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第1節 重要課題達成のための施策の推進

1 安全かつ豊かで質の高い国民生活の実現

 第4期基本計画において、目指すべき国の姿の一つに「安全かつ豊かで質の高い国民生活を実現する国」が掲げられている。国民が将来にわたって安全かつ豊かで質の高い生活を送ることができるよう、大規模な自然災害や重大事故、テロ等から人々を守り、食料や水資源等の安定的確保を通じて人々の安全性の向上を図るとともに、人々の感性や心の豊かさを増進するための取組を進めることが重要である。

(1)生活の安全性と利便性の向上

 自然災害をはじめとする様々な災害、事故、犯罪等から人々の生活の安全を守り、人の健康保護や生態系の保全、さらに、安全性の向上と利便性及び快適性の向上を両立させるため、関係機関では以下のような取組を進めている。

1.地震、火山、津波、高波・高潮、風水害、土砂災害等に関する調査観測や予測、防災、減災、災害対応能力の強化に関する研究開発の推進

 平成23年度は、東北地方太平洋沖地震の影響により、多くの余震や誘発地震が発生した。また、「平成23年7月新潟・福島豪雨」や平成23年台風第12号、第15号に伴う大雨災害、平成23年12月後半からの大雪災害など、各地において自然災害が発生した。さらに、平成23年1月に活動が活発化した霧島山(新燃岳)は現在も噴火活動を継続している。海外では、平成23年7月から平成24年1月初めまで続いたタイ洪水、10月のトルコ地震等、世界各地で自然災害により甚大な被害が生じている。これらによる教訓を活(い)かし、今後の自然災害による被害軽減に向けて、地震・火山等の調査研究や、防災等に関する研究開発を推進していくことが極めて重要である。

(1)地震分野の研究開発の推進(文部科学省)

 我が国の地震調査研究は、地震調査研究推進本部(本部長:文部科学大臣)の下、関係行政機関が密接に連携・協力しながら行われている。地震調査研究推進本部は、東日本大震災の発生を受けて、平成21年4月に策定した我が国の地震調査研究に関する基本的な施策をまとめた「新たな地震調査研究の推進」の見直しに向けて検証・検討を進めている。
 また、地震調査研究推進本部は、これまで地震の発生確率や規模等を評価する長期評価を行ってきたが、東北地方太平洋沖地震のような多くの領域が連動して発生する巨大地震を評価の対象とできていなかったことから、今後、評価方法を見直し、防災に活用されるような評価の示し方等を検討する方針を平成23年6月に決定し、現在、新たな評価方法について検討を進めている。このほか、昭和21年の南海地震と同じ地震が発生した場合に、その周辺や遠方に生じると予想される長い周期の地震動の分布を示した「長周期地震動予測地図」を公表した(第2-3-1図)。

第2-3-1図/長周期地震動予測地図

第2-3-1図/長周期地震動予測地図

提供:地震調査研究推進本部

 大学等の関係機関における地震・火山噴火予知研究の計画を取りまとめた「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画の推進について(建議)」(平成20年7月科学技術・学術審議会)については、東北地方太平洋沖地震を踏まえ、超巨大地震に関連した観測研究等を対象にしていなかったことから、科学技術・学術審議会は、同計画を見直すための検討を進めている。
 文部科学省では、「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト」、「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究」、「東海・東南海・南海地震の連動性評価研究」等、想定される地震が発生した際の社会的・経済的被害が大きい地域を対象とした調査研究を実施するとともに、地震調査研究推進本部の評価のために必要な調査研究等を進めている。特に、「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト(プロジェクト実施期間:平成19~23年度)」では、これまで整備した首都圏地震観測網(MeSO-net)による東北地方太平洋沖地震を含む観測結果を基に、首都圏下のプレート構造や地震像を解明するとともに、E-ディフェンスによる実験結果を基にした医療施設や超高層ビル等の安全性についての具体的対策を提案した。さらに、震災後の応急対策から復旧・復興対策までを包括的に研究し、特に、東京都においては、被災者台帳を電子化し、それを活用した迅速な生活再建システムの社会実装を進めた。
 地震観測網の整備については、阪神・淡路大震災以降、陸域においては関係機関の連携によって、稠密(ちゅうみつ)な整備が進められてきた一方で、海域においては、気象庁の東海・東南海沖ケーブル式常時海底地震観測システムなど、いくつかの観測網が敷設されていたものの、陸域の観測網に比べて観測点数が非常に少ない状況であった。
 このため、文部科学省では、東南海地震の想定震源域で、地震計、水圧計等を備えたリアルタイムで観測可能な高密度海底ネットワークシステムの本格運用を開始し、南海地震の想定震源域においても、同様なシステムの敷設に向けた技術開発を行っている。さらに、今後も大きな余震や津波が発生するおそれがある東北地方太平洋沖地震の震源域周辺において、ケーブル式海底地震津波観測網の整備を開始した(第2部第2章第1節1(3)参照)。

(2)防災科学技術の推進(防災科学技術研究所)

 防災科学技術研究所では、E-ディフェンスを活用した耐震工学研究や、次世代型高性能レーダを用いた高精度の降雨予測や土砂・風水害の発生予測に関する研究、火山災害、雪害等の自然災害による被害の研究に資する研究等を実施している。また、各種自然災害の情報を集約・活用するシステムの開発に関する研究等を推進している。平成23年度は、東日本大震災によって被災した地震観測施設等の復旧を進め、関係機関の研究開発に資するために地震観測データを提供するとともに、東北地方太平洋沖地震等の海溝型地震の発生メカニズム解明のための研究開発等を実施した。

(3)地震観測・予測、津波予測、緊急地震速報等に関する研究(気象庁)

 気象庁では、自らの地震観測施設の観測データと関係機関の観測データを併せて処理・分析し、その成果を関係機関へ提供している。平成23年3月には伊豆東部地域を対象とした地震活動の予測情報を導入し、他の地域についても地震活動予測手法の開発に努めている。緊急地震速報については、更なる高度化のための技術開発を防災科学技術研究所等と協力して進めている。
 気象庁気象研究所では、津波災害軽減のための巨大地震の即時的規模推定や沖合の津波観測データを活用した津波予測の技術開発、緊急地震速報の精度向上のための震度予測手法に関する研究、東海地震予知技術の精度向上のための地殻変動の監視・解析技術に関する研究などを実施している。

(4)地殻変動の観測、解析及びその高度化(国土地理院)

 国土地理院では、電子基準点(※1)等によるGPS連続観測、超長基線電波干渉法(VLBI(※2))、干渉SAR(※3)等を用いた地殻変動やプレート運動の観測、解析及びその高度化のための研究開発を実施している。さらに、平成22年度からは、気象庁、防災科学技術研究所による火山周辺のGPS観測点のデータも含めた火山GPS統合解析を実施し、火山周辺の地殻変動のより詳細な監視を行っている。

(5)海底地殻変動観測等の調査観測の充実強化(海上保安庁)

 海上保安庁では、GPS測位と音響測距(※4)を組み合わせた海底地殻変動観測、海底地形や海域活断層等の調査を推進している。また、東北地方太平洋沖地震を踏まえ、南海トラフ海域における海底基準局の増設を実施し、海底地殻変動観測体制を強化した。

(6)火山の地質調査や活断層、津波堆積物調査等(産業技術総合研究所)

 産業技術総合研究所では、活動的火山の地質調査や、活断層、津波堆積物調査を行い、その結果を公表している。平成23年に発生した霧島火山新燃岳の噴火や東北地方太平洋沖地震では、緊急調査を実施した(第2-3-2図、第2-3-3図)。これまで実施してきた津波浸水履歴や活断層調査結果と今回の地震災害調査結果を比較し、これらの情報をホームページや取材を通じて発信した。また、地下水等総合観測施設の修繕・運営を行うとともに、東南海・南海地震の予測のために防災科学技術研究所の観測データとリアルタイムで交換できるシステムを構築し、両機関のデータを用いた深部すべりの位置決定手法を開発した。

第2-3-2図/霧島火山新燃岳の享保噴火の推移と2011年噴火の推移の比較

 新燃岳の噴火は、小規模な噴火後7か月程度の休止期の後さしたる前兆もなく大きな軽石噴火(2011年1月)が起こった(1716年11月の享保噴火の推移と類似)。

第2-3-2図/霧島火山新燃岳の享保噴火の推移と2011年噴火の推移の比較

資料:産業技術総合研究所「第120回火山噴火予知連絡会資料(平成23年6月7日)」

第2-3-3図/869年貞観地震(赤線)と2011年東北地方太平洋沖地震による津波浸水域(青塗り)との比較

 東日本大震災の津波浸水域は、869年貞観地震時とほぼ同じ範囲であることが分かった。また、東日本大震災による津波で運搬された堆積物の粒度ごとの津波溯上範囲が明らかになり、今後の津波予測に有用な情報が得られた。

第2-3-3図/869年貞観地震(赤線)と2011年東北地方太平洋沖地震による津波浸水域(青塗り)との比較

資料:産業技術総合研究所作成 

(7)波浪・潮位に関する観測や自然災害による被害軽減に向けた防災等に関する研究開発(国土交通省)

 国土交通省は、港湾空港技術研究所等との相互協力の下、全国港湾海洋波浪情報網(NOWPHAS)の構築・運営を行っており、全国各地で観測された波浪・潮位観測データを収集し、ウェブサイトを通じてリアルタイムに広く公開している。平成23年度は、波浪観測のリアルタイム観測情報処理システムの改良を実施した。
 また、国土交通省国土技術政策総合研究所では、国土交通本省関連部局と連携し、道路、河川、港湾等の社会資本施設や住宅に関連して、地震、津波、水害、土砂災害等の自然災害を防止・軽減するための災害予測や防災計画の在り方に関する研究等、防災施策の企画・立案に資する研究や災害に対する安全性を確保するための技術基準の策定に関する研究等を行っている。平成23年度は、東日本大震災を踏まえて、例えば、設計対象の津波高を超え、海岸堤防の天端を越流した場合であっても、粘り強く効果を発揮する海岸堤防の構造について研究を行った。

(8)激甚化・多様化する自然災害の防止、軽減、早期復旧に関する研究(土木研究所)

 土木研究所では、地震・津波・噴火・風水害・土砂災害・雪氷災害等による被害の防止・軽減・早期復旧に資する技術開発を行っている。例えば、平成23年9月初旬に紀伊半島に上陸した台風第12号により、大規模な土石流や斜面崩壊が発生し、一部の川が堰(せ)きとめられ天然ダムが発生した。このとき、土木研究所では、国等からの要請により砂防の専門家を派遣し、土研式水位観測ブイ(投下型)による天然ダムの水位観測、決壊した際の氾濫域の解析に関する技術支援を実施した。


