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第5章 科学技術・学術政策の総合的推進

Topic 1 次世代スーパーコンピュータ計画から革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラの構築へ

 現在,スーパーコンピュータは,ナノテクノロジー,ライフサイエンス,ものづくりといった幅広い分野の研究開発の基盤となっており,世界的にもスーパーコンピュータの優劣が最先端の科学技術成果に直結する状況です。まさに我が国が科学技術創造立国を実現するために,欠かすことのできない研究インフラと言えます。
 このようなことから,文部科学省では平成18年より,世界に先駆けて10ペタフロップス(1秒間に1京回の計算性能)級のスーパーコンピュータを開発し,世界スーパーコンピュータ性能ランキングで第1位を獲得することなどを目標とした次世代スーパーコンピュータプロジェクトを推進してきました。一方,21年11月に行われた行政刷新会議の事業仕分けでは,このプロジェクトについて,「世界一の頂のみを目指す時代ではない」「スーパーコンピュータの国家戦略を再構築すべき。現状はスーパーコンピュータの巨艦巨砲主義に陥っていないか」といった指摘がなされ,「来年度の予算計上の見送りに限りなく近い縮減」と評価されました。これに対し,科学界や産業界等から多くの提言や声明が出され,様々な議論が起こりました。また,文部科学省にも約2,200件もの多くの意見が寄せられました。
 これらを踏まえ,文部科学省においては,プロジェクトの根本的な見直しを行い,開発側の視点から利用者側の視点へ転換するとともに,多様なユーザーニーズに応える「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(革新的HPCI)」を構築する計画に進化・発展させることとしました。また,併せて,世界スーパーコンピュータ性能ランキングでの第1位獲得にはこだわらないこととし,開発を加速するために要求していた110億円(平成22年度,23年度合計)を縮減しました。新しい計画では,世界一位にこだわることなく,常にトップグループ,世界一位の座を狙える位置に居続けることを目指しつつ,次世代スーパーコンピュータを国内の様々なスーパーコンピュータとネットワークで結び,多くのユーザーが利用でき,データの共有や共同分析などを可能とするインフラを構築することとしています。
 文部科学省は,この新しい計画の理解増進のため,説明会等の開催を通じ,分かりやすく説明していくこととしています。

革新的HPCIイメージ図
革新的HPCIイメージ図

次世代スーパーコンピュータのプロトタイプ(提供:富士通株式会社)

次世代スーパーコンピュータのプロトタイプ
(提供:富士通株式会社)

Topic 2 H‐ⅡBロケットによる宇宙ステーション補給機(HTV)打上げ成功・国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送成功

 平成21年9月11日,H‐ⅡBロケット試験機による宇宙ステーション補給機(HTV)技術実証機の打上げに成功しました。打ち上げられたHTVは,9月18日に国際宇宙ステーション(ISS)との結合に成功し,物資補給や実験装置の設置等を完了しました。その後,11月2日にISSからの廃棄品を積み込み,大気圏に再突入を行い,1カ月半以上におよぶミッションを完了しました。

 H‐ⅡBロケット(※1)は,官民共同で開発された大型の基幹ロケットであり,これまで打上げ実績を重ねてきたH‐ⅡAロケットをベースとすることにより,信頼性の維持・向上と開発リスク及びコストの低減を図り,更なる国際競争力強化に貢献することを目的としています。また,HTVは,ISSに滞在する宇宙飛行士やISSの維持に必要な物資,実験装置を輸送する我が国初の宇宙輸送機です。これまでISSに大型の装置等を輸送してきたスペースシャトルは,平成22年に退役する予定となっており,その後,大型の装置等を輸送できる手段はHTVのみとなる見込みです。このためHTVはISS計画にとって重要な役割を担うものとして国際的にも高い評価を受けています。さらに21年10月には,HTVの開発により得たISSに安全に近づくための通信装置(近傍接近システム)が,米国で開発中の無人宇宙輸送機の根幹部分に採用されるなど,産業界と培ってきた技術開発の成果は着実に実を結びつつあります。

 今回,大型のH‐ⅡBロケットの打上げに成功したことは,我が国の宇宙開発利用が世界に伍して着実な進歩を遂げてきていることの証です。これからもH‐ⅡBロケットが従来のH‐ⅡAロケットと並ぶ我が国の基幹ロケットとして共に活躍していくことを目指していきます。また,HTVについても,開発や運用を通じて我が国が国際貢献を果たすとともに,世界をリードし,将来に繋がる宇宙輸送技術を獲得することを目指していきます。

H‐ⅡBロケット試験機の打上げ(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

H‐ⅡBロケット試験機の打上げ
(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

ISSに接近するHTV(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA)/米国航空宇宙局(NASA))

ISSに接近するHTV(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA)/米国航空宇宙局(NASA))


※1 H‐ⅡBロケット
 官民共同で開発された大型の基幹ロケットであり,これまで打上げ実績を重ねてきたH‐2.Aロケットをベースとし,信頼性の維持・向上,開発リスク及びコスト低減を図っている。

Topic 3 新「しらせ」,はじめての南極航海に挑む

1.新「しらせ」,4年の歳月を経て完成

 四半世紀にわたって日本と南極昭和基地との間を往復し,平成20年7月末に退役した先代「しらせ」に継ぐ4代目の観測船として,17年度より建造が進められていた新「しらせ」が21年5月20日,4年の歳月を経て完成しました。新「しらせ」は,砕氷や輸送能力において,世界でも最高水準の性能を誇るほか,海洋・大気汚染や省エネ対策のための最先端技術が導入されています。
(1)氷海航行性能の向上
 氷海航行性能は,新「しらせ」の建造にあたって最も重視されました。
 氷塊及び氷上に積もった雪による摩擦抵抗の低減を目指し,艦首部分から大量の水を放出して積雪を湿らせる「散水装置」を装備,また,船体表面と氷との接触部分に,ステンレスと鋼板の複合材料である「ステンレスクラッド鋼」を採用しています。

完成後,海上自衛隊へ引き渡され舞鶴港を後にする新「しらせ」(ユニバーサル造船株式会社提供)

完成後,海上自衛隊へ引き渡され舞鶴港を後にする新「しらせ」(ユニバーサル造船株式会社提供)

(2)環境に優しい船
 南極海の生態系を保全するため,環境に配慮した様々な設備を装備しています。
 固形廃棄物は減容して廃棄物保管庫などに貯蔵し,国内に持ち帰ります。排水は専用の浄化装置で所定の基準値以下に処理された後,海に排出されます。また,万が一の事故の際,燃料が漏れて海洋汚染を生じさせないよう,燃料タンクを二重船殻構造で保護しています。
(3)最新の観測システム
 新「しらせ」は「輸送船」であるとともに,大気や海洋など測る「観測船」の役割を担っています。
 気象観測装置,大気や海水中の二酸化炭素を連続測定する装置,海上重力を測定する装置,表層海水中のプランクトンを採取するネットなどのほか,新たに,流向流速計,海底の地形測量や地層探査が可能な氷海対応型のマルチビーム音響測深装置を装備しています。

2.はじめての南極へ,昭和基地まで1万4千キロの航海

 平成21年11月10日,秋晴れの下,新「しらせ」は関係者に見送られ東京港晴海埠頭を出港しました。日本から昭和基地までは約1万4千kmの航程。途中,オーストラリアのフリーマントルで観測隊員が乗艦。フリーマントル出港後は,発達した低気圧が列を成す南緯40~60度の暴風圏を越え南極海へ進入しました。
 昭和基地のある東南極は,近年多量の降雪が報告されています。昭和基地沖に広がる定着氷の氷状は例年以上に厳しく,4mを超える厚い氷,その上の2mを超える硬く締まった雪は,新「しらせ」にとって最初の試練となりました。
 昭和基地への到着は平成22年1月11日。厳しい氷状に進路を阻まれ,予定より少し遅れたものの,昭和基地接岸を果たしました。その後の物資輸送などは観測隊員と新「しらせ」乗組員との共同作業。燃料や食料など越冬物資(約1,100t)の送り込み,廃棄物など日本への持ち帰り物資(約320t)の積込みのほか,基地施設の建設作業,ヘリコプターを活用した野外観測などが天候にも恵まれ,順調に行われました。
 同年2月3日,新「しらせ」は任務を終了し,昭和基地を離岸。夏期作業を終えた観測隊員などをヘリコプターで順次収容しながら,同年2月14日には定着氷を離脱。船上観測を行いながら帰国の途に就きました。
 帰路,オーストラリアのシドニーで観測隊員が退艦し,新「しらせ」は,同年4月9日に帰国しました。

晴海埠頭に係留され,出発を待つ新「しらせ」(防衛省提供)

晴海埠頭に係留され,出発を待つ新「しらせ」(防衛省提供)

昭和基地沖に広がる定着氷へ進入する新「しらせ」(防衛省提供)

昭和基地沖に広がる定着氷へ進入する新「しらせ」(防衛省提供)

第5章 総論

 資源の乏しい我が国が,国際競争力を維持し,活力ある社会・経済を実現するためには,科学技術の力で世界をリードすることが重要です。
 平成21年12月に閣議決定された「新成長戦略(基本方針)」においても,「成長を支えるプラットフォーム」として「科学・技術立国戦略」が,「強みを活かす成長分野」として「グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略」と「ライフ・イノベーションによる健康大国戦略」の2つが挙げられており,科学技術の重要性が改めて認識されています。
 我が国の科学技術行政は,内閣総理大臣を議長とする総合科学技術会議の基本方針の下,関係府省が連携しつつ推進しています。文部科学省は科学技術・学術に関する基本的な政策の企画・立案や推進,研究開発に関する具体的な計画の作成や推進,科学技術に関する関係行政機関との調整などを行っています。
 平成22年度は現行の「第3期科学技術基本計画」の最終年度に当たることから,文部科学省においては,次期科学技術基本計画の策定に向けた総合科学技術会議での検討に先駆け,科学技術・学術審議会の下に基本計画特別委員会を設置し,21年12月に報告書「我が国の中長期を展望した科学技術の総合戦略に向けて」を取りまとめました(参照:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu13/houkoku/1288628.htm)。同報告書に示されている科学技術を取り巻く現状の課題,今後の政策の方向性について簡単にご紹介します。

1 現状認識

(1)科学技術を取り巻く諸情勢の変化

 近年,我が国・世界を取り巻く諸情勢は大きく変化しています。世界においては,地球温暖化,食糧・水資源・エネルギー問題など,深刻な問題が顕在化しています。また,経済の面では,中華人民共和国,インドなどの新興国の影響力が増しつつあり,長期的には世界の多極化が進み,現在の勢力地図が大きく変化することが予想されます。
 一方,我が国においては,世界に類を見ない速さで少子高齢化や人口減少が進む中,国際競争力の長期的低落などを受け,国際社会における存在感は相対的に低下しつつあります。また,若年層の理工系離れが進むなど,将来の研究者・技術者をはじめとした多様な人材の確保や,大学や産業界の競争力が課題となっています。

(2)諸外国の科学技術政策の動向

 世界の諸情勢が大きく変化し,国内あるいは地球規模での様々な問題が顕在化する中で,諸外国においては経済や地球温暖化などの未曾有の危機を克服し,将来の持続的発展を実現するための鍵として,科学技術イノベーションに関する政策を積極的に展開しています。特に,2008年の世界的な金融危機・経済不況を受けて,長期的な国の成長・発展を目指す観点から,これらの政策をより一層重視するとともに,政府投資の更なる拡充を図る傾向が見られます。

(3)科学技術政策における主な成果と課題

 科学技術の振興は,これまでも例えば,医薬品や医療技術の発達などによる人々の健康改善や平均寿命の延伸,また,新産業の創出やサービスの高度化・効率化と,それらによるGDPや国民所得の向上など,人々の暮らしや国の成長・発展,さらには人類の繁栄に大きく寄与してきました。
 しかしながら,我が国や世界における深刻かつ重大な問題解決に向けた科学技術の一層の貢献,将来の科学技術を担う人材の育成,研究開発を支える基盤の整備などにおいて課題も指摘されており,今後の科学技術政策を展開するに当たっては,これらを踏まえた対応を図っていく必要があります。

図表2‐5‐1 OECD諸国の一人当たり国内総生産(名目GDP)の推移

図表2‐5‐1 OECD諸国の一人当たり国内総生産(名目GDP)の推移

(出典)内閣府「平成20年国民経済計算確報」より文部科学省作成

図表2‐5‐2 主要国等の政府負担研究費の推移(IMF為替レート換算)

図表2‐5‐2 主要国等の政府負担研究費の推移(IMF為替レート換算)

(注)

  1. 研究費及び政府負担研究費割合より文部科学省で試算(日本を除く)。
  2. 韓国を除き,各国とも人文・社会科学が含まれている。
  3. 米国の2007年度の値は暫定値である。
  4. ドイツの1982,1984,1986,1988,1990,1992,1994‐96,1998,2000,2002年度の値は推計値である。
  5. フランスの2006年度の値は暫定値である。
  6. EUの値はの推計値である。
  7. インドの2003,2004年度は自国による推計値である。

