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第2章 現下の教育課題への対応 ~教育の機会の確保と質の向上~

前章では,我が国において家庭の教育費負担が大きい一方,教育に対する公財政支出が国際比較で低い水準にあることを見てきました。しかし,今後の国や社会の在り方を考える上で,その基盤となる教育への投資の充実が重要です。本章では,教育の段階別に,今後具体的に重視すべき分野や課題について考察します。

1 就学前教育段階

 日本の3,4歳児の幼稚園の就園率および保育所の在籍率は84.4%と,OECD平均71.2%を大きく上回っており,3,4歳児のうち5人に4人以上が幼稚園や保育所へ通う状況となっています(図表1-2-1)。

図表1-2-13,4歳児の幼稚園就園及び保育所在籍率

図表1-2-13,4歳児の幼稚園就園及び保育所在籍率

(出典)OECD「EducationataGlance(2009)」より作成

 しかし,そのために要する教育費の負担は家庭に重くのしかかっています(参照:第1部第1章図表1-1-25)。幼稚園や保育所など,就学前教育段階の施設に対する日本の公費支出の対GDP比は,OECD諸国のうち34カ国中29位であり,就学前教育に対する公費支出は非常に低い状況にあります(図表1-2-2)。

図表1-2-2 保育サービス及び幼稚園への公費支出(対GDP比)

図表1-2-2 保育サービス及び幼稚園への公費支出(対GDP比)

(出典)OECDFamilydatabaseより作成

 高い就園率・在籍率に見られるように,就学前教育段階の教育機会はある程度確保されていますが,これは国際的に見て高い私費負担により支えられている現状が浮かび上がってきます。
 幼児期の教育は,平成18年に改正された教育基本法にも新たに規定されたように,将来の我が国と社会を担う人材の,その生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要な役割を有しています。このことからも,社会全体で幼児教育を支えるための環境整備が必要と考えられます。なお,平成22年度からは「子ども手当」の制度が新たに始まり,幼児教育をはじめとした子どもたちの未来を創る教育のために有効に活用されることが強く期待されるところです。

2 初等中等教育段階

 義務教育段階の就学率は,戦後一貫してほぼ100%となっています。一方,日本を含めた世界規模での社会・経済の急激な変化や,子どもの多様化,また特別な支援が必要な子どもの増加など,義務教育を取り巻く環境は急速にかつ大きく変化しています。このような中,新しい時代にふさわしい施策に積極的に取り組むことにより,教育の質の向上と機会の確保を進めなければなりません。

(1)子どもたちの学力の状況

〈全国学力・学習状況調査〉

 まず,我が国の子どもの学力が,どのような状況にあるのかを見てみましょう。平成19年度から3年間,小学校6年生と中学校3年生の児童生徒を対象として実施された全国学力・学習状況調査の結果を分析すると,主として「知識」の問題は一部課題が見られ,主として「活用」の問題(知識・技能を活用する力)に全般的に課題が見られました(図表1-2-3,参照:第2部第2章第1節1(1))

図表1-2-3 全国学力・学習状況調査の調査結果から

図表1-2-3 全国学力・学習状況調査の調査結果から

〈生徒の学習到達度調査(PISA)〉

 OECDが実施する生徒の学習到達度調査(PISA調査)の平成18年度(2006年)調査結果
(PISA2006)を見てみましょう。PISA調査は,義務教育終了段階の15歳児(我が国では高校1年生)を対象に,読解力,数学的リテラシー,科学的リテラシーについて調査を実施しており,平成19年12月に公表されたPISAの2006年の調査の結果によると,我が国の学力について主に次のような結果が出ています(図表1-2-4)。

図表1-2-4 OECD生徒の学習到達度調査(PISA2006)

図表1-2-4 OECD生徒の学習到達度調査(PISA2006)

  • 科学的リテラシーは国際的にみて上位
  • 読解力はOECD平均と同程度の水準
  • 数学的リテラシーはOECD平均より高得点のグループに位置するが,前回(PISA2003)に比較して平均得点は低下

以上の結果から,我が国の子どもの学力は,国際的に見て上位にあるといえますが,一方で,次のような課題があります。

  • 2006年(平成18年度)の調査において,読解力の平均得点が上位であるフィンランドや韓国における習熟度レベル別の割合と比較すると,日本は中位・下位層が多く,上位層が少ない傾向。
    また,学力の高い層・低い層の割合に着目すると,第1章でも見たように,2000年(平成12年)の調査結果と2006年(平成18年)の調査結果を比較すると,我が国では学力の高い層の生徒が減少し,低い層の生徒が増加。(図表1-2-5~図表1-2-6(再掲)参照:第1部第1章第1節3)
  • 学習意欲や関心の面を見てみると,PISA2006では,科学への興味・関心の度合いや科学の楽しさを感じている生徒の割合が低く,観察・実験などを重視した理科の授業を受けていると認識している生徒の割合が低い(図表1-2-7)。
図表1-2-5(再掲) 習熟度別の生徒の割合の推移(PISA調査(読解力)より)

図表1-2-5(再掲) 習熟度別の生徒の割合の推移(PISA調査(読解力)より)

(出典)国立教育政策研究所編『生きるための知識と技能』ぎょうせい(2002,2004,2007年)より作成

図表1-2-6 (再掲)習熟度レベル別の生徒の割合の推移(PISA2006読解力)

図表1-2-6 (再掲)習熟度レベル別の生徒の割合の推移(PISA2006読解力)

(出典)国立教育政策研究所編『生きるための知識と技能』ぎょうせい(2002年,2004年,2007年)より作成

図表1-2-7 学習意欲や関心などに関する調査(PISA調査2006)

図表1-2-7 学習意欲や関心などに関する調査(PISA調査2006)

(出典)PISA調査2006より作成

〈国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)〉

 次に,IEA(国際教育到達度評価学会)が実施している国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)を見てみます。TIMSS調査は,小学4年生,中学2年生を対象に算数・数学,理科について調査を実施しており,平成20年(2008年)に公表されたTIMSSの2007年調査の結果では,主に次のような結果が出ています。(図表1-2-8)。

  • 平均得点はすべて前回以上
  • 前回調査から調査参加国が増加したが,国際的に見て上位を維持
  • 数学が楽しいと思う割合は,前回の2003年調査と比べ,小学生では増加傾向が見られ,特に理科で国際平均を上回ったが,中学生は国際的に見て数学・理科ともに依然低い(図表1-2-9)
  • 希望の職業に就くために良い成績を取ると思う中学生は,国際的に見て依然として少ないが,前回調査と比べて数学・理科ともに増加傾向
  • 学校外での時間の過ごし方については,依然として宿題をする時間が短く,テレビやビデオを見る時間が長く,家の手伝いをする時間が短いが,小学生の宿題をする時間は増加傾向以上のように,我が国の子どもの学力は,国際的に見て上位にあるといえますが,一方で,さまざまな課題があります。すべての子どもが個人として豊かな人生を送ることができるよう,その基盤となる力をはぐくむためには,一人一人の学ぶ意欲や関心,学力を向上させ,その結果として世界トップの学力水準が達成されることが望まれます。そのため,質の高い教員を十分確保するなど,子ども一人一人の実態に応じたきめ細かな教育を実施できる環境を実現することが重要です。
図表1-2-8 IEA国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2007)の結果より

図表1-2-8 IEA国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2007)の結果より

(※ただし,2007年調査結果はいずれの教科も平均得点はすべて前回以上であるが,統計上の誤差を考慮すると前回と同程度となる。)

図表1-2-9 学習意欲や関心に関する調査(TIMSS調査2007)

図表1-2-9 学習意欲や関心に関する調査(TIMSS調査2007)

(出典)TIMSS調査2007より作成
TIMSS:国際数学・理科教育動向調査(TrendsinInternationalMathematicsandScienceStudy)
1960年創設の「国際教育到達度評価学会」(略称:IEA。本部:オランダのアムステルダム。会長:SeamusHegarty)によって1964年(昭和39年)から継続的に実施されている調査。初等中等教育段階における児童・生徒の算数・数学及び理科の教育到達度(educationalachievement)を国際的な尺度によって測定し,児童・生徒の学習環境条件等の諸要因との関係を参加国間におけるそれらの違いを利用して組織的に研究することを目的に実施。

(2)現代的課題や指導上の諸課題

 子どもの多様化が進む中,不登校児童生徒の割合は平成5年度から20年度の間に小学校で1.9倍,中学校で2.3倍に増え,学校内での暴力行為の件数は18年度から20年度の間に小学校で1.7倍,中学校で1.4倍に増えました(※15)。また,日本語指導が必要な外国人児童生徒数は,3年度から20年度の間に小学校で4.6倍,中学校で5.1倍に増え,学習障害(LD)(※16)や注意欠陥多動性障害(ADHD)(※17)自閉症などの発達障害等により通級による指導(※18)を受けている児童生徒数は,5年度から21年度のうちに小学校で4.2倍,中学校で11.6倍に増える(図表1-2-10)など,もはや一握りの子どもだけの課題ではない状況にあります。今後一層,子どもたち一人ひとりに応じたケアをきめ細かく行っていく必要があります。