※1 平成24年3月末現在で、全国に1,240点

※2 Very Long Baseline Interferometry:はるか彼方から、地球に届く電波を利用し、数千kmもの距離を数mmの誤差で測る技術

※3 Synthetic Aperture Radar:人工衛星(陸域観測技術衛星「だいち」は2011年5月に運用停止)で宇宙から地球表面の変動を監視する技術

※4 音波を用いて船上局と海底基準局の間の距離を測定する。

コラム2-2 台風第12号に伴う天然ダム災害で活用された新しい緊急対応技術

■ はじめに
 紀伊山地では、平成23年9月初旬に上陸した台風第12号により、大規模な土石流や斜面崩壊が発生し、そのうちの一部は川を堰(せ)きとめた状態のまま発見された。報道等で「土砂ダム」と呼ばれるものである。土砂災害に関する研究分野では、これを天然ダムと呼ぶ。この天然ダムは、その上流に大量の水が貯まり、ついに越流が始まると一気に決壊して大規模な土石流となって下流に流下することがあることから、大変危険な現象である。
 そのため、そのような被害が生じないようにするには、被害の生じるおそれのある範囲及び時期を速やかに推定することが必要である。ここでは、台風第12号に伴い紀伊山地で発生した天然ダムに対して、実際に活用された天然ダム決壊災害への緊急対応技術について紹介する。

台風第12号によって形成された天然ダムの例

台風第12号によって形成された天然ダムの例
提供:国土交通省 近畿地方整備局

■ 天然ダム決壊災害への緊急対応技術
1.天然ダム決壊後の土石流氾濫区域の推定技術
 土木研究所では、天然ダムが決壊して土石流化し、下流で氾濫することを想定した土石流氾濫区域の推定手法を開発した。この推定手法は、天然ダムの侵食を一次元河床変動計算により土石流のハイドログラフ(※5)を推定するとともに、下流に対しては、2次元氾濫計算により、土石流による被害の生じるおそれのある区域を素早く推定する手法である。本手法では、緊急時に迅速に計算を実施できるように、計測によって与える必要のあるパラメータは必要最小限に絞り込んでいる。シミュレーションに用いる地形データも、国土地理院の電子国土のデータを用いる等、いかなる状況でも、結果を出せるような工夫を施している。これらの特性を有することから、台風第12号によって天然ダムの形成が見つかった際に、2日という短期間のうちに土石流氾濫区域の推定結果を出すことに成功し、天然ダム決壊土石流に備えた速やかな防災対応を可能にした。

土石流氾濫区域の推定結果の例

土石流氾濫区域の推定結果の例
提供:国土交通省 近畿地方整備局

2.土研式水位観測ブイ(投下型)
 天然ダムが決壊するかどうかは、水位が上昇して天然ダムを越流するかどうかにかかっている。そのため、天然ダム発見後は速やかにその水位を観測しなければならない。しかし、山地で天然ダムが発生した場合、周辺の地形が急峻(しゅん)である上に、道路が通じていないこと(斜面崩壊等で寸断されている場合もある)、資機材の陸送が困難であること、データ伝送設備がないこと等の問題を解決しなければ、湛(たん)水位の計測は不可能である。
 そこで、土木研究所では、平成20年岩手・宮城内陸地震の際に、天然ダムの湛水位を計測するために、ヘリコプターで空輸し設置できる水位計(土研式水位観測ブイ(投下型))を開発した。今回の台風によって、多くの天然ダムが形成されたが、そのうち最も重要な5つについては、国土交通省が自ら監視を行っている。そのうちの4つにおいて、この土研式水位観測ブイが活用された。

土研式水位観測ブイ(投下型)の外観と設置状況

土研式水位観測ブイ(投下型)の外観と設置状況
提供:国土交通省 近畿地方整備局


※5 河川又は渓流における流れの流量の時系列データを指す。

(9)災害情報の集積・分析、災害時における訓練システム開発(消防庁)

 消防庁では、東日本大震災における情報収集に関する課題を踏まえ、地震発生直後に被災地の外から入手可能な災害情報を集積・分析する技術により、緊急消防援助隊の被災地への派遣など、応急対応の担当者の判断を支援可能なシステムの研究開発を開始した。また、東日本大震災における応急対応の経験的知識を次の災害対応に活(い)かすために、巨大災害時の部隊運用や避難指示の出し方などに関する訓練システムの開発を開始した。

2.火災や重大事故、犯罪への対策に関する研究開発の推進

 科学警察研究所では、犯罪捜査の支援や事故の原因解明等のための各種研究を行っている。平成23年度には、犯罪捜査の支援のためのハプロタイプ解析(※6)による生物学的資料の個人識別に関する研究、薬毒物多成分迅速スクリーニング技術に関する研究及び被疑者・被害者等に対する面接手法に関する行動科学的研究、並びに火災事故の原因解明や放火事件の立証のための、火災鑑定におけるシミュレーション技術実用化に関する研究を推進した。
 文部科学省では、「安全・安心科学技術プロジェクト」として、テロ対策技術等の研究開発を進めるとともに、個々の研究開発プロジェクトで得られた知見と人脈を蓄積・整理し、ニーズを持つ官庁や各分野の研究者にフィードバックする、知や技術の共有化を行っている。また、研究開発成果の社会実装を実現するため、平成22年度から科学技術振興調整費(平成23年度から科学技術戦略推進費)にて関係府省と連携した「安全・安心な社会のための犯罪・テロ対策技術等を実用化するプログラム」を開始した。安全・安心科学技術に係る国際協力については、科学技術協力協定下の「日米安全・安心科学技術協力イニシアティブ」の協力枠組みを踏まえ、日米バイオセキュリティシンポジウムの開催など積極的に協力活動を進めている。


※6 複数の型を一つの型として分類するDNA型分析法

3.人の健康保護や生態系の保全に向けた研究開発の推進

 土木研究所では、人の健康保護や生態系の保全に向けて、水環境における環境汚染物のリスクの評価、その管理及び対策に関する研究を行っている。
 海上技術安全研究所では、海洋環境の保全のため、ゼロエミッションを目指した環境インパクトの大幅な低減と社会合理性を兼ね備えた環境規制の実現に資する基盤的技術に関する研究を行っている。

4.安全性の向上と利便性及び快適性の向上の両立に向けた研究開発の推進

(1)交通・輸送システムの高度化及び安全性評価に関する研究開発

 国民の身近な足としての交通・輸送機関の安全性・信頼性の回復は喫緊の課題であり、今後の航空交通の需要増加や交通機関のオペレータのヒューマンファクター、車両運転者の「発見」、「判断」、「操作」に配慮して、予防安全を徹底するための新たな技術の活用を重点化して推進する必要がある。
 警察庁、総務省、国土交通省では、インフラ協調や車車間通信による安全運転支援システムの実用化に向けた取組を推進している。
 国土交通省では、全国の高速道路上を中心として約1,600か所にITSスポット(※7)を整備し、平成23年より全国でITSスポットサービスを開始している。また、車両によって扉の位置が異なる等の課題に対応するホームドアの開発など、鉄道分野における安全性の更なる向上に資する技術開発を推進している。
 海上技術安全研究所では、海上輸送の安全確保のため、海難事故の大幅削減と社会合理性のある安全規制の構築による「安全・安心社会」の実現に資する研究を実施している。また、モーダルシフト(※8)の推進や移動の円滑化等に対応した海上物流の効率化、輸送システムの開発等に関する研究を行っている。
 電子航法研究所では、航空交通の安全の確保と円滑化を図るために、航空路の容量拡大に関する研究開発、混雑空港の処理容量拡大に関する研究開発、空地を結ぶ技術及び安全に関する研究開発を重点的に実施している。
 科学警察研究所では、平成23年度には、交通事故の発生原因を解明するための高度な交通事故分析技術の開発や、飲酒運転防止のための飲酒運転者の医学・心理学的な判定法に関する研究を推進した。

(2)老朽化に対応するための住宅・社会資本ストックの高度化、長寿命化に関する研究開発の推進

 国土交通省では、住宅・社会資本ストックの高齢化・老朽化に伴う事故や災害を未然に防ぎ、またライフサイクルコストを低減するため、致命的損傷等の発生前に対策を講じる予防保全的管理に資する技術開発を行っている。
 土木研究所では、社会インフラの老朽化に対応するための効率的な維持管理に資する技術開発や、材料技術等の進展を踏まえた社会資本の機能の増進・長寿命化に資する技術開発を行っている。


※7 路側に設置された無線装置によりダイナミックルートガイダンス(広範囲の渋滞データを配信し、カーナビが賢くルート選択するサービス)や安全運転支援、ETCなどのサービスを受けられるエリア

※8 環境負荷の小さい鉄道・海運利用へと、貨物輸送を転換すること

(2)食料、水、資源、エネルギーの安定的確保

 日々の暮らしに不可欠な食料や水、資源やエネルギーの安全性を向上させつつ、安定的かつ継続的に供給していくため、関係機関では、以下のような取組を進めている。
 農林水産省では、食料、水、資源、エネルギー問題の解決に向けた遺伝子機能解明の加速を図るとともに、これらの分野の問題解決に貢献する超多収性穀物、不良環境耐性作物、環境浄化植物、高バイオマス量植物等の作出に関わる研究を実施している。加えて、食料自給率の目標達成のため、品質や加工適性の面で画期的な特性を有する飼料用を含む国産農産物の開発や、国産飼料を用いた高品質な肉等の畜産物生産技術の開発に取り組んでいる。
 また、鳥インフルエンザや口蹄疫(こうていえき)等の重大家畜疾病のヒトへの潜在的リスクや畜産農家の経済的損失を低減させるための防疫措置の高精度化及び効率化を図る技術開発に取り組んでいる。さらに、有害化学物質、有害微生物等を対象に農産物の生産・流通・加工工程におけるリスク低減のための技術開発に取り組んでいる。
 このほか、健康長寿社会の実現のため、農林水産物・食品成分の疾病予防機能の科学的エビデンスを獲得するための手法等の開発や、機能性成分を多く含む品種・栽培方法の開発に取り組んでいる。
 文部科学省では、海洋資源の安定的確保に向け、海洋鉱物資源の探査技術や、海洋生物資源の確保技術等の高度化を図る研究開発を推進している(第2部第3章第1節4(2)参照)。また、低炭素社会の実現に向け、グリーンイノベーションの創出に大きく寄与する再生可能エネルギーや分散エネルギーシステムの革新的な技術の研究開発を推進している(第2部第2章第2節1(1)、(2)参照)。
 海上技術安全研究所では、海洋資源・エネルギー開発に係る基盤的技術の基礎となる海洋構造物の安全性評価手法及び環境負荷軽減手法の開発・高度化に関する研究を行っている。
 経済産業省では、資源制約の克服と環境と調和した持続的な循環型社会の形成を目指し、使用済製品のリサイクルシステムを確立するため、民間企業が実施する使用済製品の廃プラスチックを素材別に高速自動識別する技術開発・システム実証を助成し、プラスチックのマテリアルリサイクルの促進を図った。

(3)国民生活の豊かさの向上

 科学技術による生活の質と豊かさの向上や、人々の感性や心の豊かさの増進に資するため、関係機関では、以下のような取組を進めている。

1. 生活の質と豊かさの向上に向けた取組

 総務省では、教育分野に関して、文部科学省との連携により、教育分野におけるICTの利活用を推進するため、全国20校(小学校10校、中学校8校、特別支援学校2校)において、タブレットパソコンや電子黒板等のICT機器を使ったネットワーク環境を構築し、学校現場における情報通信技術面を中心とした課題を抽出・分析するための実証研究「フューチャースクール推進事業」を実施している。福祉分野に関して、高齢者・障害者の利便の増進に資する通信・放送サービスの開発を行うための通信・放送技術の研究開発を行う者に対し、当該研究開発経費の一部の助成を実施している。医療・介護分野に関して、ユビキタスネット技術(※9)の機能検証、技術検証、効果検証や地域の保有する医療情報等を安全かつ円滑に流通させるための医療情報連携基盤に関する実証等を実施している。行政分野に関して、情報通信技術を用いた各地域における公共的な分野に関するサービスを向上させる取組の推進を図るとともに、クラウド環境下において団体間の円滑な業務データ連携を可能とするための連携データ項目や連携機能・方式等を検討・実証を実施している。
 社会技術研究開発センターでは、自然科学と人文・社会科学の双方の知見を活用して、大学や公的研究機関などの研究者だけでなく、地域住民やNPO法人、地方公共団体など現場の状況・課題に詳しい様々な立場の「関与者(ステークホルダー)」と連携し、現場における問題解決に役立つ新しい成果を社会に実装することを目指した問題解決型の研究開発を「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」、「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」、「犯罪からの子どもの安全」、「科学技術と人間」の4つの領域と、「問題解決型サービス科学研究開発プログラム」、「科学技術イノベーション政策のための科学研究開発プログラム」の2つのプログラムで推進している。


