第2節 高等教育の更なる発展に向けて

3.医療人の養成

 高齢化による疾病構造の変化,患者のニーズの多様化,生命科学や医療技術の急速な進歩などを背景として,国民の期待にこたえる「良き医療人」の養成が一層重要となっています。文部科学省としても,医療人の養成を担う各大学と協力しながら,様々な改革を進めています。

(1)医学・歯学・薬学教育の改革

1医学・歯学教育の改革

 医師・歯科医師については,人間性豊かで高度な臨床能力を持ち,患者中心の医療を実践できる医療人の養成に大きな期待が寄せられています。現在,各大学においては,医学生・歯学生が卒業までに学んでおくべき態度,技能,知識に関する教育内容を精選して作成された「モデル・コア・カリキュラム」に基づくカリキュラム改革や診療参加型臨床実習の充実など,積極的な教育改革が進められています。
 また,文部科学省でも「医学・歯学教育指導者のためのワークショップ」の開催など各種の支援を行っていることろです。
 また,通常5、6年次に行われる臨床実習の開始前の段階で,病院や診療所など臨床の現場で実習を行えるだけの態度,技能,知識を学生が備えているかを適切に評価するための共用試験が,医科大学(医学部)・歯科大学(歯学部)の参加の下,実施されています。
 共用試験には,コンピュータを用いた知識・問題解決能力を評価する試験(Computer Based Testing:CBT)と患者役のボランティアの協力を得て,診察技能や態度を評価する試験(Objective Structured Clinical Examination:OSCE)が用いられています。
 さらに,平成17年5月からは医学教育の更なる改善・充実を図るため「医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」を開催しており,同会議では,18年11月には,地域医療を担う医師養成方策や「モデル・コア・カリキュラム」の改訂等について第一次報告を,同年12月には,いわゆる医師不足県等における医学部の期間を付した定員増の在り方等について第二次報告を取りまとめています。

2薬学教育の改善・充実

 近年の医療技術の高度化や医薬品の安全使用,薬害の防止などについての社会的要請を踏まえ,医療薬学教育や実務実習の長期化などの充実を図るため,学校教育法を改正(平成16年5月14日)し,18年4月から薬剤師養成のための薬学教育は6年制の学部・学科において実施しています。他方で,薬学教育が医薬品の研究や開発など,多様な分野に進む人材を養成してきたことを踏まえ,4年制の学部・学科も置いています。
 また,「地域医療等社会的ニーズに対応した質の高い医療人養成推進プログラム」による重点的な財政支援や,薬学教育指導者のためのワークショップ(参加型講習会)の開催などを通じて,質の高い薬剤師養成を進めています。

医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議 第一次報告のポイント

1.地域医療を担う医師の養成及び確保について
  • 医学部定員の暫定的な調整の実施に向けて,関係者が連携して具体的な検討を進めることが必要。
     大学の具体的な定員の在り方について,大学の地域定着策の実施等も含め,今後,具体的に検討。
  • 入学者選抜における,地域枠の拡大,地域枠で入学した学生に対する地域医療に関する教育の充実,出身地にとらわれず将来地域医療に従事する意志を有する者を対象とした新たな入学枠(新たな地域枠)の設定,地域枠と奨学金制度の組み合わせなど,卒業後地元に定着することに結び付けるための取組の推進。
  • 地域医療を専門とする教育組織を設けるなど,大学の教育体制の整備。
  • 大学病院の新医師臨床研修における,研修医に対する教育指導体制の整備や処遇の改善,大学病院と協力病院等との緊密な連携体制の構築,プライマリ・ケアのための研修を行うことのできる体制の整備。
  • 大学や大学病院は,医師が生涯にわたって個々人の専門性を高められるよう,医師としてのキャリア形成に中核的な役割を果たすべき。
     キャリア形成の場を提供し,都道府県や地域医療機関等と連携して地域における医療提供体制の確保に重要な役割を果たすことが必要。
  • へき地医療等について学ぶ機会の提供,定年退職した医師や退・休職した女性医師の復帰に対する支援の充実。
  • 大学病院における,医師不足が指摘されている分野等の指導体制の充実,救急体制の整備。
  • 大学病院の遠隔医療システムの活用。
2.医学教育モデル・コア・カリキュラムの改訂について
  • 地域保健・医療,腫瘍(がん),医療安全に関する学習内容の充実。
  • 大学院と大学病院との連携の充実などによる,がん専門医等の養成の推進。
3.最終報告に向けた検討課題
  • 臨床実習の在り方,新医師臨床研修の充実,専門医養成の在り方,教育者・研究者の養成,大学病院の組織体制の在り方などについて,引き続き検討。

