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第1節 科学技術コミュニケーションの可能性

1 科学技術コミュニケーションの展開に関する政策動向

 科学技術コミュニケーション活動の推進について、これまで政府は、累次の基本計画に基づいて、科学技術の理解増進活動を中心に取組を強化してきた(第1-2-1図)。
 まず、科学技術基本法制定後、平成8年度にスタートした第1期基本計画では、「科学技術に関する学習の振興及び理解の増進と関心の喚起」という項目を設けて、その重要性を示した。同年秋には、科学技術振興事業団(現:科学技術振興機構)に「科学技術理解増進室」が設置され、「科学技術理解増進政策」の実施が本格的にスタートした。平成10年11月には、科学技術庁(当時)の科学技術理解増進検討会(座長:中村桂子)からの提言「伝える人の重要性に着目して」が取りまとめられ、インタープリターの重要性、研究費の1%を理解増進のために配分することなどを提言し、その後の施策検討の重要な柱になった。
 引き続く、平成13年度からの第2期基本計画においては、科学技術と社会に関する記述を更に深化させ、「社会のための、社会の中の科学技術」という観点に立ち、科学技術と社会とのコミュニケーションを確立する必要がある、として、「科学技術活動についての社会とのチャンネルの構築」及び「科学技術に関する倫理と社会的責任」という項目を設け、「説明責任は、研究者の責任と義務」と明記し、社会との双方向のコミュニケーションの必要性を説いた。平成16年7月、文部科学省科学技術・学術審議会人材委員会「科学技術と社会という視点に立った人材養成を目指して」と題する提言において、知識を生産する研究者、技術者だけでなく、知識を活用し社会へ還元する人材を養成することの重要性が提言され、さらに平成17年7月、文部科学省の科学技術理解増進政策に関する懇談会(座長:有馬朗人)の報告書「人々とともにある科学技術を目指して」で、「社会のための科学技術」の実現のために、科学技術を分かりやすく親しみやすい形で人々に伝え、対話を深めるアウトリーチ活動 の推進、成人に身につけて欲しい科学技術リテラシー像の策定等が提言された。
 これらの動きを受けて策定された第3期基本計画では、基本計画としてははじめて「社会・国民に支持される科学技術」として独立した章を設け、双方向のコミュニケーション等の重要性をうたうとともに、「国民の科学技術への主体的参加を促す施策を強化する」という新しい方向性も盛り込まれた。
 これまで、政府は、国民に自らの取組について理解を求めるといった一方向のコミュニケーションになりがちであったと指摘されている。今後求められる科学技術に対する国民の理解と信頼と支持という地平にどのようにたどり着くのか、双方向コミュニケーション活動の一層の拡大等、対応すべき課題は多い。


  1. アウトリーチとは、リーチ・アウト(reach out)が名詞化された言葉であり、もともとの意味は「手を伸ばす、差し伸べる」などである。ここでのアウトリーチ活動は、分かりやすく親しみやすい形で人々に科学技術を伝え、対話を深めて人々の要望や不安を酌み取って、自らの科学技術活動に反映させていく活動を言う。
●第1-2-1図/各科学技術基本計画における「科学技術と社会」との関わりと施策展開の流れ