※9 患者・医薬品・医療機器に貼付された電子タグやセンサーを活用することにより、医療従事者の行為、患者の状態を自動的に識別記録する技術

コラム2-3 脱温暖化と魅力ある街づくりを目指して -桐生の取組-

 科学技術振興機構 社会技術研究開発センターが実施する研究開発領域「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」の取組の一つに、群馬県桐生市で実施されている「地域力による脱温暖化と未来の街-桐生の構築」がある。商業施設や団地などが郊外に位置する郊外型都市構造による中心市街地の公共交通・商業・産業の衰退、それに伴う自動車依存型社会などの地方都市が抱える問題解決に向け、同市を舞台に人々が暮らしやすく活力のある脱温暖化型の街づくりを実現する取組が実施されている。2050年までに1990年比で二酸化炭素排出量80%削減につながる低炭素都市の構築を目指し、鉄道などの既存の交通インフラや、数多く残る産業遺産群や文化、豊かな森林や水資源などの地域特性を活(い)かした街づくりの方法論や二酸化炭素排出量削減効果の定量化手法検討を含む総合的な研究開発となっている。
 交通インフラの低炭素化と中心市街地の活性化や魅力向上の両立を目指し、自転車、バス、電車などを組み合わせた、エネルギー・都市環境の観点から持続性のある交通システムの構築や、商店街への情報技術の導入などが試みられている。具体的には、電動レンタサイクル並びに電車への自転車持込の運用規定整備及び実証実験、山間部での小水力発電による電力を利用した、街と調和する低速走行の電動コミュニティバスの開発、バス停で近隣にある店舗の情報を携帯端末で入手できる情報システムの試行などが進められている。
 また、市民が主体的に関わる仕組みづくりを目指し、地元の群馬大学が中心となった、市民、行政、NPO、地元企業などのステークホルダー間のネットワーク構築や、群馬大学の工学クラブに参加する地域の小中学生(対象者数約一万人)に二酸化炭素削減行動を直接呼びかける取組、地元メディアと連携した情報発信などが並行して進められている。
 これら、二酸化炭素排出量の大幅削減と暮らしやすく活力のある地方都市構築の両立に向けた取組が着実に進行中であり、また、新聞、テレビによる報道を通して各地の注目を集めており、全国への展開も期待される。

開発した低速走行電動コミュニティバスの市民への紹介風景

開発した低速走行電動コミュニティバスの市民への紹介風景
提供:科学技術振興機構 社会技術研究開発センター

2.人々の感性や心の豊かさの増進に向けた取組

 総務省では、デジタルコンテンツの製作・流通を促進する観点から、我が国コンテンツの発信による経済活性化、コンテンツ製作・流通環境の整備、新しいコンテンツ流通プラットフォームの検討を行っている。
 文部科学省では、文化と科学技術の融合による新たな文化創造にも寄与することを目指し、鑑賞者が有形無形の文化資産を五感で対話的に体験できるデジタル・ミュージアムの実現に向けた研究開発を実施している。

第2-3-4表/安全かつ豊かで質の高い国民生活の実現のための主な施策(平成23年度)
府省名 実施機関 施策名
警察庁 科学警察研究所 ハプロタイプ解析による生物学的資料の個人識別に関する研究
被疑者・被害者等に対する面接手法に関する行動科学的研究
薬毒物多成分迅速スクリーニング技術に関する研究
高度な交通事故分析技術の開発
火災鑑定におけるシミュレーション技術実用化に関する研究
飲酒運転者の医学・心理学的な判定法に関する研究
総務省
(消防庁)
消防研究センター 大規模災害時の消防力強化のための情報技術の研究開発
文部科学省 本省 日本海溝海底地震・津波観測網の整備
地震・津波観測監視システム
東海・東南海・南海地震の連動性評価研究
海底GPS技術開発
首都直下地震防災・減災特別プロジェクト
ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究
活断層調査
東北地方太平洋沖で発生する地震・津波の調査観測
防災科学技術研究所 観測・予測研究領域
減災研究領域
社会防災研究領域
農林水産省 本省 新農業展開ゲノムプロジェクト
鳥インフルエンザ、BSE、口蹄疫等の効率的なリスク低減技術の開発
自給飼料を基盤とした国産畜産物の高付加価値化技術の開発
農林水産物・食品の機能性等を解析・評価するための基盤技術の開発
新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業
農業・食品産業技術
総合研究機構
生物系特定産業技術
研究支援センター
イノベーション創出基礎的研究推進事業
経済産業省 産業技術総合研究所 都市域及び沿岸域の地質調査研究と地質情報及び環境情報の整備
活断層調査、地震観測等による地震予測の高精度化
火山噴火推移予測の高精度化
国土交通省 本省 広域な道路交通情報の提供、安全運転支援情報の提供、車両の走行経路等の情報収集に関する技術
本省
国土技術政策
総合研究所
住宅・社会資本の戦略的維持管理・更新による安全性と利便性の向上の実現~予防保全的管理のための点検・監視技術の開発~
国土技術政策
総合研究所
作用・性能の経時変化を考慮した社会資本施設の整備・管理水準の在り方に関する研究
アジア国際フェリー輸送の拡大に対応した輸送円滑化方策に関する研究

2 我が国の産業競争力の強化

(1)産業競争力の強化に向けた共通基盤の強化

 ものづくりは、我が国にとって、全産業の中で最も国際競争力を有し、かつ他の産業への波及効果が大きく、経済成長の原動力となるものであり、これまでも、ものづくり技術の強化に向けた施策を積極的に講じてきた。しかしながら、東日本大震災の発生により、企業の研究開発及び生産活動が停滞し、製品・部材等の供給網(サプライチェーン)が大きな影響を受けるとともに、近年の急速な円高やレアアースをはじめとする原材料の調達制約等も相まって、生産拠点の海外移転による産業の空洞化や、企業の事業環境の悪化等による研究開発投資の縮小などへの懸念が広がっている。これを契機とし、我が国がより一層の産業競争力を獲得し、持続的な経済成長を遂げていくため、ものづくりを支える強固なシステム、基盤の再構築を図るために必要な施策を講じている。
 総務省では、電波を利用した新産業の創出に向けて、新たな周波数需要に的確に対応するため、周波数利用の効率化や高い周波数への移行を可能とする技術の研究開発等を行っている。
 文部科学省では、世界最先端の研究者やものづくり現場のニーズに応えられるオンリーワン・ナンバーワンの先端計測分析技術・機器の開発等を推進している(第2部第3章第1節5(1)参照)。
 経済産業省では、産業競争力の強化を目指し、新たな産業の創出及び成長を支えるものづくりの共通基盤を構築するための以下のような研究開発等を推進している。

1.鉄鋼材料及び鋼構造体の高機能化に関する研究開発

 地球温暖化問題や資源高時代に対応し、産業界のグリーンイノベーションを加速するべく、製造プロセスにおけるエネルギー消費の大幅削減を目指し、鉄鋼材料を使用したプラント、構造物や自動車等の革新的な高効率化、省エネルギー化、長寿命化、安心・安全化に寄与する鉄鋼材料及び鋼構造体の高機能化に関する研究開発を実施した。

2.製造プロセスの基盤技術に関する開発

 軽量・高強度等の特徴を活(い)かし、航空機や自動車等の構造材料として今後大幅な需要拡大が期待されている炭素繊維について、大学や炭素繊維メーカー等と連携し、二酸化炭素排出など環境負荷の低減と生産効率の大幅向上を両立させた、従来と全く異なる製造プロセスの基盤技術の開発を実施した。

3.半導体技術に関する開発

 半導体技術については、10nm台の半導体微細加工・製造技術を実現する次世代EUV(極端紫外線(※10))露光システムに必要な評価基盤技術、新材料・新構造による半導体の超低電力化技術、半導体に不揮発性素子を組み込むことによって、データ処理が必要なときだけ電力を消費するノーマリーオフコンピューティング基盤技術、半導体デバイスの三次元集積化技術等の研究開発を実施している。


※10 波長13.5nmの紫外線。次世代半導体光リソグラフィ短波長光として期待されている。

4.組込みシステムに関する開発

 我が国の産業競争力の源泉である組込みシステムについて、信頼性・安全性の確保のために、欧州で標準化の検討が進む機能安全規格に対応した開発ガイドラインの策定や制御基盤ソフトウェアの開発・評価、検証ツールの開発・評価等を支援している。

5.データセンタの省エネ技術に関する開発

 クラウドコンピューティング(※11)時代の中心となるデータセンタの省エネ技術開発を進めるため、個別のデバイスや機器の研究開発に加え、「グリーンITプロジェクト」として、グリーン・クラウドコンピューティング技術の開発、次世代パワーデバイス開発等を実施した。


※11 ネットワーク経由でITリソースを事業者が提供する形態

6.省・脱レアアース・レアメタル支援

 ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動用モーター、エアコンのコンプレッサー等の次世代環境適応製品に必要不可欠なレアアースについては、中国による輸出枠の縮小や価格高騰、中国国内価格と輸出価格に大きな差が生じる内外価格差問題が顕著になっている。この問題に対し、経済産業省としては平成22年度の補正予算を活用したレアアース総合対策に続き、平成23年度第3次補正予算を活用し、供給リスクが高いレアアースであるジスプロシウム(※12)を中心に、短期的に極限まで使用量を削減し、最終製品に実装可能な技術開発を支援するとともに、モーターに使われる磁石の代替等の支援を実施している。中長期的な取組としては、平成19年度より希少金属代替材料開発プロジェクトを実施しており、希少金属の機能を、より豊富に存在する資源に代替、あるいは使用量を大幅に削減する技術開発を支援している。


※12 耐熱性向上成分としてハイブリッド・電気自動車のモーターやエアコンのコンプレッサー等に使用される高性能ネオジム磁石に添加されるレアアース

7.イノベーション拠点に関する支援

 企業等においてこれまでに実施されてきた研究開発の成果の実用化に向け、実証研究、試作品製造又は性能・安全性評価等に必要な設備等の整備又は開発に対する支援を行う「イノベーション拠点立地推進事業」を実施している。

8.中小企業における研究開発の促進に向けた取組

 中小企業における研究開発を促進する観点から、「中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律」(平成18年法律第33号)に基づく認定を受けた中小企業の研究開発計画(特定研究開発等計画)について、研究開発の実施を委託する「戦略的基盤技術高度化支援事業」や、日本政策金融公庫による低利融資等を実施するとともに、特定研究開発等計画の成果に係る特許料等の軽減を行い、中小企業の鋳造、鍛造、切削加工、めっき等のものづくり基盤技術の高度化を支援した。

