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第3章 我が国が直面する重要課題への対応

第1節  重要課題達成のための施策の推進

1  安全かつ豊かで質の高い国民生活の実現

  第4期基本計画において、目指すべき国の姿の一つに「安全かつ豊かで質の高い国民生活を実現する国」が掲げられている。国民が将来にわたって安全かつ豊かで質の高い生活を送ることができるよう、大規模な自然災害や重大事故、テロ等から人々を守り、食料や水資源等の安定的確保を通じて人々の安全性の向上を図るとともに、人々の感性や心の豊かさを増進するための取組を進めることが重要である。

(1)生活の安全性と利便性の向上

  自然災害をはじめとする様々な災害、事故、犯罪等から人々の生活の安全を守り、人の健康保護や生態系の保全、さらに、安全性の向上と利便性及び快適性の向上を両立させるため、関係機関では以下のような取組を進めている。

1.地震、火山、津波、高波・高潮、風水害、土砂災害等に関する調査観測や予測、防災、減災、災害対応能力の強化に関する研究開発の推進

  平成24年度は、平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の影響を受け、多くの余震や誘発地震が発生した。また、平成24年5月の茨城県・栃木県の竜巻被害や「平成24年7月九州北部豪雨」による大雨災害など、各地において自然災害が発生した。海外では、平成24年5月のイタリア北東部の地震や8月のイラン北西部の地震、6月のバングラディシュでの豪雨に伴う地滑りや10月のアメリカの大型ハリケーン、12月のフィリピンの台風24号に伴う大雨災害等、世界各地で自然災害により甚大な被害が生じている。こうした自然災害による被害を軽減するために、様々な自然災害に対応した防災科学技術の研究開発を推進していくことが重要である。

(1)地震分野の研究開発の推進(文部科学省)

  我が国の地震調査研究は、地震調査研究推進本部(本部長:文部科学大臣)の下、関係行政機関が密接に連携・協力しながら行われている。地震調査研究推進本部は、東日本大震災の発生を受けて、平成21年4月に策定した我が国の地震調査研究に関する基本的な施策をまとめた「新たな地震調査研究の推進」の見直しを平成24年9月に行い、地震や津波の即時予測の高度化に向けて、海域での観測網の着実な整備等を図ることとした。
  また、地震調査研究推進本部は、これまで地震の発生確率や規模等の将来予測(長期評価)を行ってきたが、東北地方太平洋沖地震のような多くの領域が連動して発生する巨大地震を評価の対象とできていなかったことから、今後、評価方法を見直し、防災に活用されるような評価の示し方等を検討する方針を平成23年6月に決定し、現在、新たな評価方法について検討を進めている。このほか、「九州地域の活断層の長期評価」を平成25年2月に公表し、地域単位での活断層の評価を初めて実施した(第2-3-1図)。
  大学等の関係機関における地震・火山噴火予知研究の計画を取りまとめた「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画の推進について(建議)」(平成20年7月科学技術・学術審議会)については、これまで、東北地方太平洋沖地震のような超巨大地震に関連した観測研究等を対象にしていなかった。このため、科学技術・学術審議会は、このような超巨大地震の解明のための観測研究も対象とすることができるよう、平成24年11月に同計画の見直しを行い、文部科学大臣をはじめとする関係大臣へ建議した。なお、現在、科学技術・学術審議会は、平成26年度に開始する次期計画の策定に向けて検討を行っているところである。
  文部科学省では、首都直下地震等を対象とした「都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト」、南海トラフ地震を対象とした「東海・東南海・南海地震の連動性評価研究」等、想定される地震が発生した際の社会的・経済的被害が大きい地域を対象とした調査研究を実施している。「東海・東南海・南海地震の連動性評価研究(プロジェクト実施期間:平成20~24年度)」では、東海・東南海・南海地震の想定震源域において、地震・津波・地殻変動等の観測やシミュレーション研究、被害予測研究等を行った。本プロジェクトの成果はこれらの地震が将来連動して発生する可能性等に関する政府の検討や、内閣府が作成する想定震源域のモデルの検討に用いられた。また、日本海東縁部を対象として実施している「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究(プロジェクト実施期間:平成20~24年度)」では、地震調査観測の空白域である、日本海東縁部を中心としたひずみ集中帯の地震発生メカニズム等を解明するため、海底ケーブル地震計による観測、制御震源を用いた海陸統合調査等を実施し、震源断層モデルを構築した。
  阪神・淡路大震災以降、陸域において地震観測網の稠密な整備が進められてきた一方で、海域の観測網ついては、気象庁の東海・東南海沖ケーブル式常時海底地震観測システムなど、幾つかの観測網が敷設されていたものの、陸域の観測網に比べて観測点数が非常に少ない状況であった。

第2-3-1図/九州地域の活断層の長期評価(今後30年以内に  M6.8以上の地震が発生する確率)

第2-3-1図/九州地域の活断層の長期評価(今後30年以内に  M6.8以上の地震が発生する確率)の画像

資料:文部科学省作成

  このため、文部科学省は、東南海地震の想定震源域で、地震計、水圧計等を備えたリアルタイムで観測可能な高密度海底ネットワークシステムの本格運用を開始し、南海地震の想定震源域においても、同様なシステムの敷設に向けた技術開発を行っている。さらに、今後も大きな余震や津波が発生するおそれがある東北地方太平洋沖地震の震源域周辺において、ケーブル式海底地震津波観測網の整備を行っている(第2部第2章第1節1(3)参照)。

(2)防災科学技術の推進(防災科学技術研究所)

  防災科学技術研究所は、E-ディフェンスを活用した耐震工学研究や、次世代型高性能レーダを用いた高精度の降雨予測や土砂・風水害の発生予測に関する研究、火山災害、雪害等の自然災害による被害の研究に資する研究等を実施している。また、各種自然災害の情報を集約・活用するシステムの開発に関する研究等を推進している。平成24年度は、東北地方太平洋沖地震のような超巨大地震に伴う長周期・長時間の揺れを再現できるように E-ディフェンスを機能強化した。また、東北地方太平洋沖地震等の海溝型地震の発生メカニズム解明のための研究開発等を実施した。

(3)地震観測・予測、津波予測、緊急地震速報等に関する研究(気象庁)

  気象庁では、自らの地震観測施設の観測データと関係機関の観測データを併せて処理・分析し、その成果を関係機関へ提供している。緊急地震速報については、更なる高度化のための技術開発を防災科学技術研究所等と協力して進めている。
  気象庁気象研究所では、津波災害軽減のための巨大地震の即時的規模推定や沖合の津波観測データを活用した津波予測の技術開発、緊急地震速報の精度向上のための震度予測手法に関する研究、東海地震予知技術の精度向上のための地殻変動の監視・解析技術に関する研究などを実施している。

(4)地殻変動の観測、解析及びその高度化(国土地理院)

  国土地理院では、電子基準点(※1)等によるGNSS連続観測、超長基線電波干渉法(VLBI(※2))、干渉SAR(※3)等を用いた地殻変動やプレート運動の観測、解析及びその高度化のための研究開発を実施している。さらに、平成22年度からは、気象庁、防災科学技術研究所、平成24年度からは、上記2機関に加え、産業技術総合研究所、神奈川県温泉地学研究所による火山周辺のGNSS観測点のデータも含めた火山GNSS統合解析を実施し、火山周辺の地殻変動のより詳細な監視を行っている。

(5)海底地殻変動観測等の調査観測の充実強化(海上保安庁)

  海上保安庁では、GPS測位と音響測距(※4)を組み合わせた海底地殻変動観測、海底地形や海域活断層等の調査を推進している。また、東北地方太平洋沖地震を踏まえ、南海トラフ海域における海底地殻変動観測体制を強化した。


※1  平成24年3月末現在で、全国に1,240点

※2  Very Long Baseline Interferometry:はるか彼方から、地球に届く電波を利用し、数千kmもの距離を数mmの誤差で測る技術

※3  Synthetic Aperture Radar:人工衛星(陸域観測技術衛星「だいち」は2011年5月に運用停止)で宇宙から地球表面の変動を監視する技術

※4  音波を用いて船上局と海底基準局の間の距離を測定する。

(6)火山の地質調査や活断層、津波堆積物調査等(産業技術総合研究所)

  産業技術総合研究所では、防災等に資する地質情報整備のために、活断層・津波堆積物調査や活火山の地質調査を行い、その結果を公表している。
  全国の主要活断層に関しては、分布位置や活動履歴を解明するために、陸域で6断層帯、沿岸海域で3断層帯の合計9断層帯の地質調査を実施した。また、関東平野における深谷断層及び綾瀬川断層を対象として、反射法地震探査、ボーリング調査、取得試料を用いた物性試験を実施し、地下構造データの充実を図り、これらに基づき、断層滑りシミュレーションを行った。そのほか、東海・東南海地震の短期予測のために、地下水総合観測点を引き続き整備し、地下水位、地下水温、地殻歪や地震波の測定を継続した。巨大津波及びそれを引き起こす地震活動の履歴を把握するために、日本海溝沿いの下北半島、仙台平野、北茨城、房総半島と、南海トラフ沿いの静岡県沿岸で地質調査を実施した。

  活火山に関しては、火山噴火シナリオの高精度化のために、平成23年に噴火した霧島火山新燃岳と、活動が活発化している桜島火山の降灰観測及び岩石学的解析を引き続き行った。また、今後監視・観測体制の充実が必要な九重山、蔵王山、八丈島火山の噴火履歴調査を実施した。

火山灰自動観測装置の写真

火山灰自動観測装置

桜島に現在2箇所、霧島に3箇所設置し、降灰量をリアルタイムでつくばに送信(試験運用中)している。
提供:産業技術総合研究所

(7)波浪・潮位に関する観測や自然災害による被害軽減に向けた防災等に関する研究開発(国土交通省)

  国土交通省は、港湾空港技術研究所等との相互協力の下、全国港湾海洋波浪情報網(NOWPHAS)の構築・運営を行っており、全国各地で観測された波浪・潮位観測データを収集し、ウェブサイトを通じてリアルタイムに広く公開している。平成24年度は、海象観測のリアルタイム観測情報処理システムの改良を実施した。
  国土交通省国土技術政策総合研究所では、国土交通本省関連部局と連携し、道路、河川、港湾等の社会資本施設や住宅・宅地に関連して、地震、津波、水害、土砂災害等の自然災害を防止・軽減するための災害予測や防災計画の在り方に関する研究等、防災施策の企画・立案に資する研究や災害に対する安全性を確保するための技術基準の策定に関する研究等を行っている。平成24年度は、東日本大震災を踏まえて、例えば、設計対象の津波高を超え、海岸堤防・防波堤の天端を越流した場合であっても、粘り強く効果を発揮する海岸堤防・防波堤の構造について研究を行った。また、宅地の液状化に関し、東日本大地震の被災自治体に対する技術支援のため、地域の地盤状況に対応して地下水位低下工法及び格子状地中壁工法を適用した場合における効果等の程度を簡易に把握可能にするソフトを開発・公開した。

(8)激甚化・多様化する自然災害の防止、軽減、早期復旧に関する研究(土木研究所)

  土木研究所では、地震・津波・噴火・風水害・土砂災害・雪氷災害等による被害の防止・軽減・早期復旧に資する技術開発を行っている。平成24年度は、例えば、河川堤防の浸透対策と耐震対策を組み合わせた複合対策技術について研究を実施した。

(9)災害情報の集積・分析、災害時における訓練システム開発(消防庁)

  消防庁では、東日本大震災における情報収集に関する課題を踏まえ、緊急消防援助隊の被災地への派遣など応急対応の担当者の判断を支援するための広域版地震被害想定システムの研究開発を開始した。また、東日本大震災や大規模水害時における応急対応の経験的知識を次の災害対応に活かすために、大災害時の部隊運用や住民への避難指示の出し方などの訓練に資する応急対応支援システムの開発を開始した。

地震被害想定システムの表示画面例の画像

地震被害想定システムの表示画面例
提供:消防研究センター

2.火災や重大事故、犯罪への対策に関する研究開発の推進

  科学警察研究所では、犯罪の捜査・予防の推進、事故の原因解明等のための各種研究を行っている。平成24年度には、大麻事犯捜査における科学的検査法の高度化に関する研究、加齢顔画像作製システムの開発に関する研究、犯罪捜査の支援のためのハプロタイプ解析(※5)による生物学的資料の個人識別に関する研究、被疑者・被害者等に対する面接手法に関する行動科学的研究及び火災事故の原因解明や放火事件の立証のための、火災鑑定におけるシミュレーション技術実用化に関する研究を推進した。
  文部科学省では、犯罪・テロ対策技術等の構築に資する科学技術について、関係府省の連携体制の下、ユーザとなる公的機関のニーズに基づいた研究開発を実施し、実用化につなげるため、平成22年度から科学技術振興調整費(平成23年度から科学技術戦略推進費)にて「安全・安心な社会のための犯罪・テロ対策技術等を実用化するプログラム」を実施している。また、科学技術協力協定下の「日米安全・安心科学技術協力イニシアティブ」の協力枠組みを踏まえ、日米バイオセキュリティシンポジウムを開催し、関係府省や研究者に情報提供する、知や技術の共有化を行っている。


※5  複数の型を一つの型として分類するDNA型分析法

3.人の健康保護や生態系の保全に向けた研究開発の推進

  土木研究所では、人の健康保護や生態系の保全に向けて、水環境における環境汚染物のリスクの評価、その管理及び対策に関する研究を行っている。
  海上技術安全研究所では、海洋環境の保全のため、ゼロエミッションを目指した環境インパクトの大幅な低減と社会合理性を兼ね備えた環境規制の実現に資する基盤的技術に関する研究を行っている。

4.安全性の向上と利便性及び快適性の向上の両立に向けた研究開発の推進

(1)交通・輸送システムの高度化及び安全性評価に関する研究開発

  国民の身近な足としての交通・輸送機関の安全性・信頼性の回復は喫緊の課題であり、今後の航空交通の需要増加や交通機関のオペレータのヒューマンファクター、車両運転者の「発見」、「判断」、「操作」に配慮して、予防安全を徹底するための新たな技術の活用を重点化して推進する必要がある。
  警察庁、総務省、国土交通省では、インフラ協調や車車間通信による安全運転支援システムの実用化に向けた取組を推進している。
  総務省では、安全運転支援システムの実用化に向け、700MHz帯の電波を用いて車車間・路車間通信等を行う高度道路交通システムの技術基準を策定した。また、歩行者等の安全確保に向け、79GHz帯高分解能レーダの技術基準を策定するとともに、さらなる高度化に向けた研究開発等を行っている。
  国土交通省では、全国の高速道路上を中心として約1,600か所にITSスポット(※6)を整備し、平成23年より全国でITSスポットサービスを開始している。また、車両扉位置の相違やコスト低減等の課題に対応可能な新たなホームドアの開発など、鉄道分野における安全性の更なる向上に資する技術開発を推進している。
  海上技術安全研究所では、海上輸送の安全確保のため、海難事故の大幅削減と社会合理性のある安全規制の構築による「安全・安心社会」の実現に資する研究を行っている。また、モーダルシフト(※7)の推進や移動の円滑化等に対応した海上物流の効率化、輸送システムの開発等に関する研究を行っている。
  電子航法研究所では、航空交通の安全の確保と円滑化を図るために、航空路の容量拡大に関する研究開発、混雑空港の処理容量拡大に関する研究開発、空地を結ぶ技術及び安全に関する研究開発を重点的に実施している。
  科学警察研究所では、平成24年度には、飲酒運転防止のための飲酒運転者の医学・心理学的な判定法に関する研究を推進した。


※6  路側に設置された無線装置によりダイナミックルートガイダンス(広範囲の渋滞データを配信し、カーナビが賢くルート選択するサービス)や安全運転支援、ETCなどのサービスを受けられるエリア

※7  環境負荷の小さい鉄道・海運利用へと、貨物輸送を転換すること。

(2)老朽化に対応するための住宅・社会資本ストックの高度化、長寿命化に関する研究開発の推進

  国土交通省では、住宅・社会資本ストックの高齢化・老朽化に伴う事故や災害を未然に防ぎ、またライフサイクルコストを低減するため、致命的損傷等の発生前に対策を講じる予防保全的管理に資する技術開発を行っている。
  土木研究所では、社会インフラの老朽化に対応するための効率的な維持管理に資する技術開発や、材料技術等の進展を踏まえた社会資本の機能の増進・長寿命化に資する技術開発を行っている。

