第6節 子どもの健康と安全

1.学校における食育の推進

 近年,食生活を取り巻く社会環境の変化に伴い,偏った栄養摂取,朝食欠食などの子どもの食生活の乱れや肥満傾向の増加などが見られます(図表2-8-14)。
 成長期にある子どもにとって,健全な食生活は健康な心身をはぐくむために欠かせないものであると同時に,将来の食習慣の形成に当たって大きな影響を及ぼすものであり,極めて重要です。
 また,食品の安全性についての関心が高まる中で,食品の品質や安全性について正しい知識・情報に基づいて自ら判断できる能力を子どもたちに身に付けさせることが必要となっています。さらに,食を通じて,地域の産物や文化を理解し,継承することも望まれています。

図表●2-8-14 児童生徒の朝食欠食状況,肥満傾向児の割合

 このような状況の中,平成17年7月に施行された「食育基本法」に基づき,内閣府に設置された食育推進会議において,18年3月31日に「食育推進基本計画」が策定されました。この計画では,学校における食育推進の中での栄養教諭の中核的な役割を重視し,栄養教諭の全都道府県における早期の配置による指導体制の充実や,食に関する指導の全体的な計画に基づく各学校での指導内容の充実などが掲げられています(参照:http://www8.cao.go.jp/syokuiku/(※食育推進担当ホームページへリンク))。
 また,学校における食育を推進していく上で重要な役割を担っている学校給食の充実のために,地場産物の活用や米飯給食の一層の普及・定着なども掲げられています。
 文部科学省では,この計画を踏まえて,学校における食育を推進するため,1指導体制の充実,2指導内容の充実,3学校給食の充実などに取り組んでいます。

(1)指導体制の充実

 学校における食育は,これまで,給食の時間,各教科,学級活動などで学校栄養職員を活用しつつ行われてきましたが,明確な指導体制の整備が図られてこなかったため,地域や学校ごとに取組はまちまちでした。しかし,近年の子どもの食を取り巻く環境の変化に対応するためには,指導体制を整備し,学校教育全体の中で体系的・継続的に行われることが重要であるため,中央教育審議会答申「食に関する指導体制の整備について」(平成16年1月)を踏まえ,関係法律の改正により栄養教諭制度が創設され,17年4月から開始されています。
 平成17年度においては4道府県で配置が開始され,18年度は合わせて25道府県で配置が開始されています。このほか,国立大学法人においても附属学校に栄養教諭を配置しており,17年度は1国立大学法人で配置が開始され,18年度中には合わせて13国立大学法人で配置が開始される予定となっています。
 栄養教諭は,教育に関する資質と栄養に関する専門性を生かして学校における食育推進の要として,献立作成や衛生管理などの学校給食の管理と学校給食を活用した食に関する指導を一体的に展開することにより,教育上の高い相乗効果をもたらすことが期待されています。また,学校内外を通じて,教職員や保護者,地域との連携を密に図る,いわば,食に関する教育のコーディネーターとしての役割を果たします。
 栄養教諭の配置により,学校内の教職員の食育への取組に対する意識が向上するとともに,教職員間の食に関する指導での連携が緊密になったなどの報告もあります。
 文部科学省においては,全都道府県における栄養教諭の早期配置に向けて,現職の学校栄養職員が円滑に栄養教諭免許状を取得できるように平成17年度から全都道府県で免許状認定講習を開設しています。