(2)我が国の強みを活(い)かした新たな産業基盤の創出

 近年、機械や自動車、電機等の最終製品の国際競争が激化する中、新たな付加価値の創出に向けて、次世代交通システム、スマートグリッド等の統合的システムの構築や、保守、運用までも含めた一体的なサービスの提供に向けた研究開発を、実証実験や国際標準化と併せて推進するとともに、これらの海外展開を促進している。また、サービス産業の生産性の向上に向けて、科学技術を有効に活用するための研究開発等の取組を推進している。さらに、新産業の創出とともに、経済社会システム全体の効率化を目指し、次世代の情報通信ネットワークの構築、信頼性の高いクラウドコンピューティングの実現に向けた情報通信技術に関する研究開発を推進し、これらの幅広い領域での利用、活用を促進している。
 総務省では、安全運転支援システムの実用化に向け、700MHz帯の電波を用いて車車間・路車間通信等を行う高度道路交通システムの技術基準の策定を行うとともに、歩行者等の安全確保に向け、電波を用いた車載レーダの高度化に関する研究開発等を実施している。また、スマートグリッドに関して、ビルエネルギー管理システム(BEMS)や家庭エネルギー管理システム(HEMS)の実現に関連するICTの実証実験を行い、地域等への具体的な導入効果の検証を行うとともに、地域レベルでエネルギー利用の効率化を実現するために必要な通信インターフェース標準の導入を支援し標準化活動を推進している。さらに、情報通信研究機構が平成23年4月より運営している新世代通信網テストベッド(JGN-X(※13))により、ICT人材育成、産業活性化、我が国の国際競争力の向上、国際連携の強化等を目的として、新世代ネットワーク技術や新しいアプリケーションなどの研究開発・実証実験を推進している。
 経済産業省では、経済社会システム全体の効率化に向けた研究開発を推進している。スマートコミュニティの構築に向けて、全国4地域で大規模な実証事業を、これらの実証を補完する観点から、地域資源を活用し、地域に根ざした実証事業を全国7地域で開始し、スマートグリッド関連技術の開発を実施している(第2部第2章第2節1(1)参照)。また、クラウドコンピューティングの信頼性向上及び新サービスの創出に向けて、医療、交通、社会基盤、コンテンツ等の各分野において、産業の高次化の実現に向けた実証事業を行うとともに、信頼性及び生産性向上技術、信頼性評価指標、必要となる大量データ処理・分析技術、データ匿名化技術等の開発を実施した。

第2-3-5表/我が国の産業競争力の強化のための主な施策(平成23年度)
府省名 実施機関 施策名
総務省 本省 移動通信システムにおける周波数の高度利用に向けた要素技術の研究開発
未利用周波数帯への無線システムの移行促進に向けた基盤技術の研究開発
ホワイトスペースにおける新たなブロードバンドアクセスの実現に向けた周波数高度利用技術の研究開発
周波数有効利用に資する次世代宇宙通信技術の研究開発
周波数逼迫対策技術試験等の実施に必要な経費
情報通信研究機構 ネットワーク基盤技術の研究開発
文部科学省 科学技術振興機構 研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)
経済産業省 本省 イノベーション実用化助成事業
環境・医療分野の国際研究開発・実証プロジェクト
イノベーション拠点立地推進事業
組込みシステム基盤技術開発事業
次世代高信頼・省エネ型IT基盤技術開発・実証事業
低炭素社会を実現する超軽量・高強度革新的融合材料プロジェクト(NEDO交付金以外分)ナノ材料の安全・安心確保のための国際先導
石油精製物質等の新たな化学物質規制に必要な国際先導的有害性試験法の開発
戦略的基盤技術高度化支援事業
産業技術総合研究所 ナノレベルで機能発現する材料、多機能部材
産業の国際展開を支える計量標準
ナノエレクトロニクスのオープンイノベーションの推進
デバイスの高機能化と高付加価値化技術
新エネルギー・
産業技術総合開発機構
先導的産業技術創出事業、先導的省エネルギー産業技術創出事業、先導的非化石エネルギー産業技術創出事業
異分野融合型次世代デバイス製造技術開発プロジェクト
高出力多波長複合レーザー加工基盤技術開発プロジェクト

※13 Japan Gigabit Network-eXtreme

3 地球規模の問題解決への貢献

(1)地球規模問題への対応促進

 我が国の科学技術水準は、これまでの振興策により、世界的にも高くなった。大学や公的研究機関、産業界、さらには諸外国や国際機関と連携、協力し、地球規模で発生する様々な問題に対応した研究開発などの施策を重点的に推進している。
 中でも大規模な気候変動に関して、全球での観測や予測、影響評価を推進するとともに、大規模な自然災害等の対策に関する研究開発を推進している。また、資源やエネルギーの安定供給に向けて、新たな資源、エネルギーの探査や循環的な利用、代替資源の創出に関する研究開発等を推進している。さらに、新興・再興感染症に関する病原体の把握、予防、診断、治療に関する研究等を推進している。

1.気候変動に関する研究開発

(1)地球観測等の推進

 地球温暖化の状況等を把握するため、世界中の国や機関により、人工衛星や地上、海洋観測等による様々な地球観測が実施されている。気候変動問題の解決に向けた全世界的な取組を一層効果的なものとするためには、国際的な連携により、それらの観測情報を結び付け、さらに、統合・解析を行うことで、各国における政策決定等の基礎としてより有益な科学的知見を創り出すとともに、その観測データ及び科学的知見を各国、各機関が容易にアクセスし入手することができる複数のシステムから成る国際的なシステム(=全球地球観測システム(GEOSS(※14)))を構築することが重要である。GEOSSの構築を推進する国際的な枠組みとして、地球観測に関する政府間会合(GEO(※15))が設立され、155の国及び機関が参加しており、我が国はGEOの執行委員国の一つとして、主導的な役割を果たしている。

a)人工衛星等による観測
 人工衛星による地球観測は、広範囲にわたる様々な情報を繰り返し連続的に収集することができる極めて有効な観測手段であり、地球環境問題の解決に向けて、国内外の関係機関と協力しつつ総合的に推進している。
 2009年(平成21年)1月に打ち上げられた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT(※16))は、地球温暖化対策の一層の推進に貢献することを目指して、全球の温室効果ガス濃度分布とその変化を測定し、温室効果ガスの吸収排出量の推定精度を高めるために必要な全球観測を行っており、これまでに二酸化炭素及びメタンの全球の濃度分布や、その季節変動を明らかにするなどの成果を上げている。また、国立環境研究所ではGOSATの定常処理システムの運用(データの処理・提供とデータ検証)を行っている。
 このほかにも宇宙航空研究開発機構では、陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)(平成23年5月に運用終了)による観測を実施し、途上国の森林減少・劣化に由来する温室効果ガス排出の削減(REDD+(※17))に関する研究などを行っている。また、米国熱帯降雨観測衛星(TRMM)に搭載した我が国の降雨レーダ(PR)や米国地球観測衛星(Aqua)に搭載した我が国の改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR-E)(平成23年10月に運用終了)などから取得したデータの処理、提供を行っている。さらに、気候変動予測精度の向上等への更なる貢献のため、平成24年度に打上げ予定の水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)をはじめ、降水、雲・エアロゾル、植生などの地球環境に関する全球の多様なデータの収集及び提供を行う地球観測衛星やセンサの研究開発を行うなど、人工衛星を活用した地球観測を推進している。
 また、環境省では、関係府省、機関と連携して、気候変動とその影響の解明に役立てるため、全球的な炭素循環に関する観測を推進している。具体的には、GOSATによる全球の二酸化炭素及びメタンの観測技術の開発に加え、航空機・船舶による観測、森林等における観測を継続的に実施している。

温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)

温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)
提供:宇宙航空研究開発機構


※14 Global Earth Observation System of Systems

※15 Group on Earth Observations

※16 Greenhouse gases Observing SATellite

※17 Reducing Emissions from Deforestation and forest Degradation - plus

b)電磁波センシングによる観測等
 総務省では、情報通信研究機構において、天候等にかかわらず災害発生時における被災地の地表状況を随時・臨機に把握可能な航空機搭載合成開口レーダー(Pi-SAR2)、突発的局所災害の観測及び予測に有効な次世代ドップラーレーダー技術の研究開発を推進している。また、国際宇宙ステーションの我が国の実験棟「きぼう」のばく露部に搭載された超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(SMILES(※18))を開発した。さらに、地球圏宇宙空間の電磁環境及び電波利用に関する研究開発を実施しており、特に、アジア・オセアニア域を中心とした国際的な基盤を立ち上げ、宇宙・地球環境観測データの収集・管理・解析・配信を統合的に行ったほか、観測・センシング技術及び数値計算技術を高度化し、大規模データを処理するための宇宙環境インフォマティクス技術(※19)の開発を進めている。

c)地上、海洋観測等
 文部科学省と気象庁は、全世界の海洋の状況をリアルタイムで監視・把握するため、国際協力の下、世界の海洋を常時観測する高度海洋監視システム(アルゴ計画)の維持に取り組んでいる。この計画は、海面から深さ2,000mまでの間を自動的に浮き沈みしながら水温・塩分を観測し、そのデータを衛星を経由して通報する観測機器(アルゴフロート)を全世界の海洋に3,000個投入することによって、常時全海洋を観測するシステムを構築するものである。
 気象庁では、温室効果ガスの状況を把握するため、国内の3観測地点及び南極昭和基地で大気中の温室効果ガスの観測を行っているほか、海洋気象観測船による北西太平洋の洋上大気や表面海水中の温室効果ガス観測や、航空機による上空の温室効果ガスの観測を行っている。これらを含めた地球温暖化に関する観測データは、解析結果とともに公開している。また、国内の4観測地点及び南極昭和基地でオゾン層・紫外線の観測を実施している。
 このほか、気象庁は、船舶、アルゴフロート、衛星等による様々な観測データを収集・分析し、地球環境に関連した海洋変動の現状と今後の見通し等に関する情報発表を行っている。


※18 Superconducting subMIllimeter-wave Limb-Emission Sounder:大気の縁(リム)の方向にアンテナを向け、超伝導センサを使った高感度低雑音受信機を用いて大気中の微量分子が自ら放射しているサブミリ波(300GHzから3,000GHzまでの周波数の電波をサブミリ波という。このうち、SMILESでは、624GHzから650GHzまでのサブミリ波を使用している)を受信し、オゾンなどの量を測定する。

※19 宇宙環境に関するシミュレーションや観測から生成される大規模かつ多種多様なデータを処理し、情報を抽出するための技術

(2)気候変動適応に資する研究の推進

 気象庁気象研究所では、エアロゾルが雲に与える効果、オゾンの変化や炭素循環なども表現できる温暖化予測地球システムモデルを構築し、気候変動に関する10年程度の近未来予測及びIPCCの排出シナリオに基づく長期予測を行っている。また、日本特有の局地的な現象を表現できる分解能を持った精緻な雲解像地域気候モデルを開発して、空間的にきめ細かな領域温暖化予測を行っている。
 環境省では、地球温暖化の実態を解明し、科学的知見を踏まえた一層適切な行政施策を講じるため、環境研究総合推進費(※20)等を活用し、現象解明、将来予測、影響評価及び対策に関する研究を総合的に推進している。環境研究総合推進費では、