(2)食料、水、資源、エネルギーの安定的確保

  日々の暮らしに不可欠な食料や水、資源やエネルギーの安全性を向上させつつ、安定的かつ継続的に供給していくため、関係機関では、以下のような取組を進めている。
  農林水産省では、食料、水、資源、エネルギー問題の解決に向けた遺伝子機能解明の加速を図るとともに、これらの分野の問題解決に貢献する超多収性作物、不良環境耐性作物、環境浄化植物、高バイオマス量植物等の作出に関わる研究を行っている。加えて、食料自給率の目標達成のため、品質や加工適性等の面で画期的な特性を有する食用作物及び飼料作物の開発や、国産飼料を用いた高品質な肉等の畜産物生産技術の開発に取り組んでいる。
  また、鳥インフルエンザや口蹄疫等の重大家畜疾病のヒトへの潜在的リスクや畜産農家の経済的損失を低減させるための防疫措置の高精度化及び効率化を図る技術開発に取り組んでいる。さらに、有害化学物質、有害微生物等を対象に農産物の生産・流通・加工工程におけるリスク低減のための技術開発に取り組んでいる。
  このほか、健康長寿社会の実現のため、農林水産物・食品成分の疾病予防機能の科学的エビデンスを獲得するための手法等の開発や、機能性成分を多く含む品種・栽培方法の開発に取り組んでいる。
  文部科学省では、海洋資源の安定的確保に向け、海洋鉱物資源の探査技術や、海洋生物資源の確保技術等の高度化を図る研究開発を推進している(第2部第3章第1節4(2)参照)。また、低炭素社会の実現に向け、グリーンイノベーションの創出に大きく寄与する再生可能エネルギーや分散エネルギーシステムの革新的な技術の研究開発を推進している(第2部第2章第2節1(1)、(2)参照)。
  海上技術安全研究所では、海洋資源・エネルギー開発に係る基盤的技術の基礎となる海洋構造物の安全性評価手法及び環境負荷軽減手法の開発・高度化に関する研究を行っている。
  経済産業省では、資源制約の克服と環境と調和した持続的な循環型社会の形成を目指し、使用済製品のリサイクルシステムを確立するため、使用済超硬工具の回収拡大や、使用済超硬工具から超硬合金原料への再生技術の低コスト化、効率化等のための技術開発・システム実証に対して補助し、自動車製造等に不可欠な超硬工具からのタングステンのリサイクルの促進を図った。

(3)国民生活の豊かさの向上

  科学技術による生活の質と豊かさの向上や、人々の感性や心の豊かさの増進に資するため、関係機関では、以下のような取組を進めている。

1.生活の質と豊かさの向上に向けた取組

  総務省では、教育分野に関して、文部科学省との連携により、教育分野におけるICTの利活用を推進するため、全国20校(小学校10校、中学校8校、特別支援学校2校)において、タブレットパソコンや電子黒板等のICT機器を使ったネットワーク環境を構築し、学校現場における情報通信技術面を中心とした課題を抽出・分析するための実証研究「フューチャースクール推進事業」を実施している。福祉分野に関して、高齢者・障害者の利便の増進に資する通信・放送サービスの開発を行うための通信・放送技術の研究開発を行う者に対し、当該研究開発経費の一部の助成を実施している。医療・介護分野に関して、ユビキタスネット技術(※8)の機能検証、技術検証、効果検証や地域の保有する医療情報等を安全かつ円滑に流通させるための医療情報連携基盤に関する実証等を実施している。行政分野に関して、情報通信技術を用いた各地域における公共的な分野に関するサービスを向上させる取組の推進を図るとともに、クラウド環境下において団体間の円滑な業務データ連携を可能とするための連携データ項目や連携機能・方式等を検討・実証を実施している。
  社会技術研究開発センターでは、自然科学と人文・社会科学の双方の知見を活用して、大学や公的研究機関などの研究者だけでなく、地域住民やNPO法人、地方公共団体など現場の状況・課題に詳しい様々な立場の「関与者(ステークホルダー)」と連携し、現場における問題解決に役立つ新しい成果を社会に実装することを目指した問題解決型の社会技術研究開発を推進している。社会技術研究開発は「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」、「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」、「犯罪からの子どもの安全」、「科学技術と人間」、及び平成24年度から新たに開始した「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造」を合わせた5つの領域と、「問題解決型サービス科学研究開発プログラム」、「科学技術イノベーション政策のための科学研究開発プログラム」の2つのプログラムを通じて行われている。


※8  患者・医薬品・医療機器に貼付された電子タグやセンサーを活用することにより、医療従事者の行為、患者の状態を自動的に識別記録する技術

コラム2-2  柿作りで生涯現役  -奈良県下市町栃原地区の取組-

  科学技術振興機構 社会技術研究開発センターが実施する研究開発領域「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」の取組の一つに、奈良県下市町栃原地区で実施されている「高齢者の営農を支える『らくらく農法』の開発」プロジェクト(代表者:奈良女子大学  寺岡伸悟准教授)がある。日本の中山間地の農村コミュニティには、高齢化の進行と次世代の担い手不足から、近い将来存続の危機を迎える可能性の高い地域が数多くある。このため、こうした高齢生活者を中心とした営農コミュニティをいかに維持していくかが当面の課題となっている。
  奈良県下市町栃原地区は、奈良県有数の広大な柿畑を有する、古くから開けた中山間農村地帯である。乏しい公共交通と全体の8割が傾斜度20度を超える狭あいな柿畑からなるため、高齢化に伴い、10年後には重労働を伴う柿栽培・収穫の担い手が激減し、コミュニティの崩壊も懸念されている。
  そこで、奈良女子大学、奈良県農業総合センター、国立奈良工業高等専門学校、地元の農工機械メーカーと地域住民によるチームで、高齢者でも容易に扱える点に十分配慮した新しい柿果実運搬のための電動農作業車の開発、柿果実以外に柿葉生産を行う「らくらく栽培」と、これを使った柿の葉寿司といった加工品など、高齢農業従事者が楽しく、生き生きと農業を営める「らくらく農法」の環境構築を目指している。今後の定着のため、コミュニティ構成員各々が将来像を容易に展望できるよう、コミュニティと協調して取組を進めている。

開発した柿果実運搬のための電動農作業車の写真

資料:開発した柿果実運搬のための電動農作業車
提供:科学技術振興機構  社会技術研究開発センター

2.人々の感性や心の豊かさの増進に向けた取組

  総務省では、デジタルコンテンツの製作・流通を促進する観点から、我が国コンテンツの発信による経済活性化、コンテンツ製作・流通環境の整備、新しいコンテンツ流通プラットフォームの検討を行っている。
  文部科学省では、文化と科学技術の融合による新たな文化創造にも寄与することを目指し、鑑賞者が有形無形の文化資産を五感で対話的に体験できるデジタル・ミュージアムの実現に向けた研究開発を実施している。

第2-3-2表/安全かつ豊かで質の高い国民生活の実現のための主な施策(平成24年度)
府省名 実施機関 施策名
警察庁 科学警察研究所 大麻事犯捜査における科学的検査法の高度化に関する研究
加齢顔画像作製システムの開発に関する研究
ハプロタイプ解析による生物学的資料の個人識別に関する研究
火災鑑定におけるシミュレーション技術実用化に関する研究
被疑者・被害者等に対する面接手法に関する行動科学的研究
飲酒運転者の医学・心理学的な判定法に関する研究
総務省 本省 電磁波エネルギー回収技術の研究開発
文部科学省 本省 都市の脆弱性が引き起こす激甚災害軽減化プロジェクト
活断層調査の総合的推進
東北地方太平洋沖で発生する地震・津波の調査観測
防災科学技術研究所 観測・予測研究領域
減災実験研究領域
社会防災システム研究領域
農林水産省 本省 鳥インフルエンザ、BSE、口蹄疫等の効率的なリスク低減技術の開発
新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業
新農業展開ゲノムプロジェクト
農業・食品産業技術総合研究機構 イノベーション創出基礎的研究推進事業
経済産業省 産業技術総合研究所 都市域及び沿岸域の地質調査研究と地質情報及び環境情報の整備
活断層調査、地震観測等による地震予測の高精度化
火山噴火推移予測の高精度化
国土交通省 本省
国土技術政策総合研究所
住宅・社会資本の戦略的維持管理・更新による安全性と利便性の向上の実現~予防保全的管理のための点検・監視技術の開発~
国土技術政策総合研究所 作用・性能の経時変化を考慮した社会資本施設の整備・管理水準の在り方に関する研究
アジア国際フェリー輸送の拡大に対応した輸送円滑化方策に関する研究
港湾空港技術研究所 大規模地震・津波から地域社会を守る研究
気候変動が高波・高潮・地形変形に及ぼす影響の評価と対策に関する研究
沿岸域の流出油対策技術に関する研究
国際競争力強化のための港湾・空港施設の機能向上に関する研究
港湾・空港施設等の戦略的維持管理に関する研究

2  我が国の産業競争力の強化

(1)産業競争力強化に向けた共通基盤の強化

  ものづくりは、我が国にとって、全産業の中で最も国際競争力を有し、かつ他の産業への波及効果が大きく、経済成長の原動力となるものであり、これまでも、ものづくり技術の強化に向けた施策を積極的に講じてきた。しかしながら、東日本大震災の発生により、企業の研究開発及び生産活動が停滞し、製品・部材等の供給網(サプライチェーン)が大きな影響を受けるとともに、近年の急速な円高やレアアースをはじめとする原材料の調達制約等も相まって、生産拠点の海外移転による産業の空洞化や、企業の事業環境の悪化等による研究開発投資の縮小などへの懸念が広がっている。これを契機とし、我が国がより一層の産業競争力を獲得し、持続的な経済成長を遂げていくため、ものづくりを支える強固なシステム、基盤の再構築を図るために必要な施策を講じている。
  総務省では、電波を利用した新産業の創出に向けて、新たな周波数需要に的確に対応するため、周波数利用の効率化や高い周波数への移行を可能とする技術の研究開発等を行っている。
  文部科学省では、世界最先端の研究者やものづくり現場のニーズに応えられるオンリーワン、ナンバーワンの先端計測分析技術・機器の開発等を産学連携で推進している(第2部第3章第1節5(1)参照)。
  経済産業省では、産業競争力の強化を目指し、新たな産業の創出及び成長を支えるものづくりの共通基盤を構築するため以下のような研究開発等を推進している。

1.製造プロセスの基盤技術に関する開発

  軽量・高強度等の特徴を活かし、航空機や自動車等の構造材料として今後大幅な需要拡大が期待されている炭素繊維について、大学や炭素繊維メーカー等と連携し、二酸化炭素排出など環境負荷の低減と生産効率の大幅向上を両立させた従来と全く異なる製造プロセスの基盤技術の開発を実施した。
  さらに、基盤技術を活用し、実用化に向けた生産基本技術に関する研究を実施した。

2.半導体技術に関する開発

  半導体技術については、10nm台の半導体微細加工・製造技術を実現する次世代EUV(極端紫外線(※9))露光システムに必要な評価基盤技術、新材料・新構造による半導体の超低電力化技術、半導体に不揮発性素子を組み込むことによって、データ処理が必要なときだけ電力を消費するノーマリーオフコンピューティング基盤技術、半導体デバイスの三次元集積化技術等の研究開発を行っている。


※9  波長13.5nmの紫外線。次世代半導体光リソグラフィ短波長光として期待されている。

3.組み込みシステムに関する開発

  我が国の産業競争力の源泉である組み込みシステムについて、信頼性・安全性の確保のために、欧州で標準化の検討が進む機能安全規格に対応した開発ガイドラインの策定や制御基盤ソフトウェアの開発・評価、検証ツールの開発・評価等を支援している。

4.データセンタの省エネ技術に関する開発

  データセンタの情報処理能力の高度化と省エネ化を実現するため、「グリーンITプロジェクト」として、グリーン・クラウドコンピューティング技術の開発、次世代パワーデバイス開発等を実施しているほか、「未来開拓研究プロジェクト」として、光と電子のハイブリッド回路及びそのシステム実装技術を開発している。

5.省・脱レアアース・レアメタル支援

  経済産業省では、ハイブリッド自動車や電気自動車等の高付加価値産業に必要不可欠なレアアース・レアメタルについて、資源ナショナリズムの高まりによる供給リスクに対応すべく、代替材料・使用量削減の技術開発を実施している。
  平成24年度からは新たに、今後10年間、産学官が一体となり、革新的技術の実用化を推進する未来開拓研究制度の第一号案件として「次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料開発」を立ち上げた。本プロジェクトでは、次世代自動車や風力発電等のモーター向け高性能磁石の需要が拡大する中、資源の偏在性が高いジスプロシウム(※10)等のレアアースを使用することなく従来以上に強力な磁性材料の開発等を行うとともに、モーターの更なる高性能化に向けて設計及び試作を進めることにより、レアアースフリー高性能モーターの実現を目指す。
  このほか、希少金属代替材料開発プロジェクトにおいて、豊富に存在する資源によって希少金属の機能を実現する代替材料や、使用量を大幅に削減する技術開発を実施したほか、自動車やエアコン等のモーターに含まれるレアアースのリサイクルに関する支援を実施した。


※10  耐熱性向上成分としてハイブリッド・電気自動車のモーターやエアコンのコンプレッサー等に使用される高性能ネオジム磁石に添加されるレアアース

6.イノベーション拠点に関する支援

  企業等においてこれまでに実施されてきた研究開発の成果の実用化に向け、実証研究、試作品製造又は性能・安全性評価等に必要な設備等の整備又は開発に対する支援を行う「イノベーション拠点立地推進事業」を実施している。

7.中小企業における研究開発の促進に向けた取組

  経済産業省 中小企業庁 中小企業政策審議会 企業力強化部会において、技術力の更なる強化のための具体的政策の在り方として、「中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律」(平成18年法律第33号)に基づく特定ものづくり基盤技術及び高度化指針を技術動向など時代の要請を踏まえて見直すべきとの報告を踏まえ、特定ものづくり基盤技術に新たに2技術(冷凍空調、塗装)を追加し、「中小企業の特定ものづくり基盤技術の高度化に関する指針」(平成21年経済産業省告示22号)の全部を改正した。また、中小企業における研究開発を促進する観点から、中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律に基づく認定を受けた中小企業の研究開発計画(特定研究開発等計画)について、研究開発の実施を委託する「戦略的基盤技術高度化支援事業」や、日本政策金融公庫による低利子融資等を実施するとともに、特定研究開発等計画の成果に係る特許料等の軽減を行い、中小企業の鋳造、鍛造、切削加工、めっき等のものづくり基盤技術の高度化を支援した。

8.革新的な半導体製造プロセスの技術開発

  経済産業省では、クリーンルームを不要とすることにより、半導体製造における大幅な省エネを実現し、かつ小型の装置群を用いることで設備投資額が少なくて済み、半導体の少量生産に適した革新的製造プロセス「ミニマルファブ」の基礎技術の研究開発を行っている。

(2)我が国の強みを活かした新たな産業基盤の創出

  近年、機械や自動車、電機等の最終製品の国際競争が激化する中、新たな付加価値の創出に向けて、次世代交通システム、スマートグリッド等の統合的システムの構築や、保守、運用までも含めた一体的なサービスの提供に向けた研究開発を、実証実験や国際標準化と併せて推進するとともに、これらの海外展開を促進している。また、サービス産業の生産性の向上に向けて、科学技術を有効に活用するための研究開発等の取組を推進している。さらに、新産業の創出とともに、経済社会システム全体の効率化を目指し、次世代の情報通信ネットワークの構築、信頼性の高いクラウドコンピューティングの実現に向けた情報通信技術に関する研究開発を推進し、これらの幅広い領域での利用、活用を促進している。
  総務省では、安全運転支援システムの実用化に向け、700MHz帯の電波を用いて車車間・路車間通信等を行う高度道路交通システムの技術基準を策定した。また、歩行者等の安全確保のため、79GHz帯高分解能レーダの技術基準を策定するとともに、さらなる高度化に向けた研究開発等を実施している。また、スマートグリッドに関して、地域レベルでの最適なエネルギーマネジメントを実現するため、各建物内における各種機器を遠隔で高精度かつ高信頼に制御するための通信プラットフォーム技術の研究開発等を行いつつ、国際標準化を推進している。さらに、情報通信研究機構が構築・運営している新世代通信網テストベッド(JGN-X(※11))により、ICT人材育成、産業活性化、我が国の国際競争力の向上、国際連携の強化等を目的として、新世代ネットワーク技術や新しいアプリケーションなどの研究開発・実証実験を推進している。
  経済産業省では、経済社会システム全体の効率化に向けた研究開発を推進している。スマートコミュニティの構築に向けて、全国4地域で大規模な実証や、これらの実証を補完する技術やアイデアを活用し、技術的・制度的課題を解決するための実証を全国8地域で実施し、スマートグリッド関連技術の開発を推進している(第2部第2章第2節1(1)参照)。
  また、医療情報を活用した診断支援システム、環境・生態情報を活用した効果的な栽培システム等、IT・データの利活用により、新たな付加価値・産業を創出する開発プロジェクトを実施している。

