ここからサイトの主なメニューです

平成22年版 科学技術白書 第1部 第3章

第3章 社会・国民とともにある科学・技術

 日常生活の中で科学・技術が担う役割が増し、科学・技術の進展による新たな発見・発明等が社会・国民に及ぼす影響が提起されるなど、科学・技術と社会との関係はより深化している。また、科学・技術の成果を経済的・社会的に価値あるものにするためには、国や、研究機関、研究者等が国民に対して説明をし、国民の理解を得ることのみならず、社会的な課題やニーズ等に関する国民の意見を把握し、それらを適切に政策や研究等に反映することが求められている。これまでも、「社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術」という第3期科学技術基本計画における基本姿勢の下、研究者が国民と対話する活動等が推進されてきたが、より一層の関係者の意識改革や行動が求められている。
 このような中、平成21年9月の政権交代以降、国家行政の運営方法は大きく変化した。科学・技術行政においても同様であり、総合科学技術会議等において政策形成過程の透明性を高める取組、国民参画を進めるための取組等が進められている。特に平成21年11月に実施された「事業仕分け」は、研究者のみならず社会・国民の関心を呼び、科学・技術の在り方や説明責任について、議論を高める契機となった。また、総合科学技術会議の改組など新しい科学・技術政策の推進体制の在り方に関する検討も進められているところである。
 本章では、このような観点で、第3期科学技術基本計画中に推進された科学・技術への理解と共感の醸成に向けた取組の状況と、科学・技術政策の新たな展開について概観する。

1 科学・技術への理解と共感の醸成

1.アウトリーチ活動

 第3期科学技術基本計画では、アウトリーチ活動(※1)を推進することを定め、近年、研究者によるアウトリーチ活動が数多く行われるようになっている。
 その一種である「サイエンスカフェ」は、1997年ころに英国やフランスで始まった活動で、科学者が自身の研究内容を同分野の科学者に対して発表する学術講演会やシンポジウムの開催といった従来のものとは異なり、お茶を片手に市民が気軽に科学者と対話する“Cafe Scientifique(※2)”が由来である。我が国においても、平成15年度科学技術の振興に関する年次報告(平成16年版科学技術白書)が紹介し、新聞をはじめ各種メディアが取り上げたことにより、その取組内容が広く知られるところとなり、文部科学省や日本学術会議が科学技術週間行事として「サイエンスカフェ」を開催して以降普及し、現在では様々な実施主体が全国各地で独自の工夫を加えながら広く定着している(※3)。
 文部科学省では、科学技術振興調整費「重要課題解決型研究等の推進」において、ほかの競争的資金に先駆けて平成17年度より、新規採択課題の直接経費のおおむね3%をアウトリーチ活動に充当する制度を導入し、研究実施者に対して、社会・国民に分かりやすくその研究の科学的・政策的意義について説明し、理解を求めるよう努めることを義務づけている。
 科学研究費補助金に関しては、大学の研究者が行う実験等を通して、中高校生等が科学研究費補助金による研究成果の一端に触れることで、科学と日常生活との関わりや科学がもつ意味を理解することを助けるプログラムである「ひらめき☆ときめきサイエンス~ようこそ大学の研究室へ~KAKENHI」を行っており、平成17年度の事業開始以来、参加者が1万人を超えている。研究成果公開促進費においては、学会等が青少年や一般社会人を対象に研究動向や研究内容を分かりやすく普及啓発する取組を支援している。
 また、平成17年度より、科学・技術コミュニティと社会との間の仲立ちができる人材として、科学・技術に関する知識を豊富に持つコミュニケータやジャーナリスト等を養成するため、科学技術振興調整費において北海道大学、東京大学、早稲田大学の新興分野人材養成ユニットに対して支援を行い、成果を上げてきた。3大学は、平成22年度からは独自のプログラムとして活動を継続・発展させている。
 今後、大学等には、アウトリーチ活動の普及・定着を図るため、組織的な取組を推進するとともに、専門人材の育成・確保等の取組を進めることが求められる。


