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特集1 2014年ノーベル賞受賞の青色発光ダイオードの発明、LED照明の普及とこれからの展開

 2014年、赤﨑勇・名城大学大学院理工学研究科終身教授、天野浩・名古屋大学大学院工学研究科教授、中村修二・米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授の3氏がノーベル物理学賞を受賞した。本特集では、2014年ノーベル物理学賞の受賞対象である青色発光ダイオード(LED(※1))の原理、政府の支援及び今後の展開などについて示す。


※1 LEDはLight Emitting Diodeの頭文字をとっている。

1 2014年ノーベル物理学賞受賞

 2014年10月7日、スウェーデン王立科学アカデミーは、2014年のノーベル物理学賞を赤﨑氏、天野氏、中村氏の3氏に贈ることを発表した。受賞理由は「高輝度、省エネルギーの白色光源を可能とした高効率青色発光ダイオードの発明」である。今世紀に入ってから、日本人の自然科学系のノーベル賞受賞者は米国に次いで2番目に多く、我が国の研究開発力の高さを世界に示している。
 受賞3氏は、困難に立ち向かうたぐいまれなる努力の結果、青色LEDを生み出した。赤﨑氏は、結晶作製の困難さゆえに、世界の研究者が研究を諦める中、昭和48年から窒化ガリウム(GaN)で単結晶を作製することができさえすれば、その結晶は過酷な条件に耐えられる丈夫な安定したものとなると強く信じ、窒化ガリウムによる結晶作製を諦めなかった。天野氏は、元旦を除く364日、実験室に閉じこもって研究を続けた。実験は1年半で1,500回以上に上った。中村氏は、あえて自分に「競合他社が実現できない、全く独自のやり方で製品化しなければならない」という厳しいルールを与え、市販の巨大な結晶作製装置を自ら大改造しては、実験する日々を研究成果が出るまで根気強く続けた。
 赤﨑氏、天野氏、中村氏は、当時多くの研究者が難しいと考えていた窒化ガリウムの研究に取り組み、20世紀中は不可能と言われてきた青色LEDを発明した。そして、この3氏の研究により、青色LEDの実用化及びその応用に道が開かれ、イノベーションが引き起こされた。
 スウェーデン王立科学アカデミーは以下のように3氏の功績を称(たた)えている。彼らはほかの皆が失敗した研究に成功した。赤﨑氏は名古屋大学で天野氏と共に研究しており、中村氏は徳島県の日亜化学工業株式会社に勤務していた。彼らの発明は革命的であった。20世紀を照らしたのは白熱電球だったが、21世紀はLEDランプによって照らされるだろう。また、スウェーデン王立科学アカデミーは以下のように社会に対する恩恵の大きさを評価している。LEDランプは、配電網を利用できない世界中の15億人以上の人々の生活の質を高めるためには極めて有望である。消費電力が少ないので、地方の安価な太陽光発電の電力によって駆動できる。青色LEDの発明からまだ20年が過ぎただけだが、青色LEDの発明は、既に全く新しい方法で白色光をつくることに貢献しており、我々全員に恩恵をもたらしている。
 このように、受賞3氏の研究成果は、世界の人々に未来へつながる「光」をもたらした。

2014年ノーベル賞授賞式の写真
2014年ノーベル賞授賞式
Copyright (c) Nobel Media AB 2014. Photo:Alexander Mahmoud

2 照明の歴史と青色LED

 LEDは、1950年代より幾つかの研究機関において研究されており、“LEDの父”と呼ばれ、当時、ゼネラル・エレクトリック社(以下、「GE」という。)の技術者であったニック・ホロニアックJr・イリノイ大学名誉教授らにより、1962年に初めて実用化レベルの明るさの赤色LEDが開発された。その後、黄緑色のLEDは1960年代後半までに開発されたが、青色LEDについては、実用化が困難で、「20世紀中の実現は不可能」とさえ言われていた。
 青色が実現すれば光の三原色がそろい、全ての色が表現できるようになる。科学界及び産業界の双方が追い求め、長年難題であり続けた青色LEDの発明に成功し、照明の歴史に名を刻んだのが赤﨑氏、天野氏、中村氏である。
 以下、人類の照明の歴史について紹介する。