資料:日本:総務省統計局「科学技術研究調査報告」
EU:(研究費)Eurostat database
(政府負担研究費割合)OECD「Main Scienceand Technology Indicators Vol 2008/2」
インド:UNESCO Institute for Statistics S&T database
その他の国:OECD「Main Scienceand Technology Indicators Vol 2008/2」

参照:日本15‐1,米国25‐1,ドイツ25‐2,フランス25‐3,英国25‐4,EU‐1525‐5,EU‐2725‐6,中国25‐7,韓国25‐8,ロシア25‐9,インド25‐10,37‐1

2 今後の方向性

(1)基本的方向性

 今後の科学技術政策の方向性に関して,同報告書においては,科学技術政策を社会・公共政策の1つとして明確に位置づけるとともに,中長期的な視点で立案・推進していくため,政策の大目標として5つの「目指すべき国の姿」を設定し,さらに,今後の科学技術政策における3つの基本的方針を掲げています。

〈科学技術政策により「目指すべき国の姿」〉
  1. 安心・安全で,質の高い社会と国民生活を実現する国
  2. 国際的優位性を保持しつつ,持続的成長・発展を遂げる国
  3. 世界各国と協調・協力し,地球規模問題の解決を先導する国
  4. 多様性があり,世界最先端の人類の「知」の資産を創出し続ける国
  5. 科学技術を文化や文明の礎として育む国
〈今後の科学技術政策における基本的方針〉
  1. 科学技術政策から「科学技術イノベーション政策」へと転換する
  2. 科学技術イノベーション政策を「社会とともに創り,実現」する
  3. 科学技術イノベーション政策において「人と,人を支える組織の役割」を一層重視する

(2)重要政策

 上記の基本認識に立ち,「目指すべき国の姿」の実現に向けた科学技術イノベーション政策の具体的な推進方策を4つの柱に基づき,提示しています。

1.基礎科学力の強化
  • 基礎科学力の強化に向けた研究開発の推進
    (大学などの基盤的経費の拡充など)
  • 知識基盤社会をリードする創造的人材の育成
    (多様な人材の育成,世界トップレベルの研究者の養成,次代を担う人材の育成など)
  • 独創的研究の発展に向けた研究開発システムの改革
    (競争的資金の拡充及び制度改革,研究開発評価システム改善・充実など)
  • 大学等の教育研究力の強化
2.重要な政策課題への対応
  • 重要な政策課題に対応した研究開発の推進
    (地球温暖化対策などの重要政策課題に対応した研究開発の重点化など)
  • 科学技術イノベーションの国際活動の推進
    (科学技術外交の推進,頭脳循環(ブレインサーキュレーション)※2の促進など)
  • 政策課題への対応等に向けた研究開発システム改革
    (産学官の連携システムの強化,地域イノベーションシステムの強化,知的財産戦略の推進など)
  • 世界的な研究開発機関の形成及び先端研究基盤の整備
3.社会と科学技術イノベーションとの関係深化
  • 社会と科学技術イノベーションとの連携強化
    (政策への国民参画の促進,科学技術コミュニケーション活動(※3)の推進など)
  • 科学技術イノベーション政策に関する企画立案・推進機能の強化
  • 科学技術イノベーション政策の実効性の確保

※2 頭脳循環(ブレインサーキュレーション)
 ここでは、研究者等が優れた研究環境等を求めて国際的かつ循環的に移動していくことをいう。
※3 科学技術コミュニケーション活動
 科学技術を一般国民に分かりやすく伝える,あるいは社会の問題意識を研究者・技術者の側に伝えるなど,研究者・技術者と社会との間の対話(コミュニケーション)を促進する活動。

4.政府研究開発投資の在り方

 対GDP比1%の政府研究開発投資を確保することを基本として投資総額を明示的に掲示など

第1節 科学技術・学術政策の展開

1 第3期科学技術基本計画

 科学技術基本計画(「基本計画」)は,平成7年11月に公布・施行された科学技術基本法に基づき,科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための計画として,政府が策定するものです。
 平成18年度から22年度を対象とした第3期基本計画では,「社会・国民に支持され,成果を還元する科学技術」,「人材育成と競争的環境の重視~モノから人へ,機関における個人の重視」の2点を基本姿勢とし,科学技術政策が目指すべき大目標を明示しています。また,これらの目標の実現に向けて,基礎研究の充実を図るとともに,人材の育成や各分野の重点化を図るなどの取組が進められています(図表2‐5‐3)

図表2‐5‐3 第3期科学技術基本計画(平成18~22年度)の概要

図表2‐5‐3 第3期科学技術基本計画(平成18~22年度)の概要

2 科学技術・学術の振興のための取組

(1)研究開発力強化法(※4)

 米国競争力強化法の制定や中国科学技術進歩法の改正など,諸外国における研究開発システムの改革に関わる法整備の動きを踏まえ,我が国の研究開発力の強化及び研究開発等の効率性の向上を図るため,超党派の議員立法により研究開発力強化法が平成20年6月に可決成立しました。研究開発力強化法附則第6条及び附帯決議(※5)を踏まえ,関係府省の副大臣・大臣政務官級の会合である「研究開発を担う法人の機能強化検討チーム」において検討が行われ,平成22年4月に「国立研究開発機関(仮称)」制度の創設が提言されました(参照:http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/kinoukyouka/1292823.htm)。

(2)年次報告(科学技術白書)

 「科学技術の振興に関する年次報告」(科学技術白書)は,「科学技術基本法」第8条に基づき,政府が科学技術の振興に関して講じた施策について,文部科学省が取りまとめて毎年国会に提出している報告書です。平成22年版の白書では「価値創造人材が拓く新たなフロンティア~日本再出発のための科学・技術の在り方~」について特集しています(参照:http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/kagaku.htm)。

(3)科学技術に関する経費の見積り方針調整

 我が国の科学技術に関する行政は,多数の府省庁によって実施されており,国全体として整合性を保ちつつ,効率的・効果的に推進されるよう調整がなされることが重要です。文部科学省では,科学技術に関する施策について,関係府省庁の概算要求の内容を把握し,整理等を行っています。

(4)我が国の科学技術・学術の現状把握

 文部科学省では,我が国や諸外国の科学技術・学術の現状を把握するために調査やデータ収集などを行い,新しい政策の企画立案などに活用するとともに,一般への公開も行っています。


※4 研究開発力強化法
 研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律(平成20年法律第63号)。
※5 研究開発力強化法附則第6条及び附帯決議
 総合科学技術会議における研究開発システムの在り方に関する検討結果を踏まえて,政府は法律の施行後3年以内に必要な措置を講ずるとともに,研究開発の特殊性,優れた人材の確保,国際競争力の確保などの観点から最も適切な研究開発法人の在り方についても検討すること等とされている。
※6 大学等におけるフルタイム換算データに関する調査
 大学等の研究者の総職務時間(研究活動,教育活動等)に占める研究活動に従事した割合を求めるための調査。この割合を研究者数に乗じた値(フルタイム換算値)を,実態に則した研究者数として,国際比較に用いている。

(5)科学技術振興調整費の活用

 科学技術振興調整費は,総合科学技術会議の方針に沿って文部科学省が運用を行う政策誘導型の競争的資金です。平成21年度は,これまでの取組を推進するとともに,調整費の補助金化による機関の主体的取組と弾力的運用の推進,女性研究者の養成を加速的に促進するための仕組みの創設,迅速かつ機動的な研究開発投資を行うための新たな仕組みとして革新的技術推進費の創設を行いました(図表2‐5‐4)。

図表2‐5‐4 平成21年度公募を行った科学技術振興調整費のプログラムについて

図表2‐5‐4 平成21年度公募を行った科学技術振興調整費のプログラムについて

※公正で透明性の高い選抜により採用された若手研究者が,審査を経てより安定的な職を得る前に,任期付きの雇用形態で自立した研究者としての経験を積むことができる仕組み。

(6)科学技術政策研究所の調査研究

 科学技術政策研究所では,科学技術に関する基本的な政策に関する基礎的な事項を調査・研究する中核的研究機関として,国内外の関係機関との連携・交流を図りつつ,以下のような調査研究活動を積極的に推進しています(参照:http://www.nistep.go.jp/)。

  • 科学技術システムに関する調査研究(科学技術人材,産学官連携,知的財産等)
  • イノベーションに関する調査研究(イノベーション・システム,地域イノベーション,大学等発ベンチャー,国内企業におけるイノベーションの実現状況など)
  • 科学技術の理解増進・社会との係わりに関する調査研究
  • 科学技術活動の計測等に係る調査研究(科学技術の状況に係る総合的意識調査,科学技術指標など)
  • 重点科学技術分野の動向調査研究
  • 第4期科学技術基本計画策定に向けた調査研究(科学技術予測に関する調査研究など)

(7)基礎科学力の強化

 基礎科学は人類の英知やイノベーションを創出する上で大きな役割を果たしており,その強化は科学技術創造立国を目指す我が国にとって重要な課題です。文部科学省においては「基礎科学力強化委員会」を開催して集中的な議論を行い,平成21年8月には「基礎科学力強化に向けた提言」をまとめました。この提言を踏まえ,総合的な基礎科学力強化策を推進しています(参照:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shinkou/018/1282855.htm)。

(8)先端研究への多年度に渡る支援

 将来における我が国の経済社会の発展の基盤となる先端的な研究等を集中的に推進するため,第171回通常国会において「独立行政法人日本学術振興会法」を改正し,平成25年3月までの間日本学術振興会に「先端研究助成基金」などを設けました。この「先端研究助成基金」により「最先端研究開発支援プログラム」を実施しています。さらに今後,若手・女性研究者を対象とした「最先端・次世代研究開発支援プログラム」を実施する予定です。これらの事業は,基金を活用するため従来の予算制度に縛られない多年度にわたる研究費の弾力的な運用が可能です。
 なお,「最先端研究開発支援プログラム」・「最先端・次世代研究開発支援プログラム」は,総合科学技術会議の運用方針に基づいて実施することとなっています。

第2節 学術の振興

1 学術研究の意義と推進方策

(1)学術研究の意義

 学術は,人文・社会科学から自然科学まですべての学問分野に及ぶ知的創造活動であり,人間の知的好奇心と自由な発想を源泉として展開されるものです。そして,大学・大学共同利用機関(大学等)を中心として行われる学術研究は,1.新しい法則や原理の発見,2.方法論の確立,3.新しい知識や技術の体系化とその応用,4.先端的な学問領域の開拓,5.これまで人類が蓄積してきた精神文化の継承,など文明の基盤を形成しています。
 学術研究の成果は,人類の知的共有財産としてそれ自体優れた文化的価値を有すると同時に,更なる発展・複合化によって技術面から国民生活を豊かにするなど,社会経済の発展にも大きく貢献しています。また,教育と研究を一体として推進している大学等においては,学術研究の発展が現代社会で求められる多様で高度な教育を実現するために不可欠となっています。

(2)学術研究の推進方策

 文部科学省では「教育振興基本計画」や「第3期科学技術基本計画」,科学技術・学術審議会における審議などを踏まえ,学術研究の振興のために以下の取組を行っています。

1.基盤的経費の確実な措置と競争的資金の拡充

 国立大学法人運営費交付金・私学助成などの基盤的経費を確保するとともに,科学研究費補助金をはじめとした競争的資金の拡充を図るなど多様な研究資金制度の拡充に努めています(参照:本章第2節2,本章第5節1)。

2.学術研究基盤の着実な整備の支援

 大学等に対する計画的な研究施設・設備の整備・充実,コンピュータやネットワーク,学術図書資料などの学術情報基盤の整備,生物遺伝資源をはじめとする知的基盤の整備など,我が国の学術研究基盤が着実に整備されるよう支援を行っています(参照:本章第2節3,本章第6節)。

3.世界的教育研究拠点の一層の整備と世界で活躍できる若手研究者の育成

 平成19年度から,国内外の大学,機関との連携と若手研究者の育成機能の強化を含め,国際的に卓越した教育研究拠点形成を重点的に支援する「グローバルCOEプログラム」を実施しています(参照:第2部第3章第1節2(1))。また,大学共同利用機関や国立大学附置研究所などを中心に,独創的・先端的な学術研究を推進するため,全国の関連研究者のニーズにこたえながら,個別の大学では整備や維持が困難な施設・設備や学術資料などの整備への支援を行っています。例えば,宇宙の果てに挑む天文学研究,物質の究極的な構造などの解明を目指す加速器科学,地球環境問題の根本的な解決を目指す地球環境学,未来のエネルギー源を開発する核融合科学研究,宇宙の進化の謎に迫るニュートリノ(※7)研究などの世界最高水準を目指した研究を重点的に支援しています(参照:本章第2節,第6節)。
 また,学術研究の担い手である優秀な研究者が育ち,十分に能力を発揮できるようにすることが重要です。文部科学省では日本学術振興会の「特別研究員事業」などを推進し,優れた若手研究者の養成・確保に努めています(参照:本章第4節)。