※15 暴力行為の発生件数については,増加傾向にあるが,平成18~20年度の増加については,平成18年度調査以降,被害届や診断書の有無,事案の軽重にかかわらず,暴力行為をすべて計上するよう周知徹底していることも影響していると考えられる。
※16 学習障害(LD:LearningDisabilities)
 基本的には全般的な知的発達に遅れはないが,聞く,話す,読む,書く,計算する,推論する能力のうち,特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。その原因としては,中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが,視覚障害,聴覚障害,知的障害,情緒障害などの障害や,環境的な要因が直接の原因となるものではない。
※17 注意欠陥多動性障害(ADHD:Attention-Deficit/HyperactivityDisorder)
 年齢あるいは発達に不釣合いな注意力,衝動性,多動性を特徴とする行動の障害で,社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。一般に7歳以前に現れ,その状態が継続するもので,中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。
※18 通級による指導
 小・中学校の通常の学級に在籍し,比較的軽度の言語障害,情緒障害,弱視,難聴などのある児童生徒を対象として,主として各教科などの指導を通常の学級で行いながら,障害に基づく種々の困難の改善・克服に必要な特別の指導を特別の場で行う教育形態であり,平成5年度から行われている。18年度からは,LD・ADHDの児童生徒についてもその対象に位置付けられた。

図表1-2-10 学校現場が抱える問題

図表1-2-10 学校現場が抱える問題

(3)教職員数の充実

 このような課題がある中,学校教育を支える教職員はどのような状況にあるのでしょうか。学校教育は,教職員と児童生徒との間のコミュニケーションを通じた人間的な関わりの中で行われるものです。このため,子ども達の学力を向上させ,豊かな人間性を備えた人材を育成するためには,全国どの地域においても必要な教職員を確保し適正に配置することが必要です。また,学校教育においては,児童生徒の学習と生活の基盤となるのが学級であり,学級の規模(一学級の児童生徒数)を適正なものとすることも教育環境を整備する上で重要な課題です。
 このため,国においては,いわゆる義務教育諸学校標準法(※19)及び高等学校標準法(※20)により,公立学校における一学級の児童生徒数及び教職員定数の標準を定め,全国的な教育水準の向上を図っています。さらに,義務教育諸学校の基幹的な教職員の給与費については,義務教育費国庫負担制度により都道府県が支出した額の3分の1を国が負担することにより,地方公共団体の財政力の差によって義務教育における教職員の確保に格差が生じないようにされています。
 これまで見てきたような子どもたちの学力など学校教育が抱える諸課題に対応するため,知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成を重視して学習指導要領が改訂され,小学校では平成23年度から,中学校では平成24年度から全面実施されます。小・中学校では平成21年度から既に一部が先行実施されていますが,新学習指導要領では,授業時数が小学校の国語・算数・理科で10.8%,中学校の数学・理科・外国語で29.3%増加するのをはじめ,授業時数・授業内容が増加されています。
 このため,学校週5日制を考慮して平日の授業時数で比較すると,最も授業時数が多かった昭和40年代と比べても,週当たり授業時数は1コマ増加します(授業時数の小・中学校平均は,昭和46年度に26.7コマだったのに対して,新学習指導要領の全面実施後は27.7コマ)。
 このような授業時数等の増に対して,学校現場はどのように対応しているのでしょうか。これまで学校現場では子どもたちの個に応じた指導を充実するため習熟度別少人数指導の取組が図られてきました。習熟度別少人数指導は,少人数の学習集団によるきめ細かな指導により,学習に対する関心・意欲・態度や正答率の向上に効果があることが,全国学力・学習状況調査の追加分析の結果から示されています(図表1-2-11)。特に,第7次定数改善計画に基づいて習熟度別少人数指導等に必要な教職員を計画的に増員した平成13年度から17年度に実施校の割合が大幅に増加しましたが,新学習指導要領の先行実施が始まった平成21年度においては,習熟度別少人数指導等を実施する学校の割合が減少に転じています。これは,新学習指導要領の先行実施に伴う授業時数の増への対応を優先したこと等が要因と考えられます(図表1-2-12)。


※19 義務教育諸学校標準法
 「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」
※20 高等学校標準法
 「公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律」

図表1-2-11 習熟度別少人数指導の効果

図表1-2-11 習熟度別少人数指導の効果 ○習熟度別少人数指導を行うことにより,低学力層の児童生徒の学習に対する関心・意欲・態度が高まる

図表1-2-11 習熟度別少人数指導の効果 ○習熟度別少人数指導を受けた児童生徒の方が,受けなかった児童生徒よりも無解答率が低い(=解答意欲が高い)

図表1-2-11 習熟度別少人数指導の効果 ○習熟度別少人数指導を受けた児童生徒の方が,受けなかった児童生徒よりも正答率が高い

(出典)「平成20年度全国学力・学習状況調査追加分析(H21.3)」

図表1-2-12 習熟度別少人数指導等の実施校の割合

図表1-2-12 習熟度別少人数指導等の実施校の割合

(出典)公立小・中学校における教育課程の編成・実施状況調査

※数値は,公立小・中学校のうち,児童生徒の理解や習熟の程度に応じた指導を実施している学校の割合である。
※数値は,年間を通じて実施するものだけでなく,ある単元の学習等の特定の時期で実施した場合,特定の学年で実施した場合も含んでいる。

 また,新学習指導要領では,全教科等における言語活動を重視し,観察・実験やレポート作成,論述等の知識・技能を活用する学習活動を充実することとしており,教員が従来よりも一層教材の準備や研修を行いながら子どもたちにきめ細かな指導を行う必要性が高まっています。
 このような授業時数等の増や指導内容の充実・高度化に適切に対応しながら,新学習指導要領を円滑に実施するための教職員定数の改善が求められています。ところで,教職員定数は,基本的に学級数に応じて決まり,学級数は児童生徒数に応じて決まります。従って,少子化が進行し,児童生徒が減少する局面では,基礎となる教職員定数は理論的には減少することになりますが,近年は特別支援学校や特別支援学級に在籍する児童生徒数の急増を背景に異なる状況が生じています。例えば,平成17年度から平成21年度にかけて,義務教育諸学校に通う児童生徒の総数は約17万人減少しました。しかし,小・中学校の通常学級に通う児童生徒数が21万人以上減少している一方で,特別支援学級や特別支援学校に通う児童生徒数は合わせて約5万人増加しています。特別支援学級や特別支援学校の学級編制の標準は通常学級の40人よりも小さい(※21)ため,少子化の進展により児童生徒数が減少しているにも関わらず,学級数は全体で微増しており,教職員定数もほぼ横ばいになっています(図表1-2-13~図表1-2-16)。
 また,特別支援学校・特別支援学級に通う児童生徒の増加とともに,学習障害(LD)・注意欠陥多動性障害(ADHD)・自閉症などの発達障害のある児童生徒を含め,ほとんどの授業を通常の学級で受けながら,障害の状態等に応じた特別の指導を受ける通級による指導の対象となる児童生徒も近年増加しています(図表1-2-17)。このような中,従来の40人を標準とした学級規模では,担任の教員1人のみで多様な子ども達に向き合うことが困難となっており,子ども達一人一人のニーズに応じた教育によりその可能性を最大限に伸ばすため,教職員や特別支援教育支援員など専門スタッフの配置を充実することが重要となっています。


※21 法律に定められている一学級の児童生徒数の標準は,通常学級が40人,特別支援学級が8人,特別支援学校(小・中学部)が6人(重複障害の場合は3人)となっている。

図表1-2-13 公立義務教育諸学校の児童生徒数と標準学級数

図表1-2-13 公立義務教育諸学校の児童生徒数と標準学級数

(出典)文部科学省調べ

図表1-2-14 特別支援学校に在籍する幼児児童生徒数の推移

図表1-2-14 特別支援学校に在籍する幼児児童生徒数の推移

※平成18年度までの数値は,盲学校・聾学校・養護学校(知・肢・病)の5種の学校の在籍者数を合計したものであり,その合計が特殊教育諸学校の在籍者数となる。しかし平成19年度以降の数値は,複数の障害種に対応できる特別支援学校制度へ転換したため,幼児児童生徒の障害種は学級編制により集計した。そのため,重複障害学級在籍者はそれぞれの障害種に重複してカウントしているため,各障害種の在籍者の合計は,特別支援学校在籍者数とは一致しない。
(出典)文部科学省「学校基本調査」

図表1-2-15 特別支援学級に在籍する幼児児童生徒数・学級数の推移

図表1-2-15 特別支援学級に在籍する幼児児童生徒数・学級数の推移

(出典)文部科学省「学校基本調査」

図表1-2-16 特別支援学級及び特別支援学校在籍者の割合の推移

図表1-2-16 特別支援学級及び特別支援学校在籍者の割合の推移

(出典)文部科学省「学校基本調査」

図表1-2-17 通級による指導を受けている児童生徒数の推移(公立小・中学校合計)