  • 地球温暖化により世界や日本の気候が今度どのように変化するのか、より正確で分かりやすい形で国民各層及び国際社会に対して提供することを目的とする、「地球温暖化に係る政策支援と普及啓発のための気候変動シナリオに関する総合的研究」(平成19年度~23年度)
  • 世界の気温上昇を工業化以前と比較して2℃以内に抑えるという目標を達成するために考えられるアジア地域における低炭素社会像を描き、その実現に向けたロードマップを作成することを目的とする、「アジア低炭素社会に向けた中長期的政策オプションの立案・予測・評価手法の開発とその普及に関する総合的研究」(平成21年度~25年度(予定))
  • 我が国やアジアにおける温暖化の影響を詳しく予測し、適応策により悪影響を回避・緩和することで安全・安心な気候変動適応型社会を実現することを目的とする、「温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究」(平成22年度~26年度(予定))

等を実施した。
 農林水産省では、気候変動に対応した循環型食料生産等の確立を図るため、温室効果ガスの排出削減・吸収機能向上技術の開発、低投入・循環型農業の実現に向けた生産技術体系の開発、アジア地域熱帯林の森林減少・劣化対策支援システムの開発、温暖化の進行に適応した農林水産物の生産安定技術・品種の開発を推進した。
 国土技術政策総合研究所では、気候変動下における大規模水害に対する水災害リスクの低減のため、様々な類型の河川流域ごとに最適かつ実践的な適応策の選択・実行に用いる基盤技術を確立するための検討を行っている。


※20 環境問題が人類の生存基盤に深刻かつ重大な影響を及ぼすことに鑑み、様々な分野における研究者の総力を結集して学際的、国際的な観点から総合的に調査研究及び技術開発を推進し、もって持続可能な社会構築のための環境保全に資することを目的とした政策指向型の競争的研究資金

2.資源やエネルギーの安定供給に向けた研究開発等

 政府では、資源やエネルギーの安定供給に向けて、新たな資源、エネルギーの探査や循環的な利用、代替資源の創出に関する研究開発等を推進している(第2部第2章第2節1(1)、(3)、第2部第3章第1節1(2)参照)。

3.新興・再興感染症に関する研究等

 文部科学省及び厚生労働省では、新興・再興感染症に関する病原体の把握、予防、診断、治療に関する研究等を推進している(第2部第2章第3節1(1)参照)。

第2-3-6表/地球規模の問題解決への貢献のための主な施策(平成23年度)
府省名 実施機関 施策名
総務省 情報通信研究機構 電磁波センシング基盤技術の研究開発
文部科学省 本省 感染症研究国際ネットワーク推進プログラム
厚生労働省 本省 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業
経済産業省 産業技術総合研究所 地圏の資源のポテンシャル評価
地質分野に関する国際研究協力の強化、推進
国土交通省 国土技術政策
総合研究所
気候変動下での大規模水災害に対する施策群の設定・選択を支援する基盤技術の開発

4   国家存立の基盤の保持

 我が国が国際的な優位性を保持し、安全な国民生活を実現していくためには、国自らが長期的視点に立って、継続的に、広範囲かつ長期間にわたって国家存立の基盤に関わる研究開発を推進し、成果を蓄積していく必要がある。

(1)国家安全保障・基幹技術の強化

 情報収集や通信をはじめ、国の安全保障や安全な国民生活の実現などにもつながる宇宙輸送や衛星開発及び利用に関する技術、地震や津波等の早期検知に関する技術、独自のハイパフォーマンスコンピューティング技術等の研究開発を推進している。
 また、原子力に関する研究開発については、東電福島第一原発の事故を踏まえ、原子力災害からの復興に向けた取組に重点を置くとともに、我が国の原子力政策見直しの議論の方向性を見据えつつ、必要な取組を実施している。さらに、情報(サイバー)、海洋分野等の極めて高度、かつ複雑な技術システムに事故あるいはトラブルが発生した場合の国としての対応や、人々の生活の安全に資する研究開発等を推進している。

1.宇宙輸送システムや人工衛星などに係る宇宙開発利用

 我が国の総合的な安全保障や宇宙活動の自律性を維持するためには、必要なときに必要な衛星等を宇宙空間の所定の位置に輸送する能力を独自に確保することが重要である。また、災害監視、地球観測、通信・放送、測位などに人工衛星を活用することは、広域性、同報性、対災害性などの面で多くの利点があり、安全な国民生活の実現に大きく貢献すると期待される。「宇宙基本計画」(平成21年6月宇宙開発戦略本部決定)においては、これら宇宙輸送や衛星開発及び利用に関する技術を国家存立の基盤に関わる研究開発と位置付け、強力に推進するとされている。これら宇宙輸送システムや人工衛星は巨大システム技術であるため、その技術力の向上自体が産業の高度化や社会経済の発展にもつながるものである。

(1)宇宙輸送システム

 我が国の宇宙輸送技術については、平成23年度に基幹ロケットであるH-ⅡAロケット19号機、20号機の打上げに連続で成功し、初期20機における打上げ成功率としては世界最高水準となる95%(20機中19機)を達成、世界の主要ロケットに比肩する高い信頼性を獲得した。また、現在は今後の小型衛星需要に機動的かつ効率的に対応するため、小型固体ロケットの開発を推進中である。

(2)通信放送衛星システム、測位衛星システム、衛星観測監視システム

 通信放送衛星システムについては、総務省と文部科学省の連携により、大型衛星バス技術、大型展開アンテナ技術、移動体衛星通信技術等の開発・実証を目的とした技術試験衛星Ⅷ型「きく8号」(ETS-Ⅷ(※21))や、ギガビット級の衛星インターネット通信技術等の開発・実証を目的とした超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS(※22))による実験を実施している。
 測位衛星システムについては、総務省、文部科学省、経済産業省、国土交通省の連携により、山間地、ビル影等に影響されずに高精度測位等を行うことが可能な準天頂衛星初号機「みちびき」による実証実験を実施している。
 衛星観測監視システムについては、陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)を運用し、東日本大震災をはじめとする大規模自然災害の被災地の観測や防災機関等への観測画像の提供を行った。「だいち」は平成23年5月に運用を終了したが、「だいち」のレーダ性能を飛躍的に向上させた陸域観測技術衛星2号(ALOS-2)の研究開発を推進し、平成25年度の打上げを予定している。


※21 Engineering Test Satellite-Ⅷ

※22 Wideband InterNetworking engineering test and Demonstration Satellite

(3)宇宙の利用を促進するための取組

 宇宙利用は、気象、通信・放送等の分野では、既に国民の生活に浸透しているものの、その他の分野では、日常生活への定着や広範な利用が必ずしも十分ではない。これを踏まえ、文部科学省では、人工衛星に係る潜在的なユーザーや利用形態の開拓等、宇宙利用の裾野の拡大を目的として、平成21年度に宇宙利用促進調整委託費を創設し、産学官の英知を幅広く活用する仕組みを構築した。これにより、防災、農林水産業、医療、教育等の分野において、宇宙利用産業のマーケット創出も視野に入れて、宇宙利用の促進に貢献する研究開発を引き続き実施している。
 経済産業省では、我が国宇宙産業の基盤を強化するため、大型衛星に劣らない機能、低コスト、短納期を実現する高性能小型衛星、小型地上システム等の研究開発を進めている。また、衛星を活用したリモートセンシング(遠隔探知)技術を用いた鉱物資源探査等に資するセンサの開発やデータ処理解析技術などの衛星利用技術の開発も進めている。

2.地震や津波等の早期検知に向けた海域における稠(ちゅう)密観測、監視に関する技術

 文部科学省では、東南海地震・南海地震の想定震源域及び東北地方太平洋沖地震の震源域を中心とした領域において、海底地震津波観測網の運用や、敷設に向けた技術開発を進めた(第2部第2章第1節1(3)、第2部第3章第1節1(1)参照)。

3.革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築

 スーパーコンピュータを用いたシミュレーションは、理論、実験と並ぶ現代の科学技術の第3の方法として今や不可欠のものとなっている。スーパーコンピュータは、大規模なシミュレーションを高速に行うことができるため、地震・津波の被害軽減や、新しい省エネ半導体材料の開発等に利用することができる。文部科学省では、今後とも我が国が科学技術、学術研究、産業、医・薬など広汎な分野で世界をリードし続けるため、世界最高水準の計算性能を有するスーパーコンピュータ「京(けい)」を中核とし、多様な利用者のニーズに応える革新的な計算環境(HPCI:ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ)を構築するとともに、この利用を推進し、まる(1)画期的な成果創出、(2)(高度な計算科学技術環境を使いこなせる人材の創出、(3)最先端コンピューティング研究教育拠点の形成を目指し、戦略機関を中心に戦略分野(※23)の「研究開発」及び「計算科学技術推進体制の構築」を推進している(第2-3-7図)。「京」については、平成23年11月に性能目標である10ペタフロップス(※24)を達成し、平成24年6月までのシステム完成、同年秋の共用開始を目指し、開発・整備をしている。また、平成23年6月及び11月のスーパーコンピュータ性能ランキングTOP500において世界1位を獲得するとともに、同年11月に試験利用により実施された「『京』によるシリコン・ナノワイヤの第一原理計算」が、ゴードン・ベル賞の最高性能賞(※25)を受賞するなど、「京」を利用した成果創出に向けた取組が着実に進捗している。さらに、今後我が国の計算科学技術の一層の発展に向け、長期視点に立って継続的に研究開発を推進し、世界最高水準の成果を蓄積していくため、今後のハイパフォーマンス・コンピューティング技術の研究開発についての検討を開始した(第2部第3章第1節5(2)参照)。

第2-3-7図/革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)のイメージ図

 第2-3-7図/革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)のイメージ図

資料:文部科学省作成


※23 「京」を中核としたHPCIを最大限利用して画期的な成果を創出し、社会的・学術的に大きなブレークスルーが期待できる分野として、以下の5つの分野が設定されている。分野1:予測する生命科学・医療及び創薬基盤、分野2:新物質・エネルギー創成、分野3:防災・減災に資する地球変動予測、分野4:次世代ものづくり、分野5:物質と宇宙の起源と構造

※24 1秒間に1京回の計算性能(1京:1兆の1万倍)

※25 ゴードン・ベル賞の最高性能賞:米国計算機学会(ACM)が、毎年ハードウェアとアプリケーションの開発において最高の成文に付与する賞。このうち実行性能部門の最高性能賞は最も栄誉ある賞とされている。

