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平成21年版科学技術白書 第2部 第2章 第2節

第2節 政策課題対応型研究開発における重点化

 第3期科学技術基本計画の下、「明日への投資」である政府研究開発投資の効果を最大限に発揮するためには、基礎研究の着実な推進とともに、政策課題対応型研究開発の戦略的重点化が必要である。そのため、基本計画に基づき、第2期科学技術基本計画における重点4分野(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料)については、3つの基本理念への寄与度の大きさ、戦略としての継続性の要請、各国の科学技術戦略の趨勢(すうせい)、国民からの期待などを踏まえ「重点推進4分野」とし、優先的に資源配分を行い、また、重点推進4分野以外の4つの分野(エネルギー、ものづくり技術、社会基盤、フロンティア)については「推進4分野」として、引き続き国の存立にとって基盤的であり国として取り組むことが不可欠な研究開発を推進する分野と位置付け、適切な資源配分を行うこととし、同計画期間中の投資の選択と集中及び成果の実現に向け、分野別推進戦略(平成18年3月28日総合科学技術会議決定)を取りまとめている。同戦略では、政府が取り組むべき「重要な研究開発課題」として、273課題を選定し、課題ごとに研究目標及び成果目標を明記しており、その中から重点投資する対象として62の「戦略重点科学技術」を選定している。現在、同戦略に基づき、8つの分野ごとに「戦略重点科学技術」をはじめとした重点投資すべき対象への選択と集中の徹底、「国家基幹技術」の研究開発実施における厳正な評価等を行いながら、研究開発を推進している。

1 ライフサイエンス分野

 ライフサイエンスは、生物が営む生命現象の複雑かつ精緻(せいち)なメカニズムを解明する科学であるとともに、その成果は、医療の飛躍的な発展や食料・環境問題の解決につながるなど、国民生活の向上及び国民経済の発展に大きく寄与するものである。
 ライフサイエンス分野の分野別推進戦略においては、今後5年間に集中投資すべき科学技術として以下の1.~7.の7つの戦略重点科学技術が示されている。文部科学省をはじめ各省では、戦略重点科学技術を中心に研究開発を進めている。

(1) ライフサイエンス研究全体を支える基礎・基盤研究課題

1.生命プログラム再現科学技術
a)ゲノム科学研究の推進
 ヒトゲノムの精密解読完了の成果を踏まえ、文部科学省はポストゲノム研究の一環として、平成16年度よりゲノム機能解析等の推進(ゲノムネットワークプロジェクト)を実施した。そのほか、ゲノム創薬等につながるタンパク質の構造・機能解析や、個人個人の遺伝情報を活用した革新的な医療技術の開発等についても着実な推進に努めている。
 厚生労働省では、認知症、がん、糖尿病、高血圧、ぜん息等の高齢者の主要な疾患に関連する遺伝子の解明により、病気の予防法、診断法及び治療法の確立や画期的新薬の開発を目指した研究開発を推進している。また、平成14年度からは、近年のゲノム科学の急速な進展を踏まえ、医薬品候補化合物等について、迅速・効率的に安全性(毒性、副作用)を予測する基盤技術(トランスクリプトーム)に関する研究開発を行っている。
 経済産業省では、新エネルギー・産業技術総合開発機構を通じ、民間活力を利用することにより、機能性RNAを解析するためのツール(インフォマティクスや高感度な定量解析技術)の開発及び機能解析を実施している。

b)タンパク質の構造・機能解析の推進
 タンパク質は生命を構成する基本分子であり、その構造・機能の解析は、将来の医学・薬学、食品・環境などの産業応用に必要不可欠である。
 文部科学省では、「タンパク3000プロジェクト」などで得られた成果及び整備された基盤を最大限に活用しつつ、現在の技術水準では極めて困難であるものの、学術研究や産業振興に欠かせない重要なタンパク質をターゲットに選定し、それらの構造・機能解析に必要な技術開発と研究を行う「ターゲットタンパク研究プログラム」を平成19年度より実施している。

c)脳科学研究の推進
 脳科学研究は、その成果を通じて、社会生活の質の向上や医学の向上、新技術・新産業の創出につながることが期待される分野である。
 文部科学省では、理化学研究所脳科学総合研究センターにおける研究を推進するとともに、「脳科学研究戦略推進プログラム」や他の競争的資金等を活用し、大学等における脳科学研究の重点的な推進を図っている。また、我が国の脳科学研究を戦略的に推進するため、平成21年1月、長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策について、科学技術・学術審議会において第1次答申に向けた中間取りまとめを決定した。
 厚生労働省では、パーキンソン病等の神経・筋疾患、アルツハイマー病、高次脳機能障害、統合失調症やうつ病等の精神疾患の病態解明や治療法の開発に向けた研究を進めている。

d)免疫・アレルギー研究の推進
 文部科学省では、理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センターにおいて免疫・アレルギー疾患に関する基礎的な研究を実施している。同センターと国立病院機構相模原病院は共同研究協定を取り交わしており、基礎と臨床の連携による効率的な研究の推進を図っている。

e)糖鎖の機能解析の推進
 文部科学省では、生物機能の多様な側面で重要な働きをしていると考えられている糖鎖について、競争的資金等を活用し、大学等における糖鎖研究の推進を図っている。また、理化学研究所基幹研究所において、糖タンパク質の構造と機能の解明に焦点を絞り、がん、感染症、生活習慣病、脳筋肉変性疾患などの診断法の開発、治療への応用のための基盤的な研究を行っている。
 経済産業省では、新エネルギー・産業技術総合開発機構を通じ民間活力を利用することにより、糖鎖や糖タンパク質の機能の解析やその機能の活用、糖鎖の大量合成技術の開発等に向けた研究開発を行っている。

(2) 「よりよく生きる」領域に貢献する研究開発課題

1.臨床研究・臨床への橋渡し研究
a)橋渡し研究拠点整備の推進
 有望な基礎研究の成果を着実に実用化させ、国民へ医療として定着させることを目指し、文部科学省では、医療としての実用化が見込まれる有望な基礎研究の成果を有している大学等を対象に、開発戦略の策定など実用化に向けた橋渡し研究の支援を行う拠点を整備する「橋渡し研究支援推進プログラム」を推進している。

b)健康研究の推進
 ライフサイエンスの優れた基礎研究の成果を活用し、新しい治療法や医薬品等を開発して、国民生活の向上及び国際競争力の強化につなげていくために、平成20年度より内閣府特命担当大臣(科学技術政策)、文部科学大臣、厚生労働大臣、経済産業大臣及び有識者から構成される健康研究推進会議を開催し、関係府省が一体的となって健康研究(橋渡し研究・臨床研究)を推進している。
 また、平成20年度より、健康研究推進会議の下で、革新的技術の開発を阻害している要因を克服するため、研究資金の統合的かつ効率的な運用や、開発段階から規制を担当する機関等と意見交換等を試行的に行い、最先端の再生医療、医薬品・医療機器の開発・実用化を促進する先端医療開発特区(スーパー特区)を推進している。

c)遺伝子多型研究の推進
 個人個人に最適な予防・治療を提供することを可能とする医療の実現に向けて、文部科学省では、患者から収集した血液サンプルや臨床情報を管理するバイオバンクを活用し、国民の健康に特に大きな影響を与える疾患等と遺伝情報との関連解明を目指した「個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト(第2期)」を実施している。また、理化学研究所ゲノム医科学研究センターでは、本プロジェクトとの連携を図りつつ、疾患原因の解明等の研究を推進している。

医療現場におけるSNPs解析システム利用の流れ

医療現場におけるSNPs解析システム利用の流れ
全自動のSNPs解析診断システム(凸版印刷株式会社との共同開発)
本システムでは、1滴の血液から45分以内に高精度なSNP判定を行うことが可能
提供:理化学研究所 

d)発生・分化・再生科学研究の推進
 発生・分化・再生領域の研究は、1つの細胞が様々な組織・臓器に分化し個体を形成・維持することに関するメカニズム等の解明を目指すものである。これは、再生医療の基礎となるものであり、近年のiPS細胞をはじめとする幹細胞研究の急速な進展やES細胞の作製技術の確立などをもたらしている。
 文部科学省では、「iPS細胞(人工多能性幹細胞)研究等の加速に向けた総合戦略改訂版(平成21年1月文部科学大臣決定)」に基づき、平成15年度より開始した「再生医療の実現化プロジェクト」においてiPS細胞などの幹細胞研究を総合的に行える拠点を整備し、基礎研究成果の臨床応用に向けた研究を推進するとともに、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターにおいて基礎的な研究を実施している。
 また、「iPS細胞研究の推進について(1次とりまとめ)」(平成20年7月総合科学技術会議決定)に沿って、関係府省が一体となって研究体制の整備や必要な研究資金の確保、知的財産の確保・管理に向けた取組を行っている。

e)分子イメージング研究の推進
 分子イメージングは生体内の分子の量や働きを生物が生きたまま可視化する技術である。
 文部科学省では、「分子イメージング研究プログラム」を実施し、国内の分子イメージング研究の中核となる創薬候補物質探索拠点とPET疾患診断研究拠点を整備し、創薬プロセスの改革及び疾患診断の高度化のための革新的な研究開発を実施するとともに、人材育成・共同研究を推進している。
 厚生労働省では、ナノテクノロジーの応用による非侵襲・低侵襲を目指した医療機器の開発を推進しており、がん等の疾患における画期的な画像診断技術、機器についても研究を進めている。なお、一部の研究については、新エネルギー・産業技術総合開発機構とのマッチングファンドを実施している。
 経済産業省では、平成17年度から「分子イメージング機器研究開発プロジェクト」を実施し、腫瘍(しゅよう)の発見と悪性度の診断をより早期に行うための、細胞の機能変化を高感度、高精度、高速に検出できる分子イメージング機器の開発を行っている。

分子イメージング研究の推進

PET(生体内の分子を画像化する装置)を用いて、脳内にアルツハイマー病の原因物質がどの程度蓄積されているかを調べた写真
赤色の部分には原因物質が多く蓄積されている。
写真提供:理化学研究所

f)創薬プロセスの効率化など成果の実用化を促進する研究開発
 経済産業省では、遺伝子情報を利用して新たな医薬品を生み出す「ゲノム創薬」を加速するための基盤技術の構築に向けて、我が国の強みであるヒト完全長cDNAを活用した遺伝子レベルで疾患のメカニズムを解明する技術、解明された疾患メカニズムを基に創薬を行う技術、生体内で重要な役割を担う膜タンパク質の構造情報から創薬を効率化する技術、ヒトES細胞から疾患等の研究用モデル細胞の創製などに向けた技術開発を行っている。さらに、抗体医薬品等に活用可能な新規抗体を作成するための技術開発や、抗体を高効率で精製するための研究開発を実施している。

g)民間企業と臨床研究機関の連携による新たな医療技術・システムの開発
 経済産業省では、新エネルギー・産業技術総合開発機構を通じ、ベンチャー等民間企業と臨床機関の有機的な連携を図り、多様な技術分野の研究成果を医療現場に届けて、患者や医療従事者の負担軽減を実現する新たな医療技術等を開発し、医療技術の迅速な実用化・普及を図っている。

3.  標的治療等の革新的がん医療技術
 「第3次対がん10か年総合戦略」(平成15年7月文部科学大臣・厚生労働大臣決定)「がん対策基本法」(平成19年4月施行)及び「がん対策推進基本計画」(平成19年6月閣議決定)を基に、がんの本態解明及びその研究成果を活(い)かした新しい予防法・診断法・治療法の解明を進めている。
 文部科学省では、がん免疫療法や分子標的治療法等に関する優れた基礎研究成果を臨床研究に応用するため、「革新的ながん治療法等の開発に向けた研究の推進」を進めている。また、放射線医学総合研究所において、難治性がんに対する画期的な治療法として期待されている重粒子線がん治療研究を推進している。さらに、放射線医学総合研究所が中心となって研究開発を行った重粒子線照射装置小型化の成果を基に、群馬大学において、平成18年度から小型重粒子線照射施設の整備を進めている。
 厚生労働省では、がんの本態解明の研究とその成果を幅広く応用するトランスレーショナル・リサーチ、がん医療における標準的治療法の確立を目的とした多施設共同臨床研究、緩和ケア等の療養生活の質の維持向上に関する研究、がんの実態把握とがん情報の発信に関する研究、及び地域格差の是正を目指した均てん化を促進する体制整備等の政策課題に関する研究に取り組んでいるところである。
 経済産業省では、平成17年度から、がんの超早期発見に資する分子イメージング機器の開発や、がん細胞のみをピンポイントに治療するため、「次世代DDS型悪性腫瘍治療システムの研究開発事業」を行っている。

4.  新興・再興感染症克服科学技術
 現在、国際的に新型インフルエンザなど新たにその存在が発見された感染症や、既に制圧したかに見えながら再び猛威をふるいつつある感染症(新興・再興感染症)の国際的な社会不安が増大している。
 文部科学省では、「新興・再興感染症研究拠点形成プログラム」を推進し、国内外に設置した研究拠点において新興・再興感染症の研究を推進し、基礎的知見の集積や人材養成を行っている。
 厚生労働省では、新興・再興感染症への対応、国内及び諸外国との連携を含めた感染症対策が急務となっていることから、新興・再興感染症、動物由来感染症、感染症の予防診断技術分野、実地調査、国際感染症対策の分野をより強化し研究を行っているほか、国立感染症研究所において、広く感染症に関する研究を総合的に行っている。
 内閣府では、文部科学省、厚生労働省、農林水産省との連携により科学技術連携施策群「新興・再興感染症」を推進するとともに、新興・再興感染症研究体制の強化について検討を行っている。

(3) 「よりよく食べる」、「よりよく暮らす」領域に貢献する研究開発課題

5.国際競争力を向上させる安全な食料の生産・供給科学技術
a)食料分野、環境分野における微生物・動植物ゲノム研究
 ゲノム科学の発展に伴い、植物ゲノムの構造・機能解析も進展しつつあり、これらの成果を基に植物機能をコントロールすることにより、食生活の向上等に資する植物の開発が期待されている。
 文部科学省では、理化学研究所植物科学研究センターにおいて、シロイヌナズナ等のモデル植物のゲノム機能の解明を通じ、植物の量的、質的な生産力を向上させる研究を推進している。
 農林水産省では、イネゲノムの完全解読等のこれまでのゲノム研究の成果を活用して、今後特に重要性が高まると予想される食料、環境、エネルギー問題の解決にターゲットを絞って遺伝子機能解明の加速を図るとともに、ゲノム解読技術や遺伝子を活用する技術を駆使して、これらの分野の問題解決に貢献する超多収穀物、不良環境耐性作物、環境浄化植物、巨大バイオマス植物等の作出に着手し、研究資源を集中的に投入して戦略的かつスピード感をもってこれらの研究を実施している。
 また、ゲノム研究の成果を畜産や昆虫にも活用し、新需要の創造、食料生産技術の革新等を目指してゲノム研究を推進している。具体的には、遺伝子組換え技術や体細胞クローン技術等を活用して、抗病性や経済形質に優れたブタや医療研究用モデルブタの開発、遺伝子組換えカイコによる有用物質生産の高度化等に重点を置いた研究を実施している。
 また、食料生産技術を革新するような画期的な品種の育成などを行うため、農業上重要な遺伝子の機能解明などゲノム研究基盤の整備を図るとともに、育種期間を大幅に短縮することが可能となる品種育成技術(ゲノム育種技術)の開発に取り組んでいる。このほか、人工生産が困難な養殖種苗の生産技術の開発等を引き続き促進するとともに、食料自給率の目標達成のため、1.輸入農産物との競合が激しい加工・業務用国産農産物について、品質や加工適性の面で画期的な特性を有する国産農産物の開発、2.国産飼料の生産性や栄養分を画期的に向上させる品種・栽培技術、及び国産飼料を用いた高品質な肉等の畜産物生産技術の開発、3.規模拡大に向けて重要な課題である労力分散と大幅な生産性向上を実現するIT等を活用した低コスト栽培技術の開発に取り組んでいる。
 内閣府では、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省との連携により科学技術連携施策群「食料・生物生産研究」を推進するとともに、遺伝子組換え作物の実用化研究を推進するため、国民理解の促進を図るなど、円滑な屋外栽培試験を行うための推進方策について検討を行っている。
 そのほか、「バイオテクノロジーによるイノベーション促進に向けた抜本的強化方策(ドリームBTジャパン)」(平成20年12月BT戦略推進官民会議決定)を踏まえ、関係府省において着実に推進していくこととしている。

b)食料・食品の安全と消費者の信頼の確保に関する研究開発
 食品安全を脅かす様々な事例の発生や「食育基本法」(平成17年法律第63号)の制定などにより、国民の「食」に対する関心は高く、食品の安心・安全確保は重要な課題となっている。このため、厚生労働省では、食品の安全に関する施策の充実と、食品衛生規制に必要な技術の向上のため、添加物、汚染物質、化学物質、残留農薬、微生物、牛海綿状脳症(BSE)、健康食品、モダンバイオテクノロジー応用食品等について、新しい危害要因に関する研究、規格基準策定のための調査研究、公定検査法確立のための開発研究等を推進し、その成果をリスク管理措置に反映させている。さらに、食中毒対策や食品テロのような健康危機管理に関する研究を行っている。
 また、農林水産省では、鳥インフルエンザや牛海綿状脳症(BSE)等の人獣共通感染症のヒトへの潜在的リスクや畜産農家の経済的損失を低減させるための防疫措置の高精度化及び効率化を図る技術開発に取り組んでいる。さらに、有害化学物質、有害微生物等を対象に農産物の生産・流通・加工工程におけるリスク低減のための技術開発に取り組んでいる。また、食品表示の偽造防止技術、ニュートリゲノミクス等による丸ごと食品の機能性評価手法等の開発に取り組んでいる。

6.  生物機能活用による物質生産・環境改善科学技術
 農林水産省では、生物機能を活用して化学肥料や農薬の使用を低減する技術を開発した。またeDNA(環境DNA)を利用した土壌生物性評価手法の開発に取り組んでいる。
 経済産業省では、植物機能を活用して、高機能タンパク質等の高付加価値物質を閉鎖系で生産する技術の開発や、新エネルギー・産業技術総合開発機構を通じ、植物機能や微生物機能を活用して、工業原料等の有用物質を生産する技術や、微生物群の制御等により産業廃水等の高効率バイオ処理技術の開発を実施している。