図表1-2-17 通級による指導を受けている児童生徒数の推移(公立小・中学校合計)

※各年度5月1日現在
※「難聴その他」は難聴,弱視,肢体不自由及び病弱・身体虚弱の合計である
※「注意欠陥多動性障害」及び「学習障害」は,平成18年度から通級指導の対象として学校教育法施行規則に規定
(併せて「自閉症」も平成18年度から対象として明示:平成17年度以前は主に「情緒障害」の通級指導教室にて対応)
(出典)文部科学省「通級による指導実施状況調査」

 今まで述べてきたように,学力の向上や児童生徒の問題行動への対応をはじめ,学校現場が抱える課題は年々複雑化・多様化してきています。このような状況に適切に対応するためには,様々な学校のスタッフがそれぞれの持つ専門性を発揮しながら有機的に連携して学校の教育力を高めていくことが必要です。しかし,日本の学校では,教員が学習指導はもとより生徒指導や部活動,学校運営に関する業務,外部対応など幅広い業務を担当する一方,教員を支える専門スタッフの配置が諸外国と比べて遅れている状況にあります(図表1-2-18)。平成18年度に文部科学省が実施した「教員勤務実態調査」でも,多くの教員が「授業の準備をする時間が足りない」「保護者や地域住民への対応が増えた」「教員の行うべき仕事が多すぎる」と感じていると答えており,教員が児童生徒への指導に関わる業務以外の業務に追われがちな状況がうかがえます(図表1-2-19)。
 平成18年度の「教員勤務実態調査」によると,小・中学校の教諭の残業時間(1カ月あたり)は休日を含めると平均約42時間にのぼり(図表1-2-20),約9割の教員が授業準備に十分な時間が取れていないと感じているとの結果が出ています。また,国際的にも,教員の法定勤務時間はOECD平均が1,662時間(初等教育)であるのに対して,わが国は1,960時間となっています(図表1-2-21)。信頼される公教育を確立するため,教職員の配置充実などにより学校現場の負担を軽減して教員が子ども一人一人に向き合う環境をつくり,学校現場で日々頑張っている教員を支援することが必要となっています。

図表1-2-18 初等中等教育学校の教職員総数に占める教員以外の専門スタッフの割合

図表1-2-18 初等中等教育学校の教職員総数に占める教員以外の専門スタッフの割合

(出典)平成20年度学校基本調査,”Digest of Education Statistics 2008”,“School Workforce in England January 2009”
※日本は小・中学校に関するデータ

図表1-2-19 教員の勤務実態調査結果

図表1-2-19 教員の勤務実態調査結果

(出典)文部科学省委託調査研究「教員勤務実態調査(小・中学校)報告書(平成18年度)」より作成(小学校・教諭のデータ)

図表1-2-20 平成18年度文部科学省教員勤務実態調査について

集計結果の概要

●教諭の勤務日・1日当たりの勤務時間(小・中学校平均)

  第1期
(7月分)
第2期
(8月分)
(夏期休業期)
第3期
(9月分)
第4期
(10月分)
第5期
(11月分)
第6期
(12月分)
1.児童生徒の指導に直接的
にかかわる業務
6時間27分 2時間17分 7時間06分 6時間55分 6時間48分 6時間25分
2.児童生徒の指導に間接的
にかかわる業務
2時間24分 1時間23分 1時間55分 2時間07分 2時間00分 2時間27分
3.学校の運営にかかわる業務及びその他の業務 1時間43分 4時間24分 1時間31分 1時間37分 1時間48分 1時間36分
4.外部対応 0時間22分 0時間10分 0時間06分 0時間08分 0時間10分 0時間16分
合計 10時間58分 8時間17分 10時間39分 10時間48分 10時間47分 10時間45分
うち,残業時間 2時間09分 0時間26分 1時間56分 1時間57分 1時間56分 1時間53分
休憩時間 0時間09分 0時間44分 0時間10分 0時間07分 0時間07分 0時間06分

●1ヶ月あたりの残業時間

1日分×20日 43時間00分 8時間40分 38時間40分 39時間00分 38時間40分 37時間40分

(業務の内容)

  1. 授業,補習指導,生徒指導,学校行事,部活動・クラブ活動等
  2. 授業準備,成績処理,連絡帳の確認,学年・学級通信の作成等
  3. 会議・打合せ,事務・報告書作成,研修,その他の校務等
  4. 保護者・PTA対応,地域対応,行政・関係団体対応等

●年間ペースの1ヶ月あたり残業時間 ※成績処理や授業準備などの持ち帰りの業務は含んでいない。
 平成18年度調査 約34時間(平日のみ) 約8時間(休日) 昭和41年度調査 約8時間(平日・休日)

●調査の概要

<調査期間>
 平成18年7月3日~平成18年12月17日
 ※第1期(7月分)~第6期(12月分)28日間ずつ6期に分けて実施。

<調査対象校>
 全国の公立小・中学校のうち,地域・学校規模のバランスを考慮して無作為に抽出した学校
 ※(小学校180校,中学校180校)×6期を抽出
 ※毎月調査対象校を変更(1校の調査期間は1月間のみ)

<調査対象教員>
 校長,教頭,教諭,栄養教諭,養護教諭,講師(常勤)

図表1-2-21 教員の法定勤務時間

図表1-2-21 教員の法定勤務時間

(出典)図表で見る教育2009よりOECD事務局が作成

 また,精神疾患による教員の病気休職者は年々増加し,平成20年度では5,400人(病気休職者数全体の63.0%)に達しています(図表1-2-22)。
 次に,各国の学級規模の上限・標準を比較してみると,英・米・独では,学年によって若干の増減はあるものの,概ね30人以下になっており,我が国の40人を大幅に下回っています(図表1-2-23)(※22)。その結果,我が国の一学級当たりの児童生徒数をみると,小学校で28.1人,中学校で33.0人と,OECD平均の21.4人と23.4人を大きく上回っています(図表1-2-24)。


※22 なお,我が国の都道府県における運用では,図表2-2-25のように40人を下回る学級編制基準の設定も行われている。

図表1-2-22 精神疾患による病気休職者数等の状況

(調査対象)公立の小学校,中学校,高等学校,中等教育学校,特別支援学校における校長,教頭,教諭,助教諭,養護教諭,養護助教諭,栄養教諭,講師,実習助手及び寄宿舎指導員

図表1-2-22 精神疾患による病気休職者数等の状況

※年度の下のカッコは,精神疾患による休職者数の対前年比の数を示す。

(出典)教育職員に係る懲戒処分等の状況について

図表1-2-23 学級規模の基準[国際比較]

図表1-2-23 学級規模の基準[国際比較]

(出典)文部科学省調べ

図表1-2-24 1学級あたり児童生徒数[国際比較]

国公立学校での平均学級規模(2007年)は,初等教育28.1人,前期中等教育33.0人であり,OECD平均を上回り,もっとも高い国の一つ。
(日本の数値が,学校基本調査に基づく数値と異なるのは,各国間比較のため特別支援学級を除いていることなどによる)

図表1-2-24 1学級あたり児童生徒数[国際比較]

(出典)OECD「図表で見る教育(2009年版)」表D2.1

 また,全体の平均値だけでなく,学級規模別の在籍者数を比較してみても,30人以下学級に在籍する児童生徒の割合は,日本の小学校においては45.8%,中学校においては18.2%にとどまるのに対し,イングランドの初等学校では87.7%,中等学校では89.6%に上っています(図表1-2-25)。

図表1-2-25 学級規模別の在籍者数

図表1-2-25 学級規模別の在籍者数

(出典)日:平成21年度学校基本調査英:DCSF:Schools,Pupils,andtheirCharacteristics,January2009

 学級規模を小さくすることでどのような効果があるのでしょうか。児童生徒一人一人へのきめ細かな指導が充実されることなどにより,次のような効果が期待されます。

【学習面】
  • 生徒一人一人に目が行き届き,個に応じたきめ細かな学習指導が行え,学力向上に効果がある
  • 発言,発表など,子ども一人一人の活躍の場が増加している
  • 教室にゆとりのスペースが生まれ,学習環境が向上している
【生活面】
  • 不登校や問題行動の早期対応につながっている
  • 幼児教育から小学校教育への円滑な移行が図られている
  • 子どもたちが落ち着いて学校生活が送れる

 一方,学級規模が少人数になりすぎると,学級の生活集団としての機能が十分に果たされないのではないか,という指摘もあります。
 また,教員一人当たり児童生徒数でも,初等教育で19.0人,前期中等教育で14.8人と,OECD平均のそれぞれ16.0人,13.2人を上回っています(図表1-2-26)。

図表1-2-26 教員一人当たり児童生徒数[国際比較]