コラム2-4 スーパーコンピュータ「京」によるシリコン・ナノワイヤ計算結果がゴードン・ベル賞を受賞

 2011年11月、米国計算機学会(ACM)が開催する米国スーパーコンピュータ会議(SC11)において、理化学研究所、筑波大学、東京大学、富士通のチームによる「『京』によるシリコン・ナノワイヤの第一原理計算」が、スーパーコンピュータを駆使したシミュレーション分野で最高の賞であるゴードン・ベル賞の最高性能賞を受賞した。日本チームによるこの受賞は2004年以来7年ぶりの快挙である。
 受賞した最高性能賞は、実用に供するアプリケーションで世界最高性能を実現した研究に与えられるものであり、世界一の性能を持つ「京」の実用的な価値が高く評価された結果といえる。
 具体的な研究内容について、以下に紹介する。
 IT技術を支える半導体の性能向上は、電界効果トランジスタ(図上)の微細化により達成されてきた。現在更なる微細化が検討されているが、20nm程度の大きさになるとトランジスタの外に電流が漏れてしまうため、電力を有効に利用できない問題が生じている。この微細化による漏れ電流の問題を解決する有力な手段として、ゲートで周囲を囲んだシリコン・ナノワイヤトランジスタ(図下)が提案されている。
 シリコン・ナノワイヤの直径が20nm程度まで細くなると、流れる電子を外に漏らさずワイヤ内部に閉じ込める効果が発現する。この効果の大きさを予測するためには、シリコン・ナノワイヤを構成する10万個程度のシリコン原子の電子軌道を計算する必要がある。この計算を行うのに、従来の計算機や計算手法では30年以上を必要とし、現実的に計算は不可能であった。今回、「京」のCPU1個に原子数個の周囲にある電子の密度を計算させる第一原理に基づく新たな計算手法(RSDFTと呼ぶ)を開発するとともに、CPUが8万個以上といった超高並列を実現し、10ペタフロップス(1秒間に1京回の計算性能)という世界最高水準の計算性能を有する「京」を利用することにより、僅か1週間程度で10万原子の計算を行うことに成功した。その結果、電流の流れやすさが断面形状に大きく依存し、長方形の断面の方が正方形よりも電流が流れやすいこと等を、世界で初めて計算で明らかにした。
 今後、「京」を用いて行う新計算手法「RSDFT」は、ナノワイヤのように数十nm以下の微細構造を持つ次世代デバイスの、高速、高機能、省エネルギーに向けた設計や性能予測に貢献することが期待される。

シリコン・ナノワイヤを用いた次世代半導体イメージ

シリコン・ナノワイヤを用いた次世代半導体イメージ
提供:理化学研究所、筑波大学

4.原子力に関する研究開発

 原子力に関する研究開発については、東電福島第一原発の事故を踏まえ、平成23年度は、原子力災害からの復興に向けた取組に重点を置くとともに、原子力の基盤と安全を支える研究開発や人材育成等に取り組んだ。高速増殖炉サイクル技術については、原子力政策の見直しの議論を見据えつつ、施設の更なる安全性の向上・維持管理等に重点を置いて取り組むとともに、核融合の研究開発についても必要な取組を実施した。さらに核不拡散・核セキュリティに関する技術等の研究開発を強化した(高速増殖炉サイクル技術、核融合の研究開発については第2部第2章第2節1(1)を参照。核不拡散及び核セキュリティに関する技術開発については、第2部第3章第3節2(2)を参照)。

5.情報セキュリティに関する研究開発の推進

 官民における統一的・横断的な情報セキュリティ対策の推進を図るために設置された「情報セキュリティ政策会議」(議長:内閣官房副長官)にて、「情報セキュリティ研究開発戦略」(平成23年7月)及び「情報セキュリティ人材育成プログラム」(平成23年7月)を策定し、能動的で信頼性の高い(ディペンダブルな)情報セキュリティに関する技術の研究開発を推進するとともに、それらの研究開発等を担う情報セキュリティ人材の育成を推進している。
 情報セキュリティ研究開発戦略等を踏まえ、総務省では、国内外のインターネットサービスプロバイダ、大学等の協力によりサイバー攻撃、マルウェア(※26)等に関する情報を収集するネットワークを国際的に構築し、諸外国と連携してサイバー攻撃を予知し即応を可能とする技術について、その研究開発及び実証に取り組んでいる。さらに、災害時における業務継続性等の確保に有用である一方、情報漏えい等の情報セキュリティ上の課題が指摘されているクラウドについて、その普及促進を企図し、情報漏えい等を防止する新たな情報セキュリティ技術の研究開発及び実証に取り組んでいる。経済産業省では、新たな脅威に対応した情報セキュリティに関する被害を未然に防止するための研究や、制御システムのセキュリティ検証施設であるサイバーセキュリティテストベッド(※27)の構築などITを安心して利活用できる環境整備のための研究を実施している。


※26 コンピュータウイルス、ワーム、スパイウェア等の計算機及び利用者に害を与える悪意あるソフトウェア

※27 プラントの機器等をコントロールする不可欠なシステムである制御システムに対して模擬サイバー攻撃を行い、セキュリティ評価・検証を行う施設のこと

6.海洋構造物の安全性評価手法及び環境負荷低減の開発・高度化に関する研究

 海上技術安全研究所では、海洋資源・エネルギー開発に係る基盤的技術の基礎となる海洋構造物の安全性評価手法及び環境負荷軽減手法の開発・高度化に関する研究を行っている。

(2)新フロンティア開拓のための科学技術基盤の構築

 海洋、地球、宇宙等に関する統合的な理解、解明など、新たな知のフロンティアの開拓に向けた科学技術基盤を構築するため、理論研究や実験研究、調査観測、解析等の研究開発を推進している。

1.海洋分野の研究開発の推進

 海洋は、その広大さとアクセスの困難さのために、人類にとって今もなおフロンティアであり、未知なるものを解明したいという知的欲求から、これまで海洋に関する様々な調査・研究が行われてきた。これらの取組により、未利用のエネルギー・鉱物資源の存在や、気候変動をはじめとする地球環境の変化への海洋の関連などが明らかとなってきている。このように、海洋の諸現象に関する原理を追究し解明することは、地球環境問題の解決、海溝型巨大地震への対応、海洋資源の開発など、今後の人類の発展に深く関わる重要な課題の解決を図るためにも必要である。

(1)海洋調査・探査技術の開発

 文部科学省では、海洋の観測・探査を行うために必要な先進的・基盤的技術の開発及び開発した技術を用いた調査研究を実施している。平成23年度は、無人探査機が航行中の位置や進行方向を知るために必要な高性能小型慣性航法装置の開発に成功した。海洋鉱物資源については、「海洋資源利用促進技術開発プログラム」により、大学等においてセンサーの開発を進めるとともに、海洋研究開発機構において、深海底を調査するための無人探査機の開発や海洋資源の成因の解明に向けた調査研究等を実施している。また、平成23年9月には、科学技術・学術審議会海洋開発分科会において、研究開発の具体的内容、スケジュールについて検討し、5か年程度の中長期的な技術実証計画として取りまとめた「海洋資源探査技術実証計画」に基づき、研究開発を進めている。また、平成23年度は新たな自律型無人探査機(AUV)を完成させた。地球温暖化等の地球環境変動には海洋が大きく関与しているため、継続的に調査を実施することが必要であり、海洋研究開発機構では、観測ブイ等の技術開発を実施するとともに、世界各地で観測を進めている。またその結果を用いた予測・シミュレーションを実施している。

(2)地球内部探査技術の開発

 地震発生メカニズム等の解明を行うためには、海底下の調査研究を実施することが必要である。海洋研究開発機構においては、東北地方太平洋沖地震について深海調査研究船「かいれい」による調査を行い、プレート境界に沿った断層の破壊が日本海溝の海溝軸まで達したこと、海溝軸付近が最も地震変動が大きく、東南東方向に約50m移動し約10m隆起したことを示した。また、海底ケーブルで多数のセンサーを結んだ海底観測ネットワークシステムの開発や地球深部探査船「ちきゅう」の掘削技術の開発を進めている。紀伊半島熊野灘沖の海底ネットワーク観測システム「地震・津波観測監視システム」(DONET)が完成し、平成23年8月より運用を本格的に開始した。地球深部探査船「ちきゅう」については、統合国際深海掘削計画(IODP)の枠組みの下で、南海トラフ地震発生帯掘削計画を進めており、採取した地質試料を解析することにより、昭和19年の東南海地震時に活動した断層を特定する物的証拠の発見、巨大津波を引き起こした断層活動の痕跡の発見などの成果があった。

(3)海洋生物資源確保技術の開発

 近年、地球温暖化、海洋環境破壊、乱獲等、人間活動による海洋生物への様々な影響が顕在化してきており、海洋生物多様性の保全や持続可能な利用の実現等に資する研究がこれまで以上に求められている。このため、平成23年度には、海洋資源利用促進技術開発プログラムとして、海洋生物の生理機能を解明して革新的な生産につなげる研究開発、生物資源の正確な資源量の変動予測を目的に生態系を総合的に解明する研究開発を実施するとともに、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業として海洋生物の観測・モニタリング技術の研究開発を開始した。また、平成23年9月に、科学技術・学術審議会海洋開発分科会において「海洋生物に関する研究の在り方について」を取りまとめた。

有人潜水調査船「しんかい6500」で撮影した東日本大震災震源域の海底の亀裂(左図)及び海底下からの湧水に伴って大量に繁殖したバクテリア(右図)

有人潜水調査船「しんかい6500」で撮影した東日本大震災震源域の海底の亀裂(左図)
及び海底下からの湧水に伴って大量に繁殖したバクテリア(右図)
提供:海洋研究開発機構

2.宇宙分野の研究開発の推進

 人類の未知のフロンティアの探求は「宇宙がどのように成立し、どのような法則によって支配されているのか」を知るための高度な知的活動であるとともに、宇宙開発に新しい芽をもたらす可能性を秘めた革新的・萌芽的な技術の源であるとともに、宇宙開発利用の基盤を支えるものとして、我が国の宇宙開発利用の発展のために必要なものである。
 また、宇宙空間という特殊な環境を利用した研究成果の創出、新たな科学的知見の獲得、その成果を活用した技術による新たな産業活動の発展も期待されるものである。

(1)太陽系探査、宇宙天文観測

 宇宙科学の分野においては、宇宙航空研究開発機構が中心となり、全国の大学等の研究者の参加の下、科学衛星を打ち上げ、これまでに世界トップレベルの成果を上げている。我が国は、重要な研究開発課題として科学衛星計画を推進しており、地球への帰還を果たした小惑星探査機「はやぶさ」は、現在も小惑星「イトカワ」の微粒子の分析を進めている。平成23年8月には微粒子の初期分析結果をまとめた論文が米学術誌「サイエンス」の特集号に掲載された。また、帰還カプセルの全国巡回展示は来場者が80万人を超え、「はやぶさ」を題材にした映画が制作されるなど、社会現象になった。さらに、平成26年度打上げを目指して、後継機「はやぶさ2」の開発を行っている。また、現在も観測を続ける国際協力による太陽観測衛星「ひので」やX線天文衛星「すざく」においても科学研究に貢献しているとともに、小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」は、後期運用ミッションの一つとして平成23年10月に逆スピン運用を実施した。なお、金星探査機「あかつき」は、同年11月に軌道制御を実施し、再度の金星周回軌道投入を目指している。このほか、世界最高性能のX線天文衛星「ASTRO-H」、欧州宇宙機関との国際協力による水星探査計画(Bepi Colombo)などの開発等を進めている。

イトカワの微粒子

イトカワの微粒子
提供:宇宙航空研究開発機構

(2)国際宇宙ステーション計画による有人宇宙技術の獲得

 国際宇宙ステーション(ISS(※28))計画は、日本・米国・欧州・カナダ・ロシアの5極共同の国際協力プロジェクトである。我が国は、日本実験棟「きぼう」及び宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV(※29))を開発・運用することで本計画に参加しており、平成21年7月に完成した「きぼう」の利用、日本人宇宙飛行士のISS長期滞在、「こうのとり」による物資補給等を実施している。平成23年1月には、平成21年9月の「こうのとり」1号機に続いて2号機がISSへの安全な結合に成功した。また、平成23年6月から11月にかけて古川宇宙飛行士がISSに長期滞在し、医師としての専門性を活(い)かして数々の医学実験に取り組んだ。