(4) ライフサイエンス研究の体制整備に係る課題

7.  世界最高水準のライフサイエンス基盤整備
a)バイオリソースの整備
 バイオリソースは、生物遺伝資源の保存のみならず、新たな研究領域の活動を拓(ひら)く上で重要なものであり、国家的視点に立って開発、収集、保存、提供を進めていく必要がある。
 文部科学省では、ライフサイエンス研究の基盤となる研究用動植物等のバイオリソースのうち、国が戦略的に整備することが重要なものについて、体系的に収集、保存、提供等を行うための体制を整備することを目的として、「ナショナルバイオリソースプロジェクト」を実施している。
 農林水産省では、昭和60年よりジーンバンク事業として在来種の種子等農林水産業等に係る生物遺伝資源について、収集、保存、提供するとともに、DNAを始めとするイネゲノムリソースの整備を進め、保存・提供している。
 経済産業省では、微生物を中心とした我が国の中核的な生物遺伝資源機関である製品評価技術基盤機構において、生物遺伝資源の探索、収集、保存等を行うとともに、これらの資源に関する情報(系統的位置付け、塩基配列情報、遺伝子に関する情報等)を整備し、研究開発や産業化のための提供を行っている。
 さらに生物多様性条約を踏まえたアジア諸国との二国間協定を締結したり、微生物資源の保存と持続可能な利用を目指した多国間の協力体制(アジア・コンソーシアム)を構築するなど、アジアにおける生物遺伝資源整備を積極的に実施している。

15年間凍結保存(‐20℃)した個体の精子から顕微授精(左)により生まれたマウス(右) 15年間凍結保存(‐20℃)した個体の精子から顕微授精(左)により生まれたマウス(右)

15年間凍結保存(‐20℃)した個体の精子から顕微授精(左)により生まれたマウス(右)
写真提供:理化学研究所

b)バイオインフォマティクス等の推進
 近年のライフサイエンス研究の進展によって大量に生み出されているDNA塩基配列データ、タンパク質の立体構造データ、遺伝子の発現データ等のデータベースを効果的に活用する手段として、生命情報の統合的なデータベースの整備や、ライフサイエンスとIT(情報技術)との融合分野であるバイオインフォマティクスの推進が重要である。
 文部科学省では、我が国のライフサイエンス関係データベースの利便性の向上を図るため、平成18年度より「統合データベースプロジェクト」を開始し、ライフサイエンス関係データベースの統合化に向けた取組を進めている。また、データベースの高度化・標準化・拡充や、ゲノム解析ツール開発などを実施している科学技術振興機構バイオインフォマティクス推進センターと一体的運用を図ることとしている。
 厚生労働省では、医学、薬学分野の研究に必要なヒトや動物由来の培養細胞及び遺伝子の収集・保存、研究者等への提供、薬用植物の収集・保存及び提供、医学実験用カニクイザル等の繁殖・供給を行っている。また、平成20年度より、疾患モデル動物の拡充等を行っている。
 農林水産省では「農林水産生物ゲノム情報統合データベース」事業においてイネ、カイコ、ブタ等農林水産物のゲノムや遺伝子の情報等を大学・民間企業等の研究者に提供するため、当該情報を統合したデータベースの整備を行っている(第2部第3章第3節2参照)。
 経済産業省では、平成20年度より「統合データベースプロジェクト」を開始し、経済産業省関連の公的資金研究から産出される研究データを統合化し、産業界等に提供する事業を行っている。
 また、総合科学技術会議において、ライフサイエンスPT統合DBタスクフォース会合を設置し、個別プロジェクトで収集、作成した有用なデータやデータベースの散逸を防ぐとともにデータの有効活用を進めるために、データベースへの新しい情報の入力、維持、管理を実施するなど恒常的に利用者の求める機能を提供していくための拠点の在り方等について、アカデミア、産業界を含め関係府省一体となって検討を開始した。

(動物実験等の適切な実施に対する取組)
 「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)」が平成17年6月に議員立法により改正され、動物実験等については、その第41条において、3R(代替法の活用:Replacement、使用数の削減:Reduction、苦痛の軽減:Refinement)の概念が明記された。
 また、動物愛護法では、実験動物と動物実験等を区別し、実験動物については、環境大臣が基準を定めることとし、「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準(飼養保管基準)」が平成18年4月28日告示された。文部科学省、厚生労働省、及び農林水産省では、所管する研究機関等に対して統一的な基本指針を策定し、本指針に基づき動物実験等の適正な実施を図っている。

(生命倫理の問題に対する取組)
 近年のライフサイエンスの急速な発展は、医療等の分野に革新的成果をもたらすことが期待される一方、新たに人の尊厳や人権にかかわるような生命倫理の問題を生起させる可能性があり、関係省庁において、必要な規制等を行っている。
 ヒトES細胞研究については、「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」(平成19年文部科学省告示第87号)に基づき、文部科学省においてこれまでに約60件の研究計画の確認を行っている(平成21年1月末現在)が、総合科学技術会議生命倫理専門調査会の意見も踏まえて、現在、文部科学省においてヒトES細胞の使用研究の手続等の見直しを行っている。また、平成21年2月、文部科学省科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会は、ヒトES細胞等からの生殖細胞の作成については、それを用いてヒト胚を作成することを当面禁止することとした上で、容認するとの基本的考え方を取りまとめた。
 これに対し総合科学技術会議意見「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」(平成16年7月)において、難病等に関する医療のための研究目的で人クローン胚の作成・利用を限定的に容認することとしたことを受け、文部科学省は、人クローン胚の取扱いに関する関係指針の改正案を作成し、平成20年10月に総合科学技術会議に諮問を行い、現在、同会議で答申に向けた検討を行っている。また、生殖補助医療研究目的のヒト受精胚の作成・利用の在り方については、同総合科学技術会議意見に基づいて文部科学省と厚生労働省が合同でガイドラインの整備に向けた検討を行い、平成21年3月、その検討結果が報告書として取りまとめられた。
 日本学術会議は、代理懐胎を中心に生殖補助医療を巡る諸問題について各般の観点から審議するよう、平成18年11月30日、法務大臣及び厚生労働大臣から依頼を受け、平成20年4月16日に、対外報告「代理懐胎を中心とする生殖補助医療の課題‐社会的合意に向けて‐」を取りまとめ、公表するとともに、両大臣に対して回答した。提言として、「代理懐胎については、法律による規制が必要であり、それに基づき原則禁止とすることが望ましい」など、10項目を挙げている。このほか、ヒトゲノム・遺伝子解析研究、疫学研究や臨床研究については、人間の尊厳の尊重、個人情報の適切な管理などが必要となるため、文部科学省、厚生労働省、経済産業省等の関係省が連携して、指針に基づき、研究の適正な推進を図っている。

(ライフサイエンスにおける安全性の確保への取組)
 遺伝子組換え技術は、自然界に存在しない新しい遺伝子の組合せをもたらす技術であり、基礎生物学的な研究はもとより、医薬品の製造や農作物の改良等広範な分野において応用されている。遺伝子組換え生物等の利用については「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(平成15年法律第97号)に基づき、その生物多様性への影響を防止するため必要な規制を行っている。遺伝子治療の確立を目的とする臨床研究については、「遺伝子治療臨床研究に関する指針」(平成16年文部科学省・厚生労働省告示第2号)に基づき、その適正な推進を図っている。
 なお、平成20年度におけるライフサイエンス分野の主な研究課題は第2‐2‐1表のとおりである。

第2‐2‐1表  ライフサイエンス分野の主な研究課題(平成20年度)

府省名 研究機関等 研究課題
内  閣  府   ・食品健康影響評価技術研究
財  務  省 酒類総合研究所 ・ライフサイエンス関連研究開発業務
文部科学省

 

 

  ・ゲノム機能解析等の推進
・ターゲットタンパク研究プログラム
・脳科学研究戦略推進プログラム
・橋渡し研究支援推進プログラム
・個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト
・再生医療の実現化プロジェクト
・分子イメージング研究プログラム
・革新的ながん治療法等の開発に向けた研究の推進
・新興・再興感染症研究拠点形成プログラム
・ナショナルバイオリソースプロジェクト
・統合データベースプロジェクト
理化学研究所 ・脳科学総合研究事業
・植物科学研究事業
・免疫・アレルギー科学総合研究事業
・ゲノム医科学研究事業
・発生・再生科学総合研究事業
・分子イメージング研究事業
・バイオリソース事業
・ライフサイエンス基盤研究領域事業
科学技術振興機構 ・バイオインフォマティクス推進センター
放射線医学総合研究所 ・重粒子線がん治療研究
・分子イメージング研究
厚生労働省   ・創薬基盤推進研究事業
・第3次対がん総合戦略研究事業
・新興・再興感染症研究事業
農林水産省   ・低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発
・粗飼料多給による日本型家畜飼養技術の開発
・生物機能を活用した環境負荷低減技術の開発
・ウナギ及びイセエビの種苗生産技術の開発
・土壌微生物相の解明による土壌生物性の解析技術の開発
・アグリ・ゲノム研究の総合的な推進
・担い手の育成に資するIT等を活用した新しい生産システムの開発
・農林水産生物ゲノム情報統合データベースの構築
・アグリバイオ実用化・産業化研究
・鳥インフルエンザ、BSE等の高精度かつ効率的なリスク管理技術の開発
・生産・流通・加工工程における体系的な危害要因の特性解明とリスク低減技術の開発
・食品・農産物の表示の信頼性確保と機能性解析のための基盤技術の開発
・新農業展開ゲノムプロジェクト
農業生物資源研究所 ・ジーンバンク事業
 

経済産業省

本省、新エネルギー・産業技術総合開発機構 ・基礎研究から臨床研究への橋渡し促進技術開発
・ゲノム創薬加速化支援バイオ基盤技術開発
・新機能抗体創製技術開発
・糖鎖機能活用技術開発
・個別化医療の実現のための技術融合バイオ診断技術開発
・機能性RNAプロジェクト
・統合データベースプロジェクト
・インテリジェント手術機器研究開発プロジェクト
・植物機能を活用した高度ものづくり基盤技術開発
・微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発
産業技術総合研究所 ・タンパク質をコードしないリボ核酸の予測と機能の解析
・植物工場の開発と本格的な稼働
・抗体の分離精製のための高性能な特異的結合物質を開発

2  情報通信分野

 情報通信技術は、電子商取引、電子政府、在宅勤務、遠隔医療、遠隔教育の実現・普及など、産業のみならず日常生活までの幅広い社会経済活動に大きな変革をもたらすものであり、国民が安心して安全な生活を送るための重要な基盤となりつつある。また、情報通信分野における国際的に優位にある技術に中長期的な観点から重点的に投資を行うことは、我が国の科学技術や学術研究、産業の国際競争力の強化につながる。
 情報通信全般に関する政府の取組としては、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)にて、「IT新改革戦略」(平成18年1月)及び「重点計画‐2008」(平成20年8月)を策定し、「いつでも、どこでも、誰でもITの恩恵を実感できる社会の実現」を目指している。また、情報セキュリティ政策会議にて、「第2次情報セキュリティ基本計画」(平成21年2月)を策定し、「ITを安心して利用できる環境の構築」を目指している。
 総務省では、研究開発・標準化の具体的な推進方策として取りまとめた「我が国の国際競争力を強化するためのICT研究開発・標準化戦略」(平成20年6月情報通信審議会答申)及び「分野別推進戦略」に基づき、重点的・戦略的な研究開発を推進している。
 文部科学省では、情報通信分野の「分野別推進戦略」を踏まえ、平成18年7月に取りまとめた「情報科学技術に関する研究開発の推進方策について」に基づき、重点的に実施すべき研究開発を推進している。
 経済産業省では、情報通信分野の「分野別推進戦略」の指摘も踏まえ、平成20年度より、環境と経済の両立する社会を目指す「グリーンIT」を推進する「グリーンITプロジェクト」を開始している。
 以下に、各省庁における主な施策について、「分野別推進戦略」の「重要な研究開発課題」の7つの領域ごとにまとめた。

(1) ネットワーク領域

 総務省では、大量の情報を瞬時に伝え、だれもが便利・快適に利用できる次世代ネットワーク技術を構築するため、オールパケット型の高機能ネットワークの構築に必要な基盤技術の研究開発、インターネットのトラフィックの爆発的な増加に対応し情報通信インフラを強化するための研究開発、超高速と省電力の両立が可能なオール光ネットワーク、同一周波数で複数の無線システムの共同利用を可能とする技術、未利用周波数帯において容易に無線システムの利用を可能とする技術、次世代ネットワークの次を見据えた新たなネットワークアーキテクチャなどに関連した研究開発等を実施している。
 経済産業省では、電子・光技術を活用した高効率なネットワークデバイス技術等の研究開発を実施している。

(2) ユビキタス領域

 総務省では、これまで「いつでも、どこでも、何でも、誰でも」使えるユビキタスネットワーク社会の実現に向けて、電子タグ、センサ等の要素技術について研究開発を行ってきた。これらの研究成果を踏まえ、平成20年度からは、見守りサービスや健康管理等の様々な分野での応用が期待される電子タグリーダ・ライタを携帯端末に搭載するための技術等、電子タグやセンサ等の情報を活用した高度なユビキタスサービスを実現する「ユビキタス・プラットフォーム技術の研究開発」を実施している。また、家電のデジタル化やネットワークのブロードバンド化の進展により今後多様な利用が期待される情報家電について、安心安全で高度なサービス利用に資する技術の研究開発を実施している。
 国土交通省では、「自律移動支援プロジェクト」を推進するため、実用化に向けた、経路誘導に必要なデータ項目やサービス提供における官民ルールづくり等を進めるとともに、全国8か所で実証実験を実施した。
 内閣府では、科学技術連携施策群「ユビキタスネットワーク」として、電子タグ技術を中心に上記施策等を対象とした府省連携を推進するとともに、科学技術振興調整費により「電子タグを利用した測位と安全・安心」の補完的課題等を推進している。

(3) デバイス・ディスプレイ等領域

 文部科学省では、高機能・超低消費電力コンピューティングを実現するための、革新的なスピンデバイス(1)及び大容量・高速ストレージ基盤技術の開発を実施している。
 経済産業省では、半導体技術については、高性能・低消費電力な次世代半導体を実現するテクノロジーノード45nmレベル以細の微細化技術(プロセス・材料技術、露光システム技術、設計技術、マスク技術等)、不揮発性機能を有する次世代メモリ技術、情報家電の低消費電力化等を実現するアプリケーションチップ技術等の開発を実施したほか、平成20年度より、新たに半導体デバイスの三次元集積化技術や、民間企業等が優れた回路デザインを大学やベンチャー等から公募して半導体チップを試作・評価する研究開発を開始。また、個別のデバイスや機器の研究開発に加え、「グリーンITプロジェクト」として、データ量を予測して消費電力を制御するルーターや、消費電力40Wの40インチフルハイビジョンを目標とした有機ELディスプレイの研究開発に着手した。


1 スピンデバイス:電子の有する電荷の性質とスピン(磁気)の性質の2つを利用するデバイス

(4) セキュリティ及びソフトウェア領域

 セキュリティ技術については、総務省において、「情報漏えい対策技術」、「経路ハイジャック検知・回復・予防技術」等研究開発に取り組んでいる。また、総務省と経済産業省では、ボット収集・解析システムの開発・試行運用及び感染対策等を実施している。さらに、経済産業省において新たな脅威に対応した情報セキュリティに関する被害を未然に防止する技術及び被害が発生した場合に被害を局限化する技術の開発、並びに国民生活・社会経済活動に密接に関連する情報セキュリティの確保及びITを安心して利活用できる環境の整備などに関する管理手法の研究に取り組んでいる。
 ソフトウェア開発支援技術については、文部科学省において、「ソフトウェア構築状況の可視化技術」、「e‐サイエンス実現のためのシステム統合・連携ソフトウェア」等の研究開発を実施した。経済産業省では、「情報家電センサー・ヒューマンインターフェイスデバイス活用技術開発」として、消費者の利便性に直結する音声認識技術開発を行い、音声認識によるヒューマンインターフェイスを核に、メーカーの違いを超えて各機器が相互連携できる環境を整え、開発成果の普及を促進している。また、現場の技術者の経験則等にゆだねられていたソフトウェア開発に、工学的手法を導入すべく、ソフトウェアエンジニアリング手法を開発・普及する。最初の適用分野として自動車分野を取り上げ、車載制御用基盤ソフトウェア等の開発を行うとともに、工学的手法を適用して、統合システムの信頼性を向上させる設計ツールの開発にも着手する。さらに、だれもが利用できる標準化されたソフトウェアの活用を促進するため、その利用のための技術的なガイド(技術参照モデル)の普及・改良や相互運用性を評価するための体制の整備等を進める。

(5) ヒューマンインターフェイス及びコンテンツ領域

 総務省では、次世代の放送として期待される超高精細映像放送方式を実現するために必要な符号化方式等の技術を開発するとともに、超高精細映像技術を基に将来の映像技術として期待される立体映像技術の要素技術の開発を実施した。また、社会還元加速プロジェクトの1つである「言語の壁を乗り越える音声コミュニケーション技術の実現」に向けて、平成20年度は、ネットワーク型音声翻訳技術の基本手法の検討、基本設計を実施した。また、北京五輪の観光客等を対象として、日中翻訳精度の向上のためのモニター実験を行った。さらに、ネットワーク上の様々な情報の中から、信頼できる情報を提供したり情報の信憑(しんぴょう)性を検証するため、情報分析技術の研究開発(「電気通信サービスにおける情報信憑(しんぴょう)性検証技術の研究開発」)を実施している。
 文部科学省では、情報爆発時代に向けて、膨大なデータの管理・活用を可能とする超高性能データベース基盤ソフトウェアの開発を実施している。また全国に分散する様々なコンピュータを、シームレスに利活用することを可能とするためのソフトウェアの研究開発を実施している。
 経済産業省では、大量の情報の中から必要な情報を的確に検索・解析するための次世代技術を開発し、利用者の好みや置かれた状況に応じて、最適な情報やサービスを提供できる未来型ビジネスの基盤を構築(「情報大航海プロジェクト」)している。
 内閣府では、総務省、文部科学省、経済産業省との連携により科学技術連携施策群「情報の巨大集積化と利活用基盤技術開発」を推進するとともに、科学技術振興調整費による「次世代情報環境におけるコンテンツ処理及び知識処理技術開発」を推進している。

(6) ロボット領域

 総務省では、ネットワークを介して異なる種類のロボットと各種センサーやデバイスを接続させることにより、単体ロボットの機能を更に高度化し、生活支援や福祉・介護支援等のサービスを提供できるロボットの実現を目指す研究開発に取り組んでいる。
 経済産業省では、次世代産業用ロボット分野、サービスロボット分野、特殊環境作業用ロボット分野について、現実の用途を想定した開発を実施している。また、生産分野、生活環境など変化の激しい環境下での様々な作業を確実に遂行する知能化技術の開発及び実証実験を実施している。さらに、センサーやモーターなど、ロボットの様々な構成要素の接続方式や制御方式を共通化し、再利用可能な「部品(モジュール)化」する研究開発を行っている。
 理化学研究所では、東海ゴム工業株式会社と連携センターを開設し、人間生活支援ロボットの研究開発を行っている。
 上記施策等を対象とし、内閣府では、科学技術連携施策群「次世代ロボット‐共通プラットフォーム技術の確立‐」による府省連携を推進するとともに、科学技術振興調整費による「補完的課題」として、環境の情報構造化等についての研究を実施している。