 日本の国公私立学校での教員一人当たり児童生徒数(2007年)は,初等教育19.0人,前期中等教育14.8人であり,OECD平均を上回る。
 (日本の数値が,学校基本調査に基づく数値と異なるのは,各国比較のため校長・教頭を除いていることなどによる)

図表1-2-26 教員一人当たり児童生徒数[国際比較]

前期中等教育のうち,アイルランド,オーストラリア,オランダ,ルクセンブルグ,ロシアは中等教育合計の数値を使用した
(出典)OECD「EducationataGlance(2009)」表D2.2

 以上のように,質の高い教育を実現する上で,教員が一人ひとりの子どもに向き合うことができる環境を整えることは非常に重要です。このため,教員数の充実や支援する専門的なスタッフの充実,地域による学校支援の取組の促進が重要な課題です。
 また,教育の充実のためには,担い手である教員の資質能力の向上を図り,実践的指導力を身につけ,複雑・多様化した課題に対応できる教員を確保することが求められます。諸外国では,教員養成において学士相当を超える課程としている例も見られ,このような状況なども参考としつつ,教育実習期間の長期化も含めた教員養成課程の充実など,教員養成・採用・研修の各段階を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について検討することが必要となっています(図表1-2-27)。

図表1-2-27 諸外国における教員養成について
  学校種 学級編制基準
アメリカ

4年制大学(4年間の学士号取得課程が主流であるが,延長型の5年課程や大学院課程もある)

12週間以上が22州
(州により異なる。)
英 国

高等教育機関の教員養成課程(3~4年)又は学士取得者を対象とした教職専門課程(1年)

4年制養成課程 32週間以上
教職専門課程 18 ~ 24週間

ドイツ

大学の教員養成課程
(3.5年~5年)

学士課程(3年) 14週間
修士課程(1~2年) 4週間
計 18週間
(ニーダーザクセン州の場合。州により異なる。)

フィンランド

大学の教員養成課程
(5年)

不明

日本

大学(4年)における教員養成が標準

幼・小・中学校 4週間
高等学校 2週間

(出典)文部科学省調べ

Column No.2 教職大学院での実践的指導力を備えた教員の育成 ~福井大学教職大学院の取組~

院生と教職大学院教員とのカンファレンス

院生と教職大学院教員とのカンファレンス

 教職大学院は,実践的指導力を備えた新人教員の養成や,現職教員を対象としてスクールリーダーの育成を行うため,平成20年度から開設されています。10単位以上の実習が義務づけられ,事例研究やフィールドワークを積極的に導入し,教育委員会や地域の学校と連携・協力の下で,力量ある教員の養成を行っています。
 福井大学教職大学院では,「学校の抱える課題を,学校で,同僚教師と協働して解決する」大学院を目指し,「学校拠点方式」として,県内の複数の学校(拠点校)と連携した実践的な取組が進められています。学部新卒学生は,1年間の長期インターンシップを行い,週の前半は,年間サイクルに即して学校づくりを担う一員として拠点校に赴き,授業研究だけでなく,学級経営や生徒指導,年間指導計画や校務分掌などの組織運営,児童生徒の発達・成長の様子を学びます。週の後半は,実践の事例を持ち寄って,大学で実習の方向性や質の向上に向けたカンファレンスを行います。一方,現職教員学生は,それぞれの学校に勤務しながら,同僚教員と協働して課題を解決し,スクールリーダーとしてのマネジメント能力を育成します。

(4)教育条件の地域間格差

 近年,教育予算を使途が特定されない一般財源化したり,教職員人件費の国庫負担率を1/2から1/3に引き下げるなど,国による教育に要する費用の保障が弱くなる中で,地方財政の悪化等により教育条件の悪化と地域間格差が生じているのではないかとの懸念があります。
 一例として,小・中学校の教材費や学校図書館図書費については,以前は国庫負担制度により,国と地方の双方が,使途を特定して費用を負担していましたが,昭和60年度に一般財源化されました。
 その後,地方財政の悪化などにより地域間で格差が生じており,公立小・中学校1校あたりの学校図書館図書費をみてみると,平成21年度予算の全国平均52万円に対して最高は83万円の県がある一方,最低は26万円の県があります(図表1-2-28~図表1-2-29)。
 このような状況の中,各都道府県の学校図書館図書標準を達成している公立小学校の割合も,平成19年末現在,全国平均45.2%に対して最高は89.1%の県がある一方,最低は18.7%の県があり,地域によって子どもの学習環境に大きな格差が生じる結果となっています。

図表1-2-28 小・中学校の1学級あたり教材費

図表1-2-28 小・中学校の1学級あたり教材費

(出典)文部科学省調べ

図表1-2-29 小・中学校の1校あたり図書費

 図表1-2-29 小・中学校の1校あたり図書費

(出典)文部科学省調べ

(5)学校教育の情報化

 学校教育の情報化を進めることにより,わかりやすい授業の実現,教職員の校務負担の軽減,児童生徒の情報活用能力の向上などが図られ,質の高い教育を提供されることが期待されています。
 文部科学省が実施してきたモデル事業においては,情報通信技術を活用する場合には,そうでない場合よりも客観テストの結果が高い傾向があることが示されています(図表1-2-30)。
 しかしながら,我が国においては,諸外国と比較して学校教育の情報化が遅れています。例えば,コンピュータ1台当たりの児童生徒数については,我が国では1台のコンピュータを7.2人で使っているのに対し,アメリカでは3.8人,英国では3.6人(中等学校),韓国では6.2人(小学校)6.0人(中学校)となっています(図表1-2-31)。
 さらに,教員のICT活用指導力に関しては,平成21年3月時点で,「授業中にICTを活用して指導する能力」を有すると回答した教員の割合は56.4%,「校務にICTを活用する能力」を有すると回答した教員の割合は67.0%に留まっています(図表1-2-32)。

図表1-2-30 情報通信技術を活用した指導の効果の調査結果の例

●児童生徒を対象とした客観テストによる比較調査
 「小学校算数」,「小学校社会」,「小学校理科」,「中学校・高校数学」,「中学校社会」の実証授業後に実施した客観テスト(テストを受けた児童生徒数:2,915人)の結果について,分析・評価。

図表1-2-30 情報通信技術を活用した指導の効果の調査結果の例

情報通信技術を活用した授業後に行った客観テストの得点が高い。
(出典)平成18年度文部科学省委託事業「教育の情報化の推進に資する研究」によるICT活用の教育効果の検証結果

図表1-2-31 ICT環境の整備状況に関する国際比較
  日本 米国
英国 韓国
調査年月 2009.3
2005秋 2009.6 2008.4
コンピュータ
1台当たりの
児童生徒数
小学校 8.7人
中学校 6.8人
高等学校 5.2人
全体 7.2人
小学校 4.1人
中等学校 3.3人
全体 3.8人
初等学校  6.25人
中等学校  3.6 人
(2008.1現在)
小学校 6.2人
中学校 6.0人
普通高校 6.1人
専門高校 2.1人

(出典)米国:連邦教育省資料(2006.11)Digest of Education Statistics 2008(Internet Access in U.S. Public Schools and Classrooms:1994-2005)
英国:Harnessing Technology:Schools Survey 2008
韓国:教育人的資源部 Education in Korea 2009 

図表1-2-32 教員のICT活用指導力

図表1-2-32 教員のICT活用指導力

(出典)文部科学省「平成20年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」

(6)安心・安全な施設の整備

 現在,公立学校施設の約5割が,建築後30年以上経過しています。これらは児童生徒急増期(第2次ベビーブーム期)に建設されたもので,施設の老朽化が深刻な状況です。そのような老朽化した学校施設の機能改善を図るとともに,バリアフリー化,余裕教室の有効活用等のための質的整備を図ることが必要です。また,学校を含めて我が国のエネルギーの消費量が増加傾向にある中で,世界規模の喫緊の課題である地球環境問題への対応としても,既存の全ての学校施設を,環境を考慮したエコスクールとして再整備することを目指しています(図表1-2-33~図表1-2-34)。

図表1-2-33 公立小中学校施設の老朽化の状況(平成21年度)

公立小中学校非木造建物の経年別保有面積<全国>
(校舎・屋体・寄宿舎の計)

 図表1-2-33 公立小中学校施設の老朽化の状況(平成21年度)

(出典)文部科学省調べ

図表1-2-34 業務部門業種別エネルギー消費量の推移

図表1-2-34 業務部門業種別エネルギー消費量の推移

(注)「総合エネルギー統計」では、1990年度以降,数値の算出方法が変更されている。
(出典)財団法人日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧」,資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」により推計

 また,地震大国ともいわれる我が国において,学校施設の耐震化を進めることは命に関わる問題として極めて重要です。公立学校施設は,児童生徒などが一日の大半を過ごす活動の場であるとともに,非常災害時の応急避難場所としての役割もあり,地域の安全を確保するため重要な機能を持っています。しかしながら,平成21年4月1日現在で,公立の小中学校施設全体の33.0%が「耐震性なし」または,そもそも耐震診断を実施していないという状況にあります。学校の設置者である各地方公共団体において,早急に耐震診断を実施し,耐震化を進めていく必要があります(図表1-2-35)。
 このような状況下で,各地方公共団体において,施設の老朽化への対応や耐震化などに対するニーズは非常に高まっています。そのため,国としても当初予算に加えて補正予算を計上し,施設整備を支援してきましたが,今後も学校施設の適切な更新・長寿命化を図るため,計画的に整備を進めることが重要です(図表1-2-36)。