※7 ニュートリノ
 物質を構成する最小単位の粒子(素粒子)の一つ。 

4.国際的に開かれた大学等づくりの推進と学際的・学融合的研究分野の推進

 国際的な研究水準を追求し,我が国に海外の優秀な研究者の「知」を結集して研究を行うため,日本学術振興会の「先端研究拠点事業」などにより,国内の大学等における研究拠点と海外拠点との間の国際的な連携を支援しています。
 また,学術研究の更なる発展のため,大学等が広く国内外の研究者と連携して進めている従来の学問分野を超えた学際的・学融合的な様々な取組を支援しています。例えば,大学共同利用機関では自然科学との連携も含めた人間文化に関する総合的研究,自然科学における分野間連携などが行われています。

5.学術を振興するための方向性の検討

 平成21年2月,学術の振興に関する重要事項について審議を行う科学技術・学術審議会学術分科会に「学術の基本問題に関する特別委員会」を設置し,学術研究の意義・社会的役割,学術研究の推進に向けた学術研究基盤の在り方,研究費の在り方,研究者養成の在り方,研究支援体制の在り方など今後の学術の振興方策について審議を進めています。

(3)人文・社会科学の振興方策

 人文・社会科学は,人々の思索や行動,あるいは社会的な諸現象の分析・考察を通して,人間の精神生活の基盤を築き,日々の営みに希望や行動の手がかりを与えるとともに,社会的合意形成や社会的諸問題の解決に寄与する重要な役割を担っています。
 文部科学省では従来より大学等における研究者の自由な発想に基づく研究活動を支援する「科学研究費補助金」などの取組を通じて人文・社会科学の振興を図っていますが,平成21年1月に,学術分科会において取りまとめられた「人文学及び社会科学の振興について(報告)」の提言などを踏まえ「政策や社会の要請に対応した人文・社会科学研究推進事業」や「人文学及び社会科学における共同研究拠点の整備の推進事業」などを実施しています。また,平成21年度より,異なる分野の研究者との共同研究により方法論的な観点から既存の知の体系の根源的な変革や飛躍的な進化を目指す「異分野融合による方法的革新を目指した人文・社会科学研究推進事業」を日本学術振興会において実施しています。

2 科学研究費補助金の充実

(1)科学研究費補助金の意義と現状

 科学研究費補助金は,研究者の自由な発想に基づく研究を支援する競争的資金であり,人文・社会科学から自然科学まですべての分野にわたり,基礎から応用までのあらゆる研究を対象とする政府の補助金です。研究者の自由な発想に基づいて応募された研究課題や計画をピア・レビュー(専門分野の近い複数の研究者による審査)によって採択し,研究の多様性を確保しつつ,独創的な研究活動を支援することにより,研究活動の裾野を拡大し,持続的な研究の発展と重厚な知的蓄積の形成に資するという役割を果たしています。革新的な研究成果の多くも,こうした研究の中から生み出されています(図表2‐5‐5)。
 平成21年度の予算は1,970億円(対前年度比38億円増,2.0%増)であり,政府の競争的資金全体の約40%を占めています。また,21年度には,研究の段階や規模に応じて設定しているカテゴリー(研究種目)の一つとして,独創的な発想に基づく,挑戦的で高い目標設定を掲げた芽生え期の研究を支える「挑戦的萌芽研究」を設けました(図表2‐5‐6)。

(2)効率的・効果的使用に向けた取組

 科学研究費補助金の使用については,研究費目を大括りにして経費の執行を弾力化したり,年度間の繰越しを可能にするなど,様々な改善を図ってきました。平成18年度には,その年度間の繰越しが幅広く適用されるよう取扱いを明確化した結果,繰越件数が大幅に増加(17年度55件,18年度641件,19年度1,297件,20年度1,312件)しました。さらに,21年度には,申請手続きを大幅に簡素化し,繰越制度の一層の利用の促進を図っています。この他,費目間で自由に変更できる経費の割合を30%以下から50%未満に引き上げるとともに,使途の制限のない他の経費と合算して使用することができるようにするなど,効率的・効果的な経費の使用に向けた取組を推進しています。

図表2‐5‐5 未来の技術革新の芽を育む科学研究費補助金

図表2‐5‐5 未来の技術革新の芽を育む科学研究費補助金

図表2‐5‐6 科学研究費補助金の研究種目

図表2‐5‐6 科学研究費補助金の研究種目

(3)不正使用等防止への取組

 科学研究費補助金は国民の貴重な税金によって賄われているものであり,不正使用や不適切な経理はあってはならないものです。このため,科学研究費補助金では,その防止のため,平成15年度から,不正を行った研究者の応募資格を一定期間停止する措置を導入するとともに,ハンドブックの作成・配布や各種説明会の開催などによりルールの周知徹底を図ってきました。さらに,不正使用などを防止するためには,研究機関自らが経費管理・監査体制を整備することが不可欠であることから,納品検査の適正な実施など機関管理を徹底するとともに,科学研究費補助金の応募に際し,当該研究者が所属する研究機関の機関管理状況報告書の提出を義務付けたり,文部科学省及び日本学術振興会による研究機関への実地検査を実施するなど,不正使用などの防止に向けた取組を強化しています。

3 独創的・先端的基礎研究を推進する研究機関・拠点の整備

 独創的・先端的基礎研究は,大学の学部・研究科,附置研究所・研究施設及び大学共同利用機関など多様な組織において行われています。このような研究を全体として推進していく上で鍵となるのは,全国の大学等から研究者が集まり,先端的な施設・設備や大量のデータ・貴重な資料などを活用し,効果的・効率的に共同研究を行うシステムであり,文部科学省ではその体制の整備や必要な研究費の充実を図っています。このシステムの担い手となる機関は以下の通りです。

(1)附置研究所及び研究施設

 国立大学には,特定の専門分野の研究を継続性を持って長期的に進める附置研究所(平成21年度現在で60研究所)やこれに準ずる研究施設が設置されており,学問の動向や社会の変化に対応しながら高い研究水準を維持するとともに,優れた若手研究者の育成にも貢献しています。
 また,こうした国立大学の附置研究所・研究施設の中には,全国の拠点として大型プロジェクトなどの重点的な研究を行うものもあり,我が国の学術研究の発展にこれまで大きく貢献してきました。
 しかし,我が国全体の学術研究の更なる発展を図るには,国公私立を問わず大学の研究ポテンシャルを活用して,研究者が共同で研究を行う体制を整備することが重要です。このため,平成20年7月に文部科学大臣による共同利用・共同研究拠点の認定制度を創設しました。21年度現在,79拠点(国立大学70拠点,私立大学9拠点)を認定しており,例として以下のものがあります。

○京都大学霊長類研究所

 人間の進化の霊長類的起源を探るために,ヒトを含む霊長類を様々な観点から研究しています。21年度には,アカゲザルが人間と同じように目,鼻,口の全体的なバランスで仲間の顔を識別していることや,チンパンジーが自分への直接の利益や見返りがなくても,仲間の要求に応じて手助けをすることを世界に先駆けて発見しました。

○慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センター

 所得の格差や変動,労働,教育,健康,税社会保障制度,ジェンダーなど様々な課題について,同一の家計や企業の行動,経済状況の変化を長期にわたり追跡調査したパネルデータに基づく実証研究を実施するとともに,国内外の研究者にパネルデータを公開し,国内外の研究者の研究発展に貢献します。

(2)大学共同利用機関

 大学共同利用機関は,全国の大学などの研究者が共同研究を推進する拠点として,また,特色ある大型の施設・設備や大量の有用な資料・データの共同利用の場として,各分野の発展に大きく貢献するとともに,国際的な競争と協調の中で世界最先端の研究を推進しています。また,総合研究大学院大学をはじめとする大学院の学生の受入れを行うなど,研究と教育を一体的に実施しています。各々の機構の役割及び活動は以下のとおりです。

1.人間文化研究機構

 膨大な文化資料に基づく実証的研究,人文・社会科学の総合化をめざす理論的研究や自然科学との連携も含めた研究領域の開拓に努め,人間文化の総合的学術研究拠点を目指しています。平成21年10月に新たな機関として設置された国立国語研究所では,日本語学・言語学・日本語教育研究における中核拠点として国内外の研究機関と大規模な理論的・実証的共同研究を推進しています。

2.自然科学研究機構

 宇宙,物質,エネルギー,生命などの自然科学分野の基盤的な研究の推進や各分野の連携による新たな研究領域の開拓・育成などを目的としています。国立天文台では,すばる望遠鏡などの大型観測装置を中核として,宇宙の構造を知ることを通して,地球や人類の成り立ちに迫る研究を推進しています。

3.高エネルギー加速器研究機構

 高エネルギー加速器に関する開発研究などを行い,素粒子から生命体にわたる広範な実験・理論研究を展開するとともに,加速器科学の拠点として国内外の大学等との連携・協力を推進することを目的としています。素粒子原子核研究所では,高エネルギー加速器を用いた国際共同研究の中核拠点として,Bファクトリー実験(※8)をはじめ,数々の実験を推進しています。

4.情報・システム研究機構

 情報とシステムの観点から分野を越えた総合的な研究を推進し,新たな研究パラダイム(枠組み)の構築と新分野の開拓を目的としています。統計数理研究所では,日本人のものの見方や考え方とその変化を捉えることを目的として,昭和28年から5年ごとに日本人の国民性調査を実施しています。平成21年度には第12次全国調査が行われ,調査結果や関連する調査研究について公表しています。


※8 Bファクトリー実験
 加速器を用いて電子と陽電子を衝突させ,生成されたB中間子の崩壊過程を測定し,宇宙の進化の途中で反物質が消え去った謎を解明する実験。平成13年には,B中間子における粒子と反粒子の物理法則の違いである「CP対称性の破れ」を発見,小林・益川理論が正しいことを実証し,平成20年の小林・益川両氏のノーベル物理学賞受賞へとつながった。

4 学術研究の推進に寄与する組織・活動

(1)学協会

 学協会は,大学などの研究者を中心に自主的に組織された団体です。個々の研究組織を越えて,研究評価,情報交換あるいは人的交流の場として重要な役割を果たしており,最新の優れた研究成果を発信する学術研究集会・講演会・シンポジウムの開催や,学会誌の刊行などを通じて,学術研究の発展に大きく寄与しています。
 文部科学省では,学協会のこのような活動の振興を図るため,学協会が諸外国の研究者の参加を得て日本国内で開催する国際会議,青少年や社会人を対象に最新の研究成果などを普及・啓発するためのシンポジウムの開催・学術定期刊行物の刊行などに対して,科学研究費補助金「研究成果公開促進費」による助成を行っています。

(2)研究助成法人など

 産業界や個人などからの寄附により運営され,研究者に対する学術研究費の助成を主な事業とする研究助成法人や公益信託は,特色ある分野を助成するなど,学術振興に極めて大きな役割を果たしています。

第3節 政策課題対応型研究開発における重点化

1 科学技術の戦略的重点化と戦略重点科学技術の推進

 第2期基本計画において重点的な資源配分がなされた「重点4分野」(ライフサイエンス(※9),情報通信,環境,ナノテクノロジー・材料)については,第3期基本計画においても「重点推進4分野」として,各分野内での重点化の考えに基づきつつ,引き続き優先的な資源配分を行うこととしています。また,国の存立にとって基盤的であり,国として取り組むことが不可欠なエネルギー,ものづくり技術,社会基盤,フロンティアを「推進4分野」と位置づけ,適切な資源配分を行うこととしています。
 さらに,第3期基本計画期間中に予算を重点配分する対象として,1.近年急速に高まっている社会・国民ニーズに対応し,科学技術による解決策を明確に示していく必要があるもの,2.国際競争を勝ち抜く上で不可欠であり,不作為の場合の5年間のギャップを取り戻すことが極めて困難なもの,3.国が主導する一貫した推進体制の下で実施され世界をリードする人材育成にも資する長期的かつ大規模なプロジェクトにおいて,国家の安全保障も含め経済社会上の効果を最大化するために必要なものとの視点から「戦略重点科学技術」を選定し,分野別推進戦略に位置づけています。


※9 ライフサイエンス
 生物が営む生命現象の複雑かつ精緻なメカニズムを解明する科学。

2 国家基幹技術の推進

(1)宇宙輸送システム

 通信・放送・気象衛星など,私たちの生活の中で宇宙利用の成果が不可欠なものとなっている今日において,我が国が必要な時に,独自に宇宙空間に必要な人工衛星などを打ち上げる能力を確保・維持することは,我が国の総合的な安全保障や国際社会における我が国の自律性を維持する上で不可欠です。このような観点から,H‐ⅡAロケットの開発・製作・打上げ,H‐ⅡBロケット,宇宙ステーション補給機(HTV)の開発などを構成要素とする宇宙輸送システムが,国家的な長期戦略の下に進められています(参照:本章第3節3(5))。
 また,宇宙輸送システム技術は極めて高い信頼性が求められることから,その技術力向上のための活動自体が広範な分野における技術革新をもたらし,産業の高度化や社会経済の発展につながります。
 さらに,世界最高水準のロケットエンジン技術の開発などを通じて,世界をリードする人材育成にも貢献しています。