※1 研究者等と国民が互いに対話しながら、国民のニーズを研究者等が共有するための双方向コミュニケーション活動
※2 1992年に哲学をテーマに市民が語り合う試み“Cafe Philosophique”がフランスで興り、それに触発され1997年に同国でサイエンスカフェが始まった。一方、当時の英国では、遺伝子組換え食品の取扱いを巡る激しい論争やBSE問題等により国民の科学に対する不信感が高まっていた。
※3 我が国初のサイエンスカフェは、特定非営利活動法人「日曜大学」(当時)が平成16年10月に開催したものと言われている。日本学術会議はサイエンスカフェを「街中のカフェでコーヒーを片手に、人々と科学者が“サイエンス”をテーマに自由闊達に対話・議論する場」と定義し、積極的に支援している。近年では常設型のサイエンスカフェも登場している。

2.科学技術リテラシー向上に向けた取組

 第3期科学技術基本計画では、「科学技術に関する国民の関心を高めるために、(中略)成人の科学技術に関する知識や能力(科学技術リテラシー)を高めることが重要である。このため、科学技術リテラシー像(科学技術に関する知識・技術・物の見方を分かりやすく文書化したもの)を策定し、広く普及する」としている。
 すべての成人が身に付けるべき科学・数学・技術に関係する知識や技能、考え方、ものの見方を明示することを目的に、日本学術会議科学と社会委員会科学技術リテラシー小委員会のイニシアティブにより科学技術振興調整費の調査研究として発足した「科学技術の智プロジェクト(※1)」が、平成20年3月に報告書を取りまとめている。
 「科学技術の智プロジェクト」には、科学・技術を巡る我が国の深刻な状況に対して危機感を共有した150名ほどの科学者や教育学者、報道関係者、産業界等の様々な分野・職種の人々が参加し、「数理科学」「生命科学」「物質科学」「情報学」「宇宙・地球・環境科学」「人間科学・社会科学」「技術」の7つの専門部会において、我が国のすべての成人が身に付けるべき科学・技術の素養「科学技術の智」を明確にすることを目標とした。今後も、時代や環境の変化に対応しながらこのような活動を継続・発展させていくことが求められる。

3.科学館活動の充実

来場者に解説するボランティアの様子 写真提供:日本科学未来館

来場者に解説するボランティアの様子
写真提供:日本科学未来館

 科学館や博物館等(※2)は、科学・技術の分かりやすい解説や標本資料の展示、講演・企画展の開催にとどまらず、全国各地域の科学館等や他機関との連携、インターネットを活用した国民全体に対する情報発信、あるいは、教育の一環として実際に体験や観察ができる場を提供する学習支援活動などにより、科学・技術コミュニケーション活動の中核的な役割を担ってきた。また、これらの活動に従事する専門知識を備えた人材の育成を図るとともに、ボランティアの確保・充実にも取り組んできた。我が国の草分け的な取組として昭和61年1月に登録者8人で教育ボランティア制度を導入した国立科学博物館では、333人(※3)がボランティアとして登録し、館内施設・展示の案内、講座や観察会の対応といった学習支援活動全般にわたって活動している。科学技術振興機構日本科学未来館では、551人(※4)のボランティアが、展示解説や実験工房での実験補助の運営支援、研究棟ツアーの運営、自主企画イベントの実施等、多様な活動を行っている。
 今後、科学館、博物館等における科学・技術コミュニケーション活動を強化するためには、それを支える人材の育成や、ボランティア活動に対する支援の充実等が求められる。