 人類が石器時代には炎を使って明かりを得ていたことは様々な遺跡から明らかであり、その後19世紀まではこの炎を効率よく利用する試みがなされ、たいまつ、ろうそく、ガス灯など、化学反応、酸化反応を利用する方法など徐々に発展していった。
 次に、第2の明かりと言われているのが白熱電球である。白熱電球は、フィラメントに電気を流して、約2,000度に加熱し光を出す。1878年に英国のジョセフ・スワン氏により白熱電球が発明され、その後、米国のトーマス・エジソン氏によって実用レベルに引き上げられたことにより、人類は電気エネルギーを用いることによって光を得ることが可能となった。

白熱舎が明治期に製造した白熱電球の写真
白熱舎が明治期に製造した白熱電球
提供:東芝ライテック株式会社

 一方、日本の白熱電球は、白熱舎(現在の株式会社東芝)を設立した藤岡市助氏、三吉正一氏によって、明治23年に本格的に製造が開始された。明治17年秋、当時27歳であった若き研究者、藤岡氏は国の使節に任命され、米国に渡り、トーマス・エジソン氏の研究室を訪問した。その際、「日本に帰ったら電気事業の創設に我が身をささげる」と宣言した藤岡氏に対し、トーマス・エジソン氏は「日本を電気国にするのは大変良いことだ。だが一つだけ忠告しておこう。電気器具を輸入するような国は滅びる。まず、電気器具の製造から手がけ日本を自給自足の国にしなさい。」と応じた。当時、電球の製造は、ガラスの管球を作る技術、管球の中から空気を排する技術など世界最先端の技術を要した。白熱舎がこれらの技術開発に成功し、白熱電球を国産化したことは、独立した近代国家へ大きな一歩を踏み出したことを意味した。
 20世紀になると、白熱電球のフィラメントは炭素からより明るく耐久性のあるタングステンに代わった。白熱電球は、真空中に配置されたフィラメントに電流を流すことによって、フィラメントを高温状態にし、その熱輻射(ふくしゃ)によって光を得る。したがって、原理的には炎と同じように熱を伴う発光でありエネルギー変換効率は低い。
 次いで開発されたのが、第3の明かりとされる蛍光灯である。蛍光灯は、1926年にドイツのエトムント・ゲルマ-らによって発明された。その後、1930年代に米国のGEがその実用化に成功した。蛍光灯は、水銀ガスの放電によって得られた紫外線を蛍光体によって白色光に変換するものであり、白熱電球に比べエネルギー変換効率が高いという特徴がある。

我が国初の蛍光灯の写真
我が国初の蛍光灯
提供:株式会社東芝東芝未来科学館

 一方、日本で蛍光灯が販売されるようになったのは1940年代からである。GEの蛍光灯を見学した東京芝浦電気(現在の株式会社東芝)の初代社長は、我が国で蛍光灯を早急に事業化するため、昭和14年にGEに3名の技術者を派遣した。その翌年、昭和15年には少量ながら蛍光灯の製作に成功し、同年8月27日、紀元2600年を記念して行われた法隆寺金堂壁画模写事業において、試作品の蛍光灯が使用された。これが我が国で蛍光灯が使用された記念すべき日であった。その後、蛍光灯は改良が進み、昭和26年には、蛍光灯の明るさが世界水準に追い付き、昭和29年には、平均寿命が7,500時間となり、外国製品に比肩する水準となった。