(2)指導内容の充実

 食に関する指導は,各教科等に幅広くかかわるものであり,学校給食の時間をはじめとする特別活動,各教科,道徳,総合的な学習の時間といった学校教育活動全体を通して行うことが重要です。このため,栄養教諭のみならず,各学級担任や教科担任など,関係教職員が食に関する指導の重要性を理解し,必要な知識や指導方法を身に付ける必要があります。また,学校長のリーダーシップの下,十分に連携・協力を行い,食に関する指導の全体的な指導計画を策定し,体系的・継続的に効果的な指導を行うことが必要です。
 文部科学省では,児童生徒が自らの食生活を考え,食に関する実践力を身に付けることができるようにするため,各教科や特別活動,総合的な学習の時間等における食に関する指導において使用する教材として食生活学習教材を作成し,全国の小学校低学年(小学校1年生),高学年(小学校5年生),中学生(中学校1年生)に配付し,その活用を促進しています。
 また,学校において食育を推進するためには,学校,家庭,地域との連携が不可欠です。例えば,給食だよりや学校での取組を紹介するパンフレットなどを通じた家庭に対する啓発活動,食物アレルギーへの対応について保護者に対する指導・助言,親子料理教室等の開催などが挙げられます。このほか,地域の農家を訪問し,農作物の栽培などを学び,給食に地元の野菜やお米などを取り入れることにより,生産活動と日々の食事のつながりを実感させるなど,地域の人々と連携して食に関する指導を行うことが考えられます。
 このような取組を行う際,その中核を担う栄養教諭を活用した取組が重要となってきます。そのため,文部科学省では,平成18年度から「栄養教諭を中核とした学校・家庭・地域の連携による食育推進事業」を実施しています。この事業は,各地域において,栄養教諭を中核として家庭や生産者,PTAなどの地域の団体と連携・協力し,各学校における食に関する指導の全体計画の作成,地域の生産者を指導者とした農業体験活動,家庭に対する啓発などに取り組むものです。さらに,学校における食育の重要性に対する理解の増進を図るため,学校長や教職員だけでなく,保護者や地域の生産者なども対象に,食育の普及啓発や栄養教諭による実践指導の紹介等を行う「食育推進交流シンポジウム」を各地で開催しています。18年度においては,全国6か所(東京都,山形県,富山県,大阪府,愛媛県,福岡県)で開催されました。

(3)学校給食の充実

1学校給食の現状

 学校給食は,栄養バランスのとれた豊かな食事を子どもに提供することにより,子どもの健康の保持増進,体位の向上を図ることはもちろん,食に関する指導を効果的に進めるために,給食の時間はもとより,各教科や特別活動,総合的な学習の時間等において生きた教材として活用することができるものであり,大きな教育的意義を有しています。このようなことから平成17年5月現在で小学校では約715万人(全小学校児童の99.3パーセント),中学校では約298万人(全中学校の82.2パーセント),全体で約1,029万人の子どもが給食を受けています(図表2-8-15)。

図表●2-8-15 学校給食実施状況(国公私立)

2食事内容の改善

 各学校では,近年,学校給食の多様化が図られており,例えば,学校給食の食材として地域の産物(以下「地場産物」という。)を活用したり,地域の郷土料理・伝統料理などを献立に活用したりする取組が進められています。
 学校給食における地場産物の活用は,児童生徒が地域の自然や文化,産業等への理解を深めるとともに,それらの生産等に携わる者の努力や食への感謝の念をはぐくむ上で重要です。文部科学省では,各地域の地場産物の調達・納入方法や,地場産物を活用した食に関する指導の実践を集めた事例集を作成・配付し,地場産物の活用を推進しています。また,学校給食における地場産物の活用率は,平成16年度は,全国平均で21パーセント(食材数ベース)となっていますが,食育推進基本計画においては,22年度までに30パーセント以上とすることを目指しています。
 また,米飯給食は,伝統的な食生活の根幹である米飯に関する望ましい食習慣を児童生徒に身に付けさせることや,日本文化としての稲作について理解させるなどの教育的意義を持つものであり,文部科学省では,週当たり3回の実施を目標に据え,その普及を図っています。

3衛生管理体制の充実

 平成9年以降,学校給食を原因とする腸管出血性大腸菌O157による食中毒は発生していませんが,依然として食中毒の発生は続いており,学校給食における衛生管理の徹底が求められています。
 文部科学省では,施設設備や調理過程などの指導を行うとともに,床を乾いた状態で使用して高湿度による雑菌などの発生を抑制する調理システム(ドライシステム)の導入など,施設面の改善充実を図っています。また,随時,「学校給食衛生管理の基準」を改訂し,学校給食における衛生管理の一層の改善充実を図っています。さらに,各地域の衛生管理を充実させるために,指導者養成の研修や各種会議を行うなど,衛生管理の徹底に努めています。

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