※1 代表研究者:北原和夫・国際基督教大学教養学部教授(プロジェクトウェブサイト http://www.science-for-all.jp/)。本プロジェクトが手本とした先行事例には、アメリカ科学振興協会による「プロジェクト2061」が1989年に発表した「すべてのアメリカ人のための科学」(“Science for All Americans”)がある。これは、1980年代当時の米国における科学教育の危機的状況に対処すべく、科学教育改革の一環として、すべての米国民が身に付けるべき科学リテラシーについてまとめたものである。
※2 文部科学省「社会教育調査 平成20年度(中間報告)」(平成20年10月1日現在)によると、博物館及び博物館類似施設数は5,773で、調査開始以来一貫して増加している。このうち、人文科学及び自然科学に関する資料を収集・保管・展示する総合博物館は429、主として自然科学に関する資料を収集・保管・展示する科学博物館は485ある。また、平成19年度の博物館及び博物館類似施設への入館者数は2億8千万(平成16年度と比較して2.6%増)である一方、科学博物館への入館者数は3千5百万人(同14.4%増)となっている。
※3 平成20年度実績。333名(平均年齢56.8歳)の内訳は、男性147名(同63.9歳)、女性186名(同51.2歳)であり、主婦・退職者等(男性109名、女性115名)が多い。毎年およそ9割が登録を更新している。
※4 平成21年4月1日現在

コラム8 欧米諸国における科学者・技術者の立法府へのアプローチ

 米国や英国においては、科学者や技術者と立法府との相互理解を通じて、科学・技術政策の円滑な推進に向けた取組が行われている。

1.米国
 アメリカ科学振興協会(AAAS)の科学技術・議会センター(※1)では、科学・技術に関する客観的な最新情報や専門的知見を議会議員や議会スタッフに対して適宜提供するとともに、科学・技術コミュニティと議会との相互理解や協働に向けた支援を行っている。また、科学・技術に関連する様々な政策を常に注視し、必要に応じて公開書簡を当該政策当事者や実施主体に対して送付することでAAASとしての立場や見解を示し、あるいは陳情を行うこともある。さらに、科学技術投資の必要性について理解を得るため、議員や国民に対する教育・啓発活動を継続的に実施し、重要度の高い案件の場合には、議会において複数回にわたり説明会を開催している。
 また、AAASでは、「科学技術政策フェローシップ(※2)」を1973年より実施している。これは、科学者や技術者を原則1年間、議会や上下両院委員会、議員事務所あるいは官庁等の行政機関に派遣し、科学・技術政策立案のプロセスを実地体験させる一方で、議員に対して科学的知識や専門的分析を提供することで、連邦政府が日常的に直面する科学・技術に関する複雑な諸問題を扱う際の理論面での支援を行っている。
 フェローシップ対象者は、米国籍を有し、自然科学・社会科学分野における博士号あるいはそれに準じる学位取得者(工学に関しては3年以上の就業経験を有する修士号取得者)に限られ、年間150程度(※3)の枠に対して、大学、企業、非営利団体、連邦政府研究機関等様々な部門からおおむね400件程度の応募があり、実際に20歳代後半のポスドクから、サバティカル(研究休暇)中の大学教授、あるいは引退した70歳代の元科学者・技術者まで、幅広い年齢・職業層がフェローとして採用されている。募集されるフェローの種類は常に同一というわけではなく、2010年度については、1.議会、2.外交・防衛・開発、3.エネルギー・環境・農業・天然資源、4.保健・教育・福祉の4種類(※4)となっている。なお、フェローには年間およそ75,000ドルの給付金のほか、旅費、健康保険に係る経費等が支給される。
 これまで延べ2,000人を超える科学者等がフェローとして採用されており、近年はそのうちの40~50%がフェローシップ終了直後もワシントンD.C.に残り、専門的知見を連邦政府の政策形成に活かしている。また、残りのそれぞれ20~25%は元の職業に戻るか、あるいはフェローとしての経験を基に新たな道を進んでいる。