発光ダイオードの仕組み 図
発光ダイオードの仕組み
提供:東芝ライテック株式会社

 そして、「21世紀を照らす」第4の明かりと言われるのがLEDである。LEDは、従来の照明とは異なり、半導体結晶の中の電子のエネルギー状態の遷移によって光を生み出す仕組みを応用した光源である。電気エネルギーを直接光エネルギーに変換するため、発熱を伴わず、高効率発光が可能である。
 具体的には、「p型」と「n型」(※2)の二つの半導体をつなぎ合わせ、順方向(※3)の電圧をかけると、n型半導体内の電子とp型半導体内の正の電気を帯びたホール(正孔)がともに境界面へと移動する。その際、電子と正孔が再結合すると、それによって発生した余分な電気エネルギーが光エネルギーに変換され発光する。この再結合の際に放出されるエネルギーの大きさにより、光の色が決まる。赤色の光子エネルギーは約1.9エレクトロンボルト(※4)で三原色の中で一番小さい。一方、青色の光子エネルギーは約2.6~2.8エレクトロンボルトと三原色の中で一番大きい。
 赤色LEDと黄緑色LEDは1960年代に開発されたが、エネルギーが大きい青色は実用的な高い輝度を実現することが難しいなど幾つかの課題があった。ようやく高輝度青色LEDの実現によって、平成5年に一気にLED電球が実用化されることとなった。LEDはこれまでの光源と比較して、長寿命、低消費電力、小型・軽量、そして、有害金属である水銀を使用しないといった利点がある。平成26年4月11日に閣議決定された「エネルギー基本計画」においても、業務・家庭部門における省エネルギーの強化のため、LED照明等の高効率照明について、2020年までにフローで100%、2030年までにストックで100%(※5)の普及を目指すとしており、今後ますます照明器具のLED化が進展することが予想される。


  • ※2 「p型」半導体は、プラスの電荷を持つ仮想的粒子である正孔が多い半導体を指す。また、「n型」半導体は、マイナスの電荷を持ち半導体中を自由に動く粒子(電子)が多い半導体を指す。
  • ※3 陽極(+)側に正電圧を、陰極(-)側に負電圧を印加すること
  • ※4 エレクトロンボルト(eV)は、エネルギーの単位。1eVは、1Vの電位差で電子を加速するときに電子が得る運動エネルギーのことを指す。
  • ※5 フローは各年度の国内機器出荷台数、ストックは導入量を指す。

3 関連する業界の動向・応用分野

(1)LED照明産業の動向

 LED照明は消費電力が少なく、東日本大震災後の電力需給の逼迫(ひっぱく)を機として、我が国の照明市場の中核を形成しつつある。大震災が起きた平成23年のLEDの国内照明市場は前年比約2.5倍の2,220億円と大きく伸び、平成25年には4,796億円となった(※6)。LED照明器具に関しては、光源一体型のベースライト、高天井用照明及び屋外照明でのLED化が進み、照明器具市場におけるLED照明器具の比率は平成25年に半数を超えた(※7)。世界市場を見ると、平成25年のLED照明器具市場は約1.3兆円であるが、今後、先進国等で市場が拡大し、平成32年には5.5兆円になると予測されている(※8)。LED照明への好調な需要が続いているが、製品寿命が長いというLED照明の利点を踏まえると、中長期的には国内市場は縮小していくことが想定されるため、今後の伸びが見込まれる海外市場への進出や新たなビジネス展開が求められる。


  • ※6 株式会社富士経済「Special Appli. 光源/照明市場 実態・技術・予測 2014年版」
  • ※7 株式会社富士経済「Special Appli. 光源/照明市場 実態・技術・予測 2014年版」
  • ※8 株式会社富士経済「Special Appli. 光源/照明市場 実態・技術・予測 2014年版」。なお、LED管球ランプ市場については、平成25年は約0.5兆円であり、その後拡大を続け、平成32年には1.3兆円になると予測されている。

(2)LEDの応用

 LEDの応用範囲は広い。LEDは半導体自身が発光するため、白熱電球のフィラメントが切れるような心配がなく、数万時間の寿命を持つ。LEDの寿命は、白熱電球の数十倍、蛍光灯の数倍である。また、LEDの発光効率は、白熱電球や蛍光灯より高く、近年の技術開発により、年々向上している。長寿命、低消費電力という特性を活(い)かし、点灯時間が長い街路灯や防犯灯などに活用されている。最近の有名な導入事例として、ルーヴル美術館のナポレオン広場、ピラミッド、ピラミディオンなどのLED照明への交換があり、これにより年間消費電力を73%削減することが可能となると試算されている(※9)。

ルーヴル美術館照明改修プロジェクト 写真
ルーヴル美術館照明改修プロジェクト
提供:株式会社東芝

 また、白色LEDからの発光には赤外線や紫外線をほとんど含まないため、照射物に優しい照明として期待されており、この特性を活かして、紫外線による品質の劣化が懸念される美術品や工芸品の照明に用いられ、文化財保護に役立っている。
青色LED約25万球使用のイルミネーションの写真
青色LED約25万球使用のイルミネーション
提供:カレッタ汐留(「カノン・ダジュール Canyon d'Azur ~光の渓谷へ~」平成26年)