(7) 研究開発基盤領域

 文部科学省では、国家基幹技術(戦略重点科学技術「科学技術を牽引(けんいん)する世界最高水準の次世代スーパーコンピュータ」)として、今後とも我が国が科学技術・学術研究、産業、医・薬など広汎(こうはん)な分野で世界をリードし続けるための「次世代スーパーコンピュータの開発利用(施策名:最先端・高性能汎用(はんよう)スーパーコンピュータの開発利用)」プロジェクトを推進している。また、科学技術・学術審議会の下に設置した作業部会において利活用の基本的方針を取りまとめ(平成20年7月)、平成20年12月からは、利活用の具体的方策の検討を実施している。

(8) その他

 文部科学省では、戦略重点科学技術として、大学院を対象に、世界最高水準のIT人材として社会情勢の変化等に先見性を持って柔軟に対処し、企業等において先導的な役割を担う人材を育成するための拠点形成を目指す「先導的ITスペシャリスト育成推進プログラム」等を推進している。
 なお、平成20年度における情報通信分野の主な研究課題は第2‐2‐2表のとおりである。

第2‐2‐2表  情報通信分野の主な研究課題(平成20年度)

府省名 研究機関等 研究課題
総務省   ・次世代バックボーンに関する研究開発
・ナノ技術を活用した超高機能ネットワーク技術の研究開発
・移動通信システムにおける周波数の高度利用に向けた要素技術の研究開発
・未利用周波数帯への無線システムの移行促進に向けた基盤技術の研究開発
・地上/衛星共用携帯電話システム技術の研究開発
・ユビキタス・プラットフォーム技術の研究開発
・情報家電の高度利活用技術の研究開発
・スパムメールやフィッシング等サイバー攻撃の停止に向けた試行
・経路ハイジャックの検知・回復・予防に関する研究開発
・情報漏えい対策技術の研究開発
・ネットワーク・ヒューマン・インターフェースの総合的な研究開発
情報通信研究機構 ・次世代ネットワーク基盤技術に関する研究開発
・フォトニックネットワーク技術に関する研究開発
・新世代ネットワーク基盤技術に関する研究開発
・電気通信サービスにおける情報信憑性検証技術等に関する研究開発
・自動音声翻訳技術の研究開発
・超高臨場感映像システムの研究開発
文部科学省

 

  ・次世代スーパーコンピュータの開発利用(施策名:最先端・高性能スーパーコンピュータの開発利用)
・e‐サイエンス実現のためのシステム統合・連携ソフトウェアの研究開発
・革新的実行原理に基づく超高性能データベース基盤ソフトウェアの開発
・高機能・超低消費電力コンピューティングのためのデバイス・システム基盤技術の研究開発
・ソフトウェア構築状況の可視化技術の開発普及
・先導的ITスペシャリスト育成推進プログラム
理化学研究所 ・バイオ・ミメティックコントロール研究
農林水産省 農業・食品産業技術総合研究機構 ・果菜類ロボット収穫技術の開発
 

経済産業省

 

  ・次世代回路アーキテクチャ技術開発事業
・産学連携ソフトウェア工学の実践のうち1.産学連携ソフトウェア工学実践事業
・情報家電センサー・ヒューマンインターフェイスデバイス活用技術開発
・セキュア・プラットフォームプロジェクト
・情報大航海プロジェクト(次世代の情報検索・解析技術の開発)
・コンピュータセキュリティ早期警戒体制の整備事業
・企業・個人の情報セキュリティ対策促進事業
新エネルギー・産業技術総合開発機構 ・グリーンITプロジェクト
・ドリームチップ開発プロジェクト(立体構造新機能集積回路の技術開発)・MIRAIプロジェクト
・次世代プロセスフレンドリー設計技術開発
・半導体アプリケーションチッププロジェクト
・スピントロニクス不揮発性機能技術プロジェクト
・次世代大型低消費電力ディスプレイ基盤技術開発
・次世代高効率ネットワークデバイス技術開発
・次世代ロボット知能化技術開発プロジェクト
・基盤ロボット技術活用型オープンイノベーション促進プロジェクト
・戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト
情報処理推進機構 ・コンピュータセキュリティ早期警戒体制の整備事業
・企業・個人の情報セキュリティ対策促進事業
・産学連携ソフトウェア工学の実践のうち2.産学連携ソフトウェア工学実践拠点
・オープンソフトウェア利用促進事業
国土交通省   ・自律移動支援プロジェクトの推進
・海中ロボットによる作業・点検・診断の無人化に関する研究

3 環境分野

 環境分野は、多彩な生物種を有する生態系を含む自然環境を保全し、人の健康の維持や生活環境の保全を図るとともに、人類の将来的な生存基盤を維持していくために不可欠な分野であり、第3期科学技術基本計画において重点推進分野の1つとなっている。なかでも、気候変動問題については、2007年(平成19年)のノーベル平和賞を受賞した気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が取りまとめた第4次評価報告書において、20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガス濃度の観測された増加によってもたらされた可能性が非常に高いと評価されるなど、地球温暖化の科学的解明が進められているところである。我が国は、環境分野を6研究領域に分け、以下の施策に取り組んでいる。

(1) 気候変動研究領域

(地球環境観測の推進)
 気候変動研究領域では、「衛星による温室効果ガスと地球表層環境の観測」を戦略重点科学技術として重点的に推進している。人工衛星による地球観測は、広範囲にわたる様々な情報を繰り返し連続的に収集することができる極めて有効な観測手段であり、地球環境問題の解決に向けて、国内外の関係機関と協力しつつ総合的に推進している。
 2009年(平成21年)1月23日には、環境省、宇宙航空研究開発機構、国立環境研究所の共同プロジェクトである温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)が打ち上げられた。今後、地球温暖化対策の一層の推進に貢献することを目指して、温室効果ガスの吸収排出量の推定精度を高めるために必要な全球にわたる偏りない観測を行う。また、国立環境研究所ではGOSATの定常処理システムの開発(データの処理・提供とデータ質検証の準備)を進めた。

温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)

温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)
提供:宇宙航空研究開発機構

 このほかにも宇宙航空研究開発機構では、陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)による観測を継続し、関係機関と連携して植生把握などに関する利用実証実験を行っている。また、米国熱帯降雨観測衛星(TRMM)に搭載した我が国の降雨レーダ(PR)や米国地球観測衛星(Aqua)に搭載した我が国の改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR‐E)などから取得したデータの処理、提供を行っている。そのほかにも、気候変動予測精度の向上等への更なる貢献のため、降水、雲・エアロゾル、植生などの地球環境に関する全球の多様なデータの収集及び提供を行う地球観測衛星やセンサの研究開発を行うなど、人工衛星を活用した地球観測を推進している。

 また、文部科学省では、全球地球観測システム(GEOSS)10年実施計画にのっとり、地球観測を推進しているところであり、「地球観測システム構築推進プラン」において、1.環境保全対策や将来の気候予測の不確定要素となっている、大気中に含まれる微量成分(二酸化窒素、オゾン等)やエアロゾルの対流圏中の大気成分の変化を観測するシステムを構築するための観測研究及び技術開発、2.海洋の二酸化炭素等温室効果物質の循環メカニズムの解明及び将来予測のための海洋表層、海洋中の二酸化炭素の先端的観測装置(小型で耐久性のある安価な漂流ブイ等)開発など、観測網の強化を行っている。
 さらに、地球環境変動を顕著にとらえることができる南極地域において、国際的な協力の下で観測事業を実施している。我が国の南極地域観測事業は、「南極地域観測統合推進本部」(本部長:文部科学大臣)の下に、関係府省の協力を得て、国立極地研究所が中心となって実施している。平成20年度は、第49次観測隊(越冬隊)及び第50次観測隊が、昭和基地を中心に、気象、オゾン等の定常的な観測や、地球規模での環境変動の解明を目的とするモニタリング研究観測等を実施しており、特に、極域における宙空‐大気‐海洋の相互作用からとらえる地球環境システムの研究を実施した。
 加えて、農林水産省では、農林水産業における地球温暖化対策の推進に資する、森林、農地、藻場等の炭素循環モデルの開発に取り組んでいる。

(気候変動研究に必要な研究開発の推進)
 総務省では、情報通信研究機構において、二酸化炭素のリモートセンシングのための差分吸収ライダー(1)、(2)の開発を行っている。また、アジア域及び地球規模環境変動においても重要な、都市域大気の立体構造解明のためのセンシング・ネットワーク技術の研究開発や、突発的局所災害の観測及び予測のために必要な次世代ドップラーレーダー技術の研究開発を実施している。また、国際宇宙ステーションの我が国の実験棟(JEM。(3)愛称「きぼう」)のばく露部に搭載される超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(4)を開発したほか、宇宙からの地球環境変動計測技術に関する研究を行っている。
 農林水産省では、NASAの地球観測衛星(Terra、Aqua)に搭載している中分解能分光放射計(MODIS)等から受信した画像データをデータベース化し、インターネット上に提供している。
 環境省では、オゾン層の破壊、地球の温暖化等の地球環境保全に資する調査研究や、地球温暖化対策に必要な観測を中長期的な視点に立って推進している。


1 ライダー:LIDAR(Light Detection and Ranging)、大気中にレーザー光線を送信し、大気中の物質からの散乱光を観測することで、大気の状態を測定する装置

2 差分吸収ライダー:特定の大気成分によって吸収される波長と吸収されない波長の光を同時に送信し、双方の散乱光の強度を比較する(差分をとる)ことで、その濃度を高精度で計測するライダー

3 JEM:Japanese Experiment Module

4 超伝導サブミリ波リム放射サウンダ:大気の縁(リム)の方向にアンテナを向け、超伝導センサを使った高感度低雑音受信機を用いて大気中の微量分子が自ら放射しているサブミリ波を受信し、オゾンなどの量を測定する。

(地球環境予測研究の推進)
 気候変動研究領域では、「気候モデルを用いた21世紀の気候変動の予測」が戦略重点科学技術として掲げられている。
 文部科学省では、従来より気候変動予測実験及び気候モデル開発を推進しており、この研究成果によって2007年(平成19年)にノーベル賞を受賞した気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が取りまとめた第4次評価報告書作成に貢献したところであるが、IPCC第5次評価報告書への貢献に向けて「21世紀気候変動予測革新プログラム」により、世界最高水準の気候シミュレーション能力を有するスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を活用し、高精度かつ高解像度の気候変動予測実験及び気候モデル開発をより一層推進している。さらに、気候変動、洪水被害、食糧問題などの人類社会が直面している様々な社会的課題に的確に対応するため、衛星観測や陸域・海洋観測によって得られる各種データ及び気候変動予測結果などを統合して解析し、国民の生活に役立つ情報として提供するための「データ統合・解析システム」の構築を推進している。
 また、海洋研究開発機構では、戦略重点科学技術として、地球環境変動のメカニズム解明と将来予測の実現を目指した基礎的研究を実施するとともに、「地球シミュレータ」を活用したシミュレーションを高精度化・高速化するための技術とそれを用いた地球環境変動の予測技術に関する研究開発を実施している。なお、2009年(平成21年)3月に海洋地球科学分野への一層の貢献を目的として「地球シミュレータ」システムの更新を行った。
 気象庁気象研究所では、エーロゾルやオゾンの取扱いを高度化した温暖化予測地球システムモデルを構築し、さらに日本域については、日本特有の局地的な現象を表現できる分解能を持った精緻(せいち)な雲解像地域気候モデルを開発して、空間的にきめ細かな領域温暖化予測を行っている。

2100年の全球の温暖化予測

2100年の全球の温暖化予測
写真提供:東京大学気候システム研究センター/国立環境研究所/海洋研究開発機構地球フロンティア研究センター

(2) 水・物質循環と流域圏研究領域

 水・物質循環と流域圏研究領域では、健全な水循環を保ち自然と共生する社会の実現シナリオを設計するための研究を進めている。
 本研究領域では「地球・地域規模の流域圏観測と環境情報基盤」を戦略重点科学技術として推進しており、海洋研究開発機構では、水・熱・物質循環にかかわるデータや情報等を、地域規模から地球規模のスケールで観測・収集する地球観測システムを構築するとともに、大気・海洋・陸面の現場観測や衛星観測により、地球規模水循環の変動を把握するための研究開発を実施している。
 文部科学省では、「地球観測システム構築推進プラン」において、アジア・モンスーン地域における水循環・気候変動メカニズムの解明のため、国際協力による海洋研究観測ネットワーク(海洋観測係留ブイネットワーク等)の構築や、ドップラーレーダー等による研究観測ネットワークの構築等を行い、地球規模の大気・海洋変動現象(インド洋ダイポールモード現象等)を対象とする観測データの収集及び観測研究を行っている。
 文部科学省と国土交通省は、全世界の海洋の状況をリアルタイムで監視・把握するため、海面から水深約2,000mまでの水温・塩分データを観測・通報する中層フロートを国際協力の下、全世界で約3,000個を展開する高度海洋監視システムの維持(Argo計画)に取り組んでいる。2007年(平成19年)11月には運用中のフロートが目標の3,000台に到達した。
 国土交通省では、流域圏全体を視野に入れた総合的な水循環管理のための流域圏の再生・修復技術の開発を行う自然共生型国土基盤整備技術の開発等が推進されている。内湾堆積物における化学物質の移動機構の解明や内湾の総合環境モニタリングに関する研究、住宅・社会資本の戦略的ストックマネジメント手法の開発、建設廃棄物の発生抑制・リサイクル技術の開発、資源の循環的な利用を促進する静脈物流システム形成、下水汚泥、家畜ふん尿等からのバイオマスエネルギー回収に関する研究等が進められている。
 総務省では、情報通信研究機構において、沿岸から黒潮等の流速場を長期連続観測可能な遠距離海洋レーダを開発し、石垣島、与那国島に設置して東シナ海南部の黒潮流動場の観測を実施している。

(3) 生態系管理研究領域

 生態系管理研究領域では、多種多様な生物からなる生態系を正確にとらえ、その保全再生を実現するための研究を進めている。
 農林水産省では、環境保全型農業等生物多様性に配慮した関連施策を効果的に推進するため、生物多様性の指標とその評価手法の開発を行っている。また、気候変動が海洋生態系に及ぼす影響を解明することにより、水産資源の大規模変動との関係を明らかにして、水産資源を持続的に管理する手法の開発を行っている。
 環境省では、生物多様性の減少に関する影響の予測、対策に関する研究等を推進している。また、健全な生態系保全及び自然とのふれあいに関する分野、健全な生態系の維持・再生分野等の研究を推進している。

(4) 化学物質リスク・安全管理研究領域

 化学物質は、様々な製品などで用いられ、生活に不可欠なものとなっているが、その効用(ベネフィット)を十分に活用するには、リスクを科学的に把握し、適切に対処すると同時に、リスクと効用のバランス感覚を持った社会を醸成する必要がある。そのため、化学物質のリスク評価・管理手法の開発、安全性情報の収集・提供等、さらにそれらの実施に必要な試験法・測定法の開発について、現在関係府省を中心に調査・研究開発及び知的基盤整備を行っている。
 経済産業省では、有害化学物質リスク削減に資するプロセス・手法の開発及び知的基盤整備を推進した。また、化学物質のライフサイクルにわたるリスクの総合的な評価管理を行うための手法の構築を推進している。
 環境省では、化学物質の環境リスク対策に資するため、化学物質のリスク評価手法、試験法、測定法等の調査・研究開発及び知的基盤整備を進めている。また、国際的観点からの有害金属対策策定のための調査等を進めている。

(5) 3R(1)技術研究領域

 3R技術研究領域においては、循環を基調とする社会経済システムの実現及び廃棄物問題の解決に資するための研究を進めている。
 経済産業省では、廃棄物のリサイクルといった下流分野における技術開発のみならず、製品の省資源化等製品の設計・製造段階といった上流分野から3Rに配慮した技術開発を推進している。具体的には、建築部材の軽量化に資する高強度鋼を用いた革新的構造材料の開発等を実施した。また、我が国の高度なものづくりに不可欠なレアメタルのリサイクル技術開発を実施するとともに、経済産業省と環境省で、使用済小型家電からのレアメタルの回収及び適正処理に関する研究を実施している。
 環境省では、3R推進のための研究や、廃棄物系バイオマス利活用推進のための研究、循環型社会構築を目指した社会科学的複合研究、アスベスト問題解決をはじめとした安全、安心のための廃棄物管理技術に関する研究、漂着ごみ問題解決に関する研究等、廃棄物を取り巻く諸問題の解決とともに循環型社会の構築に資する研究を推進した。


1 3R:発生抑制(リデュース)、再利用(リユース)、再生利用(リサイクル)

(6) バイオマス利活用研究領域

 バイオマス利活用研究領域においては、効率的にエネルギーを得るための地域に即したバイオマス利用技術の開発のための研究を進めている。
 農林水産省では、国産バイオ燃料への利用に向けた資源作物の育成とその低コスト栽培法等の開発、高効率なバイオ燃料生産技術の開発、バイオマスの燃料利用とマテリアル利用を総合的に行うバイオマス利用モデルの構築等を重点的に実施している。
 環境省では、食品廃棄物からメタンや水素を製造する技術の開発や、バイオエタノール10%混合ガソリン導入に向けた走行実証、また、廃食用油からバイオディーゼル燃料を製造する際に、バイオマスからの原料用メタノール製造と副産物の循環利用を行う技術の開発等、基盤的な温暖化対策技術の実用化に向けた開発や、短期間で製品化につながる温暖化対策技術の開発を実施した。また、内閣府、総務省消防庁、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省では各府省連携により、沖縄県宮古島において、島内のサトウキビからバイオエタノールを製造し、島民が実際にエタノール3%混合ガソリンを利用する実証事業を実施している。

(7) その他

 環境省では、地球規模の海洋環境保全に資するため、物質循環機構や有害化学物質による海洋汚染に関する研究等を行っている。
 日本学術会議では、平成21年3月10日、報告「地球温暖化問題解決のために‐知見と施策の分析、我々の取るべき行動の選択肢‐」において、地球温暖化問題に関する蓋然性の高い科学的知見に基づいた合意点の確認と、それに基づいた現実的な行動の選択肢を提示した。また、「日本の展望委員会  地球環境問題分科会」において、地球環境分野に関する長期展望等についての検討を行っている。
 なお、平成20年度における環境分野の主な研究課題は第2‐2‐3表のとおりである。

第2‐2‐3表  環境分野の主な研究課題(平成20年度)