第2-3-3表/我が国の産業競争力の強化のための主な施策(平成24年度)
府省名 実施機関 施策名
総務省 本省 電波資源拡大のための研究開発
周波数逼迫対策技術試験
情報通信研究機構 ネットワーク基盤技術の研究開発
経済産業省 本省 低炭素社会を実現する超軽量・高強度革新的融合材料プロジェクト(NEDO交付金以外分)ナノ材料の安全・安心確保のための国際先導的安全性評価技術の開発
石油精製物質等の新たな化学物質規制に必要な国際先導的有害性試験法の開発
革新的製造プロセス技術開発(ミニマルファブ)
ベンチャー企業への実用化助成事業
戦略的基盤技術高度化支援事業
産業技術総合研究所 ナノレベルで機能発現する材料、多機能部材
産業の国際展開を支える計量標準
ナノエレクトロニクスのオープンイノベーションの推進
デバイスの高機能化と高付加価値化技術
高性能計算プラットフォームの整備
新エネルギー・産業技術総合開発機構 IT融合システム開発事業
イノベーション実用化助成事業
次世代素材等レーザー加工技術開発プロジェクト
環境・医療分野等の国際研究開発・実証プロジェクト

※11  Japan Gigabit Network-eXtreme

3  地球規模の問題解決への貢献

(1)地球規模問題への対応促進

  我が国の科学技術水準は、これまでの振興策により、世界的にも高くなった。大学や公的研究機関、産業界、さらには諸外国や国際機関と連携、協力し、地球規模で発生する様々な問題に対応した研究開発などの施策を重点的に推進している。

  中でも大規模な気候変動に関して、全球での観測や予測、影響評価を推進するとともに、大規模な自然災害等の対策に関する研究開発を推進している。また、資源やエネルギーの安定供給に向けて、新たな資源、エネルギーの探査や循環的な利用、代替資源の創出に関する研究開発等を推進している。さらに、新興・再興感染症に関する病原体の把握、予防、診断、治療に関する研究等を推進している。

1.気候変動に関する研究開発

(1)地球観測等の推進

  地球温暖化の状況等を把握するため、世界中の国や機関により、人工衛星や地上、海洋観測等による様々な地球観測が実施されている。気候変動問題の解決に向けた全世界的な取組を一層効果的なものとするためには、国際的な連携により、それらの観測情報を結び付け、さらに、統合・解析を行うことで、各国における政策決定等の基礎としてより有益な科学的知見を創り出すとともに、その観測データ及び科学的知見を各国、各機関が容易にアクセスし入手することができる複数のシステムから成る国際的なシステム(=全球地球観測システム(GEOSS(※12))を構築することが重要である。GEOSSの構築を推進する国際的な枠組みとして、地球観測に関する政府間会合(GEO(※13))が設立され、157の国及び機関が参加しており、我が国はGEOの執行委員国の一つとして、主導的な役割を果たしている。

a)人工衛星等による観測
  人工衛星による地球観測は、広範囲にわたる様々な情報を繰り返し連続的に収集することができる極めて有効な観測手段であり、地球環境問題の解決に向けて、国内外の関係機関と協力しつつ総合的に推進している。
  2009年(平成21年)1月に打ち上げられた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT(※14))は、地球温暖化対策の一層の推進に貢献することを目指して、全球の温室効果ガス濃度分布とその変化を測定し、温室効果ガスの吸収排出量の推定精度を高めるために必要な全球観測を行っており、これまでに二酸化炭素及びメタンの全球の濃度分布やその季節変動を明らかにしたほか、平成24年12月には全球における月別及び地域別(亜大陸規模)の二酸化炭素吸収排出量の推定結果や、二酸化炭素濃度の三次元分布推定データを一般公開するなどの成果を上げている。また、国立環境研究所ではGOSATの定常処理システムの運用(データの処理・提供とデータ検証)を行っている。さらに、平成24年度から、観測精度の一層の向上を目指した「いぶき」の後継機の開発に着手した。
  また、2012年(平成24年)5月には地球規模での気候変動・水循環メカニズムの解明を目的とした水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W(※15))が打ち上げられた。「しずく」は7月から観測を開始し、南極地域観測隊(「しらせ」・「海鷹丸」)に海氷データが提供され、現場の航海計画や観測計画立案に利用される等、気候変動分野における研究利用にとどまらず、気象予報や漁場把握などの幅広い利用分野での活用が期待されている。
  このほかにも宇宙航空研究開発機構では、陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS(※16))(平成23年5月に運用終了)による観測を実施し、途上国の森林減少・劣化に由来する温室効果ガス排出の削減(REDD+(※17))に関する研究などを行っている。また、米国熱帯降雨観測衛星(TRMM(※18))に搭載した我が国の降雨レーダ(PR(※19))や米国地球観測衛星(Aqua)に搭載した我が国の改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR-E(※20))(平成23年10月に運用終了)などから取得したデータの処理、提供を行っている。さらに、気候変動予測精度の向上や水循環変動メカニズムの解明等への更なる貢献のため、雲・エアロゾル、植生などの地球環境に関する全球の多様なデータの収集及び提供を行う地球観測衛星やセンサの研究開発を行うなど、人工衛星を活用した地球観測を推進している。
  また、環境省では、関係府省、機関と連携して、気候変動とその影響の解明に役立てるため、全球的な炭素循環に関する観測を推進している。具体的には、GOSATによる全球の二酸化炭素及びメタンの観測技術の開発に加え、航空機・船舶による観測、森林等における観測を継続的に実施している。

温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の画像

温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)
提供:宇宙航空研究開発機構


※12  Global Earth Observation System of Systems

※13  Group on Earth Observations

※14  Greenhouse gases Observing SATellite

※15  Grobal Change Observation Mission-Water

※16  Advanced Land Observing Satellite

※17  Reducing Emissions from Deforestation and forest Degradation - plus

※18  Tropical Rainfall Measuring Mission

※19  Precipitation Rader

※20  Advanced Microwave Scanning Radiometer for EOS(Earth Observing System)

b)電磁波センシングによる観測等
  総務省では、複数の送受信局、受信局及び送信局で構成され、使用する周波数を増やすことなく高精度の三次元観測を可能とする協調制御型レーダーシステムの研究開発を行っており、また、総務省及び情報通信研究機構では、天候等にかかわらず災害発生時における被災地の地表状況を随時・臨機に把握可能な航空機搭載合成開口レーダ(Pi-SAR2)の研究開発を推進している。また、宇宙航空研究開発機構と共同で開発した国際宇宙ステーションの我が国の実験棟「きぼう」のばく露部に搭載された超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(SMILES(※21))によって観測された大気組成に関する科学データ解析を進め、解析が終了したものから順次公開を進めている(※22)。さらに、地球圏宇宙空間の電磁環境及び電波利用に関する研究開発を実施しており、宇宙・地球環境観測データの収集・管理・解析・配信を統合的に行ったほか、観測・センシング技術及び数値計算技術を高度化し、大規模データを処理するための宇宙環境インフォマティクス技術(※23)の開発を進めている。


※21  Superconducting subMIllimeter-wave Limb-Emission Sounder:大気の縁(リム)の方向にアンテナを向け、超伝導センサを使った高感度低雑音受信機を用いて大気中の微量分子が自ら放射しているサブミリ波(300GHzから3,000GHzまでの周波数の電波をサブミリ波という。このうち、SMILESでは、624GHzから650GHzまでのサブミリ波を使用している。)を受信し、オゾンなどの量を測定する。

※22  http://smiles.nict.go.jp/pub/data/index-j.html

※23  宇宙環境に関するシミュレーションや観測から生成される大規模かつ多種多様なデータを処理し、情報を抽出するための技術

c)地上、海洋観測等
  海洋は地球温暖化等の地球環境変動に大きく関与しているため、継続的に調査を実施する必要がある。海洋研究開発機構では、観測ブイ等の技術開発を実施するとともに、世界各地で観測を進めるとともに、得られた結果を用いた予測・シミュレーションの研究を行っている。平成24年度には、深海用プロファイリングフロートを開発するとともに、世界で初めて南極海における長期観測を開始し、地球環境変動に大きな影響を与える南極底層水の解明を目指している。また、文部科学省と気象庁は、全世界の海洋の状況をリアルタイムで監視・把握するため、国際協力の下、世界の海洋を常時観測する高度海洋監視システム(アルゴ計画)の維持に取り組んでいる。アルゴ計画では、アルゴフロートを全世界の海洋に展開することによって、常時全海洋を観測するシステムを構築するものであり、現在約3,600個のアルゴフロートが投入されている。
  気象庁では、大気や海洋の温室効果ガス、オゾン層・紫外線の観測や解析を実施しているほか、船舶、アルゴフロート、衛星等による様々な観測データを収集・分析し、地球環境に関連した情報の提供を行っている(第2部第2章第2節1(3)参照)。

(2)気候変動適応に資する研究の推進

  気象庁気象研究所では、エアロゾルが雲に与える効果、オゾンの変化や炭素循環なども表現できる温暖化予測地球システムモデルを構築し、気候変動に関する10年程度の近未来予測及びIPCCの排出シナリオに基づく長期予測を行っている。また、日本特有の局地的な現象を表現できる分解能を持った精緻な雲解像地域気候モデルを開発して、空間的にきめ細かな領域温暖化予測を行っている。
  環境省では、地球温暖化の実態を解明し、科学的知見を踏まえた一層適切な行政施策を講じるため、環境研究総合推進費(※24)等を活用し、現象解明、将来予測、影響評価及び対策に関する研究を総合的に推進している。環境研究総合推進費では、

  • 世界の気温上昇を工業化以前と比較して2℃以内に抑えるという目標を達成するために考えられるアジア地域における低炭素社会像を描き、その実現に向けたロードマップを作成することを目的とする、「アジア低炭素社会に向けた中長期的政策オプションの立案・予測・評価手法の開発とその普及に関する総合的研究」(平成21年度~25年度)
  • 我が国やアジアにおける温暖化の影響を詳しく予測し、適応策により悪影響を回避・緩和することで安全・安心な気候変動適応型社会を実現することを目的とする、「温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究」(平成22年度~26年度)
  • 地球温暖化により世界や日本に生じるリスクとその不確実性を把握し、科学的にも社会的にも合理性の高い気候変動リスク管理戦略の考え方や選択肢を国民各層及び国際社会に対して提供することを目的とする、「地球規模の気候変動リスク管理戦略の構築に関する総合的研究」(平成24年度~28年度)

等を実施した。
  また、我が国における気候変動への適応策の着実な推進のため、これまでも気候変動の影響や適応策の実施に関する知見の取りまとめや、適応策実施に当たっての基本的な考え方の整理をしてきた。平成24年度は、我が国における温暖化の影響に関する最新の科学的知見を取りまとめた「温暖化の観測・予測及び影響評価統合レポート」を文部科学省、気象庁と共同で作成し、公表した。今後は、専門家による温暖化影響予測評価のための会議を開催し、我が国の温暖化とその影響の予測・評価を実施し、その結果を踏まえ、政府全体で、短・中・長期的に適応策を重点的に講ずべき分野・課題を抽出し、平成26年度末に向けて政府全体の総合的、計画的な取組として取りまとめる予定である。
  農林水産省では、気候変動に対応した循環型食料生産等の確立を図るため、温室効果ガスの排出削減・吸収機能向上技術の開発、低投入・循環型農業の実現に向けた生産技術体系の開発、アジア地域熱帯林の森林減少・劣化対策支援システムの開発、温暖化の進行に適応した農林水産物の生産安定技術・品種の開発を推進した。
  国土技術政策総合研究所では、気候変動下における大規模水害に対する水災害リスクの低減のため、様々な類型の河川流域ごとに最適かつ実践的な適応策の選択・実行に用いる基盤技術を確立するための検討を行っている。


※24  環境問題が人類の生存基盤に深刻かつ重大な影響を及ぼすことに鑑み、様々な分野における研究者の総力を結集して学際的、国際的な観点から総合的に調査研究及び技術開発を推進し、もって持続可能な社会構築のための環境保全に資することを目的とした政策指向型の競争的研究資金

2.資源やエネルギーの安定供給に向けた研究開発等

  政府では、資源やエネルギーの安定供給に向けて、新たな資源、エネルギーの探査や循環的な利用、代替資源の創出に関する研究開発等を推進している(第2部第2章第2節1(1)、(3)、第2部第3章第1節1(2)参照)。

3.新興・再興感染症に関する研究等

  文部科学省及び厚生労働省では、新興・再興感染症に関する病原体の把握、予防、診断、治療に関する研究等を推進している(第2部第2章第3節1(1)参照)。

第2-3-4表/地球規模の問題解決への貢献のための主な施策(平成24年度)
府省名 実施機関 施策名
総務省 情報通信研究機構 電磁波センシング基盤技術の研究開発
外務省 国際協力機構 地球規模課題に対応する科学技術協力
文部科学省 宇宙航空研究開発機構 衛星観測監視システム
経済産業省 産業技術総合研究所 地圏の資源のポテンシャル評価
国際研究協力の強化、推進
新エネルギー・産業技術総合開発機構 先導的産業技術創出事業、先導的省エネルギー産業技術創出事業、先導的非化石エネルギー産業技術創出事業
国土交通省 国土技術政策総合研究所 気候変動下での大規模水災害に対する施策群の設定・選択を支援する基盤技術の開発

4  国家存立の基盤の保持

  我が国が国際的な優位性を保持し、安全な国民生活を実現していくためには、国自らが長期的視点に立って、継続的に、広範囲かつ長期間にわたって国家存立の基盤に関わる研究開発を推進し、成果を蓄積していく必要がある。

(1)国家安全保障・基幹技術の強化

  情報収集や通信をはじめ、国の安全保障や安全な国民生活の実現などにもつながる宇宙輸送や衛星開発及び利用に関する技術、地震や津波等の早期検知に関する技術、世界最高水準のハイパフォーマンスコンピューティング技術等の研究開発を推進している。
  また、原子力に関する研究開発については、東電福島第一原子力発電所の事故を踏まえ、原子力災害からの復興に向けた取組に重点を置くとともに、我が国の原子力政策見直しの議論の方向性を見据えつつ、必要な取組を実施している。さらに、情報(サイバー)、海洋分野等の極めて高度かつ複雑な技術システムに事故あるいはトラブルが発生した場合の、国としての対応や、人々の生活の安全に資する研究開発等を推進している。

1.宇宙輸送システムや人工衛星などに係る宇宙開発利用

  輸送技術は、衛星等の打上げを担う技術であることから宇宙利用の第一歩であり、希望する時期や軌道に衛星等を打ち上げる能力は自律性確保の観点から不可欠な技術基盤といえる。宇宙利用については、通信、放送、気象等の分野において人工衛星を活用することで、更なる豊かな国民生活の実現に大きく貢献することが期待される。また、「宇宙基本計画」(平成25年1月宇宙開発戦略本部決定)においては、これら宇宙輸送システムや人工衛星については、宇宙利用の拡大と自律性確保を実現する社会インフラとして政府が総合的かつ計画的に実施すべき施策とされている。

(1)宇宙輸送システム

  我が国の宇宙輸送技術については、平成24年度に基幹ロケットであるH-2Aロケット21号機、22号機及びH-2Bロケット3号機の打上げに成功し、基幹ロケットとして連続19機打上げに成功した。打上げ成功率としては世界最高水準となる96%(25機中24機)を達成し、世界の主要ロケットに比肩する高い信頼性を獲得している。また、現在は今後の小型衛星需要に機動的かつ効率的に対応するため、固体燃料ロケットであるイプシロンロケットの開発を推進中である。

コラム2-3  国産小型固体ロケット(イプシロンロケット)

