ここからサイトの主なメニューです

第2節 社会と科学技術との新しい関係構築に向けて

1 科学技術リテラシーの涵(かん)養

(1)科学技術リテラシーの重要性

 前節までで見てきたとおり、現代社会では日常生活や社会の隅々に科学技術が浸透しており、人々は、好むと好まざるとに関わらず、科学技術からの恩恵や利便性の向上といった正の影響、あるいは負の影響を受けずにはいられない。特に、科学的判断の不確実性や科学技術がもたらすリスクは、研究者、技術者等の専門家のみならず、非専門家である国民にも一層重大な関心事項になり得る。
 このような社会では、国民一人ひとりが、社会生活や職業生活の様々な場面で科学技術に関わる問題に直面し、否応なしに科学的判断を求められる事態に遭遇する(第1-2-4表)。このため、社会生活・職業生活上の様々な場面で、科学技術に関連した諸問題に適切に対処し得るための基礎的素養の1つとして、老若男女、文系理系を問わず、万人に科学技術リテラシー(※1)が必要とされるのである。
 そして、この科学技術リテラシーの向上が、次項で述べる科学技術コミュニケーションの一層の進展にも不可欠となっているのである。

●第1-2-4表/社会で科学技術リテラシーが必要とされる場面の例

(一般的な社会生活の場面において)

  • 携帯電話やインターネット等の先端情報通信機器の使用(その倫理的問題点も理解した上で)
  • 新型インフルエンザ等の新興感染症が流行したときや高度医療の受診が必要な疾病にかかったときの対応
  • 加工食品等の安全性の判断、多様な新金融商品のリスク判断
  • 災害情報への冷静な対応と災害発生時の適切な避難行動

(科学技術関連職業(※2)以外の職業遂行の場面において)

  • 法曹関係者:例えば、刑事裁判における科学的証拠の証拠能力の判断に当たっては、不確実性を伴う最先端科学に関する基礎的知見や見識が必要
  • 企業経営者:経営判断の一環として自社技術の評価・判断が不可欠
  • 銀行員等の金融関係従事者:例えば、ベンチャー企業等への融資に当たって当該企業の研究開発力の判断が不可欠、金融商品の開発に当たって数理科学等の知見が必要
  • 消防士等:災害時に人命救助や危険物除去等を行うための知識が必要
  • 調理師:化学変化や最新調理器具等に関する知識が必要

資料:文部科学省作成

 この科学技術リテラシーの具体像を提示するために、日本学術会議科学と社会委員会科学力増進分科会のイニシアティブにより科学技術振興調整費の調査研究として、我が国の全ての成人が2030年の時点で身に付けておくことが期待される科学技術の素養を提示する「科学技術の智プロジェクト(※3)」が実施された。本プロジェクトでは、科学技術を、単に研究者・技術者だけが関わるものとしてではなく、その功罪を含めて社会・経済・政治などの関係性の中で考えていくべきものであると認識して、社会を構成する個々人が、持続可能な民主社会を創出するために共に社会の一員という自覚を持って決断し行動するための力となるような科学技術の知恵とは何かを明らかにすることを目標としている。同プロジェクトには、科学技術を巡る我が国の深刻な状況に対して危機感を共有した約150名の研究者や教育学者、報道関係者、産業界等の様々な分野・職種の人々が参加し、既存の学問分野や教科の枠組みを超えた新たな智の枠組みとして、「数理科学」「生命科学」「物質科学」「情報学」「宇宙・地球・環境科学」「人間科学・社会科学」「技術」の7つの領域において、我が国の全ての成人が身に付けるべき科学・数学・技術に関連した知識・技能・物の見方を明らかにし、平成20年3月に報告書を取りまとめた(※4)。ここでは、現実に遭遇する問題の分析や解決に対応していくために、物理・化学・生物・地学という従来の理科分野の枠組みにとどまることなく、数学(数理科学)や情報学、技術といった分野に加え、これら科学技術と社会や人間との関わりをも考察するため、人間科学・社会科学分野も広く対象領域としている。


  1. 経済協力開発機構(OECD)生徒の学習到達度調査(PISA)では、「科学的リテラシー」について、義務教育修了段階の15歳児が持っている知識や技能を、実生活の様々な場面でどれだけ活用できているかをみるものとしており、個々人の次の能力に着目している。
     1.疑問を認識し、新しい知識を獲得し、科学的な事象を説明し、科学が関連する諸問題について証拠に基づいた結論を導き出すための科学的知識とその活用
     2.科学の特徴的な諸側面を人間の知識と探求の一形態として理解すること
     3.科学とテクノロジーが我々の物質的、知的、文化的環境をいかに形作っているかを認識すること
     4.思慮深い一市民として、科学的な考えを持ち、科学が関連する諸問題に自ら進んで関わること
    また、「『科学リテラシー涵(かん)養活動を創る』~世代に応じたプログラム開発のために~」(国立科学博物館、平成22年3月)では、「科学リテラシー」は、人々が自然や科学技術に対する適切な知識や科学的な見方及び態度を持ち、自然界や人間社会の変化に適切に対応し、合理的な判断と行動ができる総合的な資質・能力であるとしている。
    本章の「科学技術リテラシー」については、これらを参考に考察している。
  2. ここでは、国際職業分類コード(ISCO88)の以下の4分類に該当する場合を科学技術関連職業とする。
    (A)物理学、数学及び工学の専門的職業従事者(2100番台) (B)物理学及び工学の準専門的職業従事者(3100番台)
    (C)生命科学及び保健関連の専門的職業従事者(2200番台) (D)生命科学及び保健関連の準専門的職業従事者(3200番台)
  3. 代表研究者:北原和夫・国際基督教大学教養学部教授(当時、現東京理科大学教授)(プロジェクトウェブサイト http://www.science-for-all.jp/)。本プロジェクトが手本とした先行事例には、AAASによる「プロジェクト2061」が1989年に発表した「全てのアメリカ人のための科学」("Science for All Americans")がある。これは、1980年代当時の米国における科学教育の危機的状況に対処すべく、科学教育改革の一環として、全ての米国民が身に付けるべき科学技術リテラシーについてまとめたものである。
  4. 日本科学技術振興財団においては、平成22年10月以降、やや難解な内容が盛り込まれている各領域の報告書について、誰もが読みやすく理解しやすい内容へと改善し、学校教育、社会教育を通して国民に浸透していくことを目指すための調査研究に着手している。

(2)我が国における科学技術リテラシーの現状

 では、我が国における科学技術リテラシーの現状はどうなっているのであろうか。成人と子どもに区分して、科学技術への興味・関心の側面及び認知・理解の側面のそれぞれについて意識調査結果等から分析する。
 まず、内閣府が実施している「科学技術と社会に関する世論調査」結果を見ると、「科学技術についてのニュースや話題に関心があるか」との質問への肯定的回答は、平成16年調査における52.7%から平成22年調査では63.0%へと上昇している。しかし、「関心がある」との回答割合を見ると、平成16年調査の21.9%から平成22年調査では24.7%に上昇しているものの、まだ4分の1にも満たない状況である(第1-2-5図)。

●第1-2-5図/科学技術への社会一般(成人)の関心

問:あなたは、科学技術についてのニュースや話題に関心がありますか。

●第1-2-5図/科学技術への社会一般(成人)の関心

注:平成22年1月調査では、「どちらともいえない」の選択肢はない。
資料:内閣府「科学技術と社会に関する世論調査」(平成22年1月調査)

 成人の科学技術に関する認知度について日米英で比較すると、科学的な発見等に関する日本の認知度は、米国及び英国より著しく低い結果となっている(第1-2-6図)。また、科学技術の基礎的概念に関する10の質問への平均正答率を日米英で比較すると、我が国の男性は英国と比べて低く、女性は米国及び英国と比べて低い結果となっている。さらに、質問項目によっては日本の正答率が高いものもあるが、「電子と原子の大小」、「人類と恐竜の同時代性」、「抗菌剤のウイルス増殖抑制」、「レーザーと音波との関係」に関しての日本の正答率は、米国及び英国と比べてかなり低くなっている(第1-2-7図)。
 このように、我が国の成人の科学技術に関する認知度及び理解度は、米国及び英国と比べて低い状況にあると言える。

●第1-2-6図/社会的な課題や科学的な発見等に関する認知度

問:以下のそれぞれの問題の最近の動向について、あなたがどの程度知っているかを聞かせてください。

●第1-2-6図/社会的な課題や科学的な発見等に関する認知度

注:
1.本調査は、インターネット調査会社の登録モニターを対象に、日・米・英の3か国において、平成21年(2009年)2月下旬から3月上旬にかけてインターネットを利用して実施している。
2.調査対象者は、20代から60代までの回答者がそれぞれの国のCensus(国勢調査)の男女別・年代別の人口割合に近づくように登録モニターから無作為抽出されている。その他の属性(職業、学歴等)については、調査会社に登録されたモニターの属性に依(よ)っている。
資料:科学技術政策研究所「日・米・英における国民の科学技術に関する意識の比較分析 ―インターネットを利用した比較調査―」(平成23年3月)

●第1-2-7図/科学技術の基礎的概念に関する理解度(2009年比較調査の正答率)

問:以下のそれぞれについて、「正しい」か、「誤っている」かをお答えください。もし、あなたが知らない時や、自信がない時は、「わからない」とお答えください。

●第1-2-7図/科学技術の基礎的概念に関する理解度(2009年比較調査の正答率)

注:
1.第1-2-6図の注1. 及び2. に同じ。
2.各質問項目に対する正答(以下、正しい場合は「正」、誤っている場合は「誤」と記載)は、1-正、2-正、3-正、4-誤、5-正、6-正、7-正、8-誤、9-誤、10-誤、である。
 なお、正答率は、「正答」の選択肢を選んだ人数を全回答者数(「わからない」を選んだ者を含む)で除して算出している。
3.日米英3か国ともに、回答者に占める大学・大学院卒業者の割合が国全体を対象とした統計調査の結果に比べ高くなっていた(特に、日本の回答者において開きが大きい)。そこで、各国ともに、学歴の割合がそれぞれの国の統計調査の結果に合致するように補正を行った結果(全体及び男女別の正答率)も、「学歴補正後」の値として併せて示している。
資料:科学技術政策研究所「日・米・英における国民の科学技術に関する意識の比較分析 ―インターネットを利用した比較調査―」(平成23年3月)

