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平成21年版科学技術白書 第1部 第3章 第3節

第3節 複雑化する社会的問題の解決に向けた分野融合の促進

1 分野融合の促進の必要性

 地球規模の問題のような極めて複雑な問題や、科学とイノベーションの接近、ものづくりとサービスの融合等に対応するためには、研究分野を超えて様々な分野の英知を結集し、課題を設定して全く新しい視点から取り組むこと、すなわち、新たな研究分野の創出や融合の推進が必要である。例えば、地球環境問題の解決には、気象学や生態学、エネルギー工学等の融合による対応が求められる。
 一方で、分野間の協働や新分野の開拓には多大な労力を要する。学問や研究が進展するためには、研究者個々人による突き詰めた思考と、異分野の研究者間での深い議論が核となる。自然界の現象や実社会の問題自体には分野間の境界は存在せず、また、今後ますます高度化かつ複雑化していく社会において単独の専門分野にとどまっていては、諸問題の解決に寄与し得る主要な役割を担うことは難しい。
 このような現状において、どういった取組を行うことが分野融合の推進に効果的につながるのかを検討するに当たって、まずは諸外国における取組例を見ていくこととする。

2 諸外国における分野融合の取組

 諸外国においては、国家的戦略として分野融合に向けた取組が行われており、特に欧米諸国では、伝統的に複数研究分野の融合領域研究が推進され、また、研究者自身も新興研究領域への参入に積極的である。

(1) 米国

 米国は、多様な科学技術分野の研究が先進的であることから、分野融合研究を行う上で恵まれた環境にあるといえる。2000年前後から、一部の大学を中心として既存の学問体系を超えて研究の重点化を全学的に展開する「戦略イニシアティブ」(1)と呼ばれる取組が始まり、その後、国内の各地に波及した。1990年代に入り、当時のクリントン政権が定めた国家研究目標の達成に向けた連邦政府各機関の連携に基づく研究資金の重点的な配分により、大規模研究へと流れが大きく変わった。これを受けて、国家研究目標として掲げられたバイオテクノロジーやナノテクノロジー等の新分野に対応するべく、大学は戦略イニシアティブを開始した。
 取組の内容は大学により多種多様であるが、大学が主導的に研究課題を選択の上、研究費や設備、人員等の資源投入先を集中させ、必要に応じ分野横断的に組織を再編成することで全学的な協力体制を構築する、あるいは寄附金を含む大学の自己資金により、分野融合研究ごとに固有の建物等の研究環境を整備するといった特徴が共通している。
 代表例としては、1984年に生物医学分野を中心とする分野融合研究の推進を目的にMITの外郭研究所として設立されたホワイトヘッド研究所(2)がある。この研究所では若手研究者の自由な発想を重視し、小規模の独立研究所として、幹細胞・再生生物学研究、がん研究、免疫学研究、ゲノム研究等、幅広い分野での最先端研究を行っている。また、翌1985年に同じくMITに設立され、デジタル技術の社会における創造的な活用について研究するメディアラボや、生物学や医学に、工学、計算機科学、物理学、化学等を融合させることにより、生命科学における学際的な研究を促進することを目的に1999年に設立されたBio‐Xがある(第3章第2節参照)。

(2) 欧州

 欧州において分野融合研究支援に積極的な機関としては、英国の工学・自然科学研究会議(EPSRC)(3)が挙げられる。EPSRCは、英国の科学技術院傘下の7つの研究会議のうち最大規模で、工学・自然科学分野における強固な研究基盤の維持・育成に取り組むとともに、その助成対象分野は、数学、物理学、材料科学から情報技術、構造工学など多岐にわたる。
 分野融合研究を助成するプログラム(4)においては、主にライフサイエンス分野を軸として派生する複雑系科学(5)や基礎技術等の分野横断的研究への支援と、そこで従事する研究者の育成を行っている。また、EPSRCが中心となって、他の研究会議や機関、英国政府との連携によりユーザー主導の学際的応用研究に取り組む「エネルギープログラム」(6)や、予防医学や医療診断、高齢化関連研究等を扱う「次世代医療プログラム」(7)では、学際分野の博士課程に在籍する学生に対して研究奨励費を支給するなど、学際分野の研究者の育成にも力を入れている。