  我が国の宇宙開発利用の歴史は、1955年のペンシルロケットの成功に始まり、1970年2月、世界で4番目に自国の射場から100%国産の固体燃料ロケットで国産衛星の打上げに成功した。これ以降、固体燃料ロケットについては、宇宙科学分野や地球観測分野で利用する小型科学衛星打上げ用のロケットとして技術的進歩を遂げ、惑星探査機等の打上げが可能なM-Vロケットまで発展してきた。小型衛星の打上げについては、自国単独での打上げや即応性が求められ、今後益々利用機会の拡大が見込まれている。固体ロケットシステム技術は、我が国独自の技術の多くの蓄積があり、M-Vロケット運用終了後も、その維持を行ってきた。

  現在開発中の固体燃料ロケット「イプシロンロケット」は、M-Vロケットで培ってきたシステム技術の継承・発展と、我が国の基幹ロケットであり世界最高レベルの打上げ成功率を誇るH-ⅡA/Bロケットの機器、部品の共通化によるコスト削減を合わせた新型ロケットとして、平成25年に初号機の打上げを予定している。

イプシロンロケット外観図の画像

イプシロンロケット外観図
提供:宇宙航空研究開発機構

(2)通信放送衛星システムについては、総務省と文部科学省の連携により、大型衛星バス技術、大型展開アンテナ技術、移動体衛星通信技術等の開発・実証を目的とした技術試験衛星Ⅷ型「きく8号」(ETS-Ⅷ(※25))や、ギガビット級の衛星インターネット通信技術等の開発・実証を目的とした超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS(※26))による実験を行っている。
  測位衛星システムについては、総務省、文部科学省、経済産業省、国土交通省等の連携により、山間地、ビル影等に影響されずに高精度測位等を行うことが可能な準天頂衛星初号機「みちびき」による実証実験等を行った。また、内閣府において、平成24年度に、実用システムの整備に着手したところである。
  衛星観測監視システムについては、陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)を運用し、東日本大震災をはじめとする大規模自然災害の被災地の観測や防災機関等への観測画像の提供を行った。「だいち」は平成23年5月に運用を終了したが、「だいち」のレーダ性能を飛躍的に向上させた陸域観測技術衛星2号(ALOS-2)の研究開発を推進し、平成25年度の打上げを予定している。


※25  Engineering Test Satellite-8

※26  Wideband Inter Networking engineering test and Demonstration Satellite

(3)宇宙の利用を促進するための取組

  宇宙利用は、気象、通信・放送等の分野では既に国民の生活に浸透しているものの、その他の分野では、日常生活への定着や広範な利用が必ずしも十分ではない。このことを踏まえ、文部科学省では、人工衛星に係る潜在的なユーザや利用形態の開拓等、宇宙利用の裾野の拡大を目的として、平成21年度に宇宙利用促進調整委託費を創設し、産学官の英知を幅広く活用する仕組みを構築した。これにより、防災、農林水産業、医療、教育等の分野において、宇宙利用産業のマーケット創出も視野に入れて、宇宙利用の促進に貢献する研究開発を引き続き行っている。
  経済産業省では、我が国宇宙産業の基盤を強化するため、大型衛星に劣らない機能、低コスト、短納期を実現する高性能小型衛星、小型地上システム等の研究開発を進めている。また、衛星を活用したリモートセンシング(遠隔探知)技術を用いた鉱物資源探査等に資するセンサの開発やデータ処理解析技術などの衛星利用技術の開発も進めている。

コラム2-4  日本実験棟「きぼう」からの小型衛星放出ミッション

  衛星は通常、ロケットに搭載されて宇宙に運ばれるが、運搬時の振動に耐えるための技術が必要となるため、大学や新たに宇宙分野に参入しようとする企業にとっての課題となっていた。そこで宇宙航空研究開発機構は、宇宙ステーション補給機「こうのとり」や他国の物資補給船に貨物として搭載することで衛星への振動を和らげ、国際宇宙ステーションから衛星を軌道に投入する「小型衛星放出ミッション」を世界で初めて実施し、その技術実証に成功した。
  2012年7月21日、種子島宇宙センターより打ち上げられた「こうのとり」3号機(HTV3)には、宇宙飛行士の国際宇宙ステーション(ISS)滞在に必要な食料品、生活用品などとともに、日本の大学等が開発した超小型衛星5機(宇宙航空研究開発機構公募衛星3機、米国航空宇宙局提供衛星2機)が搭載されており、同年7月27日にISSへのドッキングに成功した。同年10月4、5日に、星出宇宙飛行士が「きぼう」のロボットアームを操作して超小型衛星5機をISSから宇宙空間に放出した。
  この技術実証の結果を踏まえ、宇宙航空研究開発機構は「きぼう」から放出する超小型衛星候補の通年公募を2013年1月から開始した。小型衛星放出ミッションは、我が国の民間企業・大学等がこれまでよりも容易に超小型衛星の打上げ・運用を実現するための新たな仕組みを確立するものであるとともに、超小型衛星の打上げ機会の増加に繋がるものである。我が国の宇宙分野における人材育成や宇宙開発利用の裾野の拡大に貢献していくことが期待されている。

超小型衛星放出の準備をする星出飛行士の写真

超小型衛星放出の準備をする星出飛行士
提供:宇宙航空研究開発機構(左写真)、宇宙航空研究開発機構/米国航空宇宙局(右写真)

放出された超小型衛星の写真

放出された超小型衛星
提供:宇宙航空研究開発機構/米国航空宇宙局

2.地震や津波等の早期検知に向けた海域における稠密観測、監視に関する技術

  文部科学省では、東南海地震・南海地震の想定震源域及び東北地方太平洋沖地震の震源域を中心とした領域において、海底地震津波観測網の運用や敷設を進めるとともに、それらを活用した地震・津波の早期検知に関する技術の高度化を行っている(第2部第2章第1節1(3)、第2部第3章第1節1(1)参照)。

3.革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築

  スーパーコンピュータを用いたシミュレーションは、理論、実験と並ぶ現代の科学技術の第3の手法として最先端の科学技術や産業競争力の強化に不可欠なものとなっている。スーパーコンピュータは、大規模なシミュレーションを高速に行うことができるため、地震・津波の被害軽減や、新薬の開発等の画期的な成果創出に貢献することができる。文部科学省では、今後とも我が国が科学技術、学術研究、産業、医・薬など広汎な分野で世界をリードし続けるため、世界最高水準の計算性能を有するスーパーコンピュータ「京」を中核とし、多様な利用者のニーズに応える革新的な計算環境(HPCI:ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ)を構築するとともに、この利用を推進し、(1)画期的な成果創出、(2)高度な計算科学技術環境を使いこなせる人材の創出、(3)最先端コンピューティング研究教育拠点の形成を目指し、戦略機関を中心に戦略分野(※27)の「研究開発」及び「計算科学技術推進体制の構築」を推進している(第2-3-5図)。「京」については、平成24年6月にシステムが完成し、同年9月末に共用を開始した。また、「京」を利用した研究成果については、同年11月に「約2兆個のダークマター粒子の宇宙初期における重力進化の計算」が世界最高の成果と評価され、ゴードン・ベル賞(※28)を受賞するなど「京」を利用した研究成果が2年連続で受賞を果たし、成果創出に向けた取組が着実に進捗している。今後、新薬の開発プロセスの高度化、省エネ性能の高い次世代半導体の開発、ものづくりの革新、地震・津波の被害軽減や物質と宇宙の起源の解明など、様々な分野における世界に先駆けた画期的な成果の創出が期待されている。さらに、今後我が国の計算科学技術の一層の発展に向け、長期的な視点に立って戦略的に研究開発を推進していくため、平成24年度からHPCIシステムの高度化に必要な技術的知見の獲得を目的とした調査研究に着手するとともに、今後10年程度を見据えたHPCI計画の推進の在り方に関する調査・検討を進めている。(第2部第3章第1節5(2)参照)。

第2-3-5図/革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)のイメージ図

第2-3-5図/革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)のイメージ図の画像

資料:文部科学省作成


※27  「京」を中核としたHPCIを最大限利用して画期的な成果を創出し、社会的・学術的に大きなブレークスルーが期待できる分野として、以下の5つの分野が設定されている。分野1:予測する生命科学・医療及び創薬基盤、分野2:新物質・エネルギー創成、分野3:防災・減災に資する地球変動予測、分野4:次世代ものづくり、分野5:物質と宇宙の起源と構造

※28  ゴードン・ベル賞:米国計算機学会(ACM)が、毎年ハードウェアとアプリケーションの開発において最高の成果をあげた論文に付与する賞

コラム2-5  スーパーコンピュータ「京」による「ダークマターの重力進化の計算結果」が「ゴードン・ベル賞」を受賞

  2012年11月、米国計算機学会(ACM)が開催する米国スーパーコンピュータ会議(SC12)において、筑波大、理研、東工大の研究グループによる「約2兆個のダークマター粒子の宇宙初期における重力進化の計算」が、スーパーコンピュータを駆使したシミュレーション分野で最高の賞である「ゴードン・ベル賞」を受賞した。日本チームによる受賞は2年連続となる快挙である。
  今回、「大規模計算を非常に高い実効性能で実現した(※29)」ことが受賞の理由であり、世界最高水準の性能を持つ「京」の実効性能の高さと実用的な価値が高く評価された結果といえる。
  宇宙には、普段私たちが目にする物質のほかに、質量にして5倍ほどのダークマター粒子(※30)が存在している。宇宙の形成過程を明らかにするためには、このダークマター粒子の重力進化の解明が不可欠である。しかし、数兆個に及ぶダークマター粒子のシミュレーションは、従来の計算機では実用的な時間内に行うことができなかった。本研究では、CPUが8万個以上といった超高並列を実現し、10ペタフロップス(1秒間に1京回の計算性能)という世界最高水準の計算性能を有する「京」において、粒子間の重力相互作用を高速に解くアルゴリズムの一つであるTreePM法により開発した高並列アプリケーション(※31)を動かすことにより、パソコン1台では数百年かかるこのシミュレーションを僅か3日程度で行うことに成功した。
  その結果、現存する銀河のダークマターの微細構造及びその成長過程をこれまでにない精密さで解明することが可能になり、今後のダークマター粒子の観測方法の改良や正体の解明に貢献するとともに、星や銀河の形成など宇宙構造の形成過程に関する画期的な科学的成果の創出が期待される。

宇宙初期のダークマター密度分布の写真

注:明るさはダークマターの空間密度を表し、明るいところは密度が高い。「z」は天文学で時間や距離の尺度として用いられ、数値が大きいほど過去を見ている。宇宙が生まれて時間が経過するにつれて重力により集まり、大きな構造が形成される(z=400は宇宙誕生から約200万年後、z=31は誕生から約1億年後(約136億年前))。

資料:宇宙初期のダークマター密度分布
提供:筑波大学


※29  米国・アルゴンヌ国立研究所のグループが、演算性能が「京」の約2倍(ピーク性能約20ペタフロップス)の「セコイヤ」を使って同様のシミュレーションを行ったが、「京」を用いた計算は米国グループに比べて、一粒子あたりの計算速度が約2.4倍高速であり、大規模計算をできるだけ高速に解くための非常に高度なアプリケーションを開発した点が評価された。

※30  ダークマター粒子:宇宙全体の物質エネルギーのうち約2割を占め、重力相互作用だけが働く物質であり、素粒子としての正体は解明されていない。

※31  高並列アプリケーション:並列数の高い計算機で効率良く実行できるプログラム

4.原子力・核融合に関する研究開発

  原子力に関する研究開発については、東電福島第一原子力発電所事故を踏まえ、平成24年度は、原子力災害からの復興に向けた取組に重点を置くとともに、原子力の基盤と安全を支える研究開発や人材育成等に取り組んだ。
  高速増殖炉サイクル技術については、原子力政策の見直しの議論を見据えつつ、施設の更なる安全性の向上・維持管理等に重点を置いて取り組むとともに、核融合の研究開発についても必要な取組を実施した。さらに核不拡散・核セキュリティに関する技術等の研究開発についても必要な取組を実施した(高速増殖炉サイクル技術、核融合の研究開発については第2部第2章第2節1(1)を参照。核不拡散及び核セキュリティに関する技術開発については、第2部第3章第3節2(2)を参照)。

5.情報セキュリティに関する研究開発の推進

  官民における統一的・横断的な情報セキュリティ対策の推進を図るために設置された「情報セキュリティ政策会議」(議長:内閣官房長官)において「情報セキュリティ2012」(平成24年7月)を策定するとともに、同会議に設置された専門員会において「情報セキュリティ研究開発ロードマップ」(平成24年6月技術戦略専門委員会)及び「情報セキュリティ人材育成プログラムを踏まえた2012年度以降の当面の課題等について」(平成24年5月普及啓発・人材育成専門委員会)を取りまとめ、能動的で信頼性の高い(ディペンダブルな)情報セキュリティに関する技術の研究開発を推進するとともに、それらの研究開発等を担う情報セキュリティ人材の育成を推進している。
  情報セキュリティ2012等を踏まえ、総務省では、国内外のインターネットサービスプロバイダ、大学等の協力によりサイバー攻撃、マルウェア(※32)等に関する情報を収集するネットワークを国際的に構築し、諸外国と連携してサイバー攻撃を予知し即応を可能とする技術について、その研究開発及び実証に取り組んでいる。さらに、災害時における業務継続性等の確保に有用である一方、情報漏えい等の情報セキュリティ上の課題が指摘されているクラウドについて、その普及促進を企図し、情報漏えい等を防止する新たな情報セキュリティ技術の研究開発及び実証を実施した。経済産業省では、新たな脅威に対応した情報セキュリティに関する被害を未然に防止するための研究や、制御システムのセキュリティ検証施設であるサイバーセキュリティテストベッド(※33)の構築などITを安心して利活用できる環境整備のための研究を実施している。


※32  コンピュータウイルス、ワーム、スパイウェア等の計算機及び利用者に害を与える悪意あるソフトウェア

※33  プラントの機器等をコントロールする不可欠なシステムである制御システムに対して模擬サイバー攻撃を行い、セキュリティ評価・検証を行う施設のこと

6.海洋構造物の安全性評価手法及び環境負荷低減の開発・高度化に関する研究

  海上技術安全研究所では、海洋資源・エネルギー開発に係る基盤的技術の基礎となる海洋構造物の安全性評価手法及び環境負荷軽減手法の開発・高度化に関する研究を行っている。

(2)新フロンティア開拓のための科学技術基盤の構築

  海洋、地球、宇宙等に関する統合的な理解、解明など、新たな知のフロンティアの開拓に向けた科学技術基盤を構築するため、理論研究や実験研究、調査観測、解析等の研究開発を推進している。

1.海洋分野の研究開発の推進

  海洋は、その広大さとアクセスの困難さのために、人類にとって今もなおフロンティアであり、未知なるものを解明したいという知的欲求から、これまで海洋に関する様々な調査・研究が行われてきた。これらの取組により、未利用のエネルギー・鉱物資源の存在や、気候変動をはじめとする地球環境の変化への海洋の関連などが明らかとなってきている。このように、海洋の諸現象に関する原理を追究し解明することは、地球環境問題の解決、海溝型巨大地震への対応、海洋資源の開発など、今後の人類の発展に深く関わる重要な課題の解決を図るためにも必要である。

(1)深海底における諸現象の理解のための研究開発

  海洋研究開発機構では、大きな災害をもたらす巨大地震や火山噴火、津波等、深海底で生じる諸現象の実態を理解するため、研究船や有人潜水調査船「しんかい6500」、無人探査機を用いた地殻構造探査等により、日本列島周辺海域から太平洋全域を対象に調査研究を行っている。平成24年度は、東南海地震の想定震源域において地震計を用いた海底観測を行い、これまで固着が弱く地震を発生させないと考えられていた海溝軸付近の海洋プレートと大陸プレートの境界において超低周波地震が生じていることを明らかにした。また、伊豆大島南方の海底火山(大室ダシ)において無人探査機「ハイパードルフィン」を用いた地質観察・岩石試料採取・熱水探査・地殻熱流量測定を行い、大室ダシが活動的な流紋岩質海底火山であることが分かった。

(2)海洋資源探査技術の研究開発

  文部科学省では、海洋資源の探査を行うために必要な先進的・基盤的技術の開発及び開発した技術を用いた調査研究を行っている。平成20年度から「海洋資源利用促進技術開発プログラム」により、大学等の知見を活用し、海洋鉱物資源の賦存量をより広域かつ効率的、高精度に把握するためのセンサ等の技術開発を実施しており、平成24年度には、深海底での実証段階に移行し、実際の探査における実用性、有効性を検証している。