府省名 研究機関等 研究課題
総務省 情報通信研究機構 ・地球環境変動計測技術の研究
・亜熱帯地球環境計測技術の研究開発
・センシング・ネットワーク技術の研究
消防庁 ・新技術・新素材の活用等に対応した安全対策の確保
文部科学省 海洋研究開発機構、宇宙航空研究開発機構、大学等 ・海洋地球観測探査システム
・地球環境観測研究
・地球環境予測研究
・21世紀気候変動予測革新プログラム
・地球観測システム構築推進プラン
・データ統合・解析システム
農林水産省 農業・食品産業技術総合研究機構、農業環境技術研究所、国際農林水産業研究センター、森林総合研究所、水産総合研究センター等 ・地域活性化のためのバイオマス利用技術の開発
・地球温暖化が農林水産業に及ぼす影響の評価と緩和及び適応技術の開発
・環境変動に伴う海洋生物大発生の予測・制御技術の開発
・農業に有用な生物多様性の指標及び評価手法の開発
経済産業省   ・革新的構造材料を用いた新構造システム建築物研究開発
・希少金属代替材料開発プロジェクト
・希少金属等高効率回収システム開発
産業技術総合研究所 ・太平洋の海洋中深層データ解析による長期的二酸化炭素吸収量の解明
・バイオマスを原料とする化学製品・製造技術の開発
・代表的な化学物質の詳細リスク評価書の作成
新エネルギー・産業技術総合開発機構 ・地域バイオマス熱利用フィールドテスト事業
・石油精製物質等簡易有害性評価手法開発
・ナノ粒子の特性評価手法開発
・化学物質の最適管理をめざすリスクトレードオフ解析手法の開発
・構造活性相関手法による有害性評価手法開発
・電気電子機器再資源化促進高度鉛はんだ代替技術開発
国土交通省 国土技術政策総合研究所 ・既存住宅の省エネルギー性能向上支援技術に関する研究
・海辺の自然再生のための計画立案と管理技術に関する研究
・地域活動と協働する水循環健全化に関する研究
土木研究所 ・循環型社会形成のためのリサイクル建設技術の開発
・共同型バイオガスプラントを核とした地域バイオマスの循環利用システムの開発
・自然環境を保全するダム技術の開発
・生活における環境リスクを軽減するための技術の開発
・水生生態系の保全・再生技術の開発
・寒冷地臨海部の高度利用に関する研究
・寒地河川をフィールドとする環境と共存する流域、河道設計技術の開発
海上技術安全研究所 ・船舶からの油及び有害液体物質の排出・流出による海洋汚染の防止に資する研究
・船舶からの排出ガスの放出などによる大気汚染の防止に資する研究
・船舶の解撤に伴う環境汚染の防止に資する研究
海上保安庁海洋情報部 ・海洋情報業務の一環として、火山噴火予知のための海底地形地質構造の調査、西太平洋海域における海流、水温、塩分の調査
気象庁気象研究所 ・温暖化による日本付近の詳細な気候変化予測に関する研究
・物質循環モデルの開発改良と地球環境への影響評価に関する研究
・エーロゾルと放射過程の観測及びモデル化の研究
国土地理院 ・精密地球計測による地球ダイナミクス
・GPS時系列データに含まれる季節的変動誤差の補正モデル構築に関する研究
港湾空港技術研究所 ・潮位観測による海面上昇モニタリング
・地球温暖化による高潮の出現特性の変化に関する研究
・干潟再生のための地盤環境設計技術に関する研究
・沿岸域における有害化学物質の移動機構の解明や影響の評価と対策に関する研究
・沿岸域の流出油対策技術に関する研究
・内湾の総合環境モニタリングと環境予測モデルに関する研究
地球環境研究総合推進費 ・成層圏プロセスの長期変化の検出とオゾン層変動予測の不確実性評価に関する研究
・脱温暖化社会に向けた中長期的政策オプションの多面的かつ総合的な評価・予測・立案手法の確立に関する総合研究プロジェクト
・東アジアの植生に対するオゾン濃度上昇のリスク評価と農作物への影響予測に関する研究
・大型船舶のバラスト水・船体付着で越境移動する海洋生物の動態把握と定着の早期検出
・トキの野生復帰のための持続可能な自然再生計画の立案とその社会的手続き
・水・物質・エネルギーの「環境フラックス」評価による持続可能な都市・産業システムの設計
・環礁上に成立する小島嶼国の地形変化と水資源変化に対する適応策に関する研究
・アジア太平洋地域を中心とする持続可能な発展のためのバイオ燃料利用戦略に関する研究
環境省 地球環境保全試験研究費 ・CDM植林が生物多様性に与える影響評価と予測技術の開発
・アジア陸域炭素循環観測のための長期生態系モニタリングとデータのネットワーク化促進に関する研究
・チベット高原を利用した温暖化の早期検出と早期予測に関する研究
・民間航空機を活用したアジア太平洋域上空における温室効果気体の観測
・アルボウイルス、水系細菌叢、媒介生物のモニタリングによる温暖化の影響評価に関する研究
環境技術開発等推進費 ・クリーン開発メカニズム適用のためのパームオイル廃液(POME)の高効率の新規メタン発酵プロセスの創成
・浚渫窪地埋め戻し資材としての産業副産物の活用‐住民合意を目安とした安全性評価に関する研究
・次世代大気モニタリングネットワーク用多波長高スペクトル分解ライダーの開発
・有機フッ素化合物の発生源・汚染実体解明、処理技術開発
廃棄物処理等科学研究費補助金 ・適正な国際資源循環を目指した製品中の有用物質および有害物質の管理のあり方に関する研究
・木質系バイオエタノール製造のためのコンバージミル連続粉砕技術開発
・循環型社会ビジョン実現に向けた技術システムの評価モデル構築と資源効率・環境効率の予測評価
・赤外線を用いた安全なアスベスト廃棄物溶融処理に関する研究
・海岸流木のリサイクルに向けたシステム提案
・焼却灰及びばいじんにおけるレアメタルの賦存量とその回収に関する研究
地球温暖化対策技術開発事業 ・都市型バイオマスエネルギー導入技術に係る学園都市東広島モデルの技術開発・実証事業
・パイロコーキング技術による木質系バイオコークの製造技術とSOFC発電適用システムの開発
・兵庫県南部における統合型・省エネ型酵素法によるバイオ燃料製造に関する技術開発
・カーボンフリーBDFのためのグリーンメタノール製造及び副産物の高度利用に関する技術開発
・バイオエタノール製造におけるエネルギーコスト削減のための超音波濃縮に関する技術開発
・寒冷地におけるバイオエタノール混合自動車燃料需要拡大のための自動車対応と流通に関する技術開発
・食品廃棄物のバイオ水素化・ガス化に関する技術開発
・資源用トウモロコシを利用した大規模バイオエタノール製造拠点形成推進事業
・高効率熱分解バイオオイル化技術による臨海部都市再生産業地域での脱温暖化イニシアティブ実証事業
・乾式メタン発酵法活用による都市型バイオマスエネルギーシステムの実用化に関する技術開発
・バイオエタノール製造用のセルラーゼ生産の製品化開発
・固体酸触媒を用いた新しいセルロース糖化法に関する技術開発
・みかん搾汁残さを原料としたバイオエタノール効率的製造技術開発研究
・中山間地域におけるバイオオイルの利活用ネットワーク構築のための技術開発
公害防止等調査研究費 ・衛星搭載用観測研究機器製作費
公害防止等試験研究費 ・海域と陸域の一体的な保全に資する統合的管理手法に関する研究
水・大気環境局 ・環境ナノ粒子の生体影響に関する調査研究
環境保健部 ・POPs汚染実態解析調査
・国際的観点からの有害金属対策戦略策定基礎調査
・化学物質の有害性分類・ラベル調査及びラベル情報の提供
国立環境研究所 ・温室効果ガスの長期的濃度変動メカニズムとその地域特性の解明
・衛星利用による二酸化炭素等の観測と全球炭素収支分布の推定
・気候・影響・土地利用モデルの統合による地球温暖化リスクの評価
・脱温暖化社会の実現に向けたビジョンの構築と対策の統合評価
・近未来の資源循環システムと政策・マネジメント手法の設計・評価
・資源性・有害性をもつ物質の循環管理方策の立案と評価
・廃棄物系バイオマスのWin‐Win型資源循環技術の開発
・国際資源循環を支える適正管理ネットワークと技術システムの構築
・化学物質暴露に関する複合的要因の総合解析による暴露評価
・感受性要因に注目した化学物質の健康影響評価
・環境中におけるナノ粒子等の体内動態と健康影響評価
・生物多様性と生態系機能の視点に基づく環境影響評価手法の開発
・アジアの大気環境評価手法の開発
・東アジアの水・物質循環評価システムの開発
・流域生態系における環境影響評価手法の開発

4 ナノテクノロジー・材料分野

 ナノテクノロジー・材料分野は、ライフサイエンス、情報通信、環境などの分野における科学技術の進歩や課題解決に貢献し、産業の振興や人間の豊かな暮らし、安全・安心で快適な社会などを実現する重要な技術シーズである。

(1) ナノエレクトロニクス領域

 文部科学省では、シリコンデバイスの限界を打ち破る論理演算デバイスや、従来の100倍以上の記録密度を持つ情報メモリ、次世代の電子顕微鏡要素技術の開発等を進めている。また、物質・材料研究機構において、ナノテク活用情報通信材料の開発を行っている。
 経済産業省では、低損失・高機能な偏光制御部材等の光学素子を実現するため、近接場光を動作原理としたナノエレクトロニクス技術の開発を行っている。

(2) ナノバイオテクノロジー・生体材料領域

 文部科学省では、世界に開かれたナノバイオテクノロジー研究拠点の構築を行っている。また、物質・材料研究機構において、ナノテク活用バイオ材料の開発を行っている。
 農林水産省では、ナノテクノロジー技術を活用し、新たな食品素材を開発するための加工・評価技術の開発に取り組んでいる。
 経済産業省では、平成17年度から細胞の機能変化をとらえ、がんの超早期発見に資する分子イメージング機器や、がん細胞のみをピンポイントに治療する機器の開発を行っている。
 環境省では、バイオナノ協調体による有害化学物質の高感度・迅速検出技術の開発等を実施している。

(3) 材料領域

 総務省消防庁では、戦略重点科学技術として消防防護服にナノテクノロジー素材等を活用するための要素開発を行うとともに、耐熱性等の性能機能の評価方法について研究を行っている。
 文部科学省では、ナノスケールで構造設計・制御された革新的な触媒の開発や、物質・材料の特性・機能を決める元素の役割を科学的に解明し、希少元素の代替や使用量削減のための技術開発を行う「元素戦略」等を経済産業省とも連携しつつ推進している。また、物質・材料研究機構において、環境・エネルギー材料の高度化のための研究開発、高信頼性・高安全性材料の研究開発等を推進している。
 経済産業省では、ナノレベルで構造制御された高級鋼材の特性を活(い)かす更なる信頼性向上、高強度化及び軽量化を図るため、ナノスケールで組織制御を行う溶接技術及び鍛造技術に係る基盤的加工技術の開発を行っている。
 環境省では、ナノテクノロジーによる小型化・高機能化のメリットを活(い)かした環境技術の開発等を実施している。

(4) ナノテクノロジー・材料分野推進基盤領域

 文部科学省では、原子レベルの超微細構造や化学反応の超高速動態・変化を瞬時に計測・分析することを可能とする「X線自由電子レーザー」について、平成23年度からの共用開始を目指し整備を進めている。また「ナノテクノロジー・ネットワークプロジェクト」により、大学や独立行政法人等の研究機関が有する先端的な研究施設・機器の共用化を進め、分野融合を促進し、イノベーションにつながる成果の創出を進めている。
 経済産業省では、我が国産業の技術力及び国際競争力向上のために川上産業と川下産業との垂直連携、異業種・異分野の連携を強化する「ナノテク・先端部材実用化研究開発プロジェクト」を実施している。

ナノテクノロジー・材料分野推進基盤領域

超伝導体は磁場に対して弱いため、従来の銅系の超伝導物質では応用領域に限界があったが、磁場に強い鉄系の超伝導体が発見され、従来の超伝導体を超える新しい物質として注目されている。
写真提供:東京工業大学

(5) ナノサイエンス・物質科学領域

 文部科学省では、理化学研究所において、ナノレベルの物性機能の制御と創成、電子の交差相関を活用した電子材料の技術革新、光を用いたナノスケールの構造観察等の基礎的・基盤的な研究を実施している。このほか、大学、独立行政法人等において広範な分野にわたり基礎的な研究を実施している。
 なお、平成20年度におけるナノテクノロジー・材料分野の主な研究課題は第2‐2‐4表のとおりである。

第2‐2‐4表 ナノテクノロジー・材料分野の主な研究課題(平成20年度)

府省名 研究機関等 研究課題
総務省 情報通信研究機構等 ・ナノ技術を活用した超高機能ネットワークの研究開発
・ナノICTに関する研究開発
消防研究センター ・ナノテク消防防護服の要素開発及び評価手法に関する研究
文部科学省 ナノテクノロジー・材料を中心とした融合新興分野研究開発 ・元素戦略
・非シリコンデバイス系材料を基盤とした演算デバイスの開発
・超高密度情報メモリの開発
・バイオナノテクノロジー研究拠点の形成
・ナノ環境機能触媒の開発
・組織制御構造体の開発  
経済活性化のための研究開発プロジェクト(リーディング・プロジェクト) ・ナノ計測・加工技術の実用化開発(次世代の電子顕微鏡要素技術の開発)
・先端研究施設共用イノベーション創出事業(ナノテクノロジー・ネットワーク)
物質・材料研究機構 ・ナノテクノロジー共通基盤技術の開発
・ナノスケール新物質創製・組織制御
・ナノテクノロジーを活用する情報通信材料の開発
・ナノテクノロジーを活用するバイオ材料の開発
・環境・エネルギー材料の高度化のための研究開発
・高信頼性・高安全性を確保する材料の研究開発
理化学研究所 ・物質機能創成研究
・先端光科学研究
・エキゾティック量子ビーム研究
・分子アンサンブル研究
・動的水和構造と分子過程研究
・物質の創成研究
・極限エネルギー粒子観測装置の開発研究
厚生労働省 厚生労働科学研究費補助金(ナノメディシン研究) ・超微細画像技術(ナノレベル・イメージング)の医療への応用に関する研究
・低侵襲・非侵襲医療機器の開発に関する研究
・疾患の超早期診断・治療システムの開発に関する研究
農林水産省 農業・食品産業技術総合研究機構 ・食品素材のナノスケール加工及び評価技術の開発
国土交通省 大臣官房技術調査課 ・高強度鋼等の革新的構造材料を用いた新構造建築物の性能評価手法の開発
総合政策局 ・ナノテクノロジーを活用した運輸分野における環境負荷低減に関する研究
経済産業省   ・高度分析機器開発実用化プロジェクト(新産業創造高度部材基盤技術開発)
・ナノエレクトロニクス半導体新材料・新構造技術開発‐うち新材料・新構造ナノ電子デバイス
・希少金属代替材料開発プロジェクト
・ナノエレクトロニクス半導体新材料・新構造技術開発
産業技術総合研究所 ・自己組織制御とその応用技術
・省エネルギー型建築部材の開発
・ナノシミュレーション技術の開発
・有機ナノチューブ大量合成・高度化研究開発
新エネルギー・産業技術総合開発機構 ・鉄鋼材料の革新的高強度・高機能化基盤研究開発
・次世代DDS型悪性腫瘍治療システムの研究開発事業
・分子イメージング機器研究開発プロジェクト
・ナノテク・先端部材実用化研究開発
・カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト
・スピントロニクス不揮発機能技術プロジェクト
・異分野異業種融合ナノテクチャレンジ
・ナノエレクトロニクス半導体新材料・新構造技術開発‐うち窒化物系化合物半導体基板・エピタキシャル成長技術の開発
・循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト
・三次元光デバイス高効率製造技術
・マグネシウム鍛造部材技術開発プロジェクト(新産業創造高度部材基盤技術開発)
・先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発(新産業創造高度部材基盤技術開発)
・次世代高度部材開発評価基盤の開発(新産業創造高度部材基盤技術開発)
・超フレキシブルディスプレー部材技術開発(新産業創造高度部材基盤技術開発)
・低損失オプティカル新機能部材技術開発(新産業創造高度部材基盤技術開発)
・次世代光波制御材料・素子化技術(新産業創造高度部材基盤技術開発)
・革新的マイクロ反応場利用部材技術開発(新産業創造高度部材基盤技術開発)
・高機能複合化金属ガラスを用いた革新的部材技術開発
環境省   ・ナノテクノロジーを活用した環境技術開発推進事業

5 エネルギー分野

 我が国は、「エネルギー政策基本法」(平成14年6月法律第71号)に基づく「エネルギー基本計画」(平成19年3月閣議決定)を定め、エネルギーの需給に関する施策を長期的、総合的かつ計画的に推進している。

(1) エネルギー源の多様化

(原子力エネルギーの利用の推進)
 原子力エネルギーは、発電過程において二酸化炭素を排出せず地球温暖化対策に資するほか、供給安定性に優れている準国産エネルギーである。今日では、原子力発電は我が国の総発電電力量の約3割を占め、今後とも基幹電源として位置付け推進していくこととしている。
 我が国の原子力の研究、開発及び利用は、「原子力基本法」(昭和30年12月制定)にのっとり、厳に平和目的に限り安全の確保を前提に行っており、政府は「原子力政策大綱」(平成17年10月)や「エネルギー基本計画」の下、原子力の研究開発利用を着実に推進している。

1.次世代軽水炉
 現在、我が国の原子炉の主流である軽水炉については、2030年(平成42年)前後から見込まれる国内既設原子力発電所の大規模な代替需要に備え、世界市場で競争力を有する日本発の次世代軽水炉を官民一体となって開発を進めている。平成20年には総合科学技術会議が策定した「環境エネルギー技術革新計画」において「削減効果の大きい革新的技術」に位置付けられ、戦略的な研究開発に取り組むこととされた。

2.高速増殖炉(FBR)(1)サイクル技術
 高速増殖炉は、発電しながら消費した燃料以上の燃料を生産することによりウラン資源の利用効率を飛躍的に高め、我が国のエネルギー安定供給に大きく貢献するものである。また、使用済燃料に含まれるマイナーアクチニドを燃料として再利用すること等によって高レベル放射性廃棄物の発生量を削減することが可能であり、発生エネルギー当たりの環境負荷を低減できる可能性が生じるという観点からも開発意義が高い。
 このため、高速増殖炉サイクル技術は、「第3期科学技術基本計画」に基づく「分野別推進戦略」(平成18年3月)において、「戦略重点科学技術」及び「国家基幹技術」に、さらに「環境エネルギー技術革新計画」(平成20年5月)において、「削減効果の大きい革新的技術」に位置付けられ、戦略的な研究開発に取り組むこととされている。また、政府は、「エネルギー基本計画」(平成19年3月)において、高速増殖炉サイクル技術を「国として最重点課題の一つとして推進する」としている。
 高速増殖炉サイクル技術の研究開発については、その実用化に向けて、現在、高速増殖炉サイクルの実用施設に採用する革新技術を平成22年(2010年)に決定し、実用施設及びその実証施設の概念設計を平成27年(2015年)に提示することを目指す「高速増殖炉サイクル実用化研究開発」を実施している。その後、平成37年(2025年)ごろの実証施設の実現及び平成62年(2050年)よりも前の商業炉の開発を目指している(第2‐2‐5図)。  

高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)