●第1-2-1図/各科学技術基本計画における「科学技術と社会」との関わりと施策展開の流れ

資料:文部科学省作成

【コラム5】 科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム

 科学技術の爆発的な発展は人類に繁栄と豊かな生活をもたらす一方、科学技術の進歩により環境や安全、生命倫理など、国際規模で解決しなければならない問題が生じている。このような中、科学技術を推進する上での共通の価値観を形成しつつ、科学技術を適切に管理、発展させていくことが必要との観点から、世界各国から研究者、政治家、企業家、行政官、ジャーナリスト等が一堂に会し、科学技術と人類の未来について議論する場として「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム」(主催NPO法人STSフォーラム)が、平成16年から毎年開催されている。
 第7回会合は、「科学技術の光と影」をメインテーマに、平成22年10月3日からの3日間、京都で開催され、世界90以上の国と地域、国際機関から、海江田万里科学技術政策担当大臣(当時)をはじめ、科学技術政策を担当する各国の大臣や11人のノーベル賞受賞者をはじめとする研究者、政財官界の関係者等約800人が参加し、活発な議論を交わした。そして最後に、1.「大学及び研究機関は基礎研究及びイノベーションにつながる先進的な研究開発の成果を社会に提供することが期待される。特に、大学は、人文科学と自然科学を結ぶハブであり、学生に責任能力のある地球市民となる準備をさせる機能を有する」、2.「メディアは公共政策に関する科学技術の光と影について公正かつ客観的に報道することが重要である」、3.「資源やエネルギーのより一層効率的な使用を促進するために個人及び社会の行動を大きく変化させることが不可欠で、そのための公教育が必要」等を内容とする声明が発表された。
 我が国関係者のイニシアティブによって、科学技術と社会との関わりをテーマとした国際フォーラムが毎年開催されている意義は大きいと考えられる。

2 科学技術コミュニケーションの意義

 科学技術コミュニケーションとは、国会、政府をはじめ研究機関、教育機関、学協会、科学館、企業、NPO法人等の団体、研究者・技術者、国民・住民等の個人などの間で交わされる科学技術に関するコミュニケーション活動で、非常に幅広い内容を包含するものである(第1-2-2表)。

●第1-2-2表/科学技術コミュニケーション活動の例
  • 科学技術に関する報道
  • 科学技術番組制作、放映
  • 科学雑誌・科学書等の発行
  • 科学技術に関する講演会、討論会、ワークショップ、サイエンスカフェ等
  • 学校等における科学技術に関する授業
  • 大学、企業、NPO法人等が行う地域の理科実験教室
  • 科学博物館等での展示
  • 科学技術に関する生涯学習講座
  • サイエンスショップ(市民向け科学技術相談室)
  • 政府、地方公共団体、研究機関、企業による各種広報活動
  • リスクコミュニケーション
  • テクノロジーアセスメント等への参加

資料:文部科学省作成

 本章においては、これらの活動のうち、科学技術に関する専門家でない者が、

  • 合理的な価値判断を行うために必要な論理的思考や科学的なものの見方
  • 科学に対する関心や知的好奇心の充足

等を獲得することができる活動について主として取り上げる。このような科学技術コミュニケーション活動は、豊かで質の高い国民生活の維持発展に向けた科学技術イノベーションを社会全体としてどのように実現していくのかを考えることや、多くの若者たちを科学技術の道に惹(ひ)きつけることにつながるとともに、国民が、科学技術に関する政策や問題について合理的な判断を下せるようになり、持続可能な社会の発展に向けた社会と科学技術の協働につながっていくと考えられるからである。
 このような科学技術コミュニケーション活動において中心的な役割を果たすのが、科学技術コミュニケーターであり、専任、兼任、ボランティアであるかを問わず、社会と科学技術をつなぐ存在として、近年、その存在意義が高まっている。
 加えて、研究者・技術者自身が科学技術コミュニケーション活動に携わることが、ますます求められるようになっている。これは、税金の支援によって進めている研究を広く国民に理解してもらい、その成果や知見を社会に還元することに加えて、自らの研究に対して社会・国民が抱いている様々な考え方を知ることで、研究者・技術者自身の社会への理解を深めるという意味で極めて有意義である。これまで、研究者・技術者は、専ら研究者・技術者コミュニティの中だけのコミュニケーションにとどまることが多かったが、今後は、科学技術コミュニケーターと適切に協力・分担し、時には自身が科学技術コミュニケーターとなって、このような活動に参加していくことが望まれる。
 「社会とともに創り進める科学技術」を実現するための、社会と科学技術のより良い関係は、国民の科学技術リテラシーと、社会の声を聞こうとする研究者、技術者の姿勢、そして、それらをつなぐ、科学技術コミュニケーターによる科学技術コミュニケーション活動によって実現するものであり、透明性が確保された情報提供を行う国や地方公共団体、研究機関、公平で正確な情報を社会に提供するマスメディア、必要な情報の提供や意見交換の場の設定を媒介する学協会等の科学者コミュニティやNPO法人等の不断の努力によって支えられる(第1-2-3図)。
 次節においては、このような科学技術コミュニケーション活動の基礎となる科学技術リテラシーの涵(かん)養に関する取組と、科学技術コミュニケーション活動の輪が広がりつつある現状と課題を概観する。