 次に、初等中等教育段階に関する国際学力調査[経済協力開発機構(OECD)生徒の学習到達度調査(PISA(※1))及び国際数学・理科教育動向調査(TIMSS(※2))]の結果を参考に、子どもの科学技術に関する基礎的素養の状況を考察する。
 PISA2009における我が国の高校1年生(15歳児)の科学的リテラシーの平均得点は539点であり、PISA2006の平均得点531点と統計的な有意差はない。習熟度レベル別の生徒の割合を見ると、PISA2009では、PISA2006に比べて、レベル1及び2の生徒の割合が減少し、レベル4及び5の生徒の割合が増加している(第1-2-8図)。科学的リテラシーの平均得点は、国際的に見て上位グループに位置する一方で、レベル1以下の割合が韓国等の他のトップレベルの国々と比べて多くなっているなど、習熟度の低い生徒の割合が小さくない(第1-2-9図)。数学的リテラシー(※3)については、平均得点が、PISA2003の534点からPISA2006では523点に低下した。PISA2009でもPISA2006と統計的に有意差のない529点であり、知識・技能を実際の場面で活用する力に課題が見られる。


  1. Programme for International Student Assessment
  2. Trends in International Mathematics and Science Study
  3. PISAにおける「数学的リテラシー」とは、数学が世界で果たす役割を見つけ、理解し、現在及び将来の個人の生活、職業生活、友人や家族や親族との社会生活、建設的で関心を持った思慮深い市民としての生活において確実な数学的根拠に基づき判断を行い、数学に携わる能力である。
●第1-2-8図/我が国における習熟度レベル別の科学的リテラシーの状況

●第1-2-8図/我が国における習熟度レベル別の科学的リテラシーの状況

注:PISAでは、科学的リテラシーの得点によって生徒を7つの習熟度レベルに分けている。
資料:「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2009年調査国際結果報告書」を基に文部科学省作成

●第1-2-9図/科学的リテラシーの習熟度レベルの分布(PISA2009)

●第1-2-9図/科学的リテラシーの習熟度レベルの分布(PISA2009)

資料:国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査 ~PISA2009年調査分析資料集~」

 一方、我が国の子どもの科学技術に関する興味・関心について見ると、前述のPISA2006において、諸外国と比べて我が国では、科学への興味・関心や科学の楽しさを感じている生徒の割合が極端に低い結果となっている。「科学を学ぶことの楽しさ」に関する肯定的回答の割合は、OECD平均が57%であるのに対して、我が国は45%と低水準である。もっとも、国立教育政策研究所がPISA2006と同様の質問を我が国の中学3年生に実施したところ、PISAの対象である高校1年生(15歳児)とは異なり、中学3年生の肯定的回答割合は58%とOECD平均並みである(第1-2-10図)。
 また、PISA2006では、諸外国と比べて我が国は、理科を学ぶ意義や重要性を感じていない生徒の割合が極めて高く、「私は自分の役に立つとわかっているので、理科を勉強している」との質問への肯定的回答割合を見ても、OECD平均が67%であるのに対して、25ポイントも低い42%にとどまっている。TIMSS2007でもPISA2006と同様の結果が得られており、中学校2年生では、「理科を勉強すると日常生活に役立つ」と「強くそう思う」又は「そう思う」と回答した我が国生徒の割合は53%で、国際平均値84%を大きく下回っている。

●第1-2-10図/科学を学ぶことへの楽しさを感じているか(PISA2006及び日本の中3調査結果より)
国名 次のことについて「そうだと思う」または「全くそうだと思う」と回答した生徒の割合(%)
問12 科学を学ぶことの楽しさ
  (1)科学の話題について学んでいる時は、たいてい楽しい
  (2)科学についての本を読むのが好きだ
  (3)科学についての問題を解いている時は楽しい
  (4)科学についての知識を得ることは楽しい
  (5)科学について学ぶことに興味がある
平均 (1) (2) (3) (4) (5)
メキシコ 83 94 82 60 92 85
トルコ 73 79 75 53 78 78
ポルトガル 73 73 66 52 87 84
ハンガリー 65 75 61 46 71 72
イタリア 65 61 59 57 73 73
カナダ 64 73 54 49 73 72
フィンランド 64 68 60 51 74 68
フランス 63 73 48 43 75 77
ギリシャ 60 62 59 40 71 69
ニュージーランド 59 62 43 55 71 65
ベルギー 58 61 45 53 64 68
ノルウェー 58 64 48 47 69 62
日本(全国標本中3) 58 69 43 44 71 62
OECD平均 57 63 50 43 67 63
米国 57 62 47 41 67 65
スロバキア 56 70 51 34 71 57
英国 56 55 38 53 69 67
アイスランド 56 60 53 45 66 56
オーストラリア 56 58 43 49 67 61
チェコ 55 59 47 36 70 62
ルクセンブルグ 54 67 48 42 59 55
スイス 54 67 45 42 60 55
デンマーク 53 63 48 37 55 63
アイルランド 53 48 45 39 68 64
スペイン 53 59 45 27 63 69
スウェーデン 53 62 49 34 61 57
ドイツ 51 63 42 38 52 60
韓国 49 56 45 27 70 47
オーストリア 47 58 42 39 51 44
ポーランド 46 44 47 37 60 44
日本 45 51 36 29 58 50
オランダ 44 46 41 33 56 46

注:PISA2006に参加した国・地域のうち、OECD加盟国のみを抽出
資料:国立教育政策研究所「PISA調査のアンケート項目による中3調査集計結果」を基に文部科学省作成

 以上概観してきたとおり、我が国の科学技術リテラシーの現状は、成人に関しては、科学技術への興味・関心が必ずしも高くはなく、また、米英に比べて科学技術への認知・理解が十分ではないとの課題が見られ、子どもに関しては、科学への興味・関心を持つ生徒の割合が低いこと等の課題が見られる。
 今後、少子化や人口減少がますます深刻化する中、我が国が、将来にわたり持続可能な社会を創出していくためには、国民一人ひとりが、科学技術に関わる問題について自ら合理的に判断し、自己決定し得る能力・資質を備えるとともに、次代を担う才能豊かな子どもたちを継続的に育成していく必要がある。この観点からも、子どもから大人まで年齢層に応じて科学技術リテラシーの涵(かん)養を図る必要がある。

(3)理科教育の充実

 学校教育における理科教育は、観察・実験の結果を整理し、考察する学習活動、科学的な概念を使用して考えたり説明したりする学習活動、探究的な学習活動など、理科の学習を通じて、児童生徒の思考力、表現力を育成し、ひいては必要とされる科学技術リテラシーも涵(かん)養するという重要な意義を有しており、その充実を図ることが重要である。
 このような中、新学習指導要領において、PISA等の結果を踏まえ、「科学的な知識や概念を活用」するという視点や実社会や実生活との関連付けがより明確に示され、指導内容の充実を図っている。特に、科学技術と社会との関係という観点からは、中学校第3学年で、エネルギー資源の利用や科学技術の発展と人間生活との関わりについて認識を深め、自然環境の保全と科学技術の利用の在り方について科学的に考察し判断する態度を養うとする「科学技術と人間」の指導内容の一部が、選択から必修となった(第1-2-11表)。授業時間についても、観察・実験やレポート作成、自然体験などに必要な時間を十分確保するため、小学校・中学校における理科の授業時間数を、小学校理科(第3学年から第6学年までの4年間)で350時間から405時間(16%増)に、中学校理科(3年間)で290時間から385時間(33%増)に増加させた。

●第1-2-11表/新学習指導要領における指導内容の充実例

小学校理科
 第3学年:物と重さ、身近な自然の観察
 第4学年:骨と筋肉の動き
 第5学年:雲と天気の変化の関係
 第6学年:てこの利用、電気の利用、人の主な臓器の存在、月の位置や形と太陽の位置、月の表面の様子

中学校理科
 第1学年:力とばねの伸び、質量と重さの違い
 第2学年:電力量、熱量、周期表、生物の変遷と進化、日本の天気の特徴
 第3学年:イオン、遺伝の規則性、DNA、地球温暖化、外来種、科学技術と人間

資料:文部科学省作成

 また、教育内容だけでなく、それに対応できる教育環境の整備・充実にも課題がある。小学校及び中学校の教員を対象に行われた意識調査の結果を見ると、理科の指導に苦手意識を持っている教員の割合が小学校では約5割に上るほか、中学校でも特定の領域に苦手意識を持っている教員が少なくないという結果が示された(第1-2-12表)。加えて、準備や片付けの時間や授業時間の不足、設備備品や消耗品の不足等が観察、実験を行うに当たっての課題であることが示されており(第1-2-13図)、教員の資質向上や、現場において理科の教育環境の充実が必要とされている。

●第1-2-12表/理科に対する小・中学校の教員の意識

○小学校教員:

  • 理科全般の内容の指導を苦手又はやや苦手と感じている 50%

○中学校教員:

  • 物理の内容の指導を苦手又はやや苦手と感じている 31%
  • 化学の内容の指導を苦手又はやや苦手と感じている 13%
  • 生物の内容の指導を苦手又はやや苦手と感じている 28%
  • 地学の内容の指導を苦手又はやや苦手と感じている 44%