写真2‐5‐1H‐Bロケット試験機の打上げ(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

写真2‐5‐1H‐ⅡBロケット試験機の打上げ
(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

(2)海洋地球観測探査システム

 海洋地球観測探査システムは,海洋及び宇宙からの観測・探査により得られるデータの統合・解析・提供を目指しており,「次世代海洋探査技術」,「衛星観測監視システム」,「データ統合・解析システム」の3つの技術で構成されています。宇宙から海底下まで,いつでも自在に地球を観測・探査できる能力は,我が国の総合的な安全保障に資する基盤的技術として地球観測,災害監視,資源探査の分野において,大きく貢献することが期待されます。なお,海洋地球探査観測システムの推進にあたっては,フォーラムを開催するなどにより,観測データなどに関するユーザーの幅広いニーズの把握や関係機関及び研究分野間の連携を促進しています。

(3)高速増殖炉サイクル技術

 低炭素社会の実現に向けて,発電過程で二酸化炭素を排出しない原子力発電は,非常に重要なエネルギー源です。また,エネルギー資源の乏しい我が国においては,長期的なエネルギーの安定供給を確保していくことが,大きな課題です。その解決手段として,消費した燃料より多く新しい燃料が生み出される高速増殖炉サイクル技術は,大変重要な技術であり,「原子力政策大綱(平成17年10月原子力委員会決定)」,「エネルギー基本計画(19年3月閣議決定)」などを踏まえ,2050年よりも前からの商業炉の開発を目指し,その実用化に向けた研究開発に着実に取り組んでいます。

写真2‐5‐2高速増殖原型炉「もんじゅ」

写真2‐5‐2高速増殖原型炉「もんじゅ」 

(4)次世代スーパーコンピュータ

 スーパーコンピュータを用いたシミュレーション(※10)は,理論,実験と並ぶ,現代の科学技術の第3の方法として,今や必要不可欠なものとなっています。また,実社会においても,自動車の衝突損傷の解析,台風の進路や発生予測などに利用されています。
 文部科学省では,我が国におけるスーパーコンピュータとそれを用いたシミュレーションの更なる発展のため,理化学研究所を開発主体として,平成18年度から次世代スーパーコンピュータプロジェクトを実施してきました。
 平成21年度は,科学技術・学術審議会の下の次世代スーパーコンピュータプロジェクト中間評価作業部会で,プロジェクトの中間評価を行い,その結果を踏まえて,スカラ型(※11)とベクトル型(※12)からなる複合システムから,スカラ型単一のシステム構成に変更しました。また,次世代スーパーコンピュータにより社会的・学術的に大きなブレークスルーが期待できる5つの戦略分野を選定し,戦略分野における研究開発や我が国の計算科学技術体制の整備を行う「次世代スーパーコンピュータ戦略プログラム」の実施可能性調査を開始しました。さらに,本プロジェクトを利用者側視点に立った多様なユーザーニーズに応える「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ」を構築する計画に進化・発展させることを決定しました。(参照:本章Topic1)


※10 シミュレーション
 コンピュータなどを使用して模擬的に実験を行うこと。
※11 スカラ型
 大きなデータを細分化して処理する,世界的主流となっている技術。
※12 ベクトル型
 大きなデータをまとめて処理する,我が国が強みを持つ技術。

(5)X線自由電子レーザー

 理化学研究所は,放射光とレーザーの性質を併せ持つ光を発振するX線自由電子レーザー(XFEL)装置を,我が国独自の技術によりコンパクト化・低コスト化を実現して,平成23年度中の供用開始を目指して整備しています。
 XFELは,結晶化が困難な膜タンパク質の解析,触媒反応のリアルタイム観察,新機能材料の創成など,生命科学やナノ領域の構造解析をはじめとする広範な科学技術分野において新しい研究領域の開拓に貢献することが期待されています。

3 各分野の研究開発の推進方策

(1)ライフサイエンス分野

1.研究開発の推進方策

 文部科学省では,国民の寿命の延伸に向け,がんや生活習慣病の予防・治療に向けたゲノムやタンパク質などの基礎・基盤研究,難病の根治治療である再生医療の実現に向けたiPS細胞等の幹細胞研究,アルツハイマー病などの認知症克服に向けた脳研究,さらには基礎研究の成果を医療につなげる橋渡し研究など,以下に掲げる医療・福祉等の向上に役立つ研究開発を推進しています。

2.ライフサイエンス分野の主な取組

(ア)iPS細胞などの幹細胞・再生医学研究
 京都大学山中教授により樹立されたiPS細胞は,再生医療・疾患研究等に幅広く活用されることが期待される我が国発の画期的成果です。この研究成果を総力を挙げ育てていくため,iPS細胞等の研究をオールジャパン体制のもとに戦略的に推進しています。

(イ)革新的医薬品・医療機器の創出に向けた研究
 がん・生活習慣病などに関する有望な基礎研究の成果を実用化に向けて橋渡しする支援拠点の整備を図るとともに,これらの疾患の早期診断や効果的な治療薬の開発に資する分子イメージング技術(※13)の研究を推進しています。また,こうした成果も活用しつつ,個人に最適な医療の実現に向けた取組を推進しています。

(ウ)脳科学研究
 現代社会が直面する様々な課題の克服に向けて,脳科学に対する社会からの期待が高まっており,「社会に貢献する脳科学」の実現を目指し,アルツハイマー病やうつ病の発症プロセスの解明等を目指した脳科学研究を戦略的に推進しています。

(エ)ライフサイエンス研究全体に資する基礎研究
 創薬など医学・薬学への貢献が期待できる有用なタンパク質の解析を実施するとともに高速な遺伝子解析能力を持つ装置を駆使し,未解明ながん化の本態等を解明する研究を推進しています。

(オ)ライフサイエンス研究全体を支える体制整備
 ライフサイエンス研究の基盤となるデータベースやバイオリソースの戦略的整備のほか,アジア・アフリカの8カ国に感染症についての研究拠点を整備し,感染症対策に資する基礎的知見の集積,人材育成等を推進しています。

写真2‐5‐3 ヒトの皮膚からiPS細胞作製に成功(提供:京都大学山中伸弥教授)

写真2‐5‐3 ヒトの皮膚からiPS細胞作製に成功(提供:京都大学山中伸弥教授)

3.生命倫理・安全に関する取組

(ア)生命倫理に関する問題への取組
 「ヒトに関するクローン(※14)技術等の規制に関する法律」によりクローン人間の産生の禁止や指針によりヒトES細胞(胚性幹細胞)を用いた研究の規制を行っているほか,平成16年7月の総合科学技術会議意見を受け,関係府省と連携しつつ,人クローン胚の作成・利用,ヒトES細胞などからの生殖細胞の作成・利用,研究目的でのヒト受精胚の作成・利用等の研究を行う際に必要な制度の整備を行っています。

(イ)ライフサイエンスにおける安全の確保
 「生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」を受けて制定された「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」により,生物多様性への影響を防止する観点から使用形態に応じた安全の確保を図っています。 


※13 分子イメージング技術
 生体に注入した分子の動きを画像化する技術。様々な疾患の初期診断や,薬の用法・投与量の適正性を検証することを可能とする。
※14 クローン
 遺伝的に同一である個体や細胞(の集合)のこと。

(2)情報通信分野

1.研究開発の推進方策

 情報通信技術は,日常生活から産業までの幅広い社会経済活動に大きな変革をもたらすものであり,国民が安心して安全な生活を送るための重要な基盤となっています。
 文部科学省では,中長期的な観点から,国際的に優位にある技術に重点的に投資を行い,我が国の科学技術や学術,産業の国際競争力の強化につながる研究開発の促進に取り組んでいます。

2.情報通信分野における取組

 文部科学省では,第3期基本計画における情報通信分野の「分野別推進戦略」などに基づき,以下のような大規模プロジェクトや競争的資金制度である「次世代IT基盤構築のための研究開発」の下での研究開発等を実施しています。

(ア)計算科学技術の飛躍的な発展による研究開発の革新
(1)理論・実験と並ぶ現代の科学技術の第3の方法として,今や必要不可欠なものとなっている計算科学技術を更に発展させ,ナノテクノロジー,ライフサイエンスなどの広範な分野でブレークスルーをもたらす「次世代スーパーコンピュータプロジェクト」(平成21年末に,本プロジェクトを利用者側視点に立った多様なユーザーニーズに応える「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ」を構築する計画に進化・発展することを決定)(参照:本章Topic1)
(2)産業界のニーズに的確に対応した最先端の複雑・大規模シミュレーションソフトウェアの研究開発

(イ)情報科学技術を用いた科学技術・学術研究の基盤構築
(1)規模や処理能力が異なるコンピュータを,組織や階層をまたいで効率的・効果的に利用可能とするためのシステム統合・連携ソフトウェアの研究開発
(2)情報爆発時代における超巨大データの管理・活用を可能とする,革新的実行原理に基づくデータベース基盤ソフトウェアの開発
(3)Web上の動画や画像等の情報を効率よく収集・分析し,研究等に活用するための基盤技術開発

(ウ)世界トップレベルの基礎研究シーズの実用化への橋渡し
(1)革新的な高機能・超低消費電力コンピューティングを実現するスピンデバイス(※15)の開発
(2)ソフトウェアの設計やプログラミング,テストなど各工程の状況を詳細に記録し,個々の状況を再現し,ソフトウェアの構築手順が適正であることを把握可能にする技術の開発普及
(3)鑑賞者が有形無形の文化資産を五感で対話的に体感できるデジタル・ミュージアムシステムの構築と,それを通じた臨場感あふれる超高精細立体映像技術や触覚インタフェース技術等の先端要素技術の研究開発

(3)環境エネルギー分野

1.文部科学省低炭素社会づくり研究開発戦略

 気候変動問題については,現在国際社会が挑戦すべき最重要課題の一つとなっており,2007(平成19)年の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書により,その対応の重要性・緊急性が広く共有されました。また,我が国は世界の全ての主要国が参加する公平かつ実効的な国際枠組みの構築と意欲的な削減目標の合意を前提に温室効果ガスを2020年までに1990年比で25%削減するという目標を掲げています。文部科学省においても,低炭素社会の実現に向けた研究開発を総合的に進めるため「文部科学省低炭素社会づくり研究開発戦略」(平成21年8月文部科学大臣決定)を策定するとともに,以下の取組を実施しています。

2.環境エネルギー分野における主な取組

(ア)地球環境観測研究の推進
 気候変動や未曾有の自然災害など地球的規模の環境問題に的確に対応していくためには,継続的な地球観測により,地球の現状を理解することが重要です。
 文部科学省においては,地球観測サミットで合意された「全球地球観測システム(GEOSS)10年実施計画」に貢献するため,人工衛星による観測,海洋研究船,ブイなどによる海洋観測,南極観測船「しらせ」による南極観測事業などの地球観測を進めています。特に,平成21年1月に打ち上げた,温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)については,一般へのデータ配布を開始しました。
 これらの観測データについては,現在開発を進めている「データ統合・解析システム」を活用して温室効果ガス濃度分布に関する情報,農作物生産や水資源管理の支援など社会的に役立つ情報に変換して提供していきます。

(イ)気候変動予測研究の推進
 IPCC第4次評価報告書の策定に当たって,我が国は「地球シミュレータ(※16)」を活用した気候変動予測を行い,その成果は本報告書作成に貢献しました。さらに,IPCCは2013~2014(平成25~26)年を目途に第5次評価報告書を取りまとめる予定です。文部科学省では引続きIPCCに貢献するべく,より精緻な気候変動予測モデルの開発を行い,予測の精度を更に高め,より確かな科学的根拠を提供できるよう「21世紀気候変動予測革新プログラム」を推進しています。

(ウ)エネルギー科学技術に関する研究開発の推進
 温室効果ガスの大幅削減を実現するためには,既存技術の延長だけでは困難であり,革新的な低炭素化のための技術の開発が必要となります。文部科学省においては,エネルギー利用の際に温室効果ガスを全く排出しない高速増殖炉サイクル技術や,未来のエネルギー源として期待される核融合エネルギーの実現に向けて,「ITER計画(※17)」・「幅広いアプローチ(BA)活動(※18)」や先端的な核融合研究開発に取り組んでいます。
 また,科学技術振興機構の「戦略的創造研究推進事業」にて太陽光エネルギーやバイオマスなど,新エネルギーに関する新たな技術シーズ創出に向けた基礎研究を実施しているほか,物質・材料研究機構にて,色素増感型太陽電池の高効率化や,高性能燃料電池の材料に関する研究開発を実施するなど,エネルギー技術のブレークスルーを目指した基礎基盤的な研究などを推進しています。

写真2‐5‐4 2100年の全球の温暖化予測(画像提供:東京大学気候システム研究センター/国立環境研究所/海洋研究開発機構地球フロンティア研究センター)

写真2‐5‐4 2100年の全球の温暖化予測
(画像提供:東京大学気候システム研究センター/国立環境研究所/海洋研究開発機構地球フロンティア研究センター)


