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解説 論文成果に見る我が国の状況

 論文数や被引用回数等、第1章で用いた論文にかかわる指標は、それぞれ長所や短所、限界があるため、解釈に当たって注意が必要である。他方、これらの指標は我が国の科学・技術水準の一つの側面を示すものとして、第2章で述べる科学・技術システムの現状を把握するための基礎的な情報であると考えられる。本項では、論文にかかわる各種指標を用いた我が国の状況を概観するとともに、論文数や被引用回数の解釈に当たっての留意点について解説する。

01 論文を用いた定量的指標について

 研究活動のアウトプットの一つである科学論文に着目した定量的な指標の例としては以下のものがある。

  • 論文数[例:A国の論文数(A国の機関で産出された論文数)]
  • 論文数シェア[論文数占有率という場合もある。例:A国の論文数シェア(A国の論文数が世界全体の論文数に占める割合)]
  • 被引用回数(他の論文に引用された回数)
  • 被引用数シェア(例:A国の被引用回数が世界全体の被引用回数に占める割合)
  • トップ10%論文数(論文の被引用回数が各分野、各年で上位10%に入る論文の数)
  • トップ10%論文数シェア
  • 相対被引用度(各国の論文数当たりの被引用回数を世界全体の論文数当たりの被引用回数で除して基準化した値)

 前述の指標を解釈するに当たっては、例えば以下のような点に留意する必要がある。

  • 一般に、研究者から注目されている論文は、他の論文に引用される回数が多くなる傾向にあると考えられている。そのため、論文数や論文数シェアのほかに、論文の被引用回数に基づく指標がしばしば用いられる。
  • 本白書の各種指標で用いられる論文引用データベースは、少なくとも著者や抄録等が英語で記載された論文を対象としており、著者や抄録等が日本語のみで記載された論文は含まれていない。本白書で取り上げる各種指標は、論文引用データベースに収録される論文の言語の影響を受ける。
  • 論文引用データベースの種類により収録対象とする雑誌や論文は異なるため、収録論文の分野分布や論文数シェア等は異なる。
  • 論文数や被引用回数は分野により異なる。例えば、数学分野では、他の分野に比べ長い論文を数少なく書く傾向が強いことが指摘されているほか、物理分野等において、実験研究の方が理論研究よりも平均論文数が多い傾向が報告されている。
  • 研究分野や組織によっては、ものづくりや本の執筆等、論文執筆以外の成果を重視する場合がある。
  • 研究分野により論文の言語が異なる。英語が多く用いられる分野もあれば、地域研究のように現地語でしばしば書かれるケースもある。
  • 論文にはarticle、letter、note、reviewなど様々なものがある。対象とする文献の種類で論文数や被引用回数が異なる場合がある。
  • 論文一報一報の科学的な価値は異なると考えられ、論文数のみでの評価には限界があるとの指摘もある。

また、前述の指標に加え、以下のように対象を特定した指標もある。

<学術誌を対象とした指標例>

  • インパクトファクター(IF値と呼ばれる、学術誌の影響度を表す指標である。学術誌AのX年のIF値は、「X‐2年とX‐1の2年間に学術誌Aに掲載された論文がX年1年間に引用された回数の平均値」である)

<研究者を対象とした指標例>

  • h‐index(当該研究者の論文数と被引用回数との関係を同時に表す指標である。当該研究者のh‐indexの値は、「当該研究者が著者となっている論文群において、被引用回数がh回以上の論文がh件以上ある場合、h」とする)

ただし、以下のような点に留意する必要がある。

  • インパクトファクターは、一般的に学術誌の影響度を表す指標であり掲載されている個々の論文の状況を表す指標ではないため、個々の研究者の評価には適さない指標であることが指摘されている。
  • h‐indexは、研究者単位で用いる場合、研究者の属する分野や研究者自身の研究活動経歴の長さが影響してくる(年配者の方が高くなる)ことが指摘されている。