資料:科学技術振興機構・国立教育政策研究所「平成20年度小学校理科教育実態調査及び中学校理科教師実態調査に関する報告書」を基に文部科学省作成

●第1-2-13図/小・中学校における理科の観察・実験を行う際の障害

●第1-2-13図/小・中学校における理科の観察・実験を行う際の障害

資料:科学技術振興機構・国立教育政策研究所「平成20年度小学校理科教育実態調査及び中学校理科教師実態調査に関する報告書」を基に文部科学省作成

 これらの課題に対応するため、教員の資質向上の観点からは、科学技術振興機構において、地域で理数教育の中核的な役割を果たす教員を養成する「理数系教員養成拠点構築事業」が平成21年度より開始され、その事業を通じて養成された教員が地域における理科教育で指導的な役割を果たし始めている(第1-2-14図)。

●第1-2-14図/理数系教員養成拠点構築事業における取組事例(お茶の水女子大学)

○お茶の水女子大学サイエンス&エデュケーションセンターでは、平成21年度から東京都教育委員会と連携する形で事業を開始した。

○研修コース(おおむね1年)では、理科の指導力、自由研究指導力、教材開発力に加え、教員研修を実践する力やコミュニケーションスキルなどについて学習する。コース修了者は最終試験に合格すると、コア・サイエンス・ティーチャー(CST)に認定される。

○平成21年度には東京都内の教員や大学院生など32名をCSTに認定した。現職小学校教員のCST(28名)は、東京都内の各市区で理科教員研修会を実施し、平成22年11月までに延べ1,460人の小学校教員が研修を受講している。

(理数系教員養成拠点構築事業の流れのイメージ)

●第1-2-14図/理数系教員養成拠点構築事業における取組事例(お茶の水女子大学)

資料:お茶の水女子大学資料及び科学技術振興機構資料を基に文部科学省作成

さらに、以下のような取組を進めることで、理科教育に係る教育環境の充実を図っている。

  • 理科教育等設備整備費補助(文部科学省)
    理科教育振興法に基づき、観察実験等に必要な機器・器具等の整備を補助(1/2補助)
  • 理科教材開発・活用支援事業(科学技術振興機構)
    理科学習用デジタル教材を開発し、インターネット等により学校現場等に提供

(4)科学技術リテラシーの向上に向けた社会との連携

 科学技術リテラシー涵(かん)養のためには、さきに見た学校教育が重要な役割を果たしており、その充実が重要であるが、それに加えて、社会との連携が望まれる。現に、科学技術振興機構及び国立教育政策研究所の実施した「小学校理科教育実態調査及び中学校理科教師実態調査」(平成20年度)では、小・中学校の児童生徒の理科の能力を更に伸ばすためには、外部の専門家との連携が必要であるとの回答が多い一方で、外部の専門家が児童生徒に教える機会を一度も設けていない小・中学校が多い(第1-2-15図)。
 そこで、小・中・高等学校、大学、大学院はもちろんのこと、科学館・博物館、関連学会、NPO法人、企業等の多様な主体がそれぞれ連携して、幼児期から初等中等教育段階、高等教育段階を経て壮年期・高齢期という人生の各段階に応じた科学技術リテラシー涵(かん)養のための対策を講じることが必要である。これらの対策により、相乗効果が発揮され、科学技術に関する国民全体のリテラシー向上が図られると言える(第1-2-16図)。

●第1-2-15図/児童生徒の能力を伸ばすための外部の専門家との連携の必要性と実態

問:理科の理解が進んでいる児童生徒を更に伸ばすには、外部の専門家との連携が必要だと思いますか。

●第1-2-15図/児童生徒の能力を伸ばすための外部の専門家との連携の必要性と実態:問:理科の理解が進んでいる児童生徒を更に伸ばすには、外部の専門家との連携が必要だと思いますか。

問:あなたの学校では、外部の理科の専門家(科学や科学技術の仕事や研究をしている人)が、児童生徒に科学や科学技術について教える機会を年に何回程度設けていますか。(全員参加・希望参加は問わない)

●第1-2-15図/児童生徒の能力を伸ばすための外部の専門家との連携の必要性と実態:問:あなたの学校では、外部の理科の専門家(科学や科学技術の仕事や研究をしている人)が、児童生徒に科学や科学技術について教える機会を年に何回程度設けていますか。(全員参加・希望参加は問わない)

資料:科学技術振興機構・国立教育政策研究所「平成20年度小学校理科教育実態調査及び中学校理科教師実態調査に関する報告書」を基に文部科学省作成

●第1-2-16図/科学技術リテラシー涵(かん)養に向けた社会的連携のイメージ図

●第1-2-16図/科学技術リテラシー涵(かん)養に向けた社会的連携のイメージ図

資料:国立科学博物館「『科学リテラシー涵(かん)養活動を創る』~世代に応じたプログラム開発のために~」を基に文部科学省作成

 以下では、科学技術リテラシー涵(かん)養に向けて、全国各地の多様な主体が連携している事例を幾つか紹介する。

1.科学館・博物館による学習プログラムの実施

a)世代を横断する学習プログラムの開発(国立科学博物館)

 科学館・博物館では、実物等を用いた体験活動を通じて自然や科学に親しむ機会を提供することや、科学技術と実社会とをつないでいくことで、科学技術に関する興味・関心やその有用感を国民へ伝えることができる。国立科学博物館では、このような利点を活(い)かしつつ、学校、企業、学会等の多様な主体と連携して、世代に応じて様々な場面で科学技術リテラシーを身に付けることができるよう、科学技術リテラシー涵(かん)養活動の体系化とこれに即した新たな学習プログラムの開発を試みている(第1-2-17図)。ここでは、学校教育段階のみならず、青年・壮年期から高齢期まで含めた幅広い世代を対象として、様々な展示、公開講座、イベント等を実施している。また、各世代の多様な学習ニーズを踏まえ、理科の新学習指導要領をも考慮した上で、「実生活に関わる課題」の例として「水」「食」「エネルギー」というテーマを設定し、幅広い世代間を連続してつなぐキーとなる学習プログラム等の開発を行っている。

●第1-2-17図/科学館・博物館における「科学技術リテラシー涵(かん)養活動」の体系図

●第1-2-17図/科学館・博物館における「科学技術リテラシー涵(かん)養活動」の体系図

資料:国立科学博物館「『科学リテラシー涵(かん)養活動を創る』~世代に応じたプログラム開発のために~」

b)科学館と小・中学校の理科学習との融合(出雲科学館)

 島根県出雲市の出雲科学館は、年間計画に基づく体系的な理科学習(学校教育)と生涯学習の機能を併せ持つ全国でも珍しい施設として平成14年7月20日に開館した。
 同館では、出雲市内の小学3年生から中学3年生を対象とした理科学習を実施しており、児童生徒は、年2回程度、科学館での理科授業に参加し、延べ17,500人が来場している。
 科学館の豊富な実験器具、高度な機材、充実した指導スタッフにより、学校ではできない独創的な体験・実験学習を行い、基礎基本から高次にわたる児童・生徒の独創性豊かな学習能力・学習意欲の向上を目指している。1回当たりの授業時間は3単位時間(45分×3単位)で、1時間目はサイエンスホールで、大型映像システムや大型観察実験装置を使ったダイナミックな参加型実験を行い、普段見ることや接することのできない自然の事物・現象に触れ、知的好奇心を高めている。2・3時間目は実習・実験室で、豊富な実験材料や器具を使って、一人ひとりが見通しを持って観察、実験などを行い、問題解決の能力を養っている。
 また、土日祝日を中心に子どもから一般を対象に、出雲少年少女発明クラブの活動、子ども会やPTAの活動としての「地域親子教室」など、科学・ものづくりに関する様々な生涯学習を展開している。

2.大学等による地域の児童生徒への理科実験支援等の取組事例

a)小・中学校への「デリバリー実験教室」(お茶の水女子大学と東京都北区との連携)

 お茶の水女子大学では、東京都北区教育委員会と連携して、小・中学校における理科離れ対策として、平成18年度より「デリバリー実験教室」を行っている。これは、一般的な出前授業とは異なり、大学側が自ら実施学校に出向いて理科実験等を行うのではなく、あらかじめ実施学校で発展的な授業内容等を担任教員に対して研修し、授業本番では担任教員が授業を主導して大学教員がその補佐をするという取組である。事前に担任教員と大学教員が協力して、教科書単元に沿った実験内容を選定し、電子顕微鏡などを用いた生徒の興味を惹(ひ)く実験授業を企画・準備し、授業本番では、大学教員は担任教員の授業や実験を補佐する黒子に徹している。この手法は、児童生徒の理科や実験授業への興味を高めることに加えて、担任教員の授業力向上のための良い研修機会にもなっている。このため、年々実施規模が拡充されてきており、平成22年度には、東京都北区内の50の小・中学校のうち約半分に当たる24校でデリバリー実験教室を実施した。
 このほか、お茶の水女子大学では、東京都北区生活環境部と連携して、主に区民を対象とした環境学習カリキュラムの作成と実施を担っている。この一環として、企業からの委託により大学がカリキュラムの開発と講師研修を行い、大学と北区の覚書に基づき、当該環境学習カリキュラムを北区が認定し、企業が北区で講座を開設する企業等連携講座も実施されている。これは、正に「大学の智」を企業及び社会に提供するものであり、ものづくりとは異なる新しいタイプの産学官連携の取組として注目に値すると言える。

b)小・中学校へのティーチング・アシスタントの派遣等(東京理科大学と千葉県野田市との連携)