  海洋研究開発機構では、海洋資源の広域調査のため、自律型無人探査機(AUV)「ゆめいるか」、「じんべい」、「おとひめ」の実海域における性能評価試験を行うとともに、最大潜航深度7,000mの遠隔操作型無人探査機(ROV)1機を新たに開発した。また、海洋資源の成因解明に向けた調査研究等を行っており、平成24年度は、AUV「うらしま」による調査により、沖縄トラフ伊平屋北海域において、未発見の熱水噴出域が存在する可能性を明らかにするとともに、種子島沖では、メタンハイドレートが含まれている泥火山の表面イメージの取得に成功した。さらに、南鳥島周辺海域においては、レアアースを含む堆積物の分布の概要を把握するため、サンプリング調査等を行った。

新たに開発した3機の自律型無人探査機(AUV)左から「おとひめ」、「じんべい」、「ゆめいるか」の写真

新たに開発した3機の自律型無人探査機(AUV)
左から「おとひめ」、「じんべい」、「ゆめいるか」
提供:海洋研究開発機構

(3)海底下探査のための研究開発

  海洋研究開発機構においては、海底下に広がる微生物圏や海溝型地震の発生メカニズム等を解明するため、地球深部探査船「ちきゅう」の掘削技術や海底ケーブルネットワークを用いたリアルタイム観測技術等の開発を進めるとともに、それら技術を活用した調査・研究を実施している。平成24年度は、東南海地震の想定震源域とされる紀伊半島沖熊野灘において展開している地震・津波観測監視システム(DONET)に、長期孔内観測装置を接続することで、微小な地殻変動等をリアルタイムで観測することが可能となった。また、統合国際深海掘削計画(IODP)の枠組みの下、「ちきゅう」を用いて東北地方太平洋沖地震の震源域における掘削調査を実施し、プレート境界断層の地質試料を採取・分析した結果、従来の説を覆し、海溝軸付近の断層においてもエネルギーを蓄積し大きな滑りが発生し得るということを発見した。さらに、下北半島八戸沖において、天然ガスやメタンハイドレートの生成に関わっている地下微生物活動の実態を解明することを目的とした掘削調査を実施し、海洋科学掘削では世界最深となる深度の海底下(海底下2,466m)から地質試料を採取した。

(4)海洋生物資源確保技術の研究開発

  近年、地球温暖化、海洋環境破壊、乱獲等、人間活動による海洋生物への様々な影響が顕在化してきており、海洋生物多様性の保全や持続可能な利用の実現等がますます重要になっている。このため、文部科学省では、海洋資源利用促進技術開発プログラムにおいて、海洋生物の生理機能を解明し、革新的な生産につなげる研究開発や生態系を総合的に解明する研究開発を行うとともに、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業において、海洋生物の観測・モニタリング技術の研究開発を行っている。

海洋、地球、宇宙等に関する統合的な理解、解明など、新たな知のフロンティアの開拓に向けた科学技術基盤を構築するため、理論研究や実験研究、調査観測、解析等の研究開発を推進している。

2.宇宙分野の研究開発の推進

  人類の未知のフロンティアの探求は「宇宙がどのように成立し、どのような法則によって支配されているのか」を知るための高度な知的活動であるとともに、宇宙開発に新しい芽をもたらす可能性を秘めた革新的・萌芽的な技術の源でもあり、宇宙開発利用の基盤を支えるものとして、我が国の宇宙開発利用の発展のために必要なものである。
  また、宇宙空間という特殊な環境を利用した研究成果の創出、新たな科学的知見の獲得、その成果を活用した技術による新たな産業活動の発展も期待されている。

(1)太陽系探査、宇宙天文観測

  宇宙科学の分野においては、宇宙航空研究開発機構が中心となり、全国の大学等の研究者参加の下、科学衛星を打ち上げ、これまでに世界トップレベルの成果を上げている。我が国は、重要な研究開発課題として科学衛星計画を推進しており、地球への帰還を果たした小惑星探査機「はやぶさ」の科学的成果の最大化を図るため、「はやぶさ」が持ち帰った小惑星「イトカワ」の微粒子について国際研究公募を実施し、平成24年6月に世界中から優れた研究提案を選定するとともに、平成25年1月には二回目の国際研究公募を開始した。また、帰還カプセルの全国巡回展示は来場者が89万人を超え社会現象になった。さらに、平成26年度打上げを目指して、後継機「はやぶさ2」の開発を行っている。また、国際協力により開発された太陽観測衛星「ひので」や、X線天文衛星「すざく」による観測を続けるとともに、金星探査機「あかつき」は、再度の金星周回軌道投入を目指している。このほか、世界最高性能のX線天文衛星「ASTRO-H」、欧州宇宙機関との国際協力による水星探査計画(Bepi Colombo)などの開発等を進めている。

イトカワの微粒子の写真

イトカワの微粒子
提供:宇宙航空研究開発機構

太陽観測衛星「ひので」が捉えた金環日食時(平成24年5月21日)の太陽のX線画像(黒い影は月)の画像

太陽観測衛星「ひので」が捉えた金環日食時(平成24年5月21日)の太陽のX線画像(黒い影は月)
提供:宇宙航空研究開発機構/国立天文台

(2)国際宇宙ステーション計画による有人宇宙技術の獲得

  国際宇宙ステーション(ISS(※34))計画は、日本・米国・欧州・カナダ・ロシアの5極共同の国際協力プロジェクトである。我が国は、日本実験棟「きぼう」及び宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV(※35))を開発・運用することで本計画に参加しており、平成21年7月に完成した「きぼう」の利用、日本人宇宙飛行士のISS長期滞在、「こうのとり」による物資補給等を行っている。平成24年7月には、平成21年9月の「こうのとり」1号機、平成23年1月の2号機に続いて、3号機がISSへの安全な結合に成功した。また、平成24年7月から11月にかけて星出宇宙飛行士がISSに長期滞在し、ISSの部品を交換するために3回に及ぶ船外活動を実施し、日本人宇宙飛行士として最長記録を更新したほか、ロボットアームを用いた世界初の超小型衛星放出実験や、メダカを用い無重力が生物へもたらす影響を調べるための実験を「きぼう」で行った。


※34  International Space Station

※35  H-Ⅱ Transfer Vehicle

第2-3-6表/国家存立の基盤の保持のための主な施策(平成24年度)
府省名 実施機関 施策名
内閣官房 内閣情報調査室 情報収集衛星
総務省 本省 国際連携によるサイバー攻撃予知・即応技術の研究開発
災害に備えたクラウド移行促進セキュリティ技術の研究開発
情報通信研究機構 ネットワーク基盤技術の研究開発
文部科学省 本省 革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築
宇宙航空研究開発機構 固体ロケット
はやぶさ2
第26号科学衛星(ASTRO-H)
国際宇宙ステーション計画
基幹ロケット高度化
Bepi Colombo(水星探査プロジェクト)
小型科学衛星
海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス研究
海洋・極限環境生物圏研究
海洋に関する基盤技術開発
海洋資源・エネルギーの探査・活用技術の研究開発
深海地球ドリリング計画推進
学術研究への協力
海洋研究船の運用
深海調査システム及び支援母船の運用
船舶建造費補助金
経済産業省 本省 制御システムのセキュリティ検証施設(サイバーセキュリティテストベッド)の構築
技術的情報セキュリティ対策推進事業
小型化等による先進的宇宙システムの研究開発
可搬統合型小型地上システムの研究開発
石油資源遠隔探知技術の研究開発
ハイパースペクトルセンサ等の研究開発
次世代地球観測衛星利用基盤技術の研究開発
深海底資源基礎調査事業
大水深域における石油資源等の探査技術等基礎調査
放射性廃棄物処分基準調査等委託費
資源エネルギー庁 発電用原子炉等事故対応関連技術基盤整備委託費
発電用原子炉等事故対応関連技術開発費補助金
発電用原子炉等安全対策高度化技術基盤整備委託費
発電用原子炉等安全対策高度化技術開発費補助金
発電用新型炉等技術開発委託費
石炭生産技術振興費補助金
メタンハイドレート開発促進事業
海底熱水鉱床採鉱技術開発等事業
使用済燃料再処理事業高度化補助金
産業技術総合研究所 衛星画像情報及び地質情報の統合化と利用拡大
陸域・海域の地質調査及び地球科学基本図の高精度化
国土交通省 海上保安庁 我が国領海及び排他的水域における海洋調査の推進
国土地理院 電子基準点測量経費
環境省 原子力規制委員会 燃料等安全高度化対策委託費
核燃料サイクル施設安全対策技術調査等委託費

5  科学技術の共通基盤の充実、強化

  我が国及び世界が直面する様々な課題への対応に向けて、研究開発を効果的、効率的に推進していくためには、複数の領域に横断的に用いられる科学技術の研究開発を推進する必要がある。また、広範かつ多様な研究開発に活用される共通的、基盤的な施設や設備について、より一層の充実、強化を図るとともに、相互のネットワーク化を促進していくことが重要である。これを踏まえ、文部科学省では、科学技術・学術審議会先端研究基盤部会(部会長:有川節夫  国立大学法人九州大学総長)において我が国全体の研究基盤の強化に向けた具体的方策を検討し、平成24年8月に報告書「科学技術イノベーションを牽引する研究基盤戦略について~研究開発プラットフォームによる研究開発力強化策~」を決定した。
  以下のとおり、重要課題に対応した研究開発等の関連施策を重点的に推進している。

(1)領域横断的な科学技術の強化

  先端計測分析技術やナノテクノロジー、光・量子科学技術、情報科学技術、数理科学など、複数領域に横断的に活用することが可能な科学技術や融合領域の科学技術に関する研究開発を推進している。

(先端計測分析技術・機器の開発)
  先端計測分析技術・機器は、世界最先端の独創的な研究開発成果の創出を支える共通的な基盤であるとともに、その研究開発の成果がノーベル賞の受賞につながることも多く、科学技術の進展に不可欠なキーテクノロジーである。
  文部科学省では、科学技術振興機構において、「研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)」を実施し、世界最先端の研究者やものづくり現場のニーズに応えられる我が国発のオンリーワン、ナンバーワンの先端計測分析技術・機器の開発等を産学連携で推進することで、研究開発基盤の強化に取り組んでいる(第2-3-7図)。開発されたプロトタイプ機が製品化に至った事例は、平成24年度末の時点で28件に上る。平成24年度は、ターゲット指向型の研究開発を強化し、グリーンイノベーションへの貢献として、太陽光発電、燃料電池、蓄電池等の飛躍的な性能向上と低コスト化を目指す研究開発成果の創出に必要となる計測分析技術・機器の開発を推進した。また、東日本大震災からの復興に向けて、計測分析技術・機器の開発に関する実績を活かした放射線量の計測技術・機器の開発を推進した(第1部特集1参照)

第2-3-7図/先端計測分析技術・機器開発の主な成果例

リアルタイムステレオ走査型電子顕微鏡の写真

リアルタイムステレオ走査型電子顕微鏡(リアルタイムに裸眼で3次元観察が可能な顕微鏡。医学・生物学から無機材料の分野まで幅広い応用が期待される)

質量顕微鏡の写真

質量顕微鏡(病理組織切片等を観察しながら、特定部位に存在する分子を質量分析により同定可能な顕微鏡。腹部大動脈瘤における病理変化の発見に貢献)
提供:科学技術振興機構

(ナノテクノロジーの研究開発)
  ナノテクノロジー・材料分野は、ライフサイエンス、情報通信、環境などの分野における科学・技術の進歩や課題解決に貢献し、産業の振興や人間の豊かな暮らし、安全・安心で快適な社会などを実現する重要な技術シーズである。
  文部科学省では、レアアース、レアメタル等の希少元素の代替や使用量削減のための技術開発を行う「元素戦略プロジェクト」や「ナノテクノロジーを活用した環境技術開発」において、環境技術のブレークスルーの実現に向けた基盤的な研究開発を推進している(第2部第2章第2節1(1)、(3)参照)。
  また、物質・材料研究機構においては、表面から内部に至る包括的な材料計測を行うための世界最先端の計測技術、物性を高精度に解析・予測するためのシミュレーション技術、材料の構成要素(粒子、有機分子など)から材料へと組み上げるための設計手法や新規な作製プロセスの開拓など、共通的に必要となる先端技術を開発している。また、ナノ(10億分の1)メートルのオーダーでの原子・分子の操作・制御等により、無機、有機の垣根を越えて発現する、ナノサイズ特有の物質特性などを利用して、新物質・新材料を創製している。そのほか、環境・エネルギー・資源問題の解決や安心・安全な社会基盤の構築という人類共通の課題に対応し、環境・エネルギー材料の高度化、高信頼性、高安全性を確保する材料の研究開発を推進している(第2部第2章第2節1参照)。
  総務省では、情報通信研究機構において、未来の情報通信技術における技術的・性能的限界の克服及び飛躍的発展の実現を目指し、原子・分子・超伝導体などの新たな材料を用いて、高度な量子制御技術や光子レベルの信号制御技術、未利用周波数帯技術、原子・分子レベルの構造制御・利用技術などの基盤技術の研究開発を推進している。
  経済産業省では、低損失・高機能な偏光制御部材等の光学素子を実現するため、近接場光を動作原理としたナノエレクトロニクス技術の開発や、細胞の機能変化を捉え、がんの超早期発見に資する分子イメージング機器の開発を行っている。また、ナノレベルで構造制御された高級鋼材の特性を活かす更なる信頼性向上、高強度化及び軽量化を図るため、ナノスケールで組織制御を行う溶接技術及び鍛造技術に係る基盤的加工技術の開発を行っている。さらに、ナノテクノロジーの基盤であるナノ材料の開発・応用を円滑に推進するため、安全性評価技術の構築に向けた取組を実施している。
  そのほか、先端ナノテクノロジー研究設備・人材が集積するつくばにおいて、文部科学省及び経済産業省の支援の下、中核4機関を中核として、世界的なナノテクノロジー研究拠点を形成することを目指し、産学官集中連携拠点「つくばイノベーションアリーナ」(TIA)を形成している(第2部第2章第4節1(3)参照)。

(光・量子科学技術の研究開発)
  光や中性子ビーム・イオンビームなどの様々な量子ビームは、その多くの優れた特徴を活かして、微細な観測・精密加工・物質創生などに利用されている。例えば、レーザーによる半導体の精密加工や、放射光による物質の原子レベルでの構造解析等に利用されている。
  現代では、目覚ましい科学技術の発展に伴い、これまでは不可能であった原子・分子レベルでの加工や、物質の構造・技能を詳細に調べることが求められており、光・量子科学技術は極めて重要なキーテクノロジーとして、学術研究から産業応用まで広範な科学技術を支えている。
  このため、文部科学省では、我が国の光・量子科学技術分野のポテンシャルと他分野のニーズとをつなげ、産学官の多様な研究者が連携・融合しながら光・量子科学技術の研究開発を進めるとともに、この分野を将来にわたって支える人材育成を推進することを目的として、平成20年度より「光・量子科学拠点形成に向けた基盤技術開発」を実施している。

コラム2-6  113番元素-日本初の命名権への期待-

  「すい(H)へい(He)りー(Li)べ(Be)・・・」、これは元素周期表を覚えるための語呂合わせだが、理科の授業で聞いた人も多いと思われる。2012年8月、この元素周期表に日本が命名した元素を加えるという、日本の科学者の夢に近づく成果が得られた。理化学研究所の森田浩介准主任研究員らの研究グループが、113番元素の同位体「278113(質量数278)」の3回目の合成に成功した。研究グループは、2004年と2005年の2回にわたって113番元素の合成を確認したが、今回は3回目の合成に成功しただけでなく、前の2回とは異なる経路で崩壊したことが大きな意味を持っており、113番元素発見が確定的となった。

  研究グループは113番元素を合成するために、理化学研究所の「重イオン線形加速器(RILAC)」で光速の10%に加速した亜鉛ビームを標的のビスマス薄膜に照射して融合反応を起こしてから、278113を含む超重元素核だけを分離し、更にその崩壊を観測する実験を行った。この実験により、2012年8月12日、278113が6回のアルファ崩壊(※36)の後、原子番号101のメンデレビウム(質量数254の254Md)になるという一連の崩壊が観測された。278113が4回アルファ崩壊した後にできる原子番号105のドブニウム(質量数262の262Db)は、約33%の確率で自発核分裂し、約67%の確率でアルファ崩壊し、254Mdになるという、2通りの崩壊経路をたどることが既に知られている。過去2回の合成では262Dbが自発核分裂したが、3回目の合成となる今回はアルファ崩壊したことで、113番元素がたどりうる崩壊経路を双方とも確認できたことになり、本実験で得られた3個の原子核が278113であったというゆるぎない証拠となった。113番元素の合成は非常に難しく、2003年9月の実験開始から通算553日にわたる実験で、100兆回を超える原子核の衝突を繰り返して3回目の合成に至った。