高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)
写真提供:日本原子力研究開発機構


1 FBR:Fast Breeder Reactor

第2‐2‐5図 高速増殖炉サイクルの研究開発計画

第2‐2‐5図 高速増殖炉サイクルの研究開発計画

 また、高速増殖原型炉「もんじゅ」は、高速増殖炉サイクル技術の研究開発の場の中核と位置付けられており、早期に運転を再開し、10年程度以内を目途に発電プラントとしての信頼性の実証及びナトリウム取扱技術の確立等の所期の目的を達成する必要がある。そのために、日本原子力研究開発機構は、平成19年5月に改造工事を完了し、プラント全体の健全性の確認試験を行うなど、運転再開に向け安全を第一として取り組んでいる。
 さらに、研究開発側と導入者側とが連携協力し、研究開発段階から実証・実用化段階に円滑な移行を図ることが今後の実用化に向けて重要であるとの認識の下、経済産業省、文部科学省、電気事業者、メーカー、日本原子力研究開発機構の関係者からなる、「高速増殖炉サイクル実証プロセスへの円滑移行に関する五者協議会」において、高速増殖炉開発体制整備及び軽水炉サイクルから高速増殖炉サイクルへの移行に関する検討などを実施している(第2‐2‐6図)。

第2‐2‐6図  基本設計までの高速増殖炉研究開発体制

第2‐2‐6図  基本設計までの高速増殖炉研究開発体制

3.ウラン濃縮・新燃料
 エネルギー資源の大部分を輸入に依存する我が国は、将来の世界のエネルギー需要を展望し、長期的なエネルギー安定供給の確保と環境への負荷の低減を図るため、使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム等を有効利用する核燃料サイクルの確立に向けた取組を進めている。
 プルトニウム利用に当たっては、核拡散についての国際的な疑念を生じないよう、核物質管理に厳重を期すことはもとより、利用目的のないプルトニウムを持たないとの原則を一層明らかにする観点から、毎年、「我が国のプルトニウム管理状況」を内閣府が原子力委員会に報告・公表するなど(平成20年は9月9日に報告)、プルトニウム利用の徹底した透明化を進めている。
 エネルギー安定供給確保の観点から我が国の軽水炉に必要となるウラン資源や核燃料サイクル各工程の役務を将来にわたって安定的に確保していくために、原子力発電の燃料である濃縮ウランについては、経済性を考慮しつつ、国内でもウラン濃縮事業を展開している。現在、平成22年度末からの導入を目指し、より高性能で経済性に優れた新型遠心分離機の研究開発を官民一体となって進めている。

4.使用済燃料再処理技術
 我が国は、使用済燃料の再処理を国内で行うことを原則とし、青森県六ヶ所村に我が国初の商業用再処理工場(年間再処理能力800tU)を建設し、平成21年8月の竣工(しゅんこう)を目指して、使用済燃料を用いた最終的な試験(アクティブ試験)を実施している。六ヶ所再処理工場の建設・運転により商業規模での再処理技術の着実な定着を目指しており、核燃料サイクルの確立に向けた展開を図っている。
 また、現在、東海再処理施設では、新型転換炉「ふげん」の使用済燃料の再処理を実施している。

東海再処理施設

東海再処理施設
写真提供:日本原子力研究開発機構

5.高レベル放射性廃棄物等の地層処分
 戦略重点科学技術である高レベル放射性廃棄物等の地層処分技術については、信頼性等のより一層の向上を目指す研究開発を継続的に推進することにより、処分事業を進めることや、国による安全規制を支える上で不可欠である。現在、日本原子力研究開発機構を中心に、関係研究機関との密接な協力の下、研究開発を進めており、日本原子力研究開発機構では、岐阜県瑞浪市(結晶質岩)及び北海道幌延町(堆積岩)において深地層の研究施設計画を推進している。

6.原子力施設の廃止措置、放射性廃棄物処理・処分
 原子力施設の廃止措置及び放射性廃棄物の処理処分については、原子力施設の設置者及び放射性廃棄物の発生者としての責任において計画的かつ効率的に進めていくことが重要である。日本原子力研究開発機構においては、発生する放射性廃棄物の安全で合理的な廃止措置や放射性廃棄物の処理・処分、放射性廃棄物量の低減や資源の再利用の実現に必要となる技術の開発を進めており、平成15年3月に運転を終了した新型転換炉「ふげん」については、平成20年2月に原子炉廃止措置研究開発センターに改組し、安全性実証等の調査研究を行いつつ、機器等の解体を順次実施し、平成40年度までに完了する予定としている。

7.核融合エネルギー
 核融合エネルギーは、燃料資源が海水から入手可能なため、燃料資源の枯渇(こかつ)のおそれがないことや、発電の過程において温室効果ガスを排出しないこと、少量の燃料から大規模な発電が可能(1gの燃料から石油8トンに相当するエネルギーを生成)であることから、エネルギー問題と地球環境問題を同時に解決する将来のエネルギー源の1つとして期待されている。この核融合エネルギーについては、国際協力を効率的に活用しながら、日本原子力研究開発機構、核融合科学研究所、大学等が、相互に連携・協力して研究開発を推進している。
 国内においては、トカマク方式(1)(日本原子力研究開発機構、臨界プラズマ試験装置JT‐60(平成20年8月、超伝導化改修に向け運転停止))、ヘリカル方式(2)(核融合科学研究所、大型ヘリカル装置LHD)、レーザー方式(3)(大阪大学レーザーエネルギー学研究センター、激光10.2.号)の3方式による研究開発を進め、世界を先導する成果を上げている。

臨界プラズマ試験装置JT‐60

臨界プラズマ試験装置JT‐60
写真提供:日本原子力研究開発機構

大型ヘリカル装置LHD

大型ヘリカル装置LHD
写真提供:核融合科学研究所

爆縮レーザー「激光10.2.号」(右)と加熱レーザー「LFEX」(左)

爆縮レーザー「激光10.2.号」(右)
と加熱レーザー「LFEX」(左)
写真提供:大阪大学

ITER(国際熱核融合実験炉)

ITER(国際熱核融合実験炉)
提供:ITER機構

 さらに、我が国は、核融合エネルギーの科学的及び技術的可能性の実証を目指したITER(イーター:国際熱核融合実験炉)計画(4)に主導的に参画するとともに、ITER計画を補完・支援する先進的研究開発プロジェクトである幅広いアプローチ活動を、日欧協力により我が国で実施している。現在、両事業において我が国が調達を担当する機器の製作や幅広いアプローチ活動の六ヶ所サイトの整備を着実に進めている。


1 トカマク方式:コイルとプラズマ電流がつくる磁場によりねじれた磁場をつくり出すことで、加熱プラズマを閉じこめ、核融合反応を起こす方式

2 ヘリカル方式:コイル自身をねじり、ねじれた磁場をつくり出すことで、加熱プラズマを閉じこめ、核融合反応を起こす方式

3  レーザー方式:レーザーを照射して爆縮された超高密度の核融合燃料を、超高強度レーザーで加熱することによって、核融合反応を起こす方式

4 ITER計画:日本・欧州・米国・ロシア・中国・韓国・インドの7極の協力の下、フランスにおいて、核融合実験炉の建設・運転を行う国際共同研究開発プロジェクト

8.原子力基礎・基盤研究開発
 原子力基礎・基盤研究開発は、原子力利用に係る技術基盤を高い水準に維持するとともに、新たな知識や技術を創出するなど、原子力の利用と発展を支えるものとして重要である。日本原子力研究開発機構では、核工学・炉工学研究、燃料・材料工学研究、環境・放射線工学研究、先端基礎研究、高度計算科学技術研究等の基礎・基盤研究を行っている。また、文部科学省では、基礎的・基盤的研究の充実・強化を図るため、政策ニーズを明確にしたより戦略的なプログラム・テーマを設定し、競争的環境の下に研究を推進することを目的とした競争的資金「原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ」を平成20年度に立ち上げた。

9.核不拡散への取組
 我が国では、1975年(昭和50年)に核不拡散条約(NPT)を批准したことに対応して、IAEAと1977年(昭和52年)に包括的保障措置協定を締結し、核物質が核兵器等に転用されることを防止するための手段であるIAEAの「保障措置」を受け入れるとともに、関係法令に基づき国内保障措置体制を整備した。また、国際的な指針を踏まえて核物質の盗取や原子力施設への妨害破壊行為を防ぐための「核物質防護」を実施しているほか、これらに必要な技術開発を進めている。
 保障措置については、協定締結以降、IAEAより「申告された核物質の核兵器等への転用はない」旨の結論を得てきた。また、1999年(平成11年)には追加議定書を締結し、IAEA保障措置の強化・効率化に積極的に対応した結果、2004年(平成16年)に発表されたIAEAの保障措置声明において、2003年(平成15年)の我が国について、未申告の核物質が存在せず「すべての核物質が平和的活動の中にとどまっている」との結論が初めて得られ、以後同結論が維持されている。この結論により、査察回数の削減によりIAEA保障措置を効率化する「統合保障措置」を実施し、2008年には、「統合保障措置」を効果及び効率の面で一層進化させるため、世界で初めてプルトニウムを扱う施設を含む『サイト統合保障措置手法』を開発し、JNC‐1サイト(日本原子力研究開発機構)において実施した。
 また、2009年(平成21年)に本格操業の開始が予定されている六ヶ所再処理施設では、保障措置法の高度化及び保障措置機器の性能確認等を行っている。さらに、今後着工が予定されている六ヶ所MOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料加工施設において効果的・効率的な保障措置を実施するため、同施設の統合保障措置手法の確立に向けた検討を行っている。我が国は、今後も引き続き着実な保障措置を実施しつつ、効果的で効率的な国際保障措置の実現に貢献していくこととしており、このため、平成20年には、保障措置結論の導出において、一層主体的な役割を果たすための制度設計に着手した。
 また、日本原子力研究開発機構では保障措置や核不拡散関連の技術開発に積極的に取り組んでいる。さらに、核物質計量管理技術向上のための国際トレーニングコースを開催している。また我が国は、あらゆる核爆発を禁止する包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准しており、放射性核種に関する国際監視制度の整備等に取り組んでいる。

10.高温ガス炉等の革新的原子力システム
 日本原子力研究開発機構では、多様なエネルギー供給を可能とする高温ガス炉技術及び水素製造等の熱利用技術の確立を目的として、高温工学試験研究炉(HTTR)の試験運転による高温ガス炉の特性評価、水を熱分解することにより水素を製造するISプロセスの研究開発等を進めている。平成20年度には、HTTRにおいて次年度以降に計画している定格出力30MW、出口温度950℃での長期間運転及び冷却炉流量をゼロとする安全性実証試験のための準備を進めた。

高温工学試験研究炉(HTTR)

高温工学試験研究炉(HTTR)
(茨城県大洗町、大洗研究開発センター)
写真提供:日本原子力研究開発機構

(原子力安全の確保)
 原子力研究開発利用に当たっては、安全の確保が大前提であり、厳重な規制と管理、安全研究の実施等を通じて、安全確保に万全を期すことが必要である。また、事故発生の可能性を100%排除することはできないとの前提に立って、事故が生じた場合の周辺住民等の生命・健康等への被害を最小限度に抑えるための災害対策を整備する必要がある。
 我が国の原子力研究開発利用については、原子炉等規制法等に基づいて施設の設計・建設・運転の各段階において、他の産業分野には見られない国による厳しい安全規制を行っている。同様に、医療、農業、工業など様々な分野で利用されている放射性同位元素や放射線発生装置についても、その利用に伴う放射線障害を防止するため、放射線障害防止法に基づいた安全規制を実施している。
 原子力防災対策としては、「原子力災害対策特別措置法」に基づき、原子力防災専門官の配置、緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)の整備・維持、防災訓練の実施といった取組を行い、原子力防災対策の充実・強化を進めている。
 環境放射能調査としては、文部科学省を中心とした関係省庁、都道府県及び原子力事業者において、原子力施設周辺における放射能調査を引き続き実施しているほか、我が国の環境放射能水準に関する調査及び原子力艦寄港に伴う放射能調査等を行っている。原子力安全委員会では、平成19年度に「原子力の重点安全研究計画」(以下、「重点安全研究計画」という。)について進捗(しんちょく)状況や成果の活用状況等に関する中間評価を行い、その結果を踏まえ、平成20年6月に重点安全研究計画の改訂を行った。

(原子力科学技術の推進と原子力の研究・開発・利用の基盤整備)

1.量子ビームテクノロジーの推進
 加速器や高出力レーザー等を利用した量子ビームテクノロジーは、自然界の基本原理の探究といった学術研究から、産業応用に至るまで幅広い分野で利用されている。
 日本原子力研究開発機構と高エネルギー加速器研究機構が共同で建設・整備を進めている大強度陽子加速器施設(J‐PARC)は、世界最高レベルのビーム強度を持つ陽子加速器から生成される中性子、中間子、ニュートリノ等の二次粒子を利用して、生命科学、物質・材料科学、原子核・素粒子物理学等、幅広い分野における研究開発に寄与することが期待されており、平成20年12月より中性子ビームの供用を開始した。また、理化学研究所においては、水素からウランまでの全元素の放射性同位元素(RI)を世界最大の強度でビームとして発生させる加速器施設「RIビームファクトリー」計画を推進している。

大強度陽子加速施設(J‐PARC)(茨城県東海村)

大強度陽子加速施設(J‐PARC)(茨城県東海村)
写真提供:J‐PARCセンター

RIビームファクトリーの超伝導リングサイクロトロン

RIビームファクトリーの超伝導リングサイクロトロン
写真提供:理化学研究所仁科加速器研究センター

2.放射線利用の普及
 放射線は基礎・応用研究から医療、工業、農業等の実用に至る幅広い分野で活用されており、研究開発を進めつつ放射線利用の普及を図っていくことが重要である。
 各種分野における放射線利用の状況としては、医療分野において、放射線による診断やがん治療が一部実用化されている。例えば、粒子線による治療では、麻酔や切開を伴う手術の必要がないため患者への負担が少ないなどの利点がある。農業分野では、害虫防除や農作物の品種改良等に放射線照射が利用されている。また、植物中の水の動態や有害金属の蓄積過程の研究等の学術研究も行われている。工業分野では、半導体素子やラジアルタイヤなどの製造に放射線が利用されている。さらに多種多様な工業製品の改質・製造及び医療用具の滅菌等においても放射線照射が積極的に利用されている。

3.原子力人材の育成・確保
 安全の確保を図りつつ原子力の研究開発及び利用を進めていくためには、これらを支える優秀な人材を育成・確保していく必要がある。文部科学省及び経済産業省では、大学や高等専門学校の原子力技術者教育を支援する「原子力人材育成プログラム」を実施している。また、産学官が連携し、「原子力人材育成関係者協議会」において原子力技術者育成に関する検討等を進めている。

4.研究施設等廃棄物の処分
 現在、研究施設や医療施設等から発生する放射性廃棄物(研究施設等廃棄物)は、処分されずに各事業者において貯蔵されている状況であるが、この廃棄物の処分の実現は、将来にわたって原子力の研究、開発及び利用を円滑に推進していく上で重要な課題となっている。
 このため、研究施設等廃棄物の発生量が最も多く、かつ技術的知見を有する日本原子力研究開発機構が、自ら及び他の事業者の廃棄物を合わせて処分するという体制を整備すべく、平成20年6月に「独立行政法人日本原子力研究開発機構法」の一部が改正され(同年9月施行)、これを受けて、12月に文部科学省及び経済産業省が「埋設処分業務の実施に関する基本方針」を策定した。

5.信頼確保に向けた取組と立地地域との共生
 原子力研究開発利用の円滑な推進のためには、原子力に対する国民の信頼を得ることが極めて重要であり、原子力関係者が安全運転の実績を積み重ねていくとともに、国民との相互理解を図る努力が不可欠である。このため、広聴・広報活動を通じて国民との双方向の対話と透明性の確保を図るほか、教職員を対象とした原子力・エネルギーに関するセミナーや簡易放射線測定器の貸出し等により学校教育における取組を支援するなど、原子力に対する理解増進活動を行っている。
 また、立地地域と原子力研究施設の共生に向け、電源三法交付金等を活用し、立地地域が主体的に行う取組を支援している。

6.原子力国際協力
 平和利用、核不拡散、原子力安全、核セキュリティの確保を大前提として、我が国は積極的に原子力国際協力を行っている。
アジア諸国との原子力協力については、我が国が主導するFNCA(1)の枠組みの下、放射線の医学・農業・工業への応用及び原子力安全文化や放射性廃棄物等、原子力基盤整備に関するプロジェクトを実施するとともに、2008年(平成20年)11月にはフィリピンにおいて、大臣級会合を開催するなど、各国との連携強化を図っている。また、RCA(2)の枠組みの下、技術支援等を行うとともに、アジア諸国を対象に研究者交流や研修事業を実施し、アジア諸国における原子力関係者の資質向上を図っている。
 次世代原子力システムの研究開発については、GIF(3)に積極的に参画するとともに、特にナトリウム冷却高速炉については、日本原子力研究開発機構、フランス原子力庁及び米国エネルギー省との間で覚書を締結し、連携強化を図っている(4)。また、米国が提唱したGNEP(5)に我が国も参加し、運営グループの副議長を務めるなど、中心的役割を担っている。特に、日米間では、「日米原子力エネルギー共同行動計画」を策定し、GNEP構想に基づく研究開発や新規原子力発電所の建設支援等を進めている。このほか、IAEA、OECD/NEA(6)への特別拠出金事業等を通じた多国間協力を継続して行っている。


1 FNCA:Forum for Nuclear Cooperation in Asia(アジア原子力協力フォーラム)。アジア諸国が原子力技術の平和的で安全な利用を進め、社会・経済的発展を促進することを目指す枠組み。参加国は、日本、オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムの10か国

2 RCA:Regional Cooperative Agreement for Research, Development and Training Related to Nuclear Science and Technology(原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定)IAEA活動の一環として、アジア・太平洋地域の開発途上国を対象とした原子力科学技術に関する共同の研究、開発及び訓練の計画を、締約国間の相互協力及びIAEAとの協力により、促進及び調整することを目的とする枠組み。締約国は、日本、オーストラリア、バングラデシュ、中国、インド、インドネシア、韓国、マレーシア、モンゴル、ミャンマー、ニュージーランド、パキスタン、フィリピン、シンガポール、スリランカ、タイ、ベトナムの17か国

3 GIF:Generation‐4. International Forum(第4世代原子力システムに関する国際フォーラム)。次世代(第4世代)の原子力システムの研究開発を国際協力により進めるための取極に基づいた協力で、参加国は、日本、アルゼンチン、ブラジル、カナダ、中国、フランス、韓国、ロシア、南アフリカ共和国、スイス、英国、米国の12か国とEURATOM

4 日本原子力研究開発機構、フランス共和国原子力庁及び米国エネルギー省の間のナトリウム冷却高速実証炉の協力。2008年1月31日にナトリウム冷却高速実証炉開発への取組の協力を強化するため、日本原子力研究開発機構、フランス原子力庁(CEA)及び米国エネルギー省(DOE)は、実証炉の協力覚書に署名した。同年8月、この協力をより一層強化するため、覚書の改定が実施され、「もんじゅ」データの活用等の協力内容が追加された。