 千葉県野田市では、平成17年4月に東京理科大学とパートナーシップ協定を締結し、児童生徒及び教員を対象として、理科や算数・数学を中心とした様々な「連携事業」を展開してきた。この連携事業は大きく分けて「学生、院生派遣事業」、「児童生徒体験学習事業」、「教育研修事業」、「研究・開発事業」の4種類に区分される。このうち「学生、院生派遣事業」では、大学生・大学院生がティーチング・アシスタントとして小・中学校の算数・数学や理科の授業を補助することなどを行っている。「児童生徒体験学習事業」では、小・中学校で行う「わくわく理科授業(特別授業)」や「子どものためのICT(※1)講座」、大学を会場に夏休みに行う「親子科学教室(宿泊)」、キャリア教育の一環として行っている中学生の「職場体験学習」や小学生の「研究室訪問」などが行われている。「教育研修事業」では、「教員研修講座」や一般市民も対象とした「公開講座」のほか、指導主事や現職教員による大学の教職課程の授業への協力、教職志望学生を対象とした「教師助手体験」などを行っている。「研究・開発事業」では、算数・数学や理科のカリキュラム開発や大学の専門性を活(い)かした教材開発等を行っている。
 これらの多種多様な連携事業を通して、児童生徒においては、理科や算数・数学に対する興味・関心の高まりや学習意欲の向上、将来の進路や職業を考えるきっかけの提供といった効果が現れており、また、小・中学校の教員においては、算数・数学や理科に関する教材研究の深まり、学校外の教育資源を活用して授業や学校での教育活動を豊かにしていこうとする協働志向性の高まりといった効果が見られる。
 このほか、野田市では、様々な地域の人材や大学、企業、自然環境等の教育資源を学校教育に結び付ける「地域教育コーディネーター」の育成など、種々の取組を行っている。

わくわく理科授業:液体窒素を使った超伝導実験
写真提供:野田市教育委員会


  1. Information and Communication Technology(情報通信技術)
c)学生チューターによる高校生への分子生物学実験の実施(大阪大学大学院理学研究科)

 大阪大学大学院理学研究科では、高校生を対象として、遺伝子組換えなどの分子生物学実験やこれらの実験に関する小問を通して、生徒たちに思考の楽しみを経験させ、科学への意欲を育むことを目的として、「科学や思考をエンジョイし、若者に感動と生きる力を与える科学的キャリア教育『ジャイアントインパクト』」を実施している(文部科学省「サイエンス・パートナーシップ・プロジェクト」実施課題)。
 平成22年度は、1回3日間のコースを2回実施し、66人の高校生が参加した。本実習は、理学部などの大学生と大学院生をチューターとして配置し、リアルタイムに参加生徒の理解度をフォローし、その科学的思考方法の習得を助けるに十分な態勢をとり、参加生徒たちに、市販の実験キット等を一切使わず、全ての実験手順や操作を体験させ、その意義を自ら考えさせることによって、「分かるということ」がどういうことなのかを学ばせることを狙いとしている。参加生徒たちは、

  • 生物学の楽しさを感じることができたし、自分で考えることがいかに大切なことか分かった
  • 分かったときの喜びは他では味わえないものだし、思考することが楽しいと思ったのは初めて、すごく嬉しくて不覚ながらまた泣いてしまいました

等の感想を寄せるなど、最前線の科学を実体験しつつ、学ぶこと・思考することの楽しさを実感している。

分子生物学実習の風景

分子生物学実習の風景
写真提供:大阪大学大学院理学研究科

3.企業等による理科教育支援活動

 次代を担う子どもたちの科学技術への興味・関心や豊かな創造性、理数教科の素養を涵(かん)養することは、若手人材が活力の源泉である企業にとっても重要な関心事である。このため、経済産業省では、児童生徒の理科への関心を高め、授業の効果を向上させることを目的として、平成20年度より、「社会人講師活用型教育支援プロジェクト」及び「早期工学人材育成事業」を実施し、全国各地で企業やNPO法人が、産業界と教育現場を結び付けるコーディネーターとして多様な事業を展開している。その中で、企業等が学校と連携して理科授業を実施する際に重要となる授業案について、その手順やポイントなどをまとめたガイドブック「企業のための理科授業案作成ガイドブック」を作成し、配布している。
 また、社団法人日本経済団体連合会(日本経団連)が毎年実施している「社会貢献活動実績調査」によれば、近年、教育現場への教師派遣や実験教材の作成・開発等の活動を行う「教育・社会教育」や、奨学金の整備や研究助成等の活動を行う「学術・研究」への支出割合が高くなっている(※1)。
 さらに、産業競争力懇談会(COCN(※2))の「成長を支える人材の育成に関する研究会活動報告書」(平成22年11月)によると、COCN会員企業28社中27社が理科教育支援活動を実施しており、実施プログラム数は115件、平成21年度には20万人強の児童生徒に出前授業等を行っているなど、近年、産業界の理科教育支援活動は広がりを見せている。同報告書によれば、企業は従来、「地域社会への貢献・共生」及び「社会貢献」の一環としてこれらの取組を実施してきたが、最近では、少子化や大学進学時における理工系離れが深刻化する中、将来の人材確保に懸念が生じていることから、子どものころから理科への関心を高めておく必要があるとの認識の下、「将来の人材育成」や「理科離れ対応」等として当該活動を実施する企業も増えてきているようである(第1-2-18図)。


  1. 平成21年度は、日本経団連会員企業及び1%クラブ法人会員対象に社会貢献活動実績調査を実施し、367社が回答(うち連結で回答した企業が45社あり、これには約3900社の連結対象会社が含まれている)。21年度の活動分野別の支出割合を見ると、高い順から「教育・社会教育」18.8%、「学術・研究」14.8%、「健康・医学・スポーツ」12.7%、「環境」12.4%となっている。
  2. 産業競争力懇談会(COCN: Council on Competitiveness-Nippon)は、我が国の産業競争力の強化に深い関心を持つ産業界の有志により平成18年に発足した。
●第1-2-18図/COCN会員企業の理科教育支援活動の目標・考え方

●第1-2-18図/COCN会員企業の理科教育支援活動の目標・考え方

資料:産業競争力懇談会「理科教育・科学教育等に対する支援活動に関する調査」(平成21年10~11月実施)を基に文部科学省作成

【コラム7】 退職技術者の活躍も ―企業、公益法人等による多彩な理科教育支援活動

 平成21年5月に創設された日立理科クラブは、日立市教育委員会と連携し、株式会社日立製作所を退職した技術者たちが中心となって、小・中学校の理科授業支援、小学校への「理科室のおじさん」の派遣、やる気のある中学生を対象としたハイレベルの「理数アカデミー」、ものづくりや科学の楽しさを体験させる「モノづくり工房」、「ふしぎ不思議ランド」など、子供たちに「科学する喜び」「モノを創る感動」を体験させるための様々な活動を行っている。同クラブの取組における最大の特徴は、多数の退職技術者等を集結し、教育委員会、学校等の教育現場との密接な連携の下、学習指導要領に基づいた担任教師らの授業を支援している点にある。
 また、社団法人発明協会では、青少年の自由闊達(かったつ)な想像力を尊重し、科学技術に対する夢と情熱を育み、想像力豊かな人間形成を図ることを目的として、昭和49年から「少年少女発明クラブ事業」を行っている 。なかでも、刈谷少年発明クラブ では、企業を退職した技術者や退職教員等を中心とする指導者が、学校外理科教育支援活動として、子どもたちの創造性を育むために様々な工夫を施した題材での工作や、アイディアを生み出し作品を完成させるための基本となる基礎知識及び技能の習得など、単なる興味本位、娯楽本位ではなく科学的なものの見方・考え方を育成するための活動を行っている。また、効果的な指導を行うべく、毎週土曜日に指導員による指導内容に関するミーティングを行い、反省点を踏まえて常に指導法の改善に取り組んでいる。特に、平成16年からは、オデッセイオブザマインド世界大会(子どもたちの創造的な問題解決能力と技能を競い合う世界大会)に参加しており、平成22年には米国に次ぐ第2位の成績を収めた。
 さらに、NPO法人ガリレオ工房では、「科学の楽しさを社会の全ての人々に伝える」ことを目的に、身近な材料でできる実験の開発とその紹介、理科実験教室・実験ショーの実施、テレビでの実験監修等を行い、好評を博しているほか、科学ボランティアを支援するための活動にも取り組んでいる。
 これらの活動以外にも、各新聞社では、以下の例のように、子どもたちの豊かな発想や創造性を評価・表彰する各種コンクールを実施している。

平成22年オデッセイオブザマインド世界大会参加者による記念撮影

平成22年オデッセイオブザマインド世界大会参加者による記念撮影
写真提供:刈谷少年発明クラブ

  • 毎日新聞社の自然科学観察コンクール
     全国の小中学生を対象とした、動、植物の生態・生長記録、鉱物、地質、天文、気象の観察などの理科自由研究を応募するコンクール(昭和35年~)
  • 読売新聞社の日本学生科学賞 ※
     全国の中高校生を対象とした科学自由研究コンテスト。戦後日本の復興期に科学教育の振興を願い、未来の優秀な科学者を生み出すため「国際地球観測年」の昭和32年に創設
  • 朝日新聞社のジャパン・サイエンス&エンジニアリング・チャレンジ(JSEC) ※
     科学技術の将来を担う高校生の育成を目的とした科学技術自由研究コンテスト(平成15年~)
    ※ これらで優秀な成績を収めると、毎年、米国で行われている国際学生科学技術フェア(ISEF)へ派遣される

  1. 平成21年度末現在、全国47都道府県に205のクラブが設置され、8,500人強のクラブ員が創作活動を楽しんでいる。
  2. 昭和49年に千葉市少年少女発明クラブとともに日本で最初に設立され、現在、クラブ会員数約740名と全国最大規模の発明クラブである。刈谷市の小学生全体の約7%、中学生全体の約2%がクラブ会員となっている。

 これらの地域や社会との関わりをもった諸活動を通じて、理数好きの裾野を拡大するとともに、学校で習得した知識・技能を社会での諸問題解決に向けて活用できる程度にまで定着させることが重要である。その上で、我々の実生活に深く根ざしている科学技術について、1人でも多くの人々が科学技術との付き合い方に関心を向け、科学技術のもたらすリスクも含め、社会全体として科学技術をうまく活用し、より良い社会を構築していく必要があると考えられる。
 そのためには、様々な立場の人たちが科学技術を話題にコミュニケーションし合うことで科学技術を身近な文化として定着させ、社会全体の意識を高めていくことも必要である。そこで、次項では、このような問題意識から登場した「科学技術コミュニケーション」について、我が国における活動の現状と今後の展望について述べる。