2. 英国
 英国では、1990年代に遺伝子組換え作物やBSE(牛海綿状脳症)問題の取扱いを巡って議論が起こったことを受け、科学者と国会議員が相互に理解することの重要性が認識された。そこで、「社会の中の科学」を標榜する王立協会(RS)は、科学者出身の議員の支援により2001年に「議員‐科学者ペアリング・スキーム(※5)」と呼ばれる交流プログラムを開始した。
 参加を希望する科学者には、1.原則としてRS、研究会議、ウェルカム・トラスト又は科学技術芸術国家基金からの奨学金を受けている博士号取得者であること、2.英国を研究基盤にしていること、3.科学・技術コミュニケーションや科学・技術政策に強い関心があること、が求められ、毎年3倍程度の競争率の選考を経た25人前後が、プログラムに興味を示した議員と党派を超えてペアを組んでいる。2009年にはペアの対象が政府職員にも広げられ、現在までにのべ170人以上の科学者が議員あるいは政府職員とペアとなっている。
 本プログラムにおいて、科学者はペアを組んだ議員に同行(シャドーイング)することで国会審議や科学・技術関係の委員会、党内打ち合わせ、あるいは首相との質疑応答(クエスチョン・タイム)や報道向けインタビュー等の現場を経験する。一方、議員は、研究室を訪問することで研究現場の生の声を聞き現状を知るとともに、実験を行うこともある。これらを通じて、科学者は科学・技術政策の策定の仕組みやプロセスを理解するだけでなく、それぞれの専門分野に関する知識を議員に直に伝えられ、また議員は、研究の実態を目にするとともに、科学者のキャリア形成や研究資金を巡る課題について意見交換し、科学者から直接得た知見を今後の審議や討論の際に活かすことが可能となる。この相互理解を促す取組は、欧州議会やフランス等に影響を与え同様のプログラムが実施されている。


※1 Center for Science, Technology and Congress
※2 Science & Technology Policy Fellowships
※3 議会への派遣を除き、フェローシップの期間は1年間延長することが可能であり、延長した人数を含んだ数字
※4 Congressional; Diplomacy, Security & Development; Energy, Environment, Agriculture & Natural Resources; Health, Education & Human Services
※5 Royal Society MP-Scientist Pairing Scheme

2 科学・技術政策の新たな展開

(1)科学・技術についての議論の高まり

革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)フォーラムの様子

革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)フォーラムの様子

 総合科学技術会議においては、検討過程の公開や予算編成プロセスの透明化に積極的に取り組み、科学・技術関係施策の優先度判定等に際して、その審議過程を公開するとともに、初めてパブリックコメントを募集し(平成21年11月)、それを踏まえた総合科学技術会議としての優先度判定等を行った。また、「最先端・次世代研究開発支援プログラム」の制度設計の参考とするため、研究に携わっている者からパブリックコメントを募集した(平成21年12月)。さらに、定例会議である「科学技術政策担当大臣と総合科学技術会議有識者議員との会合(大臣・有識者会合)」を、原則公開とするとともに、科学・技術政策について考え方を地域に発信し、研究者や一般の方と意見交換するため、平成22年3月に、大臣・有識者会合を大阪で開催した。文部科学省においても今後の科学・技術政策への参考とするため科学・技術政策に関する意見を国民から募集した(平成21年3月)。このように、総合科学技術会議をはじめ関係府省において、政策形成過程の透明性確保と国民参画のための取組を積極的に推進してきている。
 上述のほか、平成21年11月、行政刷新会議の事業仕分けが行われ、科学・技術分野においても対象となった多くの事業において、事業の見直しや予算の縮減などの評決が成された。この事業仕分けの結果に対しては、多方面から大きな反響があった。例えば、関係学会などから事業仕分け結果について「各分野の研究の発展が損なわれる」、「人材の離散を招く」などの反対意見が表明された。また、総合科学技術会議の有識者議員の連名による「科学技術関係予算の確実な確保について(緊急提言)」(平成21年11月19日)では、昨今の厳しい財政事情を理解しつつも、予算が減額となった場合、縮小された計画に関係する人材が散逸し水準を元に戻すことは非常に困難である、と人材の面での懸念を指摘し、国家百年の計を図るとの認識を持って科学技術関係予算の拡充を強く求める、と提言した。
 平成22年度政府予算案の策定に当たっては、事業仕分けの結果と総合科学技術会議の優先度判定を踏まえた予算措置が行われた。また、文部科学省では、事業仕分けを契機として、国民の声を予算編成に活(い)かしていくために、事業仕分けの対象となった事業について意見募集を行い(平成21年11月16日~12月15日)、科学・技術分野について約2万通の意見が寄せられた。
 これらの結果を踏まえ、例えば、次世代スーパーコンピュータ計画については、10ペタフロップス(1秒間に1京回の計算性能)級達成時期を「平成23年11月」から「平成24年6月まで」に変更することにより開発加速のために計上していた経費を削減することや、スーパーコンピュータ開発者側視点から利用者側視点に移し、次世代スーパーコンピュータの開発のみならず国内の他のスーパーコンピュータとの連携・協力による多様なニーズにこたえる利用を目指し、その環境構築のための研究開発を行うことなど、これまでの計画を変更することで、関係閣僚折衝を経て事業が継続されることとなった。さらに、関係閣僚間の合意の際に、「国民の十分な理解を得るために、説明会等を通じて説明責任を果たしていく」ことが求められたことから、文部科学省や事業実施主体である理化学研究所では、平成22年3月に、次世代スーパーコンピュータに関する一般の理解を得るための説明会などを行った。
 このように、政権交代以降、優先度判定等におけるパブリックコメント等の新たな取組や事業仕分けを通じ、科学・技術の振興の在り方を改めて見直しつつ、透明化を図り、科学・技術政策をより効果的・効率的に推進することとなった。