 本白書では、Web of Science(トムソン・ロイター)及びSCOPUS(エルゼビア社)の論文引用データベースを用いた各種指標を取り上げている。両者のデータベースにはそれぞれ、著者や抄録等が英語で記載されている、定期的に発行されている、査読がある等といった一定の基準を満たした学術誌の論文情報が収録されている。両者が収録対象とする学術誌は異なるため、収録論文の分野分布や国別の論文シェアは表1、表2のとおり異なる。また、我が国で発行される科学・技術及び医学系の学術誌は約10,000誌(※1)ともいわれており、論文引用データベースに掲載されている日本発の学術誌は5%に満たない状況となっている(※2)。

表1 SCOPUSとWeb of Scienceにおける収録論文の分野分布
  SCOPUS Web of Science
化学 7.2 % 12.2 %
材料科学 3.8 % 4.7 %
物理学&宇宙科学 7.8 % 11.4 %
計算機科学&数学 6.4 % 5.6 %
工学 12.1 % 8.5 %
環境/生態学&地球科学 7.1 % 5.5 %
臨床医学&精神医学/心理学 30.0 % 24.6 %
基礎生物学 22.3 % 24.2 %
その他 3.3 % 3.4 %

注:
1.2004‐06年の平均値である。
2.SCOPUS:エルゼビア社SCOPUSカスタムデータに基づき科学技術政策研究所において集計
3.Web of Science:“Web of Science”に基づき科学技術政策研究所で集計
4.論文の分野分類は学術誌の分野分類に基づいている。
5.各分野において、収録論文の割合が多い方に色を付けている。
資料:
科学技術政策研究所「第3期科学技術基本計画のフォローアップに係る調査研究
日本と主要国のインプット・アウトプット比較分析」

表2 SCOPUSとWeb of Scienceにおける各国の論文数及び論文シェア
  SCOPUS Web of Science シェアの比
論文数 論文シェア(S) 論文数 論文シェア(W) S/W
日本 89,607 7.1 % 67,805 7.4 % 0.96
米国 320,698 25.5 % 235,243 25.7 % 1.00
英国 78,701 6.3 % 55,938 6.1 % 1.03
ドイツ 68,972 5.5 % 54,624 6.0 % 0.92
フランス 48,831 3.9 % 38,894 4.2 % 0.92
韓国 26,818 2.1 % 22,641 2.5 % 0.86
中国 136,559 10.9 % 62,160 6.8 % 1.60
全世界 1,255,477 100.0 % 916,534 100.0 % 1.00

注:
1.2004‐06年の平均値である。
2.著者の所属機関ごとの分数カウント。各国において、論文シェアが高い方に色を付けている。
資料:
科学技術政策研究所「第3期科学技術基本計画のフォローアップに係る調査研究
日本と主要国のインプット・アウトプット比較分析」

 昨今、我が国の研究者が作成する論文の多くは、諸外国の学術誌に投稿される傾向が見られる。この要因として、我が国の研究者は、国際的に研究者間で評価の高い学術誌に投稿したいという傾向を持っていることが指摘されている。
 我が国における国際的学術誌の育成が大きな課題となっている中、物質・材料研究機構では、材料科学分野における国際的な知名度を持つ英文学術誌を目指し、Scienceand Technology of Advanced Materials(STAM)誌を発行している。同誌はオープンアクセスジャーナルへの転換によりIF値を上げるなど、世界からも注目される学術誌となりつつある。


※1 科学技術振興機構調べによる。
※2 例えば、科学技術政策研究所「第3期科学技術基本計画のフォローアップに係る調査研究 日本と主要国のインプット・アウトプット比較分析」(NISTEP Report No.118)によると、SCOPUS収録対象誌のうち、2004年(平成16年)から2006年(平成18年)における日本発の学術誌は376誌との報告がある。