2 科学技術コミュニケーション活動の現状と今後の展望

(1)我が国における科学技術コミュニケーション活動の現状

 これまで我が国の成人一般は、必ずしも科学技術への興味・関心が高くはないとの事実を示してきたが、一方で、平成22年は、多くの国民が「はやぶさ」の帰還に多大な関心を寄せ、科学技術(はやぶさ)に関するニュースが新聞等の社会面を賑(にぎ)わすなどの社会現象(いわゆる「はやぶさ現象」)がわき起こったのもまた事実である。
 国民は、このような知的好奇心を掻(か)き立てられる科学的話題に対しては関心を示すとともに、地球環境問題や医療技術、食糧問題等について、科学者や技術者の話を聞いてみたいと思う者の割合も最近高まってきている(第1-2-19図)。
 しかし、「科学技術と社会に関する世論調査」(内閣府)を見ると、実際にはそのような機会や場が少ないと感じられている(第1-2-20図)。また、同調査では、「科学者や技術者は身近な存在であり、親しみを感じる」と思う者の割合も約23%と少ない状況が示されている。
 このため、社会・国民と研究者・技術者等をつなぐ場の形成や科学技術コミュニケーション活動の活性化が求められている。

●第1-2-19図/科学者や技術者の話への関心

問:あなたは、機会があれば、科学者や技術者の話を聞いてみたいと思いますか。

●第1-2-19図/科学者や技術者の話への関心

注:平成22年1月調査では、「どちらともいえない」の選択肢はない。
資料:内閣府「科学技術と社会に関する世論調査」(平成22年1月調査)

●第1-2-20図/科学技術への関心と理解を深める機会や場

問:あなたは、このような科学技術への関心と理解を深める機会や場は十分にあると思いますか。

●第1-2-20図/科学技術への関心と理解を深める機会や場

注:
1.平成22年1月調査では、「科学技術については、科学館や博物館などの体験の場や研究所の一般公開、講演会、サイエンスカフェなどを通じて、科学者や技術者が分かりやすく説明したり、テレビやインターネット、新聞や雑誌などで一般向けの番組や記事が提供されたりしています。あなたは、このような科学技術への関心と理解を深める機会や場は十分にあると思いますか。」と聞いている。
2.平成22年1月調査では、「どちらともいえない」の選択肢はない。
資料:内閣府「科学技術と社会に関する世論調査」(平成22年1月調査)

1.科学技術と社会のつながりを考える広場

 平成18年より、人々が科学技術を身近に感じて社会とのつながりを考える場として、あらゆる立場の人々が一堂に会し、多様な企画に参加して交流するイベントを目指して、「サイエンスアゴラ」(アゴラとは「広場」という意味)が始まった。1日当たりの延べ参加者数、出展団体数は第1回開催から年々増加し(第1-2-21図)、平成22年に開催された「サイエンスアゴラ2010」では、出展団体数146、参加者数約5,800名を数えた。また、同大会では、「未来へつなぐ科学のひろば」をテーマとして、「対決!サイエンス大喜利」、「中高生アゴラジャック!~科学を楽しもう~」、「サイエンス・ダイアログ 世界の研究者が語る科学の世界」、「科学の料理の仕方」、「大型研究予算のあり方 ~市民・科学者の関与を考える」、「科学技術行政と市民とのつきあい方」など、科学の楽しさや国の政策等を広く題材とした多種多様な企画・展示が行われた。各企画の形式も、シンポジウム、ワークショップ、サイエンスショー、サイエンスカフェ、ブース、実験・工作と幅広く、参加者の多様性も、小・中・高等学校生や大学生・大学院生、小学校から大学までの教員、研究者・技術者、行政官、政治家、家族連れなどに広がっている。加えて、平成22年の参加者アンケートによれば、初めての来場者が85%を占めており、「サイエンスアゴラ」の広がりが見てとれる。一方、自然や科学技術への興味・関心の程度が「高い」又は「まあまあ高い」層が82%を占めており、低関心層も含めた参加者層の拡大が今後の課題であろう。

●第1-2-21図/「サイエンスアゴラ」への1日当たり延べ参加者数及び出展団体数の推移

●第1-2-21図/「サイエンスアゴラ」への1日当たり延べ参加者数及び出展団体数の推移

資料:科学技術振興機構提供データを基に文部科学省作成

2.青少年のための科学の祭典、科学フェスティバル

 毎年全国各地で開催されている「青少年のための科学の祭典」は、多彩な実験や工作を効果的に展示し、科学の魅力を体験できる機会を提供することを目指した体験型イベントである。平成4年度に東京、大阪、名古屋の3か所で初めて開催されて以降、東京における全国大会を中核として各地に浸透し、平成21年度は全国100か所以上で36.4万人を動員したが、最近では、地方が主体となって実施する大会(地方大会)の開催数が増加する一方、全国大会の規模が縮小していることなどから、全体としての延べ来場者数は減少傾向にある(第1-2-22図)。

●第1-2-22図/「青少年のための科学の祭典」の開催状況

●第1-2-22図/「青少年のための科学の祭典」の開催状況

注:平成17年度は、「2005年日本国際博覧会(愛・地球博)」に出展ブースを設け、全国大会を開催

資料:日本科学技術振興財団振興事業部「青少年のための科学の祭典」事務局提供データを基に文部科学省作成

 各地における科学の祭典は、地元の特色を活(い)かしながら様々な形で行われているが、なかでも、熊本大会は、地方大会としては最大規模の集客数を誇っており、平成21年度には2日間で延べ約35,000人の参加があった。この要因としては、共催者となっている地元テレビ局の広報力もさることながら、学校教育現場・地元テレビ局・地元企業が、地域全体としての科学教育の普及啓発を目指して、理想的な役割分担と連携協力関係を構築していることにあると思われる。具体的には、展示内容や実験テーマ、展示会場での実験実演など、祭典の内容面については、教育現場が主体となった大会実行委員会によって策定するが、大会広報、会場設営・演出、企画運営、資金調達(協賛金等の募金活動)については、共催者である地元テレビ局が担当する。また、協賛金を負担する企業には、「科学の基本原理がどのように実際の産業技術に結び付いているのか」が分かるような内容の出展を依頼しており、これを通じて、各企業は、将来的な人材育成に貢献することとなるとともに、知名度向上やイメージアップにもつながっている。
 一方、平成21年度からは、主として親子連れを対象とした科学の祭典とは別に、成人も対象にした2つの科学フェスティバルが開催されている。
 「はこだて国際科学祭」は、「科学を文化に」をスローガンに、毎夏9日間の会期にて北海道函館市で開催されている。初年度の平成21年度は、「函館から地球の環境を考える」をメインテーマとして、8月22日~30日に函館市内の3地区5会場で開催、延べ8,500人が来場した。平成22年度には、「食の未来を函館から考える」をテーマとして8月21日~29日に開催し、来場者は延べ11,000人へと増加した。
 「東京国際科学フェスティバル」も、同じく、世界天文年2009、ダーウィン生誕200年、「種の起源」刊行150年にあたる平成21年度に開始した。この科学フェスティバルは、成人から子どもまで全ての人々が科学を楽しむ文化を地域に広げ、「科学好きの市民」のコミュニティの形成を目的としている。この活動を通じて、「科学文化の街」としての観光資源が創出され、市民と企業、大学・研究機関、学校教育機関の関係者相互にコミュニケーションが高まり、地域の文化、産業、生活の活性化に繋(つな)げていくことを期待しており、同フェスティバルの中心的な開催地域である東京都三鷹市を中心に、正に科学による街おこしを図っている好例と言えよう。

【コラム8】 国立天文台のある街、三鷹 ―科学による街おこしを!

 三鷹市には、アニメーションを中心としたコンテンツ産業や自然科学研究機構国立天文台等の研究・教育機関が数多く立地しており、もともと市民に「科学文化や科学技術を育む素地」があった。同市ではこの利点を活(い)かし、国立天文台と協働して取り組む「科学技術・科学文化を活(い)かしたまちづくり・ひとづくりプロジェクト」を地域再生計画として策定し、付加価値の高い映像コンテンツ発信地域の創成、科学をテーマにした地域イベントによる地域の活性化、さらには科学文化の普及と推進に携わる人材の養成等による地域の活性化を図っている。例えば、三鷹市は国立天文台の協力の下、平成21年度に「三鷹市星と森と絵本の家」を設立した。これは、国立天文台の広い敷地と施設を使って、絵本を楽しむ場や自然や科学へ触れる機会を提供するなど、子どもたちの知的好奇心や感受性を育み、子どもたちが豊かに成長する地域文化の創造に寄与することを目指している。
 この「科学による街おこし」の中核を担う国立天文台は、「東京国際科学フェスティバル」の共催者としてその運営に深く携わるとともに、NPO法人三鷹ネットワーク大学と協働して、平成17年秋より定期的に「アストロノミーパブ」を開催し、お酒を片手に市民との科学に関する会話を楽しんでいる。また、三鷹ネットワーク大学の市民向け講座「星のソムリエみたか・星空準案内人養成講座」(平成19年度開講)に協力するなど、地域コミュニティと一体となって「科学技術を活(い)かしたまちづくり・ひとづくり」に取り組んでいる。

