第3節 諸外国の文化行政

3.米国の文化行政

(1)概説

 米国の文化芸術振興は,政府が中心となるのではなく,芸術を愛する国民が自主的に運営支援する団体が主体的に実施するべきであるという考え方を基本としています。このため,文化芸術政策を一元的に管理する政府の官庁や機関はなく,公的機関の活動領域や直接補助は極めて限定的となっています。
 また,米国における文化芸術は,ハリウッドやブロードウェイに見られる「商業芸術」と「非営利芸術」に分けて考えられており,「商業芸術」は民間の資金によって促進されるもので,連邦政府がそれらの文化を促進するために資金を出したり,介入すべきではないという議論があります。一方,「非営利芸術」は,民間による資金調達が難しいため,政府が支援する意義があると考えられています。
 他方で,冷戦下において文化芸術援助も外交の武器になるという認識の下,国策の一環として米国国内における文化芸術の創作活動を支援する目的で1965年(昭和40年)に連邦政府直轄の助成機関として,連邦政府の拠出金(連邦予算)を受けて文化芸術援助を担当する全米芸術基金(NEA:National Endowment for the Arts)が設立されました。
 また,独立非営利団体としてスミソニアン機構やケネディーセンターなどがあり,文化芸術施設の設立・運営を独自に実施しています。

(2)文化芸術の振興

 優れた文化芸術活動に対する支援は,NEAが中心となって行っています。NEAは芸術の知識と文化に関する専門性を持ち,米国全土から選出された委員による評議員を置き,文化政策に関する調査や各州政府や文化団体に対する助言,助成金を通じた文化活動の支援などを行います。また,1990年代後半からは様々な政府機関の政策プログラムの中に文化芸術を取り入れるよう働きかけを行っています。また,優れた文化芸術に国民が接する機会を増やすために,芸術家の地方派遣プログラムの支援や,若者が文化芸術に親しみを覚えるようにするための教育支援,地域密着型の比較的に小規模な芸術団体の育成を目的としたプログラムなどを支援しています。その他,芸術団体向けのプログラムとは別に作家,ジャズ演奏家,伝統芸能を実演している個人に対する助成事業も行っています。
 米国の博物館,美術館については,非営利団体であるスミソニアン機構が全米で18の博物館を有していますが,その資金の3分の2は連邦政府が支出しています。スミソニアン機構を含め,米国の博物館の多くは州政府,市町村やNEAの助成金を受けて非営利団体が運営を行っています。

(3)文化財の保護

 米国の文化財保護の重点は,独立記念建築や南北戦争の戦跡に置かれ,連邦が所有・管理する土地に存するものに限られていましたが,次第に保護の対象が私有財産にも広がりました。
 連邦の文化財保護に関する法律は数多くありますが,1966年(昭和41年)に制定された国家歴史保護法において,連邦政府の歴史的遺産の維持管理責任が明記されるようになりました。また,国家歴史保護法は原則50年以上前の文化財で米国の歴史に幅広く貢献した出来事に関係しているもの及び米国の歴史にとって重要な人間の生活に関連するものを「歴史的な場所の国家登録」として米国国務長官によって管理することとしています。
 文化財の保護を担当する組織には,内務省国立公園部,博物館図書館サービス機構などがあるほか,各州の機関,関係団体が挙げられますが,これを総括する立場として大統領及び議会に国家の歴史保存プログラムに関する諮問を行う歴史保存諮問委員会があります。歴史保存諮問委員会は,文化財の保護,修復,復旧,改築についての基本的な施策立案や保護活動に関する組織・団体,個人などの連携措置,情報の普及について大統領に助言することとされています。

(4)国際文化交流

 米国では近年「文化外交」を掲げており,文化政策は今日の米国外交政策の重要な柱の一つとなっています。すなわち,単に米国文化を海外に紹介するだけでなく,文化交流を外交政策の目的を果たす手段としてとらえ,国務省の中の教育文化交流部が担当しています。また,在外米国大使館広報部が教育文化交流部と協力し,海外における学術,文化上の交流事業の運営を実施しています。
 日本と米国との文化交流は,幅広い国民層において様々な分野で行われています。2003年(平成15年)及び2004年(平成16年)には日米和親条約調印150周年を記念した「日米交流150周年」が開催され,国民相互間の理解と友好を更に深め,将来に向けてより豊かな関係を創り上げていくために,日米両国で様々な交流事業が活発に行われました。

前のページへ

次のページへ