図表1-2-35 公立小中学校施設の耐震化の状況(平成21年4月1日現在)

図表1-2-35 公立小中学校施設の耐震化の状況(平成21年4月1日現在)

(出典)文部科学省調べ

図表1-2-36 公立学校施設整備費予算額の推移(昭和56年度~平成22年度)

図表1-2-36 公立学校施設整備費予算額の推移(昭和56年度~平成22年度)

(出典)文部科学省調べ

(7)家計負担の軽減など教育機会の確保に向けた取組

 義務教育段階の就学率は,これまで行ってきた教職員の適正な配置や学校施設の整備もあって,戦後一貫してほぼ100%となっています(図表1-2-37)。ただし,時代に応じた取組によって教育機会の確保を維持しなければなりません。
 義務教育段階における教育費負担については,授業料や教科書が無償となっていますが,就学にあたっては,それ以外にも学用品費・学校給食費・通学費など様々な費用が必要です。
 義務教育段階では,第1章でも触れたように,就学援助の対象となる児童生徒が増加しています。就学援助のうち要保護者への援助については,国は市町村に対してその経費の2分の1を補助しています。また,準要保護者については,平成17年度より,国の補助を廃止した代わりに,税源移譲・地方財政措置を行い,各市町村が認定基準を定め実施しています。しかし,市町村の財政難などの理由により,要保護者に準ずる者に対する就学援助の支給に格差が生じてきているといった指摘もあることから,就学援助を充実させることが,喫緊の課題となっています。
 次に,高校段階の状況をみてみましょう。新制高等学校発足当初(昭和23年)約42%であった高校進学率は,現在では約98%に達しており,高校はほぼすべての者が進学する国民的な教育機関となっています(図表1-2-38)。
 しかし,高校においては,近年,特に経済状況の悪化に伴い,学費が納入できず卒業が困難となるなどの問題が指摘されており,教育費の負担軽減を図ることは喫緊の課題となっています(参照:図表1-2-39)。
 このため,平成22年度からは公立高校の授業料無償化と私立高校等の生徒を対象とした高等学校等就学支援金制度を創設しました。これに加えて,各都道府県において行われてきた奨学金事業や授業料の減免の充実により,授業料に関しては,負担が軽減されることが期待されます(なお,公立高等学校の授業料無償化及び高等学校等就学支援金制度の詳細については,特集2として,68ページより掲載しています)。
 今後の課題として,入学料や教科書代等の授業料以外の負担も軽視することができないことから,これらについての取組が必要となっています。

図表1-2-37 義務教育就学率の推移

図表1-2-37 義務教育就学率の推移

(出典)学校基本調査より

図表1-2-38 高校進学率

図表1-2-38 高校進学率

(出典)学校基本調査より

図表1-2-39 授業料を滞納する生徒の割合
都道府県立高校において,授業料を滞納する生徒の割合は0.4%

都道府県立高等学校・中等教育学校後期課程の授業料滞納等の状況
(平成20年度末,平成19年度末とも出納整理後時点)

1.調査結果の概要
 平成20年度末は,19年度末に比べ,生徒総数に占める授業料滞納者の割合が0.1ポイント増加。
◆平成20年度末
・授業料滞納者数:8,245人(0.4%)
◆平成19年度末
・授業料滞納者数:7,203人(0.3%)

私立高校において,授業料を滞納する生徒の割合は0.9%

○私立高等学校・中等教育学校後期課程の授業料滞納等の状況
 (平成20年度末:21年3月31日時点,平成19年度末:20年3月31日時点)

1.調査対象校数及び有効回答数
(1)調査対象:計1,328校
 高等学校1,316校,中等教育学校後期課程12校
(2)有効回答:計1,323校(99.6%)
 高等学校1,313校,中等教育学校後期課程10校

2.調査結果の概要
 平成20年度末は,19年度末に比べ,生徒総数に占める授業料滞納者の割合が0.1ポイント増加。
◆平成20年度末
 ・授業料滞納者数:9,067人(0.9%)
◆平成19年度末
 ・授業料滞納者数:8,276人(0.8%)

(出典)「教育安心社会の実現に関する懇談会」報告書より

 家計負担の軽減については第1章においても詳細に検討しましたが,教育の機会均等の在り方は,それだけに留まるものではありません。
 例えば,近年,少子化の影響により小・中学校数は減少傾向にあります。その際,へき地などに居住している児童生徒の教育機会がきちんと確保され,居住地等によって教育機会に著しい格差が生じないよう,例えばスクールバスやスクールボート等の交通手段を整備することが必要です。
 さらに,日本語指導が必要な外国人児童生徒数も年々増加傾向にあります。平成20年度には,日本語指導が必要な外国人児童生徒は2万8千人を超え(図表1-2-40),2,028校の中学校と3,791校の小学校に在学しています。このように,外国人児童生徒の受入れについては全国的な広がりを見せつつあり,その受入れ体制の整備が重要な課題となっています。日本語指導が必要な外国人児童生徒に適切な教育機会を確保することは,外国人児童生徒の健全な育成と我が国の社会への適応を図る上で重要であるとともに,同じ学校で学ぶ日本人の子どもたちの国際性の涵養や学校そのものの教育活動の向上にもつながるものであり,環境の早急な整備が求められます。

図表1-2-40 日本語指導が必要な外国人児童生徒数

図表1-2-40 日本語指導が必要な外国人児童生徒数

※特別支援学校については、平成18年度以前においては盲・聾・養護学校であった。(各年9月1日現在)
(出典)「日本語指導が必要な外国人児童生徒の受入れ状況等に関する調査」

3 大学

(1)大学の基盤的経費の充実

 大学が,学術の多様性を維持するとともに,優れた人材を社会に輩出し続けることを可能にするためには,その活動を支える基盤となる経費が十分に確保されることが必要です。一方で,近年,大学の活動を支える基盤的経費は減少傾向にあります。
 平成16年度に国立大学が法人化されてから,基盤的財源として政府から交付される国立大学法人運営費交付金は年々減少し,16年度から22年度までの7年間で約830億円が減額となっています。(図表1-2-41)。しかし,他の研究費補助金や外部資金,寄付金の増加等により大学全体の教育・研究経費を含めた大学全体の事業費は一貫して増加していますが(図表1-2-42),各大学における安定的・継続的な教育研究活動の実施を今後も続けていくためにも,国立大学の日常的な教育研究活動に最低限必要な経費である運営費交付金の充実は必要不可欠です。
 また,国立大学法人等施設整備費は,近年,当初予算が減少傾向にある中,補正予算により緊急を要する整備に対応してきた結果「第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画」(平成18~22年度)の整備目標の86%を達成する見込みです(図表1-2-43~図表1-2-44)。一方,今後,施設全体の約3割を占めている未改修の老朽施設をはじめ,大学等が抱える整備需要に対応した整備を重点的・計画的にすすめていくことが必要です。

図表1-2-41 国立大学法人運営費交付金

図表1-2-41 国立大学法人運営費交付金

(出典)文部科学省調べ

図表1-2-42 国立大学法人等における教育研究診療活動規模(経常収益)の状況

図表1-2-42 国立大学法人等における教育研究診療活動規模(経常収益)の状況

(注)競争的資金及び外部資金獲得による収益:補助金等収益,受託研究等収益等,寄附金収益,研究関連収益及びその他自己収入の合計額

(出典)文部科学省調べ 

図表1-2-43 国立大学法人等施設整備費予算額の推移
図表1-2-43 国立大学法人等施設整備費予算額の推移 

(出典)文部科学省調べ

図表1-2-44 第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画の進捗状況

図表1-2-44 第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画の進捗状況

※[]内の数字は整備目標,()内の数字は目標に対する整備実績の割合を示す

(出典)文部科学省調べ:平成22年度予算反映後

 さらに,私立大学への補助金も減少傾向にあります。政府が交付する私立大学等経常費補助は,平成19年度から21年度までの3年間で約95億円が削減されました。私立大学に対する国の補助については,国会において,できるだけ速やかに二分の一とするよう努めることとされていますが,経常的経費の増加に伴って昭和55年度の補助率約30%をピークに減少傾向にあり,現在は約11%にとどまっています(図表1-2-45)

図表1-2-45 私立大学等における経常的経費と経常費補助金額の推移

図表1-2-45 私立大学等における経常的経費と経常費補助金額の推移

(出典)文部科学省調べ

 このようななか,我が国の高等教育機関への公財政支出は対GDP比では0.5%にとどまり,OECD諸国のうち最下位という現状です(図表1-2-46)。今後の知的基盤社会において,大学の役割はますます重要になっていきます。大学の質を向上させる取組を行うとともに,必要な基盤的経費を充実することが重要な課題となっています。