※28 International Space Station

※29 H-Ⅱ Transfer Vehicle

コラム2-5 古川聡宇宙飛行士による国際宇宙ステーションでの長期滞在

 宇宙航空研究開発機構の古川聡(ふるかわ さとし)宇宙飛行士は、2011年6月8日にロシアのソユーズ宇宙船に搭乗し、カザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地から、宇宙に浮かぶ国際宇宙ステーション(ISS)に向かって飛び立った。2011年11月22日に帰還するまで、古川宇宙飛行士は167日間にわたって宇宙に滞在した。この滞在記録は、日本人による1度の飛行での宇宙滞在期間の最長記録である。また、古川宇宙飛行士の長期滞在により、日本人宇宙飛行士の滞在累積日数は、ロシア・米国に次ぐ世界第3位となった。
 ISSは、米国、ロシア、欧州、カナダ、日本の国際協力によって運用されており、人類が宇宙で活動できる唯一の施設である。古川宇宙飛行士はISS滞在中、日本実験棟「きぼう」の維持運用や実験に加え、医師としての能力を活(い)かし、多くの医学実験を行った。例えば、インフルエンザの万能薬などの新薬を効率的に開発するための、タンパク質結晶生成実験や、骨粗しょう症の治療薬を服用する宇宙医学研究などの実験である。これらの成果の一部は、高齢化社会で問題となる骨粗しょう症や筋肉の衰えの予防対策につながるものとして期待されている。
 宇宙飛行士の活動は、日本に開発経験がない有人宇宙船の運用に関する知見を得たり、宇宙飛行士自らが被験者として参画したりすることにより、宇宙環境下での医学データを蓄積することができる。日本人宇宙飛行士が継続的にISSに長期滞在することは、将来、日本が有人宇宙活動を実現するために必要な経験とデータの蓄積に不可欠である。また、地上ではできない実験を行うことによって、私たちの生活の向上や問題解決へとつながる可能性を帯びている。
 今後も、日本人宇宙飛行士の活躍を通じて、より多い成果を出していくことが期待されている。

古川宇宙飛行士が搭乗したソユーズ宇宙船の打上げ

古川宇宙飛行士が搭乗したソユーズ宇宙船の打上げ
提供:宇宙航空研究開発機構

国際宇宙ステーション

国際宇宙ステーション
提供:宇宙航空研究開発機構

無重力空間が身体に及ぼす影響を調べる古川宇宙飛行士

無重力空間が身体に及ぼす影響を調べる古川宇宙飛行士
提供:宇宙航空研究開発機構

第2-3-8表/国家存立の基盤の保持のための主な施策(平成23年度)
府省名 実施機関 施策名
総務省 本省 準天頂衛星システムの研究開発
国際連携によるサイバー攻撃予知・即応技術の研究開発
災害に備えたクラウド移行促進セキュリティ技術の研究開発
情報通信研究機構 ネットワーク基盤技術の研究開発
文部科学省 本省 革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築
海洋資源利用促進技術開発プログラム(海洋鉱物資源探査技術高度化)
宇宙航空研究
開発機構
基幹ロケット高度化
固体ロケット
はやぶさ2
水星探査計画「Bepi Colombo」
X線天文衛星「ASTRO-H」
衛星観測監視システム
国際宇宙ステーション計画
回収機能付加型宇宙ステーション補給機(HTV-R)の研究開発
海洋研究開発機構 海洋資源探査システムの実証
深海地球ドリリング計画
経済産業省 本省 企業・個人の情報セキュリティ対策促進事業
小型化等による先進的宇宙システムの研究開発
可搬統合型小型地上システムの研究開発
石油資源遠隔探知技術の研究開発
ハイパースペクトルセンサ等の研究開発
次世代地球観測衛星利用基盤技術の研究開発
産業技術総合研究所 衛星画像情報及び地質情報の統合化と利用拡大
陸域・海域の地質調査及び地球科学基本図の高精度化
情報処理推進機構 情報処理推進機構運営費交付金
国土交通省 海上保安庁
海洋情報部
我が国領海及び排他的経済水域における海洋調査の推進

5 科学技術の共通基盤の充実、強化

 我が国及び世界が直面する様々な課題への対応に向けて、研究開発を効果的、効率的に推進していくためには、複数の領域に横断的に用いられる科学技術の研究開発を推進する必要がある。また、広範かつ多様な研究開発に活用される共通的、基盤的な施設や設備について、より一層の充実、強化を図るとともに、相互のネットワーク化を促進していくことが重要である。
 このため、重要課題に対応した研究開発等の関連施策を重点的に推進している。

(1)領域横断的な科学技術の強化

 先端計測分析技術やナノテクノロジー、光・量子科学技術、高度情報通信技術、数理科学など、複数領域に横断的に活用することが可能な科学技術や融合領域の科学技術に関する研究開発を推進している。

(先端計測分析技術・機器の開発)
 先端計測分析技術・機器は、世界最先端の独創的な研究開発成果の創出を支える共通的な基盤であるとともに、その研究開発の成果がノーベル賞の受賞につながることも多く、科学技術の進展に不可欠なキーテクノロジーである。

 文部科学省では、科学技術振興機構において、「研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)」を実施し、世界最先端の研究者やものづくり現場のニーズに応えられる我が国発のオンリーワン、ナンバーワンの先端計測分析技術・機器の開発等を推進することで、研究開発基盤の強化に取り組んでいる(第2-3-9図)。平成23年度は、グリーンイノベーションへの貢献として、燃料電池、蓄電池等の飛躍的な性能向上と低コスト化を目指す優れた研究開発成果の創出を図る上でボトルネックとなっている計測分析技術・機器の開発に着手した。さらに、開発された最先端のプロトタイプ機を研究現場に投入し、多くのユーザーによる利用を通じて得られる様々な知見を開発にフィードバックさせ、機器の更なる高度化、普及に向けた活動を行う計測分析技術のプラットフォーム形成のための取組を開始した。開発されたプロトタイプ機が製品化に至った事例は、平成23年度末の時点で20件を超える。

第2-3-9図/先端計測分析技術・機器開発の主な成果例

第2-3-9図/先端計測分析技術・機器開発の主な成果例

左:たんぱく質分析装置(たんぱく質混合物を分析する2次元電気泳動の完全自動化に成功した装置。本製品は日刊工業新聞社の選ぶ「第54回2011年十大新製品賞」を受賞)
右:超高感度極微量質量分析システム(小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った小惑星「イトカワ」のサンプル分析に活用されている装置)
資料:科学技術振興機構提供

(ナノテクノロジーの研究開発)
 ナノテクノロジー・材料分野は、ライフサイエンス、情報通信、環境などの分野における科学・技術の進歩や課題解決に貢献し、産業の振興や人間の豊かな暮らし、安全・安心で快適な社会などを実現する重要な技術シーズである。
 文部科学省では、希少元素の代替や使用量削減のための技術開発を行う「元素戦略」や「ナノテクノロジーを活用した環境技術開発プログラム」において、環境技術のブレークスルーの実現に向けた基盤的な研究開発を推進している(第2部第2章第2節1(1)、(3)参照)。
 また、物質・材料研究機構においては、表面から内部に至る包括的な材料計測を行うための世界最先端の計測技術、物性を高精度に解析・予測するためのシミュレーション技術、材料の構成要素(粒子、有機分子など)から材料へと組み上げるための設計手法や新規な作製プロセスの開拓など、共通的に必要となる先端技術を開発している。また、ナノ(10億分の1)メートルのオーダーでの原子・分子の操作・制御等により、無機、有機の垣根を越えて発現する、ナノサイズ特有の物質特性などを利用して、新物質・新材料を創製している。そのほか、環境・エネルギー・資源問題の解決や安心・安全な社会基盤の構築という人類共通の課題に対応し、環境・エネルギー材料の高度化、高信頼性、高安全性を確保する材料の研究開発を推進している(第2部第2章第2節1参照)。
 総務省では、情報通信研究機構において、未来の情報通信技術における技術的・性能的限界の克服及び飛躍的発展の実現を目指し、原子・分子・超伝導体などの新たな材料を用いて、高度な量子制御技術や光子レベルの信号制御技術、未利用周波数帯技術、原子・分子レベルの構造制御・利用技術などの基盤技術の研究開発を推進している。
 農林水産省では、ナノテクノロジー技術を活用し、新たな食品素材を開発するための加工・評価技術の開発に取り組んでいる。
 経済産業省では、低損失・高機能な偏光制御部材等の光学素子を実現するため、近接場光を動作原理としたナノエレクトロニクス技術の開発や、細胞の機能変化を捉え、がんの超早期発見に資する分子イメージング機器の開発を行っている。また、ナノレベルで構造制御された高級鋼材の特性を活(い)かす更なる信頼性向上、高強度化及び軽量化を図るため、ナノスケールで組織制御を行う溶接技術及び鍛造技術に係る基盤的加工技術の開発を行っている。さらに、ナノテクノロジーの基盤であるナノ材料の開発・応用を円滑に推進するため、安全性評価技術の構築に向けた取組を実施している。
 そのほか、先端ナノテクノロジー研究設備・人材が集積するつくばにおいて、文部科学省及び経済産業省の支援の下、筑波大学、物質・材料研究機構、産業技術総合研究所、及び社団法人日本経済団体連合会の4機関を中核として、世界的なナノテクノロジー研究拠点を形成することを目指し、産学官集中連携拠点「つくばイノベーションアリーナ」(TIA)を形成している(第2部第2章第4節1(3)参照)。

(光・量子科学技術の研究開発)
 光や中性子ビーム・イオンビームなどの様々な量子ビームは、その多くの優れた特徴を活(い)かして、微細な観測・精密加工・物質創生などに利用されている。例えば、レーザーによる半導体の精密加工や、放射光による物質の原子レベルでの構造解析等に利用されている。
 現代では、目覚ましい科学技術の発展に伴い、これまでは不可能であった原子・分子レベルでの加工や、物質の構造・技能を詳細に調べることが求められており、光・量子科学技術は極めて重要なキーテクノロジーとして、学術研究から産業応用まで広範な科学技術を支えている。
 このため、文部科学省では、我が国の光・量子科学技術分野のポテンシャルと他分野のニーズとをつなげ、産学官の多様な研究者が連携・融合しながら光・量子科学技術の研究開発を進めるとともに、この分野を将来にわたって支える人材育成を推進することを目的として、平成20年度より「光・量子科学拠点形成に向けた基盤技術開発」を実施している。

(高度情報通信技術の研究開発)
 情報通信技術は、今後様々な社会的課題の達成に向けて科学技術が貢献していく上で重要な鍵を握る共通基盤的技術である。
 文部科学省では、科学技術イノベーションに必要な基盤として、情報科学技術を活用した効果的かつ効率的な情報収集・情報集約・情報統合・情報管理・情報分析・情報流通・情報共有システムの高度化が求められるため、大規模データの効率的な利活用を可能とする科学技術基盤の強化(「e-サイエンス実現のためのシステム統合・連携ソフトウェアの研究開発」及び「Web社会分析基盤ソフトウェアの研究開発」等)を実施している。また、情報科学技術を活用した的確な科学的分析・解明・予測の高度化が求められるため「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築(第2部第3章第1節4(1)参照))等を実施している。さらに、課題達成型IT統合システム(実社会情報を集約し、課題達成に最適な解や方向性を導き出し実社会にフィードバックする高度に連携、統合されたITシステム)が今後必要とされることから、平成23年度に「目的解決型のIT統合基盤技術研究開発の実現に向けたフィージビリティスタディ」を実施した。ITシステムの超低消費電力化や信頼性の向上については「高機能・超低消費電力コンピューティングのためのデバイス・システム基盤技術の研究開発」や「高信頼ソフトウェアの技術開発プログラム」等を実施している。