(2)新しい科学・技術政策への展開

 内閣府の「科学技術と社会に関する世論調査」では、第1章で述べたとおり「資源・エネルギー問題、環境問題、水、食糧問題、感染症問題などの社会の新たな問題は、さらなる科学技術の発展によって解決される」という意見を肯定する割合が高いが、「科学技術の発展を不安に思う分野」(複数回答)として、「地球環境問題」(50.7%)、「遺伝子組換え食品、原子力発電などの安全性」(50.2%)、「サイバーテロ、不正アクセスなどのIT犯罪」(43.8%)、「クローン人間を生み出すこと、兵器への利用などに関する倫理的な問題」(42.3%)が挙げられている。今後、科学・技術政策を推進するに際しては、国民に対する説明責任を果たすだけではなく、社会的課題やニーズに関する国民の意見を把握し、科学・技術の社会への影響を踏まえ、適切に政策に反映させることが重要である。
 科学・技術が人間や社会、経済、自然環境にもたらす影響を事前に予測・評価する手法として、「テクノロジー・アセスメント」(技術影響評価)がある。これは、経済的な利益や効用、リスクや倫理面での問題といった正負の社会的影響を多角的かつ客観的に検証した上で総合的に評価し、起こり得る問題の予測と対応策の策定等により政策立案を支援するもので、1960年代後半に公害問題等の科学・技術の負の側面が顕在化した米国で開発された制度(※1)である。また欧州では、各国や欧州議会等においても導入(※2)されており、その運営手法等は国により異なる。欧州のテクノロジー・アセスメントに共通する特徴としては、実施主体が小規模であること、専門家や利害関係者だけでなく広く市民の参画を重視している点等が挙げられる。我が国において国民合意の形成を図りながら政策を進めるに当たっては、テクノロジー・アセスメントの在り方について検討する意義は大きいと考えられる。
 また、文部科学省科学技術・学術審議会基本計画特別委員会は、今後の我が国の科学・技術政策を、単に科学・技術の振興それ自体を目的とするものにとどまらず、社会・国民からの要請を踏まえ、豊かな国民生活や人類社会の実現に向け、科学・技術の知見を新たな価値の創出に結び付けるための「社会・公共政策」の主要な1つと位置付けるとともに、社会ニーズ等に基づき設定した重要政策課題を解決するための取組を促進する観点から、科学・技術政策と科学・技術に関連するイノベーションのための政策を組み合わせた総合政策への転換を図ることが不可欠であるとの方向性を示している[文部科学省科学技術・学術審議会基本計画特別委員会「我が国の中長期を展望した科学技術の総合戦略に向けて」(平成21年12月)]。諸外国では、イノベーションの創出までを視野に入れた包括的な政策(科学・技術・イノベーション政策)が重視され、そのための指標や評価手法の開発、統計の体系的な整備といった科学・技術・イノベーション政策の科学が進められている(第1‐3‐1図)。
 今後、我が国においては、科学・技術政策に係る研究者コミュニティの発展を促すとともに、その中から輩出された専門人材が行政機関、研究機関等で活躍できるような体制を構築することが求められる。