※15 スピンデバイス
 電子の有する電荷の性質とスピン(磁気)の性質の2つを利用する電子機器またはその構成要素(ハードディスクのヘッド,メモリ等)
※16 地球シミュレータ
 気候変動予測研究等を行うため,大規模な大気や海洋のシミュレーションを高精度かつ高速に行えるように開発されたスーパーコンピュータ。
※17 ITER 計画
 7つの国と地域(日,欧,露,米,中,韓,印)が協力し,フランス・カダラッシュにおいて,実験炉ITER の建設・運転を通じて核融合エネルギーの科学的技術的実現可能性の実証を目指す取組。
※18 BA活動
 核融合エネルギーの実用化に向けて,ITER だけでは十分に把握できない核融合炉工学分野やプラズマ物理分野などの研究開発を,日欧協力により,我が国(青森県六ヶ所村,茨城県那珂市)において行う取組。

(4)ナノテクノロジー・材料分野

1.研究開発の推進方策

 ナノテクノロジー(ナノ(10億分の1)メートルのオーダーで原子・分子等を操作・制御し,新しい機能を発現させる技術)・材料分野は,広範な科学技術の飛躍的な発展の基盤となる重要分野であり,21世紀の産業の技術革新を先導する分野です。
 文部科学省は,第3期科学技術基本計画の下で策定された「分野別推進戦略」(平成18年3月総合科学技術会議)などに沿って,基礎的・基盤的な研究開発から先端的・革新的な研究開発までを戦略的に推進しています。

2.ナノテクノロジー・材料分野における主な取組

 我が国が「2020年に温室効果ガスを1990年比で25%削減」との目標を達成するためには,革新的な環境・エネルギー技術の創出と,その実用化の加速が不可欠です。先導的基盤技術であるナノテクノロジーは,環境問題解決についても大いに貢献することが期待されており,平成21年度から,我が国の優れたナノテクノロジーの研究ポテンシャルを環境技術のブレークスルーに活用するため,「ナノテクノロジーを活用した環境技術開発」を開始しています。加えて,削減目標達成のためには,これまでに創出されている優れた研究成果・技術シーズの実用化のための研究基盤の整備が急務であることから,平成21年度第二次補正予算により「低炭素社会構築に向けた研究基盤ネットワーク整備事業」を実施し,研究成果・技術シーズの実用化の加速を図ることとしています。
 社会への成果還元を目指した目的指向の研究である「ナノテクノロジー・材料を中心とした融合新興分野研究開発」において,材料を構成する元素の機能を明らかにし希少金属等の代替材料などの研究開発を行う「元素戦略プロジェクト」などを推進しています。また,物質・材料研究機構や理化学研究所などの独立行政法人等では,新たな知を生み出す独創的・先端的研究開発を推進しています。
 このほか,イノベーション創出を支えるものとして研究基盤の整備が重要であることから,大学や独立行政法人などが有する先端的な研究施設・機器の利用機会を高度な専門技術・知識と共に提供する「ナノテクノロジー・ネットワーク」により,分野横断的な研究開発を戦略的かつ効率的に推進しています。また,国家基幹技術として,超微細構造や化学反応の動態変化の計測・分析を可能とするX線自由電子レーザー(XFEL)施設を,平成23年度中の供用開始を目指して整備しています。

(5)宇宙・航空分野

1.研究開発の推進方策

 宇宙開発利用は,気象衛星,通信・放送衛星など国民生活に不可欠な存在であるとともに,人類の知的資産を拡大し,国民に夢と希望を与える重要なものです。我が国の宇宙開発利用は平成20年5月に成立した「宇宙基本法」により,国家戦略として総合的かつ計画的に推進されることになりました。
 文部科学省では,宇宙基本法の理念に沿って関係府省とともに,宇宙開発利用の推進に取り組んでいます。

2.宇宙・航空分野における取組

(ア)我が国の基幹ロケット
 H‐ⅡAロケットについては,平成21年1月に温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT),11月に情報収集衛星光学3号機の打上げに成功しました。これにより連続10機の打上げ成功,世界のロケットに比肩し得る9割を超える成功率を達成しています。また,平成21年9月にはH‐ⅡAロケットの能力を向上させたH‐ⅡBロケット試験機により,国際宇宙ステーション(ISS)への補給を担う宇宙ステーション補給機(HTV)技術実証機の打上げに成功いたしました(国家基幹技術「宇宙輸送システム」については,本章第3節2(1)を参照)。

(イ)人工衛星による社会的要請への対応
 「第3期科学技術基本計画」に基づく分野別推進戦略では,「海洋地球観測探査システム」が国家基幹技術として選定され,「衛星観測監視システム」はその重要な構成要素となっています(参照:本章第3節2(2))。このシステムを構成する衛星として,地図作製,災害状況把握,資源探査などを目的とした陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)のデータ提供を継続しています。「だいち」は,世界の大規模自然災害の被災地を緊急観測し,画像を提供するなど国際貢献を果たしています。また,二酸化炭素やメタンなどの濃度分布の観測を目的とした温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)のデータ提供を21年10月から開始しました。さらに全球降水観測/二周波降水レーダ(GPM/DPR)(※19)や地球環境変動観測ミッション(GCOM)(※20)の開発のほか,準天頂高精度測位実験技術(※21)の実証を行うべく,「地球空間情報の活用推進に関する行動計画」(G空間行動プラン)の下,平成22年度の打上げに向け,準天頂衛星(※22)初号機「みちびき」の開発を推進しています。これらの衛星により,気候変動などの解明や災害への対応などに役立つデータの収集・提供を行うことを通じて,国内外への貢献を目指します。また,人工衛星を利用した通信の分野では,技術試験衛星8.型「きく8号」(ETS‐Ⅷ)や平成20年2月に打ち上げられた超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)により,移動体通信やインターネットなどでの利用拡大を図ります。

(ウ)宇宙環境利用の総合的推進
 我が国は,国際協力プロジェクトである国際宇宙ステーション(ISS)計画に参加し,日本実験棟「きぼう」及びISSへの物資補給を担う宇宙ステーション補給機(HTV)の開発・運用を進めるとともに,「きぼう」の利用を中心として,宇宙環境利用を総合的に推進しています(参照:本章Topic2)。

(エ)宇宙科学研究の推進
 太陽系探査,X線・赤外線天文観測,太陽観測などを推進している宇宙科学においては,小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」への離着陸に成功し,地球への帰還を目指すなど,これまでに世界トップレベルの成果を上げています。
 月周回衛星「かぐや」は,科学的な成果が米科学誌「サイエンス」において特別編集号が組まれるなど,平成21年6月まで観測を続け,引き続きデータ解析を行い,様々な成果を公表しています。また,金星探査機「あかつき」(PLANET‐C),欧州宇宙機関との国際協力による水星探査機(BepiColombo)の開発などを進めています。

写真2‐5‐5 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

写真2‐5‐5 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

写真2‐5‐6 完成した「きぼう」日本実験棟(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA)/米国航空宇宙局(NASA))

写真2‐5‐6 完成した「きぼう」日本実験棟(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA)/米国航空宇宙局(NASA))

写真2‐5‐7 「かぐや」搭載のハイビジョンカメラによる「ラストショット」(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

写真2‐5‐7 「かぐや」搭載のハイビジョンカメラによる「ラストショット」(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

(オ)航空科学技術に関する研究開発
 航空科学技術については,産学官連携の下,環境や安全など社会が求める航空機の先端的・基盤的な技術の研究開発を推進しています。具体的には,YS‐11以来,約半世紀ぶりとなる国産旅客機をはじめ,低CO・で低騒音な旅客機・エンジンの高性能化技術や飛行安全技術などの研究開発を進めています。また,国民生活の視点からも,運輸安全委員会が行う航空事故などの調査に協力しています。

(カ)天文学研究の推進
 天文学については,ハワイ島マウナケア山頂にある大型光学赤外線望遠鏡「すばる」が,人類の観測の目が届かなかった宇宙深部の貴重なデータを取得し,観測と解明を進めています。
 また,日米欧の国際協力により,銀河や惑星などの形成過程を解明することを目的とする,「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(アルマ)計画」に参加し,平成24年度からの本格観測を目指して準備を進めています。


※19 全球降水観測/二周波降水レーダ(GPM/DPR)
 全球降水観測計画(GPM)は,地球全体の降水を複数の人工衛星を使って観測する国際プロジェクトで,水資源の管理,気候変動の予測や災害対策などへの活用が期待されている。日本が開発を担当している二周波降水レーダー(DPR)は降水を観測するセンサであり,GPM主衛星に搭載される予定。
※20 地球環境変動観測ミッション(GCOM)
 宇宙から地球全体の水循環や気候変動を10~15年の長期に渡り観測するミッションである。降水積雪量や水蒸気量,雲,エアロゾル,植生などのデータを観測し,気候変動予測や気象予測などへの活用が期待されている。
※21 準天頂高精度測位実験技術
 GPS補完・補強技術の開発及び軌道上実証,次世代衛生測位システムの基盤技術の開発及び軌道上実験。
※22 準天頂衛星
 我が国の天頂方向に衛星が見えるような準天頂軌道に衛星を配置することで,山間地,ビル陰等の影響が少なく,高度な衛星測位サービスの提供を可能とする。準天頂軌道のシステム。平成22年度に打上げ予定。

(6)原子力分野

1.研究開発の推進方策

 原子力については,発電過程で二酸化炭素を排出することがなく,地球温暖化対策としても有効である点や,エネルギー需要の逼迫化の点から,その重要性が再認識されつつあります。また,医療など様々な分野における量子ビーム(※23)テクノロジーなどの活用により,国民生活の質の向上に貢献しています。我が国の原子力の研究開発や利用は,「原子力基本法」・「原子力政策大綱」などに基づき,厳に平和利用に限り,安全確保を大前提として国民の理解と信頼を得ながら行われており,原子力平和利用の持続的発展と,国際競争力の維持・強化に向け,今後も着実に研究開発を進めることが重要です。

2.原子力の研究開発・利用の推進

(ア)原子力エネルギー研究開発の推進
 低炭素社会実現やエネルギーの安定供給,国際競争力強化に向け,高速増殖炉サイクル技術の早期実用化に向けた研究開発(参照:本章第3節2(3))などを行っています。また,人類の恒久的なエネルギー源として期待される核融合エネルギーの実現に向け,国際協定に基づくプロジェクトである「ITER計画」及び「幅広いアプローチ(BA)活動」などにより,核融合研究開発を行っています。

写真2‐5‐8 ITER(国際熱核融合実験炉)

写真2‐5‐8 ITER(国際熱核融合実験炉)

(イ)原子力科学技術の研究開発の推進
 2009年7月に中性子線施設が共用法(特定先端大型研究施の共用の促進に関する法律)対象施設として位置付けられた大強度陽子加速器施設(J‐PARC)について,物質・生命科学から産業利用まで幅広い分野における利用を進めていくほか,イオン照射研究施設(TIARA)などにおける中性子やイオンビームなどを用いたバイオ技術や環境技術に関する先導的な研究開発,放射線医学総合研究所における重粒子線がん治療の普及・高度化に向けた研究等を推進しています。

写真2‐5‐9 大強度陽子加速器施設(J‐PARC)

写真2‐5‐9 大強度陽子加速器施設(J‐PARC)

(ウ)原子力人材の育成
 我が国の原子力の研究開発・利用を支える優れた人材を育成するため,大学や高専の特色ある教育研究活動への支援を行っているほか,国際的・総合的な原子力人材育成体制の構築に向けた取組を行っています。

(エ)原子力国際協力
 アジア原子力協力フォーラム(FNCA)の枠組みの下,アジア諸国を中心とした原子力新規導入国に対する人材育成協力などを実施するとともに,国際原子力機関(IAEA)などの国際機関との連携の強化や,国際的枠組みにおける原子力先進的分野での共同研究等を推進しています。

(オ)放射性廃棄物処分に向けた取組
 高レベル放射性廃棄物の地層処分技術研究開発や,研究施設や医療機関などから発生する放射性廃棄物の処分に向けた取組などを着実に行っています。

(カ)国民の理解と共生に向けた取組
 原子力の推進に当たって不可欠な,立地地域をはじめとする国民の理解と共生のための取組として,地域の持続的発展に向けた取組に対し支援を行うとともに,原子力やエネルギーに関する教育への取組に対する支援等を行っています。

3.原子力安全や平和利用の確保に対する取組

(ア)原子炉等規制法,放射線障害防止法等による安全規制
 試験研究用原子炉設置者や一定量以上の核燃料物質・核原料物質の使用者に対して,厳格な安全規制を実施しています。さらに,核物質の盗取などによる不法な移転などを未然に防ぐための所要の施策等を実施しています。また,放射性同位元素や放射線発生装置は,医療,農業,工業,環境保全など様々な分野で利用されており,これらは「放射線障害防止法」に基づいて規制されています。

(イ)環境放射能調査の推進・原子力防災対策の充実強化
 国民の安全を確保し安心感を醸成することを目的に,原子力施設や原子力艦寄港地周辺などにおける放射線(能)水準の監視と把握に必要な調査研究を進めています。また,原子力災害発生時に備えた防災対策を実施しています(参照:第2部第11章第2節)。

(ウ)核不拡散・保障措置に関する取組
 我が国は,世界の中でも有数の原子力先進国であると同時に,核兵器を持たないことを国際的に約束した非核兵器国であり,保障措置(※24)など原子力平和利用のための世界で最も優れた経験や技術などを有しています。今後,その技術や経験を活かして国内の保障措置活動を着実に実施するとともに,国際的な核不拡散体制の強化に積極的に貢献していくことが重要です。