図表1-2-46 高等教育機関に対する公財政支出の対GDP比のOECD各国比較

図表1-2-46 高等教育機関に対する公財政支出の対GDP比のOECD各国比較

(出典)OECD「EducationataGlance(2009)」より作成

(2)高等教育の機会確保

 意欲と能力のある人が誰でも高等教育を受けられるようにすることは,公正で活力ある社会の形成に必要不可欠であり,このため次のような課題の解決など,更なる施策の展開が必要となっています。

1.今後の量的規模の方向性

 近年,我が国の18歳人口が減少傾向にある一方,4年制大学の数は増加しています(図表1-2-47)。この影響もあって大学や短大への進学率は年々上昇し,平成17年には50%を超えました(図表1-2-48)。しかし,アジア・オセアニア諸国で見ても,例えばオーストラリア(88%)や韓国(61%),タイ(55%)などは,我が国より大学進学率は高い状況であり,国際的にみれば我が国の大学進学率は決して高くはありません(図表1-2-49)。

図表1-2-47 18歳人口,大学・短大の数の推移

図表1-2-47 18歳人口,大学・短大の数の推移

(出典)文部科学省「学校基本調査」
 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」より作成

図表1-2-48 大学・短大への進学率の推移

(18歳人口のうち,当該年度に大学・短大への入学者数の割合として算出)

図表1-2-48 大学・短大への進学率の推移

(出典)文部科学省「学校基本調査」
 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」より作成

図表1-2-49 大学進学率の国際比較

図表1-2-49 大学進学率の国際比較

(出典)UNESCO Institute for Statistics“Global Education Digest 2009 Comparing Education Statistics Across the World”
Table7を基に作成(ISCED5Aの値)
上記のほか,シンガポール23.8%(ポリテクを加えると65.0%),台湾87.7%となっている(いずれも各国政府の公表数値)

 我が国の大学進学率が国際的に見て高くはない状況の原因として考えられることの一つに,社会人の入学者が少ないことが挙げられます。入学者に占める25歳以上の割合を見てみると,OECD諸国平均が21.3%であるのに比べ,我が国は1.8%に留まっています(図表1-2-50)。
 一方,我が国における大学新入学生の80%は19歳未満となっています。これはOECD加盟国の中で最も低年齢であり,18歳人口からの高等教育への進学者が入学者の多数を占めているといえます。
 さらに,我が国の大学進学率を全国平均ではなく都道府県毎にみてみると(図表1-2-51)。大学進学率は大都市部においては,東京都が70%を超えるなど極めて高い一方,30%台の県が多い状況です。

図表1-2-50 大学型高等教育機関への25歳以上(社会人)の入学者の割合

図表1-2-50 大学型高等教育機関への25歳以上(社会人)の入学者の割合

(出典)OECD教育データベース(2007年)。ただし,日本の数値については,「学校基本調査」及び文部科学省調べによる社会人入学生数

図表1-2-51 大学進学率(都道府県別)

4年制大学への進学率(都道府県別,平成20年度)

図表1-2-51 大学進学率(都道府県別)

(出典)学校基本調査※図表1-2-49とは調査年,算出方法が異なるため数値は一致しない

 知識基盤社会の到来にあっては,大学教育により教養を備えた専門的な人材を多数育成し,社会全体の人的資本を高めることで,イノベーションの創出,産業の生産性の向上を図ることが必要です。しかし,地域によっては大学進学率が各国の平均を大きく下回っており,また,社会人の受入れは極めて少ない状況です。若者だけではなく,社会人も含めた国民全体が大学で学べる機会を全国的に充実するとともに,社会の要請に応える教育の質の維持・向上のための環境整備が求められます。

2.地域における大学の役割

 我が国の大学の多くが大都市に集中していますが(図表1-2-52),一方で,地方(三大都市圏以外)の大学に,学生全体の約3割が在籍しています(図表1-2-53)。

図表1-2-52 大学の分布状況

図表1-2-52 大学の分布状況

(出典)学校基本調査

図表1-2-53 学部学生の地域別の状況
  国立 公立 私立 全体
三大都市圏 37%
169,131人
45%
51,702人
78%
1,520,326人
69%
1,741,159人
その他の地域 63%
285,522人
55%
62,426人
22%
431,486人
31%
779,434人

※三大都市圏は,東京圏(埼玉県,千葉県,神奈川県,東京都),中京圏(岐阜県,愛知県,三重県),近畿圏(滋賀県,京都府,大阪府,兵庫県,奈良県,和歌山県)を指す。

(出典)学校基本調査(平成20年度)

 このように,地方の大学は,都市部への大学進学が困難な学生にとって貴重な進学機会を提供しています。また,地域への人材供給や社会人の学び直しなど生涯学習の場としての機能とともに,知識が社会・経済の発展を駆動する基本的な要素となりつつあるなか,大学は各地域の知的インフラとして,その教育研究活動の成果を活用し,産業を創出する基盤ともなっています。
 諸外国においては,カリフォルニア大学サンディエゴ校による先端的な研究が大きな役割を果たした米国サンディエゴのバイオテクノロジー産業の発展や,産学連携の重要性を認識したケンブリッジ大学の取組によりハイテク企業の集積が加速した英国ケンブリッジ地域,有機デバイス産業の発展等を目指してドレスデン大学(ドイツ)やフィリップス(オランダ)など10社・7大学・7研究機関が連携した「OLLAプロジェクト」,といった事例がみられますが,我が国においても次に述べるような取組が見られ,成長の原動力としての役割がますます増しています。さらに,地方国立大学は,人々の経済活動の場として,その所在する地域に大きな経済効果をもたらすとの調査結果もあり(図表1-2-54),地域の活性化に貢献しています。
 このような機能が発揮される上でも,各大学がそれぞれの教育機能を効果的に発揮するため大学間の戦略的な連携等を進めつつ,それぞれの地域の「知的プラットフォーム」としての役割を果たしていく必要があります。

図表1-2-54 地方国立大学の地域経済への効果

図表1-2-54 地方国立大学の地域経済への効果

これらの主な産業以外に,「通信・放送」,建物維持管理サービスなどの「対事業所サービス」,「金融・保険」,「精密機械」,コンピュータなどの「電子機械」の産業等で201億円の生産誘発効果がある。

(出典)「地方大学が地域に及ぼす経済効果分析」(平成19年3月財団法人日本経済研究所)
注1:各大学における「教育・研究活動による効果」(教科書,研究資材等の購入費など),「教職員・学生の消費による効果」,「その他の活動による効果」(外部からの来訪者の消費など)および「施設整備にかかる効果」より経済波及効果を計算
注2:上図は中国地方中規模大学(学生数:約1万1千人,役員・教職員数:約4千人)の例

【地域の産業創出に資する大学の取組の例】

○京都市と財団法人大学コンソーシアム京都の連携(「大学のまち京都・学生のまち京都推進計画」)
 京都市は,現在37の大学・短期大学が集積するとともに,京都市の人口147万人の約1割に当たる約14万人の学生が在籍するなど「大学のまち」として知られており,「財団法人大学コンソーシアム京都」(平成10年に,京都地域の45の国公私立大学と4つの経済団体及び京都市により設立した,我が国初めての産学公連携による大学コンソーシアム組織)の設立や,「大学のまち京都・学生のまち京都」のシンボル施設である「京都市大学のまち交流センター(キャンパスプラザ京都)」の設置など,先駆的な取り組みが進められてきました。
 平成21年度には,京都市が,平成4年度から策定・推進してきた大学政策に関する総合的ビジョンを改訂し,財団法人大学コンソーシアム京都との協働により,「大学のまち京都・学生のまち京都推進計画」が策定されました。
 計画においては,1.大学の集積による学術研究,芸術文化,新産業創出などによる都市格の向上や,2.産学公連携による産業科学技術の振興の促進や先端産業の育成,伝統産業と先端技能・技法との融合など多様な個性ある大学からなる京都ならでは産業の振興の実現,といった大学の活動の意義を踏まえて,今後推進する施策が掲げられています。

(産学公連携による経済活性化の施策例)

  • 大学等の研究機関を核に地域内外の企業等も参画して,「京都環境ナノクラスター」の形成による環境分野の技術革新を創出し,京都経済の活性化を推進
  • 伝統産業と先端産業の技術を結集し,技法,技能の共有と融合を図り,新たな「京都ブランド」の創出と技術者の養成を行う「知恵産業融合センター」の創設など,京都ならではのものづくり産業を振興
  • 芸術系大学が集積する京都の特性を活かし,伝統産業界との連携により,地場産業・伝統産業などの技術の後継者養成を実施