 さらに、LEDは、光の三原色である、赤・緑・青の3色のLEDとマイクロプロセッサとを組み合わせることにより、非常に細かく輝度をコントロールすることができる。この特性により、再現できる色の数が増えるととともに、ある色からほかの色へ素早く色を変えることもできるため、演出としての幅も広がり、冬になると各地でLEDを用いた美しいイルミネーションが私たちの目を楽しませてくれるようになった。
 LEDは医療分野にも活用されている。LEDは小型・薄型・軽量であるため、自由度の高い機器設計やデザインが可能である。この特性を活(い)かした製品として、口から飲み込み体内画像を撮るカプセル内視鏡が挙げられる。内視鏡は小型であるほど体内への負担が小さい。LEDは、照明装置として小型化が可能であり、かつ、省エネルギーであることから、内蔵電池も小型にできるため、カプセルに搭載するには最適な照明である。
 小型化が可能であるLEDの特性は、液晶ディスプレイのLEDバックライトにも活かされている。LEDバックライトは、色の再現性が豊かで、薄型化も可能であり、携帯電話やテレビなど様々な電化製品に使用されている。
 さらに、LEDは農業分野での活用も期待されている。光の制御が容易なLEDの特性を活かし、野菜の種類に合わせて最適な光を照射することにより、栄養価の高い植物の育成が可能となった。平成26年7月、宮城県に、LED照明を全面的に採用した世界最大規模の植物工場が完成した。この工場では、1日約1万株のレタスが収穫可能である。蛍光灯を使った場合に比べ消費電力を40%削減しつつ、収穫量を50%増加させることに成功した。

LED照明を全面採用した人工光型植物工場の写真
LED照明を全面採用した人工光型植物工場
提供:株式会社みらい


  • ※9 ナポレオン広場において従来の照明器具4,500台(消費電力量392,000Wh)をLED照明器具3,200台(消費電力量105,000Wh)に置き換えた場合の比較

コラム特‐1 LED信号機

 信号灯器に使用できる輝度の青色LEDが開発され、平成6年、車両用LED式信号灯器が、世界で初めて愛知県と徳島県に設置された。
 LED式信号灯器は、反射鏡を使用せず、光源であるLED素子が発色・発光するため、視認性が高く、また、電球式のように、西日が当たることであたかも信号が点灯しているように見えてしまう疑似点灯が起こりにくいという特長がある。また、LED式は電球式に比べて消費電力が6分の1程度であり、省エネルギー効果が高い。さらに、寿命についても、電球式が約半年から1年であるのに対し、LED式は、約6年から8年と見込まれており、コスト削減や電球交換作業に伴う交通流の阻害を抑制する観点からも優れた特性を有している。
 我が国では、平成26年3月末時点で、信号灯器全体に占めるLED式の割合は、車両用45.3%、歩行者用37.7%となっており、全体で42.0%を占めている。交通信号機のLED化は海外でも進められており、シンガポールやストックホルムでは、交通信号機がLED式となっている。我が国においても、今後更に設置が進められることになっている。

4 政府における取組

 ノーベル物理学賞の受賞に至った研究開発については、民間企業の経営者の判断により研究開発投資を継続的に行うなど、民間企業による研究開発投資が大きな役割を果たした。また、その過程において、公的支援の果たした役割も大きい。以下、研究開発の一端を担った公的支援の経緯及び窒化ガリウムに関わる現在の公的支援について紹介する。

