第4節 高等教育機関の多様な展開

1.国公私立大学の充実

(1)国公私立大の整備充実

【国立大学】

 国立大学においては,個性的かつ魅力的な教育研究を展開するため,様々な教育研究組織の整備が行われています。

1大学の再編・統合,短期大学の4年制大学化

 富山大学,富山医科薬科大学及び高岡短期大学は,各大学が有する人的・知的・物的資源を結集して,教育研究基盤や管理運営基盤の強化を図り,さらには,地域の「知の拠点」としての役割を果たすことを目指して平成17年10月に統合し,新たに富山大学を設置しました(18年4月学生受入れ)。
 また,筑波技術短期大学は,科学技術や医療技術が著しく発展する状況に柔軟に対応でき,かつ,実践的な能力を有する職業人の養成が可能となるよう,平成17年10月に筑波技術大学として4年制大学に転換しました(18年4月学生受入れ)。

2大学院の整備充実

 平成18年度においては,高度の専門性を要する職業に従事するために必要とされる専門的知識及びその能力の育成に特化した実践的教育を行う高度専門職業人を養成する専門職大学院として,京都大学が経営管理教育部に経営管理専攻を設置するなど,3大学が4専攻を設置しました。
 また,7大学が生命科学院など14研究科等を,25大学が金型・鋳造工学専攻など97専攻を設置しました。

【公私立大学】

 公私立大学においては,平成15年度(16年度開設)4月から学部・研究科などの設置について広く届出制を導入しており(参照:本章第1節2(1)),16年度(17年度開設)以降においても活発な組織改編が行われています(14年度278件,15年度472件,16年度392件,17年度482件,18年度353件)(図表2-3-13)。また,構造改革特別区域制度により,16年度から,株式会社による大学等の設置も行われています。

図表●2-3-13 近年の公私立大学の設置状況

1学部の整備充実

 大学の新設は平成17年度とほぼ同数でした。設置形態としては新規に参入するものが1校あり,それ以外はすべて大学,短期大学や専修学校を設置している学校法人が設置したものでした。
 その中では,対面授業を一切行わず,すべての授業科目をインターネットを利用して行う初の4年制大学が,構造改革特別区域制度を利用し,株式会社により設置されました。双方向性の十分な確保など,大学としての教育の質の保証をいかにして確保するのかが求められています。また,社会的な要請に対応した各大学における自主的な取組により,特に看護・医療技術系の専門的な職業の人材を養成する学部の整備が進んでいるほか,4大学で薬学部が設置されました。そのほか,観光文化学部,マンガ学科といった多様な学部・学科が設置されています。

2大学院の整備充実

 大学院の新設は平成17年度とほぼ同数でしたが,15年度に集中した法科大学院の設置が収束に向かったため,研究科や専攻の設置は減少傾向となっています。また,学部を置かず大学院のみを置く大学院大学の設置が2大学ありました。
 高度専門職業人を養成するための専門職大学院は,会計・ビジネス,臨床心理などの分野で7大学において設置されました(参照:本章第1節3(2))。一般の大学院については,組込み技術研究科,高信頼ものづくり専攻といった多様な研究科・専攻が設置されています。

(2)教育内容・方法の改善・充実

1大学を取り巻く社会状況の変化

 大学,特に学部段階においては,大学進学率の上昇や高等学校教育の多様化,社会人や留学生の受入れ増加などにより,学生も多様化してきています。また,知識基盤社会への移行を背景に大学に対する社会的要請も大きく変化しており,大学は,このような不断の変化を常に的確に受け止め,カリキュラムや教育方法を弾力的かつ機動的に改善し続けていく必要があります。文部科学省においても,様々な手段を通じて,大学における教育内容・方法の改善・充実を促しています。
 なお,大学における教育内容・方法の改善などについては,文部科学省ホームページを参照して下さい(参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/daigaku/index.htm(※大学における教育内容・方法の改善等についてへリンク))。

2教育内容の在り方

 大学の教育課程については,次の二つの点が大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)において定められています。

  • 大学は,その教育上の目的を達成するために必要な授業科目を開設し,体系的に教育課程を編成すること
  • 大学は,教育課程を編成するに当たっては,学部などの専攻についての専門の学芸を教授するとともに,幅広く深い教養と総合的な判断力を培い,豊かな人間性を涵養するよう適切な配慮をすること

 平成3年までは,大学設置基準において,科目の区分やそれぞれの科目について卒業までに修得すべき単位数などを定めていましたが,これらの規定を廃止し,代わりに上記の二つのみ規定することにとどめました。以降,各大学におけるカリキュラム改革が順次進められ,3年の改正時から現在までの間に,ほぼすべての大学においてカリキュラム改革が実施されており,科目区分や必修・選択の見直しなどが積極的に進められています(図表2-3-14)。
 特に学部教育は,基本的役割として,学生の人格形成機能や生涯にわたる学習の基礎を培う機能を担っており,内容の充実した教養教育や専門教育を行うことが不可欠です。各大学においては,これらの点を踏まえつつ,個性・特色を持った質の高い教育を展開することができるよう,今後ともカリキュラムの在り方を不断に検討していくことが重要です。