※23 量子ビーム
 光子,電子,中性子,ニュートリノ等の様々な粒子・電磁波等のビームの一般的な総称。様々な分野で有効に利用するため,波長やエネルギーなどが制御されているのが特徴。
※24 保障措置
 原子力の平和利用を確保するため,核物質が核兵器その他の核爆発装置に転用されていないことを,計量管理を基本に検認することであり,IAEA が当該国の原子力活動に対し適用する手段。 

(7)海洋分野

1.研究開発の推進方策

 海洋は,その広大さとアクセスの困難さのために,今もなおフロンティアであり,科学的に未解明な分野が多く存在します。しかし,これまで行われてきた様々な調査・研究により,未利用のエネルギー・鉱物資源の存在や,気候変動をはじめとする地球環境の変化への海洋の関連などが明らかとなってきています。このように,海洋の諸現象に関する原理を追求し,解明することは,地球環境問題の解決,海溝型巨大地震への対応,海洋資源の開発など,今後の人類の発展に深く関わる重要な課題の解決を図るためにも必要です。
 このような海洋の重要性を踏まえて,平成19年に「海洋基本法」が制定されました。それに基づき,今後5年間の海洋政策を示すためにまとめられた「海洋基本計画」においては,政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策として,「海洋科学技術に関する研究開発の推進等」などが挙げられています。また,同計画ではメタンハイドレート及び海底熱水鉱床について,今後10年程度を目途に商業化を実現することを目標とすることもうたわれています。
 これらを踏まえて,文部科学省では,大学や海洋研究開発機構の技術を活用し,海底熱水鉱床などの未利用の海洋鉱物資源の開発に資する技術開発に取り組んでいます。平成21年6月には,科学技術・学術審議会海洋開発分科会において,「海洋鉱物資源の探査に関する技術開発の在り方について」を取りまとめるとともに,競争的研究資金制度「海洋資源の利用促進に向けた基盤ツール開発プログラム」において,広域かつ効率的な探査に必要となる探査技術の開発を実施しています。

2.海洋分野における取組

 海洋研究開発機構は,地球温暖化などの地球環境変動の解明を目指し,アジア・太平洋域を中心とした地域において,研究船,海洋環境を観測するブイ,陸上観測機器などの観測設備を用いて,海洋・陸面・大気の観測を行っています。また,海洋底プレートの移動など海底下の地殻活動に関する研究や深海に生息する生物の研究などを行うため,船舶,有人潜水調査船,無人探査機などを用いた海域調査を実施するとともに(写真2‐5‐10,写真2‐5‐11),これらの観測研究などで得られたデータを,世界最高水準の演算性能を有するスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」などを活用して解析し,地球環境の物理的・化学的・生態的プログラムのモデル研究などを実施しています。
 また,これらの研究活動に必要な観測・探査を行うため,海洋に関する基盤技術開発を行っています。第3期科学技術基本計画に基づく分野別推進戦略において「海洋地球観測探査システム」が国家基幹技術として掲げられ,これを構成する重要な技術として「次世代海洋探査技術」が位置付けられています。
 さらに,海洋研究開発機構では,人類未到のマントルへの到達を目指す地球深部探査船「ちきゅう」を開発・建造し,「統合国際深海掘削計画(IODP)」の枠組みの下,地球環境変動,地球内部構造,地殻内生命圏などの解明を目的とする深海地球ドリリング計画を推進しています。平成21年5月からは南海トラフ地震発生帯掘削計画において,科学掘削としては世界初のライザーによる掘削(※25)を実施し,巨大地震発生メカニズムの解明に資する地層試料の採取,各種物理計測によるデータの取得が行われました。

写真2‐5‐10 現在運行中の有人潜水調査船のなかで,世界で一番深く潜ることができる有人潜水調査船(「しんかい6500」)(提供:海洋研究開発機構)

写真2‐5‐10 現在運行中の有人潜水調査船のなかで,世界で一番深く潜ることができる有人潜水調査船(「しんかい6500」)(提供:海洋研究開発機構)

写真2‐5‐11 インド洋深海熱水活動域にて大群集が発見されたスケーリーフット(和名:ウロコフネタマガイ)。足の表面が硫化鉄の鱗尾で覆われている。(提供:海洋研究開発機構/新江ノ島水族館)

写真2‐5‐11 インド洋深海熱水活動域にて大群集が発見されたスケーリーフット(和名:ウロコフネタマガイ)。足の表面が硫化鉄の鱗尾で覆われている。
(提供:海洋研究開発機構/新江ノ島水族館)


※25 ライザーによる掘削
 「ライザーパイプ」という特殊なパイプを用いた掘削のこと。海底をより深く安定して掘削することが可能。

(8)地震・防災分野

 文部科学省では,地震調査研究推進本部の方針などに基づき,全国の主要活断層帯の評価結果などを基に,平成17年に作成し,その後毎年更新してきた「全国を概観した地震動予測地図」を高度化し,より細かく評価結果を読み取ることのできる「全国地震動予測地図」を平成21年7月に公表しました(図表2‐5‐7)。さらに,近年その重要性が指摘されている,ある特定の大地震が発生した場合にその周辺や遠方に生じると予想される長い周期の地震動の分布を示した「長周期地震動予測地図2009年試作版」を平成21年9月に公表しました(図表2‐5‐8)。
 また,首都直下地震の被害軽減に資するための「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト」,近年被害地震の多い日本海東縁部等のひずみ集中帯で発生する地震のメカニズム解明などを目指した「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究」,東海・東南海・南海地震による被害軽減を目指し,広域な海底地震観測やシミュレーション研究などを実施する「東海・東南海・南海地震の連動性評価研究」を実施するとともに,新たな地震本部の計画に基づき,これまで未調査であった沿岸海域活断層の調査を開始しました。さらに,地震計,水圧計などを備えたリアルタイム観測可能な高密度海底ネットワークシステムの技術開発を実施し,東南海地震の想定震源域である紀伊半島熊野灘沖への敷設を進めました。
 防災科学技術研究所では,実大三次元震動破壊実験施設(E‐ディフェンス)を活用した耐震工学研究などの地震被害の軽減を目指した研究開発や,次世代型高性能レーダ(MPレーダ)を用いた高精度の降雨予測や土砂・風水害の発生予測に関する研究,火山災害,雪害などの自然災害による被害の軽減のための研究を実施しています。また,各種自然災害の情報を集約し,利用目的に応じた形で配信するシステム「災害リスク情報プラットフォーム」の開発に関する研究を進めています。さらに,平成21年度より,科学技術・学術審議会の建議に基づき,大学の火山観測研究の支援も視野に入れた観測体制の整備を開始しました。

図表2‐5‐7 全国地震動予測地図

図表2‐5‐7 全国地震動予測地図

今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率の分布図(基準日:2010(平成22)年1月1日)
(資料提供:地震調査研究推進本部) 

図表2‐5‐8 長周期地震動予測地図2009年試作版

図表2‐5‐8 長周期地震動予測地図2009年試作版

想定東海地震の速度応答スペクトル(周期5秒)の分布図
(資料提供:地震調査研究推進本部)

(9)新興・融合分野の研究開発の推進

 未曾有の経済危機や地球温暖化,新型感染症対策など,我々人類が直面している複雑で困難な課題の解決には,既存の研究分野にとらわれない新しい研究領域や異分野の融合領域への取組が重要です。また,新たな知を創造することによって科学技術のフロンティアを拡大するために,既存の研究分野を越えて研究者の知恵が結集できるような仕組みを構築するなど,異なった分野間での知的な触発や融合を促す環境を整えることが必要となってきています。
 文部科学省では,このような状況を踏まえ,新興・融合分野の研究開発を円滑に進める取組として,光・量子科学研究,サービス科学研究,社会技術研究,数学・数理科学と他分野の協働の推進などを行っています。

(10)安全・安心に資する科学技術の推進

 第3期科学技術基本計画において,具体的な政策目標の一つとして,「安全が誇りとなる国~世界一安全な国・日本を実現」が掲げられています。
 そのため科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会(安全・安心科学技術委員会)において,平成18年7月に「安全・安心科学技術に関する研究開発の推進方策について」を取りまとめました。これを受けて,文部科学省では,19年度から「安全・安心科学技術プロジェクト」を実施し,テロ対策や地域の安全・安心に資する科学技術について重要研究開発課題の研究開発を進めるとともに,知や技術の共有化を行っています。また,平成22年3月に同委員会で「安全・安心に資する科学技術の推進について」を取りまとめ,これに基づき,関係省庁と連携した「安全・安心な社会のための犯罪・テロ対策技術等を実用化するプログラム」を平成22年度から実施します。
 さらに,米国との協力の枠組みである「日米安全・安心科学技術協力イニシアティブ」を推進するなど,国際的な協力にも積極的に取り組んでいます。

第4節 科学技術人材の育成,確保,活躍の促進

 人口減少・少子高齢化が進む中,我が国が科学技術の力で世界をリードするためには,その担い手となる人材の養成・確保が極めて重要な問題です。
 文部科学省では,第3期基本計画を踏まえ,以下の取組を実施しています。

1 個々の人材が活きる環境の形成

(1)若手研究者の自立支援

 世界的に優れた研究成果を上げた研究者の多くは,若いころに,その研究成果の基礎となる研究を行っています。このため,公正で透明な人事評価に基づく競争の下,若手研究者に自立と活躍の機会を与えることが求められます。
 文部科学省では,科学技術振興調整費「若手研究者の自立的研究環境整備促進」を実施し,平成21年度は34機関において,テニュアトラック制(※26)を導入し,研究を始動するための資金提供や研究スペース確保などの取組が行われています。
 また,科学研究費補助金において,経験の少ない若手研究者に研究費を得る機会を与え,研究者として良いスタートを切れるように支援するため,平成21年度には,若手研究者を対象とした研究費として,約331億円を計上しています。
 科学技術振興機構の「戦略的創造研究推進事業」においても,若手研究者の応募が多い「さきがけ」などの拡充や,優秀な博士課程学生のリサーチ・アシスタントとしての雇用促進を進めています。
 日本学術振興会では,優秀な博士課程学生やポストドクター等(※27)の若手研究者が研究に専念できるよう支援する「特別研究員事業」を実施しています。平成21年度は博士課程学生の6.2%に相当する4,600名を支援しており,今後も支援の拡充を行う方針です。また,「海外特別研究員事業」を実施し,優秀な若手研究者が海外の大学等研究機関において,自らの研究計画に基づき長期間(2年間)研究に専念できるよう支援し,国際的視野に富む有能な研究者の養成・確保に努めています。さらに,「若手研究者インターナショナル・トレーニング・プログラム(ITP)」を実施し,我が国の大学が,海外の大学等と組織的に連携し,若手研究者が海外において一定期間教育研究活動を行う機会を提供することを支援しています。


※26 テニュアトラック制
 公正で透明性の高い選抜により採用された若手研究者が,審査を経てより安定的な職を得る前に,任期付きの雇用形態で自立した研究者としての経験を積むことができる仕組み。
※27 ポストドクター等
 博士号を取得した者又は博士課程に標準修業年限以上在学して所定の単位を取得の上退学した者のうち,大学又は研究機関において任期付きで研究業務に従事しているもの(教授,准教授,講師,助教,助手,研究グループのリーダー,主任研究員等の職にある者を除く)。

(2)女性研究者の活躍促進

 我が国は,女性研究者の割合が約13.0%と国際的に著しく低い状態にあり,科学技術関係人材の確保のためには,女性研究者の活躍促進は重要な課題です。
 日本学術振興会では,出産・育児により研究活動を中断した優れた若手研究者の研究現場への復帰を支援しています。また,科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業においても,出産・育児などに当たって研究者が,研究の中断・延長をすることを可能とするほか,研究員が出産・育児などから復帰する際に支援をする制度を設けています。
 また,文部科学省では,科学技術振興調整費「女性研究者支援モデル育成」により,大学などの研究機関が行う,研究と出産・育児との両立のモデルとなる優れた取組を支援しています。平成21年度には,35機関において取組が進められています。さらに,平成21年度より,科学技術振興調整費「女性研究者養成システム改革加速」において,特に女性研究者の採用割合などが低い,理学系・工学系・農学系の研究を行う優れた女性研究者の養成への支援を開始し,5大学において取組が始まりました。

(3)外国人研究者の活躍促進

 外国人研究者の活躍促進は,我が国の研究環境を活性化し,国際競争力を持続,発展させていくために重要です。文部科学省では,平成17年度から21年度まで,「大学国際戦略本部強化事業」などを通じて,外国人研究者の受入れのための事務局体制や対外情報発信力の強化を図りました。また,日本学術振興会の「外国人特別研究員事業」や「外国人招へい研究者事業」を通じた優秀な外国人研究者の招へいなどを行っています。