※1 実施主体である技術評価局(Office of Technology Assessment: OTA)は、連邦議会の付属機関として1972年に設置された。共和党による経費削減を主眼とする議会改革の一環で1995年に廃止されるまで、OTAはエネルギー環境分野における科学・技術政策に影響を与え、その後の欧州での導入の際のモデルとなった。近年米国では、民主党政権の下で同様な組織の再設置に向けた検討が行われている。
※2 欧州における代表的なテクノロジー・アセスメントの実施主体としては、1983年に設立されたOPECST(フランス)に続いて、POST(英国)、Rathenau Institute(オランダ)、DBT(デンマーク)、TAB(ドイツ)、STOA(欧州議会)等がある。

第1‐3‐1 図 科学技術イノベーション政策の科学の在り方

 第1‐3‐1 図 科学技術イノベーション政策の科学の在り方

資料:科学技術振興機構研究開発戦略センター「科学技術・イノベーション政策の科学―エビデンスベースの科学技術・イノベーション政策を目指して―」を基に文部科学省作成

 我が国では、科学・技術は各行政分野に深く関連しているため多数の府省・組織の分担・連携で進められているが、現在、総合科学技術会議を中心に新しい科学・技術政策が展開されつつある。総合科学技術会議では、科学・技術予算編成プロセスの重点化・効率化・透明化・通年化を図り、政府全体が統一の方針の下で一体的な施策の構築が成されるよう取組を強化している。具体的には、従前の「資源配分方針」に加え、各府省が翌年度の予算要求に取り組むべき施策の大枠を示す「資源配分方針の基本指針」を新たに決定するとともに、課題解決型イノベーションを政府全体が協力して推進する「科学・技術重要施策アクション・プラン」を策定している。さらに、今後の科学・技術政策の基本的な方向を示す次期科学技術基本計画についての検討も進められている。また、前述した研究開発法人制度の在り方や、総合科学技術会議の科学技術戦略本部(仮称)への発展的改組など国全体の総合的な推進体制についての検討も政府内で進められている。
 このような中、我が国では今後、国民の合意や参画、政策判断のための科学的根拠をより重視した政策の展開に加え、社会・国民、政治、行政の関係や、国と地方の関係においても、新しい展開が見込まれる。例えば、「新しい公共(※1)」の理念の下、その担い手となる特定非営利活動法人(※2)等に対する寄附優遇税制の拡充等が検討されている。今後特定非営利活動法人等が、科学・技術の分野へより一層参画したり、民間による研究助成活動が活発化したりすることなどにより、科学・技術活動にかかわる新たな担い手や取組の輪を広げていくことなどが考えられる。新しい政策展開を実効あるものとするためには、中長期的観点でこうした取組を支える人材を育成・確保することが重要である。また、社会・国民とともにある科学・技術政策を実現していくためには、いかにして国民の参画を促し、国民の声を政策に反映していくかが課題となる。


※1 人を支える役割を、「官」だけが担うのではなく、教育や子育て、街づくり、防犯や防災、医療や福祉などに地域で関わっている人の一人一人が参加し、それを社会全体で応援しようという価値観(第173回国会における内閣総理大臣所信表明演説より)
※2 Non Profit Organization:ボランティア活動などの社会貢献活動を行う営利を目的としない団体の総称。このうち、いわゆるNPO法人は、特定非営利活動促進法に基づき個人以外で権利や義務の主体となり得る法人格を取得した「特定非営利活動法人」の一般的な総称。法人格の有無を問わず、福祉、教育・文化、まちづくり、環境、国際協力等の様々な分野で、社会の多様なニーズにこたえる重要な役割を果たすことが期待されている。

お問合せ先

科学技術・学術政策局調査調整課

(科学技術・学術政策局調査調整課)

-- 登録:平成22年08月 --