  元素周期表は、1869年にメンデレーエフにより提唱され、自然界に存在する元素は、原子番号92のウランまで発見されていた。93番以降の元素は人工的に合成され、米国、ソ連、ドイツに命名が認められた。そして最近ではロシアと米国の合同研究グループに114番と116番への命名が認められた。元素命名への優先権の認定は、国際純正・応用化学連合と国際純粋・応用物理学連合が3名ずつ推薦する計6名の合同作業部会で審議される。研究グループは、同部会に対して3回の観測事実をもとに113番元素の命名への優先権を主張したが、ロシアと米国の合同研究グループも優先権を主張しており、同部会で審議中である。113番元素を世界で初めて合成したことが認められれば、命名権が与えられ、人類にとって不朽の財産である元素周期表に日本が足跡を残すこととなる。

元素周期表(発見が報告されているもの:2012年9月現在)の画像

元素周期表(発見が報告されているもの:2012年9月現在)
提供:理化学研究所

理研の重イオン線形加速器(RILAC)の写真

理研の重イオン線形加速器(RILAC)
提供:理化学研究所

今回新たに確認された113番元素の崩壊経路とその時間経過の画像

今回新たに確認された113番元素の崩壊経路とその時間経過
提供:理化学研究所


※36  より安定な原子核に変わるために原子核から質量数4(陽子2つ+中性子2つ)のアルファ粒子を放出すること。アルファ崩壊を1回するたびに放出元の原子核は質量数が4減り、原子番号が2小さくなる。

(高度情報通信技術の研究開発)
  情報通信技術は、今後様々な社会的課題の達成に向けて科学技術が貢献していく上で重要な鍵を握る共通基盤的技術である。
  文部科学省では、科学技術イノベーションに必要な基盤として、情報科学技術を活用した効果的かつ効率的な情報収集・情報集約・情報統合・情報管理・情報分析・情報流通・情報共有システムの高度化が求められるため、大規模データの効率的な利活用を可能とする科学技術基盤の強化(「Web社会分析基盤ソフトウェアの研究開発」等)を実施している。また、大量で多種多様なデータを革新的な科学的手法により円滑に利活用できる環境の実現に向けて、平成24年4月に「アカデミッククラウドに関する検討会」を開催し、同年7月に提言「ビッグデータ時代におけるアカデミアの挑戦」を取りまとめた。本提言では、文部科学省が推進すべき研究開発課題として、データ科学の高度化に関する研究開発、アカデミッククラウドの構築に向けたシステム研究、ビッグデータ活用モデルの構築を挙げている。また、情報科学技術を活用した的確な科学的分析・解明・予測の高度化が求められるため「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築(第2部第3章第1節4(1)参照))等を実施している。さらに、課題達成型IT統合システム(実社会情報を集約し、課題達成に最適な解や方向性を導き出し実社会にフィードバックする高度に連携、統合されたITシステム)の構築に向けて、平成24年度から「社会システム・サービスの最適化のためのIT統合システムの構築」を実施するとともにITシステムの耐災害性強化やデータ処理能力の向上、超低消費電力化等を進めるため、「イノベーション創出を支える情報基盤強化のための新技術開発」等を実施している。

(数学・数理科学を活用したイノベーションの創出)
  文部科学省では、数学・数理科学的知見を活用して諸科学や産業における様々な課題の解決に貢献し、新たな価値(数学イノベーション)を生み出す枠組みを構築するための活動の一環として、平成24年度より「数学・数理科学と諸科学・産業との協働によるイノベーション創出のための研究促進プログラム」を開始している。本プログラムでは、ビッグデータ、最適化と制御の数理などの重要なテーマについて、数学による解決が期待できる課題を設定し、その解決策の具体化に向けて数学・数理科学研究者と諸科学・産業の研究者とが議論するワークショップ等を開催することにより、両者の協働を促進している。

(2)共通的、基盤的な施設及び設備の高度化、ネットワーク化

  科学技術の振興のための基盤である研究施設・設備は、基礎研究からイノベーション創出に至るまでの科学技術活動全般を支えるために不可欠であり、これらの整備や効果的な利用を図ることが重要である。また、「研究開発力強化法(※37)」においても、大学、独立行政法人等が保有する研究施設・設備の共用の促進を図るため、国が必要な施策を講じる旨が規定されている。
  このため、科学技術に関する広範な研究開発領域や、産学官の多様な研究機関に用いられる共通的、基盤的な施設・設備に関して、その有効利用、活用を促進するとともに、これらの施設・設備の相互のネットワーク化を促進し、利便性、相互補完性、緊急時対応等を向上するための取組を進めている。
  文部科学省では、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」(平成6年法律第78号)(以下、「共用法」という)に基づく特定先端大型研究施設(※38)の整備や共用に必要となる経費の支援等を通じて、産学官の研究者等による共用を促進している(後述)。
  特定先端大型研究施設に準ずる、大学、独立行政法人等が保有する先端研究施設・設備についても共用を促進するために、「先端研究施設共用促進事業」を実施しており、平成24年度は28施設を支援した(第2-3-8図)。これらの施設・設備の共用を一層促進し、成果の創出につなげるため、施設・設備の利用に関する基本的な情報(所在地、利用用途、利用可能時間等)を提供するインターネット上の総合窓口として、「共用ナビ」(研究施設共用総合ナビゲーションサイト)を開設している。また、「ナノテクノロジープラットフォーム」により、ナノテクノロジーに関する最先端の研究設備とその活用のノウハウを有する機関が緊密に連携し、全国的な共用体制を構築することで、産学官の利用者に対し、最先端設備の利用機会と高度な技術支援を提供している。さらに、スーパーコンピュータ「京」を中核とし、全国の大学や研究所などに設置されている主要なスーパーコンピュータをネットワークで結び、利用者の多様なニーズに応える計算環境を実現する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)」の構築を推進するとともに、戦略分野における研究開発や我が国の計算科学技術体制の整備を行う「HPCI戦略プログラム」を実施している。


※37  「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律」(平成20年法律第63号)

※38  共用法において、特定放射光施設(大型放射光施設(SPring-8)、X線自由電子レーザー施設(SACLA))、特定高速電子計算機施設(スーパーコンピュータ「京」)、特定中性子線施設(大強度陽子加速器施設(J-PARC))が規定されている。

第2-3-8図/「先端研究施設共用促進事業」の実施機関

第2-3-8図/「先端研究施設共用促進事業」の実施機関の画像

資料:文部科学省作成

  近年、グローバル化が進展し、国際的な頭脳獲得競争の激化による人材の流動性が高まる中、海外で研鑽を積んだ我が国の研究者が帰国後も活躍できる機会の充実と、海外の優秀な研究者が我が国で活躍できる国際的な「頭脳循環」の実現が重要となっている。
  このため、文部科学省では、国内外の若手研究者等をひき付け、最先端の研究成果を創出するための研究設備の整備を行う「最先端研究基盤事業」を実施しており、平成24年度は10事業について支援を行っている。

(特定先端大型研究施設)
  共用法では、特に重要な大規模研究施設を「特定先端大型研究施設」と位置付け、我が国の科学技術イノベーションの推進や研究開発投資の効果的・効率的な活用のため、その計画的な整備、運用及び公平・公正な共用を規定している。

○大型放射光施設(SPring-8)
  大型放射光施設(SPring-8)は、光速近くまで加速した電子の進行方向を曲げたときに発生する極めて明るい光である「放射光」を用いて、物質の原子・分子レベルの構造や機能を解析可能な世界最高性能の研究基盤施設である。本施設は平成9年より共用が開始されており、ライフイノベーションやグリーンイノベーションをはじめ、日本の経済成長を牽引する様々な分野で革新的な研究開発に貢献している。

○X線自由電子レーザー施設(SACLA)
  X線自由電子レーザー施設(SACLA)は、レーザーと放射光の特徴を併せ持つ究極の光を発振し、従来の手法では実現不可能な分析を行う世界最先端の研究基盤施設であり、平成24年3月に共用を開始した。平成24年度には、原子レベルの超微細構造、化学反応の超高速動態・変化を瞬時に計測・分析することにより、医薬品や燃料電池の開発、光合成のメカニズムの解明などにつながる先導的・革新的成果創出を目指す委託事業「X線自由電子レーザー重点戦略研究課題」を開始した。

大型放射光施設(SPring-8)及びX線自由電子レーザー施設(SACLA)(左の縦長の施設がSACLA。右の円形状の施設がSPring-8)の画像

大型放射光施設(SPring-8)及びX線自由電子レーザー施設(SACLA)(左の縦長の施設がSACLA。右の円形状の施設がSPring-8)
提供:理化学研究所

○スーパーコンピュータ「京」
  スーパーコンピュータを用いたシミュレーションは、理論、実験と並ぶ、現代の科学・技術の第3の手法として最先端の科学技術や産業競争力の強化に不可欠なものとなっている。スーパーコンピュータ「京」は、平成24年6月にシステムが完成し、同年9月末に共用を開始した。「京」を活用することにより、新薬の開発プロセスの高度化、省エネ性能の高い次世代半導体の開発、ものづくりの革新、地震・津波の被害軽減や物質と宇宙の起源の解明など、様々な分野における世界に先駆けた画期的な成果の創出が期待されている。

スーパーコンピュータ「京」の写真

スーパーコンピュータ「京」
提供:理化学研究所

○大強度陽子加速器施設(J-PARC)
  大強度陽子加速器施設(J-PARC)は、世界最高レベルのビーム強度を持つ陽子加速器から生成される中性子、ニュートリノ(※39)等の多彩な二次粒子を利用して、幅広い分野における基礎研究から産業応用まで様々な研究開発に貢献している。共用法の対象である中性子線施設では、革新的な材料や新しい薬の開発につながる構造解析等の研究が行われ多くの成果があげられている。

大強度陽子加速器施設(J-PARC)の画像

大強度陽子加速器施設(J-PARC)
提供:J-PARCセンター

  このほか、共用法の対象ではないが、原子核・素粒子物理学の研究を行っている施設があり、このうちの原子力・素粒子実験施設で平成25年5月、放射性物質が外部に漏えいした。このことは放射性物質を取り扱う施設の安全管理を行う者の安全に対する意識の低さや安全管理体制の不備の表れである。現在、文部科学省から設置者である高エネルギー加速器研究機構及び日本原子力研究開発機構に対して、原因究明及び安全管理体制等の再確認を早急に行い、その結果の報告を求めている。


※39  物質を構成する最小単位の素粒子の一つ。電気的に中性で物質を通り抜けるため検出が難しく、質量などその性質は未知の部分が多い。

第2-3-9表/科学の共通基盤の充実、強化のための主な施策(平成24年度)
府省名 実施機関 施策名
総務省 情報通信研究機構 未来ICT基盤技術の研究開発
文部科学省 本省 ナノテクノロジープラットフォーム
光・量子科学研究拠点形成に向けた基盤技術開発(競争的資金)
次世代IT基盤構築のための研究開発
先端研究基盤共用・プラットフォーム形成事業
本省
理化学研究所
高輝度光科学研究センター
大型放射光施設(SPring-8・SACLA)の整備・共用
本省
日本原子力研究開発機構
高エネルギー加速器研究機構
大強度陽子加速器施設(J-PARC)の整備・共用
科学技術振興機構 研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)
経済産業省 本省 情報セキュリティ対策推進事業

第2節  重要課題の達成に向けたシステム改革

1  課題達成型の研究開発推進のためのシステム改革

  課題達成型の研究開発を効果的、効率的に推進していくためには、産学官の幅広い参画を得て、相互に連携、協力をしつつ、研究開発等の取組を計画的かつ総合的に推進する必要がある。そのため、第2部第2章第4節に掲げた取組を積極的に進めている。

2  国主導で取り組むべき研究開発の推進体制の構築

  我が国では、国の安全保障にも関わる基幹的技術や、複数の領域や機関に共通して用いられる基盤的な施設及び設備に関する研究開発の推進に当たっては、これらが長期的かつ継続的に取り組むべきものであることから、国主導の下、関係する産学官の研究機関の総力を結集して研究開発を実施する体制を構築することとしている。そして、これらの研究開発を効果的、効率的に進めるための新たなプロジェクトを創設することとしている。
  経済産業省では、新たな研究開発制度である「未来開拓研究」を設立した。未来開拓研究では、各省庁連携の下で産学官が一体となってプロジェクトを運営する「ガバニング・ボード」を各テーマ毎に設置し、基礎から実用化まで一気通貫で研究開発プロジェクトを実施し、事業化まで10年を超えるような、リスクが高い長期的な研究開発を国が主導し、エネルギー・環境制約など抜本的な対策が必要な分野に集中投資を行う。また、技術と事業の両面で世界に勝てる産学官ドリームチーム(国益確保を前提に外国企業の参加も検討)を結成し、事業化促進のための適切な知的財産の管理や標準化にも取り組んでいく。
  未来開拓研究の研究開発テーマは、文部科学省、経済産業省の両省による合同検討会で設定し、産学官一体となった取組を支援することにより、日本が世界をリードできるようなイノベーションの創出に務めていく。

第3節  世界と一体化した国際活動の戦略的展開

  我が国が、国際社会における役割を積極的に果たしつつ、科学技術を一層進展させていくためには、世界と一体化した国際活動を戦略的に展開し、「科学技術外交」を推進していくことが重要である。
  そのため、我が国は、第4期基本計画等に基づき、地球規模課題の解決への貢献、先端科学技術分野での戦略的な国際協力の推進、国際的な人材・研究ネットワークの強化等に取り組むとともに、これらを支える国際活動強化のための環境整備を推進している。

1  アジア共通の問題解決に向けた研究開発の推進

  我が国が地球規模の問題解決において先導的役割を担い、世界の中で確たる地位を維持するためには、科学技術イノベーション政策を、国際協調及び協力の観点から、戦略的に進めていく必要がある。特にアジアには、環境・エネルギー、食料、水、防災、感染症など、問題解決に当たって我が国の科学技術を活かせる領域が多く、このようなアジア共通の問題の解決に積極的な役割を果たし、この地域における相互信頼、相互利益の関係を構築していく必要がある。
  文部科学省は科学技術振興機構と協力して、2012年6月に、アジア地域において科学技術分野における研究交流を加速することにより、研究開発力を強化するとともに、アジア諸国が共通して抱える課題の解決を目指し多国間の共同研究を行う「e-ASIA共同研究プログラム」を発足させた。同年10月、日本・タイ・ベトナムによる共同研究3課題を採択し、支援が開始されている。
  環境省は、アジア太平洋地域での研究者の能力向上、共通の問題解決を目的とする「アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)」を通じ、特に平成24年度からは地域の低炭素社会づくりや気候変動適応に関する活動を支援している。また、平成24年4月には成長著しいアジアの低炭素社会づくりのため「低炭素アジア研究ネットワーク(LoCARNet)」の支援を開始した。

2  科学技術外交の新たな展開

(1)我が国の強みを活かした国際活動の展開

  我が国は、環境・エネルギーをはじめとする様々な課題について、世界に先駆けた取組を進めており、その科学技術も世界的に高い水準にある。今後、持続的な成長を実現していくためにも、特に成長の著しいアジアを中心として、これら科学技術を基本とした「課題達成型処方箋の輸出」(システム輸出)を促進し、新たな需要を創造していく必要がある。このため、我が国の強みを活かし、社会変革につながるシステムのアジア地域を中心とした新興国への展開を促進している。

1.国際標準化への積極的対応

  我が国は、「知的財産推進計画2012」(平成24年5月知的財産戦略本部)に基づき、我が国が優れた技術を持つ特定戦略分野の競争力強化に向け、官民一体となって、国際標準化戦略を推進した。
  総務省では、「情報通信分野における標準化政策の在り方(平成23年2月10日諮問第18号)に関する答申(平成24年7月25日)」において提言された、標準化に関する4つの重点分野について、積極的かつ戦略的に国際標準化活動を推進している。また、利用者の選択肢の拡大や、我が国のICT産業の国際競争力強化を目的として、国際電気通信連合(ITU)(※40)等のデジュール標準化機関や、民間のデファクト標準化機関における標準化活動との連携を図りつつ、環境負荷の低減に資するICT技術等に係る標準化活動の連携を促進している。
  成長著しいアジア諸国において、我が国が強みを有するグリーンイノベーション分野等の市場確保を図るためには、当該分野における我が国の技術が適正に評価されることが必要である。経済産業省では、「アジア基準認証推進事業」において、アジア諸国と連携し、性能評価方法等の開発及びその評価方法等の国際標準化に向けた取組、アジア諸国における試験機関の認証力の向上支援等を実施している。