医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議 第二次報告のポイント

1.医学部の定員をめぐる動向
  • これまでの医学部の定員の取扱いの経緯,最近の医学部の定員の取扱いをめぐる動向等について記述。
2.医学部の今後の定員の在り方
  • 地域における医師の偏在の現状やこの問題への対応の必要性を踏まえれば医師の不足が特に深刻と認められる10県の大学医学部及び自治医科大学において,期間を付した定員増を認めることが適当(入学定員増の期間は平成29年度まで,増員は入学定員当たり10名を限度)。
  • 国においては,平成20年度からの入学定員増に必要な申請等に対象大学が対応できるよう所要の措置を講じることが必要。
  • 対象大学の定員増の申請等の審査に当たっては,教員組織や教育環境などの審査に加え,1地域枠の設定・拡大,推薦入学における工夫,地元高等学校との連携など,入学者選抜段階における取組の推進,2地域医療への関心と意欲を高めるためのカリキュラム開発,早期体験学習や臨床実習における地域医療と接する機会の提供など,学部教育における取組の推進,3学部教育の改善等に当たっての地域の医療機関との連携の推進など,学生(卒業生)を地域に定着させるための大学の取組を考慮することが必要。このような取組は,増員分の学生のみならず学生全体に対して広く取り組むことが重要。
  • 定員の扱いについては,医師の需給というマクロ的な数量調整の観点だけでなく,優れた資質能力を有する医師の育成・確保をいかに図っていくべきかという視点から検討することが必要。このため,期間を付した定員増の実施を契機として,すべての大学において医師養成の取組の改善・充実が図られることが重要。
  • 各大学における申請等や規模の検討に当たっては,単なる養成数の増大となることがないよう,教育内容の一層の改善・充実など,質を高める取組に十分留意することが重要。
  • 県と大学との連携の充実,寄付講座の設置など県による大学への支援の充実,学生が地域医療と接する場の提供など県の協力の充実,県と連携した医師としてのキャリア形成への支援なども重要。
  • 国においても,優れた資質能力を有する医師の養成・確保に取り組む大学に対する財政的支援も含めた支援施策の一層の充実を図ることが必要。
  • 医学部の定員の扱いと併せて,地域に必要な医師の確保の調整を行うシステムの構築や,卒業後学生が実際に地元に定着することに結び付けるための学部教育等の工夫・改善等も重要。

(2)看護師等医療技術者の養成

 看護師など医療技術者の養成に関しては,資質の高い医療技術者,教育者,研究者の養成を目的とした大学・大学院の設置が増えています。文部科学省では,看護系大学の増加を踏まえ,平成15年に「看護学教育の在り方に関する検討会」を発足させ,16年に報告書「看護実践能力育成の充実に向けた大学卒業時の到達目標」を取りまとめました。現在,本報告を受け,各大学における看護学教育の改善・充実を進めています。
 また,教育内容や臨地実習指導者の充実を図る観点から研修などを開催しています。

(3)地域医療への取組

 へき地を含む地域における医師不足が社会的に大きな問題となっており,地域間の医師の偏在を是正するため,文部科学省は,厚生労働省,総務省と連携して,平成18年8月に「新医師確保総合対策」を取りまとめました。この中で,医師不足が特に深刻な10県及び自治医科大学における医師養成数を一定期間増やすことを容認することとしました。また,前述した通り,17年5月から「医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」を開催し,地域医療を担う医師養成の在り方などについて検討を行っており,第一次報告では,モデル・コア・カリキュラムの改訂による地域医療に関する教育の充実,入学者選抜における地域枠の拡大等について,第二次報告では,医学部の期間を付した定員増の在り方などについて提言しています。
 文部科学省では,これらの提言を踏まえ,各大学における,地域医療に関する教育の充実,入学者選抜における地域枠の拡大,臨床研修における地域診療の推進,遠隔医療によるへき地医療支援,「地域医療等社会的ニーズに対応した質の高い医療人養成推進プログラム」による重点的な財政支援を通じた地域医療を担う人材の養成等の諸施策を進めていきます。

(4)がん医療への取組

 日本人の死亡原因第1位を占めるがんについて,全国どこでも最適な医療が受けられるようにするなど,がん対策の一層の充実を図るため,平成18年6月に「がん対策基本法」が成立しました。
 文部科学省では,前述の「医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」の第一次報告に基づき,「モデル・コア・カリキュラム」の改訂による,腫瘍(がん)に関する教育の充実を図るなど,がん医療に携わる医師その他の医療従事者の養成を推進しています。
 また,平成19年度からは,大学と大学病院が連携し,放射線療法,化学療法,緩和ケアを含めた,がん医療に関する優れた専門家を養成する「がんプロフェッショナル養成プラン」を実施する予定です。

(5)大学病院の充実

1医師・歯科医師臨床研修の改善・充実

 平成16年度から新しい医師臨床研修制度が導入され,新しく医師になった者に対して,総合的な診療能力の修得を主な目的とする2年間の臨床研修が必修化されました。文部科学省は,厚生労働省と連携しながら,臨床研修施設として重要な役割を担う大学病院にこの制度を定着させるとともに,研修医がアルバイトをせずに研修に専念できるよう処遇や指導体制の充実を図るための支援を行っています。
 歯科医師臨床研修については,平成18年度から総合的な歯科診療能力を身に付けることを主な目的として,歯科医師免許取得後1年間の臨床研修が必修化されました。文部科学省は,厚生労働省と連携しながら,歯科研修の充実を図るための支援を行っています。

2国立大学病院に対する経営改善支援

 平成16年度から国立大学は法人化され,附属病院についても自主・自律的な運営により効率的な経営が求められています。附属病院は国立大学の一部局ですが,投じられている予算,マンパワー(人的資源)自己収入の大きさなどを考慮すれば,国立大学法人の経営に大きな影響力を持つことになり,その経営改善の推進と経営基盤の確立が急務となっています。
 文部科学省は,これらの課題に対応するため,各大学病院に対して,経営改善の一層の推進を促すとともに,教育・研究・診療機能の維持・充実の観点から財政措置を行い,経営基盤確立のための支援を行っています。
 また,病院経営に携わる責任者などの経営意識の一層の醸成を図るため,平成16年度から学長,理事,病院長などを対象にして関係団体との共催により「国立大学病院経営セミナー」を開催しています。

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