02 論文数及び論文数シェアに関する国内外の状況

 以下では、Web of Scienceを用いた分析結果について取り上げる。
 世界の主要な論文誌に発表された論文のうち、我が国の研究機関が発表した論文数は、1988年(昭和63年)から2008年(平成20年)までの20年間で40,990件から69,300件へと増加し、約1.7倍となった。また発表された論文数を国別に見ると、我が国は10年前[1998年(平成10年)]では世界第2位、近年[2008年(平成20年)]において世界第5位である(表3)。
 次に、各国の論文数が世界全体の論文数に占める割合(論文数シェア)で見ると、1980年代以降に諸外国が論文数を増やす中、特に1990年代後半からは中国における論文数が飛躍的に増加し、中国の論文数シェアは2008年において10.5%と世界第2位となっている。一方、我が国の同年における論文数シェアは7.0%である。中国における論文数の増加に伴い、我が国や米国、英国及びドイツ等の主要国における論文数シェアは減少した(図4)。

表3 国・地域別論文発表数(上位25か国・地域)

表3 国・地域別論文発表数(上位25か国・地域)

注:
1.トムソン・ロイター“Web of Science”に基づき科学技術政策研究所が集計
2.article、letter、note、reviewを分析対象とし、整数カウント法(※1)により分析
3.全分野での論文数3年移動平均による。例えば2008年の値は2007、2008、2009年の平均値である。
資料:科学技術政策研究所作成

図4 主要国等における論文数シェアの推移

図4 主要国等における論文数シェアの推移

注:
1.トムソン・ロイター“Web of Science”に基づき科学技術政策研究所が集計
2.article、letter、note、reviewを対象とし、整数カウント法により分析
3.全分野での論文数シェアの3年移動平均%による。例えば2008年の値は2007、2008、2009年の平均値である。
資料:科学技術政策研究所作成


※1 複数国の共著による論文の場合(例えばA国とB国の共著)、それぞれの国にA国1、B国1とカウントする手法であり、各国の「世界の研究活動への関与度」が分かるカウント法であると考えられる。この手法では国際共著論文は複数の国にカウントされるので、国際共著が多い国では論文数が実際の貢献を上回る傾向にある。

03 論文の被引用回数に関する国内外の状況

 我が国において発表された論文の相対被引用度(※1)は、1998年(平成10年)の0.89から上昇を続け、2009年(平成21年)では1.02と世界平均の1を初めて上回った(図5)。また、我が国の全分野におけるトップ10%論文(論文の被引用回数が各分野で上位10%に入る論文)の数は、1988年(昭和63年)から2008年(平成20年)までの20年間で3,470件から5,283件へと増加したとの分析もある(※2)。一方、トップ10%論文数のシェアについて見ると、さきに述べた論文数シェアと同様、中国におけるトップ10%論文数シェアが1990年代後半以降飛躍的に増加し、2008年において8.0%となった。一方、我が国の同年におけるトップ10%論文数シェアは6.4%である。中国におけるトップ10%論文数の増加に伴い、我が国や米国のトップ10%論文数シェアは減少した(図6)。

図5 主要国等における相対被引用度の推移

図5 主要国等における相対被引用度の推移

注:
1.トムソン・ロイター“Web of Science”に基づき科学技術政策研究所が集計
2.article、letter、note、reviewを対象とし、整数カウント法により分析
3.各年の値は、5年間累積値を用いている。例えば1985の値は1981~1985年の累積値となっている。
資料:科学技術政策研究所作成

図6 主要国等におけるトップ10%論文数シェアの推移

図6 主要国等におけるトップ10%論文数シェアの推移

注:
1.トムソン・ロイター“Web of Science”に基づき科学技術政策研究所が集計
2.article、letter、note、reviewを分析対象とし、整数カウント法により分析
3.全分野でのトップ10%論文数シェアの3年移動平均%による。例えば2008年の値は2007、2008、2009年の平均値である。
資料:科学技術政策研究所作成


※1 各国の論文数当たりの被引用回数を世界全体の論文数当たりの被引用回数で除して基準化した値
※2 科学技術政策研究所調べ

04 論文共著の形態の変化

 諸外国においては、論文共著の形態が個人から集団へ、また単一国から複数国へと変化している。特に、フランス、英国及びドイツでは、国際共著の割合は全論文の約半数を占めている(図8)。我が国について見ると、国内機関間での共著は増えているものの、国際共著の割合は他の主要国等に比べ低調である(図7、図8)。