(1)青色LED開発を支援した政府の施策

 赤﨑氏は昭和39年に名古屋大学から松下電器産業株式会社(現在のパナソニック株式会社)の研究所に移った後、昭和48年から「青色」発光の半導体素子の研究に本格的に取り組み始めた。政府としては、昭和50年度から3年間、通商産業省(現在の経済産業省)が「重要技術研究開発費補助金制度」により支援した。その後、昭和56年に赤﨑氏が名古屋大学に戻って以降、赤﨑氏や天野氏の基礎研究は、文部省(現在の文部科学省)の基盤的経費(教官当積算校費)、科学研究費補助金(科研費)の補助事業に支えられ、最初の重要な成果である高品質窒化ガリウム結晶化につながった。赤﨑・天野両氏は、窒化ガリウムの結晶化は多くの基礎研究の成果から生み出されたものであり、失敗に終わった試みにおいてもその結果をフィードバックして次の研究の方向が生まれるなど、決して無駄ではなかったと指摘している。
 その後、青色LEDを産業界へ技術移転するに当たり、新技術開発事業団(現在の科学技術振興機構)による委託開発事業(後にA-STEP実用化挑戦タイプ 委託開発)が大きな役割を果たした。委託開発事業は、大学等の研究成果で、開発リスクが高いものについて、新技術開発事業団から企業に開発費を支出して開発を委託し、実用化を図る制度である。
 昭和62年度から平成2年度の3年半、新技術開発事業団が支援した委託開発事業「GaN青色発光ダイオードの製造技術」においては、本プロジェクトにおける新技術開発事業団の目利き人材が果たした役割が大きい。新技術開発事業団は、当時、セレン化亜鉛が主流であった中で、窒化ガリウムを用いている赤﨑氏の研究が実用化につながる可能性があると見抜き、委託開発事業への申請を提案した。本プロジェクトには、5億5,000万円の研究開発費が投入され(成功認定後、同開発経費は新技術開発事業団に返済された。)、その結果、良質な窒化ガリウムを作製することが量産化レベルで可能となり、青色発光ダイオード実現への道が大きく開かれた。このような、大学内の膨大な研究成果の中から事業化可能な技術を見つけ出し企業への橋渡しを行う目利き人材の活用は、産学連携を推進する上で重要である。さらに、本プロジェクトにより支援を受けた企業から科学技術振興機構に支払われた特許実施料の累計は平成25年時点で約56億円に上り、その一部は名古屋大学等へ配分されている。