「星と森と絵本の家」で、国立天文台長の星の話に聞き入る子どもたち

「星と森と絵本の家」で、国立天文台長の星の話に聞き入る子どもたち
写真提供:国立天文台

3.研究機関と社会・国民との対話活動

 大学や公的研究機関において、社会・国民との対話活動(アウトリーチ活動)を積極的に進めている事例もある。例えば、東京大学地震研究所では、アウトリーチ活動を組織的かつ効率的に行うために、平成15年にアウトリーチ推進室(平成22年には広報アウトリーチ室へ改称)を設け、科学技術コミュニケーションの技法も取り入れながら、公開講義等の普及・啓発活動、ウェブサイトや広報誌を通じた一般への広報活動に加え、防災担当者や報道関係者等の専門家教育、防災関係省庁や地方公共団体等との連携・技術移転の促進のための活動も実施している。特に、アウトリーチ活動の対象が、子どもから成人、さらには報道機関など、広範かつ多様になっていることが特徴である。また、地震等の災害情報については、一刻も早く正しい情報を国民に伝えなければならないことから、日頃から地震研究者と報道関係者とのコミュニケーションを促進しており、報道関係者を対象とした懇談会も毎月開催している。
 このほか、京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)や東京大学数物連携宇宙研究機構(IPMU)等のWPI採択拠点でも活発なアウトリーチ活動を展開しているとともに、情報・システム研究機構国立極地研究所の「教員南極派遣プログラム(平成21年度~)」、産業技術総合研究所の「YouTube 産総研チャンネル!」、理化学研究所の「理研Navi」など、公的研究機関においても多彩なアウトリーチ活動を行っている。
 さらに、科学技術と社会との関わりが一層深まっている中にあっては、単に個人研究者や研究組織単位でのコミュニケーション活動だけでは、多様な社会・国民のニーズに対応できない。科学の発達と成果の社会への普及を目的とする日本学術会議や学協会における、アウトリーチ活動や科学技術リテラシー涵(かん)養活動の重要性が増してきている。例えば、日本学術会議では、学協会等と連携して公開シンポジウムや市民公開講座等を開催している。また、日本植物生理学会では、ウェブサイト「みんなのひろば 質問コーナー」において、小・中・高等学校生や市民を対象として、植物の形や働きについて日頃不思議に思うことや本で調べても解決しない疑問を受け付け、これに専門家が回答するという試みを実践し、好評を博している。

【コラム9】 「最先端科学技術を伝えるとは―科学者の役割と課題―」村山斉先生に聞く

 最先端の宇宙科学研究者である村山斉・東京大学数物連携宇宙研究機構長は、講演会等を通じて、自身の取り組む研究内容を一般向けに分かりやすく説明するなど、アウトリーチ活動に熱心な研究者として知られる。
 平成22年11月20日に開催されたサイエンスアゴラのシンポジウムで、村山機構長から、アウトリーチ活動に取り組む姿勢や考え方について、次のような講演があった。
 研究者のアウトリーチ活動は、プロではないので、少々話下手でも別にかまわないと思っていますが、正確さにこだわるあまり、話が難しくなったり、何のことだか相手にちっとも通じない、といったことは気を付けなければいけないと思います。
 発信の仕方をどうするかも難しいところです。「よくご存じの方には復習になりますが」とか、「ここはちょっと難しいかもしれませんが、後でまたやさしくなりますから」と気を遣うこと、それから、できるだけ質問を受け、双方向にすることが大事です。ただし、絶対に上から目線の答えをしてはいけません。
 アメリカでの私の研究費は米国国立科学財団(NSF)からもらっているので、研究費の申請書に、どのようなアウトリーチ活動を実施しているか記載する必要があります。例えば、研究者が高校の先生に、最先端の科学を題材にこんな宿題を与えたらどうかとアドバイスしたり、高校や中学に実際に行って、実験器具を整備してあげるだけでもいいのです。実際に研究が終わった後の報告書にも、その活動結果を記入する必要があります。これは金額によらず、ほとんどの研究費の申請に対してこういう義務が付いていました。
 アメリカでのアウトリーチでは、内容が難しいと感じれば、それは飽くまでも発信者の責任で難しいのだという態度がはっきりしています。難しいなどと感じたら、お前が悪いとなる。学生ですらそうです。ある意味では分かりやすいけれども、厳しい。
 研究者ですから、自分の研究がその分野の中でどのように位置付けられるかは理解しているはずです。つまり全体像を知っているわけです。これはとても大切なことで、ある一部分だけを取り出した理解と、全体像の中に位置付けられた理解ではまるで違います。それが伝えられるかが大きなポイントになります。自分の研究のことを中心に話したいと思うのは自然ですが、研究の背景や、他の研究者がどのようなことに取り組んでいるかも話すこと。そうでなければ、なぜその研究をしているのかということが伝わらなくなってしまい、逆に意味がなくなってしまいます。
 それから、ここまで来るのにどれだけ苦労したか、どういう競争があったか、こういうことで落胆したとか、このときこの瞬間に興奮したとか、こういう裏話がありますよといった話も重要です。研究とはそういうことの積み重ねで、99%の努力はほとんど無になりながら、それでも一生懸命やるということ。人間臭さとか、研究の背景にあるそういう情熱、これは研究者にしか伝えられないことです。
 興味を持ってくれる人に「面白かった」と喜んでもらえるということは、単にそれだけでうれしいことですし、自分にとっても、そもそもなぜ自分はこの研究に取り組んでいるのだろうか、と改めて考え、見直し、その意義を再認識できる機会でもあります。
 研究者がアウトリーチ活動を行う目的をまとめると、1.税金でサポートされている研究の成果を納税者に還元すること、2.同時に、社会に対する説明義務を果たしていることで、研究費を受け取ることに一般の人の支持を得ること、3.最後は、単に、研究の楽しさを社会に知ってもらうこと。良い音楽を聴いた時に、「この音楽良かったよ」と友達に話すのと全く同じです。私がアウトリーチや科学技術コミュニケーションを行う理由としては、3.がいちばん大きい。むしろ、この気持ちがなければできないとまで思っています。

宇宙研究機構長

写真提供:村山斉・東京大学数物連携
宇宙研究機構長

4.サイエンスカフェ

 これまで見てきた活動以外にも、社会と研究者・技術者をつなぐ場としての「サイエンスカフェ」の開催が挙げられる。ここで、「サイエンスカフェ」とは、一般にお茶を片手に市民が気軽に研究者と対話する場を意味し、1997年頃に英国やフランスで始まった活動"Cafe Scientifique"がその由来であると言われている。また、日本学術会議では、サイエンスカフェを「科学の専門家と一般の人々が、カフェなどの比較的小規模な場所で、科学について気軽に語り合う場をつくろうという試み」として積極的に開催している。
 我が国初のサイエンスカフェは、NPO法人日曜大学(当時)が平成16年10月に開催したものと言われているが、その後、着実にその数を伸ばしており、科学技術振興機構のサイエンスポータルに掲載されているものに限定して見ても、平成19年4月以降、その開催数は大幅に増加している(第1-2-23図)。

●第1-2-23図/サイエンスカフェの開催状況

●第1-2-23図/サイエンスカフェの開催状況

注:科学技術振興機構が運営している「サイエンスポータル」内のサイエンスカフェカレンダに掲載されている件数(平成23年3月末時点まで)を集計したものである。なお、平成23年3月は、東日本大震災の影響により、同サイエンスカフェカレンダへの掲載件数が前年同時期と比べて少なくなっている。
資料:科学技術振興機構資料を基に文部科学省作成

 また、主催者の多様性も増してきており、研究機関や大学が主催しているもののほか、日本学術会議主催のもの、国の機関や地方公共団体主催のもの、財団法人やNPO法人主催のものなど、全国各地で多様なサイエンスカフェが開催されている。なかには、大学教員ではなく学生サークルが主催しているもの、地方公共団体と市民ボランティアが連携して開催しているもの、市民が自らサイエンスカフェの主催・運営に携わるものなど、草の根レベルの活動も多く行われている。
 このような全国各地で開催されているサイエンスカフェの利点としては、低コストかつ気軽に開催でき、科学技術に関心の低い人たちも含めて一般の参加者を募りやすく、講師側の満足度も高いことなどが挙げられている。

【コラム10】 バイオテクノロジーに関する市民との対話 ―くらしとバイオプラザ21の取組

 人の生命に一番近い技術である「バイオテクノロジー」は、医療、食料、環境問題など国民の日常生活に極めて密着した科学技術であるが、一方で、前述の世論調査結果では、「科学技術の発展を不安に思う分野」の上位には、遺伝子組換え技術やクローン技術等の先端的なバイオテクノロジーが挙げられている。
 NPO法人くらしとバイオプラザ21は、市民(生活者)が、バイオテクノロジーとそれを利用した製品やサービスについて、ウェブサイトやニュースレターを通じた分かりやすい情報の提供やイベントの開催等を行うとともに、最先端バイオテクノロジーの現状やその安全性等について市民と双方向のコミュニケーションを進めていくため、対話の場づくりに取り組むなど、多様な活動を行っている。
 具体的には、バイオカフェ(現在までに130回以上開催)や、一般向け実験教室(茨城大学、東京農工大学と組んで、参加者の特定の遺伝子検出や組換えDNA実験を実施)、親子バイオ教室を実施している。くらしに密着した題材や素材を通じて、市民の視点で、参加者が、バイオテクノロジーの活用状況やその意義に触れ、考え、話し合う機会を提供している。
 また、1.農場見学会を実施し、参加者が、通常の圃(ほ)場と遺伝子組換え作物の圃(ほ)場を両方見学して比較し、遺伝子組換え作物を試食することで、遺伝子組換え技術を身近に体験し、相互に議論する機会を設けているとともに、2.より深く議論したい市民向けに談話会を開催し、講演者である研究者と参加者が互いに本音を出し合って議論を深める「対話の場」を提供している(現在までに約60回開催)。
 同法人の主席研究員・佐々義子さんは、「市民に対してプラスの情報もマイナスの情報も正しくかつ公平に伝えたい。これにより市民は、自ら考えて正確な情報を選択し意思決定できる。また、大学生・大学院生等の若者が意欲を持って最先端のバイオテクノロジー分野に取り組めるよう、バイオテクノロジーと共存した社会をどのように創っていくのか市民とともに考えていきたい。そのためにも、研究者、産業界、一般市民の方々との科学技術コミュニケーションを深めていく意義は大きい」と語る。