図表●2-3-14 カリキュラム改革の内容(平成16年度)

3教育方法の工夫・改善

 学部教育において,ますます多様化する学生を対象に教育を行い,各大学の教育理念・目標を達成するためには,カリキュラム改革という教育内容面での改善だけでなく,授業方法の工夫や大学の組織的な教育に対する取組などの工夫も重要です。

(ア)責任ある授業運営等

 我が国の大学教育は,単位制度を基本としています。1単位の授業科目は,標準45時間の学修を必要とする内容をもって構成されています。この1単位という学修量は,教室内における授業の時間のみならず,授業の事前・事後に教室外で学生が行う準備学習・復習も合わせて構成されることが前提となっています。したがって,各大学においては,各授業科目の教育目標や,目標達成のための授業方法,年間の授業計画を,シラバス(注1)などを通じてあらかじめ学生に明示するなど計画的な授業設計を行った上で,その授業科目の趣旨を学生に周知・理解させ,教室外での学習も含めた学習上の指導を適切に行うことが求められます。また,これにより,学生の側における主体的な学習への取組を喚起することも期待されます。現在では,ほとんどの大学でシラバスが作成されていますが,今後とも,シラバスの内容をより充実したものとしていくことが重要です。
 そのほか,単位制度の実質化を目的とした1年間又は1学期に学生が登録できる履修科目の単位数の上限設定,成績評価基準の明示,厳格な成績評価(GPA(グレード・ポイント・アベレージ)制度(注2)など)の実施などの取組も行われています。

  • (注1)シラバス
     授業科目名,担当教員名,講義目的,講義概要,毎回の授業内容,成績評価方法,教科書や参考文献,その他履修する上で必要となる要件について記した授業計画のこと。
  • (注2)GPA制度
     授業科目ごとの成績評価を,例えば5段階(A,B,C,D,E)で評価し,それぞれに対して,4,3,2,1,0のようにグレードポイントを付与し,この単位当たりの平均を出して,その一定水準を卒業などの要件とする制度のこと。
(イ)ファカルティ・ディベロップメント

 大学教育の充実を図るためには,学生に対して直接教育活動を行う教員が,自らの教授能力を向上するよう不断の努力を重ね,学生の学習意欲を喚起するような授業を展開していくことが重要です。また,個々の教員はもとより,教育組織として,大学全体あるいは学部,学科としての教育理念・目標を明らかにし,それを実現するという観点からカリキュラム編成や個々の授業科目の開設を行い,その上で個々の教員がその趣旨に沿った授業を行うという一連の取組も重要となります。
 このような組織的な教育体制を構築する一環として,全学あるいは学部・学科全体で,その教育理念・目標や教育内容・方法について組織的な研究・研修(ファカルティ・ディベロップメント)を実施する大学が増えつつあります。文部科学省においても,平成11年に大学設置基準を改正して,大学においてファカルティ・ディベロップメントを実施することを努力義務とするなど,大学の積極的な取組を促す方策を講じています(図表2-3-15)。

図表●2-3-15 ファカルティ・ディベロップメントを実施する大学

(3)短期大学における新たな展開

 短期大学は,学校教育法において4年制大学と目的や修業年限を異にする大学として位置付けられており,制度創設以来,私立短期大学を中心に量的整備が図られ,特に女子の高等教育の場として大きな役割を果たしてきました。しかしながら,18歳人口の減少や女子学生の4年制大学志向の高まりなど,短期大学をめぐる状況の変化の中で,短期大学は,他の高等教育機関と異なる個性・特色の明確化に一層努めることが求められています。
 短期大学の個性・特色は,身近な高等教育機関として,短期間で,大学としての教養教育やその基礎の上に立った専門教育を提供する点にあります。このような特徴の明確化に資するよう,平成17年に短期大学卒業者に対する「短期大学士」の学位制度が創設されました。これにより,諸外国と同様に学位が授与されることになり,我が国の短期大学卒業者が外国の大学に留学する場合や,我が国の短期大学に留学していた外国の学生が帰国して就職する場合に,短期大学卒業という学歴について適切な評価を得られやすいなど,学生の国際交流に資するものと考えられます。さらに各短期大学においては,学位授与機関として,教育内容の一層の改善・充実に向けた取組が進められることが期待されます。
 また,短期大学は地域と連携協力して多様な学習機会を提供することが期待されており,このような期待にこたえる一つの取組として,社会人を含めた地域の多様な需要により柔軟に対応していくことを目的とした総合的な学科(地域総合科学科)の設置が進められています(平成18年度現在,25短期大学31学科)。
 地域総合科学科は,学科の分野を特定せず,複数の異なる分野の科目やコースを用意し柔軟な履修を可能とすることにより,学生や地域の様々な需要にこたえていくことを目的とした学科の総称であり,財団法人短期大学基準協会によって,その特色と教育の質について適格認定が行われています。
 文部科学省は,「特色ある大学教育支援プログラム」において優れた教育改善の取組への支援を行うなど,各短期大学の改革への積極的な取組を促しています。

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