22年度で8割を超えています(※6)。このため、多くの学生が、大企業のこれらの情報にアクセスし、必要な情報を入手するとともに、求人に応募することが可能となっていることがうかがえます。
 一方、中小企業の場合は、人材を採用するに当たり利用を考えている手段について、「ハローワークへの求人」(約75パーセント)が多い一方で、「就職ポータルサイトの利用」(約14パーセント)と「自社ホームページを作成」(約22パーセント)が低い割合となっています。このため、学生は、中小企業の採用情報にアクセスしにくく、必要な情報を十分に入手できず、求人への応募が難しい状況にあることがうかがえます。
 また、「教育機関との連携」について、大企業は約47パーセントとなっているのに対し、中小企業は約21パーセントとなっており、中小企業の場合、各企業の採用者数の少なさや企業数の多さなどのために、組織的に教育機関との連携を図ることが難しい状況にあることがうかがえます。
 このような、大企業と中小企業の採用情報の提供方法の違いが、上記のミスマッチの一因になっていることが考えられます。


※6(出典)日本生産性本部「働くことの意識」調査(2010年)

図表1-2-33 人材を採用するにあたり利用を考えている手段

 図表1-2-33 人材を採用するにあたり利用を考えている手段

 また、人材が不足した場合の採用については、図表1-2-34のとおり、大企業の場合、「経験者を中途採用」(約82パーセント)と並び、「新規学卒者の採用」(約82パーセント)が高い割合となっていますが、中小企業の場合、「経験者を中途採用」(約70パーセント)と比べ、「新規学卒者の採用」(約32パーセント)が低い割合となっており、すべての中小企業が新卒者の採用を重視しているわけではない状況にも留意が必要です。

図表1-2-34 人材の不足分を補うために採用・活用を考えている人材

図表1-2-34 人材の不足分を補うために採用・活用を考えている人材

 このように、中小企業と学生のミスマッチの背景としては、学生の大企業志向も一因と考えられますが、学生が、中小企業への就職に関する情報を、大企業と同じ程度には入手できていないという問題があることや、中小企業は大企業とは異なる人材の採用・確保の方法をとっていることも考えられます。
 このほか、大卒者の「業種別」の求人倍率については、図表1-2-35にあるとおり、業種間で大きな差があり、採用意欲の高い業種と学生が希望する業種との間のミスマッチが生じていることが考えられます。

図表1-2-35 業種別求人倍率の推移(大卒)

図表1-2-35 業種別求人倍率の推移(大卒)

 さらに、図表1-2-36にあるとおり、失業している若者が仕事につけない理由としては、「希望する職種・内容の仕事がない」が最も高くなっており、若者の仕事内容に対する希望と需要のミスマッチが生じてていることが考えられます。

図表1-2-36 若者の希望と需要のミスマッチ状況(平成21年平均)

図表1-2-36 若者の希望と需要のミスマッチ状況(平成21年平均)

(2)企業の求人と新卒者とのマッチングの機会の拡大に向けた取組の方向性

1.就職を希望する大学等の新卒者への情報提供

 以上を踏まえると、大学等の新卒者の就職に関し、中小企業や特定の業種の中には、労働者が不足し、新卒者の採用意欲が高い業種や企業もあることから、企業の求人と大学等の新卒者とのマッチングの機会の拡大のためには、就職を希望する学生やキャリアカウンセリング・就職支援を行う者が、どのような企業や産業・職種が新卒者の採用可能性が高いかを検討する上で必要な情報を入手しやすくすることが重要であると考えられます。
 特に中小企業については、図表1-2-33で見たように、採用の手段として就職ポータルサイトの利用や自社ホームページの作成を行うことが少ないことから、新卒者採用を思うように進められない状況にあることがうかがえます。
 現在、政府では、インターネットを活用した学生と中小企業との面談設定や、中小企業を中心とした合同説明会の開催などの取組を推進しています。また、地方公共団体においても、地域の中小企業による合同説明会を開催するなどの取組も見られます。
 さらに、政府では、大学等の3年以内の既卒者を有期雇用での育成を経て、正規雇用に移行させた事業者に対してトライアル雇用奨励金を支給したり、大学等の既卒者等に対して、採用意欲のある中小企業における長期の職場実習(いわゆるインターンシップ)の機会を提供しています。さらに、ジョブサポーターをハローワーク等に配置し、大学等と連携しながら中小企業と新卒者等のマッチングに集中的に取り組ませるなどしています。
 企業の求人と大学等の新卒者とのマッチングの機会の拡大には、就職を希望する学生への適切な情報提供をはじめとした、きめ細かな支援が必要であり、このような取組が推進されるような環境を、学校・産業界・政府が一体となって構築していくことが期待されます。
 また、留学生の受入れが進む中、優秀な人材を確保することなどを目的として、留学生を採用する企業もあります。留学生の就職支援については、日本学生支援機構が「外国人留学生のための就活ガイド」を作成するなど、我が国での就職活動に関する情報提供が行われています。

2.産業や地域との密接な関連の下での教育活動の実施

 企業の求人と新卒者とのマッチングの機会を拡大するためには、情報提供を行うだけではなく、職業で求められる力と教育により育成する力のマッチングを図ることが必要です。
 しかし、職業で求められる力は、それぞれの職業により異なります。また、その力は、時代によって変化するものであり、産業構造や就業構造が大きく変化する中、これからも刻々と変化し続けていくものと考えられます。さらに、地域によって、産業や雇用の状況、人材需要などは異なります。
 このため、学校は、産業や地域との結び付きを強化することにより、産業や地域でどのような力を持った人材が求められているのかを把握し、「学校から社会・職業への移行」が行われた後までを見通して、学校教育において身に付けるべき力を見定めつつ、教育活動を行っていくことが必要です。その際、地域や企業との密接な連携の下、教育課程の編成・改善や職業実践的な教育活動の実施、実務に卓越した者の教育活動への参画などに重点を置いた職業教育を行っていくことが必要です。
 なお、職業で求められる力は、それぞれの職業により異なることや、今後も社会が変化し続けていくことを踏まえると、特定の職業で求められる力だけではなく、第2節2(1)で述べた基礎的・汎用的能力の育成に重点を置くことも重要です。このため、職業教育だけではなく、幼児期の教育から高等教育に至るまでの体系的なキャリア教育の推進を図っていくことが必要です。

お問合せ先

生涯学習政策局政策課政策審議第二係

-- 登録:平成23年11月 --