5.メディアの取組

 科学技術コミュニケーションを媒介する情報源としては、テレビ、新聞等のマスメディア、インターネット、各種雑誌、書籍・専門誌、科学館・博物館における展示、講演会や各種イベント、知人や家族の話、仕事の場など多様な媒体や対話の場が存在している。なかでも、我が国では多くの国民が、科学技術に関する情報を、テレビ、新聞等の各種メディアを媒体として入手しており(第1-2-24図)、社会・国民と研究者・技術者等とのコミュニケーションの向上にとって、難解な科学技術について分かりやすく提供するメディアへの期待は大きい。
 そこで、科学技術政策研究所の「日・米・英における国民の科学技術に関する意識の比較分析」結果(平成23年3月)を見ると、科学・自然関係テレビ番組を「よく見る」と回答した割合は、英国37.8%、米国30.2%に比して日本は16.3%と低くなっている(第1-2-25図)。このようなことからも、メディア等を通じて幅広い層に科学の面白さや楽しさなどを伝える活動について、今後、研究者・技術者や政府からのメディアへの情報発信も含め、その更なる充実が期待される。

●第1-2-24図/科学技術に関する情報の入手経路

問:あなたは、ふだん科学技術に関する情報をどこから得ていますか。(複数回答可)

●第1-2-24図/科学技術に関する情報の入手経路

注:
 1.平成19年12月調査では、「あなたは、ふだん科学技術に関する知識をどこから得ていますか。」と聞いている。また、「仕事を通じて」(8.0%)という選択肢がある。
 2.平成19年12月調査では、「新聞」が58.3%、「一般の雑誌(週刊誌、月刊誌等)」が11.0%、「専門誌」が4.4%となっており(*1)、「シンポジウム、講演会」が2.3%、「大学や研究機関の公開・見学イベント」が1.6%となっている(*2)。また、「どこからも得ていない」という選択肢(*3)になっている。
 3.平成19年2月調査では、「企業の宣伝イベント、広告、カタログ」及び「図書館」の選択肢はない。
資料:内閣府「科学技術と社会に関する世論調査」(平成22年1月調査)

●第1-2-25図/科学・自然関係テレビ番組の視聴頻度

問:あなたは、科学または自然に関するテレビ番組を見ますか。(教養を得られる番組として)

●第1-2-25図/科学・自然関係テレビ番組の視聴頻度

注:第1-2-6図の注1.及び2.に同じ。
資料:科学技術政策研究所「日・米・英における国民の科学技術に関する意識の比較分析 ―インターネットを利用した比較調査―」(平成23年3月)

 また、ある番組の関東地区での世帯視聴率が1%と言った場合、約17.6万世帯が番組放送時間帯に実際に当該番組を見たことと推定され、テレビメディアの社会・国民に与える影響は大きいことから、良質な科学メディアにより、科学技術に対して関心の低い層にも科学の楽しさ・面白さが浸透していくことが期待される。昭和35年から始まった「科学技術映像祭」では、社会の科学技術への関心を喚起し、その普及と向上を図るとともに、科学技術教養の向上に資することを目的に、優れた科学技術に関する映像を表彰してきている。これらの表彰制度等が励みとなって、メディアが良質な科学映像を社会へ提供する契機となることが期待されている。
 さらに、科学技術振興機構では、科学技術専門放送(サイエンスチャンネル)を企画・運営し、無料(又は追加視聴料なし)で、「暮らしの中の身近な題材から、最先端の科学技術の紹介まで、子どもも大人も楽しみながら"科学"に触れることができる」ことを目指し、様々な科学技術を題材とした番組を提供している。
 一方、メディアは、公平で正確な科学技術情報を社会・国民へ伝える役割を担っており、科学技術コミュニケーションの中で重要な役割を果たしている。
 平成6年7月に設立された日本科学技術ジャーナリスト会議(JASTJ)(※1)は、日本の科学ジャーナリズムの向上を目指して、これまでに最新の科学トピックについての勉強会をほぼ毎月開催しているほか、研究施設などの見学会や、環境、宇宙、災害、原子力、科学広報などをテーマに報道の在り方を議論するためのシンポジウムなどを数多く開催している。ウェブサイトでの情報発信や、過去の科学技術プロジェクト及び科学報道を振り返る取組も行っている。また、平成14年9月には「科学ジャーナリスト塾」を開講し、科学の基礎知識や最先端科学を分かりやすく伝え良質の情報を創り上げることができる人材の養成を目指し、著名な研究者や現役の新聞記者、テレビ解説者、映像制作者等を講師陣に迎え、実践的な教育を行っている(現在までに延べ410人参加)。平成17年には、科学技術に関係する優れた報道・出版・映像制作の活動を行った個人を顕彰する「科学ジャーナリスト賞」を創設し、現在までに5回、延べ28人のジャーナリスト、研究者らが表彰された。このほか、科学技術に関するジャーナリストの国内組織としては、「日本医学ジャーナリスト協会」や「日本環境ジャーナリストの会」も積極的な活動を行っている。

(2)科学技術コミュニケーション活動を支える科学技術コミュニケーターについて

 前述のとおり、社会と科学技術をつなぐための科学技術コミュニケーション活動は、全国各地で活発に展開され、その量的拡大が図られてきている。この科学技術コミュニケーション活動において重要な役割を果たしているのは、科学技術コミュニケーターであり、例えば、次のような人たちである。

  • 科学博物館、プラネタリウム等の職員
  • 理科教育関係者(学校教育、社会教育)、科学図書を扱う図書館司書
  • 科学技術に関する行政機関、大学・研究機関・企業等の研究企画、広報、CSR(※2)担当者
  • 科学技術に関するニュース等を扱う報道関係者
  • テレビ・ラジオ、インターネット等での科学番組制作者、科学雑誌の編集者、ライター
  • 地域での理科実験教室、サイエンスショップ(市民向け科学技術相談室)、サイエンスカフェなど科学技術に関する活動を行っている各種団体の関係者やボランティア

  1. 日本科学技術ジャーナリスト会議(JASTJ:Japanese Association of Science & Technology Journalists)は、科学ジャーナリストを中心に約200人(平成23年3月現在)の会員で構成されている。平成4年11月に東京で開催された第1回科学ジャーナリスト世界会議(世界41か国の科学ジャーナリストが参加)を通じて、世界の多くの国々に、科学ジャーナリストの自主的な組織があり、互いに連携して研鑽(さん)に努めていると分かり、日本においてもそのような組織を作る機運が関係者の間で高まったことをきっかけに設立された。
    JASTJは、国際的な科学ジャーナリスト団体の連合体である世界科学ジャーナリスト連盟の創設にも関わり、平成14年に世界連盟の憲章ができるといち早く加盟を決定、平成16年にカナダで第1回総会が開かれたときは他の創設メンバーとともに世界各国の団体に加盟を呼びかけた。なお、世界ジャーナリスト連盟には、日本医学ジャーナリスト協会も加盟している。
  2. Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任)

 国民の多くが科学技術を身近に感じ、主体的に科学技術と関わることができるようになるためには、社会・国民と研究者・技術者等との橋渡しを担う機能の充実が不可欠であり、このような機能を担う人材として、上記の科学技術コミュニケーターの活躍が期待されているのである。これまで、大学、科学館・博物館等において、科学技術コミュニケーターの養成に向けた取組が行われてきた。
 日本科学未来館では、他機関に先駆けて平成13年度から、社会の様々な場面で行われる科学技術コミュニケーション活動を支える担い手としての「科学コミュニケーター」を養成している。同館の「科学コミュニケーター」は、5年間の有期雇用期間において、先端の科学技術研究動向の調査、展示フロアでの解説や実演、展示物やイベント、メディアの企画・制作等を行うとともに、国内外の科学技術コミュニケーション活動に携わる者との交流、ネットワーク構築等の活動を通じて、科学技術コミュニケーターとして、社会の様々な場面で活躍できるような能力を養成していく。これまでに養成された「科学コミュニケーター」の約半数は、その後、研究機関や科学館・博物館等で科学技術コミュニケーション関連業務に携わっている(第1-2-26図)。このほか、同館では、理数系教員、大学・研究機関・企業の研究者及び広報担当者、科学館・博物館の職員など、様々な立場で科学を伝える人々を対象に、充実した科学技術コミュニケーション活動を実践していく礎となることを目指して、平成17年度より、「科学コミュニケーター研修プログラム」も実施している。

●第1-2-26図/日本科学未来館における「科学コミュニケーター」のその後の活動状況(平成22年3月末現在)

●第1-2-26図/日本科学未来館における「科学コミュニケーター」のその後の活動状況(平成22年3月末現在)

資料:日本科学未来館作成

 また、平成17年度より、科学技術に関する知識を豊富に持つコミュニケーターやジャーナリスト等を養成するため、科学技術振興調整費において北海道大学、東京大学、早稲田大学の新興分野人材養成ユニットに対して支援を行ってきた(課題実施期間は平成21年度までの5年間)。これら3大学の取組については、科学技術振興調整費プログラム実施課題の事後評価において、多数の修了生が科学技術コミュニケーターとしての社会活動を実践し、学内組織の新設により同ユニットの活動を継続・発展させていること(北海道大学)、科学技術インタープリターという新たな人材像を提示し、科学技術と社会の接点をつなぐ人材育成プログラムを開発したこと(東京大学)、文理融合の新たな科学技術ジャーナリスト像を定義し、体系化されたカリキュラムを確立させ、さらには、プログラム修了後も我が国初のジャーナリズム大学院を全学的支援の下に継続していること(早稲田大学)等につき評価されている。
 さらに、国立科学博物館では、平成18年度より、主として大学院生を対象に、社会の様々な場面で科学と一般の人々の架け橋となる人材を育成するため、「サイエンスコミュニケータ養成実践講座」を実施している。
 このほかにも、各大学において、科学技術に関する知識とコミュニケーション能力を兼ね備えた人材育成を目指し、東京工業大学「科学技術コミュニケーション論」、名古屋大学「サイエンス・コミュニケーター育成事業」、大阪大学「科学技術コミュニケーション入門」など、科学技術コミュニケーションの理論と実践を学ぶための講座が設けられている。
 また、最近では、社会や国民の立場・目線で最先端科学技術に関する話題を提供し、社会と科学技術をつなぐ重要な機能を担う主体として、科学館・博物館等のボランティアやNPO法人等の活動が注目されている。例えば、国立科学博物館では平成21年度実績で352人、日本科学未来館では704人のボランティアが、展示案内や解説等の活動を行っている。
 これらの人々は、我が国において、質の高い科学技術コミュニケーション活動を隅々に行き渡らせるために重要な役割を担っており、今後、その活動の一層の活性化が望まれる。