(2)先端技術による省エネルギーイノベーション

 今回ノーベル賞を受賞した3氏は、窒化ガリウムという材料を研究対象とした。この窒化ガリウムは、LED以外にも応用が可能であり、昨今注目されているのが、パワー半導体である。パワー半導体は、電気を直流から交流、あるいは交流から直流に変えたり、電圧を上げたり下げたりして電力を効率よくコントロールする役割を担っている。パワー半導体は、太陽電池で発電した電力を電力送電網に接続するシステムの一部や、エアコン、冷蔵庫などの様々な家電製品、電気自動車のモーターの制御装置などにも使用されている。
 長らくパワー半導体の材料としてはシリコン(Si)が用いられてきたが、窒化ガリウムが新材料の一つとして期待されている。平成2年に赤﨑氏が提案したフロンティアエレクトロニクス(※10)や平成8年度に文部省私立大学学術研究高度化推進事業におけるハイテク・リサーチ・センター整備事業に採択された「新領域エレクトロニクスのためのワイドギャップ窒化物半導体の研究」では、ワイドギャップ半導体(※11)としての特性を活(い)かしたデバイス提案がなされた。また、経済産業省が平成19年度から平成24年度まで実施した「次世代照明等の実現に向けた窒化物半導体等基盤技術開発/ナノエレクトロニクス半導体新材料・新構造技術開発-窒化物系化合物半導体基板・エピタキシャル成長技術(※12)の開発-」では、天野氏をプロジェクトリーダー(平成21年7月まで)に窒化ガリウム単結晶基板成長技術やエピタキシャル成長技術等を開発し、新しい成長技術の提案等を行っており、近年になって天野氏を中心に急速に同分野の研究開発が加速しつつある。
 窒化ガリウムは理論的に大幅な効率化が可能であり、環境省によれば、現在デバイスに主に使用されているシリコンと比較して、エネルギー損失は6分の1以下になる。また、窒化ガリウムは、もう一つの新材料と言われている炭化ケイ素(SiC)と同じように安定した結合を有しており、炭化ケイ素と同様、高電圧、高温でも作動できるデバイスを実現できる可能性がある。さらに、窒化ガリウムは高周波特性に優れており、通信機器用電源などへの応用が期待されている。
 経済産業省では、平成21年度から「次世代パワーエレクトロニクス技術開発プロジェクト」において、当初、炭化ケイ素パワー半導体の早期実用化促進を中心に研究開発を行っていたが、窒化ガリウムのパワー半導体への応用の重要性を鑑み、平成26年度から窒化ガリウムパワー半導体の開発も行われるよう方針転換を行った。また、新材料・新構造(※13)等による革新的な超高効率太陽電池を開発するために、新材料を用いるパワー半導体開発での産学の科学的知見も結集して平成20年度から平成26年度まで実施した「革新的太陽光発電技術開発-ポストシリコン超高効率太陽電池の研究開発」では、天野氏が、窒化ガリウムパワー半導体の研究でも期待される結晶成長技術を用いて窒化ガリウムの太陽電池への応用に取り組んだ。
 環境省は、平成26年度から「未来のあるべき社会・ライフスタイルを創造する技術イノベーション事業(高効率デバイスの開発等)」において、民生・業務部門を中心に、照明、空調等、多種多様な電気機器に組み込まれているパワーデバイス及び光デバイスを最も品質の高い窒化ガリウム基板を用いて高効率化し、エネルギー消費量の徹底した削減を実現する技術開発及び実証を、天野氏らの開発チームにおいて実施している。
 また、内閣府は、平成26年度に、府省・分野の枠を越えて基礎研究から実用化・事業化までを見据えた研究開発等を推進する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP(※14))」を創設し、その対象課題の一つとして、次世代パワーエレクトロニクスの研究開発を経済産業省等と連携しつつ推進している。電力変換用、自動車用等の炭化ケイ素、窒化ガリウムに関する基盤的技術の研究や将来のパワーエレクトロニクスに関する革新的研究を行うことで、2020年までにパワーエレクトロニクス技術を駆使した超高効率なエネルギー利用により、かつてない省エネルギー効果を達成することを目指している。
 文部科学省は、今後、特に推進すべき政策の柱の一つとして、先端技術による省エネルギーイノベーションを掲げており、次世代パワー半導体をその実現に向けた重要な要素として捉えている。また、平成24年度から私立大学戦略的研究基盤形成支援事業に採択された「窒化物半導体・新領域エレクトロニクス」(※15)により、赤﨑氏を研究代表とした名城大学の研究グループが、窒化物半導体の基盤技術の形成を目指し研究を進めている。そこでは、紫外発光デバイス(LED・レーザー)、紫外線受光素子、窒化物半導体・面発光レーザー(※16)や蛍光体を用いない白色LEDなど様々な応用のシーズが出つつあり、更なる窒化物半導体発光素子の発展が期待される。さらに、平成26年度に、実験装置群を名古屋大学に整備し、結晶の創製からデバイス化までを一貫して進める環境の構築を進めており、今後、産学官の力を結集したオールジャパンの体制を構築し、政府一丸となった支援を行うことにより、研究開発・社会実装の加速を図ることを検討している。


  • ※10 平成2年に赤﨑氏が提案したフロンティアエレクトロニクスは、光・通信・パワー・耐環境・機能などシリコンやヒ化ガリウム(GaAs)など従来の材料では実現できない機能を持ったデバイスによって新しいエレクトロニクスを開拓することを総称して命名された。
  • ※11 バンドギャップの大きい半導体を指す。バンドギャップとは、電子が存在することのできない領域のことを指す。バンドギャップが大きい半導体は、電子デバイスに応用する場合、高耐圧、高出力、低損失などのパワーデバイスに適した特性を示す。
  • ※12 薄膜結晶技術の一つで、半導体基板上に単結晶の薄膜を形成(成長)させる技術
  • ※13 新材料は、現在、主に使用されているシリコンに比べ高い発電効率が期待されるインジウムやガリウムなどの化合物半導体の新しい材料を指す。新構造は、現在一般的な半導体の構造であるpn結合ではなく、発電効率の向上が期待される、太陽光の利用波長を広げるために複数のpn接合による積層構造を有するなど新しい概念の構造を指す。
  • ※14 Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program
  • ※15 支援期間は平成24年度から平成28年度
  • ※16 光が半導体基板と垂直に出射する構造のレーザー。超高速データ通信用の光源やレーザープリンターなどに応用されている。

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科学技術・学術政策局企画評価課

(科学技術・学術政策局企画評価課)

-- 登録:平成27年07月 --