(2)先端科学技術に関する国際活動の推進

  我が国の科学技術の一層の発展を図るとともに、科学技術と外交の相乗効果を高めるためには、先進国あるいは国際機関との連携・協力の下、先端的な科学技術に関する研究開発活動を推進し、これらを我が国の外交活動に積極的に活用していく必要がある。このため、技術流出等について留意しつつ、先端科学技術に関する国際活動を強力に推進するとともに、国際研究ネットワークの充実に向けた取組を進めていく必要がある。

1.国際研究ネットワークの充実

  我が国は、世界的に高い科学技術水準を持つ諸国との間で、幅広い分野での国際研究ネットワークの充実を図り、海外の優れた研究資源を活用しつつ、先端科学技術に関する国際協力を推進していく必要がある。
  大学・研究機関間の組織や個人レベルで様々な研究者の交流が実施されており、我が国の科学技術、学術研究の発展のためには、国内外の多くの優れた研究者をひき付けるとともに、我が国の研究者を国際的水準で切磋琢磨させる必要がある。

(1)我が国の研究者の国際流動の現状

  我が国の大学、独立行政法人等の外国人研究者受入状況(平成23年度)については、短期受入を中心に平成21年度以降減少傾向にある。一方、30日を超える中・長期受入者数は、平成12年度以降概ね12,000~14,000人の水準で推移しており、傾向に大きな変化は見られない(第2-3-10図)。なお、我が国の大学、独立行政法人等の研究者総数に占める中・長期受入外国人研究者の割合は約5.7%(※41)となっている。
  次に、我が国における研究者の海外派遣状況(平成23年度)について見ると、短期派遣者数、30日を超える中・長期派遣者数はともに増加している(第2-3-11図)。


※40  International Telecommunication Union

※41  文部科学省「平成23年度国際研究交流状況調査」

第2-3-10図/期間別受入研究者数(短期/中・長期)の推移

第2-3-10図/期間別受入研究者数(短期/中・長期)の推移

注:

  1. 本調査では、30日を超える期間を「中・長期」、30日以内の期間を「短期」としている。
  2. 平成20年度以降はポストドクター等が含まれている。

資料:文部科学省「国際研究交流状況調査」(平成25年6月)

第2-3-11図/期間別派遣研究者数(短期/中・長期)の推移

第2-3-11図/期間別派遣研究者数(短期/中・長期)の推移のグラフ

注:

  1. 本調査では、30日を超える期間を「中・長期」、30日以内の期間を「短期」としている。
  2. 平成20年度以降はポストドクター等が含まれている。

資料:文部科学省「国際研究交流状況調査」(平成25年6月)

(2)研究者の国際交流を促進するための取組

  我が国では、若手研究者を積極的に海外に派遣する施策と、諸外国の優秀な研究者を招へいする施策を組み合わせ、海外との双方向の交流を図ることにより、世界に通用する研究者の育成・確保に努めている。
  日本学術振興会では、国際舞台で活躍できる我が国の若手研究者の育成を図るために若手研究者を海外に派遣する諸事業や諸外国の優秀な研究者を招へいする事業等を実施している。
  例えば、海外の優れた研究機関での研究機会や現地の研究者との交流を拡充することを目的とし、海外の大学・研究機関で研究を実施する研究者個人を対象に海外派遣を支援する「海外特別研究員事業」や、組織の国際戦略に沿って所属する研究者を海外に共同研究を行うために派遣する大学等研究機関を支援する「頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣事業」等を実施している。
  また、優れた外国人研究者に対し、我が国の大学等において研究活動に従事する機会を提供するため、「外国人特別研究員事業」等様々なキャリアステージや目的に応じた招へい事業を実施している。
  さらに、アジア太平洋地域等の人材育成とネットワーク形成のため「HOPEミーティング」を開催し、大学院生等とノーベル賞受賞者をはじめとする著名研究者が交流する機会を提供している。

2.国際的大規模プロジェクトの取組

  国際的な大規模プロジェクトや包括的なデータ整備が必要な研究開発について、研究者コミュニティの意見を踏まえつつ、協力を推進する必要がある。その際、各研究領域における我が国の国際的な位置付けを勘案し、特に我が国が強みを持つ領域や関心の高い領域については、リーダーシップを発揮できるよう支援を行っている。

(1)ITER

  イーター(ITER:国際熱核融合実験炉)計画は、核融合実験炉の建設・運転を通じ、エネルギー資源問題を根本的に解決するものと期待されている核融合エネルギーの科学的・技術的実現可能性の実証を目指す国際協力プロジェクトであり、日本・EU・米国・ロシア・中国・韓国・インドの7極により進められている(第2部第2章第2節1(1)参照)。

(2)ISS

  国際宇宙ステーション(ISS)計画は、日本・米国・欧州・カナダ・ロシアの5極が共同で地球周回軌道上に有人の宇宙施設を建設する国際協力プロジェクトで、我が国は、日本実験棟「きぼう」及び宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)の運用などを行っている(第2部第3章第1節4(2)参照)。

(3)IODP

  統合国際深海掘削計画(IODP)は、深海底を掘削し、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的として、日米主導の下、世界26か国が参加する多国間国際協力プロジェクトで、2003年(平成15年)から開始された。我が国が提供し、深海底から海底下7,000mまでの掘削能力を有する地球深部探査船「ちきゅう」及び米国が提供する掘削船を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて世界各地の深海底を掘削するものである(第2部第3章第1節4(2)参照)。

(4)LHC

  大型ハドロン衝突型加速器(LHC)計画は、欧州合同原子核研究機関(CERN)の巨大な円形加速器を用いて、宇宙創成時(ビッグバン直後)の状態を再現し、未知の粒子の発見や、物質の究極の内部構造の探索を行う実験計画である。CERN加盟国と日本、米国等による国際協力の下、2008年(平成20年)に加速器が完成し、世界最高のエネルギー領域において実験研究が行われている。
  我が国からは、質量の起源とされる「ヒッグス粒子」などを探索するATLAS(※42)(アトラス)実験を中心に、約200名の研究者等が参画しており、2012年7月に「ヒッグス粒子」とみられる新粒子を発見したと発表した。

(5)ILC

  「ヒッグス粒子」の性質をより詳細に解明することを目指して、国際的な研究者のグループにおいて、国際協力の下で線形加速器を建設し電子と陽電子を用いた衝突実験を行う国際リニアコライダーが構想されており、平成24年12月に施設の設計報告書の案がとりまとめられた。この報告書については、平成25年6月に完成することを目指し、国際的な研究者のグループでの作業が進められている。

コラム2-7  「ヒッグス粒子?」の発見―素粒子物理学の新たな展開―

  2012年7月、スイス・ジュネーブの郊外にある欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(Large Hadron Collider:LHC)において実験を行ってきた2つの国際共同実験グループ「アトラス」と「CMS」は、質量が126GeV(ギガ電子ボルト(※43)))という陽子の約130倍の重さの新粒子を発見したと発表した。この新粒子は、英国の物理学者ヒッグス博士らにより存在が提唱されて以来50年近く探索が続けられてきた、物質に質量を与えている未発見の新粒子「ヒッグス粒子」である可能性が高いとされている。
  LHCは山手線とほぼ同じ大きさの周長26.7kmという巨大な円形の加速器である。ここでは陽子を光の速さの99.999997%まで加速して正面衝突させ、重心系エネルギー8TeV(テラ電子ボルト(※44))という人類が到達できる最高エネルギーでの実験が進められてきた。CERNは欧州の国際研究機関であるが、LHC建設には日本、米国など世界各国が参加し、約14年の年月をかけて建設された。また、上記の2実験グループが実験を行う巨大な測定器も、それぞれ世界中から約3000人の研究者が協力して建設された。日本は、高エネルギー加速器研究機構、東京大学などの大学・研究機関から100名以上の研究者が、直径25m、長さ44mのビル6階建てに相当する巨大な測定器を建設し、2008年11月から本格的な実験を行っていた。なお、この加速器と測定器の建設には、新しい技術開発が必要であり、研究者と協力しながら、日本の企業も多くの貢献をした。
  素粒子物理学では「標準理論」という理論により、この宇宙を構成する物質の根源と、その間に働く力を説明してきた。この理論では本来全ての粒子は質量がゼロでなくてはならないが、ヒッグス博士らによって提案されたアイデアは、宇宙全体に満ちているヒッグス場の作用によって質量が生まれるというものだった。
  今回、LHCでの衝突から生み出される約1000兆以上の事象から、新粒子の存在を示す数百個の事象が見つかった。アトラス・CMSでは、新粒子が2つの光子に崩壊する事象を捉えた。また、この粒子が4つの電子等の粒子に崩壊する事象も見つかり、その崩壊パターンはヒッグス粒子の振舞いと合っている。これは精密な測定器を使った緻密なデータ解析の成果であり、世界中の数千人の研究者の総合力によるもので、特に大学院生を含む若い研究者たちの貢献が大きい。

  LHCは2013年2月から運転を停止しており、約2年かけて衝突エネルギーを2倍近くにパワーアップする予定である。そこでは、この新粒子の性質を更に詳しく調べることで、物質に質量をもたらすヒッグス場の性質に迫っていく。また、まだ宇宙には暗黒物質などのように標準理論では説明できない未発見の粒子があることも確実で、高エネルギーの陽子・陽子衝突により新粒子の探索も進めていく。

アトラス実験装置の画像

アトラス実験装置
提供:ATLAS/CERN

日本企業の主な貢献

ビーム収束用四極超伝導磁石の写真

ビーム収束用超伝導四極磁石
提供:株式会社東芝電力システム社

液体アルゴン真空容器の写真

液体アルゴン真空容器
提供:川崎重工業株式会社

シリコン検出器の写真

シリコン検出器
提供:浜松ホトニクス株式会社

超伝導ケーブルの写真

超伝導ケーブル
提供:古河電気工業株式会社

日本人研究者の貢献のグラフ

日本人研究者の貢献
資料:文部科学省作成

装置名 企業名
1.8Kヘリウム冷凍システム 石川島播磨重工
極低温完全非磁性ステンレス 新日鐵住金ステンレス
光ファイバー フジクラ
超伝導電磁石用鋼材 JFEスチール
超伝導ソレノイド磁石など 東芝
絶縁シートおよびテープ カネカ
プラスチックシンチレーションファイバー クラレ
ポリイミドフィルム銅張り板 有沢製作所
ワイヤーチェンバー 林栄精器

日本企業の主な貢献(続き)


※42  A Toroidal LHC ApparatuS

※43  粒子エネルギーを表す単位で、1GeVは10億電子ボルト

※44  1TeVは1兆電子ボルト

3.海外科学技術情報の収集分析、海外研究拠点の活用

  科学技術に関する政策決定に活用するため、海外の情報を継続的、組織的、体系的に収集、蓄積、分析し、横断的に利用する体制を構築する必要があり、文部科学省及び関係機関において情報収集等を行っている。
  我が国の具体的な取組として、科学技術政策研究所では、海外の科学技術動向に係る情報やデータを収集し、我が国の状況と比較・分析することにより、客観的・定量的データに基づいた科学技術政策の推進に有益な調査研究を行っている。
  また、科学技術振興機構 研究開発戦略センターでは、科学技術イノベーション政策を立案する上で有益な海外動向について調査・分析を行っている。
  さらに日本学術振興会では、海外研究連絡センターにおいて、海外の学術動向等の情報収集及び我が国の大学等の国際化支援のほか、海外の学術振興機関等との連携やシンポジウムの開催等の活動を行っている。

4.科学技術の国際活動の体系的取組

(1)国際的な枠組みの活用

a)主要国首脳会議(サミット)
  2012年(平成24年)5月に開催された米国・G8キャンプデービッド・サミットでは、我が国からは野田内閣総理大臣(当時)が出席し、エネルギー及び気候議論等、科学技術への言及を含む「G8首脳宣言」を採択した。
  また、各国の低炭素社会に関わる研究機関により構成される低炭素社会国際研究ネットワーク(LCS-RNet(※45))については、2012年(平成24年)9月には、英国において第4回年次会合が開催された。2012年現在、日本を含む7か国から16研究機関が参加している。


※45  International Research Network for Low Carbon Societies

b)アジア・太平洋経済協力(APEC)
  APEC産業科学技術ワーキング・グループ(ISTWG)において、産業・科学技術に関し、各エコノミーの関心テーマについての調査、ワークショップ、トレーニングコースの開催、各種プロジェクトの実施や各エコノミー間の産業・科学技術政策に関する情報交換を行ってきた。我が国は、各エコノミーのイノベーション政策関係者が互いのイノベーション政策の知見から学び合い、APEC全体のイノベーション政策立案能力向上を図る場として、「イノベーション政策対話」を主導し、ISTWGの一環として実施している。
  また、2012年(平成24年)に、APECホストエコノミーであるロシアより、ISTWGを改組・強化し、産官学も含めたより広範なイノベーション全般を取り扱う枠組みとして、科学技術イノベーション政策パートナーシップ(PPSTI)の設立が提案され、2012年9月に行われた第20回APEC首脳会議において合意された。

c)東南アジア諸国連合(ASEAN)
  ASEAN科学技術委員会(COST)において、日本・中国・韓国の3か国を加えたASEAN COST+3による協力が行われており、我が国では文部科学省を中心として対応している。2011年(平成23年)12月には、第6回ASEAN COST+3会合が韓国(済州)で開催され、ASEANと日中韓の共同プロジェクトに関する意見交換が行われた。また、我が国とASEAN科学技術委員会(COST)との間の協力枠組みとして、2009年(平成21年)に日・ASEAN科学技術協力委員会(AJCCST)が発足し、2012年(平成24年)5月に第3回日・ASEAN科学技術協力委員会がミャンマー(ネピドー)で開催された。

d)その他
(アジア太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF))
  我が国は、アジア・太平洋地域での宇宙活動、利用に関する情報交換並びに多国間協力推進の場として、1993年(平成5年)から、アジア太平洋地域で最大規模の宇宙協力の枠組みであるアジア太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)を主催しており、設立時の15か国、1国際機関から現在の33か国、14国際機関へと着実に参加者規模を拡大している。APRSAFの下で実施されている主な成果の一つとしては、地球観測衛星画像などの災害関連情報をインターネット上で共有し、自然災害による被害を軽減することを目的とした「センチネルアジア」プロジェクト(25か国・地域73機関13国際組織(2013年(平成25年)2月現在)が協力)があり、東日本大震災でも、我が国は参加国から地球観測衛星画像の提供を受けた。また、2012年(平成24年)12月にマレーシアにおいて開催された第19回APRSAFには、33か国、14国際機関より約380人が参加した。

(地球規模生物多様性情報機構(GBIF))
  生物多様性に関するデータを収集し全世界的に利用することを目的としている。

(全球地球観測システム(GEOSS))
  災害・気候など9分野に資する人工衛星や地上観測など多様な観測システムが連携した包括的な枠組みである(第2部第3章第1節3(1)参照)。

(アルゴ計画)
  世界気象機関(WMO)、ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)等の国際機関と米国、豪州、日本等30か国以上が参加する、アルゴフロートと呼ばれる漂流ブイを世界中の海洋で3,000以上投入し、水温、塩分等のリアルタイム観測を行う国際プロジェクトである。本計画を推進することで海洋内部の詳細な変化が把握できるようになり、気候変動予測の精度向上につながると期待されている。我が国では文部科学省や気象庁等が協力してアルゴフロートを投入しており、平成24年は、約300台が稼働している。