●第1-2-3図/科学技術コミュニケーションの促進

●第1-2-3図/科学技術コミュニケーションの促進

資料:科学技術振興機構作成資料を基に文部科学省作成

【コラム6】 「はやぶさ現象」が示したこと

 平成22年6月13日、日本全国が、小惑星探査機「はやぶさ」の小惑星「イトカワ」からの地球帰還に注目した。この「はやぶさ」の帰還は、天文愛好家やSF愛好家、科学技術関係者だけでなく、幅広い国民から注目され、さらには、自然発生的に全国にいくつもの「はやぶさ」の私設応援団ができるなど、「はやぶさ現象」とも言われる大きな盛り上がりを呼んだ。「はやぶさ」地球帰還の衛星生放送とツイッターによるリアル情報発信には多数のアクセス(帰還日を挟んだ3日間のアクセス総数は1億件超)があり、また、テレビや新聞で関連のニュースが連日取り上げられ、報道各社の2010年重大ニュースにも選定された。このほか、一般市民により動画サイトでアニメ仕立て・ドラマ仕立てで「はやぶさ」プロジェクトが紹介されたり、「はやぶさ」のカプセルの全国公開に40万人以上が来訪したり、さらには、財団法人日本文学振興会が「日本の科学技術力を世界に知らしめ、国民に希望と夢を与えてくれた」として第58回菊池寛賞を宇宙航空研究開発機構「はやぶさ」プロジェクトチームに贈呈したりするなど、「はやぶさ」帰還は科学ニュースの枠を超える国民的な出来事となった。
 ここで、宇宙航空研究開発機構のはやぶさ応援サイトに寄せられた人々のメッセージ(原文抜粋)を見てみると、
 ○困難なことやつらいことがあった時は、「はやぶさを思い出せ!」と自分を奮い立たせています。
 ○科学はロマンと好奇心の探求だということを満身創痍で私たちに教えてくれました。
 ○はやぶさが燃え尽きる映像は悲しくもあり、有終の美でもありました。カプセルに命をつないだはやぶさ。大感動です。
 ○日本が世界に誇る科学技術の力と「はやぶさ」が残した有形無形の素晴らしい功績を、私たちは責任を持って次の世代へ繋ぎましょう!
 ○自分の生き方を考えさせられたり、志を持つことの強さや美しさに心を動かされたり、教えられたことがたくさんありました。
 ○日本人で良かった、君のおかげでそう思えるようになったよ。
 ○宇宙のこともJAXAのこともほとんど関心がありませんでしたが、苦難に負けないはやぶさとスタッフの活躍を知り胸が熱くなりました。
 ○ぼくもあきらめない。まけない。ちょっとけがしてもまださっかー選手になることをあきらめないよ。
等、様々な人々がそれぞれに違った思いで「はやぶさ」帰還を受け止めたことが分かる。
 なぜ、「はやぶさ」はここまで国民の関心を呼んだのか。「はやぶさ」の数々のトラブルに見舞われながらそれを克服し、「イトカワ」由来の微粒子を持ち帰るという目的を達成する一連の軌跡が極めてドラマティックだったことに加えて、今回、社会・国民が、宇宙航空研究開発機構特設サイトや各種動画サイト、報道などを通じて、はやぶさの刻々の動静やトラブルを乗り越えるプロセス、地球に帰還して燃え尽きる様子までも同時進行の物語として共有できたことも大きいのではないか。小惑星「イトカワ」からの人類初の岩石採取に挑み、サンプルを持ち帰ることに成功したという科学的成果だけが伝えられていたなら、このような現象は起きたであろうか。「はやぶさ現象」は、「科学技術」を社会にどう伝えるか、そして、社会がどのような情報を欲しているか、を考える上で極めて重要な示唆を与えてくれたと考えられる。

はやぶさの擬人化(はやぶさ君)

はやぶさの擬人化(はやぶさ君)
提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA)

お問合せ先

科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官付(調査・評価担当)

(科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官付(調査・評価担当))

-- 登録:平成23年10月 --