【コラム11】 多方面で活躍する科学技術コミュニケーター養成講座の修了生

 茨城県水戸市在住の尾林彩乃さんは、北海道大学「科学技術コミュニケーター養成ユニット」(CoSTEP)の2期選科修了生(受講期間:平成18年5月~平成19年3月)。大阪在住(当時)ということもあり、遠隔受講が可能なCoSTEP選科コースを選んだ。尾林さんは、名古屋大学理学研究科素粒子宇宙物理学専攻(博士課程)において天文学を履修した後、兵庫県立西はりま天文台公園で3年間勤務。その後、結婚退職し、しばらくは出産・育児に専念していた。ブログを通したCoSTEPの特任教員との出会いを機に、科学技術コミュニケーションを体系的に学び、市民との対話活動を実践しようと受講を決めたという。CoSTEP修了後、早速、住んでいた大阪府堺市の子育て支援センターにおいて、親と乳幼児(0~3歳)向けの体験教室「星の話を聞こう」を実践。水戸へ転居してからも積極的な対話活動を進め、平成22年12月には、仲間と手作りで「サイエンスカフェ水戸」をスタートさせた。尾林さんは、「医療や食や育児などの情報が氾濫しているが、何が正しい情報かを市民が自ら考える機会は限られている。子育てママさんのような科学に接点のなかった人でも、気軽に科学に接し、他者の意見を聞き、考える場が必要。今後も地元のニーズに直結したテーマでサイエンスカフェ等を開催し、今まで科学に接点のなかった地元住民と科学を語る輪を広げていきたい」と語っている。
 化粧品会社に勤務している蓑田裕美さんは、東京都内の理工系大学在学中に、科学技術にもっと関心を持ってもらいたいとの思いから、国立科学博物館サイエンスコミュニケータ養成実践講座を受講した。平成21年1月に国立科学博物館認定サイエンスコミュニケータとなった後、科学技術コミュニケーション活動に関わるようになり、財団法人武田計測先端知財団の協力を得て科学技術コミュニケーションのボランティア団体「ウイークエンド・カフェ・デ・サイエンス(WEcafe)」を設立、サイエンスカフェの企画運営、科学イベントの司会等を行っている。WEcafeは、20~40歳代の働き盛り世代の社会人を主な対象に、科学博物館、大学、喫茶店など様々な場所で毎月開催されており、「統計にだまされない方法」、「デザインは菌に学べ ~菌類カフェ:あなたの知らない『形』の世界~」、「ねじカフェ」等、タイトルも非常に親しみやすく工夫されている。「科学に興味のなかった方を巻き込むべく、楽しみながら科学的なものの見方を体得できるように試行錯誤しています」と蓑田さん。このような科学技術コミュニケーターの経験は、本業の化粧品会社研究員の仕事に関しても、製品技術の内容を消費者に分かりやすく伝えることや、一般の工場見学者への説明等に大いに役に立っている。平成23年4月からは、研究開発部門から技術広報部門へ異動し、社内でも科学技術コミュニケーターとしての職務に日々奮闘している。国立科学博物館で科学技術コミュニケーションを学んだ多くの仲間も、その経験を活(い)かして企業で活躍中とのことである。

体験教室「星の話を聞こう」の実践風景

体験教室「星の話を聞こう」の実践風景
写真提供:尾林彩乃さん

(3)科学技術コミュニケーション活動の更なる展開に向けて

1.科学技術コミュニケーションの充実に向けた課題

 前節でも述べたとおり、社会・国民と研究者・技術者等との双方向のコミュニケーションとは、社会・国民が科学技術に対する理解を深めるとともに、研究者・技術者が国民の声を直接聞き、社会への理解を深めることである。国民一人ひとりにおいては、これを通じて自ら主体的に判断できるための科学技術リテラシーを涵(かん)養するとともに、コミュニケーションの場において、自らの発想や問題意識、疑問を研究者・技術者に忌(き)憚(たん)なく伝えていくことが重要である。一方、研究者・技術者においては、コミュニケーションの場において、自らの研究に対する理解と信頼を得られるように、その社会的意義や社会への影響について国民目線で説明することや、未来の担い手である若者や子どもに自身の研究を含む科学技術の意義を伝えることに努めるとともに、コミュニケーションを通じて、科学技術について国民が持つ様々な思いや考えを知ることが重要である。国民の理解と信頼と支持の下に科学技術イノベーション政策を進めていくためには、このような意味での双方向のコミュニケーション活動を一層充実させていく必要があるが、参加者層の拡大や「双方向性」の充実が今後の課題と言われている。そして、双方向のコミュニケーションを実現する前提として、政府、研究者・技術者などの専門家は、信頼のおける情報を迅速かつ正確に社会・国民へ提供し、知識の共有が図られるよう努めなければならない。
 また、アウトリーチ活動についても、現状では、必ずしも研究者個人の評価につながらないため、積極的活動のインセンティブが低い等の課題が指摘されている。
 さらに「科学技術の理解増進活動に係る実態調査」(文部科学省委託調査、平成21年3月)によると、科学技術コミュニケーター自体の社会における認知度は極めて低い結果となっている(※1)。また、科学技術コミュニケーションを専ら行う専属の者を1人も雇っていないとする大学、研究機関は過半数にもおよび、今後、新たに雇用したいと答えた大学・科学館も半数程度にとどまっている。一方、同調査では、「研究活動を行う企業や大学が科学技術コミュニケーション活動を行う必要性」については9割近くが肯定しており、多くの者が、研究活動やそこで得られた成果等を分かりやすく国民に伝える対話活動自体の必要性や重要性については認めている。今後、科学技術コミュニケーターを通じた科学技術コミュニケーション活動について、社会における認知度を向上させるための方策を講じる必要がある。また、大学教員の年間平均の総職務時間に占める研究活動時間割合が減少している中(※2)、先述のとおり研究者との役割分担において、各研究機関では、科学技術コミュニケーション活動を専門的に担う人材としての科学技術コミュニケーターの確保とそのキャリアパスの明確化を図る必要もあろう。


  1. 同調査の国民向けアンケートは、国勢調査における都道府県別の人口構成比及び男女比から偏りが生じないよう割付を行い、Webモニターアンケート調査により1,000サンプルを回収した。
    ここでは、一般国民で「科学コミュニケーター」という言葉を知っている割合は1割にも満たないとの結果が示されており、専門職としての科学技術コミュニケーターが社会的に認知されているとは言い難い。
  2. 文部科学省「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」(平成21年9月)

2.双方向コミュニケーションの一層の推進に向けた取組

 今後、我が国の科学技術をより一層発展させるためには、科学技術の成果を国民に還元していくとともに、研究者・技術者等、国民の共感と相互理解を得て、社会と一緒になって科学技術を推進していくことが重要である。そのためには、科学技術がその影の側面も含めて社会・経済・政治などの関連性の中で考えていくべきものであることを再認識しつつ、研究者等が社会と向き合い、自らの研究活動が社会に及ぼす倫理的・法的・社会的影響とも真摯(し)に向き合って、一層、社会・国民と双方向のコミュニケーションを進展させていくことが必要である。
 総合科学技術会議では、平成22年6月19日、研究活動の内容や成果を社会・国民に対して分かりやすく説明する、未来への希望を抱かせる心の通った双方向コミュニケーション活動を積極的に推進するために、「『国民との科学・技術対話』の推進について(基本的取組方針)」を取りまとめた。基本的取組方針では、関係府省・配分機関に対しては、

  • 当面、1件当たり年間3千万円以上の配分を受ける研究者を対象に、「国民の科学・技術対話」に積極的に取り組むよう公募要領等に記載すること
  • 「国民との科学・技術対話」に研究費の一部を充当できる仕組みの導入
  • 「国民との科学・技術対話」は、中間評価、事後評価の対象とすること

などを、大学・研究機関に対しては、

  • 科学コミュ二ケーションの専門知識を有する専任教員や科学コミュニケーター等の支援体制、地域を中心とした連携・協力体制の整備
  • アンケートにより、難易度、満足度を確認し、質の高い活動を維持すること

などの今後取り組むべき事項を明記している。
 また、本方針では、「まず最先端研究開発支援プログラムにおいて『国民との科学・技術対話』に取り組むこと」とされているが、この一環として、科学技術振興機構では、「最先端研究開発支援プログラム(FIRSTプログラム(※1))」に選定された研究者と高校生ら若者との双方向コミュニケーションを行う「FIRSTサイエンスフォーラム~トップ科学者と若者で切り拓(ひら)く未来~」を開催した。
 さらに、科学技術振興機構では、国民が科学技術に触れる機会を提供し、科学技術に対する興味・関心と理解を深めることを目的に、科学館・博物館、大学・高等専門学校・公的研究機関、地方公共団体、公益法人・非営利法人、非営利の各種団体、個人等が国民に対して身近な場で実施する体験型・対話型の各種の科学技術コミュニケーション活動の支援や、地域における科学技術コミュニケーション活動を活性化させるため地域の様々な活動主体が情報を共有し相互に連携する地域ネットワークの構築の支援、全国規模のネットワークを通じ科学技術コミュニケーション活動に効果的に活動手法を開発・普及する取組の支援を行っている。


  1. Funding Program for World-Leading Innovative R&D on Science and Technology

お問合せ先

科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官付(調査・評価担当)

(科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官付(調査・評価担当))

-- 登録:平成23年10月 --