2 社会のニーズに応える人材の育成

(1)博士号取得者の産業界などでの活躍促進

 科学技術と社会とのかかわりが一層深化・多様化する中,科学技術に関する専門性を有する人材が,大学や公的研究機関のみならず,産業界や行政機関など社会の多様な場で活躍することが期待されています。
 文部科学省では,科学技術振興調整費「イノベーション創出若手研究人材養成」を実施し,平成21年度には17機関において,若手研究人材が国際的な幅広い視野や産業界などの実社会のニーズを踏まえた発想を身に付けることを支援する取組が行われています。

(2)技術士制度の運用

 技術士制度は昭和32年に制定された「技術士法」により創設されました。本制度の目的は,科学技術に関する高度な専門的応用能力を必要とする事項についての計画,研究,設計,分析,試験などの業務を行う者に対し,「技術士」の資格を付与することによって,その業務の適正化を図り,科学技術の向上と国民経済の発展に資することにあります。「技術士」となるためには,機械,建設などの技術部門ごとに行われる国家試験に合格し,登録を行うことが必要です。平成21年12月末現在の技術士登録者は6万6,643名,技術士補登録者は2万3,809名となっています(図表2‐5‐9)

図表2‐5‐9 技術士の技術部門別割合(平成21年12月末現在)

図表2‐5‐9 技術士の技術部門別割合(平成21年12月末現在)

(出典)文部科学省調べ

(3)技術者に対する継続的な教育機会の提供

 質が高く,十分な数の技術者を養成・確保するためには,技術者の生涯を通じた資質と能力の向上を図るシステムを構築することが重要です。また,科学技術分野の失敗経験を,その未然防止のために共有することも必要です。科学技術振興機構では最近の技術の成果や知見,失敗事例をいつでも学習・閲覧できるよう,インターネットを利用した自習教材「Webラーニングプラザ」(参照:http://weblearningplaza.jst.go.jp)と「失敗知識データベース」(参照:http://shippai.jst.go.jp)を一般公開しています。

第5節 科学の発展と絶えざるイノベーションの創出

1 競争的環境の醸成

 競争的資金は,研究者などから提案された研究開発課題について,事前審査を経て配分される資金であり,研究者の研究費の選択の幅と自由度を拡大し,競争的な研究開発環境の形成に資するものです。競争的資金は,第3期科学技術基本計画を踏まえ,引き続き,拡充を図ることとされており,文部科学省は,科学研究費補助金,戦略的創造研究推進事業,科学技術振興調整費などの我が国を代表する特色ある競争的資金制度を運用しています。また,研究費の不正使用などの防止を徹底するため,「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」(平成19年2月15日文部科学大臣決定)に基づき,体制整備の実施状況報告書の提出を研究機関に求め,内容の分析を行っています。また,ガイドラインに基づく体制整備などの現状を把握することを目的とした現地調査の実施,ガイドラインの趣旨を促進するための研修会を開催するなど,所要の体制整備を求めています。あわせて,20年1月から運用を開始している府省共通研究開発管理システム(e‐Rad)により,特定の研究者に対する研究開発経費の不合理な重複や過度の集中の排除などに努めています。

2 イノベーションを生み出すシステムの強化

(1)イノベーションを生み出す基礎研究の推進

 基礎研究には,研究者の自由な発想に基づく研究と,政策に基づき将来の応用を目指す研究があります。特に,後者は,政策目標の達成に向けて経済・社会の変革につながるイノベーションの源泉となる知識の創出を目指して進めることが求められています。
 「戦略的創造研究推進事業」は,イノベーションの創出につながる研究成果を生み出すことを目的として,政策課題対応型の基礎研究を推進する競争的資金制度です。経済・社会ニーズを考慮し文部科学省が設定した戦略目標の下,科学技術振興機構が研究領域を設け,戦略重点科学技術を中心とした研究開発を戦略的に推進しています(図表2‐5‐10)。

図表2‐5‐10 戦略的創造研究推進事業の概要

図表2‐5‐10 戦略的創造研究推進事業の概要

平成21年度に新たに設定した戦略目標
○人間と調和する情報環境を実現する基盤技術の創出
○異分野融合による自然光エネルギー変換材料及び利用基盤技術の創出
○神経細胞ネットワークの形成・動作の制御機構の解明
○気候変動等により深刻化する水問題を緩和し持続可能な水利用を実現する革新的技術の創出

※1 さきがけ型
 研究領域のリーダーである研究総括が公募により研究者及び研究課題を選定し,未来のイノベーションの芽を育む個人型研究を推進。
※2 CREST型
 研究総括が公募により研究代表者及び研究課題を選定し,インパクトの大きなイノベーションシーズを創出するためのチーム型研究を推進。
※3 ERATO型
 研究総括が自らの研究構想の実現に向け,今後の科学技術の源流となる新しい思想や科学技術の芽の創出を目指す探索型研究を推進。

(2)世界トップレベルの研究拠点の形成

 世界的な著名研究者を拠点長として責任者に位置づけ,その下に高いレベルの研究者が結集する,優れた研究環境と高い研究水準を誇る「目に見える拠点」の形成を目指し,文部科学省では平成19年度より世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)において採択した5拠点の取組を支援しています(図表2‐5‐11)。

図表2‐5‐11 世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)採択拠点一覧

図表2‐5‐11 世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)採択拠点一覧

※WPI:World Premier International Research Center Initiative

(3)イノベーション創出に向けた産学官連携の深化

 資源の乏しい我が国が,人口減少下においても国際競争力を強化し,持続的な成長を実現していくためには,イノベーションを起こすことが必要不可欠です。「知」の拠点である大学には,その原動力としての期待が高まっています。
 平成18年12月には約60年ぶりに「教育基本法」が改正され,大学の基本的役割として,それまでの教育及び研究に加え,大学で生まれた成果を広く社会に提供し,社会の発展に寄与するという社会貢献が新たに明確に位置付けられました。

1.産学官連携に関する取組

(ア)大学知的財産本部や技術移転機関(TLO)(※28)の活性化と連携強化
 産学官連携活動が十分な成果を上げていくためには,大学知的財産本部やTLOの活動を一層活性化し,効果的なものとすることが必要です。各大学等は,自らの知的財産本部とTLOとの関係を明確化するとともに,両者の連携を一層強化することが求められています。


※28 技術移転機関(TLO)
大学,高等専門学校,大学共同利用機関及び国の試験研究機関等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転を行うもの。

(1)大学等の研究成果の創出・管理・活用のための体制整備
 平成13年度に「第2期科学技術基本計画」が策定され,産業技術力の強化と産学官連携の仕組みの改革の重要性が指摘されました。これを受けて,文部科学省では,15年度から「大学知的財産本部整備事業」を開始し,大学等で生まれた研究成果を効果的に社会還元していくことを目指して,大学等の知的財産の戦略的な創出・管理・活用を図るモデル的な体制の整備を進めてきました。
 また,一部の大学等においては,事業化支援,人材育成,技術指導などの多面的な産学官連携活動を行う体制へと移行する動きも見られるようになってきました。
 このため,文部科学省では,大学等が特色ある産学官連携活動を持続的に展開できるよう,平成20年度から「産学官連携戦略展開事業」を開始し,大学等の研究成果を戦略的に創出・管理・活用するために必要な機能の強化(国際的な基本特許の権利取得及び大学間連携による知的財産活動体制の構築などに対する支援(59カ所))や,産学官連携コーディネーター(77名)を通じた大学等の産学官連携活動の支援(産業界,地域社会に向けた研究成果の社会還元の推進など)を実施してきました。
 さらに,平成21年度の行政刷新会議「事業仕分け」の評価結果などを踏まえ,22年度より「産学官連携戦略展開事業」を含む4事業を「イノベーションシステム整備事業」に一本化し,25年度までに段階的に廃止するとともに,委託費を補助金に変更し,地域・大学等の主体的な取組を活性化することとしています。

(2)技術移転機関(TLO)における最近の動き
 平成10年8月に「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律」が施行されました。同法に基づき,21年5月現在,47のTLOが承認され,各地域において精力的な活動を行っています。近年,国立大学法人とTLOが一体化した形態の承認TLOも多く見られます。

(イ)科学技術振興機構における取組

(1)大学等の有望な研究成果を基にした産学共同研究開発や大学発ベンチャー創出の促進
 科学技術振興機構では,平成20年度まで実施してきた「産学共同シーズイノベーション化事業」,「独創的シーズ展開事業」を発展的に再編し,21年度から「研究成果最適展開支援事業(A‐STEP)」を開始しました。本事業は,大学等の有望な研究成果の事業化を目指し,実用化の可能性を検証するシーズ探索,企業との実用化に向けた共同研究開発,大学発ベンチャー創出等,それぞれの状況におけるニーズや課題の特性に応じた最適なファンディング計画を設定しながら,シームレスに研究開発を進めるものです。

(2)技術移転活動に対する総合的な支援
 科学技術振興機構では,「技術移転支援センター事業」において,大学や公的研究機関などで生まれた優れた研究成果の発掘・特許化の支援を推進しています。また,大学等で生まれた研究成果について,実用化を展望した新技術の説明を発明者自らが行う「新技術説明会」の開催や,研究成果の応用・発展性に関する評価分析の実施による切れ目なく実用化につなぐための仕組みの構築など,技術移転に関する総合的支援を行っています。

2.これまでの産学官連携活動の実績と成果

 文部科学省が実施した「産学連携等実施状況調査(平成20年度実績)」によれば,企業などと大学等との共同研究件数は年間1万7,000件を突破し,大学等による国内外への特許出願件数や特許実施件数は平成15年度と比較して飛躍的に増加するなど,大学等における知的財産活動は着実に拡大してきています(図表2‐5‐12)。
 産学官連携については,文部科学省も含めた政府全体として取組が進められており,平成21年6月に,「第8回産学官連携推進会議」・「第7回産学官連携功労者表彰」が京都で開催されたほか,9月には全国最大規模の産学マッチングイベントである「イノベーション・ジャパン2009‐大学見本市」が東京で開催されました。

3.今後の産学官連携についての基本的な考え方

 我が国における持続的な成長を実現するためには,科学技術力による企業の国際競争力強化や環境などの課題分野における全世界的な新需要創造に向けた科学技術駆動型の成長戦略が必要です。
 そのためには,産学官連携の更なる推進により,大学等で生み出された独創的・先進的な研究成果を絶えず広く社会に還元し,我が国の産業の活性化や雇用の創出につなげていくとともに,これらの一連のプロセスを通じて科学技術の発展を担う人材を創出していくことが重要です。
 今後は,これまでの制度や取組の枠を越え,「教育(人材育成)」,「研究(知の創造)」・「イノベーション(社会的・経済的価値創出)」に三位一体で取り組むことで,産学官連携の実質化を図るとともに,産学官連携に対する国民理解の醸成を図るために,関係府省庁との連携を強化し,さらなる成果の普及と説明の充実に努めていきます(図表2‐5‐13)。

図表2‐5‐12 大学等における共同研究実施件数等の推移

図表2‐5‐12 大学等における共同研究実施件数等の推移

平成21年7月29日現在

※国公私立大学等を対象。
※大学等とは大学,短期大学,高等専門学校,大学共同利用機関法人を含む。
※百万円未満の金額は四捨五入しているため,「総計」と「国公私立大学等の小計の合計」は,一致しない場合がある。
※特許実施件数は特許権(受ける権利を含む)のみを対象とし,実施許諾及び譲渡件数を計上。

(出典)文部科学省「産学連携等実施状況調査」

図表2‐5‐13 産学官連携の成果事例

ダチョウによる新たな抗体大量炸裂技術を用いた鳥インフルエンザ防御用素材の開発 塚本 康浩 京都府立大学教授、オーストリッチファーマ株式会社代表取締役

京都府立大学の塚本教授は、ダチョウの卵黄を利用し、従来のマウスなどを用いる方法に比べ、低コスト(従来の1/4000程度)で大量に、反応性に優れた抗体を作製する方法を確立しました。

その後、科学技術振興機構(JST)の支援を受けて設立した大学発ベンチャー・オーストリッチファーマ株式会社で高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1の感染力を不活性化するダチョウ抗体を大量作製し、CROSSEED株式会社が、インフルエンザ感染防御用の抗体マスクとして販売しました。
また、他のインフルエンザウイルスや病原体に対する抗体の作製にも成功し、今後も幅広い商品開発が期待できます。

本事例はベンチャー企業同士の連携により、大学発の技術を実用化した優れた事例と言えます。

また、この成果事例は、平成21年6月の「第8回産学官連携推進会議」(主催:内閣府、総務省、文部科学省、経済産業省、日本経済団体連合会及び日本学術会議)において、「文部科学大臣賞」を受賞しています。

世界で一番大きな鳥類ダチョウ (京都府立大学研究牧場)

ダチョウ卵とダチョウ抗体マスク(京都府立大学にて)

3 地域イノベーション・システムの構築と活力ある地域づくり

(1)地域における「知的クラスター※29」の形成

 地域における科学技術の振興は,地域イノベーション・システムの構築や活力ある地域づくりに貢献するものであり,ひいては,我が国全体の科学技術の高度化・多様化やイノベーション・システムの競争力を強化するものであるので,国として積極的に推進することとしています。
 文部科学省では,地域イノベーション・システム構築のための重要な取組として,優れた研究開発ポテンシャルを有する地域の大学等を核に,産学官の網の目のようなネットワークを構築することによりイノベーションを持続的に創出する「知的クラスター」の形成に取り組んでいます。