○県が進める「世界最先端のシステムLSI(※23)開発拠点形成」への貢献(九州大学,九州工業大学等)
 福岡県では,世界の半導体の5割以上が生産・消費されるアジア地域における「世界最先端のシステムLSI開発拠点の形成」を目指した「シリコンシーベルト福岡構想」を推進しており,この地域にある九州大学,九州工業大学をはじめとした福岡県の大学群は,その実現に大きな貢献を果たしてきています。
 具体的には,当該地域の大学群により,近年エレクトロニクス化が進む自動車や今後成長が見込まれるロボット等に用いられるシステムLSIの開発が精力的に進められ,商品化や産業化が見込まれる優れた研究成果が数々創出されるとともに,福岡県産業・科学技術振興財団との連携により,地域企業との共同研究・開発による新商品やベンチャー企業も創出しています。
 また,福岡県が企業技術者の育成を目的に開校した「福岡システムLSIカレッジ」の立ち上げから運営に際しては,九州大学システムLSI研究センターや九州工業大学を中心とした教員が多数参加するとともに,寄附講座を設置するなどして,当該地域のシステムLSI関連人材の育成に大きく貢献しています。
 さらに,アジアをはじめとした研究機関等との国際共同研究開発の実施等,地域間の連携強化を図り,海外から招聘した数多くの研究者との地域内での国際共同研究や,最先端の情報交換等の実施を通じて,世界的な拠点形成を目指した取組を進めています。
 これらの取組等により,システムLSI開発拠点としての国際的な認知度が向上するとともに,それに伴う研究人材の集積も進み,福岡県では,システムLSI関連企業の集積が毎年増大してきています。


※23 システムLSI
 特定のシステムをひとつのチップに組み込んだ高機能LSI(大規模集積回路)

○北海道地域の農業に関する高度専門職業人の養成(酪農学園大学,北海道大学,帯広畜産大学)
 食の安心・安全への社会の要請が高まる中,北海道農業を基盤として個々に研究を進めてきた3大学が連携し,食の安心・安全に関する学問領域を統合するとともに,農村地域での実践を踏まえたフィールドワークを加え,高度専門職業人の養成と営農改善に関する指導や,地場食品の開発等による地域農業振興を推進しています。

フィールドワークの様子

フィールドワークの様子

3.大学院

 我が国の大学院在学者数は,この20年で約3倍に増えていますが,それでも韓国の三分の一,アメリカ,英国,フランスの四分の一以下に留まるなど,国際的にはまだ少ない状況です(図表1-2-55~図表1-2-56)。

図表1-2-55 大学院在学者数の推移

図表1-2-55 大学院在学者数の推移

(出典)学校基本調査

図表1-2-56 人口1,000人当たりの大学院学生数
  米国 英国 仏国 韓国 日本
学部 29人 30人 14人 40人 20人
大学院 9人 9人 9人 6人 2人

(出典)文部科学省調べ
 日本は2005年,アメリカは2005年,英国は2006年,
 フランスは2005年,韓国は2006年の統計より

図表1-2-57 主要国における人口100万人当たりの専攻分野別修士号取得者(2005年)

図表1-2-57 主要国における人口100万人当たりの専攻分野別修士号取得者(2005年)

注)フランス及び韓国は,統計上,理学,工学,農学の区分がなされていない。

(出典)博士号取得者数については,文部科学省「教育指標の国際比較」(平成20,21年版),及び人口については,OECD“MainScienceand Technology Indicators Vol 2009/2”を基に文部科学省にて作成

図表1-2-58 主要国における人口100万人当たりの専攻分野別博士号取得者(2005年)

図表1-2-58 主要国における人口100万人当たりの専攻分野別博士号取得者(2005年)

注)フランス及び韓国は,統計上,理学,工学,農学の区分がなされていない。

(出典)博士号取得者数については,文部科学省「教育指標の国際比較」(平成20,21年版),及び人口については,OECD“MainScienceand Technology Indicators Vol 2009/2”を基に文部科学省にて作成

図表1-2-59 主要国における自然科学分野の博士号取得者の推移

図表1-2-59 主要国における自然科学分野の博士号取得者の推移

注:本データには保健分野が含まれていない。

(出典)NSF“ScienceandEngineeringIndicators2010”Figure0-9を基に作成

図表1-2-60 博士課程進学を検討する際に重要と考える条件

図表1-2-60 博士課程進学を検討する際に重要と考える条件

(出典)「日本の理工系修士学生の進路決定に関する意識調査」(科学技術政策研究所)

 博士課程修了者の就職率を見てみると,全体平均で約64%となっており(平成21年3月卒),特に人社系分野が他の分野よりも低くなっています(図表1-2-61)。博士課程修了者については,学部や修士とは就職活動形態が異なり随時就職先が決まっていく者が多いこと,帰国する留学生が相当数いることなどから,大学がデータを捕捉できていない事例が多いため,アルバイトやパート等の一時的な仕事に就いた者や非就職者,進路不明者が実態よりも多く計上される傾向にあるものの,一定割合で就職していない者が存在すると考えられます。

図表1-2-61 博士課程修了者の就職率の推移(分野別)

図表1-2-61 博士課程修了者の就職率の推移(分野別)

(出典)文部科学省「学校基本調査」

 また,博士課程修了者の企業における採用実績についても,博士号取得者を研究開発者として採用する企業の採用実績は,ここ数年大きな変化が見られず,ほぼ毎年採用と回答した企業が約10%存在する程度であり,産学のマッチングの推進も含め,大学院を修了した後に活躍の場が広く開かれているか,という観点から,キャリアパスの支援を進める必要があります(図表1-2-62)

図表1-2-62 博士号取得者の研究開発者としての企業採用実績

図表1-2-62 博士号取得者の研究開発者としての企業採用実績

(出典)文部科学省「平成19年度民間企業の研究活動に関する調査報告」(平成21年1月)

 今後,我が国の競争力を維持するためにも,世界に伍する大学院レベルの高度な知的人材の育成が重要です。このため,的確に社会の変化に対応し,社会が求める新たな価値を創造できる人材を育む場として,大学院の質・量両面からの充実を図るとともに,世界から優秀な学生を集めるよう努める必要があります。
 同時に,知識基盤社会の到来の中,社会を多様に支える高度で知的な素養のある人材層や高度専門職業人の養成が求められており,学部新卒の人だけでなく,社会人など様々な人が大学院に入学しやすくなるような社会環境の整備が必要です。経済情勢の悪化から企業の教育訓練への投資が伸び悩む中,例えば,企業に勤務している者の国内留学の充実など,リカレント教育における企業と大学院の連携を促進することが我が国全体の人材養成にとって重要といえます。社会にとって大学院が真に魅力ある教育機関となるよう,大学院教育の一層の質の向上や環境の整備が必要です。

4.教育費負担をめぐる課題

 我が国の高等教育支出の内訳をみてみると,家計負担の割合が50%を超え,その他の負担と合わせると私費負担が67.8%にものぼります。これはOECD平均の27.4%を著しく上回ります(図表1-2-63)。また,諸外国と比較して,私費負担のうち,家計負担以外の私費負担(個人や企業からの寄付など)が占める割合は低くなっています。
 このように家計負担が多くなっているのとは逆に,高等教育に対する公財政支出の状況を見ると(図表1-2-64),そもそも公財政支出全体の規模が諸外国と比べて小さい上に,そのうちの家計への補助に充てられている部分を見ると,給付による補助が少なく,大半が貸与によるものであることが特徴となっています。
 このような状況の下で,経済的な事情により大学への進学をあきらめざるを得ない人が少なからずいる可能性があることは,第1章でみた通りであり,それは国や社会にとっても損失となります。
 高等教育段階における家計の負担が大きいという現状を考えれば,給付型の経済的支援を充実させて負担を軽減していくことが課題となっています。そのため,貸与制奨学金事業の充実とともに,実質的給付型支援として,各大学が実施する授業料減免の拡大への支援や,大学院生に対するTA・RA雇用などの取組を進めることとしています。

図表1-2-63 (再掲)教育支出の公私比負担割合(高等教育)

図表1-2-63 (再掲)教育支出の公私比負担割合(高等教育)

(出典)OECD「EducationataGlance(2009)」より作成

図表1-2-64 高等教育に対する支出の内訳とGDPに占める割合

図表1-2-64 高等教育に対する支出の内訳とGDPに占める割合

GDPに占める割合(%)

(出典)OECD「EducationataGlance(2009)」より作成

(3)就職支援についての課題

 文部科学省及び厚生労働省では,平成22年3月に大学等卒業予定の学生の2月1日現在の就職内定状況調査結果を3月12日に公表しました。2月1日現在の内定率は,大学生は昨年同期を6.3ポイント下回る80.0%,短期大学生は8.5ポイント下回る67.3%となっており,学生をとりまく状況は厳しいものとなっています(図表1-2-65)。
 また,就職をしても3人に1人が3年以内に辞めてしまう,いわゆる早期離職者の問題や,非正規雇用割合の増加など,産業構造・社会構造の変革や学生の多様化が進む中で,卒業後の社会生活・職業生活への移行支援の必要性が高まっています(図表1-2-66)。
 こうした状況を踏まえ,全ての大学が,教育課程の内外を通じて,社会的・職業的自立に関する指導等に取り組むよう,大学設置基準等の改正を行いました。さらに,平成22年度から「大学生の就業力育成支援事業」を行うなど,就業力育成に向けた総合的な取組(就業力育成5カ年プラン(仮称))を実施していきます。