(2)国際機関の活用

a)国際連合システム(UNシステム)
  我が国は、国連の専門機関である国連教育科学文化機関(ユネスコ)の多岐にわたる科学技術分野の事業活動に積極的に参加協力している。
  ユネスコでは、政府間海洋学委員会(IOC)、国際水文学計画(IHP)、人間と生物圏(MAB)計画、国際生命倫理委員会(IBC)等において、地球規模課題解決のための事業や国際的なルールづくり等が行われている。我が国は、ユネスコへの信託基金の拠出を通じて、アジア・太平洋地域等における科学技術分野の人材育成事業を実施しており、また、各委員会へ専門委員を派遣し議論に参画するなど、ユネスコの活動を推進している。さらに、持続可能な開発のための教育(ESD)の推進とともに、地球規模課題に対して、自然科学と人文・社会科学の連携による一体的な取組を行うことを求める、「サステイナビリティ・サイエンス」の推進について、日本ユネスコ国内委員会において議論を行うとともに、ユネスコ事務局及びユネスコ加盟国と議論を重ねた。それにより、「サステイナビリティ・サイエンス」に関する専門家会議を行うとともに、日本ユネスコ国内委員会のもとに、サステイナビリティ・サイエンスに関するワーキンググループを立ち上げた。

b)経済協力開発機構(OECD)
  OECDでは、閣僚理事会、科学技術政策委員会(CSTP)、情報・コンピュータ及び通信政策委員会(ICCP)、産業・イノベーション・起業委員会(CIIE)、農業委員会(AGR)、環境政策委員会(EPOC)、原子力機関(NEA)、国際エネルギー機関(IEA)等を通じて、加盟国間の意見・経験等及び情報の交換、人材の交流、統計資料等の作成をはじめとした科学技術に関する活動が行われている。
  OECD/CSTPでは、科学技術政策に関する情報交換・意見交換を行うとともに、科学技術イノベーションが経済成長に果たす役割、研究体制の整備強化、研究開発における政府と民間の役割、国際的な研究開発協力の在り方等について検討を行っている。
  また、CSTPには、グローバル・サイエンス・フォーラム(GSF)、研究機関・人材作業部会(RIHR)、イノベーション・技術政策作業部会(TIP)、バイオテクノロジー作業部会(WPB)、ナノテクノロジー作業部会(WPN)及び科学技術指標専門家作業部会(NESTI)の6つのサブグループが設置されている。議長や副議長として参画するなど日本が主導する代表的な活動は以下のとおりである。

(グローバル・サイエンス・フォーラム(GSF))
  GSFは、加盟国間の科学技術協力の推進のため、特にメガサイエンス(※46)や地球規模問題に関する研究について、各国の取組の情報交換や将来に向けた提言等を行うことを目的とし、特定の科学技術分野の新たな国際協力の機会の模索、重要な科学政策決定に資する国際枠組みの構築、地球規模問題に関する科学的な知見の反映を目指し、意見交換を行う場である。

(イノベーション・技術政策作業部会(TIP))
  TIPは、生産性を拡大し、知識の創造・活用を促進し、持続的な成長を助長し、高度な技術者の雇用創出を促進するためのイノベーションと技術に関する政策について検討する場である。
  2012年(平成24年)は、前年に引き続き「知識への助成・移転・商業化」プロジェクトにおいてオープンイノベーションに関するケーススタディを実施したほか、各種プロジェクトについて議論が行われた。

(科学技術指標専門家作業部会(NESTI))
  NESTIは、統計作業に関して監督、助言、調整を行うとともに、科学技術イノベーション政策の推進に資する指標や定量的分析の展開に寄与している。具体的には、研究開発費や科学技術人材等の科学技術関連指標について、国際比較のための枠組み、調査方法や指標の開発に関する議論等が行われている。我が国は、OECD事務局に専門家を派遣し、新たな指標の開発等に取り組んでいる。2012年(平成24年)度の会合では、研究開発の測定のマニュアルであるフラスカティ・マニュアルの改訂作業に着手することが決定されるとともに、改訂作業の進め方について議論が行われた。


※46  大規模科学研究開発プロジェクト

c)国際科学技術センター(ISTC)
  ISTCは、旧ソ連邦諸国における大量破壊兵器開発に従事していた研究者が参画する平和目的の研究開発プロジェクトを支援することを目的として、1994年(平成6年)3月に日本・米国・EU・ロシアの4極により設立された国際機関である。2013年(平成25年)1月現在、承認プロジェクトの資金支援決定総額は約8億6,800万ドル、従事したロシア及びCIS諸国の研究者の数は延べ7万5,000人以上である。

(3)研究機関の活用

(東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA))
  ERIAは、東アジア経済統合の推進に向け政策研究・提言を行う機関であり、「経済統合の深化」、「開発格差の縮小」及び「持続可能な経済成長」を3つの柱として、イノベーション政策等を含む幅広い分野にわたり、研究事業、シンポジウム事業及び人材育成事業を実施している。2012年度(平成24年度)は、科学技術の普及・促進に関連するものとして、バイオマス製造・利用等についての研究、セミナー等を実施した。

(4)国際的な研究助成プログラム

(ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP))
  HFSPは、1987年(昭和62年)6月のベネチア・サミットにおいて我が国が提唱した国際的な研究助成プログラムで、生体の持つ複雑な機能の解明のための基礎的な国際共同研究などを推進することを目的としている。日本・米国・フランス・ドイツ・EU・英国・スイス・カナダ・イタリア・オーストラリア・韓国・ニュージーランド・インド・ノルウェーの計14極で運営されており、我が国は本プログラム創設以来、積極的な支援を行っている。本プログラムでは、国際共同研究チームへの研究費助成、若手研究者が国外で研究を行うための旅費、滞在費等の助成及び受賞者会合の開催等が実施されている。2012年(平成24年)度までに本プログラムの研究助成を受けた者の中から、18名のノーベル賞受賞者が輩出されるなど、本プログラムは世界的に高く評価されている。

(5)我が国の学術機関による取組

(日本学術会議における国際活動)
  日本学術会議では、国際科学会議(ICSU(※47))、科学アカデミー・グローバルネットワーク(IAP(※48))をはじめ45の国際学術団体に我が国を代表して参画する等、諸外国との連携に努めている。
  G8各国等の学術会議が毎年のG8サミットの議題に関連して、科学的立場から発出する共同声明に参画しており、2012年(平成24年)5月、米国におけるG8キャンプデービッド・サミットに向けて、「災害に対するレジリエンス(回復力)の構築」、「エネルギーと水」及び「温室効果ガス」に関する共同声明をG8各国等の学術会議と共同で発出し、我が国では日本学術会議会長が内閣総理大臣に声明を手交した。2013年(平成25年)3月7日~9日には、同年に英国で開催されるG8サミットを始めとする首脳会議に向けたGサイエンス学術会議が、「持続可能な開発の促進:科学・技術・イノベーションの役割(仮訳)」「病原微生物の薬剤耐性問題:人類への脅威(仮訳)」をテーマとして、インドにおいて開催された。
  また、2012年(平成24年)7月、アジア地域の各国と学術研究分野での連携・協力を図ることを目的に、新たに4ヵ国の新規加盟が認められ加盟国が拡大したアジア学術会議(SCA(※49))の総会が、「グリーンエコノミー達成のため科学者の英知を活用しよう」をテーマとしてインドネシアにおいて開催された。


※47  International Council for Science:人類の利益のために、科学とその応用分野における国際的な活動を推進することを目的として、1931年に非政府・非営利の国際学術機関として設立

※48  IAP-the global network of science academies:世界の科学アカデミーのフォーラムとして、1995年に設立。日本学術会議は、2004-2006、及び2007-2009の執行委員会委員を務めた。

※49  Science Council of Asia:16か国27の学術機関で構成

(6)原子力の平和利用に関する取組

  我が国は、原子力の平和利用に関する国際的信頼を得つつ、核不拡散及び核セキュリティに関する技術開発や人材養成における国際協力を先導している。
  我が国では、1977年(昭和52年)12月に国際原子力機関(IAEA)との間で日・IAEA保障措置協定を締結し、締約国において核物質が平和目的に限り利用され、核兵器などに転用されていないことをIAEAが確認する「保障措置」を受け入れた。これを受け、我が国は核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律に基づき、国内の核物質を計量及び管理し、それらに関して我が国がIAEAに提出した情報をIAEAが検認するための査察の結果、全ての核物質が平和利用されていると評価されている。
  また、2010年(平成22)年に米国で開催された核セキュリティ・サミットにおいて、我が国はアジアの核セキュリティ強化のための総合支援センターの設置や核物質の測定、検知及び核鑑識に係る技術の開発の推進等を表明した。その後、日本原子力研究開発機構に「核不拡散・核セキュリティ総合支援センター」を設立し、これまで日本を含めた30か国以上延べ1,000名以上に対し、核不拡散及び核セキュリティに関する研修等を実施した。さらに、2011年(平成23年)から、日本原子力研究開発機構において使用済燃料中に存在するプルトニウム量の非破壊測定装置の実証試験や核共鳴蛍光による非破壊測定の技術開発、不法な核物質の起源が特定可能な核鑑識の技術開発を日米共同で実施している。このような取組を通じて、原子力の平和利用に関する国際的信頼を得つつ、核不拡散及び核セキュリティに関する技術開発や人材養成における国際協力を推進している。

(7)その他の国際活動な取組

  内閣府では、2012年(平成24年)10月に計20か国の科学技術大臣等の出席を得て、国際科学技術関係大臣会合を開催し、「グリーン成長と包括性―科学技術イノベーションにおける国際協働の役割―」について議論を行った。

(3)地球規模問題に関する開発途上国との協調及び協力の推進

  アジア、アフリカ、中南米等の開発途上国との科学技術協力については、これらの国々のニーズを踏まえ、地球規模課題の解決と、将来的な社会実装に向けた国際共同研究を推進するため、知見を持つ文部科学省及び科学技術振興機構(JST)、並びに外務省及び国際協力機構(JICA)が連携し、我が国の先進的な科学技術とODAを組み合わせた「地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS(※50))」を実施している。2008~2012年度(平成20~24年度)までに、環境・エネルギー、生物資源、防災、感染症分野において、35か国にて68件(地域別ではアジア34件、アフリカ19件等)を採択している。
  文部科学省では、我が国のSATREPS参加大学に留学を希望する者を国費外国人留学生として採用するという、国際共同研究と留学生制度を組み合わせる取組を実施している。これにより、国際共同研究に関与した相手国の若手研究者等が、我が国で学位を取得することが可能になるなど、人材養成において多面的な協力を進めている。
  また、文部科学省及び日本学術振興会、並びに外務省及び国際協力機構が互いに連携し、我が国の研究者を開発途上国へ派遣することによって、相手国の研究基盤の構築や国際共同研究を通じた人材育成を行う「科学技術研究員派遣事業」を実施して、相手国の研究者等が地球規模課題解決に取り組むための能力形成を支援している。
  さらに、農林水産省では、農林水産業への支援を通じた貧困削減や気候変動等の地球規模問題への対応に向け、国際共同研究による乾燥等の環境ストレスに強い作物の開発や、国際農業研究機関等を通じた、開発途上国におけるコメ・イモ・マメの増産等のための技術開発・人材育成の支援を進めている。


※50  Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development

(4)科学技術の国際活動を展開するための基盤の強化

  科学技術に関する2国間、多国間の国際協力活動を戦略的に進めていくためには、我が国と諸外国との政府間対話等を一層充実するとともに、海外の科学技術の動向に関する情報を継続的に収集、活用していく必要がある。このため、科学技術の国際活動を展開するための基盤強化を図っている。

地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)「根寄生雑草克服によるスーダン乾燥地農業開発」の写真

地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)「根寄生雑草克服によるスーダン乾燥地農業開発」
提供:科学技術振興機構

1.諸外国との協力

(1)中国、韓国等アジア諸国との協力

  日中韓の3か国の枠組みでは、科学技術協力担当大臣会合に文部科学大臣が出席している。
  2012年(平成24年)4月には、中国(上海)において第3回日中韓科学技術協力担当大臣会合が開催され、日中韓の科学技術政策の現状報告や、今後の協力の方向性についての議論が行われた。
  日中韓科学技術担当大臣会合及び同会合と交互に開催される局長級会合の成果として、これまで、日中韓3か国の共同研究プログラム(JRCP)による研究支援や若手研究者ワークショップなどによる協力を実施している。
  また、日中韓3か国のグリーンテクノロジーの分野における研究状況の共有やネットワークの構築を目的とした「日中韓グリーンテクノロジーフォーラム」が2012年(平成24年)3月に東京で開催された。
  日中韓の3か国の取組に加え、日中、日韓の双方の科学技術力の強化を図るため、科学技術協力委員会の開催や、情報交換、研究者の交流、共同研究の実施等の協力などを行っている。
  日中間では、2012年(平成24年)8月に東京において第14回日中科学技術協力委員会が開催され、両国の政策や今後の協力の方向性について議論を行ったほか、新規の日中科学技術協力プロジェクトが承認された。また、文部科学省と中国科学院との間で科学技術政策に関する意見交換等を行う日中科学技術政策セミナーを毎年開催しており、2011年(平成23年)11月には北海道帯広市で8回目となるセミナーを開催した。
  日韓間では、2009年(平成21年)3月に総合科学技術会議と韓国国家科学技術委員会との継続的な政策対話について合意をし、2011年(平成23年)11月に韓国にて同政策対話(第4回)を実施した。
  以上のほか、日本学術振興会では、「日中韓フォーサイト事業」などを実施し、アジア諸国における研究拠点間の交流を支援し、学術研究ネットワークの形成や若手研究者の育成を図っている。

(2)欧米諸国との協力

  我が国と欧米諸国等との協力活動については、ライフサイエンス、ナノテクノロジー・材料、環境、原子力、宇宙開発等の先端研究分野での科学技術協力を活発に推進している。具体的には、2国間科学技術協力協定に基づく科学技術協力合同委員会の開催や、情報交換、研究者の交流、共同研究の実施等の協力を進めている。
  米国との間では、2012年(平成24年)7月にワシントン(米国)において第13回日米科学技術協力合同実務級委員会が開催され、各協力分野における現状や今後の方向性について議論を行ったほか、2013年に開催予定である大臣級の日米科学技術協力合同高級委員会に向けた政策議論を行い、最終的に政策提言文書が日米間で合意された。
  EUとの間では、2009年(平成21年)11月に署名され、2011年(平成23年)3月に発効した科学技術協力協定に基づき、同年6月に第1回の日EU科学技術協力合同委員会を開催し、同委員会において希少元素代替材料分野での共同研究支援を決定した。また、欧州委員会との協議等を経て2012年(平成24年)10月から11月にかけてICT分野の国際共同研究の共同公募を実施した。また、2011年(平成23年)1月より、我が国は、FP7における国際協力プロジェクトであるCONCERT-Japan(※51)に参加している。本事業は、各国政府機関と資金配分機関とが共同事業体を形成して、各国分担の上でシンポジウムや各種の会議を開催することによって、日本・EU相互の具体的な科学技術政策についての情報交換及びネットワークの構築を目指している。
  また、2012年(平成24年)に欧米諸国とは、2月にハンガリー、スロバキア、5月にスウェーデン、フィンランド、6月にノルウェー、7月にスペイン、11月にスイスとの間で、科学技術協力合同委員会を開催した。
  その他、2012年(平成24年)3月には、世界のレアアース市場で大きな需要を有する我が国、米国、欧州の政策当局者、及び材料技術などの専門家が一堂に会するレアアース日米欧3極R&Dワークショップの2回目を東京で開催した。本会合には、日米欧3極のハイレベルが参加し、レアアース供給を取り巻く世界的な問題について共通理解を深め、将来の安定供給を目指した戦略的な取組等について議論を行った。

(3)その他の国との協力

  オーストラリア、ロシア、南アフリカ、ブラジル等との間でも科学技術協力協定等に基づき、情報交換、研究者の交流、共同研究の実施等の協力が進められている。オーストラリアとは2012(平成24年)年8月に、南アフリカとは同年10月に、科学技術協力合同委員会を開催した。
  また、科学技術協力協定等が締結されていない国についても、今後の協力の可能性等について意見交換を行っている。


※51  Connecting and Coordinating European Research and Technology Development with Japan

2.民間による科学技術に関する政策対話

  科学技術外交として国際活動の幅を広げる観点から、国際的なコミュニケーションの場の定着の促進を目指して、国際的に科学技術をリードする産学官の関係者が社会の幅広いステークホルダの参画を得て、将来に向けての科学技術の在り方を議論する国際集会等の開催を支援する取組として、2012年(平成24年)に、科学技術戦略推進費科学技術国際戦略推進プログラム「科学技術外交の展開に資する国際政策対話の促進」を実施した。

お問合せ先

科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官付(調査・評価担当)

(科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官付(調査・評価担当))

-- 登録:平成25年08月 --