5 GNEP:Global Nuclear Energy Partnership(国際原子力エネルギー・パートナーシップ) 米国が提唱した、核不拡散を確保しつつ原子力発電を世界的に発展拡大させるための構想。現在のパートナー国は、日本、米国、フランス、中国、ロシア等、21か国

6 OECD/NEA:Organisation for Economic Co‐operation and Development / Nuclear Energy Agency(経済協力開発機構/原子力機関)

(再生可能エネルギー等の利用の推進)
 太陽光、バイオマス・廃棄物、風力等の再生可能エネルギーについては、現時点で出力の不安定性やコスト面での課題があるものの、地球温暖化対策に資することや資源制約が少ないなどの長所があることから、課題を解決し、導入・普及の促進を図るため技術開発を積極的に推進していくことが必要である。

1.太陽光発電
 太陽光発電は価格の低下等により導入が進みつつあるが、早期の市場自立化を実現するためには、なお一層のコストダウン技術の開発等が不可欠である。このため、経済産業省では低コスト・高効率化の実現に向けた技術開発を推進するとともに、リサイクル・リユース技術等の開発を進めている。

太陽光発電システム実証試験地区

太陽光発電システム実証試験地区
(群馬県太田市PalTown城西の杜)
写真提供:新エネルギー・産業技術総合研究所

2.バイオマスエネルギー
 「バイオマス・ニッポン総合戦略」(平成18年3月閣議決定)を踏まえ、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省において、家畜排せつ物、木質系廃棄物、有機汚泥、食品廃棄物等のバイオマスを活用し、高効率にエネルギー転換する技術等の研究開発を進めている。
 特にバイオ燃料については、北海道(2か所)や新潟県、大阪府、沖縄県宮古島等においてバイオエタノールの本格的導入に向けた大規模実証事業を実施するとともに、食料供給と競合しない稲わらや木材等のセルロース系原料等からエタノールを効果的に生産する技術開発を重点的に推進している。

(水素/燃料電池)
 環境特性に優れ、様々なエネルギー資源の利用が可能であるとともに、民生部門や運輸部門における省エネ効果が見込まれる燃料電池システム及びその燃料である水素の製造・貯蔵・輸送技術に関する研究開発の推進が必要である。
 特に、水素等の燃料と酸素の化学反応により直接電力を得る燃料電池は、高効率で温室効果ガスを排出しないことから、エネルギー・環境技術のキーテクノロジーとして期待されている。このため、経済産業省では燃料電池本体の要素技術の研究開発、水素燃料の製造・輸送・貯蔵等利用技術等の研究開発、大規模な家庭用燃料電池システムの実証や燃料電池自動車及び水素供給設備等の実証研究等を実施し、国土交通省では住宅等の建築物における燃料電池を活用した省エネルギーシステムの技術開発を支援している。

(化石燃料の開発・利用の推進)

1.石油
 原油の重質化(1)や石油製品需要の軽質化(2)への対応が求められており、製油所の高度化を促進するために、経済産業省では、重質油から付加価値の高い石油化学原料を得る技術をはじめとする革新的な石油精製技術の開発等を進めている。
 また、石油精製の高度化・効率化や石油コンビナートにおける異業種間の連携による省エネルギー・省資源の取組を進めるための技術開発が重要となっている。このため、経済産業省では、製油所におけるプロセスの効率化、石油コンビナートにおいて生ずる副生成物の有効活用等の技術開発を進めている。


1 重質化:比重の重い重質原油の比率が高くなること

2 軽質化:国内需要のうち、ガソリンや灯油などの比重の軽い石油製品の比率が比重の重い重油などの石油製品と比較して大きくなること

2.石炭
 石炭は石油等に比べ供給安定性に優れているが、他の化石エネルギーに比べ燃焼時の単位エネルギー当たりの二酸化炭素の排出量が多いことなどから、環境への負荷低減を図るための技術開発が必要である。このため、経済産業省では、二酸化炭素の排出量を抑制できる高効率な発電が可能な石炭ガス化複合発電(IGCC)や石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)等の石炭のクリーンな利用技術(クリーン・コール・テクノロジー)の開発を進めている。
 さらに、二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術について、中長期的な観点から研究開発を進めている。

3.天然ガス等
 天然ガスは他の化石エネルギーと比べて、燃焼時の単位エネルギー当たりの二酸化炭素の排出量が少ないなど環境負荷が小さいことから、その利用促進に資する研究開発を進めることが重要である。このため、経済産業省では、液体燃料等への形態変換により利用範囲の拡大を図ることを目指した天然ガス等の液体燃料化(GTL)やジメチルエーテル(DME)の製造・利用技術等に関する研究を進めている。また、日本近海に相当量の賦存(ふそん)が期待されているメタンハイドレートをエネルギー資源として利用するため新たな採取技術の開発を進めている。

(2) 省エネルギー対策の推進

 地球温暖化防止、有限なエネルギー資源の有効活用などの観点から、個々の機器、要素技術の効率性向上とともに、未利用エネルギーの活用など社会システム全体においてエネルギー供給及び利用の効率性向上等を図るための研究開発を推進することが重要である。また、各種製品の生産、利用、再利用、廃棄及び各種サービス等で直接・間接に消費されるすべてのエネルギー(ライフサイクルエネルギー)の低減を視点とした研究開発を推進することが必要である。
 このため、経済産業省では、省エネルギー技術開発の実効性を高めるために、シーズ技術の発掘から実用化に至るまでの省エネルギー技術戦略を構築し、同戦略に沿って研究開発等を戦略的に進めている。

(3) その他

 エネルギーと環境の問題は、自然科学と社会科学の両面からの研究を必要とする総合的な課題である。平成20年度におけるエネルギー分野(原子力以外)の主な研究課題は第2‐2‐7表のとおりである。

第2‐2‐7表  エネルギー分野(原子力を除く)の主な研究課題(平成20年度)

府省名 研究機関等 研究課題
総務省 消防庁 ・新技術・新素材の活用等に対応した安全対策の確保
文部科学省 大学等 ・新エネルギー・省エネルギーに関する研究
・従来型に比べて高性能・低コストな燃料電池の開発
物質・材料研究機構 ・超高温で長時間の使用に耐える新耐熱材料の開発
・エネルギーの効率利用に寄与する、加工性に優れた超軽量・高強度の構造材料の開発
農林水産省 農業・食品産業技術総合研究機構 ・地域活性化のためのバイオマス利用技術の開発
経済産業省   ・燃料電池システム等実証研究
・省資源低環境負荷型太陽光発電システムの開発
・原油の重質化などに対応した革新的な石油精製等技術の開発
・コンビナート域内における石油精製の高度機能を融合させる技術の開発
・水素エネルギー技術の開発
・液体燃料化天然ガス、ジメチルエーテル燃料関連技術の開発
・メタンハイドレート技術開発
・クリーン・コール・テクノロジーの研究開発
・噴流床石炭ガス化発電プラントの開発・省エネルギー技術の開発
‐CO 2ヒートポンプ給湯器の高効率化・小型化の研究開発
‐高効率ガスタービン実用化要素技術の開発
‐有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)を用いた高効率照明の開発
‐カーボンナノチューブを利用した電気二重層蓄電器開発
‐自動車軽量化のための炭素繊維強化複合材料の研究
‐次世代低消費電力半導体に関する基盤技術の開発
‐高性能パワーデバイス(電力素子)によるインバータの基盤技術の開発
・分散型エネルギーシステムの平準化に関する基盤技術の開発
・二酸化炭素固定化・有効利用に関する技術の開発
産業技術総合研究所 ・分散型エネルギーネットワーク技術の開発
・クリーンディーゼル等の新燃料技術の開発
・木質系バイオマスからのエタノール製造技術の開発
新エネルギー・産業技術総合開発機構 ・小型可搬電源となり得る小出力燃料電池の技術開発
・定置用燃料電池の大規模な実証
・イオン交換膜を電解質として用いる燃料電池(固体高分子形燃料電池)の実用化に向けた技術開発
・水素社会の構築に関する共通基盤の整備
・石炭のガス化や石炭からの水素製造に関する技術の開発
・水素の安全利用等に関する基盤技術の開発
・新エネルギー技術の研究開発
・次世代蓄電池システムの実用化に向けた技術開発
・風力発電電力系統安定化等技術開発
・エタノール3%混合ガソリン(E3)普及に関する大規模実証
・超電導応用基盤技術の研究開発
・エネルギー利用の合理化
・環境調和型製鉄プロセス技術開発
石油天然ガス・金属鉱物資源機構 ・石油、天然ガスの開発・利用促進
国土交通省 住宅局 ・住宅等の建築物における燃料電池を活用した省エネルギーシステムの技術の開発
海上技術安全研究所 ・船舶からの二酸化炭素の排出による地球温暖化の防止に資する研究
・国際的な課題となっている外航海運のCO2の排出量算定手法の構築のための研究
港湾空港技術研究所 ・沿岸および洋上における風況出現特性の把握と風力エネルギー活用に関する研究

6 ものづくり技術分野

 製造業(ものづくり)は、全産業の中でも最も国際競争力のある分野であり、我が国の生命線である。また、他産業への波及効果が大きく、経済成長の原動力となっている。
 第3期科学技術基本計画においては、従来の製造技術の開発にとどまることなく、「もの」の価値を押し上げるような科学技術の発展を目指す、価値創造型ものづくり力強化という視点を鮮明にした「ものづくり技術分野」を推進している。

(1) 共通基盤的なものづくり技術の推進

 文部科学省では、戦略重点科学技術として、世界最先端の研究者やものづくり現場のニーズにこたえられるオンリーワン/ナンバーワンの先端計測分析技術・機器の開発等を推進している。
 また、緊密な産学連携体制を構築し、ものづくり分野を中心とした、高性能・精緻化した最先端の複雑・大規模シミュレーションソフトウェアの研究開発を推進している。
 経済産業省では、自動車、情報通信、安全・安心、環境、医療など多様な分野における小型・高精度で省エネルギー性に優れたマイクロ電子機械システム(MEMS)製造技術を確立する、高集積・複合MEMS製造技術開発を推進している。さらに、MEMS技術とバイオ、ナノ技術とを融合させ、革新的次世代デバイスの創出を目指す、異分野融合型次世代デバイス(BEANS)製造技術開発を行っている。また、製造分野などで活用されるロボット技術の開発を推進している。これらの取組により、ものづくりのイノベーション創出を支えている。

(中小企業のものづくり基盤技術の高度化)
 我が国製造業の国際競争力の源泉は、鋳造、鍛造、めっきなど、ものづくりの基盤となる優れた技術を有する中小企業が、製品・部品の開発・生産過程において、川下の企業と密接な摺(す)り合わせを実施している点にある。
 しかし、こうした中小企業は、技術の高度化・専門化による技術開発リスクの上昇など、様々な課題に直面している。このため、経済産業省においては、基盤技術に関する研究開発への支援を展開するとともに、課題解決のための環境整備として川上・川下産業間の情報共有の促進等を行った。

1.ものづくり中小企業の研究開発支援
 「中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律」(平成18年法律第33号)に基づき策定されている「特定ものづくり基盤技術高度化指針」のうち、組込みソフトウェア、金型、電子部品・デバイスの実装、プラスチック成形加工、粉末冶金、鍛造、鋳造、金属プレス加工、熱処理に係る技術に関する指針の変更を行った。
 また、指針に基づき中小企業が作成した特定研究開発等計画を国が認定し、支援した。
 さらに、中小企業が行う革新的かつハイリスクな研究開発や、生産プロセスイノベーション等を実現する研究開発を支援するとともに、中小企業が特定研究開発等計画の成果を特許化する場合の費用の軽減、日本政策金融公庫による低利融資等を行った。

2.ものづくり中小企業の研究開発支援
 基盤技術を担う中小企業と産業との連携・すり合わせをコーディネートする人材の配置や、両者の情報交換の場の創設など、中小企業と川下企業の「出会いの場」の創出に向けた取組を支援した。
 また、ものづくり中小企業が保有する熟練技能者の暗黙知となっていた設計・加工ノウハウ等をデジタル化・体系化し蓄積することを可能にする、汎用(はんよう)性の高いソフトウェアを開発した。あわせて、蓄積されたノウハウ等を生産活動で活用するために、業務用ソフトウェア(生産管理、品質管理、出荷管理等)を設計する知識のない中小製造業者が自ら作成可能となる支援ツールを開発することにより、中小企業の基盤技術継承を支援した。
 全国の商工会・商工会議所を「知財駆け込み寺」として、相談取次窓口機能を整備するとともに、知的財産を中核に据えた企業活動の普及を目的としたセミナーを各地で実施した。

(2) 革新的・飛躍的発展が見込まれるものづくり技術の推進

 経済産業省では、技術戦略マップに沿ったミッション志向型の競争的な先端ロボットの技術開発等(産業用、サービス、特殊環境用)を行う「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト」を実施している。
 このような取組はものづくりプロセスの革新的、飛躍的発展につながり、産業競争力、国際競争力に大きく貢献することが期待される。

(3) 人材育成、活用と技能継承・深化

 ものづくりは我が国の生命線ともいえる分野であるが、ものづくりを支える人材面で質的・量的不足が深刻化している。
 その問題を解決するために、文部科学省では初等中等教育から高等教育、生涯学習においてまで、人材育成に関する制度面の整備や多様な創造的施策に取り組んでいる。
 初等中等教育段階においては、学習指導要領に基づき、小学校段階から関係教科の中でものづくりに関する教育が行われている。特に、専門高校では、地域産業界との連携により、地域の特徴に応じた専門的職業人を育成する「地域産業の担い手育成プロジェクト」が行われている。
 高等教育段階においては、「産学連携による実践型人材育成事業‐ものづくり技術者育成‐」により、大学等を対象に、地域や産業界と連携した実験・実習と講義の有機的な組合せによる教育プログラムの開発・実施を通じ、ものづくりを革新させる高度な知識及び技術を併せ持ったものづくり技術者の育成を図っている。また、高等専門学校においては、「アイデア対決・高専ロボットコンテスト」等の取組を通じ、ものづくりの魅力を伝えるとともに、公開講座等を開催し、ものづくり技術を地域社会に広く提供している。
 生涯学習分野においては、大学等において、社会人の受入れや実践的な教育プログラムの提供を通じ、社会人のキャリアアップの機会を提供している。また、公民館や博物館等を活用した取組や、教育機関の教室を開放するなどの取組を通じて、子どもたちが地域でものづくりの体験や学習する機会を提供し、ものづくりを支える人材の育成を図っている。さらに、ものづくり人材育成の施策を通じて、退職した団塊の世代の知識や経験を、次世代に後継していくことで、高齢者の生きがいを見いだし、退職後の人生を豊かにするという面も有している。
 平成20年度におけるものづくり技術分野の主な研究課題は第2‐2‐8表のとおりである。

第2‐2‐8表 ものづくり技術分野の主な研究課題(平成20年度)

府省名 研究機関等 研究課題
文部科学省   ・イノベーション創出の基盤となるシミュレーションソフトウェアの研究開発
科学技術振興機構 ・先端計測分析技術・機器開発事業
理化学研究所 ・先端的ITにおける技術情報統合化システムの構築に関する研究
経済産業省   ・異分野融合型次世代デバイス製造技術開発プロジェクト
新エネルギー・産業技術総合開発機構 ・高集積・複合MEMS製造技術開発プロジェクト
・超フレキシブルディスプレイ部材技術開発・次世代光波制御材料・素子化技術
・三次元光デバイス高効率製造技術
・戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト

7 社会基盤分野

 社会基盤分野は、国民生活を支える基盤的分野である。豊かで安全・安心な社会を実現するために、社会の抱えているリスクの軽減や、国民の利便性の向上に資する研究開発を推進している。

(防災)
 平成20年度も、「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震」や岩手県沿岸北部の地震、7月から8月にかけての集中豪雨、中国四川省での大地震等、国内外において多大な被害を伴う自然災害が発生しており、これらの自然災害による被害の軽減に向けて、地震・火山調査研究や、防災科学技術の研究開発を推進していくことは極めて重要である。
 我が国の地震調査研究については、地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号)に基づき設置された地震調査研究推進本部(本部長:文部科学大臣。以下「地震本部」という。)の定める「地震調査研究の推進について(平成11年4月)」等の方針の下、関係行政機関等が密接な連携・協力を行い推進している。なお、地震本部では、平成21年度からの新たな10年計画「新たな地震調査研究の推進について」の策定に向けた検討を進め、平成21年4月に最終報告を決定した。新たな計画では、地震被害を最小限に抑えることのできる社会の構築を目指し、今後30年間程度を見通しつつ、当面10年間で、海溝型地震や活断層を対象とした地震調査研究を総合的かつ戦略的に推進し、その成果を防災・減災対策に効果的に結びつけること等を掲げている。