図表1-2-65 大学卒業予定者の就職内定状況調査(各年2月1日現在)

図表1-2-65 大学卒業予定者の就職内定状況調査(各年2月1日現在)

(出典)厚生労働省・文部科学省「大学等卒業予定者の就職内定状況調査」

図表1-2-66 早期離職率

図表1-2-66 早期離職率

(出典)厚生労働省職業安定局集計
(注)3年目までの離職率は四捨五入の関係で,合計と一致しないことがある

(4)医療人養成等についての課題

 日本の人口当たり臨床医数は,「OECDHealthData2009」の調査時点では,OECD30カ国単純平均3.1人(加重平均2.6人)に対して,わが国は2.1人となっており,諸外国に比べて低い水準となっています。また,医師の絶対数は全体として毎年3,500人から4,500人程度増加している一方,近年,研究など臨床以外に従事する医師の数が減少しています。
 文部科学省では,平成20年度以降,医学部の入学定員を増員しており,平成22年度には,地域の医師確保や研究医養成,歯学部から医学部への定員の振替措置として,対前年度360人増(平成31年度までの10年間)の8,846人まで増員を行いました。今後の更なる増員については,ライフ・イノベーションを担う医師について,厚生労働省の需給見通しや,地域や診療科ごとの医師の充足状況等を踏まえ検討するとともに,質の高い医師を養成するための医学教育の改善・充実が必要です。(図表1-2-67~図表1-2-68)。
 また,研究・診療・教育を一体として行う大学附属病院は,地域の中核的医療機関としてだけでなく,高度医療機関として新たな医療技術の開発から実用化までを行う場として,その役割はますます重要になっています。大学病院の持つ機能を十分に発揮できるよう,就業環境の改善やより高い専門医療人材の養成機能強化などの支援などを行うことが必要です。

図表1-2-67 人口1,000人あたりの臨床医師数

図表1-2-67 人口1,000人あたりの臨床医師数

※12006年※22004年その他は2007年
注1単純平均とは,各国の人口当たり医師数の合計を国数で割った数のこと。
注2加重平均とは,全医師数を全人口で割った数のこと。
注3一部の国では,臨床医数ではなく総医師数を用いている。
(出典)OECDHealthData2009(平成21年)より

図表1-2-68 大学等で教育研究等に従事する医師数の推移

図表1-2-68 大学等で教育研究等に従事する医師数の推移

(出典)平成20年医師・歯科医師・薬剤師調査

(5)高等教育段階の施設整備の状況と課題

 国立大学法人などは,我が国の学術研究と研究者等の人材養成の中核を担ってきたほか,全国的に均衡のとれた配置により,地域の教育,文化,産業の基盤を支え,進学機会を提供するなど,重要な役割を果たしてきています。この役割を果たす上で,国立大学法人などの施設は,優れた人材の養成や創造的・先端的な研究開発,高度先進医療の推進などに不可欠な基盤であり,次代を担う豊かな人づくりの礎となるものです。このため,「第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画」(平成18~22年度)に基づいて,重点的・計画的整備を支援してきました。結果,22年度中には整備目標の8割を達成する見込みです。しかし,依然として,未改修の老朽施設が全体の約3割存在しており,耐震性などの安全面,設備の老朽化や陳腐化といった機能面,非効率なエネルギー消費などの環境面において早急に改善すべき様々な問題を抱えています(図表1-2-69~図表1-2-71)。

図表1-2-69 (再掲)第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画の進捗状況

図表1-2-69 (再掲)第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画の進捗状況

※[ ]内の数字は整備目標,( )内の数字は目標に対する整備実績の割合を示す
(出典)文部科学省調べ:平成22年度予算反映後

図表1-2-70 国立大学法人等施設の経年別保有面積

図表1-2-70 国立大学法人等施設の経年別保有面積

(出典)文部科学省調べ

図表1-2-71 (再掲)業務部門業種別エネルギー消費量の推移

図表1-2-71 (再掲)業務部門業種別エネルギー消費量の推移

(注)「総合エネルギー統計」では、1990年度以降,数値の算出方法が変更されている。
(出典)財団法人日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧」,資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」により推計

 さらに,科学技術政策研究所などの調査によれば,ポストドクターなどの若手研究者が増加傾向にある一方,国立大学法人などの6割以上で若手研究者のための研究スペースが不足しています。優れた人材の育成や科学技術・イノベーションを目指すためにも,十分な研究スペースを確保することが必要です(図表1-2-72~図表1-2-73)。
 以上みてきた課題の他にも,国際化や地域医療・先端医療への対応など,様々な政策的課題や社会的要請への対応等の課題が顕在化しています。今後,こうした政策的課題等への対応も踏まえ,国立大学法人などの新たな施設整備計画を策定し,多様な外部資金等も活用しながら,教育研究等の活性化に資する教育研究環境を戦略的に整備し,優れた人材を養成する魅力あふれるキャンパスにしていくことが課題です。

図表1-2-72 ポストドクター等の数の推移

図表1-2-72 ポストドクター等の数の推移

(出典)「大学・公的研究機関等におけるポストドクター等の雇用状況調査」文部科学省(2008)

図表1-2-73 研究スペースの確保状況

図表1-2-73 研究スペースの確保状況

(出典)科学技術政策研究所「科学技術人材に関する調査(2009年3月)」より作成

おわりに ~我が国の未来を拓く教育の充実に向けて~

 これまで,教育費や教育投資の現状と課題について,教育の水準や機会に関わる問題との関わりについて概観してきました。

 第1章で見たように,我が国では,国際的に見ても,家計の教育費負担が大きく,それに比べて公財政支出が少ないという状況がうかがえます。家庭の経済状況が進学に影響がある可能性があり,経済的な格差が教育の格差にも影響し,それがまた格差の固定化や世代間の連鎖につながりかねません。

 また,第2章で取り上げたように,質の高い教育を実現するため,また,教育の機会を確保するためには,教育への投資の充実が重要です。例えば,小中学校では,教員や専門的スタッフの充実など教育現場の環境整備が必要になっています。大学が学術の多様性を維持するとともに,優れた人材を社会に輩出し続けることを可能にするためには,その活動を支える基盤となる経費の充実が重要となっています。

 これからの我が国の成長を牽引し,新たな未来を切り拓くのは,国民一人一人の力によっています。我が国を取り巻く世界全体が大きく変化し,厳しい状況にある中で,まさに人材への投資である教育に,社会全体として十分な資源を振り向けて取り組むことが喫緊の課題となっています。

 このような中,平成22年度からは「高校実質無償化」の制度が始まりました。全ての意志ある高校生が,教育にかかる費用を心配することなく,安心して勉強に打ち込むことができるよう,高校生の子を持つ家庭だけでなく,社会全体で支えていくことになりました。
 平成22年度予算において,この「高校実質無償化」などにより,国は文教関係予算を対前年度比8.1%増加させ,過去30年で最高の伸び率となりました。今後もさらに,教育の充実に向けた環境整備を進めていくための一層の取組が求められます。
 また,教育の充実は国と地方の適切な役割分担と協力の下に進められなければなりません。特に義務教育段階においては地方が教育費の8割を負担するなど,その役割は大きなものとなっています。我が国全体の教育の発展と人材の育成のためには,国だけでなく,各地方公共団体が挙って地域の子どもたちの学びを支援することが不可欠です。
 例えば,全国学力・学習状況調査で過去3年間上位となっている秋田県では,全国に先駆けて国の水準を上回る少人数学級を導入するなど,地域における教育の振興のため積極的に取り組む地方公共団体も見られます。「高校実質無償化」の制度開始にあわせて,更に手厚い支援を行い始めた都道府県もあります。このように,社会全体で教育を支える取組は着実に拡がりつつあります。
 折しも平成22年度より,「子ども手当て」の制度も新たに始まりました。本制度が子ども達の未来を創る教育のために有効に活用されることが強く期待されるところです。
 最後に,人材への投資である教育に,社会全体として大きな資源を振り向けるためには,財源確保のあり方も含めて,十分な国民的な議論が必要でしょう。これまでのように行政だけではなく,市民,NPO,企業などが積極的に公共的な分野で活躍していく「新しい公共」を実現することが求められているなか,社会の一人ひとりが教育の担い手として当事者意識を持って関わり,良い教育,良い社会を創るという市民文化を醸成し,多くの当事者がこの問題について熟慮し,討議を重ねていくことが,社会全体で教育を支える基盤となると考えます。

お問合せ先

生涯学習政策局政策課教育改革推進室

(生涯学習政策局政策課教育改革推進室)

-- 登録:平成22年08月 --