1.知的クラスター創成事業

 世界中からヒト・モノ・カネを惹きつけ,国際競争力のある世界レベルのクラスター形成を目指し,他府省との連携やクラスターの広域化を図る「知的クラスター創成事業」を平成14年度から実施しています(図表2‐5‐14)。

図表2‐5‐14 平成21年度知的クラスター創成事業実施地域

図表2‐5‐14 平成21年度知的クラスター創成事業実施地域

2.都市エリア産学官連携促進事業

 小規模でも地域の特色を活かした強みを持つクラスター形成を目指し,地域の個性発揮を重視し,大学等の知を活用して新技術シーズを生み出し,新規事業等の創出,研究開発型の地域産業の育成等を図る「都市エリア産学官連携促進事業」を平成14年度から実施しています。


※29 知的クラスター
 第2期科学技術基本計画(平成13年3月30日閣議決定)において,「地域のイニシアティブの下で,地域において独自の研究開発テーマとポテンシャルを有する公的研究機関等を核とし,地域内外から企業等も参画して構成される技術革新システム」と定義されている。

(2)地域における科学技術振興施策の円滑な展開

 これまでの地域科学技術振興施策の取組により,平成20年度までに,全実施地域合計で11,219件の論文発表や,国内で3,206件,海外で510件の特許出願等の成果が創出されています。個別の地域においても,例えば長野県では,当該事業で開発した絶縁性・放熱性等に優れた絶縁膜を経済産業省の事業を活用して大電流インダクタ*30の開発に結びつけるなど,他府省の施策を積極的に活用した事業化事例も出ており,関係府省との連携を更に強化した取組を推進していきます。
 今後は,クラスター形成に関して,地域と大学等との組織的な連携を強化し,一層の地域の自立化を促進するため,これまで実施してきた地域科学技術振興事業と,大学における産学官連携の体制整備を行う事業を一本化し「イノベーションシステム整備事業(地域イノベーションクラスタープログラム)」として実施します。

4 評価システムの改革

(1)研究開発評価の意義

 研究開発の評価は,研究開発活動の進展・活性化を図り,創造性豊かなものにし,より優れた成果を上げていく上で必要不可欠なものです。
 評価を行うに当たっては,厳正に評価を行い,評価結果を適切に活用することが必要です。また,国民に対して評価結果と反映状況を分かりやすく公開し,国費を投入することに対して広く理解を得ることが大切です。

(2)研究開発の評価の現状

 我が国の研究開発の評価については,「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成20年10月内閣総理大臣決定)(「大綱的指針」)に基づき,各府省が各々の評価方法などを定めた具体的な指針を策定し,評価を進めています。文部科学省では,「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針」(平成21年2月文部科学大臣決定)(「文部科学省評価指針」)を策定し,評価に取り組んでいます。
 文部科学省としては,大綱的指針,文部科学省評価指針を踏まえ,研究開発の特性に応じた適切な評価が効果的・効率的に行われるよう努力し,貴重な財源を基に行われる研究開発活動の質を高めていきたいと考えています。

第6節 科学技術振興のための基盤の強化

1 施設・設備の計画的・重点的整備

(1)大学等における施設・設備の整備

1.研究施設の整備

 国立大学等の施設は科学技術創造立国を実現するために不可欠な基盤です。第3期科学技術基本計画において,老朽施設の再生整備が最重要課題として位置付けられたことを受けて,文部科学省では,世界一流の優れた人材の養成と創造的・先端的な研究開発の推進を目指し,「第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画」(平成18~22年度)を策定し重点的・計画的整備を推進しています(参照:第2部第10章第3節)。

2.研究設備の整備

 学術研究の推進には,基盤となる研究設備の整備・充実が必要不可欠です。大学等では,老朽化・陳腐化した研究設備の維持・更新を含めた整備が喫緊の課題となっており,科学技術・学術審議会においても,計画的な整備の必要性が指摘されています。このような現状を踏まえ,文部科学省では,大学等の自主的な整備計画(設備マスタープラン)に基づく研究設備の整備・充実への支援を行っています。

(2) 先端研究施設・設備の整備・共用の促進

 文部科学省では,最先端の大型研究施設について,「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律(共用法)」において,特定先端大型研究施設(※31)を定め,これら施設の整備を進めるとともに,公平な利用,充実した支援のための体制を構築し,共用の促進を図っています。また,その他の大学,独立行政法人などが保有する研究施設・設備(高速計算機システム,NMR 装置(※32),超高圧電子顕微鏡など)についても,産学官の研究者などによる共用を促進しています。さらに,施設利用に関する基本的な情報をインターネットを通じた研究施設共用総合ナビゲーションサイト「共用ナビ(参照:http://kyoyonavi.mext.go.jp/)」により提供しています。


※31 特定先端大型研究施設
 特定先端大型研究施設として,特定高速電子計算機施設(次世代スーパーコンピュータ),特定放射光施設(SPring-8,XFEL),特定中性子線施設(J-PARC)(平成21年6月の共用法改正により追加)が規定されている。
※32 NMR 装置
 核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)装置。強い磁場中に試料を置くことで分子の形や動きを調べることができ,タンパク質の立体構造の解析などに利用されている。

2 知的基盤の整備

(1) 知的基盤整備の推進

 我が国における先端的・独創的・基礎的な研究開発を積極的に推進するとともに,その成果の経済社会における活用を促進するためには,研究開発活動を支える研究用材料,計量標準,計測方法・機器,データベースなどの知的基盤の戦略的・体系的な整備の推進が不可欠です。科学技術・学術審議会では,平成13 年に関係各省の協力を得つつ,22年を目途に世界最高水準の知的基盤の整備を目指す「知的基盤整備計画」を策定しました。その後,「第3期科学技術基本計画」を受けて,19 年9月に科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会において,戦略目標への質的観点の取り入れや中核的な役割を担う機関などの位置付けなどの観点を新たに盛り込んだ「知的基盤整備計画について」を策定しました。

(2) 先端計測分析技術・機器開発の推進

 知的基盤の一つに,研究開発に用いる計測機器や分析機器があります。これらの機器は日常の研究開発活動の基盤となり,その使用が研究開発成果を大きく左右することを考えると,より優れた機器を継続的に使用できる環境を整備することが重要となります。世界最高水準の機器を独自で開発することは,世界初の研究開発成果の創出につながり,この積み重ねが我が国の科学技術の着実な発展につながっていきます。
 そこで,平成16年度から科学技術振興機構の実施する「先端計測分析技術・機器開発事業」において,創造的・独創的な研究開発活動を支える基盤を整備するために先端的な計測分析技術・機器及びその周辺システムの開発を推進しています。また,これまでの成果などを基にしたプロトタイプ機の一層の実用化と普及に向け,21年度から新たに,測定データの解析手法の高度化などを図る「ソフトウェア開発プログラム」を実施しています。

3 研究情報基盤の整備

 研究情報基盤は研究活動に不可欠な言わば生命線としての性格を有するとされ,我が国の研究開発の国際競争力を確保する上で重要な要素となっています。文部科学省は,大学と各種研究機関の連携を図りつつ,研究情報基盤の整備を進めています。

(1) ネットワークの整備・充実と計算資源の確保

 情報・システム研究機構国立情報学研究所が運用する学術情報ネットワーク(SINET3)は,大学などの研究者が必要とする学術情報を流通させるための基幹的ネットワークであり,平成21 年度においては,約700 の大学・研究機関などが接続しています。また,我が国の大学等における学術研究や教育活動全般を支える最先端学術情報基盤(サイバー・サイエンス・インフラストラクチャ)の更なる高度化を図るため,次期学術情報ネットワークの整備に向けた検討を進めています。
 さらに,大学などが常に最先端の教育研究活動を行えるよう,七つの大学(北海道,東北,東京,名古屋,京都,大阪,九州)の全国共同利用の施設である情報基盤センターに,スーパーコンピュータを設置しています。また,大学の学内LAN の整備を支援するなど,教育研究の一層の情報化・高度化を図っています。

(2) 研究情報流通の促進

1.研究情報データベースの整備

 科学技術振興機構では,国内外の科学技術文献を収集して,その抄録・索引等を検索・閲覧できる文献情報検索サービス(JDream Ⅱ)を提供しています(参照:http://pr.jst.go.jp/jdream2/index.html)。また,科学技術情報をより効果的に流通させるため,これまで様々なデータベース,サイトなどに存在していた科学技術情報(文献の書誌情報や研究者情報など)をつなぐ新たなシステム(J-GLOBAL)の試行版を,平成21年3月より公開しました(参照:http://jglobal.jst.go.jp/)。
 情報・システム研究機構国立情報学研究所では,大学図書館などが所蔵する学術図書・雑誌の総合目録データベースを構築するシステム(NACSIS - CAT)で作成されたデータベースをWWW 検索サービス(Webcat/Webcat Plus)を通じて提供しています(参照:http://webcatplus.nii.ac.jp/)。

2.研究情報の発信・流通の促進(デジタルコンテンツの整備)

 科学技術振興機構では,学協会の学会誌・論文誌における論文の投稿から査読,審査,公開までの工程を電子化して行う科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)を運用しています(参照:http://www.jstage.jst.go.jp/browse/-char/ja)。また,重要な学協誌の電子アーカイブ化(紙媒体の情報の電子的な記録・保存)を行い,インターネットを通じて広く世界に発信・流通しています(参照:http://www.journalarchive.jst.go.jp/japanese/)。
 情報・システム研究機構国立情報学研究所では,多種多様な学術情報を統合的に利用できる「学術コンテンツ・ポータル(GeNii)」の運用や我が国の学術雑誌の国際流通を促進する「国際学術情報流通基盤整備事業」の実施などにより,学術情報流通基盤の整備を推進しています(参照:http://www.nii.ac.jp/services/service-j.shtml#06)。また,各大学における機関リポジトリ(※33)の構築と連携を支援するとともに,我が国の学術機関リポジトリに蓄積された情報を検索できるポータルサイトJAIRO を提供しています(参照:http://jairo.nii.ac.jp/)。


※33 機関リポジトリ
 大学及び研究機関等における教育研究活動によって生産された電子的な知的生産物を保存し,原則的に無償で発信するためのインターネット上の保存書庫。

第7節 国民の科学技術に対する理解と意識の醸成

 我が国の国民の多くは科学技術が社会に貢献していると感じ,地球環境問題や生活面での安全性や安心感,心の豊かさなどの面において科学技術に大きな期待を寄せている一方で,科学技術の急速な進歩に対して不安を感じている人も少なくありません。今後,ますます発展する科学技術が円滑に社会に受け入れられていくためには,科学技術の成果を国民に還元するとともに,それを分かりやすく発信するなど,説明責任と情報発信を強化し,国民との対話を進めていくことによって,国民の理解と支持を得ることが重要です。

1 科学技術理解増進活動の推進

(1)日本科学未来館の整備・運営

 科学技術振興機構が運営する「日本科学未来館」では,最先端の科学技術を分かりやすく紹介する展示や解説,講演,イベントの企画などを通じて,研究者と国民の交流を図っています。また,我が国の科学技術コミュニケーション活動の中核拠点として,人材の育成や全国各地域の科学館・学校などとの連携を進めています(参照:http://www.miraikan.jst.go.jp)。

(2)地域における科学技術に親しみ,学習する機会の充実

 科学技術振興機構では,全国各地域の科学コミュニケーション活動を推進するため,科学館や大学,地方公共団体,ボランティアなどによる実験教室やイベントの開催,ネットワークの構築などを支援しています。

2 全国各地への科学技術情報の発信(サイエンスチャンネル)

 科学技術振興機構では,科学技術に関する様々なトピックを,青少年をはじめとする国民一般に分かりやすく紹介する番組を制作し,テレビやインターネットなどを通じて全国に配信しています(参照:http://sc-smn.jst.go.jp)。

3 科学技術週間

 平成21年4月13日~19日に,試験研究機関,地方公共団体など関係機関の協力を得て第50回「科学技術週間(※34)」を実施しました。同週間中は,全国各地の関係機関において,施設の一般公開や実験工作教室,講演会の開催などの各種行事が実施されました。文部科学省は,科学技術館において「科学技術週間&科学技術映像祭50年記念シンポジウム」を行うとともに,東京・神田神保町で研究者と一般の方とがお茶を飲みながら科学技術について気軽に話し合う「サイエンスカフェ」などを開催しました。

4 子ども科学技術白書

 科学技術振興機構では,時宜に適ったテーマを取り上げて科学技術に関する身近な疑問や研究成果などをマンガで分かりやすく解説した「子ども科学技術白書」を作成し,全国の公立小学校や図書館などに配布しています。


※34 科学技術週間
 科学技術週間は昭和35(1960)年の閣議了解に基づき設けられたもので,期間は毎年4月18日を含む1週間。

お問合せ先

生涯学習政策局政策課教育改革推進室

(生涯学習政策局政策課教育改革推進室)

-- 登録:平成22年08月 --