1 strategic initiatives

2 Whitehead Institute for Biomedical Research

3 Engineering and Physical Sciences Research Council

4 Cross‐disciplinary Interfaces Programme

5 化学や物理学、生物学、経済学等の既存の独立した学問領域を横断的な視点でとらえ、普遍的原理・法則を見いだすための学問分野

6 The UK Research Councils' Energy Programme

7 Towards Next‐generation healthcare programme

3 新たな分野融合の推進に向けて

(1) 具体的な取組

 我が国においては、分野融合に向けて以下に述べるような取組が行われている。

1. 医工連携分野
 少子高齢化が進む現代社会において、急速に高度化する医療や福祉、介護等の医学関連分野を支え、イノベーションを推進していくためには、工学的な理論や手法を導入すること、すなわち医学・生命科学と工学・情報技術との融合が不可欠である。両者の融合により、従来の医療側の需要に基づいて行う研究開発から発展し、磁気共鳴画像(MRI)(1)等の高度医療機器の開発や、ITを活用して医療用データベースを結ぶネットワークの構築等を通して、新治療法・治療薬の開発や新事業の創出につなげていくことが可能となる。
 医工連携に関しては、臨床医工学と情報科学を融合した教育研究を行っている大阪大学臨床医工学融合研究教育センターの臨床医工学融合研究推進部門が、近未来のIT支援医療に向けた医用ネットワークや先端バイオマテリアルの基盤研究等を推進している。その融合研究として、臨床プロセスを客観化する先進計測診断システムや先端的治療システムの開発を行い、研究成果を医療と産業化に直結させる戦略的システムの構築に取り組んでいる(第1‐3‐21図)。
 また、平成19年度のグローバルCOEプログラムに採択された同センターの教育研究拠点「医・工・情報学融合による予測医学基盤創成」は、国内外の教育研究機関との協働を通じて、医・歯・薬学、工学、情報学の融合領域研究を推進し、予測医学基盤としての「in silico  medicine」(計算機内医学)の実現を目指している。この拠点が構築する生体シミュレータ・データベースは、従来、臨床医の経験に基づいて行われてきた診断・治療や、創薬、医療福祉機器開発等の生命・健康にかかわる知的生産過程における意思決定をシステム化することで、可能な選択肢を論理的・定量的に提示するような予測医療への発展と、実験科学データの膨大化がもたらす研究開発や事業化等の経費増大に歯止めをかけることを視野に入れている。


1 Magnetic Resonance Imaging

第1‐3‐21図  大阪大学臨床医工学融合研究教育センターにおける医工連携研究体制

第1‐3‐21図  大阪大学臨床医工学融合研究教育センターにおける医工連携研究体制

資料:大阪大学臨床医工学融合研究教育センター

2.数学・数理科学分野
 数学は「科学の女王」とも称されるように諸科学の基礎となる学問であり、また他分野との連携研究により、多くの領域での研究開発において飛躍的な進歩をもたらすものと考えられている。実際、コンピュータや信号解析、画像処理、金融理論等に見られるように、研究当初は直接的には役立たない理論や手法であっても、長い年月を経た後に理論的支柱として社会に大きく寄与した実例がある。分野融合に関しては、この数学と数理科学の領域で順調に進捗(しんちょく)しており、また支援の幅も広がっている。
 具体的な取組例としては「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」(1)があり、数学研究者が社会的ニーズに対応した新研究課題の創出と達成を目指し、諸分野の研究者との協働を通じてブレークスルーの探索を行う研究を対象としている。諸分野の研究対象である自然現象や社会現象に対して数学的手法を応用するだけでなく、新しい数学的概念・方法論の提案を行うなど、数学と実験科学の融合を促進する萌芽(ほうが)的ではあるが挑戦的な、また諸問題を全く新たな数学の観点から扱う独創的な研究課題を重視している。


1 国が示す戦略目標「社会的ニーズの高い課題解決に向けた数学/数理科学によるブレークスルーの探索(幅広い科学技術の研究分野との協働を軸として)」の下で、科学技術振興機構による戦略的創造研究推進事業が助成する研究領域で、西浦廉政・北海道大学大学院電子科学研究所教授が研究総括となっている。

(2) 新たな分野融合の推進に向けた検討と対応

 多分野にまたがる現代社会の諸問題に対応するためには、論理的な検討と問題点の整理を行うだけでなく、異分野の研究者が集まり、共通の課題を設定し、その達成に向けて共通言語を見つけながら議論を重ねることが必要である。そこで、科学技術振興機構研究開発戦略センターでは、今後どのような分野融合を推進していく必要があるかについて検討を行い、その中間結果を「新興・融合分野研究検討報告書~社会の課題解決と科学技術のフロンティア拡大を目指して~」として、平成21年2月に取りまとめたところである。

 今後は、これまでの我が国のシステムが必ずしも新興・融合分野の研究を十分に促してこなかった反省に立ち、上述の報告等を踏まえつつ、研究費配分における工夫や新たな研究分野の活動の強化への支援と人材育成など、施策を多角的に展開していくことが必要である。
 また、2で取り上げた米国や欧州における取組に見られるように、国家的戦略として分野融合の推進を位置付け、関係各方面の連携体制の下で、達成すべき課題主導型の研究に対する支援を積極的に実施することが求められる。
 本節で述べてきた複雑化かつ難解化する問題に対応するための分野融合の促進や新興領域の創出は、高付加価値を生む新しい領域であるものづくりとサービスの融合(第2章第2節)や、サービスに科学的・工学的手法を導入することでサービス産業の生産性向上を目指すサービス科学・工学の振興(第2章第3節)といった潮流への対応とも符合するものである。

お問合せ先

科学技術・学術政策局調査調整課

(科学技術・学術政策局調査調整課)

-- 登録:平成22年03月 --