今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率の分布図

今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率の分布図
資料提供:地震調査研究推進本部

 一方、地震・火山噴火予知研究については、平成20年7月に科学技術・学術審議会において、初めて地震と火山とを統合した「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画の推進について」の建議が成され、地震本部が策定した新たな10年計画の中でも建議に基づく基礎的研究の重要性が位置付けられており、平成21年度以降、建議に基づいた研究が大学等において推進される予定である。
 文部科学省では、地震本部の方針等に基づき、全国の主要断層帯の評価結果等を基に、これまでの地震調査研究の成果を総合した「全国を概観した地震動予測地図」の改訂版を平成20年4月に公表した。また、糸魚川‐静岡構造線断層帯等を対象とした活断層調査や、宮城県沖等の海溝型地震を対象とした調査観測、首都直下地震の被害軽減に資するための「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト」、地震計、水圧計等を備えた海底ネットワークシステム「地震・津波観測監視システム」を東南海地震の想定震源域に敷設するための技術開発等を実施した。さらに、平成20年度より新たに、近年被害地震の多い日本海東縁部等のひずみ集中帯で発生する地震のメカニズム解明等を目指した「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究」、東海・東南海・南海地震による被害軽減を目指し、広域な海底地震観測やシミュレーション研究等を実施する「東海・東南海・南海地震の連動性評価研究」を開始した。
 「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震」及び中国四川省での大地震発生後は、科学研究費補助金による緊急調査研究を実施し、これらの地震に関する貴重なデータを取得した。
 文部科学省における防災科学技術の研究開発については、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会が平成18年7月に策定した「防災に関する研究開発の推進方策について」等に基づき推進している。なお、平成20年度より新たに、防災研究の知見を活(い)かした防災教育に関する取組を推進し、全国への普及を図る「防災教育支援推進プログラム」を開始した。また、安全・安心科学技術プロジェクトにおいて、平成20年度より災害時の情報システムの研究開発を行っている。
 防災科学技術研究所では、橋梁(きょうりょう)構造物等の破壊過程に関するデータを取得・蓄積するため、実大三次元震動破壊実験施設(E‐ディフェンス)を利用した耐震実験研究等、地震被害の軽減に資する研究開発を実施している。また、次世代型高性能レーダ(MPレーダ)(1)を用いた高精度の降雨予測や土砂・風水害の発生予測に関する研究、火山噴火予知と火山防災に関する研究等、自然災害による被害の軽減に資する研究を実施している。さらに、長期戦略指針「イノベーション25」(平成19年6月閣議決定)に掲げられた「社会還元加速プロジェクト」の一環として、国民一人ひとりにきめ細かい災害情報を届けるため、各種自然災害の情報を集約し、利用目的に応じた形で配信するシステム「災害リスク情報プラットフォーム」の開発に関する研究を平成20年度より新たに開始した。
 宇宙航空研究開発機構では、平成18年1月に打ち上げられた陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)を運用し、大規模自然災害の被災地の観測や防災機関等への観測画像の提供を行っているほか、準天頂衛星を利用した高精度測位実験技術の研究開発等を行っている。これらは、国家基幹技術「海洋地球観測探査システム」の構成要素として技術開発・運用を行っており、我が国の総合的な安全保障に欠かせない全球規模での人工衛星による観測監視体制を確立し、国内外への貢献を目指しているものである。
 総務省消防庁では、地震発生時等における危険物施設の安全性の確保等に関する研究や災害の被害軽減技術及び災害対応技術の研究等について、消防研究センターを中心として消防防災に関する研究開発を推進している。
 産業技術総合研究所では、地下水等総合観測点の設置・運営に加え、沿岸域における地質調査や活断層等の調査を行って陸海を統合する地質情報のシームレスな整備を推進している。
 国土交通省では、「国土交通省技術基本計画」(平成20年4月国土交通省)に基づき、災害時への備えが万全な防災先進社会の実現に向けた技術研究開発を推進している。
 国土地理院では、電子基準点(2)によるGPS連続観測のほか、超長基線電波干渉計(VLBI)や干渉SAR等の最先端技術を用いた地殻変動やプレート運動の観測、さらには同観測データの分析を実施している。
 気象庁では、観測施設の設置・運営に加え、関係機関からの観測データも含めた一元的な情報提供を行っており、緊急地震速報については、更なる高度化のための技術開発を防災科学技術研究所等と協力して進めている。
 気象研究所では、東海地震の予測精度を高めるため、レーザー式変位計の開発を実施し、所定の精度を確認するとともに断層深部の滑りに伴う変動の観測に成功した。また数値シミュレーションにおいて南海トラフ沿いの地震開始様式が過去事例に整合するモデルを開発した。
 海上保安庁では、海域における測地、海底地形や活断層等の調査を推進している。


1 MPレーダ(マルチパラメータレーダ):水平と垂直の二種類の偏波を使う気象レーダ。従来のレーダに比べ、高い精度での降雨量の推定や、雨や雪の区別等が可能となる。

2 平成21年3月末現在で、全国に1,240か所設置

(テロ対策・治安対策)
 国際的なテロや治安の悪化が指摘される今日、犯罪の少ない安全な社会を実現することは国民にとって最も身近なニーズであり、テロ・治安対策のために最新の科学技術を活用した取組を更に強化することが極めて重要である。
 テロ対策について、文部科学省では、有害危険物を事前に速やかに検知するため、科学技術振興調整費や安全・安心科学技術プロジェクトにおいて我が国の優れた技術を基盤とした爆発物や生物剤、化学剤検知システムやこれらの危険物を安全に処理する方法等の研究開発を行っている。
 また、犯罪対策については、限られた人的資源の中で犯罪の少ない社会の実現に向けて、犯罪防止・捜査支援・鑑定等の現場等で活用可能な技術・システム開発を重点化して推進することが求められていることから、警察庁では、インターネットの匿名性を悪用する犯罪に対処するための技術、3次元顔画像個人識別、DNA型分析技術、爆発物や放射線物質に対する現場活動支援機材、毒物や微細証拠鑑定のための物質同定技術、最新の情報処理技術を応用した鑑定・検査手法、行動科学による犯罪防止・捜査支援及び交通事故鑑定技術に関する研究開発を行っている。また、科学技術振興機構社会技術研究開発センターでは、犯罪からの子どもの安全に関する研究開発を推進している。

(交通・輸送システム)
 国民の身近な足としての交通・輸送機関の安全性・信頼性の回復は喫緊(きっきん)の課題であり、今後の航空交通の需要増加や交通機関のオペレータのヒューマンファクター、車両運転者の「発見」、「判断」、「操作」に配慮して、予防安全を徹底するための新たな技術の活用を重点化して推進する必要がある。
 警察庁、総務省、国土交通省では、インフラ協調による安全運転支援システムの実用化に向けた取組や、運転者に必要な情報処理能力に関する研究開発を推進している。
 また、将来のより安全・安心で快適な交通・輸送システムの実現や情報通信システムの高度化に向けた先進的な研究開発に取り組んでいる。
 国土交通省では、将来の高速輸送を目的とする超電導磁気浮上式鉄道の実用化に向けて研究開発を促進するため、財団法人鉄道総合技術研究所への助成等を行っている。
 さらに、航空輸送システムについては、安全性・環境適合性の確保や向上を支えるのみならず、情報通信、ナノテクノロジー・材料等の幅広い分野での技術波及効果も期待されている。
 文部科学省では、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会による「航空科学技術に関する研究開発の推進方策について」(平成18年7月)及び「静粛超音速機技術の研究開発の推進について」(平成19年7月)を踏まえて、環境適合性・安全性等の社会要請に対応した航空科学技術に関する先端的・基盤的な研究開発を推進している。具体的には、宇宙航空研究開発機構を通じて、国産旅客機高性能化技術、クリーンエンジン技術、静粛超音速機技術、全天候・高密度運航技術の研究開発に取り組んでいる。また、研究開発で得られた知見等を活(い)かして、国土交通省運輸安全委員会が行う航空事故等の調査に協力している。
 経済産業省では、我が国航空機産業を含めた製造業全体の高度化やエネルギーの使用の合理化に資することを目的として、空力設計技術、炭素繊維複合材技術、先進操縦システム技術等の要素技術の研究開発を実施している。また、環境適応型小型航空機用エンジン研究開発において、燃費効率、静粛性等を抜本的に向上させた50席クラスの小型旅客機用エンジンの実用化に向けた技術開発を実施している。さらに、航空機の大幅な軽量化による省エネルギー化、CO2排出量削減を実現するための次世代航空機用構造部材創製・加工技術開発を実施し、その成果を基に日仏産業間の協同研究を進めている。そのほかにも、通常の航空機の巡航速度であるマッハ0.8~0.9を上回る高速での巡航が可能な航空機の開発に必要な技術に関する調査を、フランスのエコロジー・エネルギー・持続可能開発・国土整備省と連携し、関係機関の協力の下で実施している。また、航空機の安全性向上及び運行コスト低減に資する先進システム基盤技術の開発、防衛省の次期輸送機(C‐X)や救難飛行艇(US‐2)等を民間用途に活用する可能性を追求することを目的とした調査を実施している。
 電子航法研究所では、交通の安全の確保と円滑化を図るために、空域の有効利用及び航空路の容量拡大に関する研究開発、混雑空港の容量拡大に関する研究開発、予防安全技術・新技術による安全性・効率性向上に関する研究開発を重点的に実施している。
 なお、平成20年度における社会基盤分野の主な研究課題は第2‐2‐9表のとおりである。

第2‐2‐9表 社会基盤分野の主な研究課題(平成20年度)

府省名 研究機関等 研究課題
警察庁 科学警察研究所 ・3次元顔画像を用いた個人識別の高度化に関する研究
・一塩基多型(SNPs)分析による生体資料からの異同識別検査法の開発
・R(Radiological)テロにおけるRN物質探知技術と現場活動支援機材の研究開発
・爆発物の現場処理技術に関する研究
・微細植物資料に対する鑑定の高度化に関する研究
・新しい音声通話方法に適応できる話者認識手法に関する研究
・連続事件の事件リンク分析と犯人像推定の高度化に関する研究
・運転者の情報処理能力に関する認知科学的研究
・高度な交通事故分析技術の開発
総務省 消防庁 ・消防防災技術研究開発制度に要する経費
消防研究センター ・現場消火・救助活動、消防装備の飛躍的向上と防災活動支援情報システム
・大規模地震時の危険物施設等の被害軽減
・様々な用途の建築・施設における火災挙動の把握
 文部科学省 研究開発局 ・首都直下地震防災・減災特別プロジェクト
・東海・東南海・南海地震の連動性評価研究
・地震・津波観測監視システム
・ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究
・地震調査研究推進(重点的調査観測)
・観測データ集中化の促進
科学技術・学術政策局 ・安全・安心科学技術プロジェクト
科学技術振興機構 ・先進的統合センシング技術
防災科学技術研究所 ・実大三次元震動破壊実験施設(E‐ディフェンス)を利用した耐震実験研究
・実大三次元震動破壊実験施設の保守・点検等
・中深層地震観測施設の更新
・災害リスク情報プラットフォーム
海洋研究開発機構 ・掘削孔長期モニタリングシステム
宇宙航空研究開発機構 ・陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)の運用
・準天頂高精度測位実験技術
・陸域観測技術衛星等の研究開発
・国産旅客機高性能化技術の研究開発
・クリーンエンジン技術の研究開発
・静粛超音速研究機の研究開発
・全天候・高密度運航技術の研究開発
科学技術振興調整費 ・手荷物中隠匿核物質探知システムの研究開発
 経済産業省 新エネルギー・産業技術総合開発機構 ・環境適応型小型航空機用エンジン研究開発
産業技術総合研究所 ・陸海統合シームレス地質情報の整備
 国土交通省 総合政策局技術安全課 ・緊急・代替輸送支援システムの開発
大臣官房技術調査課 ・高度な画像処理による減災を目指した国土の監視技術の開発
・多世代利用型超長期住宅及び宅地の形成・管理技術の開発
道路局 ・運転者から直接見えない範囲の交通事象の情報提供、注意喚起、警告等を行う技術
港湾局 ・大規模地震に対する構造物の耐震化等の被害軽減技術
・津波による局所的現象の予測・シミュレーション技術
・巨大地震等による超過外力に対応する技術
・国土の保全と土砂収支
・漂砂バランス管理技術の開発
・構造物の点検・診断と健全度の評価・予測技術
・社会資本等のライフサイクルコスト低減技術
航空局 ・IT技術活用による航空交通管理・運航支援技術
国土技術政策総合研究所 ・降水量予測情報を活用した水管理手法に関する研究
・国際交通基盤の統合的リスクマネジメントに関する研究
・下水道管渠の適正な管理手法に関する研究
国土地理院 ・地震、火山噴火等による被害軽減のための地殻変動モニタリング・モデリングの高度化と予測精度の向上
土木研究所 ・衛星情報等を活用した降雨の面的分析情報把握技術
・大規模地震に対する構造物の耐震化等の被害軽減技術
・豪雨・地震による土砂災害に対する危険度予測と被害軽減技術の開発
・治水安全度向上のための河川堤防の質的強化技術
・国土の保全と土砂収支
・社会資本等の管理の高度化とライフサイクルコストの低減
 建築研究所 ・普及型耐震改修技術の開発
・人口減少・少子高齢化社会に対応した都市・建築の再編手法の開発
・既存ストックの再生・活用技術の開発
・住宅・建築物における事故リスク評価と安全・安心性能の向上のための技術開発
 気象庁気象研究所 ・東海地震の予測精度の向上及び東南海・南海地震の発生準備過程の研究

8 フロンティア分野

 フロンティア分野は、未知なる宇宙、海洋等を探査・探求し、新たなる活用領域としての開発・利用に関する研究開発を推進するものである。第3期科学技術基本計画において、本分野は、国として取り組むべき研究開発課題を重視して研究開発を推進する分野として位置付けられている。本分野では、衛星による通信・測位、地球観測・監視等の宇宙利用、多様な資源・空間を有する海洋利用等により、国民生活の安全・安心と質の向上、経済社会の発展、我が国の総合的な安全保障や地球・人類の持続的発展などへの貢献を目指す。

(1) 宇宙開発利用

 宇宙開発利用は、気象衛星、通信・放送衛星など、国民生活に深く浸透し、既に不可欠な存在となっている。平成20年5月には宇宙基本法が成立し、内閣総理大臣を本部長とする宇宙開発戦略本部の下、政府が一体となって宇宙開発利用を進める体制が構築された。また、平成21年には本法に基づき、我が国の国家戦略として「宇宙開発利用に関する基本的な計画」(以下、宇宙基本計画)が策定される予定である。
 宇宙に関する研究開発は、宇宙の起源、地球の諸現象等についての普遍的な知識・知見を増大させるとともに、その成果は安全保障、国民生活の向上、産業の振興、人類社会の発展、我が国の国際的地位の向上等に貢献するものであり、今後とも、技術開発力を高めつつ宇宙の利用を重視した政策を進めることが極めて重要である。
 今後の我が国の主な人工衛星等の打上げ計画は第2‐2‐10表に示すとおりである。

第2‐2‐10表 我が国の主な人工衛星等の打上げ計画

衛星名 質量(kg) 軌道高度(km) 打上げロケット 打上げ年度 主な打上げ目的
国際宇宙ステーション
日本実験棟「きぼう」
JEM
約26,800 約400 スペース
シャトル
(米国)
船外実験プラットフォームを平成21年度打上げ予定
(船内保管室、船内実験室は打上げ済)
宇宙先進国としての国際的な地位の維持・向上、有人宇宙技術の蓄積、新たな産業活動に発展し得る宇宙環境利用の推進、新たな科学的知見の獲得等に寄与する。
宇宙ステーション補給機
HTV
最大補給品
質量
約6,000
約400 H‐IIB 平成21年度
(技術実証機)
我が国の輸送系により宇宙ステーションへの物資補給を行う。
技術実証衛
SERVIS‐2
740 1200 ロコット
(ロシア)
平成21年度 宇宙空間での民生部品・民生技術の耐環境性能実証する。
準天頂衛星
QZS 
約1,800 準天頂軌道
(軌道長半径約42,000)
H‐IIA 平成22年度 GPSによる測位の補完・補強などの衛星による測位システムの基盤となる技術の実証等を行う。
第24号科学衛星
PLANET‐C
約480 金星周回軌道
(約300‐80,000) 
H‐IIA 平成22年度 金星大気圏を探り、惑星気象の根本原理と大気進化の謎に迫る。
水循環変動観測衛星
GCOM‐W 
約1,900 太陽同期準回帰軌道
約700 
H‐IIA 平成23年度 地球規模での水循環メカニズム解明に貢献するため、降水、海面水温等の観測を全球規模で行う。
高性能小型地球観測衛星
ASNARO 
約450 太陽同期軌道
約450
(未定) 平成23年度 大型衛星に劣らない機能・低コスト・短期の開発期間を実現する高性能小型衛星を開発する。
第25号科学衛星
ASTRO‐G 
約1200 長楕円軌道
(約100‐20,000) 
H‐IIA 平成24年度 史上最高の解像度で銀河や星形成領域の中心部を描き出し、その物理状態を解明する。
陸域観測技術衛星2号
ALOS‐2
約2,000 太陽同期準回帰軌道
(約630)
H‐IIA 平成25年度
以降 
災害状況把握に加え、国土管理や資源管理など、平常時のニーズにも対応した多様な用途でのデータ利用に資するため、全球の森林・地形等の観測を行う。
全球降水観測/二周波降水レーダGPM/DPR 約3,500
(GPM衛星)
太陽非同期軌道
約400 
H‐IIA 平成25年度
以降
国際協力の全球降水観測(GPM)計画主衛星に搭載する二周波降水レーダ(DPR)により、降水・降雪の三次元分布の観測を行う。
水星探査計画
Bepi‐Colombo
約220
(MMO)
水星楕円極軌道
(約400~12,000)
(MMO)  
ソユーズ・
フレガート
2B
平成25年度
以降
ESA(欧州宇宙機関)との国際協力により、水星の磁場・磁気圏・内部・表層を多角的に観測する。日本はMMO(水星磁気圏探査機)を担当する。
雲エアロゾル放射ミッション/雲プロファイリングレーダ
EarthCARE/CPR
約1,200
(EarthCARE衛星)
太陽同期準回帰軌道 未定
(欧州)
平成25年度
以降
欧州の雲エアロゾル放射ミッション(EarthCARE)衛星に搭載する雲プロファイリングレーダ(CPR)により、大気中の雲・エアロゾルの三次元分布の観測を全球規模で行う。
気候変動観測衛星
GCOM‐C
約2,000 太陽同期準回帰軌道
(約800)
H‐IIA 平成25年度
以降
地球規模での気候変動メカニズム解明に貢献するため、植生、雲・エアロゾル等の観測を全球規模で行う。
第26号科学衛星
ASTRO‐H
約2,400 円軌道
(約550km)
H‐IIA 平成25年度
以降
宇宙の大規模構造とその進化の解明や宇宙の極限状態の理解に向けて、X線により銀河団成長の直接観測や巨大ブラックホール等の観測を行う。

(宇宙輸送システム)
 我が国の総合的な安全保障や宇宙活動の自律性を維持するためには、必要なときに必要な衛星等を宇宙空間の所定の位置に輸送する能力を独自に確保することが重要である。また、宇宙輸送システムは巨大システム技術であり、その技術力の向上活動自体が産業の高度化や社会経済の発展につながる。このため、重要な研究開発課題として「宇宙輸送システム」が選定されている。
 なかでも、宇宙航空研究開発機構が実施しているH‐ⅡAロケットの開発・製作・打上げ、H‐ⅡBロケット(H‐ⅡAロケット能力向上型)、宇宙ステーション補給機(HTV)、GXロケットについては、「信頼性の高い宇宙輸送システム」として戦略重点科学技術に位置付けられている。大型の人工衛星を打ち上げることができる我が国の基幹ロケットであるH‐ⅡAロケットについては、平成19年度から民間によるロケット打上げ輸送サービスを開始した。平成20年度は、15号機で温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)等を打ち上げた。これにより、H‐ⅡAロケットの打上げ成功率は、初期運用段階における世界水準を大きく上回る9割以上を達成している。また、国際宇宙ステーション(ISS(1))への食料や消耗品、実験装置等の物資輸送を担い日本のISS計画への貢献手段となるHTVや、その打上げ手段を確保するため、静止トランスファ軌道への輸送能力を8t級のH‐ⅡBロケットの技術実証機及び試験機の平成21年度打上げを目指し開発を進めている。これらH‐ⅡAロケットの開発・製作・打上げ、H‐ⅡBロケット、HTVについては、第3期科学技術基本計画において国家的な長期戦略の下に推進する国家基幹技術「宇宙輸送システム」の構成技術としても位置付けられている。また、官民協力の下、開発を進めてきたGXロケットについては、経済産業省がロケットの飛行制御等を行うアビオニクス等に関する研究開発を実施し、宇宙航空研究開発機構がその第二段に搭載する液化天然ガス(LNG)推進系を開発している。同ロケットについては、「平成21年度における宇宙開発利用に関する施策について」(平成20年12月2日宇宙開発戦略本部決定)において、平成21年夏ごろまでに本格的開発着手に関する判断を行うとの方向性が示されており、宇宙航空研究開発機構では、同決定に従い、LNG推進系の技術的な見通しを得るために必要な試験等を進めている。