(数理科学を活(い)かしたイノベーションの創出)
 文部科学省では、数学・数理科学的知見を活用して諸科学や産業における様々な課題の解決に貢献し、新たな価値(数学イノベーション)を生み出す枠組みを構築すべく、数学・数理科学研究者と諸科学・産業における研究者が協働して研究開発につなげるための支援を実施している。

(2)共通的、基盤的な施設及び設備の高度化、ネットワーク化

 科学技術の振興のための基盤である研究開発施設・設備は、基礎研究からイノベーション創出に至るまでの科学技術活動全般を支えるために不可欠であり、これらの整備や効果的な利用を図ることが重要である。また、「研究開発力強化法(※30)」においても、独立行政法人・大学等が保有する研究開発施設・設備の共用の促進を図るため、国が必要な施策を講じる旨が規定されている。
 そのため、科学技術に関する広範な研究開発領域や、産学官の多様な研究機関に用いられる共通的、基盤的な施設・設備に関して、その有効利用、活用を促進するとともに、これらの施設・設備の相互のネットワーク化を促進し、利便性、相互補完性、緊急時対応等を向上するための取組を進めている。
 文部科学省では、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」(平成6年法律第78号)(以下、「共用法」という)に基づく特定先端大型研究施設(※31)の整備や共用のために必要な経費の支援等を通じて、産学官の研究者等による共用を促進している(後述)。
 特定先端大型研究施設以外のその他の独立行政法人・大学等が保有する研究開発施設・設備については、共用を促進するために、「先端研究施設共用促進事業」を実施しており、平成23年度は30施設を支援した(第2-3-10図)。これらの施設・設備の共用を促進し、成果を創出するために、その利用に係る基本的な情報(所在地、利用用途、利用可能時間等)のインターネットを通じた総合窓口として「共用ナビ」(研究施設共用総合ナビゲーションサイト)を開設している。また、「ナノテクノロジー・ネットワーク」により、大学や独立行政法人等の研究機関が有する先端的な研究施設・機器の共用化を進め、分野融合を促進し、イノベーションにつながる成果の創出を進めている。さらに、スーパーコンピュータ「京」を中核とし、全国の大学や研究所などに設置されている主要なスーパーコンピュータをネットワークで結び、利用者の多様なニーズに応える計算環境を実現する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)」の構築を推進するとともに、戦略分野における研究開発や我が国の計算科学技術体制の整備を行う「HPCI戦略プログラム」を平成23年度から本格実施している。

第2-3-10図/「先端研究施設共用促進事業」の実施機関

第2-3-10図/「先端研究施設共用促進事業」の実施機関

資料:文部科学省作成

 近年、グローバル化が進展し、国際的な頭脳獲得競争の激化による人材の流動性が高まる中、海外で研鑽(さん)を積んだ我が国の研究者が帰国後も活躍できる機会を充実させるとともに、海外の優秀な研究者が我が国で活躍できる国際的な「頭脳循環」の実現が重要となっている。
 このため、文部科学省では、国内外の若手研究者等をひき付け、最先端の研究成果を創出するための研究設備の整備を行う「最先端研究基盤事業」を実施しており、平成23年度は13事業について支援を行っている。


※30 「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律」(平成20年法律第63号)

※31 共用法において、特定放射光施設(大型放射光施設(SPring-8)、X線自由電子レーザー施設(SACLA))、特定高速電子計算機施設(スーパーコンピュータ「京」)、特定中性子線施設(大強度陽子加速器施設(J-PARC))が規定されている。

(特定先端大型研究施設)

 共用法では、特に重要な大規模研究施設を「特定先端大型研究施設」と位置付け、我が国の科学技術イノベーションの推進や研究開発投資の効果的・効率的な活用のため、その計画的な整備、運用及び公平・公正な共用を規定している。

○大型放射光施設(SPring-8)
 大型放射光施設(SPring-8)は、光速近くまで加速した電子の進行方向を曲げたときに発生する極めて明るい光である「放射光」を用いて、物質の原子・分子レベルの構造や機能を解析可能な世界最高性能の研究基盤施設である。本施設は平成9年より共用が開始されており、ライフイノベーションやグリーンイノベーションをはじめ、日本の経済成長を牽(けん)引する様々な分野で革新的な研究開発に貢献している。

○X線自由電子レーザー施設(SACLA)
 X線自由電子レーザー施設(SACLA)は、レーザーと放射光の特徴を併せ持つ究極の光を発振し、従来の手法では実現不可能な分析を可能にする世界最先端の研究基盤施設である。本施設により、原子レベルの超微細構造、化学反応の超高速動態・変化を瞬時に計測・分析することが可能となり、医薬品や燃料電池の開発、光合成のメカニズムの解明など、幅広い研究分野で革新的な成果が生まれることが期待されている。平成23年6月には世界最短波長のX線レーザーの発生に成功し、平成24年3月に共用を開始した。

大型放射光施設(SPring-8)及びX線自由電子レーザー施設(SACLA)(左の縦長の建屋がSACLA。右の円形状の建屋がSPring-8)

大型放射光施設(SPring-8)及びX線自由電子レーザー施設(SACLA)(左の縦長の建屋がSACLA。右の円形状の建屋がSPring-8)
提供:理化学研究所

○スーパーコンピュータ「京」
 スーパーコンピュータを用いたシミュレーションは、理論、実験と並ぶ、現代の科学・技術の第3の方法として今や不可欠のものとなっている。スーパーコンピュータは、大規模なシミュレーションを高速に行うことができるため、地震・津波の被害軽減や、新しい省エネ半導体材料の開発などに利用することができる。文部科学省では、スーパーコンピュータ「京」について、平成24年6月までにシステム全体を完成するとともに、同年秋の共用開始を目指し、開発・整備している。平成23年度は、11月に性能目標である10ペタフロップスを達成し、同年6月及び11月のスーパーコンピュータ性能ランキングTOP500において世界1位を獲得した。

スーパーコンピュータ「京」

スーパーコンピュータ「京」
提供:理化学研究所

○大強度陽子加速器施設(J-PARC)
 大強度陽子加速器施設(J-PARC)は、世界最高レベルのビーム強度を持つ陽子加速器から生成される中性子、ニュートリノ(※32)等の多彩な二次粒子を利用して、生命科学、物質・材料科学、原子核・素粒子物理学等、幅広い分野における研究開発に貢献している。平成23年3月の東日本大震災により被災し、運転を停止していたが、早期復旧に向けた取組により、平成24年1月に運転を再開するとともに、中性子線施設について共用を開始した。

大強度陽子加速器施設(J-PARC)

大強度陽子加速器施設(J-PARC)
提供:J-PARCセンター


※32 物質を構成する最小単位の素粒子の一つ。電気的に中性で物質を通り抜けるため検出が難しく、質量などその性質は未知の部分が多い。

コラム2-6 X線自由電子レーザー施設SACLAが照らす未来

 「SACLA」は、太陽の100億倍の更に10億倍という極めて明るいX線を発振することができる究極のレーザー施設である。この新しい光を使えば、これまで詳細が不明であった超高速で動き回る原子や分子の様子を、1兆分の1秒以下(光が数mm程度しか進むことのできない時間)のコマ送りで手に取るようにとらえることが可能となり、燃料電池や新薬の開発などに活躍することが期待されている。

 SACLAの装置の構成

SACLAの装置の構成
提供:理化学研究所、公益財団法人高輝度光科学研究センター

 アメリカで既に稼働しているX線自由電子レーザー(XFEL)施設「LCLS」は全長3.7kmであるのに対して、それを超える性能を持った日本の「SACLA」は僅か全長700m。このコンパクトで省エネルギーな「SACLA」は日本の技術者・研究者・企業の世界最先端の技術と知恵を結集して、平成18年から平成22年にかけて建設された。そしてついに平成24年3月に、広く一般の研究者等に対する共用が開始された。

 ニュートンはリンゴが木から落ちるのを見て万有引力を見いだし、ガリレオはピサの斜塔から球を落とすことで重力加速度は質量によらず一定であることを発見したと言われている。何世紀も前の昔、科学者はそんな身の回りの物事を突き詰めて科学を発展させてきた。しかし現代科学は非常に高度で、原子分子レベルで物質を分析・操作しないと新しい知見や画期的な製品が生まれにくいというレベルに達している。

初発振時のX線自由電子レーザー

初発振時のX線自由電子レーザー
提供:理化学研究所

 この中で、SACLAの革新的な光は我々に何をもたらしてくれるのか。
 例えば、私たちの体の中で薬が作用する「膜タンパク質」の構造や動きを簡単に解明できれば、そこにぴったりはまって作用する薬を短期間でデザインして開発することができるようになる。また、植物が行っている光合成のダイナミックな動きを原子レベルで解明して、同じようなことを人工的に起こすことができれば、太陽の光と水と二酸化炭素で燃料を生み出すことも可能になるかもしれない。さらには、原子や電子の状態の詳細な分析による革新的な燃料電池・蓄電池・太陽電池等の開発も期待される。

 SACLAが生み出す光は、我が国の研究者が、ひいては世界の研究者が原子分子レベルで物質の動きや姿形を解き明かし、それを基に有益な物質や素材を原子分子レベルでデザイン・制御するという、究極の科学を可能にする「夢の光」である。

膜タンパク質の構造を原子レベルで解明する

膜タンパク質の構造を原子レベルで解明する
提供:京都大学

第2-3-11表/科学の共通基盤の充実、強化のための主な施策(平成23年度)
府省名 実施機関 施策名
総務省 情報通信研究機構 未来ICT基盤技術の研究開発
文部科学省 本省 革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築
次世代IT基盤構築のための研究開発
先端研究施設共用促進事業
光・量子科学研究拠点形成に向けた基盤技術開発
元素戦略プロジェクト<産学官連携型>
ナノテクノロジー・ネットワーク
ナノテクノロジーを活用した環境技術開発
科学技術振興機構 研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)
理化学研究所
高輝度光科学研究センター
大型放射光施設(SPring-8)の共用
X線自由電子レーザー(XFEL)施設の整備・共用
日本原子力研究機構
高エネルギー
加速器研究機構
大強度陽子加速器施設(J-PARC)の整備・共用
物質・材料研究機構 新物質・新材料の創製に向けたブレークスルーを目指す横断的先端研究開発の推進
社会的ニーズに応える材料の高度化のための研究開発の推進
国土交通省 港湾空港技術研究所 大規模地震・津波から地域社会を守る研究
気候変動が高波・高潮・地形変化に及ぼす影響の評価と対策に関する研究
国際競争力強化のための港湾・空港施設の機能向上に関する研究
港湾・空港施設等の戦略的維持管理に関する研究
海洋空間・海洋エネルギーの有効利用に関する研究

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科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官付(調査・評価担当)

(科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官付(調査・評価担当))

-- 登録:平成24年08月 --