図7 我が国における論文共著の形態の変化

図7 我が国における論文共著の形態の変化

注:
1.トムソン・ロイター“Web of Science”に基づき科学技術政策研究所が集計
2.article、letter、note、reviewを分析対象とし、整数カウント法により分析
資料:科学技術政策研究所作成

図8 主要国等における国際共著割合の推移

図8 主要国等における国際共著割合の推移

注:
1.トムソン・ロイター“Web of Science”に基づき科学技術政策研究所が集計
2.article、letter、note、reviewを分析対象とし、整数カウント法により分析
資料:科学技術政策研究所作成

05 我が国における組織別の論文数の推移

 我が国の論文数、トップ10%及びトップ1%論文数を大学等、独立行政法人(旧国立研究所)等の政府部門、企業の組織別に見たものが図9である。

図9 我が国における組織別論文数、トップ10%及びトップ1%論文数の推移(分数カウント(※1))

図9 我が国における組織別論文数、トップ10%及びトップ1%論文数の推移(分数カウント(※1))

注:
1.ここでの大学等とは国公立私立大学、高等専門学校及び大学共同利用機関法人である。
 また、政府部門とは独立行政法人(旧国立研究所を含む)及び施設等機関を指す。
2.1.中の組織別論文数合計と(参考)中の我が国の論文数とは一致しない。
3.トムソン・ロイター“Web of Science”に基づき科学技術政策研究所が集計
4.article、letter、note、reviewを分析対象とし、分数カウント法により分析
5.3年移動平均による。例えば2008年の値は2007、2008、2009年の平均値である。
資料:科学技術政策研究所作成


※1 複数機関の共著による論文の場合(例えばA大学とB研究所の共著)、それぞれの機関にA大学1/2、B研究所1/2とカウントする手法であり、各機関の「論文生産への貢献度」が分かるカウント法であると考えられる。ここでは各部門の論文生産への貢献度を比較するため、分数カウント法を用いた。

06 国内外における分野ごとの論文数等の状況

 分野ごとに我が国の世界における論文数シェア及びトップ10%論文数シェア[2007‐2009年(平成19‐21年)]を見ると、我が国は化学、材料科学及び物理学、宇宙科学の分野において高くなっている(図10)。

図10 主要国等における分野ごとの論文数シェア及びトップ10%論文数シェア

図10 主要国等における分野ごとの論文数シェア及びトップ10%論文数シェア

注:
1.表内の数字は%である。また、2007‐09年の平均値である。
2.トムソン・ロイター“Web of Science”に基づき科学技術政策研究所が集計
3.図表中の分野はトムソン・ロイター“WebofScience”に収録されている論文をEssential Science Indicatorsの22の分野分類を用いて再分類した上で、以下のとおり8カテゴリーに分類している。
 ただし経済学・経営学、複合領域、社会科学・一般を除く。
 1.化学:化学 2.材料:材料科学 3.物理学:物理学、宇宙科学 4.計算機数学:計算機科学、数学 5.工学:工学 6.環境地球:環境/生態学、地球科学 7.臨床医学:臨床医学、精神医学/心理学 8.基礎生物:農業科学、生物学・生化学、免疫学、微生物学、分子生物学・遺伝学、神経科学・行動学、薬理学・毒性学、植物・動物学(以上、左側は図表中の分野分類、右側は出典元の分野分類)
4.article、letter、note、reviewを分析対象とし、整数カウント法により分析
5.各軸にプロットした値は、各分野での、当該国の世界における論文数シェア及びトップ10%論文数シェアである。チャート図が円に近い場合には、当該国がいずれの分野においても同程度の世界論文シェアを持つことを示す。
資料:科学技術政策研究所作成

お問合せ先

科学技術・学術政策局調査調整課

(科学技術・学術政策局調査調整課)