1 ISS:International Space Station

(通信放送衛星システム、測位衛星システム、衛星観測監視システム、衛星基盤・センサ技術)
 通信・放送などに人工衛星を利用することは、広域性、同報性、耐災害性などの面で多くの利点がある。このため、重要な研究開発課題として通信放送衛星システム、測位衛星システム、衛星観測監視システム、衛星基盤・センサ技術が選定されている。
 通信放送衛星システムについては、文部科学省と総務省の連携により、大型衛星バス技術、大型展開アンテナ技術及び移動体衛星通信技術等の開発・実証を目的とした技術試験衛星8.型「きく8号」(ETS‐Ⅷ)を平成18年12月に打ち上げ、また、ギガビット級の衛星インターネット通信技術等の開発・実証を目的とした超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)を平成20年2月に打ち上げ、それぞれ順次実験を実施している。測位衛星システムについては、地理空間情報活用推進基本法に基づく「地理空間情報活用推進基本計画」(平成20年4月15日閣議決定)及び「G空間行動プラン」(平成20年8月地理空間情報活用推進会議)の下、総務省、文部科学省、経済産業省及び国土交通省の連携により、山間地、ビル影等に影響されずに高精度測位等を行うことが可能な準天頂衛星(QZS)の開発を推進しており、平成22年度の打上げを予定している。また、衛星観測監視システムについては、第2部第2章第2節3(1)及び7に記載されている。
 衛星基盤・センサ技術の研究開発については、「信頼性向上プログラム(衛星関連)」が戦略重点科学技術として選定されており、宇宙航空研究開発機構において衛星バス技術や構成部品の信頼性向上に取り組んでいる。また、新たに戦略重点科学技術として選定された「小型化等による先進的宇宙システムの研究開発」では、大型衛星に劣らない機能、低コスト、短納期を実現する高性能小型衛星の研究開発を経済産業省が進めている。

(国際宇宙ステーション計画による有人宇宙技術の獲得)
 国際宇宙ステーション(ISS)計画は、日本・米国・欧州・カナダ・ロシアの5極が共同で地球周回軌道上に宇宙ステーションを建設する国際協力プロジェクトであり、我が国は、宇宙先進国としての国際的な地位の維持・向上、有人宇宙技術の蓄積などを目指し、日本実験棟「きぼう」及び宇宙ステーション補給機(HTV)を開発・運用することで本計画に参加している。平成20年6月、「きぼう」の船内保管室がISSに取り付けられ、8月から船内での科学実験等が開始された。また、平成21年3月から、若田宇宙飛行士が日本人として初めて約3か月にわたるISS長期滞在を開始した。ISSへの物質輸送を担うHTVについては、平成21年度の技術実証機打上げに向けて、着実に開発を進めている。  

「かぐや」搭載のハイビジョンカメラによる「満地球の出」

「かぐや」搭載のハイビジョンカメラによる「満地球の出」
写真提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA)/日本放送協会(NHK)

(太陽系探査、宇宙天文観測)
 宇宙科学の分野においては、宇宙航空研究開発機構が中心となり、全国の大学等の研究者の参加の下、科学衛星を打ち上げ、これまでに世界トップレベルの成果を上げている。 我が国は、重要な研究開発課題として科学衛星計画を推進しており、平成19年9月に打ち上げられた月周回衛星「かぐや」は定常観測から1年以上経過し、科学的な成果が「サイエンス」特別編集号として表紙を飾るなど、様々な雑誌に掲載され始めており、今後も、更なる成果が期待される。また、搭載されたハイビジョンカメラによる「満地球の出」及び「満地球の入」などの美しい映像は国民の宇宙への関心を大いに高めた。また、太陽観測衛星「ひので」においても、平成18年9月に打ち上げられ現在までに2年以上の太陽観測データを取得し、太陽の科学研究に貢献している。さらに、金星探査機(PLANET‐C)、電波天文衛星(ASTRO‐G)、欧州宇宙機関との国際協力による水星探査計画(Bepi Colombo)などの開発等を引き続き進めている。

(国際協力・連携の推進)
 近年、環境変動や大規模自然災害等、地球規模の諸問題の深刻化に伴い、地球観測衛星技術の必要性、宇宙技術の利用における各国の連携協力の重要性が高まっている。我が国は、自らが主催するアジア太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF(1))をはじめ、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS(2))、地球観測衛星委員会(CEOS(3))などの国際会議を通じて、宇宙分野における国際協力の更なる推進を目指している。特にアジア地域において、APRSAFを通じ、インターネットにより衛星画像等の被災地情報を提供・共有する「センチネル・アジア」プロジェクトを20か国51機関8国際組織の協力の下で推進している(平成21年(2009年)1月現在)。また、我が国のイニシアティブにより、APRSAFの下、地球環境変動を監視するSAFE(4)プロジェクト及び人材育成を目的として各国共同で小型衛星を開発するSTAR(5)プロジェクトが平成20年12月に合意され、活動の幅が広がっている。


1 APRSAF:Asia‐Pacific Regional Space Agency Forum

2 COPUOS:Committee on the Peaceful Uses of Outer Space

3 CEOS:Committee on Earth Observation Satellites

4 SAFE:Satellite Application for Environment

5 STAR:Satellite Technology for the Asia‐Pacific Region

(2)海洋開発

(フロンティア(海洋)分野の研究開発の推進)
 海洋は、その広大さとアクセスの困難さのために、人類にとって今もなおフロンティアであり、未知なるものを解明したいという知的欲求から、これまで海洋に関する様々な調査・研究が行われてきた。これらの取組により、未利用のエネルギー・鉱物資源の存在や、気候変動をはじめとする地球環境の変化への海洋の関連などが明らかとなってきている。このように、海洋の諸現象に関する原理を追求し解明することは、地球環境問題の解決、海溝型巨大地震への対応、海洋資源の開発など、今後の人類の発展に深くかかわる重要な課題の解決を図るためにも必要である。
 このような観点から、平成19年4月に成立した海洋基本法においては、海洋の開発及び利用、海洋環境の保全等が適切に行われるためには海洋に関する科学的知見が不可欠であるが、海洋については科学的に解明されていない分野が多いことから、海洋政策の基本理念として、「海洋に関する科学的知見の充実」を図ることが重要とされている。
 また、海洋基本法に基づき、今後5年間の海洋政策を示した海洋基本計画(平成20年3月閣議決定)が策定された。同計画においては、我が国が新たな海洋立国を目指して、海洋政策を推進するため、「海洋を知る」「海洋を守る」「海洋を利用する」のバランスと連携に配慮することが重要とされているほか、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策として、「海洋科学技術に関する研究開発の推進等」が挙げられている。
 第3期科学技術基本計画におけるフロンティア(海洋)分野の分野別推進戦略においては、国家基幹技術「海洋地球観測探査システム」を構成する「次世代海洋探査技術」と、「外洋上プラットフォーム技術」が戦略重点科学技術に選定されるとともに、以下の3領域の重要な研究開発課題が選定されている。

(深海・深海底探査技術、海洋生物資源利用技術)
 文部科学省では、海洋研究開発機構における海洋の観測・探査を行うために必要な先進的・基盤的技術の開発を実施している。例えば、平成20年5月に大深度小型無人探査機「ABISMO」が、世界で初めてマリアナ海溝チャレンジャー海淵(かいえん)において、10,000m以深における海洋、海底面、海底下の連続的試料採取に成功したほか、平成20年11月には人工衛星を利用した小型の深海探査機の遠隔制御に成功している。また、世界最長の連続長距離自律潜航記録(317km)を持つ深海巡航探査機「うらしま」や世界最深レベルの潜航能力(水深6,500m)を持つ有人潜水船「しんかい6500」等を運航し、海洋に関する調査観測研究を推進している。戦略重点科学技術に関しては、「次世代海洋探査技術」が国家基幹技術「海洋地球観測探査システム」を構成する技術として選定されており、文部科学省では、人類未踏のマントルへの到達や地殻内の有用微生物の採取等を目指す地球深部探査船「ちきゅう」による「世界最高の深海底ライザー掘削技術の開発」及び船舶等の従来の手段では調査が困難な海域・海象における調査観測や、大水深における重作業・精密作業が必要な調査観測を可能にする技術開発として「次世代型深海巡航探査機技術の開発」、「大深度高機能無人探査機技術の開発」を海洋研究開発機構において推進している。
 また、海底熱水鉱床等の未利用の海洋資源の開発を推進するため、文部科学省では、科学技術・学術審議会海洋開発分科会において、海底熱水鉱床を中心とする海洋資源の探査に関する技術開発の在り方について検討するとともに、平成20年度より、大学等に蓄積された技術を活用し、海洋資源の探査に必要となるセンサーなどの基盤技術の開発を推進する「海洋資源の利用促進に向けた基盤ツール開発プログラム」を実施している。

「次世代型深海巡航探査機」 「大深度高機能無人探査機」

次世代海洋探査技術で開発が計画されている「次世代型深海巡航探査機」(左図)
及び「大深度高機能無人探査機」(右図)の概念図
写真提供:海洋研究開発機構

(海洋環境観測・予測技術、海洋利用技術、海洋環境保全技術)
 文部科学省では、海洋研究開発機構における地球環境観測研究・予測研究・シミュレーション研究(地球温暖化等の地球環境変動の解明を目指し、世界各地で研究船、観測ブイ、陸上観測機器等の観測設備を用いた海洋・陸面・大気の観測及び気候変動等の予測・シミュレーション)を推進している。また、これらの観測研究等で得られたデータを、世界最高水準の性能を有するスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」等を活用して解析し、地球環境の物理的、化学的、生態的プログラムのモデル研究等を行い、平成20年7月にはインド洋ダイポールモード現象の3年間連続予測に成功するなど、地球規模で気候に影響を及ぼす現象の予測精度向上に貢献した。
 経済産業省では、石油天然ガス・金属鉱物資源機構と連携して、石油等資源の賦存状態の調査等を引き続き行っている。
 国土交通省では、港湾空港技術研究所と共同で全国港湾海洋波浪情報網(NOWPHAS)の充実等を行っている。
 気象庁では、海洋・海上気象観測やエルニーニョ現象の解明等、海洋現象及び気候変動の監視・予測情報の拡充に向けた調査・研究等を引き続き行っている。
 海上保安庁では、海洋に関する測量・観測技術及び解析技術の研究開発を実施している。
 海上技術安全研究所では、海洋技術における安全、環境保全に関する研究を行っている。NEAR‐GOOSに関連して、気象庁、海上保安庁が、日本周辺海域を中心とした海洋データの交換を促進するためのシステムを運用しており、海洋研究の一層の推進が図られている。

(地球内部構造解明研究、海底地震・津波防災技術)
 文部科学省では、海洋研究開発機構における、無人探査機「かいこう7000」や深海調査研究船を利用した、海洋底プレートのダイナミクス解析や大陸棚画定調査に貢献する地殻構造調査を行う地球内部ダイナミクス研究を推進している。例えば、平成18年度からは、我が国に甚大な被害をもたらす東南海・南海地震の想定される震源域において地震・津波の規模や地殻変動をリアルタイムで監視できる地震・津波観測監視システムの開発を進めている。また、海溝型巨大地震発生メカニズムの解明を目指して、統合国際深海掘削計画(IODP)の枠組みの下に地球深部探査船「ちきゅう」による紀伊半島沖熊野灘における深海掘削を推進している。
 また、我が国の大陸棚の限界を設定するため、総合海洋政策本部の総合調整の下、外務省、文部科学省、経済産業省、国土交通省等が連携して海域調査等を行い、平成20年6月に必要な調査を終了し、同年11月に国連事務局へ申請文書を提出した。
 なお、平成20年度におけるフロンティア分野の主な研究課題は第2‐2‐11表のとおりである。

第2‐2‐11表 フロンティア分野の主な研究課題(平成20年度)

府省名 研究機関等 研究課題
総務省 情報通信研究機構 ・災害対策・危機管理のための衛星基盤技術
文部科学省   ・海洋資源の利用促進に向けた基盤ツール開発プログラム
海洋研究開発機構 ○次世代海洋探査技術
・「ちきゅう」による世界最高の深海底ライザー掘削技術の開発
・次世代型深海巡航探査機技術の開発
・大深度高機能無人探査機技術の開発
宇宙航空研究開発機構 ○信頼性の高い宇宙輸送システム
・H‐ⅡAロケットの開発・製作・打上げ
・H‐ⅡBロケット
・宇宙ステーション補給機(HTV)
・GXロケット
○衛星の高信頼性・高機能化技術
・信頼性向上プログラム(衛星関連)
経済産業省   ・リモートセンシング技術の研究開発
産業技術総合研究所 ・地球化学的手法及び古生物学的手法を用いた地球・海洋環境の予測手法の開発
・海洋地質調査研究 
新エネルギー・産業技術総合開発機構 ・次世代輸送系システム設計基盤技術開発プロジェクト(GXロケット)
石油天然ガス・金属鉱物資源機構 ・メタンハイドレート技術開発
・深海底鉱物資源調査
国土交通省 海事局 ・外洋上プラットフォームの研究開発
・天然ガスハイドレート(NGH)輸送船の開発
海上保安庁海洋情報部 ・西太平洋海域共同調査(WESTPAC)
気象庁気象研究所 ・海洋における炭素循環の変動に関する観測的研究
[横断的分野]

1 国家基幹技術

 資源エネルギー供給の逼迫(ひっぱく)化や地球温暖化、自然災害の頻発等、我が国を取り巻く状況が大きく変化する中、我が国が持続的に発展し、世界をリードしていくためには、長期的な国家戦略を持って取り組むべき重要技術を精選して推進していくことが必要である。
 このため、政府では、第3期科学技術基本計画や分野別推進戦略の策定に際して、国家的目標と長期戦略を明確にして取り組むべきものとして、「宇宙輸送システム」、「海洋地球観測探査システム」、「高速増殖炉サイクル技術」、「次世代スーパーコンピュータ」、「X線自由電子レーザー」の5つの国家基幹技術を選定している。
 これらの国家基幹技術は、国家の総合的な安全保障の向上や、世界最高水準の研究機能の実現を図るものであり、引き続き重点的に推進していく。

(1) 宇宙輸送システム

第2部第2章第2節8(1)参照。

(2) 海洋地球観測探査システム

 地球環境変動の予測を行うためには、全球観測網の整備及びそのデータの管理・提供が必要である。また、我が国周辺海域の詳細地形の調査や資源探査は、国家の総合的安全保障の観点から必要である。海洋地球観測探査システムは、こうした課題解決に取り組むため、海洋及び宇宙からの観測・探査により得られるデータの統合・解析・提供を目指しており、「次世代海洋探査技術」、「衛星観測監視システム」、「データ統合・解析システム」の3つの技術で構成されている。平成18年度に総合科学技術会議においてシステム全体の推進体制が評価され、今後は、地球環境観測分野、災害監視分野、資源探査分野における社会的貢献が期待されている(第2‐2‐12図)。

 第2‐2‐12図 海洋地球観測探査システムの概念図

第2‐2‐12図 海洋地球観測探査システムの概念図
(3) 高速増殖炉サイクル技術

 第2部第2章第2節5(1)参照。

(4)次世代スーパーコンピュータ

 スーパーコンピュータを用いたシミュレーションは、理論、実験と並び、現代の科学技術の方法として確固たる地位を築きつつある。スーパーコンピュータは、大規模なシミュレーションを高速に行うことができるため、自動車の衝突損傷の解析、台風の進路や集中豪雨の発生予測等に利用されている。文部科学省では、今後とも我が国が科学技術・学術研究、産業、医・薬など広汎(こうはん)な分野で世界をリードし続けるため、平成18年度から「次世代スーパーコンピュータの開発利用(施策名:最先端・高性能汎用(はんよう)スーパーコンピュータの開発利用)」プロジェクトを開始している。平成22年度の一部稼働(平成24年完成)を目指し、開発主体(理化学研究所)を中心に産学官の密接な連携の下、同プロジェクトを一体的に推進している。
 平成19年3月に施設の立地地点を神戸市(ポートアイランド第2期内)に決定し、現在、開発整備が進んでいる。

次世代スーパーコンピュータ(イメージ図)

次世代スーパーコンピュータ(イメージ図)
資料提供:理化学研究所

(5) X線自由電子レーザー

 X線自由電子レーザー(XFEL)は、レーザーと放射光の特徴を併せ持つ光として、従来の手法では実現不可能な分析を可能にする技術である。原子レベルの超微細構造、化学反応の超高速動態・変化を瞬時に計測・分析することを可能とする世界最高性能の研究基盤として、生命科学やナノ領域の構造解析をはじめとする広範な科学技術分野において新たな知の創出に貢献することが期待されている。本技術は、国家基幹技術と位置付けられており、平成23年度からの共用開始を目指し、平成18年度から理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で、大型放射光施設SPring‐8に併設する形で施設の整備を進めている。平成20年度には、線型加速器収納部建屋及びビームライン収納部建屋が完成した。

X線自由電子レーザー施設(左の縦長の建屋がX線自由電子レーザー施設。円形状の建屋は大型放射光施設 SPring‐8。

X線自由電子レーザー施設(左の縦長の建屋がX線自由電子レーザー施設。
円形状の建屋は大型放射光施設 SPring‐8。平成21年1月撮影)
写真提供:理化学研究所

2  安全・安心に資する科学技術

 第3期科学技術基本計画には、政策目標として「安全が誇りとなる国―世界一安全な国・日本を実現」が掲げられ、この達成に向け、「分野別推進戦略」及び「安全に資する科学技術推進戦略」に沿って、安全・安心な社会の構築に資する科学技術の取組を推進している。
 文部科学省では、平成18年7月に「安全・安心科学技術に関する研究開発の推進方策」を取りまとめ、本方針に基づき、研究開発等を実施している。また、平成19年度から、テロ対策等の重要研究開発課題の研究開発と知・技術の共有化を進めることにより、国家の安全保障、国民生活の安全確保への貢献を目的とした「安全・安心科学技術プロジェクト」を実施している。
 国際協力については、日米間の科学技術協力協定を中心に推進している。具体的には、日米安全・安心科学技術協力イニシアティブとして、積極的に協力活動を進めている。
 また、科学技術振興機構社会技術研究開発センターでは、社会における具体的な問題解決を図り社会の安寧に資することを目的に、自然のみならず人文・社会科学の知見を活用し、現場における様々な知見や経験に基づいた問題解決型の研究開発を「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」、「犯罪からの子どもの安全」、「科学技術と人間」、「情報と社会」、「脳科学と社会」の5つの領域で推進している。

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科学技術・学術政策局調査調整課

(科学技術・学術政策局調査調整課)

-- 登録:平成22年03月 --